ギアホース、発進せよ（発進できるとは言っていない）

オープニング

●実験室にて

　ガタゴト、ガタゴト。鉄帝のとある研究者の工房で、怪しげな音が響いている。

「くっくっく……既存の馬より強く、速い！　文句も言わぬ機械の馬！　これさえ完成すれば……！」

　そう、研究者の眼前にあるのは機械の馬。何やら額にユニコーンの如き角がついているのは、趣味だろうか？

「よし、ギアホース１３号！　今こそ動きだせ！」

　ガタゴトいっていたギアホースの目が輝き……ガシャンと足を動かす。
　一歩、そして一歩。動く度に研究者の目が輝いていく。

「おお、おお！　ついに……ついに！」

　ボムンッ、と。間抜けな音をたててギアホースから煙が吹きあがる。

「な、何故だあ！　今度こそ上手くいっていたはず……！」

　未だ古代兵器の域には届かないというのか。
　いや、理論は完璧なはずだ。となれば、何が足りないのか……。
　考えて、研究者は１つの真理に辿り着く。

「材料じゃ、ないのか……？」

　駆動に耐えうる頑丈な材料。どっかの遺跡に居る古代兵器から適当な材料を引っぺがせば、ギアホースは完成するのでは？

「ふ、ふはははは！　ならば決まった！　よおし、その辺にいる情報屋を捕まえよう！」

●ギアホース、完成せず

「というわけで、依頼人にして研究者のマッド氏です」
「うむ、よろしく頼む」

　疲れた表情で言う『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック（p3n000201）と違い、マッド氏は実に元気そうだ。

「えーとですね。此処から２日くらいの距離に古代遺跡が１個あるですが……まだ稼働する古代兵器があるらしいのですが、そこそこヤバめのやつです」

　古代兵器といってもピンキリだ。そこに出るのは軍事利用するにはちょっと向いてないタイプの……いわゆる娯楽に使われていたと思われるゴーレムが主であるらしい。
　しかしあくまで「そういうのが主」であって、その中にはちょっとヤバめのものも混ざっている。

「古代遺跡はどうやら劇場か何かだったらしいですが……まあ、地下劇場である辺りヤバさが伺えるですね」

　そう、地下劇場。恐らくは古代においても怪しげな何かがあったのだろう。
　そこに出現する古代兵器は執事やメイド、踊り子に歌姫といったバラエティ豊かな見た目をしているという。
　……もっとも、見た目だけであって顔はツルリとしたお面のようなものであるらしいが。

「マッド氏はそこで稼働する古代兵器から材料を引っぺがして自分の作品を完成させる事を望んでるです」

　どんなものでも構わない。あとは自分の才覚でどうにかしてみせる。
　それがマッド氏の依頼だ。

「ちなみに……ご自分の発明を現地で改修するらしいです」

　護衛も必要。つまりはそういうことだと……チーサは、そう締めくくるのだった。

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

●ロマンを求めて

「疲れも恐れも知らない機械の馬……良いですね、浪漫があります。軍でも民でも役立ちそうですし、博士には是非夢を叶えて頂きたいですね！」
「当然だ。いつまでも古代兵器にデカい顔はさせておけん。新技術が世界を拓くのだ！」

『挫けぬ軍狼』日車・迅（p3p007500）のそんな言葉にマッドはそんな大言壮語を吐く。

「そのためにも部品集めを頑張らねば」
「うむ、期待している！」

　バシバシと迅の背中を叩くマッドだが……そんな迅達が何処にいるかというと、古代遺跡「地下劇場」の前である。
　迅達の近くには今は機能を停止しているギアホースがあるが……それを『怪しくない』九重 伽耶（p3p008162）と『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア（p3p009512）はじっと見ていた。

「ギアホース、のぅ……発明家というやつが大概無理するのはそういう習性なんじゃろうか……」
「ロマンがあるよね。メカ子ロリババアという似たようなロバが居るからマッド博士に見せて参考にしてもらおうかな。荷物も運べるからね」
「まあ、そうじゃのう」

　ちなみにマッドはメカ子ロリババアを目ざとく見つけて「マッドハッタアアアアア……」と呟いていたが、それはさておこう。
　そんなマッドであるが、置いていくのも何となく心配なので事前の打ち合わせにより連れていくということになっている。

「マッドさんもボク達について来てもらうね、大丈夫ちゃんと守るから」
「おうおう。どうせなら直接見たいと思っていた」

『雷虎』ソア（p3p007025）にマッドはカラカラと笑うが……これは本当に連れていくのが正解だと『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ（p3p006270）は思う。

「資材の有効活用は大変よろしいことであります。ガラクタからというならより結構。とはいえあまり興奮なさらぬよう。守り切れなくなるので」
「ほんと、余計な事はしないでね？」

　だからこそ、そんな事を『雷光殲姫』マリア・レイシス（p3p006685）と共にマッドに告げる。

「うむ、覚えておこう」
「大丈夫でありますかねえ、その返答は」
「常に監視しておこうか」

　エッダとマリアは顔を見合わせ、そう言いあう。気を抜いてマッドから目を離さない方がいいだろう。そう思ったのだ。

「あれをどうするのかは完成させてどうするのかは分かりませんが、何かしらの形で誰かの役には立ちそうですね。出来るだけ頑張ってみましょうか。どうなるのかも気になりますし」
「ま、そうね」

『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル（p3p004352）に頷きながら、『慈悪の天秤』コルネリア＝フライフォーゲル（p3p009315）は地下劇場の入り口へ視線を向ける。
　古代遺跡は幾らでもあるだろうに、何故此処なのか？
　そうコルネリアは思わざるをえないのだ。

「研究者ってのは変なのというさ変わってるのが多いわねぇ……ここのガラクタの素材じゃないとダメなのかしら……まぁ仕事だしいいけど。さぁて、行こうか」

　そんなコルネリアの合図と共に、隊列を整えて地下劇場へと進んでいくのだった。

●地下劇場にて

「さて……長丁場になるだろうけど気を抜かず行こうか」
　
　マリアの声が静かに紡がれる。
　此処は１階層。
　受付とホール……かつては客が集まっていたのであろうこの場所は、今は無数の人型古代兵器が蠢く危険地帯と化している。
　サッと見ただけでもメイドや執事を模したと思われる個体、そして衛兵らしき個体も居る。
　かつてはマトモに接客などをこなしていたのだろうが……。

「頑丈な部品が欲しいとの事ですから、可能な限り最下層まで潜りたい所ですね！」

　槍を構え襲ってくる衛兵型を、オリーブの覇竜穿撃が叩き砕く。

「それでは張り切って破壊いたしましょう！」
　
　続けて襲ってくる執事型を迅のデッドリースカイが破壊し、その部品が地面に散らばっていく。
　そう、此処の古代兵器達はもう正常には稼働していない。
　見つけた者を襲うその状態は、暴走と呼ぶほかない。

「マッド博士、遺跡内の使える部品については直に判断してもらいたいと思ってるの」
「おうおう、しっかり見ておるよ……ほれ、見てみい」

　マッドはフォルトゥナリアの肩を叩くと、迅の破壊した執事型のネジを拾い上げる。

「……錆びてるね？」
「うむ、錆びとる。古代兵器としては安い部品を使っとるの」

　赤い錆を指でシャリシャリと削りながら、マッドはフンと鼻を鳴らす。

「部品としては役に立たんな、全部壊してええだろ」
「いやあ、そこまでは……」

　別に遺跡の掃除に来たわけではないのだ、全部壊して回る必要は何処にもない。

「でも、ほんと離れないでね？　コンセプトと似てるロバちゃんをしっかり見て活かして欲しいと思ってるからね。私から離れずとも暇になることはないと思うから。お願い！」
「マッドハッタアアアアアアア……」
「え、何突然」

　謎の鳴き声を漏らし始めたマッドからちょっとフォルトウナリアが離れたくなっている間にも付近の掃討は終了する。

「地下劇場にどうしてあんなのが彷徨いてんのよ……どうにも不気味なトコロねぇ……」
「確かになんで無人の地下劇場にこんなのが大量にいるんだろう？」
「さてな。放棄されても役目を果たしとるといったところかもしれんが……」

　コルネリアとマリアの疑問にマッドは答え、落ちていた衛兵型の装甲をヒョイと持ち上げ……すぐに興味を失ったように投げる。

「どの道、古代兵器としては大量生産品。求める品質ではないな」
「ああ、あのメイド型とかかの。確かに強くはなかったが」
「おおメイド。先程のですな。メイド仲間として気になる存在。って誰がメイドだって？」
「言っておらんが」
「自分、騎士（メイド）なのでそこのとこお忘れなきよう。大事なんだよそこんとこがよ！」
「何故キレるんじゃ……」

　エッダが伽耶に絡み始めているが、それも安全が確保されたが故だろう。

「とすると、３階層までの間にメンテ室があるらしいんだけど……どうなんだろうね？」
「あまり期待はできんなあ。もっと高級な部品を手に入れたほうがいいかもしれん」
「そうなると４階層以降かしらね」

　マリアとコルネリアは３階層までの探索を早々に切り上げる事を想定に、この後の動きを練り始める。
　やはりマッドを連れてきたのは今のところ正解のようで、余計な荷物も手間もないままに２階層、３階層を抜け４階層へと到達する。
　そうすると……そこは今までとは全く違う、巨大な舞台ホールだった。
　舞台では、よく分からない言葉……もしかすると壊れて意味のない音を奏でているだけなのかもしれないが、歌う歌姫型と、その周囲を踊る踊り子型が複数居た。

「ほう……ほう、ほう。アレは相当に高そうだな」
「戦闘も避けられないようでありますな……！」

　目利きをするマッド博士を背後に庇いながら、迅は拳を握る。
　歌って踊っていたはずの歌姫型や踊り子型はすでにそれを放棄し、こちらに向かってきている。
　それは、「彼女達」がやはり壊れている何よりの証拠なのだろう。

「マリア、速攻で片付けるわよ。電気で焦がしすぎるんじゃないわよぉ？」
「了解だよ！　コルネリア君！　速攻で片を付ける！　なに！　任せたまえ！　装甲の薄い関節部をぶち抜いて見せるよ！」

　それを迎え撃つようにコルネリアとマリアが走り、コルネリアの蒼雷式電磁投射砲・雷吠絶華が踊り子型をぶち抜く。

「どうやら制御系は上にあった型とは違うようですね……！」

　回避の動きが違う。そんな観察をしながらもオリーブの上質な長剣が踊り子型を切り裂く。
　
「何とかなりそうだね」
「なってもらわねば困る。アレの部品は手に入れておきたいからな」
「ほうほう、使えそうですか」
「うむ。見ろ、軽快に動いているだろう？　散らばる部品も美品が多い」

　護衛をしているソアとエッダに解説するマッドだが……ふと気になって、ソアはマッドに問いかける。
　そろそろ大分信用も得た頃だろうと、そんな思いもあった。

「ねえ、この遺跡って何なのだったと思う？　マッドさんのお話を聞かせてもらえたらお仕事もっと頑張っちゃう！」
「あん？　何か……だと？」
「そういや気になるでありますね。この下は怪しい空間もあるようでありますし」
「ふむ……」

　エッダにも言われ、何かを言おうとしたマッドは、歌姫型を迅達が破壊して戻ってくるのを確認すると、部品を受け取って全員に見せる。

「見てみろ。この回路……何か気付かんか？」
「はて。何か違うのかのう」
「妙に動きが良かったとは思いますが」

　伽耶と迅がそれぞれの意見を言うと、マッドは「うむ」と頷く。

「上にあったガラクタと比べると、大分繊細に作られとる。ほれ、この辺りは最小限で最大限の力を出すようにする為のものだろうな」
「……えっと、分かる？」
「分かんない」

　フォルトウナリアに聞かれ、ソアも首を横に振る。

「ま、分からずとも大丈夫なことではある。なんだ、この分野に興味があったのか？」
「ボクの生まれた銀の森にも大昔の機械がたくさん転がってるの。だから鉄帝の遺跡は興味があるのよね」
「なるほどなあ。ま、未だに全容の分からん代物だ。興味は理解の一歩ともいう。その興味、大切にせえよ」

　ソアにマッドは頷き……迅は、再び部品の検分を始めたマッドに話しかける。

「それで……どうでしょう？　使えそうですか？」
「うん？　うん。使えるぞ。他にも色々出来そうでもある」

　言いながら「とはいえ……」とも付け加える。

「もう少し頑丈な部品も欲しいな。これは繊細過ぎる」
「具体的な部位とかってある？」
「装甲板だな。重量型の……もっと堅い奴の腹か背の部分の装甲が是非欲しい」

　フォルトウナリアが仲間達に視線を向けると、コルネリアとマリアは頷きあう。

「８階の護衛型か……」
「９階の牢番型だね」

　こうして、向かう場所も決定し……マリア達は立ち塞がる古代兵器達を撃破しながら８階層のオーナールームの扉を開ける。
　その扉の前には破壊された護衛型もあり、ソアとエッダに護衛されたマッドが検分を始めていた。

「部屋の中には……何もいないか」
「この怪しげな施設の資料か何かがありそうな気もしますが……」

　念のためにマリアとオリーブが部屋の中を探し始め、伽耶やコルネリアも周囲を探る。

「なんかこういう古代兵器の部品関連で資料ないのかしらね」
「どうかのう……」

　棚を探り、引き出しを開けて。やがてマリアが、怪しげな手帳を見つけ出す。

「……読めない」
「あ？　貸してみい」

　ヒョイヒョイとやってきたマッドがマリアから手帳を受け取り、やがて「ケッ」と舌打ちのような声をあげる。

「胸糞悪い。こいつぁ、人身売買に関する記録だな。詳細は省くが、此処は相当に薄暗い事をやっとったようだ」
「とすると、この下にある牢獄は……」
「商品の展示場ってこと？」

　マリアとソアは悍ましい真実に表情を曇らせ、エッダもあからさまな舌打ちをする。

「そういうことでありますか」
「嫌ならもう帰るか？　今倒したやつで部品も過不足はなくなっとるが」

　珍しく気を遣った風のマッドに聞かれ、しかし全員が「否」と答える。

「その胸糞悪いガラクタは壊さないと気がすまんでありますな」
「そうだね。せめて、そのくらいが出来る弔いかな」

　エッダが、マリアがそう言って。

「ま、仕方ないわね。んじゃ、さっさと仕留めて帰りに酒場寄ろうぜ」

　コルネリアが、全員が頷く。そうして、全員が９階へと……牢獄のある階へと向かう事を決める。

「それで？　何か有用なものは出来上がりそうでありますか？　というかそもそも……鉄帝国の利益になるのでありますよねえ？　頼むでありますよそこんとこ」
「任せとけい。最高のものが出来上がるわい」

　エッダにマッドはそう答えるが、全員の顔に浮かぶのは不安の色。

（暴走して襲ってくるようならその場で叩っ壊すであります）
（博士にも分からない何か変な挙動とかするかもしれませんし……万が一爆発とかしそうな時は博士を抱えて逃げましょう）

　エッダが、迅が……それぞれ、そんな事を思う。
　ちなみに正解は迅で、ギアホースは稼働後にエネルギーに耐え切れず大爆発を起こす。
　それでも取り換えた外装部分が全く平気だったのは……今回の探索の成果ではあるだろうか？

「つ、疲れたね……帰り何か食べてく？」

　探索よりも再起動実験の方が疲れた。
　そんな事を言うマリアに誰も何も言う気力はなく……楽しそうなのは、ちょっと焦げた迅に抱えられたマッドくらいのものであった。

「なあに、これでギアホースも完成に近づいた！　近く成功作が出来たら、送ってやるわい！」
「い、いらない……かな」

　ヒクつく笑顔で固辞するソアは……それだけで、かなり褒められる対応だっただろう。
　ともかく、ギアホースの爆発と共に地下劇場の入り口も埋まり……全てが見事に丸く収まったことだけは、確かだと言える。
　そんな、結末だった。
　

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

コングラチュレーション！
見事にギアホースの再起動実験を終了させました！