PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪魔の救済

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――あれから、もうどれくらい経つだろう。

 かんかんに照りつける太陽から身を隠すように、天義の司祭リゴール・モルトンは教会の門をくぐる。
 そして礼拝堂を抜け、廊下を歩き、事務室の質素な木戸をそっと開いた。
 視界に飛び込んできたのは、花瓶に飾られたひまわりの花だ。こんな所にまで夏が居る。

 ここは天義東部の小さな町ロルドリック。その中心部にある、これまた小さな教会である。
「これはリゴール司祭様、お出迎えも出来ず申し訳ありません」
「こんにちはシスターパウラ。どうかお構いなく。ただの定例巡視にご意見伺い、それも代役ですから。それよりも気がかりなことがありまして。例の子供達の様子は、あれから如何ですか?」
「はい……その件でご相談がありまして」
 シスターは表情を曇らせる。

 天義ではこのところ、アドラステイアという勢力に手を焼いていた。
 彼等の言い分は、天義の言う神を信じたところで、冠位魔種の災厄が起こったというものだ。
 偽りの神を戴く邪教が蔓延し、子供達が毎日のように魔女裁判を続ける異常な都市なのである。
 そしてシスターパウラのいう『子供達』とは、そこから保護した数名の事であった。

「ようやくまともに食事をとるようになったのは良いのですが、最近はなにやらこそこそと……」
 子供達ははじめ「邪教徒が出す毒など食べられない」「洗脳される」等と、パンやスープをまき散らすなどの惨状だったらしく、挙げ句の果ては勝手に商店の果物を盗むなど、手が付けられない有り様だったようだ。しかし飢えた誰かが食べ始めてからは、きちんと食事だけはしてくれるようになった。
 シスターが言うには、何やら子供達が密談めいたことをしているらしいが。
「まあ、子供には子供の領分はあるのでしょう。しかしあの子達というところが心配ですね」
「そうなんです」

 リゴールはこのところ、思う所があり『アドラステイアの子供達』を気にかけていた。
 彼は白亜の聖都フォン・ルーベルグの司祭であり、要は典型的なデスクワーカーである。だがこうした視察的な雑務を率先して引き受ける訳は、多分に心情的な所を由来としていた。即ち『人の成長は、その人となりは、育つ環境と切り離すことが出来ない問題なのではないか』と、そう考えたからである。
(私は未だ、君の手紙への返答すら出来ないよ。なあアラン、いやグドルフ。私はただ、怖いんだ)
 たとえば峠で金品を強奪する山賊というのは、貧しさ故ではないのか。教育というものが人に力を与えれば、彼等はそうならずに済んだのではないか。かつてのリゴールは、ただ単純にそう考えていた。
 しかし彼と親友のアラン――今はグドルフ・ボイデル(p3p000694)を名乗る男との数奇な再会は、そこに大きな疑問をいくつも投げ込んできたのだ。
(お前はそれを笑うだろうか、それとも静かに怒るのだろうか)
 アドラステイアの子供達の『心』を救う手がかりは、わからない。
 リゴールとグドルフが抱える複雑な心境もまた、ベクトルこそまるで違えど、然り。
 しかし子供達の心を救うことが、リゴール達が抱える大きな悩みを解決する手がかりになるかもしれないと、そんな風にも考え始めていたのだった。

「子供達はこちらです」
 何やら放心しているうちに、リゴールは子供達が共用している部屋の入り口に立たされていた。
「それでは――え?」
 部屋は、もぬけの殻だった。
 慌てたシスターがあちこちを探し始める。引き出しの中に子供が居るはずなどないが、彼女のそそっかしい振る舞いは、いくつもの手紙を発見したのであった。


「俺は知ーらね。一抜けたっと」
 丸太のような腕を頭の後ろに組み、椅子の上で仰け反ったグドルフは、少々へそを曲げている。
 この日ローレットへ舞込んだ依頼は、天義からのものだった。
 依頼主はリゴール・モルトン。グドルフの親友である。
 長いこと手紙へ返事も寄こさず、いざ用があるとくれば、これなのだ。
 ずいぶん、失礼なヤツではないか。

「……ん。でも、聞いて欲しいです」
「まあ、聞くだけなら聞いてやるけどよ」
 この男(グドルフ)。なんだかんだ少女には甘い。
 別にそういう趣味という訳でもなく、全く明るい理由ではないのだが――
 それはさておき。
 ラヴィネイルが言うには、アドラステイアから保護した数名の子供が、行方不明になったらしい。
「調べたのですが、子供達は近くの森に潜伏しているようなのです。それでアドラステイアからの『救助』を待っているらしいのですが、聖獣を連れた聖銃士の隊が向かっているようなのです」
「救助、なの?」
 アルエット(p3n000009)は、気になる単語に首を傾げた。
 どうやら子供達は、こっそりアドラステイア側と手紙によるやり取りをしていたらしく、『アドラステイアに戻りたいから、救助してくれ』という文面だったらしい。
「戻っても、魔女として谷底へ落とされるだけです。あそこは、そういう所ですから」
 天義はアドラステイアから子供達を救ったのだが、当の子供達自身はそう考えていないということだ。
 何をもって幸福となすのか。
 何をもって正義と見なすのか。
 人の心をいうものは、たとえ子供であっても難しい。

 リゴールからの依頼内容は、子供達の保護だったが、そこに聖獣の討伐、聖銃士の撃退が追加されたことになる。連絡は行き届いており、先方も承知済だ。それに撃退とはいうが、天義の目的を考えるなら、捕縛はなおのこと結構ということになるだろう。
「それじゃあえっと、救助を待つ子供を保護? するの」
 アルエットの言葉を聞くと、なんだか単語の掛け違いをしているようだ。

 敵の能力などは、やはりローレットの調査によってある程度判明している。
 仕事内容自体は、ごく単純な依頼になるだろう。
 後で依頼書の詳細を確認し、作戦を話し合えば良い。

「で、あの野郎は他に何か言ってやがったか?」
「……えと、皆さんに同行させてほしいと」
 ラヴィネイルの答えに、グドルフは大きな溜息を吐き出すと「しょうがねえな」とぼやき立ち上がった。

GMコメント

 もみじです。
 アドラステイアから保護した子供が、逃げ出したようです。
 敵を撃退し、子供を保護してあげてください。
 依頼内容自体は単純ですので、戦闘の他にもNPCとのお話や子供達への対応など、色々出来るかもしれません。機会をお役立て下さい。

●目的
・ロルドリックの教会から脱走した子供達の保護。
・聖獣の討伐。
・聖銃士の撃退または捕縛(生死は問いません)。

●ロケーション
 森の中で朽ちている、古いマタギ小屋の近くです。
 ちょっとした広場になっていますが、木などもあり、戦闘には手狭かもしれません。

●保護すべき子供達
 四名居ます。
 アドラステイアの正義を信じ、天義を嫌っています。
 脱走してから食べ物が少なく、やや衰弱しています。

●敵
『聖銃士』×6
 これも武装した子供達ではあるのですが……。
 いわゆる狂信者です。銃とレイピアで戦います。

『聖獣』×4
 雷のたてがみをした、獅子のような怪物です。
 鋭い爪や牙による連続近接攻撃のほか、麻痺を伴う雷撃を放ちます。

●同行NPC
『アルエット(p3n000009)』
 メガ・ヒール、天使の歌、神気閃光、ソウルブレイクを活性化したホーリーメイガスです。

『リゴール・モルトン』
 グドルフさんを見ると、謝罪と共に、何かを聞きたいような、聞きたくないような素振りを見せます。
 典型的な後衛型ヒーラーです。
 単体大回復、範囲中回復、範囲BS回復を持ちます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 悪魔の救済完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

サポートNPC一覧(1人)

アルエット(p3n000009)
籠の中の雲雀

リプレイ


 森の中をただ、がむしゃらに駆け抜けた。
 でも、足が痛くて動かない。苦しい。痛い。

 耳を澄ませた『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は子供達の声を捉える。
 追う側の自分達が子供達の悲痛な声を頼りにしているのは、なんて皮肉なのだろうとラブは瞼を閉じた。
 けれど、誰も失わせないとラブは首を振る。
「子供達も、アルエットさんも、リゴールさんも。みんな、みんな」
 大切な命なのだから。
 アウィナイトの色彩を帯びた瞳に浮かぶ涙に、陽光が光を乗せた。
「信仰の自由は保障されるべきではあるのでしょうが」
 落ちていた木の枝がパキッと音を立てる。『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は隣で転びそうになっている『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)を支えながら呟いた。
「でも、谷底に落ちようとしている子供達を見捨てるのは少々薄情にも感じますね」
 四音はアルエットの手を握り視線を向ける。
「こういうのは保護で合っていますよ、アルエットさん」
 子供達の心は、今は閉ざされているのだとしても。助け出す手を伸ばすのは大人の役目だから。
「……久し振りだな、アルエット。今日は宜しく頼むぜ」
 アルエットの頭を緩く撫でたのは『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)だ。
 数年前の後悔がレイチェルの脳裏に過る。
(俺はあの時、アルエットを守ってやれなかった。怖い思いをさせてしまった)
 今度は必ず守り抜くのだ。その為にレイチェルは此処に居るのだから。
「アルエットには後方から俺らの回復を頼めるかい?」
「分かったわ。回復は任せて! レイチェルさん」
 振り向いたアルエットにレイチェルは務めて笑顔で返す。決意は胸に秘め、なるべく普段通りを繕って。
 自分が当時の事を気にしているのだと知れば、アルエットは『ごめんなさい』と言うだろうから。
 謝って欲しいのではない。自分が守りたいのだ。この小さな背を。

「天儀が嫌いか……私も天儀側の関係者がついてきてなかったら同情するんだが」
 緑青の瞳を天義の司祭リゴール・モルトンへ向けた『無限陣』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は厳しそうな顔をした彼が此方を向くのに「……いやなんでもない」と首を振った。
 天義という国の在り方はマニエラにとって相容れないものがある。
 それでも譲れぬ道理はある。
「ま、子供が魔女裁判をし続ける国なんてそっちの方がよっぽど嫌いだけどさ」
 たとえ天義という国や思想を許容できなくとも、アドラステイアで死を待つよりは百倍マシだろうとマニエラは溜息を吐いた。
「邪教だ何だ、くだらねえな。ま、カネさえ貰えりゃ何だってやるがね」
 マニエラの隣で頭をガシガシと掻いた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は溜息を吐きそうになって、代わりに舌打ちをする。
 上っ面の嘘を口に乗せるという行為は思っているよりも心に負荷をかけるのだろう。
「おい、リゴール。てめぇは後ろで、回復しながらアルエットと一緒にガキ共を見ててくれ。前には出てくるなよ。生っちょろいおっさんは邪魔だからな」
「ああ。分かっている」
 もうリゴールは前線で戦える程、若くは無い。イレギュラーズに混ざり機敏に行動するのは難しいだろう。ならば何故、ここまで着いて来たのか。それは子供達が心配だからだ。グドルフが心配だからだ。

「どちらの『かみさま』を……、誰を信じる…するのが、正しいの……かな」
 難しいことは分からないと『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は眉を下げた。
 考え方の違いは世の中にある争いの火種ともなりうる。生きる者が抱える命題なのかもしれない。
 生きる者が抱える命題は、裏を返せば死んでしまえば、意味の無いものになってしまう。
 それを判断するにも、知識と教養が必要で。子供達にはまだそれが備わっていないのだから。
「でも……あの子達。放っておけない様な、気がするんだ」
 いつの日か、選択するべき時が来るまでは。生きて欲しいと願うから。
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は子供達の置かれた状況に自分を重ね合わせる。
『邪教徒が出す毒』『洗脳される』という言葉にアーマデルは納得したように頷いた。
「……成程、自分達がやっているからこそ。真実味のある教化(洗脳)を施せるという訳だ」
 洗脳からの解放には元の環境から切り離す事が必須条件だ。
 別の場所に来なければ見る事が出来ない『外側』からの視線。
「『普通』から切り離して教化するのがあちらのやり方だからな」
 混沌に来て『常識』の在処が変わったのはアーマデルも経験したことだ。
 最初は混乱するだろう。変化というものは恐怖を伴う。
 けれど、それでも。外圧的な変化が今の彼等には必要だから。たとえ、今は恨まれようとも。
「……手紙をやり取りしていた手段は気になるな、使い魔だろうか?」

 グドルフは湿り気を帯びた森の地面を踏みしめる。
「どうだ。もうすぐか?」
「ええ。もうすぐ見えてくるはず」
 子供達の声はラブの耳に届いていた。どんどん近くなる思念はこちらで間違っていないということ。
『早く助けないと……! 子供が殺されるところなんてもう見たくないよ』
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は脳内に響く声に頷く。
 聖銃士が子供達を見つける前に、先手を打たなければ。


 マタギが使っていたであろう朽ちた小屋の前に子供達は蹲っていた。
 その前には聖銃士と獣の姿がある。
 グドルフは地を蹴り雄叫びを上げながら、聖銃士の前に躍り出た。
 黒光りする斧を振り回し、聖獣諸共聖銃士を吹き飛ばす。
 聖獣の巨体に押され、広場の隅に転がる敵。
「何だッ!?」
「かかっ、それはこっちのセリフだなぁ? おい。こんな所で何やってんだ?」
 グドルフは聖銃士を蔑むような笑みを向けた。ギリリと歯を食いしばる聖銃士の顔には怒りが浮かぶ。
「邪魔だ! どけ!」
「無理だろうよ。状況的にそれに俺を無視していいのか?」
 グドルフはズボンの中から金色に光るコインを取り出した。
「見ろ、おれさまはこいつをたんまり持ってるぜ。殺せば幾らでもくれてやる」
「な……何故お前がコインを持ってる!? どうせ、偽物だろう!?」
「これが偽物に見えるのか? 本物だったらどうする? 疑っていいのか?」
 グドルフの言葉に聖銃士達は目の色を変える。グドルフを殺せばコインが手に入る。
「くそっ! そのコインを寄越せ!」
 聖銃士は銃をグドルフに向けた。

「聖獣は何も気にせず殺させてもらおうか」
 マニエラはグドルフが集めた敵にターゲットを合わせる。
 青き色彩に彩られた戦扇はマニエラの指先から光の粒子を弾けさせた。
 それは収縮し、高濃度の魔力となりマニエラの足先、聖獣との接地点へ収束する。
 高威力の一蹴は聖獣の命を奪い取った。

「おい、さっさと帰るぞ餓鬼共。今なら特別にゲンコツ一発で許してやろう」
 Tricky・Starsが子供達の前に仁王立ちする。
「『シスターが心配してたよ。一緒に帰ろう』なんて言ってもコイツらには響かんだろうな!」
 四音は持って来た食料と水を子供達に渡す。
「別に毒は入っていませんよ。お腹がすいているでしょう。それを持って離れていてください」
「……」
 疑うような目。今の段階では四音の言葉は子供達の心には届いていない。
「どうしても離れませんか。別にあなた方の正義を否定はしません。戻りたいと考えるのも自由です。ただ、そうなら戦場となるこの場から離れて推移を見守った方が良いのでは?」
 四音は微笑みを浮かべ子供達に告げる。
「あなた達はアドラスティアの大切な財産とも言える訳ですから、怪我や衰弱等して損失を出すのは駄目でしょう? 戦闘の被害の及ばない所で、食事でもして体力を回復させた方が良いと思いますよ。賢い貴方達なら分かるでしょう?」
 笑顔の裏に隠した言葉は伝えず、四音は子供達を守るように背を向けた。
 四音の行動に重ねるようにラブは座り込んでいる子供達に視線を合わせる。
 疑心が浮かぶ子供達の瞳を見つめているとまるで自分が罪深い者になったように思えた。
 少女の瞳から涙が零れ落ちる。それでも、ラブは微笑みを浮かべ。
「大丈夫よ、私達は、助けに来たの……」
 ラブの声は子供達の耳に届いただろう。せめて話しに耳を傾けて。
「ねえ、教会での生活は、嫌だった?」
「……うん」
「それは、何故? 何故、邪教徒だと思うの?」
 ラブは後ろで行われる戦闘に目もくれず、子供達に向き合う。

 ――――
 ――

 チックの影から黒き獣が姿を現し、聖獣へと牙を突き立てた。
 食らいつき引きちぎりうなり声を上げる。
 チックは聖銃士へと視線を上げ、言葉を紡ぐ。
「アドラステイアに戻りたい、助けてほしい……って聞いて、君達は……来たん、だよね」
 相手が嘘をついていないか確かめながらチックは問いかけた。
 聖銃士の顔が嫌そうに歪む。思考を読み取られるというのは不快極まりないだろう。それが敵であれば尚のこと。
「もし……戻れたら、彼らはまた……元居た時みたいに、普通の生活……出来るの?」
「ッチ、知らない。そいつらの元の生活なんて知らないし。でも、連れて帰れと命令されてる」
 命令に背けば、いつ自分達が裁判に掛けられるか分からない。
 此処に来ないという選択肢は無かったのだ。
 チックは視線は逸らさず相手の目を真っ直ぐに見て問う。
「本当? 信じている神様にも……誓える?」
「誓うけど。その子達がどうなるかは、分からないよ」
 知らされていない。もしかしたら、魔女裁判に掛けられるかもしれない。それは彼等の言動しだい。
 そこまでの責任を負いたくないと聖銃士は視線を逸らした。
 嘘では無いのだろう。根本的な問題は彼等ではないとチックは考える。
 彼等を此処に向かわせた相手。アドラステイアの『大人』達が居るはずなのだ。

「アーマデルどうだ?」
「多分、大丈夫」
 マニエラはアーマデルから聖銃士の体力がまだ余り有る事を確認する。
「なら、一気に体力を削らせてもらおうか」
 戦扇を広げ、舞い踊るマニエラは見惚れる程に美しい。
「良いところに当たっても死なないでくれよ?」
「くそっ!」
 迫り来る美しさは恐怖でもある。自分を追い立てる獣が口の端を上げる。
「死にたくないならそれこそ神に祈れ、助けてくれるとは思わんがね。因みに私は祈るよ、殺したって怒られたくないし」
 聖銃士の脇腹へと叩き込まれたマニエラの脚。その威力を持って、倒れ込む聖銃士。
「うわ、やり過ぎたか!?」
「まあ大丈夫。命に別状は無い」
 マニエラの焦りにアーマデルは頷く。
「四音すまん。回復を頼む」
「任せてください」
 マニエラの言葉に四音は聖銃士へと手を翳した。ゆるゆると湧き上がるダークヴァイオレットの抱擁にマニエラは眉を寄せる。いつ見ても回復魔法とは思えない様相だ。
「屈強なる信念を感じられますね。私も頑張って支えないと。皆さんの命を癒し守るのが私の使命でもありますからね。ふふふふ」
「この子達どうなっちゃうのかな? 洗脳解けるかな?」
 掌に魔法を集めながらアルエットは四音に問いかけた。
「心は時間をかけて解きほぐしていくしかないのですよ。一途な思いには一途な思いで対抗する。諦めない心が大事なんですよ? アルエットさん」
「諦めない心……」
「生きてさえいれば、違う道を選ぶ事もできる。……死んでしまえばそれで終わりだからな」
 アーマデルは目の前の聖銃士の姿に僅かに胸を軋ませる。
 自分もかつては、このような『子供』だったのだろうか。
 ざらついた、表現する事が出来ない感情がアーマデルの胸を攫った。

「餓鬼共、この偉大なる美天使様がお前達に大切なことを教えてやろう」
 Tricky・Starsは蹲る子供達に語りかける。
「恩を仇で返すような奴に祝福を与える神など存在しない。悪しき者には必ず罰が下る。それが神の支配する世界の絶対だ」
「悪しき者には罰が下る……」
「そうだ。大体『敵』に捕まっていた者をアドラステイアが再び歓迎すると思うか? 逆の立場になって考えてみろ」
 Tricky・Starsの言葉は子供達に『思考』を促す。それは『洗脳』から抜け出す一歩に他ならない。
「得体の知れない毒を盛られ、洗脳されているかもしれない奴らが居たら、信徒はどうするのか。当然処刑だろう」
「僕達は殺されてしまうの?」
 子供達はTricky・Starsが告げる真実に恐怖し震えた。
「あの編成はどう考えてもお前達を始末する為としか思えん。迎えに獣を連れ歩く必要はないだろう?」
 蹲る子供達は聖銃士を見上げる。聖獣を連れた彼等は、本当に助けに来てくれたのだろうか。
 グドルフは敵の攻撃を躱し、子供達に叫ぶ。
「なあ、お前らよお。コイン一枚見せただけで他人を殺そうと躍起になる連中が、何で他人のてめえらを助けようと思うんだ?」
「……!」
 子供達は顔を上げて、戦場を見据える。
 自分達を助けに来た筈の聖銃士が、コインに目の色を変えて戦いあってるではないか。
「そいつらがカミサマの救いの手って言うなら、山賊たるおれさまは悪魔の手かい? だがよ、救われる為に縋るなら──おれさまの手にしとけ!」
 ビリビリと鼓膜を揺さぶるグドルフの声。説得力のある、頼っても良いのではないかと思わせる声だ。
「ねえ、教会のご飯は美味しかったわよね?」
 ラブは子供達に語りかける。頬を包み込む指は温かくて、子供達は眉を下げた。
 それでも目の前で繰り広げられる戦闘に恐怖を覚える子供がいる。
「大丈夫。でも、ここから先に行っちゃだめ。向こうはあぶないから」
 前に走り出そうとする子供をラブは抱きしめた。
「少なくともあの教会には、貴方達を害する人はいないの貴方達に何かを強いる人も、見張る人もいない」
 ラブの言葉に、自分達の信じてきたものが、嘘だったのだろうかと首を振る子供達。
「ただ、貴方達がお腹いっぱいご飯を食べてくれたら、それだけでほっとして、笑顔になるような……そんな人達ばかりよ」
 そんな『幸せ』があるのだろうか。怖いと思う。変わることが怖いと思う。
「聖騎士の皆も、決して殺したりしない。約束するわ」
「……本当に?」
「ええ。勿論よ」
 ラブは子供達の震えを包み込むように微笑んだ。
「──これでも医者だ、ミスはしねぇよ」
 子供達の不安を和らげるように、レイチェルは口の端を上げる。
 聖銃士の一人は体力が危ない状態だろう。
 レイチェルは直ぐさまその聖銃士の元に走り、戦場の隅に抱えて行く。
「くそ……やめ、ろ」
「動くな」
 レイチェルが傷口を見ようと身体に触れた途端に暴れ出す聖銃士。見れば、十二歳ほどの少女だった。
 傷口から出た血で意識が朦朧としているのだろう。
 レイチェルは暴れる子供の命を救う為、手刀を入れて昏倒させた。
「……今は安らかな眠りを」
 意識を失った子供をレイチェルは抱き上げた。


 戦場は静けさを取り戻し、鳥の囀る声が聞こえる。
 聖獣を倒したイレギュラーズは武装を取り上げられた『子供達』とお腹をすかせた『子供達』を馬車に乗せていた。
 チックは子供達にお弁当を渡す。道中でも食べやすいおにぎりだ。
「毒……は入ってないよ。ほら」
 おにぎりの一つを頬張ったチックを見つめた子供のお腹がくうと鳴る。
「はい。食べて……?」
「うん」
 子供はチックからおにぎりを受け取りぱくりと頬張った。
 環境を変えるということは家族と引き離されるということだとアーマデルは瞳を伏せる。
「天義に対する反感も大きいようだ。ワンクッション置くなら、俺の領地で預かってもいい」
 豊穣の領地であれば干渉もされにくいだろうとリゴールに伝うアーマデル。
「そうだな。子供達が望むならそれもいいかもしれない」
 チックとアーマデルを見つめリゴールは頷いた。

 リゴールは馬車に居る子供達の無事を確認し振り返った。
 そこには、かつての親友が佇んでいる。どう、言葉を掛ければいいだろうか。
 会えれば話したいと思うことは沢山あったと思うのに、言葉にするには難しいものばかりで。
「俺は山賊。お前は司祭。立場を考えろ。変に怪しまれたら面倒だから、手紙だけでやりとりをしていたのに──全く」
 ローレットへ依頼した人員であれば、怪しまれる事も無い。しかし、やり方が強引なのだとグドルフは悪態を吐いた。
「いいかリゴール。私は、哀れんだり同情して欲しいわけじゃ無い」
 リゴールの親友アランは視線を逸らし、それでも思いを紡ぐ。言葉に乗せる。
「救わない神など要らないと国を捨てたのも。自分の力だけで生きると決めて傭兵になったのも。都合が良いからと山賊の振りをし始めたのも、私自身が決めたんだ」
 この道はアラン自身が決めたもの。リゴールが責任を感じ、背負うものでは無いのだから。
「お前はお前の道を行け。それが手向けになる」
 死んでしまったカティと『アラン』への手向け。
「……少し、安心したよ」
「――」
「いや、なんでもないさ」
 道は別たれ、交わることはないけれど。
「まあ、ローレットからの依頼なら何時でも受けてやる」
 閉ざされた訳では無いのだ。
 願うべくは、お互いの『未来』。言葉を交さなくとも伝う思い。
 安寧を願うのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 子供達は無事に保護されました。
 彼等の今後はリゴール達が上手くやってくれるでしょう。

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