PandoraPartyProject

シナリオ詳細

幽霊船で歌姫は謡う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幽霊船の噂

 海洋には今、とある噂が流れている。
 幽霊船。
 漁の際に嵐に巻き込まれた船だとも、海賊に襲われた船だとも……その「正体」に関しては定かではない。
 けれど、共通している事も幾つかある。
 普通の船ではないということ。
 生きている船員は1人もいないということ。
 そして……世にも美しい、歌が聞こえるということ。

「なあ、聞いたか? あの噂」
「ああ、幽霊船の歌姫だろ?」
「それもあるけどよ。幽霊船にはどっさり宝物も載ってたって話だぜ」

 船の上。船員の男は、それを言う男を鼻で笑う。

「宝物? なんだ、誰かが幽霊船の宝物でも売ってたってか」
「そうじゃねえけどよ。噂の歌姫っつーのは本当に何処かの姫様で、その宝物がだな」
「おいおい。酔ってんのか? 与太話にも程があるだろ」

 まだ何か言っている男を押しのけ、船員の男は酒を煽る。
 賭けに買って手に入れた酒だが、相方がこんな状態なら、残りは自分で飲み切ってしまうに限る。
 そんな事を考える船員の男の耳に……何かが、聞こえてくる。

「な、なんだ……? 歌?」
「おい、これ! もしかして」

 船員の男2人は周囲を見回し……それに気付く。
 この船から離れた場所……とはいえ、目視で分かる範囲をボロボロの船が航行している。
 随分と形式の古い大型船。見張り台でカタカタと骸骨が動いている、その船は……そのまま、静かに何処かへと消えて行ってしまう。

「……マジ、かよ」
「だから言っただろ! 幽霊船はいるんだって!」

 酒を飲んでいた2人の与太と他の船員に笑われたこの話は、しかし……似たような体験をした者達によって、広く伝えられることになる。
 しかしそれは同時に、大きな騒動を引き起こす結果にもなったのだ。

●幽霊船探索の依頼

「幽霊船を見つけてほしいのです」

『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)は、そう切り出すと集まった者達を見回す。

「ここ最近、海洋で『幽霊船を見た』という話が広がってるです」

 幽霊船。そこだけ聞くと胡乱な話ではあるが、今海洋ではかなりホットな話題でもある。
 最初の噂は「幽霊船が出る」という、ただそれだけ。
 しかし、そこにいつしか「歌姫」と「膨大な宝物」の噂がくっついた。
 その結果……膨大な宝物を手に入れてやろう、とか考える連中が出てしまったのだ。
 しかもどうやら、幽霊船の出る場所を特定して襲撃をかけてしまったらしい。

「……そこまでなら、笑い話で済んだです」

 しかし、その後、帰ってこない馬鹿共の船が新たな幽霊船となって「幽霊船団」になっていたという噂までくっつくようになってきたのだ。
 しかも、その「幽霊船団」は少しずつ数を増やしている……とも、他の船を襲うとも言われている。

「こうなってくると、噂が真実かどうかはどうでもよくなってくるってわけです」

 幽霊船が人知れず走っているだけなら、まだいい。
 しかしそれが幽霊船団となって他の船を襲い仲間を増やしているというのであれば話は違う。

「元となった幽霊船ですが……それらしき船の情報は見つけてあるです」

 豪華客船エストリア号。およそ200年ほど前の船であり、海賊に襲われて沈んだ悲劇の船だ。
 そこには煌びやかなコンサートホールもあり、そこには確かに「レイラ」と呼ばれていた歌姫が居たらしい。

「この幽霊船とやらがエストリア号であるかは分からないです。でも……」

 もしそうであるなら、眠らせてあげるべきだと。
 チーサはそう言うと、話を締めくくるのだった。

GMコメント

成功条件:「幽霊船団事件」の解決。あるいは、そう判断できる事態への移行。

幽霊船エストリア号
古の豪華客船。3層構造になっていて、甲板にはスケルトン船員(サーベル装備)、ゴースト船員(魔力弾攻撃)がいます。なお、見張り台にもスケルトン船員が居ます。なお、船の後部に行くと船長室があります。
船長スケルトンがいますが、サーベルと銃を装備しています。
1階層目には客室があり、ゴーストと化した乗客達が居ます。能力は様々です。
2階層目には船員室とステージです。スケルトン船員(サーベル装備)、ゴースト船員(魔力弾攻撃)、ゴースト楽団(遠距離音波攻撃)と歌姫レイラのゴーストがいます。
歌姫レイラのゴーストは支援型であり、ほとんど攻撃手段は持っていません。
3階層目は倉庫ですが、ネズミのゴーストがいるようです。また、船が幽霊船化するきっかけとなった「死霊術士の杖」があるようです。いざ戦闘となると浮遊し、魔法を使用してきます。

なお、エストリア号のアンデッド達は馬鹿がたくさん来るので非常に気が立っています。
話は通じますが、一歩間違えると話が通じても言葉が通じないような状態になるでしょう。
また、死霊術士の杖の支配下にある為、杖の破壊を匂わせた瞬間に操られ襲ってくる可能性もあります。

・幽霊船団×7
ヒャッハーなアンデッド達が載っています。大きさ、規模は様々。
幽霊船となったエストリア号を襲って返り討ちにあったあげく、死霊術士の杖によってアンデッドになりました。
非常に敵対的で、皆さんの船を見つけたら攻撃を仕掛けてきます。

幽霊船団に向かうための船は、比較的小さめの高速船です。
時間的に夜に幽霊船団の航行する海域に到着する予定ですが、油断すると帰りの足がないような状況になってしまいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 幽霊船で歌姫は謡う完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
綾志 以蔵(p3p008975)
煙草のくゆるは
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔

リプレイ

●幽霊船への接近

「ミイラ取りがミイラってやつかね。やれやれ、厄介な仕事を増やしてくれたモンだ」

 そんな『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)の声が夜の海に響く。
 縁達を乗せた船は夜の海を進み……幽霊船が出るという海域へ近づいていく。
 そして、船は1つだけではない。

「幽霊船に財宝、なぁ。話が出来すぎてる気がするが船乗りとしてはとても興味があるな!」

『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)の操船する『紅鷹丸』も随伴しており、他のメンバーの乗る船を先導するように進んでいる。
 ちなみにカイト曰く「先導は任せろ! 船頭だけにな!」だそうであるが……仲間達がどういう反応をしたかは、ここではさておこう。

「宝物や昔の歌姫。ロマンはあるけれど、死者の眠りを妨げるのは違うと思うし、いずれにしてもお亡くなりになった人々にはゆっくり眠ってもらいたいね。レイラさんという大昔の歌姫とはゆっくり話してみたいとも思うのだけど」

『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)の呟きは、恐らくは全員の思うところでもあるだろう。
 そう、問題は歌姫の乗る船ではなく……その船を生み出した状況自体にあるのだ。

「幽霊船か。一匹見ればじゃないけどだんだん増えるから困るんだよね。よりによって人の命を取り込んでさ」
「そんなものが漂ってたところで、いわしたちの生活がどうこうするわけでも無いけど〜……ま、確かに後味は良くないかも」


『若木』秋宮・史之(p3p002233)に『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)も頷く。

「ぜったいに許せないよ。駆逐してやる」
「おっけー、みんなまとめて海の底に沈んでもらおうね」

 そう、幽霊船そのものが問題ではなく仲間を増やしていくその性質が、そして増えた仲間が攻撃的であるという事実が何よりも問題だ。
 それを考えると『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)はお宝目当てで攻撃を仕掛けた連中の事を何とも許せない気持ちになってくる。

「……地味に厄介じゃのう。いらん手間を増やしおって、馬鹿どもめ!」
「ま、確かに一部は自業自得とはいえぞっとしない話だぜ。海で仕事してる身としては同情するしかねえな。ま、幽霊相手に過度な同情はするもんじゃないが」

『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)はクレマァダにそう答えながら「そろそろだな」と呟く。
 何があるか分からない以上、念のためと以蔵は魔法のボトルシップを持ち込んでいる。

「なんにせよ原因はわかってるんだ、キリキリ仕事するとしますか」
「ああ、見えてきたぞ……!」

『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の声が響き、全員がその方向を見る。
 そう、確かにある。旧い大型船と、その周囲を走る比較的新しい形式の様々な船が7隻。
 その船のうちの1隻……一番近い船のアンデッドがイズマ達を見つけるとカラカラと笑い始める。

「ハハハ、よう兄弟、お前らも仲間になろうぜ!」

 即座に此方へ向けて舵をきってくる船は、明らかに戦意に満ちていて。

「幽霊船団、こんなのに来られたら確かに鬱陶しいな。まずはこの喧しい船を全部沈めるぞ!」
「いえあ! 元気がいいなあ! 皆集まれ! 新しい仲間だ!」

 アンデッドの声に応えるように、他の船も近づいてくる。
 近づいてこないのは……そのまま進んでいくのはエストリア号だけだ。
 ゆっくり、ゆっくりと進んでいくエストリア号を全く気にした様子がない辺り、この船団は全く別の何かなのだと、そう言いきれてしまう。
 そして幽霊船団は気付いていない。
 エストリア号を見失わない為、すでにクレマァダが水中に潜りエストリア号に近づいている事に。
 気付くはずもない。

「夏の海には花火だぜ!」

 カイトの爆翼が小型の幽霊船を一撃で沈め、派手な開戦の狼煙をあげる。

「あまり時間はかけていられない、さくっといこう!」
「海はパパたちの本領発揮だよ! いっけー、いわしミサイルだ!」

 史之の豪鬼喝がアンデッド達を砕き、アンジュのいわしミサイルが幽霊船そのものを粉砕していく。

「手向けの送り火代わりだ。未練なく……とはいかねぇかもしれんが、大人しく成仏してくれや」

 縁の秘術、龍神之燈が更に幽霊船を攻撃していき……あっという間に幽霊船の数は減っていく。

「そんなに強いってわけでもなかったな」
「まあ、元々負けてアンデッドになった船だしね……」

 以蔵とヴェルーリアが頷きあい……こちらに向けて手を振っているクレマァダへと視線を向ける。

「こっちじゃ! はしごがかかっとる」

 幽霊船団がそうなる前に侵入経路としてかけたのだろうか。縄梯子がエストリア号にはかかっており……全員が、ゆっくりと登っていく。いつの間にか動きを停止しているエストリア号がこちらを歓迎しているのか、そうではないのか。
 今は、誰にも分かりはしない。

●豪華客船エストリア号

はしごを登りきると、そこにはスケルトン船員やゴースト船員達が集まり、クレマァダ達をじっと見ていた。

「……さっきから騒いでたのはお前等か」

 どうやら、先程の戦闘で彼等をイラつかせていたらしい。
 それに気付くが、アンジュは努めて笑顔を作る。

「あなたたちがバカバカって嫌ってる、幽霊船たちはみんなまとめて片付けたよっ」
「騒がせてしまって申し訳ない。だけど戦うつもりはないんだ」

 アンジュとイズマをじっと見つめた船員達は「そうか」と頷くとゾロゾロと解散し始める。
 しかし全員ではなく、何人かはその場に留まったままだ。
 サーベルで肩をトントンと叩いているスケルトン船員の眼窩が、まだ信用してないと言っているかのようだ。

「いやほんと、お疲れサマだ。ずっと長い間毎日毎晩どんちゃん騒ぎとあっちゃ気も休まらねーだろうよ」
「どんちゃん騒ぎは別に構わねえ。宝だなんだとカチこみかけてくる連中がウザいだけでな」

 探るように以蔵に問いかけてくる船員に、以蔵は黙って肩をすくめてみせる。

「レイラって人の歌が聴きたいな〜、アンジュたちも手伝うし、即興でコンサートを開かない?」
「……」

 レイラ、という言葉に反応しつつも船員達はアンジュの言葉の真意を探るような目を向けて。

「ああ。“歌姫”の歌を是非とも聞いてみたくてね。その為に、無粋な連中には退場して貰ったんだが……どうだい、礼代わりに一曲聞かせちゃくれねぇかい?」

 続く縁の言葉に、船員達は顔を見合わせ……船の後方を指し示す。

「船長に聞け。なんとなく大丈夫そうな気もするが……念の為な」
「どの道、お前らは客じゃねえ。義理の分、こっちも筋は通す」

 なるほど、幽霊船団を排除したことが認められたようだと縁は気付く。
 それもなしに乗り込んでいたら、このアンデッド達は敵になっていたのだろう。
 軽く礼をして船長室に行くと……そこでは、銃を手元で器用にクルクルと回す船長スケルトンの姿があった。
 早速史之が礼儀作法に則った挨拶をしようとすると、船長スケルトンの手がそれを押しとどめる。

「ああ、ああ。いい。そういうのはね。どうせこちらは死んだ身だ。生前を思いだしていかん」

 言いながらも、船長スケルトンは銃を机に置く。必要ないとは言いつつも、こちらを試した感がある。
 やはり礼儀作法に則って正解であったと、そう史之は確信する。

「こんばんは、良い夜ですね。そんな夜に無粋な幽霊船団にはお引き取りいただきました。私達はエストリア号の皆さんの話を聞いたり、レイラさんという歌姫がいらっしゃると聞いて、一緒に歌ったり音楽を奏でたいと思い参りました。どうか願いを聞いていただくことはできないでしょうか?」

 進み出てそう言うヴェルーリアに、船長スケルトンは「ほー」と声をあげる。

「いいぜ」
「ありがとうございます!」
「しかしな、余計な場所には入るなよ。もし入ったのが分かっちまった時……どうなっても責任は持てねえ」

 責任者のはずの船長スケルトンのその言動に、やはり此処には「何か」があると全員が確信する。

「おい、案内してやれ」

 言われて、外に待機していたスケルトン船員達がヴェルーリア達を2階層へと案内していく。
 1階層に居たゴースト達はそれを興味深そうに見ていたものの、攻撃してくることはない。
 そうして2階層のステージ裏に案内されると、そこにはやはりゴーストの……しかし、何処となく儚い風貌の少女がいた。
 スケルトン船員の簡単な説明にレイラはパッと顔を輝かせ、近づいてくる。

「俺はただの水夫だからな、こう小綺麗なところや楽曲を聞くとむず痒くなりそうだ」

 そのタイミングでカイトはふらりと仲間達から離れるが、船員がそれを止める事はない。
 わざと見逃すようなその動きに、カイトは遠慮なく物陰へと消え存在変質で人間形態に、更には闇の帳で隠密行動をとり始める。
 目指すのは、この船をアンデッド化している何らかの物品。
 そうしている間にも、レイラは楽しげに話しかけてくる。

「まあ、まあ。さっきの歌を歌っていた人のお仲間ね?」
「歌?」
「ええ!」

 聞き返す縁に、レイラはその歌を歌ってみせる。

 うかんで しずんで およいで もぐって
 うみの まにまに ただよう かげの
 ものがなしきは つゆにきえ

「貴方のお仲間でしょう?」

 そう、それは間違いなくクレマァダの歌だ。此処に来るまでの間にクレマァダ、そして以蔵もこっそりと離脱して船内の捜索を開始している。
 流石に歌姫というところだろうか、エコーロケーションとして使っていた歌を、正確に聞き取っていたらしい。

「アンジュたちも音楽奏でてみたりして盛り上げてみるよ。タンバリンとかね」
「ふふっ、だとすると騒がしい歌の方がいいかしらね?」

 そう聞き返してくるレイラに、アンジュも楽しそうに返す。

「アンジュ、いわしの事が大好きなんだ。ねえ、一緒にいわしの歌、歌おう!」
「いわしの歌? ふふふ、楽しそうね!」
「船にいる全員を集めてコンサートをしよう。演奏者も観客も申し分ない。最高の時間になるはずだ」
「ああ、確かにそれはいいコンサートになりそうだ。是非聞かせてほしい」
「そうね、それは素敵だわ」

 そんなイズマの提案に史之が賛同し、レイラもニコニコと笑う。

「でもね、そこまでは出来ないの。お仕事がある人もいるから」
「でも……」
「お願い、分かって? 集まれる人は集まるから」

 柔らかながらも、明確な拒絶の台詞。恐らく何かの強制力が働いており、それ以上は「何か」がそれを察するであろう事を……レイラは言外に告げていた。
 その上で出来る範囲で協力する、と。そう言っているのだと気付いたが故に、イズマは「それでいい」と答える。

「生きてる間にできなかった分まで、一緒に音楽を響かせよう? 最期まで付き合うよ」
「ええ、そうね。最期まで歌いましょう? 私達は海に生きて海に死ぬ。それはたとえ死んだ後でも変わらないのですから」

 そうして、ホールに集まった人々の前でレイラとアンジュ、ゴースト楽団によるイワシの歌が演奏され……そのまま、古くはあるが今でも伝わっているような、そんな有名な歌に切り替わっていく。
 船内の隅々へ、そして船外まで響くような歌と音楽は、永遠に続くかのように響いて。
 やがて、何かが破壊されるような音と共にピタリと止まる。
 そして……ゴーストの1人が、ポツリと呟く。

「……杖が、破壊された」
「ああ、終わる」

 ザワザワとそんな声が響き始める中で、レイラは隣に居たアンジュへと笑いかける。

「これで良いんだよね?」
「ええ、ありがとう。そして、さよなら。もうすぐこの船も消える……急いで帰ってね」

 やはりそうなのか、とその場に居た全員が立ち上がり出口へと駆けて行き……その姿を見送りながらレイラは再び歌い始める。
 それは旅立ちの歌。遥か昔から船乗りたちに伝わる、そんな歌を謡い……その間にも観客が、そして楽団が1人ずつ消えていく。
 やがてカイト達を含む全員がエストリア号から脱出し終わった時には、その巨大な姿が薄れ始めているところであった。
 歌姫の歌も、楽団の音楽も……船から手を振っていたゴーストやスケルトン達も全て消えて。
 何もかもが消えて、全員がそれに祈りを捧げる。

「俺はこの音を忘れない。ギフトで再現して伝えることもできる。だから、安心して眠ってね」
「どうか、安らかに」

 イズマが、ヴェルーリアが……全員が、静かにその旅路を祈って。

「死霊術師の呪いにかかった哀れな人たちのために捧げるよ」

 史之が、船の消えた場所へと赤ワインを注ぐ。

「きれいな歌声だったな、残念だよ」
「歌姫と聞いて、一瞬、あり得ないことじゃが、我(カタラァナ)のことを思い出してしもうた。だから、というわけではないのじゃが……安らかにお眠り。海は全てを包み込む。お主らの心も、きっとな」

 どこか遠くを見つめるように、クレマァダは語り掛けて。勿論、それに応える声はない。

「さあって、そんじゃ帰るか!」

 しんみりしかけた雰囲気を吹き飛ばすかのように、カイトが手を叩く。
 そうして、カイト達は港へと戻っていく。
 幽霊船エストリア号は消えて、歌姫の歌もまた遠い彼方へと去った。
 けれど……イズマが言ったように、聞いた歌を忘れることはないだろう。
 そしていつかまた、歌うのかもしれない。海に消えていった、あの歌を。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション!
見事に幽霊船の問題を解決しました!

PAGETOPPAGEBOTTOM