シナリオ詳細
お嬢様の冒険
オープニング
●お嬢様は冒険に出たい
「見なさいアーニャ! 猫よ猫! 可愛いわね!」
「お嬢様、野生の猫に近づいては危険です!」
地味な……しかし明らかに質の良い服に身を包んだ少女が、メイドの少女に押さえられている。
「いいじゃない。猫よ?」
「危険です! しつけられた猫とは違うんです!」
「まあ、それもそうかしら。ごめんね、アーニャ」
アッサリと頷く少女に、アーニャは内心で溜息をつく。
(良いお方ではあるんですよねえ……)
「あら、あれは何処かからの帰りかしら」
ドロドロの装備を纏って疲れた顔で歩く武装した男達が通り過ぎるのを見て少女が目を輝かせたのに、アーニャは「あ、マズい」と思う。
「ええっと……あれはたぶん何処かの商隊の護衛か……依頼の帰りかもしれませんね」
「依頼」
「受けようっていうのはダメですからね」
「そんな事言わないわよ」
「ならよろしいのですが……」
流石にそこまで無謀ではなかったらしい。
安心したようにアーニャが息を吐いた瞬間、少女は「イレギュラーズ」と呟く。
「お父様が仰ってたわ。彼等は凄く強いって」
「そうですね」
「でも私、会った事がないわ。どんな方達なのかしら」
「ま、まさかお嬢様」
「私もイレギュラーズの冒険に同行してみたいわ! きっと素敵よ!」
アーニャの悲鳴が響く。こう言い出した以上、出来るのは可能な限り安全な方向に持っていくことだけだった。
●お嬢様からの依頼
「まあ、そういうわけで依頼になったわけです」
「申し訳ありません……」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)の隣にいるメイドの少女アーニャは、そう言って申し訳なさそうに頭を下げる。
「お嬢様の名前はサリア。家名は……まあ、伏せるですが幻想貴族です。で、お嬢様の依頼……ではあるですが、その背後の幻想貴族からの依頼でもあるです」
サリアの好奇心は、もっと自分の周囲の世界を知りたいと思うが故。
それは幻想貴族としては大事な資質であるが故に、そして今回イレギュラーズとのより良い関係を次世代に繋げていく為にも今回の依頼を重要と考える。
丁度良く近隣の町まで書状を届ける必要があるので、そこまでサリアを護衛してほしい。
「とまあ、そんな感じなのです」
その近隣の町は、サリアの今滞在している町からは丁度4日ほどの旅路だ。
間に森を挟み、「ちょっとした冒険」としては充分だ。
……ただし、道中にモンスターや盗賊団がいるという話もある。
それもついでにちょっとばかり片づけてほしい。
「とのことです。まあ……悪い話じゃないです」
頑張ってくるのですよ、と。チーサはそう話を締めくくった。
- お嬢様の冒険完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●お嬢様の護衛
「こんにちは、こんかい護衛をたんとうするイレギュラーズのコゼットだよ、よろしくね」
「私はサリアよ! よろしくねコゼット!」
『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)の手を取り、今回の護衛対象であるサリアが手を上下にブンブンと振る。
余程楽しいのだろう、その顔は全力の笑顔だった。
「なんだなんだ、随分と元気なお嬢様ねぇ。イレギュラーズを見る為の依頼なんて聞いた事ねぇよ。まぁ貰うもん貰ってるし良いけども」
「まあ、貴方もイレギュラーズね!」
「うお、結構素早いな!?」
「凄いわ如何にもって感じだわ!」
自分の周りをクルクル回るサリアに『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は目を白黒させるが、まあ好かれているのは事実のようであった。
「ふふ、そうよね。イレギュラーズってとってもカッコいいわよね。私も大好きだわ。だからサリアにもいいところ魅せなきゃね」
「楽しみにしてるわ! 凄いのね、凄いわね。磨かれた美って感じだわ!」
今度は『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の前に立ち目をキラキラさせるサリア。
どうやら心の底からイレギュラーズが好きであるらしいと……それがよく分かる態度だった。
そんなサリアを見ながら、メイドのアーニャは心配そうな様子を見せるが……イレギュラーズが護衛としてついている以上、問題はない。
「ふふ、おてんば気質のいいお嬢様もいたものね。今の地位に憧れる者こそ多くいるというのに、冒険者に憧れるなんて」
「憧れというよりは尊敬に近いと思うのですが……その、懐の深い方ではあるんです」
『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)に、アーニャは困ったようにしながらもそう答える。
「いいわ。痛みや怖さを知って夢から醒めるまではいい夢を見せてあげるのも冒険者……ローレットの仕事だものね」
「お嬢様はイレギュラーズの皆様を信頼しておられます……どうぞよろしくお願いいたします」
「Wof」
狼の姿になっている『憎悪の澱』アクア・フィーリス(p3p006784)が頷き、『神異の楔』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)も安心させるようにアーニャへと視線を向ける。
ちなみに小さな羽根のついた白馬のシェヴァリオンに騎乗してカッコよく合流したシューヴェルトであったが、サリアよりも白馬の王子様願望がちょっとあったらしいアーニャに高評価であった。
そしてサリアはというと、アクアの許可を貰ったうえで毛並みを楽しんだり耳をつまんだりしていたが……やはり動物は強いということかもしれない。
ちょっとシューヴェルトを見る表情が赤らんでいるのも、その影響が残っているせいであるだろうか?
「同じ幻想貴族として、また一人のイレギュラーズとして頑張らせてもらう」
「本当に、お嬢様をよろしくお願いいたします」
いわばこれは、次の世代へイレギュラーズという存在を刻む為のものでもある。
お嬢様であるサリアにイレギュラーズのカッコいいところを見せるというのも、その辺りに起因するものであり……それにさっき気付いた『白鬼村の娘』鈴鳴 詩音(p3p008729)は、といえば。
「……護衛だけだと思っていました、どうしよう」
こっそりと、そんな事を呟いていた。
「格好いい自分を売り込まないと駄目なんですか? ちょっと…自信が無い……よ、格好いい所なんて。どうしようかな、4日間……」
何とか無難に過ごすしかないかもしれない。
そんな事を考えていた詩音であるが……サリアに「どうしたの?」と声をかけられて「ひゃっ」と声をあげるのだった。
(カッコいいと思わせる立ち回り。難しいね。サリアさんがどのようなことにカッコよさを感じるかも問題だし、やり過ぎると胡散臭さを感じられそう)
そして、幻想貴族からの依頼……「サリアにイレギュラーズはカッコいいと思わせる」をどうしたものかと考えていた『テント設営師』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は、サリアをチラリと見る。
そっと離れる詩音をじっと見ているサリアは、何かを察したのかフォルトゥナリアへと振り向き近寄ってくる。
「貴方もよろしく! 私はサリアよ!」
「うん。私はフォルトゥナリア・ヴェルーリア。よろしくね」
(私の思うカッコよさは強敵に立ち向かう際の笑顔と背中、特に振り向いた後正面を向く、私に希望を持たせるあの顔。だから今回の依頼だとちょっと難しいかもしれない)
今回は基本的に戦闘の解説役とかでフォローに回ろう……と、笑顔で挨拶しながらも、そんな事をフォルトゥナリアは考えていた。
●護衛の旅路
「へえ、そんな仕組みで走ってるのね! 凄いわ、鉄帝の技術なのかしら⁉」
「ちょっと気になってたけど……そうだったのね」
コルネリアのMST101 ファブニールと馬車に乗って併走するサリア、そしてヴィリスが、興味津々といった様子で笑う。
様々な話をしていく中で、サリアがただ単に無鉄砲な令嬢ではないということはよく分かってきていた。
たとえばシューヴェルトの話すヴィーグリーズ会戦の話になると、目を輝かせるばかりではなく……思慮深く何かを思わせるような輝きを宿している事を、シューヴェルトは見逃してはいなかった。
「あの戦いでは魔種なんかとも戦ったりしたな。それこそこっちは少ない数で戦ったりなんかもしたが……」
「ええ、激しい戦いだったと……色々と考えさせられてしまうわ」
サリアは幻想貴族としては非常に真っ当な部類であり、ヴィリスの投げかけた「好きな音楽とか劇」の話題にも、無難に最近流行のタイトルを答えてくる。
「最近のは私知らないけれど話を聞くのも楽しいわ」
「ふふ、私も『知ってるか』って聞かれれば疑問ね!」
「あら、そうなの?」
「嗜みよ、嗜み。人間関係を円滑にするには、流行を楽しむのが一番だもの」
「……」
それをちょっと離れて聞いていた詩音は、思う。
幻想貴族の言う「カッコよさを見せる」とは、イレギュラーズの、その姿こそを見せるという話なのではないかと。
幻想における数々の騒動を乗り切ったその強さこそを「カッコよさ」と表現したのではないかと。
……まあ、違う可能性も大きいし、何より話しかけられたくないので黙っているのだけれども。
そして馬車は森の中に入り……フォルトウナリアが歌や演説じみたセリフ回しで今までの冒険などについて語っていると……周囲の自らのギフト「ノイズ」を併用して警戒していたコゼットが音をたてて立ち上がる。
「しっ……この先で盗賊が待ち構えてるみたいだよ、ちょっと見てくるから待っててね」
「あまり離れすぎないようにお願いするわ? まぁ、可能な限り危険は近づけないのだけど」
事前に決めていた通りに動いているコゼットの判断を疑う理由もない。
シャルロットも霧界の紅剣覇を引き抜き、馬車の後ろを進んでいたアクアも「Urrrr……」と警戒するような声をあげる。
しかし、コゼットの偵察しようとしていた相手……盗賊も馬車が止まった事に気付いたのだろう。
森の中を走ってくるような音が聞こえ始める。ならばもう、遠慮する必要は何処にもない。
「どうか本日の舞台、心ゆくまで楽しんんでいただけますと幸いです。なんてね?」
「よっし、やるとしますかねえ」
ヴィリスが、コルネリアが……自分なりの気合を入れる。
「ハハハ、獲物だあ!」
「馬車を狙え、やっちまえ!」
そしてやってくるのは、如何にも盗賊といった風体の男達。
女子供が多く……男がシューヴェルトだけとみて甘く見たのだろうか?
しかし、そうではない。そんな甘い話など、あるはずもない。
「アハハハ!」
今まで馬車の中で「放っておいてほしい」オーラを放っていた詩音が、真っ先にゴア・セイラムを手に飛び出していく。
出来るだけ格好よく……という思考はあるが、その悪魔のような笑顔がカッコいいかどうかは議論が必要だろう。
「サリアさん、万が一にも矢が当たって欲しくないから、私の後ろについていてね」
「ええ、そうね。私はどうやら足手纏いだわ」
サーベルを抜きかけていたサリアは、フォルトウナリアの説得に簡単に応じてサーベルを鞘へと仕舞い直す。
「さあ、行くぞ! この鎌を恐れないならかかってくるといい!」
「Grrrr…AOOOOOOOOOOOON‼」
シェヴァリオンを駆るシューヴェルトがクレセントサイズを振るい、アクアの遠吠えが響き『ハンターズ』を発動させる。
「くっ、この……ぐあ!?」
「そうはいかないわ?」
弓で馬車を狙おうとしていた盗賊を、シャルロットの飛刃六短が切り裂く。
「素振りするんなら、人の迷惑にならない場所でやりなね……」
そして盗賊たちの間に突っ込み華麗に攻撃を回避していたコゼットの残影百手が盗賊を打ち倒すと共に、そんな決め台詞も放たれる。
コゼット達の戦いは、まさに華麗にして熾烈。見ている者が、そして守るべき者がそこにいる。
そんな対象に「魅せる」動きをしなければならないという自覚は、その動きを更に鋭いものへと変えている。
だからこそ、盗賊などが敵うはずもない。
「ち、ちくしょう! なんでこんな所にこんな強い連中が!」
思わずそんな悪態をつく盗賊に、コルネリアが笑う。
「アンタらも運が悪いねぇ。依頼中のアタシ達と会うなんて……魅せる為に大人しくぶち飛ばされてくれや。今は依頼中だからノロマだけどよ、一人で飛ばして走ってるとたのしいのよ?」
「な、何を訳の分かんねえことを!」
「オラァ! そっちいったぞヴィリス、自慢の脚でぶっ飛ばしてやんなぁ!」
叫ぶコルネリアの声に振り向いた盗賊。
そこには……当然のように、ヴィリスの姿がある。
「人使いが荒いわね! でもプリマに不可能はないわ!」
「ぐあっ……」
切り倒される盗賊。当然慈悲はない。
詩音もそのつもりではあったが……罪なき人を襲い奪う事を喜ぶ連中にかける慈悲など、あるはずもないのだ。
「これでとどめだ! 切り裂かれろ!」
「があっ……」
やがて、シューヴェルトの一撃が最後の盗賊を切り裂き……全ての盗賊が全滅する。
「お疲れさん、踊るような足技だったわねぇ」
「ふふ、ありがとう。コルネリアもいい腕しているわ。ばいく? に乗りながらバンバン撃ってカッコ良かったもの」
互いに健闘を称えあうコルネリアとヴィリス。
そしてシャルロットは、馬車から出てきたサリアに諭すような微笑みを向ける。
「盗賊退治は冒険者の日常。まぁ、こんなこともあるわ?」
「ええ、そうね。強く激しい……そうして、カッコいい姿だったわ」
恐れず、脅えず……サリアは真っすぐな瞳で、そうシャルロットへと微笑み返す。
「何となくだけど……皆が、私を意識してるのも感じたわ。お父様に何か頼まれた?」
言われて、フォルトウナリアは少し言葉に詰まった後……全部を説明することにする。
サリアは思っていた以上に聡明だ。
なら、何も問題はないと……そう思ったのだ。
「こうした振る舞いで絶望が迫った人に希望を持ってもらったり、危険な状況でパニックの人を落ち着かせたいっていうのもあるけど……」
「ふふ、実際にカッコいい背中だったもの。なんかこう……噂の勇者様みたいだったわ」
本当に皆カッコよかった、と。そうサリアは笑う。
その笑顔は、とても印象的で。更に進んだ先、アーチェの町に着くまでの間……「それぞれがどうカッコよかったか」を効かされたり、人間状態になったアクアが「どういう仕組みなのかしら」と撫でられたりといった一幕もあったが、それ以外は特に大きな事件もなく。
最後の日。アーチェの町の目的の場所についた後……それぞれの別れの言葉を述べて。
ヴィリスが、まさに演者じみた礼をする。
「今回の特異運命座標による舞台。お気に召して頂けたでしょうか?」
それはサリアが全て理解しているからこその、ちょっと悪戯心も含んだ……そんな挨拶。
そんなヴィリスに、サリアもクスッと笑い令嬢としての最大の礼儀を込めたカーテシーを返す。
「ええ、とても……とても印象的で、そして素晴らしく格好の良い舞台でしたわ。私は、今日この日を生涯忘れることはないでしょう」
そうして、依頼は終わる。別れていく。
「……いい貴族になってくれたら、いいな」
「きっとなるわ」
こっそりあげたボトルキャンディを最後にチラッと見せてきたサリアの事を思いながらコゼットは呟いて。
シャルロットも、そう答える。
そう……きっとサリアは良い貴族になるだろう。
この旅の事を、忘れない限りは。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
コングラチュレーション!
見事護衛に成功しました!
GMコメント
コッチェの町からアーチェの町まで幻想貴族の娘サリアを護衛してください。
サリアは軍馬に乗っており、特に指定がなければこれで移動します。
サーベルも装備していますが、それほど強いわけではありません。
森の中には20人程度の規模の盗賊団が潜んでおり、斧や弓などで武装しています。
また、街道にはゴブリンや怪鳥が出たりします。
倒すだけならどちらも簡単と思われますが、サリアに「イレギュラーズはカッコいい!」と思わせる立ち回りを幻想貴族から要求されています。
合流時、道中、戦闘中、野営などで「俺の、私の思うカッコ良さはこれだ!」をアピールしてください。
むしろ、そちらの方が重要です。
被らないように相談して分担してもいいですし、合わせ技での相乗効果を狙ってもいいかもしれません。
こういうのは、照れたら負けです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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