シナリオ詳細
村勇者の憂鬱
オープニング
●依頼はある雨の日に
外の雨模様に肩を落としているのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)である。
窓の外ではジメジメとした嫌な雨が降り注いでおり、どことなくローレットの中も蒸し暑い気がする。
「ボクはこういうジメッとした天気が苦手なのですよね……といっても日によりますが!」
そう言いながら振り向いた彼女はケロッと舌を出して微笑んだ。
「今回の依頼主はとある辺境の小さな村からなのです。内容はいわゆるお手伝いクエストですねっ
依頼主の村では毎年『村勇者』を称えるお祭りがあるみたいなのです。そこで祭りの目玉である村勇者役を務める男の子をサポートするのが主な任務になります。
具体的には、かつて村を出て行った英雄が通ったとされる洞窟を村勇者さんが探検するみたいでして、ただ今年は獣の目撃情報があって危ないらしいのです」
そんなに危ないならやめればいいのでは? と首を傾げるイレギュラーズに、ユリーカが腕を組んで「うーん」と唸った。
「昔ながらの掟とか、風習というのはどこにもあるものなのです。モンスターが相手というわけでも無いですし、問題ないのです! それでですねー、その件の洞窟というのが……」
うんうん、と頷きながらユリーカは粗雑な地図を広げて説明を続けるのだった。
●少年
子供というのは時として妙に煽り立てる事がある。
「やーい! お前みたいな弱虫に村勇者の儀式ができるもんか!」
「それに今年はでっかいクマが出たんだぞ! コウモリだって出るぞ! 悪霊も出るかもなぁ~!」
最初はなんてことの無いからかいが、ふとした時には粘り付くような言葉とありもしない話が混ざり、誰かを傷付ける事もある。
「あの洞窟は声が響くからな! おとぎ話みたいに音で様子が分かる能力でもないとこわいぞきっと!」
小さな娯楽の少ない村で、一生に数度もない祭りの『目玉』となることに嫉妬したとすれば。理解はできるかもしれない。
「お前は一番よわいから、『ろーれっと』が来ても足手まといにしかならないぞ!」
ただ、村の子供たちの中で最も病弱な少年が大人たちの同情によって主賓扱いされているとなったら、そこには嫉妬ではなく無邪気さと一欠片の憧れが混ざった悪意が生まれてしまうのも仕方ないだろう。
「……熊じゃないよ。僕は見たんだ、あの洞窟にはよくないモノがいるんだよ」
肩まである長めの金髪を揺らして少年は首を振る。
しかし他の少年たちは家で寝てばかりいるからクマをモンスターだと思い込むのだと、少年を嗤った。
散々馬鹿にした挙句に「村勇者サマにモンスターって退治されるぞ~」と叫びながら逃げて行く少年たちの子憎たらしさといったら。
「本当なのに……」
湿った空気が頬を撫でて。少年は空を見上げた。
目を閉じた彼の耳に、遥か遠くから雷が雲の間を滑る音が聴こえた。
●そして、気付く者はいる
「先日ご紹介した依頼で、訂正があったのです! あうあう、ごめんなさいなのです……!」
ローレットの奥からパタパタと出て来たユリーカが頭を下げた。
なんだなんだどうした、とイレギュラーズが集まって来る。
「辺境にある小さな村で村勇者の少年のサポートをする依頼だったのですが、依頼主である村に住む子供からお手紙が届きまして!
『洞窟内は雨期によって苔と水気により滑りやすく、現在の洞窟内に潜んでいるのはクマや獣ではなくスライムである』とのことなのです!」
ごめんなさい~! と謝るユリーカに一同は「別に出発まで日はあるのだから」、と手を振った。
それよりも気になるのは情報の精度だろう。スライムとは?
「それについては確かに辺境には稀にスライム状の、正確には『ブロブ』とも呼ばれるモンスターが雨期に見られるという情報があるのです。
これは天井や壁際から襲いかかって来るびっくり系のモンスターなので注意が必要なのです!」
ユリーカは、くしゃくしゃになった手紙をバッグから覗かせて改めて依頼を頼んだ。
「依頼主から依頼を取り下げられたわけではありませんが、それはそれとして『彼』は頑張り屋さんみたいなのです。どうか皆さんで力になってあげてほしいのですよ?」
- 村勇者の憂鬱完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年07月03日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●雨の音は直ぐそこに
「本来ならば儀礼で終わるはずのお祭りですが、危険が潜んでいるなんて……ですが必ずやり遂げてみせますよ! 今年の村勇者様の為に頑張りましょう!」
「あ、ぁありがとうございます……っ」
やる気に満ちた『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の声に傍らにいた少年が小さく頭を下げる。男の子にしては長い金髪の下で、視線が泳いでいるのは子供ながらに緊張しているからか。照れているのか。
先頭を行くシフォリィに並ぶのは『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)。
「全ては彼等自身の事だ。私達は仕事で来ただけの部外者、まず仕事を済ませよう」
洞窟の入口からまだそう進んでいない中、ラダはシフォリィと共に聞き耳を立てながら索敵を行う。
今はまだ入口からの光が視界を照らしているが、直ぐにそれも曲がり角一つで無くなるだろう。
後方から付いて来る少年を護衛すべく背中を守っている『カレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)は『名監督』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の持つカンテラの灯りを頼りにしつつ進む。
「情報精度はC、つまりカレーってことだね! よし勝った、第一二話完!」
curry(カレー)の事ではありません。
「今の、どういう意味ですかな……? まぁ教育者の立場としては、前途ある若者を無為に死なせる訳にはいきませんからなぁ」
『鬼平』柳 喜平(p3p005335)が湿った足元の中を強かに歩んで行く。その眼は少年の護衛役としてではなく、洞窟に潜む怪物に期待する色を含んでいた。
「今回は、少年の儀式が終了するまでの護衛だったな」
『蒼空の勇者』ロイ・ベイロード(p3p001240)がマスクの中で呟く。
今回、彼等イレギュラーズの目的は金髪の少年──村勇者──が古くから伝わる厄除けの儀式を終える為に護衛することだ。
そうして辺境地にある村へ訪れ、彼等は儀式の詳細と、現在の周辺状況を聞いて来たというわけである。
外から聞こえて来る雨の音は陽の光が届かなくても洞窟の内部まで反響して耳に入って来る。
「ちゃんと近くにいろよ、おめぇさん。なぁに、守りは任せておきな! 指一本触れさせねぇからよ!」
カンテラを腰元に揺らしてゴリョウが少年の背を叩いた。なるほど病弱な子だと彼の母親から聞かされていたが、少し掌で押しただけなのに転びそうになっていた。
彼は齢十二だと言うが、その線の細さは如何に年相応に健康的な生活をしていないかが垣間見れた。
「そうそう! せっかく大役に選ばれたんだ、アタイたちがしっかり守ってやるから勇気を出して無事に儀式をこなして、みんなに自慢してやんなきゃな!」
「女勇者の伝説なら女勇者を守りたかったが……危険な目に遭うなら話は別か。まかせとけよ」
護衛役の三人と少年の前を行く『のうきんむすめ』モモカ・モカ(p3p000727)が腕を勇ましく振るう。彼女と『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)、ロイの三人は主に索敵の役目をする先頭のシフォリィ達とは異なり、慎重に周囲を警戒しながらも洞窟に潜む遊撃する作戦となっている。
「……」
そろそろ彼等の視界を助ける明かりが手持ちの光源だけになって来ると、少年は周りで頼もしく振る舞ってくれるイレギュラーズの陰で僅かに不安を覚えた。憂鬱、と言ってもいいかもしれない。
誰かが一緒に来たからと言って、それで安心していいわけでは無い。
自分は村勇者としてしっかりと洞窟の奥にある『花』を持ち帰らなければいけないのだ。その為に彼はわざわざあの手紙を出したのだから。
「緊張してるな?」
「えっ」
不意に、モモカの背中へ少年は視線を上げた。彼とそうは変わらない小柄な背中、しかしそれでも人間種より頑丈な鉄騎種。それも遥かに一般人より強い特異運命座標の一人なのだ。
「アンタ真面目そうだもんな、違ったらごめんだけど。……それと、これはお守りだ。持っとくといいかもな」
そう言ってモモカは何やら壁際に杭を打ち込みつつロープを張りながら。懐から取り出した針金を少年の前に差し出した。
それは彼女のギフトで薄く金属の膜のように伸びたり、細く、波打つ様に形を変えていく。
数秒で完成したその金属花は仄かに熱を持って少年の手の中で一輪の花……ゼラニウムだろうか、香りこそ無くともどこか心が和んだ気がした。
「わぁ……ありがとうございますっ」
少年は後ろ手に手を振るモモカに感謝を述べると、その花をポケットに入れて歩みだした。
「なるほど、いい雰囲気だね。私もカレーを渡せばよかったかな!」
「渡してどうしろって言うんだよ……」
「お腹がいっぱいになるね!」
●流れ往く悪夢
一行の進みは実に慎重だった。
予めにラダの提案によって村へ立ち寄った際に洞窟内の地形や内部の様子は大体把握していたのだ。
現存する地図や村の大人で過去に村勇者として中に入って行った者の話を参考に、修正や補足をした上で索敵や警戒を一部の隙無く行えていたのである。
ある意味では基本の流れだが、これは時として重要な行動にもなったりするのだ。
「……! 向こうの壁上部で何か動いたかも」
特に、精度はともかくある程度の状況を音響(エコー)で確認できるシフォリィが居たのは幸いだった。
「む……水が流れる音しか聞こえないな、近付いて確認するほかない」
「はいよ、んじゃ俺達の出番だな!」
「こういう所は、確実にウーズが多くいそうだよな」
「ウーズってなんだ? ……へえ、ブロブとかってそういう呼び方もあるんだな!」
ラダが首を振ったのと同時に、遊撃班が前に出る。
10フィート棒をサンディが構えながらシフォリィが示した位置へ近付き。ロイが代わりにその視界をカンテラで照らしながら剣を抜いた。
洞窟内に響いているのは彼等の声と外からか、或いは壁を流れ伝う水の音しか無い。
慎重に自身の足元に注意しながらサンディは洞窟の壁際を注視した。
「……いた」
たったその一言で、直後の全員の動きは速かった。
木の棒を後ろへ投げたサンディが背中の大剣を振り被り、モモカが飛び掛かりながら短剣を走らせた。壁に貼り付き蠢いていた透明状のアメーバ、『ナイトメア・ブロブ』が彼等の動きに反応する。
大剣はブロブを磨り潰す事が出来ずに火花を散らすに留まったが、続くモモカの一撃がゲル状の体を壁に弾き散らした。
「それにしても、この、ウーズとか言う化物は厄介なことに、寄生すると言うしな。こいつらだけでも、目に見える位置のは殲滅して置かなければ、やばいことになりかねんな」
ブロブは未だその生命活動に致命的ダメージを受けていないのか、思いの外素早い動きで跳ね飛んだ。
そこに見切りをつけ、サンディ達と間隔を空けたロイの刃が煌めいた。
刹那にガラス玉が破砕する音が鳴る。見事彼の剣は一刀両断することに成功した。
「とりあえず、これで一匹か?」
「少し待ってて下さいね……ん……っ」
蠢いていたゲル状の魔物も足元のシミとなり、サンディがシフォリィを見て首を傾げた。直ぐに彼女が腰の柄を鞘から鯉口を切る様に弾いた。
甲高い音はほんの少し強めに響き、辺りに静寂さを引き戻す。
「……少なくとも、先ほどと変わりないですね」
「こちらも異常は無いな」
シフォリィとラダが後続の少年と護衛役の仲間達に頷いて見せる。
「ま、こんなもんだわな! 元々こんな奴等がうようよしてる洞窟じゃないんだろ?」
「え? ……あ、はいっ! スライム達は最近見かける様になっていて……」
「あれ、君ってここ直接来るのは初めてじゃないんだ。村では初めて行くみたいなこと言ってたよね、もしかしてカレーに見せかけたハヤシライス?」
引き続き隊列を戻して、索敵に混ざるサンディ。
そんな中、少年は申し訳なさそうに小梢の疑問に答えた。
「その……実は。村に被害が行かないかどうか気になってしまって、皆さんにお手紙を出す前に来てるんです」
「手紙、ってぇとアレか。ユリーカが言ってたブロブについて教えて来た村の子供からの手紙、ありゃおめぇさんか」
「はいっ! あ……隠すつもりがあったわけでは無いんですが……」
一同はゆっくりと、時折先頭のラダが拾い集めておいた小石を進行方向へ投げたりして。様子見とシフォリィの索敵(エコーロケーション)の手助けを兼ねて異常の有無を確認してから前進する。
サンディもその手に持った棒で横合いや天井をブンブン振っている。
「別にいいんじゃねぇか! それよかイイ度胸だぜ、一人でこんな洞窟の入り口まで来て下見するなんざ普通のガキにゃ真似できないだろうよ」
モモカが懐から最後のロープの束を取り出し、壁や突き立つ岩場に杭を打って縄を通す。ここまで数十メートル、後続の少年が脚を滑らせないように上手く進むことが出来た。
先頭のシフォリィが後ろを見た時、縄を手繰り寄せながら追随する少年はゴリョウの言葉に照れ臭そうに笑っていた。
「順調、ですね」
「そうだな」
ラダが小石を曲がり角に向かって放る。どうやら道が三つに分かれている様だが、既に正しい道順の『確証』を得ている彼女達に迷いは無い。賽の目を見るまでもなく明らかとなっていた。
一歩、二歩。再び小石を『右の道へ』投げる。
水たまりでもあったのか、小石は壁と水を跳ね散らかす音を立てて転がる音を奏でた。シフォリィは彼女と一拍置いて二歩進んでからその手の松明を同じく角へ投げ込んだ。
「順調過ぎる」
何処となく洞窟の奥を見据えながら、ラダがそう呟いた直後。
突如洞窟内に水がバケツからひっくり返されたかの如き飛沫を立てて流れる音が連続したのだった。
●英雄の血潮
鳥肌が立つ、とは。こういう時に言うのだろうか。
「……っ!?」
ただの水ではない。
連続して鳴り響いたその水音は先に遊撃班が倒したブロブと同じ、ゲル状の体が岩を滑り落ちた音だった。
少年の膝が震えるのも無理はない。これだけの数は生まれて初めて遭遇するのだから。
「なんか数多くない!?」
「小梢、少年から離れんなよ! こりゃなんか運が悪かったか……!」
即座に少年を庇う体勢に入るゴリョウと小梢。喜平もまたその闘気を露わにして彼等より一歩前に出る。
波の音のように洞窟内に水の音が、ブロブ達が一斉に滑る音が聴こえて来る。
「これは……! 少し離れたブロブ達も押し寄せている? どうしてっ」
鞘から抜いたオーラソードを白刃と共に振り構え、シフォリィが小さく叫んだ。
「小石には反応しなかった。『熱』に反応しているのか、それとも灯りに群がってるのか。いずれにしても全員下がって遊撃班と前衛を組む者は陣形を組んでくれ」
「お任せを!」
「さっきは不完全燃焼だったからな、俺達に任せろよ!」
ある程度後退した彼等は前に出る者と後方から支援、少年を守る者達とで分かれる。
そして、いつの間にか先程投げられた松明の火は音も無く消え、カンテラで照らせば見える範囲にまでブロブ達は迫って来ていた。
真っ先に躍り出るのは白刃を振りかざしたシフォリィ。彼女が振るうのは己が聖剣技。白銀の刃が伸びたのと同時に目の前に飛び掛かって来たブロブを切り裂いた。
その横へ出るロイが同じくシフォリィへ飛び掛からんとする魔物に刃を一閃させ、白銀の残滓と共に破砕音が鳴り響き水飛沫が上がる。
「っしゃァ!」
モモカが一匹仕留め、飛び付いて来たブロブを何とか振り払い、それをサンディの大剣が真っ二つにする。そんな彼の前に天井から忍び寄っていたブロブは後方からのラダの精密射撃によって爆散した。
「────……すごい……」
圧倒的な連携と技、そしてちょっとやそっとでは大したダメージの入らない強靭さ。
少年は暗がりながらも僅かな光源に照らされた戦いを見つめて呆気に取られていた。これがただの人間では勝てない領域、英雄達の住む世界なのだと、彼は噛み締める様な面持ちでいた。
次々とあのスライムのモンスターは倒されていく。
ラダに近付いたスライムはどうか、近接にまで近付かれては彼女も危ういのではないか?
否、そこへやはり滑り込んで瞬く間に渦を巻くようにスライムを消し飛ばす喜平の姿があった。
「くかかっ、かかってきなぁ! 老いぼれが存分に転がしてやらぁ!」
嗚呼、やはり。
あの痩せぎすな細身の老人でもあれだけ強い。少年はひたすらに羨ましかった。
●
……しばらくして、彼等は全員が大事に至る事も無くブロブの群れを退けられた。
数はいまいち生きてるのか死んでるのか見分けがつかずに数えられなかったのだが、それでも十は超えているだろう。
相当な数が群がって来たからか、それ以降の彼等を襲撃する者も無かった。
かくして、彼等は洞窟の最奥へと辿り着いた。
シフォリィと少年の能力(スキル)を信じるなら、よほどステルスの『運』が良くない限り少なくとも僅か40mの道中にブロブは潜んでいない筈である。
人の手が入ったと見られる広い円形の空間に出た彼等は、その奥で淡く発光している紅い花に近付いて行った。
「これが儀式の『村勇者が持ち帰る紅い花』なんだね、カレーに入れたら美味しくなるかな」
「えっと、この花は火にくべて使う物で……多分食べられないです」
「残念!」
苔に覆われて久しい中央の墓標は果たして誰が眠っているのか、少なくとも少年達村人は知らないのだと言う。
墓標の前に咲き乱れる七枚の紅い花弁を持つ花、その一輪を少年は抜くと墓標の前で祈りを捧げた。
「……この花は英雄の血潮と呼ばれています。今も生きているか分かりませんが、かつて村にいた女性英雄は勇敢で、その熱い正義感から村の勇者として挙げられていたそうです」
そう言いながら墓標の前で跪き祈る少年。
「まさかだと思うが、ウーズの寄生したクマは来ないだろうな。来たら、やばい」
「なんでこのタイミングでフラグ立てたんですかロイさん」
「ずっと昔に彼女は村の外にいる人達も助けたいと言い残して村を出ました。もしかするといずれ皆さんと出会うかも知れませんね」
立ち上がり、淡く褐色に光る花弁を指で撫でる。
不思議な事に彼のそれまで浮き出ていた病弱な、ひ弱な少年の憂鬱な表情は消えていた。線は細くとも、悠然とした雰囲気が一変させている。
(もしかしてそういう効果でもあるのか、あの花)
少年の様子に内心僅かに驚いたサンディが関心を持った。
「……ありがとうございました皆さん。後は洞窟を出て村に帰れば儀式は終わりです」
●村の勇者
獣の咆哮が洞窟の奥にまで轟く。
その姿は山に棲むクマの物、だがしかし彼等イレギュラーズの前に現した姿には明らかな異物が張り付いていた。
『ナイトメア・ブロブ』。これらは恐るべきアメーバ状のモンスターだが、人間を窒息させる以外にも知られているのは他生物に寄生する特性である。
人間だろうと馬だろうと、それこそクマだろうと。ブロブは寄生して宿主を強化して生物を襲う魔物と化す。
「危なかったな、こんなのが洞窟の中で二体とか襲って来ていたらちょっと分からなかった」
「やだねぇ。自由に戦えないってのはよぉ」
「だが……ブロブ及び寄生された生物は確実に殺しておきたい。あんなのほっとくわけにいかないからな」
────ズゥンッ!!
全身に無数の触手が張り巡らされ、肥大化した筋肉が毛皮を引き裂くほどの凶悪な姿。寄生されたクマはその巨体を傷だらけにして遂に倒れた。
幸運だったのは、恐らくこの個体が戻るより先に最奥から戻って来れた事に起因する。洞窟の入口で遭遇したこの魔物に対して、ほぼ警戒する敵もいない状態でイレギュラーズは総力戦を挑んで瞬殺したのである。
首を鳴らす喜平がチラと後方でゴリョウに守られている少年の顔を見た。
「良い顔をしている」
「ぶはははっ、ここ一番で逃げ出さんかった根性は大したモンだ。将来有望だな!」
ただ戦闘を呆気に取られて見ていた子供の姿は、もうそこには無かった。
●
「戻って来たぞ! うちの子は無事だ!」
「ああっ、良かった……!」
村へ戻って来た彼等を最初に出迎えたのは、村勇者役となった少年の両親だった。
「ろ、ローレットの方々! ご無事でしたかな!? 実はついさっき、洞窟の方へ見た事も無い化け物が歩いて行くのを見たと村の子供達が騒いでいましてな!」
「ねばねばがくっついたクマならアタイ達がやっつけたぞ!」
「おお……!」
「大した事なかったぜ、ブロブの津波に比べりゃな」
少年は両親に、イレギュラーズは村の男達に囲まれる。
既に外は雨が止んでいた事もあり人の姿が多く見える。儀式を終えた少年を迎えて祭りを始める為に準備を進める為だろう。
モモカとサンディが村人の相手をしている後ろで、シフォリィは両親に抱き締められている少年に近付く。
「自分で為すべきことの為に自分でできることを尽くし、私達の力を活用した。
勇気を振り絞り事を為す者、そういう人もまた、私は勇者と呼んでもいいと思います。だから、貴方は本当の勇者だと、私達が保証します!」
彼女の指差した先には、少年のポケットから顔を見せる紅い花と、そして銀色に照らされたモモカが渡した花が揺れていた。
少年はまた、あの照れ臭そうに笑う表情を見せて力強く頷いたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
此度の依頼におきましては特に危ない場面も無く攻略、成功していたと言えます。
村で温泉に入った皆様は祭りで少しだけ成長した少年の姿を見てから帰って来たでしょう。
お疲れ様でした。
またの機会をお待ちしております。
GMコメント
皆様初めまして、ちくわブレードと申します。
今回は病弱な小さな勇者を連れて洞窟を探検する依頼です。
以下イレギュラーズが把握している情報となります
●依頼達成条件
少年を無事に儀式が終わるまで守る
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります(失敗に繋がる程の事は起きないと予想されています)
●ロケーション
幻想の辺境に位置する森の中。小さな村の傍にある『英雄の洞窟』で少年を一人連れて行きます。
内部の道中は広いですが天井までの高さは6m、洞窟自体の奥までの距離は約120m程度です。
足元は雨期という事も手伝い、苔や水気によって足場が悪い印象です。(回避に-補正がされます)
当然中は暗いので何らかの対策は必要です。更に、洞窟内の壁際は凹凸が多く、陰となる部分が多いのも要注意でしょう。
目的は洞窟内の奥に祀られた墓標で咲く、七枚の花弁を持つ紅い花を採取した少年を連れて帰る事です。
●トラップ・エネミー
『ナイトメア・ブロブ』
雨期になると辺境地で時折目撃されるアメーバ状のモンスター。
物陰や苔の生えた岩場に張り付いて待ち伏せ、通りかかった獣や人間の口腔内に飛び込んで寄生しようとする。
イレギュラーズならば振り払い、ダメージを負う程度で済むが。一般人、それも子供が直撃すれば即死すら有り得る。
また、寄生された獣は人間大のモノだった場合……恐るべき猛獣の魔物となって襲って来るのである。
どれだけの数が集まっているのかは不明です。
『クマ』
最近目撃されているのは間違いないようだが……?
人間よりも大きな個体なら十分強いが単体ならイレギュラーズにとってそれほどの脅威ではないでしょう。
●少年
かつて村から出て行った女性英雄を村勇者として崇めている一族。今回はそんな村で村勇者の儀式を行い、一年の厄払いをしようという。
非力で病弱な少年は余りにも脆いため、ブロブやクマの一撃で死にます。
皆様の任務は彼の護衛となる事です。素直な子なので指示があれば従うでしょう。
また、彼は一度だけなら40m範囲までの『エコーロケーション』が使用できます。
以上となります。
アドリブ可といった記述がプレイングまたはステータスシート通信欄にある場合、リプレイ時の描写や掛け合いが展開に応じて増えたりします。
ぜひご参加ください。
それではイレギュラーズの皆様よろしくお願いします。
Tweet