シナリオ詳細
<半影食>ばろがまごこわ、みぶざみじ
オープニング
●あかがむらの赤い海
寄せては返すさざなみの、無限に重なるその音は、海鳥の声すらないこの浜辺に、死体をひとつ、またひとつ。いくつも、いくつも、うちあげる。
浜辺が人の死体でいっぱいになって、なお。
またひとつ、うちあがる。
そんな風景のなかに、ただひとり。
赤いランドセルの少女はわなわなと震え、首を振った。
言葉に出来ない恐怖と混乱を、めにためた涙に変えて。
嗚呼、見よ。
赤き海より還った死者たちが、その手をゆっくりと上げるさま。
「ばろがまごこわ、みぶざみじ」
ねじれた喉から無理に吐き出したような声で、死体がつぶやく。
それが、物理的に首が180度ねじれたがゆえと気付いたのか、自ら頭を押さえてごきりと正面に向き直らせた。
そして。
「さとみちゃん、あそびましょ」
少女の名前を、呼んだ。
●人造の神と、偽物の神
しゃきん。と、ハサミを閉じる音が響き渡る。
一歩ずつ階段をのぼる足音に混じって。
夕凪 恭介(p3p000803)は布切り鋏の様子を確かめると、それを胸の内ポケットへとおさめた。
小鳥のなく昼下がり。ここは練達のいち区画、希望ヶ浜地区。
現代日本を摸したこの街には、自らを欺すかのように『平和な現代日本の暮らし』に閉じこもる人々が暮らしている。
彼女が歩いているのはそんな街でも有名な希望ヶ浜学園の階段だった。
「大いなる嘘。大いなる欺瞞。けど、それでも……平和に笑って暮らせるなら、悪いことじゃないわよね?」
「そういうことだ。お前は話が早くて助かる」
両手をポケットに入れ、背を丸めてあるく男が恭介の隣でつぶやいた。希望ヶ浜学園校長、無名偲・無意式(p3n000170)である。
彼はこの地区でも有名な学園の校長であり、恭介はその非常勤講師としての立場を持っていた。
「幸せの嘘は、つき続けなければならない。自分が薄氷の上を歩いているなど、そのしたを怪物の群れが泳いでいるなど、知らぬまま生きて死ねばいい」
「狡い言い方」
片眉をあげる恭介。無名偲は口をへの字に曲げる。
「今日も付き合って貰うぞ。この街の嘘に」
彼らは同時に、ぴたりと扉の前で足を止めた。鍵をドアノブにさしてまわし、ドアを開く。
学園第三校舎の屋上。百葉箱という気象観測装置が設置されている。だけの、さびたフェンスに囲われた場所だ。
校長はまっすぐと百葉箱にむけて歩き、ココンッと不思議なリズムでノックした。
「誰じゃ、こんな昼間に」
開く扉。その中には気象観測装置……などはない。どころか、箱ですらない。
ここではないどこかへの扉が開いたかのように、向こうには紫色の空間が広がっていた。ムワッと毒花のような香りがただよい、恭介は思わず口を手でふさぐ。
間髪入れずに、扉の向こう側から一つ目の妖怪が顔を出した。古い時代の僧侶のような格好をしているが、顔面はもとより体格が人間のそれではない。
その様子に恭介はぎょっとしたが、校長は両手をポケットにいれたまま表情も変えない。
「緊急事態というやつだ。お前の数珠を貸せ、対価は……」
そう言ってポケットから動物の毛皮でできたマフラーのようなものを取り出すと、一つ目妖怪へ向けて投げた。妖怪はそれをキャッチしてくんくんとにおいをかぐと、ホウッと息をついて笑みを浮かべた。
「いいじゃろう。一晩だけだ。『ルール』は覚えているな?」
「ああ、だが……こいつは知らない筈だ。教えてやってくれ」
校長は振り返り、恭介へと視線をうつした。
妖怪の目がぎょろりと動き、恭介へと定まる。
「え……アタシ?」
恭介は自分の顔を指さして、ぱちくりと瞬きした。
●噂話と怪異
練達のProjectIDEAに協力していた研究員がROOのバグに取り込まれ意識を失ったという情報は、希望ヶ浜地区に限りひどく歪んで伝わった。
というのも、外の情報に興味を示さない彼らにとって、ラサも海洋もカムイグラも、日本のそと――中国だかフィリピンだかの出来事だと、彼らは考えているからだ。未だに日本列島のなかに希望ヶ浜があるとすら考える者もいるほどである。
そんな彼らにとって、希望ヶ浜内の協力者が佐伯製作所の研究協力に出ていらいかえってこないことを、大量行方不明事件として取り扱っていたのだ。
恭介とも面識のある恋加瀬新聞社も、あることないこと記事にして世間を騒がせている。
だがそれでもいい。嘘は往々にして人を平和にする。
人々があれこれ都市伝説を語って盛り上がるだけなら、それはただの娯楽でしかない。
自分たちが動き出す必要があるのは……。
「この記事を見ろ」
そう言って取り出された新聞には、行方不明者たちは建国さん(正しくは日出建子命)の生み出した異世界に迷い込んでしまったのだという噂話をまとめた記事が書かれていた。
「このタイプの噂が異常な広がりを見せている。実際、日出神社はゲート化した」
「…………」
くしゃり、と新聞を握る恭介。
この街は『嘘と常識』でできている。ここが現代日本であるという常識。平和であるという常識。夜妖も怪物もいないのだという、常識。
それはすべて嘘だが、彼らはそれに守られていた。常識という名の結界が、『日常の怪異』となって彼らを本当の脅威から守っているのだ。
だがそれは、時として彼ら自身に牙を剥くことになる。
例えばこうして、噂がまことしやかに語られすぎた時だ。夜妖はこうして、人世に忍び寄る。
「日出神社のゲートは異空間への接続を保っているらしい。既に何人か取り込まれ、迷い込んでいるという情報もある」
そう語る校長の顔を、一つ目妖怪と恭介が同時に見た。
「助け出したいのか?」
「学校の生徒を守るのは、教師のつとめじゃあないか?」
だろう? そういって振り向く校長に、恭介は肩をすくめた。
●あかがむらへ
今回向かう異空間は『あかがむら』という場所である。
赤い海に面した古い村で、すべての村人が怪物と化している魔境である。
氷気さとみという小学五年生の少女が迷い込み、今にも取り込まれようとしているようだ。
「この数珠を持っていけ。現世と異空間を接続してくれるだろう。氷気さとみを発見したら、これを使って現世へ戻ってこい。逆に言えば……見つかるまでは戻ってくるな」
あかがむらは非常に広い村だ。
学校、病院、炭鉱、港。このうちのどこに氷気さとみがいるかは分からない。
怪物たちから逃れ、どこかに隠れているのは間違いないのだろうが……。
「村の中を探索し氷気さとみを見つけろ。そして保護し次第帰還する。
探し方は任せるが……道中怪物化した村人に襲われる覚悟はしておけ。少人数で迎撃する準備もな」
そう説明した理由を、恭介はすぐに察した。
村中をぞろぞろと八人がかりで探し回るのは厳しい。
借りた数珠も『四つ』あることから、最大でも4チームに分かれて村を探索することが求められているのだろう。
探索に時間がかかりすぎれば氷気さとみは最悪――。
「任せて。必ず無事に連れてくるから」
「ああ、そうしてくれ。うまく出来たら酒のひとつでも奢ってやろう。焼き肉でもいい」
冗談みたいに笑う校長に、恭介はうっすらとした笑みで応えた。
- <半影食>ばろがまごこわ、みぶざみじ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●センチメンタルバスストップ
気温系は39度を示し、蝉のジージーという鳴き声が遠いアスファルト上の景色をゆらしているように見える。
そういえば、蝉の声はするのに蝉を最近見ていない。これは風景が出している音なのだろうか。そんなふうに、『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)はぼんやりと考えた。
蝉の生息しない地域に暮らす北米人は夏の日本にやってくると、ジャパニメーションで流れる謎の環境音と同じであることに感動するというが……。
ドルンという古くさいエンジン音で、目の前にマイクロバスが止まる。運転席の窓を全開にした『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)が、窓から出した手でドアの装甲をコンコンと叩いた。
「お待たせ。ゲートのある場所まで案内するわ。さあ乗って」
特待教員たちの話によれば、希望ヶ浜の神社や石碑といった『建国さん信仰』に関わるポイントが主にゲート化しており、それぞれ別々のエリアに通じているという。
言ってみれば地下に張り巡らされた迷宮のようなものだ。どこがどこに繋がっているかわからず、一度入ると特別な道具なしに戻ることは難しい。外に出られず餓死する者や、怪異に襲われ命を落とす者だって出るかもしれない。
そりゃあ、一度に何十人という特待生たちが動員されるわけだ。
「異世界に一人で迷い込むのは流石に少女には酷だろうよ。
ROOのヒイズルとの関係はまだ分からんが……まずは目の前のことから片付けるか。
そういえば希望ヶ浜に来るのは初めてか」
そんなことを言いながら、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)がバスの中で資料をめくっている。
『あかがむら』と称されたポイントは、『希望ヶ浜異世界』のなかでもオーソドックス(?)な部類に入るらしい。
希望ヶ浜を写し取った、と言う割には病院や小学校など公共施設が密集しており、港や炭鉱まであるという希望ヶ浜から微妙にイメージの遠い場所だ。
そんな場所に、小学五年生の少女『氷気さとみ』が迷い込んでしまっているという。
「保護にに全霊を注ぎませんとね。
見つけ出せず結局は駄目だったなど、嫌ですから」
『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)は資料を閉じ、バスの中でその巨躯を小さく折りたたむようにして丸めた。
「小さい子供の精神衛生上にはとてもよろしくありませんな。さとみ殿を急いで保護しましょうぞ!」
『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)が『頑張りましょう!』といってヘルメットのアイシールド部分に顔文字(><)を表示した。
ボディも同じ顔文字(><)を表示して顔(?)を見合わせる。
「そうだね。一刻も早く……」
そう言いながら、『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)はふと別の考えを浮かべた。走り抜ける車窓の風景をみつめながら。
「迷い込んでるのは、そのさとみちゃん……だけなのかな」
「?」
異なことを、という顔で振り返った『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)だが、考えてみれば不思議ではない。小学生の行動範囲というのはあまり広くないうえ、かぶりがちだ。一人が迷い込んだ場所に別の子供が迷い込んでいない保証はない。
「……そうね。小さい子がこんな場所で一人になったら、きっと恐怖に耐えきれなくなるのだわ」
(頑張ったねって……怖かったねって、沢山褒めてあげないとなのだわよ)
華蓮がうつむき目を閉じる。
それと、車がとまるのは同じ頃だった。
最初にとまったのは日出神社の分社。小さな鳥居と社が設置されたコインパーキング裏のスペースである。
立ち入り禁止の看板とテープが張り巡らされ、鳥居はそこをくぐれないよう物理的に封鎖されている。土木工事の作業員に偽装した監視スタッフがバスから降りる『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)たちをとめようと立ち上がったが、ブライアンが希望ヶ浜特待生である身分証をしめしたことでスッと身を引き鳥居の封鎖テープをはがしはじめる。
「さぁて! ここで四手に別れて、行きは八人帰りは九人になるワケだ。
ディナーの時間までに帰りてぇな。誰か九人で予約取っておいてくれた?」
振り返ると、恭介が『まかせて。校長の金でいいもの食べましょ』と言ってスマホを振った。
●港は今日も大漁
「ハッハー! イヤな空気だ! 元居た世界を思い出すぜ!
こんな場所とはコンマ一秒だって早くオサラバしてぇ……基本的な所で人間が生きれるように出来てねーんだ、たぶんな」
ブライアンはサングラスのブリッジをおして位置をなおすと、あえて陽気に笑って見せた。
そうでもしなければ、あまりにも目の前の光景は異常すぎる。
赤く濁った空のした、波打ち際にうちあげられた大漁の死体。魚やイルカが大漁に打ち上げられるニュースというのを写真で見たことがあるが、それをそのまま人間に置き換えたような有様だ。なまじ性別や年齢がよくわかってしまうほどに劣化が弱いせいで目をそらすのも難しい。
それに、どこからともなく子守歌のようなものが聞こえてくる気がするのだ。逆に虫の声も鳥の声もしない。悪夢がそのまま形をなしたようなありさまに、ブライアンは自分のテンションが強制的に下げられているのを感じる。
『そっちは大丈夫か?』と問いかけようとSpiegelⅡを見てみると、表情をまるで変えずに電子妖精を召喚。空に浮き上げて観測をはじめさせていた。
彼女自身も増設した簡易飛行装置を用いて浮きあがると、くるりと視界を一周させた。
「敵影接近。戦闘準備を」
「え、もうか? 早いな」
ブライアンは避来矢のプレート部分をコツンと叩くと、ガンブレイドと拳銃をそれぞれ両手に抜いた。
「方角は」
「キミからみて9時方向」
そう言われてから手元のコンパスを取り出してみて、方位磁石が恐ろしい速度で回転し続けていることに気付いた。顔をしかめるブライアン。
「……助かる」
振り返ると、遠くから大人とおぼしき集団が走ってくるのがわかる。が、どれも人間の走行フォームから著しく逸脱したものだった。足を引きずったり両手を地についたり、ひどいものだと高速ではいずる者すらある。
SpiegelⅡは随伴させていた巨大なキャリーケースめいた箱を開くと、巧妙に折りたたまれた装甲服が展開。SpiegelⅡへ次々にまとわりつき組み合わさっていく。
――装甲、展開(スクリプト、オーバーライド)
――戦闘機動構築開始(システムセットアップ)
――動作正常(ステータスグリーン)
「いくよSpiegel」『Jawohl(了解)』
最後まで鎧を装着したSpiegelⅡは両目にあたる部分を発行させるとスラスターを噴射。
敵集団をすべてマークすると両手剣めいた武装を突き出した。ガシュンと蒸気を噴き出し両刃部分を広げるように展開。間に電流めいたエネルギーの波が開き、巨大な槍のエネルギー体を作るとすさまじいスピードで敵集団を切り払っていく。
「こりゃ派手だねえ。所で、いいニュースがあるぜ。ここまで熱烈な『おっかけ』が現れるってことは、ここに俺たち以外の一般人は出歩いてないってことだ」
「……」
続きを、とでも言うように怪物化した人間を斬り捨てるSpiegelⅡ。群がる集団がひたすら攻撃を加えるがSpiegelⅡの展開したディストーションフィールドがそのすべてを弾いていく。
「とりあえずこの連中を蹴散らしたら捜索開始だ。どこかに隠れてるかそもそもいないか。どっちにしろ安全ってことだな」
ブライアンは拳銃を水平持ちにすると怪物の頭を一撃で打ち抜き続け、剣の魔力を発動させて突撃する。
「あとで隠れ易そうな場所を虱潰しに探すしかねえな。やれやれ、こりゃ骨が折れるぜ」
にやりと笑い、こちらへ振り返る怪物の体を袈裟斬りに……否、真っ二つに切断した。
「よしよし…いいこ、力を貸してね。終わったらご飯用意するからね」
沢山の動物たちをいちどにリンク状態におくと、華蓮はチーズのかけらをそれぞれに与えてからゴーサインを出した。
ネズミや蝙蝠たちが走り出し、暗い炭鉱のなかを嗅ぎ回りはじめる。
炭鉱の奥深く、長い長い穴の中。等間隔に灯りになるものが置いてあるとはいえ、それでも薄暗くて不気味な場所だ。
「まだ機能してる場所なのかな? 横穴や分岐が多いけど、こうやって目を増やせば素早く見つけられるのだわよ」
「なるほど。これは心強いな……」
錬は地面にかがみ込んだり壁に手を当てたりして、土の状態を調べていた。
「異様な異世界だな。偶然迷い込んだともかく、何らかの意図で誘い込まれたとしたなら一筋縄では行かないかもな」
「意図? どんな?」
「さあ、言ってみただけだ。それより……この辺の土は妙だな。天然のものじゃないのは当然だが、鉱脈があるようには見えない。ただの土だ。それもかなり浅い層の」
「……?」
小首をかしげる華蓮に、錬が手に土を取ってからさらさらとほぐしてみせた。
「普通浅い層の土がこんな穴の中に詰まってるのはおかしい。つい最近その辺の地表から集めた土を山盛りにして穴をあけたんならともかくな」
「さすがにそれは……」
と言いかけて、この空間の異常さをあらためて考える。
そして何かを言いかけた所で、華蓮はサッと手を上げた。
「ねずみ三号が敵を見つけたわ。こっちに向かってくる!」
こういった場所の単作に優れていたおかげで、華蓮たちは先制攻撃のチャンスがめぐってきたようだ。
走り出し、距離をこちらから詰める。『ダーティピンポイント』の術式を素早く完成させると、腕を振って魔術のナイフを発射した。
ガッという声と共に転倒する敵。
「まだいるのだわ! 範囲攻撃!」
「まかせろ!」
錬は五行の式符を扇上にひろげると、そのうち一枚を抜いて発動。炎の大砲を瞬間鍛造し砲弾を発射。倒れた敵の上を飛び越え駆け寄ろうとした集団を、激しい爆発が襲う。
「素早く捜索して素早く帰りましょう。
余計な物を見ない様に」
一方こちらはボディ。
奇妙に汚れた病院の廊下を、かつんかつんと足音をたてて歩いている。
隠れるつもりはない。敵集団がそれほど強力ではないとわかっているからだ。
ジョーイも同じようなもので、病室をがらりと開いて現れた顔面を蝿のように変化させた人間がガラス辺を握って襲いかかってくるも、ジョーイはバックステップで攻撃をかわすと流れるような蹴りによって病室内へと蹴り転がす。
「殺気が出過ぎですぞー」
ヘルメットに相手を煽るような顔文字を浮かべ指でVサインを出してみせるジョーイ。
ボディは沈黙したまま病室へと振り返り、そして90度のキュッとしたターンで病室へ向かうと、早足で倒れた敵へと接近。
起き上がろうとした所に激しいスタンピングをくらわせた。
胸を(物理的に)潰された敵が仰向けに倒れ動かなくなるのを確認した後、ゆっくりと周囲を見回す。
「センサーの反応は、おそらくこのあたりだと思いましたが……」
モニターに顔文字を浮かべ、『どう思います?』とでもいうようなシグナルをジョーイへ送るボディ。
ジョーイは腕組みをし、そして一秒ほど考えてから『下』のハンドサインを出した。
顔文字で瞬きを表現するボディ。ゆっくりとかがみ込み、そして地面に両手をつけてはうような姿勢をとった。
びくり、と『相手』が動く。
ベッドの下に伏せ、両手で自分の口を塞いでいた少年だった。
「ご安心ください。こう見えて無害です」
「右に同じ」
同じように屈むジョーイ。『(*´ω`*)』という顔文字を同時に表示した二人に、少年は目をぱちくりとさせた。
手を伸ばす二人に、おそるおそる手を取り、ベッドの下から這い出てくる。
「氷気さとみ殿……ではないですよね」
「おそらくは。当人が報告にあったよりはるかにボーイッシュでなければ」
ジョーイは『?』マークを表示し、ボディは『◎』を表示した。少年にはさっぱりわからないスペシャルなコミュニケーションだが、要するに少年以外の救出対象がいそうかどうかを確認したようである。
「では、打ち合わせ通り『目標以外の救出対象を発見。帰還する』旨ののろしをあげておきましょう。この空で正しく見えるか心配ではありますが……」
ジョーイは数珠を取り出し、そして屋上を目指す旨を少年に告げた。
勇気の価値を、ヴェルーリアは知っている。
それを失う恐ろしさと寂しさを、ヴェルーリアは知っていた。
それは時として絶望を切り拓く光となり、暗闇に見いだす道となる。
「今すぐいっぱいの勇気をあげられたら、どんなにいいか……」
だからこそ。
ヴェルーリアは今自分自身が困難の中を突き進み、幼い少女の手を握らなければならない理由を知っていた。
トントンと眼鏡のふちを指でたたく恭介。
「校内に誰かが迷い込んでるのは間違いなさそうね。
元の世界に帰りましょー! 迎えに来たわよ」
大声を出してみると、暗い廊下を反響した。
木造の床タイルが並ぶ廊下。照明はついておらず、スイッチを操作しても動作しなかった。
「ヴェルーリアちゃん、グループチャットのほうはどう?」
「あ、そうだったええと……」
スマホを取り出しアプリを起動するヴェルーリア。
今回のために仲間をお友達登録してチャットルームを作っておいたはずだ。
「なんかいっぱい来てる」
流れる文章をスクロールしてみる。
――ついた
――はいった
――ここどこ
――どこにいる?
――おじいさんがいました
――信号を曲がって三件目
――晩ご飯前に食べてしましました
――ごめんなさい
――おつかれさまです
――こっちをみて
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
――こっちを見ろ
「――っ!?」
おもわずスマホを取り落とすヴェルーリア。
そんな彼女の右耳のすぐそばに、生ぬるい吐息がかかった。
「こっちを見ろ」
顔面上半分崩壊した男性が、ヴェルーリアの肩と耳をがしりと掴み大きく口をあけていた。
「ヴェルーリアちゃん!」
恭介の動きは速かった。腕を振ると同時に五色の糸が走り、男の四肢と首へと絡みついて別々の方向へと引っ張り上げる。
と同時に魔術電流を流し込み、けいれんしている間にヴェルーリアは転がるように飛び退いた。
「いくらなんでも突然すぎ!」
ヴェルーリアは手をかざし、勇気の光を放射した。槍のように鋭く走った光が男を貫き、そして破壊する。
だが安心はできない。ヴェルーリアはぴちゃんという音を聞きつけ、すぐさま反転した。
「恭介さん、うしろ!」
かざした手から再びの光を放つと、勇気の光を剣の形に変えて発射した。
素早く飛び退き射線をつくった恭介が振り向くと、こちらをせせら笑うような女の顔。
「久々に見る女の子の笑顔がこれとか、ほんと嫌だわ」
ざわつく心を押さえ込み、恭介の放った針が女をたちまち塵に変えた。
息をつき。ヴェルーリアと顔を見合わせる。
そして……
赤い空の屋上。
ぼうっと空を見上げる氷気さとみがいた。
「あっ……」
振り返り、流しっぱなしだった涙を袖でぬぐう。
ヴェルーリアと恭介が駆け寄ると、その腕の中に飛び込んできた。震える彼女の背をゆっくりと撫で、勇気の光をともしてあげるヴェルーリア。
「帰ろう。みんなが待ってる」
数珠を取り出し念じ始める二人。
ふと氷気さとみが振り返る。そのさきを何気なく見てみると。
無数の手が虚空からのび、こちらに手招きをしていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――依頼完了
――氷気さとみは無事帰還しました。
――恐怖のためか、異世界にいた間の記憶はほとんど抜けているようです。
GMコメント
●オーダー
・成功条件:氷気さとみの発見と保護
・失敗条件:氷気さとみの死亡
『あかがむら』の異空間へ侵入し、保護対象である氷気さとみを見つけ出しましょう。
彼女は小学五年生の少女で、意図せずこの空間に迷い込んでしまいました。
必ず誰かに助けを求めているはずなので、『人助けセンサー』も有効でしょう。
ただし、探索範囲が『村全体』と広いので探索の手を広げできるだけ多くを効率的にカバーする手を考える必要があります。
また、探索中様々な怪物に変化した村人がこちらを殺そうと襲いかかってきます。これらをほどほどに迎撃しながら探索する必要があるでしょう。
一応探索お勧めポイントとして
『小学校』『病院』『炭鉱』『港』の四箇所があります。このどれかを探索してみましょう。
●あかがむら
日出神社から侵入できる異世界。
一応希望ヶ浜の一区画にすごくよく似ている……筈なのですが、地形や建物の位置が異なり、もっというとなぜか海に面しています。
空は真っ赤に染まり、看板の文字も『ちあええ』など理解不能な形にバグっています。
このエリアは非常に危険な深層域であり、帰り道を『音呂木の鈴』などの通常手段では確保できません。
が、校長の用意した『数珠』を握って学校の屋上をイメージすることで自分と自分を掴んでいる人間たちを強制的に帰還させることができます。
そういうわけなので、帰還時には敵に襲われていない必要があります。イメージ構築に時間がかかったり、怪物ごと転移してしまったら大変だからです。
ちなみに転移先は学園の屋上になります。
※注意
この世界では様々な不思議がおこります。
怪物が知人の姿に見えたり、呼びかける理解不能な声に意味があるように聞こえたりします。
特に夕凪 恭介は、女性型の怪物が『笑顔を浮かべている』ように見えるかもしれません。
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●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!(狂気)
当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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