PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪意の包囲網

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シルヴァンス・特殊傭兵部隊
「やぁれやれ、やっと腕が動くようになったよ。
 あいつめ、随分とやってくれたねぇ」
 と、肩を試すようにぐるぐると動かしたのは、野戦服を着こんだ、獣化したアライグマの獣種だ。その左腕には、ハートの形の傷跡がいまだに残っていて、ようやく治療の終わりが見えてきた、と言った所だろう。
「ハートの形が気に入らないが、ま、怪我と言えば戦場で生き残った証だね……さて、首尾はどうかな、諸君」
 と、部下の獣種たちに声をかける。種別は様々だったが、その誰もが獣化状態の獣種で、皆同様に野戦服や、銃の類で武装している。まるで、動物たちの軍隊のような様相を呈している彼らは、ノーザンキングス、シルヴァンス族の戦士たちである。
 主に獣種で構成された彼らの軍隊だったが、よく見れば、人間種や飛行種の姿も見えた。とはいえ、その他種族の者たちの共通点は、その誰もが、年若い、子供達と言って差し支えのない年齢の者たちで構成されている点だ。
「はい。此方での環境適応も完了いたしました」
 飛行種の少年が、格式ばった口調で言う。この軍人じみた言い方は、アライグマの趣味だろう。
「オンネリネン傭兵部隊――ええと」
「小隊よ、小隊」
 鉄機種の少女が小声で言うのへ、なるほど、と少年が言う。
「一個小隊、30名。訓練も完全完了。指揮下に入ります」
「結構。少したどたどしいけれど、まあいいよ。
 君達の前任者はまぁ、結構活躍してくれた。ローレットには勝てなかったけど、別にボク達の敵はローレットだけじゃない。それ以外の連中に対してちゃんと戦果をあげられれば充分さ。
 と言うわけで、君達にも期待しているよ。えーと、故郷の家族やきょうだいの食い扶持を稼ぐんだろ? しっかり働けば、ちゃんとお給金は上げるからねぇ」
「はい、ありがとうございます」
 びっ、と敬礼をする飛行種の少年。その様はごっこ遊びのようで可愛らしくは見えたが、しかしやっていることは実際の戦争に子供達を投入する悪徳である。
「さて、今回の任務は、ヴィーザル南端の基地、リテスタインの包囲襲撃だ。
 今、この基地には、鉄帝軍人のジャイル将軍が訪れて視察をしている。
 前に他の部隊の連中が捕まえたんだけど、ローレットに奪還されたんだってね。そりゃあもうコテンパンにやられたらしいんだが……ま、あいつらとボクらは仲が悪いから、存分に奴らの失敗を笑ってやっていいよ。
 さておき、そいつらに少しばかり恩を売ってやっても悪くないと思ってね。君達の働きを確認するのも兼ねて、このジャイル将軍を確保しよう、って話さ」
 もちろん、とアライグマは言ってから続ける。
「君達だけじゃなくて、ボク達シルヴァンスの軍人も参加するから。あ、言っておくけど、これは敵前逃亡を監視する意味もあるからそのつもりで。
 君達の命は金でやり取りされてるのは解るよね? 君達が死んでも、金は払うんだから、ちゃんとしっかり死んできておくれよ」
「はい! 僕たちが死んでも、命の分のお金は、アドラステイアのきょうだいや家族たちに支払われると聞いています!」
「あたし達の命は、ちゃんと家族たちの糧になるのよ。
 ねぇ、みんな、家族ときょうだい、そしてマザー・カチヤのためなら、死ぬのなんて怖くないわ!」
『うん! 家族のために! マザー・カチヤのために!』
 子供達が同時に声をあげるのへ、アライグマは面食らった。
(うーん、使っといてなんだけど、ここまでよく狂わせたもんだ。ガキが本気で傭兵気取りとは気持ち悪い。
 マザー・カチヤってのは相当の悪人だね。ま、ボクも言えた義理じゃないけどさ!)
 内心で笑うと、アライグマは満足げに頷いた。
 かくして、シルヴァンス、そしてオンネリネンの傭兵たちは、リテスタイン基地へと向けて進撃を開始した……。

●包囲突破
 リテスタイン基地。その中央の建物で、鉄帝軍の将軍の一人であるジャイルと部下たちはいた。
「え、ええと。この基地から移動する際の護衛と、サポートが、あたしたちの仕事……なのよね?」
 黒水・奈々美(p3p009198)がそう言うのへ、ジャイル将軍は頷いた。現場には、奈々美を始めとしたローレットのイレギュラーズ達がすでに待機している。今回は、ジャイル将軍が街へ帰還するための護衛を、依頼されたのだ。
「ローレットの皆には大変世話になったからな。今回も信頼している。
 ……と言っても、そんなに緊張しないでくれて大丈夫だ。移動などは定期的な事だから、さほど危険性はないだろう」
 ジャイル将軍がそう言うのへ、奈々美は苦笑した。
「だ、だと助かる……あんまり怖いのは、ちょっと、ね……」
 どうやら、今回は多少は楽ができそうだ……そう思った刹那、扉を開いて飛び込んできたのは、偵察の兵士だ。
「た、大変です! 基地が、シルヴァンスの兵士たちに包囲されています……!」
「えっ」
 奈々美の笑顔が凍り付いた。
「じょ、状況はどうなっている!?」
 ジャイル将軍が尋ねるのへ、兵士が答えた。
「すでに基地の出入り口付近まで敵は進軍中。。内部へと敵が侵入しています! 敵部隊は、シルヴァンスの獣種と、こ、子供の傭兵部隊のようです! 率いているのは、アライグマの獣種の模様!」
「えっ」
 奈々美がひきつった声でそう言った。
「アライグマの獣種……あの変わり者のロタル将軍か? 確か近年、噂のオンネリネンを雇って運用しているというが……。
 黒水殿、何か心当たりはありますか?」
「へっ? そ、そうね。ま、前に戦ったことが、その」
「おありか! では心強い!
 残っているものは撤退の準備を行え! 私はローレットの皆さんとともに脱出を行う!」
「了解しました! 黒水殿、将軍をよろしくお願いします!」
「あ、は、はい」
「では行きましょう、イレギュラーズ殿!」
 ジャイルの言葉に、イレギュラーズ達は建物を後にする。建物の入り口には馬車が用意されていて、既に基地の外縁では戦闘が始まっているようで、戦闘音が響いていた。
「では、行きましょう」
 御者が言う。
「西の出口より脱出します……脱出の援護をお願いします!」
 御者の言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。
 何はともあれ、脱出を目指さなければならない――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は、黒水・奈々美(p3p009198)さんの嫌な予感(アフターアクション)によりもたらされた依頼となります。

●成功条件
 ジャイル将軍が、西門より基地を離脱する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●名声について
 此方のシナリオは鉄帝での事件です。鉄帝での名声が変動します。

●状況
 鉄帝の将軍、ジャイルの基地からの移動の護衛を依頼された皆さん。
 しかし、そのタイミングで、突如として現れたシルヴァンス・オンネリネンの部隊に基地は包囲されてしまいます。
 敵の目的は、基地の制圧か、或いはジャイル将軍の確保か。
 イレギュラーズ達だけならこの包囲を突破することは容易いでしょうが、しかしジャイル将軍を見捨てて逃げるわけにはいきません。
 皆さんは、基地施設から、ジャイル将軍を伴って脱出してください。
 基地施設は、小さな町のような様子をしており、大小の建物や、路地などで構成されています。
 敵はすでに基地内部に侵入しており、出会い頭の接敵や、奇襲などには充分警戒する必要があるでしょう。
 なお、ミッション開始時点でジャイル将軍は馬車に乗っていますが、最悪馬車などは捨てて構いません。ジャイル将軍の離脱が最優先です。
 なお、襲撃時刻は昼。明かりなどのペナルティを考慮する必要はありません。

●エネミーデータ
 シルヴァンス兵士 ×???
  銃などで武装したシルヴァンスの獣種兵士です。皆さんより実力は劣りますが、数を当てにした攻撃を仕掛けてきます。
  いわゆる近代兵器風の武装が多く、銃や、グレネードのような範囲攻撃も行います。

 ロタル将軍 ×1
  アライグマの獣種で、この部隊のリーダー格です。オンネリネンを雇い、シルヴァンスで運用しているのも彼の一存から。
  東門より入場し、前線に出てきては、数名の部下や、後述するオンネリネンのイェレ、パウリーナと共に行動しています。
  あまり積極的に戦闘には加わりませんが、もしこのシナリオに黒水・奈々美(p3p009198)さんが参加し、発見された場合は、少々優先的に攻撃を仕掛けてきます。

 オンネリネン傭兵 ×28
  10歳前後の少年少女で構成された、子供達の傭兵部隊です。大元はアドラステイアに所属しており、今回はロタル将軍らに雇われ、シルヴァンスの傭兵として戦っています。
  ロタル将軍に訓練を受け、シルヴァンス兵士のように近代兵器風の銃や爆弾などを利用した攻撃を行ってきます。
  基本的に投降などはしません。戦闘不能になるまで戦い続けるでしょう。

 イェレ ×1
  オンネリネン傭兵部隊のリーダーで、金髪に飛行種の少年。すこしおっちょこちょい。
  基本的にロタル将軍と共に行動しています。リーダーであるため、彼がいる限りオンネリネン傭兵の士気も高くなるでしょう。
  具体的には、オンネリネン傭兵所属ユニットの攻撃力が少し上昇します。

 パウリーナ ×1
  オンネリネン傭兵部隊のサブリーダーで、黒髪の鉄機種の女の子。イェレのサポート役で、しっかりした子。
  基本的にはロタル将軍らと共に行動してします。サブリーダーであるため、彼女がいる限り、オンネリネン傭兵の士気も高くなるでしょう。
  具体的には、オンネリネン傭兵所属ユニットの防御技術・特殊抵抗が少し上昇します。


●味方NPC
 鉄帝軍人の皆さん ×15
  鉄帝軍人の皆さんです。基本的に各地に散らばって、迎撃や撤退援護を始めています。
  基本的に弱い人たちですので、放っておけば適当に時間を稼ぎつつやられます。
  一番最初に指示を出せば、ある程度言う事は聞いてくれますが……あまり当てにしない方がいいでしょう。

 ジャイル将軍 ×1
  今回の護衛対象です。どっちかと言うと、珍しい文官タイプの人なので、鉄帝軍人にしては戦闘能力は高くありません。
  あまり戦力として当てにしない方がいいです。純粋に、守る対象と考えておくのがいいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、おまちしております。

  • 悪意の包囲網完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月26日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ

●包囲網突破
 基地のはずれから、銃声と爆発音が聞こえる。高らかになる小銃の音は、命のやり取りが始まったことの開幕ベルでもある。
 ジャイル将軍の護衛を請け負っていたイレギュラーズ達。簡単な護衛任務に思えたそれは、シルヴァンス達の突然の襲撃により難題と化した。
 かくして、ジャイル将軍を乗せた一台の馬車が、街の南西を目指して出発していた。先導するかのように軍馬を走らせるのは、『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)である。
「こちらです! 敵に遭遇しても無視してください! 将軍!」
 将軍、と言う言葉に力を込めながら、ステラは馬車を先導してひた走る。馬車の内部には、怯えたように身をすくませるジャイル将軍の姿があった。
「馬車だ!」
 子供の声が上がる。ステラがそちらに目を向ければ、野戦服を着こんだ10歳ほどの少女がいて、こちらに小銃を向けていた。後ろには、同年代の少年少女が、同様に野戦服と小銃といういでたちでこちらをねめつけている。刹那、気が遠くなる思いだった。確かに、自分も、元の世界では戦うものとして訓練を受けていた身。しかし、それは確かな信念と使命の下に行わていた戦いだったはずだ。このような、誰かに使い捨てられるために命を散らす子供など……。
「まったく! 趣味が悪いですね! ウィルドさん! 『将軍』はご無事ですか!?」
「ええ、『問題はありません』」
 馬車の内部から声をあげるのは、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)だ。胡散臭い笑顔を浮かべつつ、馬車の屋根へと飛び乗ったウィルドは、子供達を見やりながらため息をつく。
「ああ、まったく。このような未来ある子供たちを使い捨てるとは嘆かわしい。もっと効果的な使い方などいくらでもあるでしょうに。
 さて、ステラさん。突破と行きましょうか」
「はい! ですが、可能な限り、子供達の命を奪う事は避けてください……!」
 ステラは手綱を引きながら、左手を突き出す。途端、その掌に巻き起こる魔力が、砂塵となって解き放たれた。子供達を巻き込む、砂塵の檻。けん制となればそれでいい、こちらの役目は――囮なのだから。ステラとウィルドは子供達の足を止めつつ、馬車を伴いひた走った。目立つように。

 戦いがはじまる、少し前。
「君たち二人で囮を買って出るのか?」
 ジャイル将軍が驚いたように言った。ステラが微笑んで頷くのへ、将軍は、ふむ、と唸りつつ、
「確かに、ステラ殿には以前にも助けられた……その実力は知っている。だが、如何にエンジェルとて……」
「いえ、その。今日は私達エンジェルじゃないので、忘れてください」
 こほん、と咳払い一つ、『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)が声をあげる。
「……エンジェルって何?」
 胡乱気な顔で『死生の魔女』白夜 希(p3p009099)が尋ねるのへ、綾姫は若干顔を赤らめつつ、
「わ・す・れ・て・く・だ・さ・い! 今はそれどころではないはずです、ええ。
 なんにしても、私達の目的は、ジャイル将軍の脱出です。となれば、秘密裏に行うべきでしょう?
 元々使う予定でした馬車などは格好の的です」
「だから、的として使うってわけね」
 『薔薇の名前』ゼファー(p3p007625)がそう言うのへ、
「ゼファー君、そっちの人員名簿を貸してくれたまえ。手が届かない」
 と、車いすに座って、テーブルの上で手をパタパタさせる『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)に、
「オッケー」
 テーブルの上の資料を、ゼファーは渡してやった。シャルロッテは希を手で招くと、この基地に駐留している軍人の名簿を二人でのぞき込む。
「もちろん、決死隊として死を覚悟して……なんてことはやりません。全員で生きて帰る。その為の準備よ。
 二人なら、単独行動としては適任なのよ」
「馬車には、拙の式神を乗せておきます。遠目なら十分騙せるはずです。
 御者の方には……少し怖い思いをさせてしまいますが」
「いえ、自分も軍人ですから」
 と、馬車の御者の担当が言う。
「いい心がけでごぜーますね。ま、そちらが怖い思いをする分、将軍は、わっちらがしっかり守るでありんす」
 『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)がくすくすと笑いながら言った。
「そのためには、少々部下の方も使わせてもらいたい所でありんすが……」
 そう言いつつ、シャルロッテと希の方へと視線を向けると、二人は資料から顔をあげて、頷いた。
「ん、おっけー……軍人の人の顔と名前は大体把握した」
「白夜君は北側の、ボクは南側の軍人さんを可能な限り集めて指揮する。もちろん、彼らを使い捨てるわけじゃない。皆無事に生還させるさ」
「ありがたいお言葉です……良き軍師と見える」
 ジャイル将軍が言うのへ、シャルロッテは肩をすくめる。
「ボクはただのロクデナシでね……ま、褒め言葉を拒絶するほどひねくれてはいないから、ありがたく受け取っておくけれどね。
 悪いけど、早速動かせてもらうよ。行こう、白夜君」
「わかった。行こう」
 二人があわただしく出ていくのへ、ウィルドは笑って、
「ではステラさん、私たちも行きましょうか。派手にやらないといけませんね、ええ」
 ふふふ、と胡散臭い笑みを浮かべながら、ステラ、そして御者と共に部屋を出ていく。それを眺めつつ、『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)が声をあげた。
「じゃ、じゃあ……あたしたちも出発ね……。
 ステラさんとウィルドさんが敵を引き付けてからだから、ちょっと、待機してからだけど……。
 ふ、ふひひ、ちょっと緊張してきちゃった……お、お水貰える……?」
「ええ、そちらに保冷庫が。
 しかし、黒水殿は、あのロタル将軍を完全にやりこめたとお聞きしています! 黒水殿がいれば百人力ですね!」
 などとジャイル将軍が言い出したので、奈々美はおもわず、水をごくん、と飲み込んでむせ返った。
「げほっ! げほっ! ……え、そ、そう言うことになってるの……?」
「部下からの報告によれば! ロタル将軍の腕をその魔術で撃ち貫き、『あたしには勝てないわ』と啖呵を切ったとか、ロタル将軍は悲鳴をあげて逃げかえったとかなんとか」
「え、ええ……!?」
 奈々美が目を白黒させる。何やら噂が噂を呼んで、えらい脚色されているらしい。
「あら。それじゃあ今回は私も楽できそうだわ?」
 からかうようにゼファーが言うのへ、
「くふふ……いやはや、これは大船に乗った気持でごぜーます」
 くすくすと笑って、エマが肩をすくめた。
「ひ、ひぃ……どうして……!?」
 目をぐるぐると回す奈々美。綾姫は苦笑しながら、
「まぁ、ほどほどに……」
(とはいえ、骨が折れる仕事なのは事実ですから? 少しは気を楽にしたい所ね)
 ゼファーが小声で綾姫へいうのへ、綾姫は頷いた。
(ええ。油断は禁物ですが、あまり悲観的でも力を発揮できなくなります)
 とはいえ、持ち上げられる奈々美は些か可哀そうではあったが。
 なんにせよ、彼らの出発の時も、確実に近づいていた。

●悪意の発露
 シャルロッテが、銃声響く基地内を疾走する。小さな町のように、建物で入り組んだ路地を器用に走りながら、目についた鉄帝軍人たちに声をかけて回る。
「すまないが、こちらの指揮下に入って欲しい。ボクはこう見えてもジャイル将軍からのお墨付きでね。
 このまま防戦一方と言うのもつまらないだろう? 可能な限り打撃を与えてやろうじゃないか」
 声をかけつつ、麾下の軍人を増やしていく。軍人を伴いながら、シャルロッテは耳を澄ませた。行軍の音は、こちらへと近づいている。で、あるならば、このあたりで防衛線を展開して、敵を引き付けてやるのがいいだろう。
「いいかい、少数で当たるんじゃないよ。数の利を活かすんだ。此方で派手に暴れれば、将軍を追う連中は手薄になる」
 果たしてそう言った刹那、子供達が小銃を構えて現れた。その背後には、獣種の兵士たちの姿が見える。
「子供か……本当に傭兵にしているのか……」
 苦虫を嚙み潰したような顔をするシャルロッテ。軍人にとっても、子供を討つというのはストレスになりかねないだろう。
「ここからが本番だ。自分たちの生存を一番に考えるんだよ。その上で、子供たちは可能な限りでいい、救ってやってくれ」
 あえて救ってやってくれ、と言った。無慈悲に殺せ、と言うよりかは、いくばくか気が楽になるかもしれない。
「さぁ、始めよう。状況はまさに背水の陣。つまり……鉄帝軍人にとって、最高の見せ場という事だ!」
 シャルロッテがタクトを振るう。果たして軍人たちは声をあげ、軍師に従い戦闘を始める。子供達も応戦を始めた。飛び交う銃弾。空気を擦過して、シャルロッテの近くに銃弾突き刺さる。見やれば、こちらを覗き込むスコープ、そして子供の瞳。
「この絵図をかいた奴は、随分と悪趣味だ……!」
 タクトを振るう。如何に悪趣味な地獄とて、そこの演者として選ばれたならば、心行くまで歌ってやろう。
「さぁ、赤よ。塗りつぶせ、この地獄を。その始まりの合図はここに」
 振るうタクトの音に合わせるように、鉄帝軍人たちは突撃を敢行する。

「グレネード、来ます!」
「物陰に身を隠して。でたらめな投擲だから、当たらない」
 鉄帝軍人の報告に、希は冷静にそう告げる。果たして爆発は空気を震わせたが、その衝撃が味方に波及することは無い。希は鉄帝軍人たちをまとめ上げ、そのまま東側へと進攻を開始している。南側のシャルロッテが防戦に寄ったならば、こちらはより攻勢を取っている。爆発するグレネードの音がやめば、すぐに銃声がやってくる。
「リロードの隙をついて少しずつ進軍して。無理はしないでいいから」
「了解です。子供は――」
「倒れた子供にトドメを刺すのは時間の無駄」
 希は、手にした長杖を振るい、その柄でこつん、と石畳を叩く。刹那、中空に無数のマスケット銃が現れ、それぞれが意思持つかのように浮遊すると、一斉に銃弾を討ち放つ。それらは、子供達の命を奪うことなく無力化した。
「すごい……!」
 鉄帝軍人が声をあげる。希は物陰から身を乗り出すと、痛みに気絶している子供達に目をやって、しばし歯を食いしばる。今は救助すらできない。どうか、このまま仲間達に回収されるのを祈るしかない。
 ――刹那、希の腕に激痛が走った。撃ち抜いたものは、狙撃銃の弾丸。超射程からの攻撃か!? だが、痛みが希の意識を刈り取るにははるかに遠い。希はすぐに、
「隠れて、スナイパー!」
 叫ぶと、軍人たちを追いやる。同時に、その場から飛びずさった。入れ替わるように銃弾が石畳を抉る。
「やぁるじゃないか、イェレ、当たったよ」
 ぱんぱん、と手を叩く音が聞こえる。音の方に目をやれば、アライグマの獣種と、飛行種の少年、鉄騎種の少女の姿と、無数の兵士たちの姿が見える。
「ありゃあローレットの奴だね。鉄帝の軍人じゃない……ちょうどいい、お前、ローレットの、なんか紫色の奴を知ってるかい? ハート型の魔法なんて撃ってくる奴なんだけどさぁ。今日は来てないの?」
 からかうように言うアライグマ……ロタルに、希は舌打ちしつつ、軍人たちに目配せする。
「数の差からまともにぶつかるのは無理。応戦しつつ退避。西へ」
「了解……!」
 そうは言いつつ、希はゆっくりと長杖を握りしめた。
「可能なら……ここで『アライグマ』は討ち取る。お前なら本気でやっても死なないでしょ」

 一方、銃声響く中、将軍を護衛する四名のイレギュラーズ達は、街をひそかに西へ向かって進んでいた。囮、そして二名の防衛部隊により多くの敵は引き付けられ、脱出はスムーズに進んでいる。
「けど、流石にこっちには敵は多い、わねっ!」
 遭遇した少年兵を、ゼファーは槍の柄で叩いて気絶させた。足元に転がる少年兵を見やりながら、エマは、ふぅん、と鼻を鳴らして見せた。
「随分と、よく教育されてるでありんすねぇ」
「教育? 洗脳でしょう?」
 綾姫が尋ねるのへ、エマは肩をすくめた。
「教育とは洗脳する事と同義でごぜーますよ。
 自分や集団にとって有益になるよう、言い換えれば都合のいい存在になれるよう教え込むんでごぜーます」
「とにかく、相手が厄介な事だけは確かです」
 ゼファーが言った。
「まったく。この子達ったら、雇い主くらい選びなさいってものだわ。
 全員並べてお説教したい所だけれど、今日はそんな余裕ないものね……」
「流石に、捕虜を連れて歩き回れるほど、大所帯ではないでありんすからねぇ」
 エマの言葉に、仲間は頷く。
「それより、東からの銃声が近づいてきました……希さん、限界かもしれません」
「……って、ことは、あのアライグマが、こ、こっちに近づいてきてるって事かしら……」
 奈々美が言うのへ、綾姫は頷いた。
「奈々美さんのサーチにかかっていないなら、すぐには遭遇しないと思います。最悪のケースは、前後から挟み撃ちにされることです。進行方向は私が確認しますので、奈々美さんは後方の警戒をお願いします。ゼファーさんとエマさんは、ジャイル将軍についていてください」
「わ、わかったわ……!」
 内心後ろから攻撃されやしないかとドキドキしながら、奈々美は頷いた。
 そして、局面は最後のフェーズへと移る。

●脱出
「おっと、ジャイル将軍は西門付近に到達した様です……!」
 ナイフで襲い掛かってきたシルヴァンス兵を殴り飛ばしたウィルドが言う。ステラは頷くと、
「では、撤退ですね! 御者さん、馬に乗ってください!」
 ステラは頷くと、自身の軍馬に御者を移動させた。同時に、ウィルドと共に走り出す。護衛が離脱するという状況に、あっけにとられた兵士たちの動きが遅れる。その隙をついて、二人は一気に戦場から離脱した。その道中で、ステラは傷ついた希を発見した。
「希さん……大丈夫ですか?!」
 駆け寄るステラに、希は頷く。
「うん。軍人の人達は逃がした……シャルロッテと、護衛チームは?」
「こちらは無事だよ、白夜君」
 と、声の方を見てみれば、軍人を伴って移動してきたシャルロッテの姿があった。
「ただ、敵の動きがあわただしい。将軍を護衛しているチームは見つかったかもしれないね」
「ですが、チームの現在位置は、離脱地点までは近いようです」
 ウィルドが言うのへ、ステラは頷く。
「じゃあ、こちらも西へ向かいましょう。もし足止めされているようでしたら、助けないといけませんしね」
「同感だ。では諸君、もうひと走りしてもらうよ」
 シャルロッテの言葉に、軍人たちは声をあげた。

「もう少しです、このまま突破できれば……!」
 綾姫が声をあげる。前方には、少数の敵の姿があった。
「一気に突破しましょう、皆さん!」
 綾姫が抜き放つのは、神の祝福受けし神殿騎士の聖剣。その剣先が光り輝くと、綾姫は一気にそれを振るった。神気閃光、邪を払う力、精神のみを斬るその斬撃が光となって駆け抜けた時、立ちはだかる少年兵たちがぐらり、と倒れ伏す。
「ジャイル将軍、このまま……!」
「綾姫、跳んで!」
 ゼファーの声が響いた瞬間、考えるより先に綾姫はその場から跳んでいた。刹那、石畳に銃弾が突き刺さる。空中で姿勢を整えながら、綾姫は後方にてこちらを狙う飛行種の少年の姿を見る。
「ようやく追いついた。逃がさないよ」
 ロタルが現れ、にたり、と笑った。
「さっきのイレギュラーズには随分と足止めをされたからね。逃がしたかと思ったけれど……ギリギリ間に合ったらしい。
 それにどうやら……例の紫の子、来てたんだねぇ。この腕のお礼をできるってものだ」
「……ひっ……!」
 奈々美が息をのむ。明らかにこちらをねめつけるロタル。しかし奈々美は、ごくり、と息をのむと、
「そ、そのハートの傷、よ、よ、よく似合ってるじゃない……!
 しょ、性懲りもなく子供を使って、ワンパターン、だわ……!」
 そう言いながら、三人に目配せする。綾姫とエマは頷き、将軍の近くへ。ゼファーは槍を構えて、奈々美の隣へ。
「ケガが増える前に帰りなさい、って事よ、将軍!」
 ゼファーが、叫び、同時に全員が一斉に動き出した。綾姫とエマは、将軍を伴い西へ! ゼファーが槍を振るい突撃!
 ゼファーは、ロタルを見つけると、槍を叩きつけた! 小銃で受け止めるロタル!
「子供達! げんこつは今度です。今日は保護者に一発……っ!」
「なにを……っ!」
 叩きつけた槍を起点に、ゼファーはくるりと体を回転させ、鋭い蹴りをロタルへと叩きつける。頬をその脚で蹴りつけられたロタルが、痛みに身体を揺らした刹那、サイド行動したゼファーが一気に距離を取る!
「お、大きい奴……行くわよ……!」
 奈々美が両手を前に突き出し、魔力を編み上げた。途端、大地が激しく揺れたかと思いきや、巨大なネオンライトに煌く高層ビルが出現し、激しく地面ごと敵を突き上げる!
「な、またお前か……紫の!」
 ロタルが悔しげにうめくのへ、
「な、なな奈々美よ! 黒水・奈々美! つ、つぎは、顔面にハートをつけて、あ、あ、あげるから……っ!」
 奈々美がそう告げて、ゼファーと共に身を翻す。吹き飛ばされたロタルたちが起き上がり、ビルがすっかりと消え去った後には、既にはるか遠くにイレギュラーズ達の背中だけが残っていた――。

成否

成功

MVP

橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍によって、ジャイル将軍は離脱に成功。
 同時に、多くの鉄帝軍人たちも生存しています。

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