シナリオ詳細
プルウィアの祝祭
オープニング
●pluvia
過ぎ去る恵みの雨に感謝を。そして、来るべき豊穣の歓びを望むための祝祭が霊樹プルウィアの守人達で行われる。
大樹ファルカウから少しの距離を。茂り、深まる『迷宮森林』の片隅にひっそりと存在するその場所は浅黒い肌を持つ幻想種達の集落であった。
霊樹プルウィアは蒼白く澄み切った色彩を持つ霊樹である。その名の通り恵みの雨を受け成長し、魔力を蓄えるとされていた。
長雨の季節になれば民達は傘も差さずにその身に恵みを受ける。祈りを捧げ、枯れること無きプルウィアがファルカウに力を捧ぐ事を望むのだ。
彼女等はプルウィアの蓄えた恵みを森へと返すための祝祭を楽しみにしている。繁る草木の合間より注いだ夏の太陽に光を帯びたプルウィアより舞い散る魔力が森へと返る。
幻想的なその風景を共に見た者は結ばれると、そう言伝えられた夏の祝祭は永きを生きる幻想種であれど経験するものは少ないのだ。
元よりアルティオ=エルムは封鎖的な場所で或る。故に、プルウィアの一族も外部を遮断し、霊樹と共に生きてきていた。
そんな彼等よりアンテローゼ大聖堂へと一通の手紙が届いた。
――祝祭をの準備に、少しばかり手間取っている。どうか、助けてはくれないだろうか。
●大聖堂より愛を込めて
「ご機嫌よう。夏のイベントは盛り上がった? うふふ、私も遊びに行ったの。
其れで、リュミエ様にもお土産を渡したのだけど、また大聖堂を留守にしたのねって怒られてしまって」
揶揄うように笑ったフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)は「で、本題ね」とテーブルの上に一通の手紙を置いた。
水色の便箋の上に、特殊なインクで文字がつずられている。まるで水で描いたようなその文にはアルティオ=エルムでも使うものの少ない古代の言葉が描かれていた。
「あ、この古語はその地方でだけ使われてるらしいんだけど。え? 読めるのかって……そりゃあ司教様ですから」
ふふんと胸を張ったフランツェルはそれだけこの地域は閉鎖的で、幻想種達でも立ち入る者が少ないのだと前置きした。
その場所は大樹ファルカウよりも大いに離れた位置にあるという。未だに前人未踏で或る古代遺跡が点在し霊樹の民が集落を作っているその一角に霊樹プルウィアは存在した。
「彼女たちは恵みの雨を魔力として蓄えるプルウィアという霊樹の守人。だからこそプルウィアの一族と呼ばれているわ。
プルウィアは蓄えた魔力を夏の祝祭の夜に一気に森へと放つ。……そうして、秋の恵みをもたらすと言われているの。
蒼く透き通ったクリスタルのような霊樹より降注いだ蒼き光は儚くも美しい――ふふ、私も此れは聞いた話なのだけど」
そんな場所からの『お願い』がやって来た。
曰く、祝祭の準備を行っている最中にモンスターが邪魔立てしているのだという。
プルウィアの民達が祝祭には外せぬ『雨浮華』を花籠一杯に準備しようとすると、その場所にずんぐりむっくりとした獣がやってくるのだそうだ。何とか退かそうと彼女たちも頑張ったが、どうにも上手くいかない。
故にローレットとの縁があるアンテローゼ大聖堂に手助けを求める手紙が届いたのだろう。
「モンスターが何を考えているのかは分からないけれど……お腹をすかせているのかも知れないわね。
そのモンスターを追い払ってあげて、雨浮華を花籠一杯にゲットしに行きましょう?
それで、ご褒美に夏の祝祭に参加するの。私も見てみたいのよね、プルウィアから降注ぐ魔力の光を! ……駄目かしら?」
それは仕事なのだろうと誰かが言った。フランツェルは「まあ、仕事とも言います」と呟いて。
「仕事であれども、あとのご褒美はあったって構いやしないわよね。だから、一緒に見に行きましょうよ。プルウィアの祝祭を」
雨が、魔力になり。それはクリスタルの霊樹より光となって降注ぐ。
華のように、雨のように、鮮やかな光を夜闇に降らせて――秋の恵みを約束するように。
- プルウィアの祝祭完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
深き森。大樹ファルカウの恵みを頂き、その大いなる祝福を得て過ごす長耳の種族――幻想種。
その種族特徴を持ち、自身も深緑の彼方此方を見て回った経験のある『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)にとっても霊樹の民プルウィアの事は未知に溢れていた。
「降り注ぎ、秋の恵みをもたらす魔力の光……どんな光景なんだろう。楽しみだね」
穏やかに告げるウィリアムに頷いたのは『天穿つ』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)。ミヅyハとて迷宮森林の中を探索してきた経験がある。それでも、この深き森に覆い隠された彼らの伝統は物珍しい。
「深緑にこんなお祭りがあったんだねえ、それに文字も……まだまだ知らないことだらけだ」
道中に遺されていた筆跡は道案内を行っているつもりだったのだろう。古代文字だろうか。古語と称されたそれはこの地域では旧き民が親しんでいるものだそうだ。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)にとっては、同胞であろうともその言葉も、その文字も見知らぬものだ。
「フィーも深緑内にさほど詳しいわけではないが……古き言霊を操り、霊樹を守る民か。どんな集落なのか、どのような同胞たちなのか興味がある。
彼らの祭りを知るためにも、邪魔させるわけにはいかんじゃろうて」
過ぎ去る恵みの雨に感謝を。そして、来るべき豊穣の歓びを望む。その祝祭を心より喜ぶことこそが彼らの助けになる事をフィラ・ハイドラ(p3p008154)は知っていた。さくりさくりと土を踏み締めて、胸を高鳴らせた『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は黄昏の色を宿した瞳を細めて肺一杯に夏草の気配を吸い込んだ。
「久しぶりの……深緑。前は……確か、トレーニングの時……ゆっくりしに来たんだった、かな。
祝祭……。プルウィアに…来る事、初めて……だから。ドキドキ、する。
それに……今日は、沢山……『お手伝い』。出来そうな気がする、から……嬉しい、気持ち。無事……一緒に成功、出来る…する為に。頑張る、よ」
「ええ。伝統を重んじていく事は彼らなりの大事なのでしょう。
それを守るために遮断していた外部交流を復活させ、余所者である我々に解決を依頼する、おそらくは苦渋の決断をするくらいには。
……その決意には結果で報いるとしましょう」
閉鎖的な集落。古語を用いて伝統を重んじる。そう聞いていたからこそ『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は背筋をぴんと伸ばしていた。
「いざ閉ざされた集落に来てみると、こちらの予想以上に歓迎ムードなのですが……」
困惑した瑠璃を肘でつんつんと突いたのはフランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)。「私が居るからよ」なんて言いたげな彼女は背筋を伸ばして「アンテローゼ大聖堂より参りました。司教フランツェルと申します」と微笑んだ。
「ああ、ファルカウの礼拝者よ。よくぞのお越しで。そちらが祝祭の救世主ですか?」
「ええ」
フランツェルに促された瑠璃は英雄や救世主と名乗らされるのかと後方を確認する。『竜剣』シラス(p3p004421)は「おいおい、フランツェル」と嬉々とした『此度の責任者』を嗜めた。確かに自身らは彼女から依頼の斡旋を受けた立場であるが見も知らぬ『閉鎖的な森の民』に必要以上の恩を売りに来たわけではない。
深緑(アルティ=エルム)において、更に閉鎖的だと言われた彼女らにとって自身らは余所者だ。瑠璃の考えた通り、余所者を祝祭に参加させるのは苦渋の決断であっただろう。それが偶然的に彼女らの信仰の的であるファルカウの導き手がイレギュラーズの一員だっただけなのだ。
「皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
穏やかに目を伏せて一礼するプルウィアの民にシラスは頷いた。不思議な雰囲気を感じさせたのはその浅黒い肌であろうか。小麦色と言うには幾許か黒さが勝る、そんな彼女らを見つめてから『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はぽつりと言葉を残した。
「こんなところにも集落が。私と同じ、浅黒い肌の幻想種の集落……」
クラリーチェにとっては幼い頃に住んでいた――無くなってしまった故郷の村とこの集落の位置関係がどうしても気になって仕方がなかった。もしかすれば自身の家族に類する存在や、親族が住まうかもしれない。何らかの細い繋がりでも得られる可能性さえあると。
ああ、けれど、今はそれを調べる術もない。アンテローゼの依頼を受けてやって来た余所者として扱われても良い。守り人たちの不安を拭うようにクラリーチェは笑みを零した。
「祝祭が無事に行えるように、お手伝いを致します。どうぞよろしくお願い致します」
●
霊樹プルウィアより幾許か離れたその場所に雨浮草は咲いているそうだ。『ずんぐりむっくりとしたクマ』などと名前を紹介されるエネミーが存在するとは聞いたが、その名づけは聊か可愛すぎるとシラスは感じていた。
「森は涼しくていいなあ」
「そうだね。この辺りは特に涼しいのかも……?」
きょろりと周囲を見回すアレクシアにシラスは「クマ、居た?」と問うた。アレクシアは首を振る。どうやら少しばかり付いたようだった。
フィラは草木との対話を行いながら熊の接近情報を問いかけた。どうやら頻繁に訪れるらしい熊はそろそろ到着の時間なのだろう。
「さて、オーダーは雨浮草を花籠いっぱいに。けど、近づけばデケェ熊が出て来るって話だ。
なら不殺で追い払うだけでいいだろ? 俺も狩りに来たわけじゃないしな。熊狩を楽しみにしてたやつはまた今度ってな」
笑うミヅハにウィリアムは「そうだね」と頷いた。ずんぐりむっくりとしたクマがのたのたと近づいてくるのを視認する。腹を空かせた熊たちは流石に大きい。プルウィアの民たちだけでは対処もし辛い事が察せられた。だが、『平和的解決』ができるならその方がいい。
「よし。まずはずんぐりむっくりなあの子達をどかすところからかな?」
「倒すだけなら恐らくは簡単。ですが、無用な殺生は避けたい。かといって今後もここに近づく個体が現れるならば堂々巡り……ふむ」
クラリーチェは一般的対処法で何とかなるでしょうか、と呟いた。村人たちは熊を見れば怯えてしまい、何も対処を行ってきていないらしい。
本来ならばあの熊たちの餌場はもう少し離れた所であったようだが、餌が足りず此処までやってきたのだろうとプルウィアの民は告げた。鈴を取り付けてクマ避けの準備を施した後、やってくる熊へと向き合って。
「食事に来たところを申し訳ないけど、お祭りの間だけ我慢して貰おうか」
ウィリアムに頷いた瑠璃は「人里が近いのです。此処は引いてください」とそう言った。モンスターである以上、その言葉が万全に伝わる訳ではない。『崩れないバベル』は人間相応の相手にしか役に立たない。が、何らかを伝えようとしたことは伝わっただろうか。
「狙うあなたと守る我々。お見合いが続いている間も、子供がひもじい思いをし続けます。森の奥へ戻り、違う獲物を探したほうが互いのためですよ」
瑠璃が告げれば、チックは熊の足元へと威嚇術を放つ。足を止めた熊へとチックが行ったのは動物疎通。餌を横取りしに来たようにしか見えないのは分かるが、出来れば話を聞いて欲しいと宥める様に言葉を選ぶ。
「ここは……人が住んでる、場所。今日、大事な……お祭り、しなくちゃいけない。
……ご飯、欲しかった…だけだと思う。けど、プルウィアの人……凄く、困る。しちゃう。だから、此処に近づく……駄目。……ごめんね」
淡々と告げるチックに熊はそれでも目の前の餌を求めた――が、シラスは無言のまま威嚇射撃のように攻撃を重ねる。
驚いた子熊が母をいじめるなと牙を剥きだした。アレクシアは息を吸い、魔術と指先より躍らせた。白き綿は花吹雪のように広がり――ふわりと受け止める。
ヴェルベナ・フィシナリスの気配に熊が虜となった。ならば、このうちに追い払えばいい。目標は殺さず、なのだから。
「無駄に傷つけたくはないんだけど……ごめんね!」
怒りに震える熊は野性的に飛びついてきた。それが興奮状態である事が見て取れる。フィラの魔性の茨がずるりと伸びた。
「親熊よ、子を傷つける場所へ出すのか? フィーの茨は痛いぞ」
熊を受け止めたアレクシアは足止めを行うフィラに小さく頷く。クラリーチェの輝く神聖は永訣の音と共にからりとなった。追憶の音が響き渡る――静謐の祈りがモンスターの足を止める。
恫喝の効果が薄いならば致し方がないと瑠璃は心眼で標的を見据えた。「申し訳ないけど、これも仕事ですので」と囁く瑠璃に続きシラスがぐんと距離を詰める。
ウィリアムの支援を受け、ミヅハは設置した罠を使って熊の足止めを行った。
ならば、とフィラの威嚇術が熊を追い縋る。
「フィーたちはどれだけ立ち向かってきても負けない。子のためにも、引き下がるのが賢明ではないかの?」
堂々とそう告げるフィラに熊がぐるると喉を鳴らした。熊をもしも気絶させることが叶ったのならばその怪我を治療し、生きてようにしたい。
そう気を配っていたクラリーチェの気持ちを汲んで、瑠璃は追い返すが為にしっかりと熊の意識を奪ったのだった。
ずんと音を立てて倒れたずんぐりむっくりとした熊。殺さずに済んだのはイレギュラーズ達の協力によるものだ。
ほっと胸をなでおろしたチックはさっそく花を集め始める。落ち着いて話す事は難しかったが、それでもその命を奪わずに済んだことは僥倖だ。
「まあ、こうして追い払ったワケなんだが……完全に追い出すのは気が引けるなぁ。
確かに迷惑しちゃいるがそれは向こうも同じだろうし、森の恵みは俺たちだけのものじゃないぜ。
ま、花を集めるのは祝祭の時だけなんだろ?それならまたその度俺たちが追い払いに来ればいいさ。祭りに参加する口実にもなるしな!」
そう笑ったミヅハにアレクシアは「じゃあ、村の人たちも説得してみよう!」とやる気十分に宣言したのだった。
「怪我したまま放置したのでは結果死んでしまいますし……多少の餌を離れた所に用意してやりませんか?」
そう問いかけたクラリーチェにそうしようとミヅハは頷く。そうして、彼らを護れるのであれば、本当に『平和的な解決』ではないか。
●
「できるなら、クマさんがエサとできるようにある程度雨浮草を残しておけませんか?
私達は、森と共に生きる幻想種だからこそ、森の恵みはそこで生きる者たちで分かち合っていかないといけないとも思うの。どうか、お願いします」
「……はい。あれらが生きていくためには必要でしょう。私達も祝祭以外は雨浮草には近づきません。彼らもこのファルカウの民なのですから」
プルウィアの民のその言葉にアレクシアはほっと胸をなでおろした。熊が現れたのは今年が初めて、今まではその姿を見る事はなかったというのだからもしかすると彼らの本来の生息域で何か変化があったのかもしれない。
花籠一杯の雨浮草を抱きかかえてチックはすう、とその香りを吸い込んだ。それらが、この祝祭を彩るらしい。
「……雨浮草の花、綺麗。それに……うん、良い香り」
蒼く透き通ったクリスタルの霊樹にそれを飾るのも手伝おうと早速集落に戻る。花を手から離せばそれはふわりと浮かび上がって――プルウィアの周囲に灯されていく。
集落の周辺に飾り付けていくために籠を抱えていたシラスはこっそりと一輪を後ろ手に握りしめていた。それはアレクシアへのプレゼントだ。
ウィリアムは暇そうにしている子供たちに手を引かれ、共に花を飾っていた。笑顔を浮かべる子供たちがしゃがんでほしいと乞う声にそうと腰を下ろす。
「ふ――」
フィラは小さく笑みを零した。ウィリアムの髪に差し込まれた雨浮草。愛らしいと笑ったフィラにウィアイアムが小さく頬を掻く。
料理の手伝いをするクラリーチェとアレクシアの背後から覗き込んでからシラスは小さな声音で呟いた。
「野菜嫌いを直しておいて助かったよ。昔のままなら食べるものが無かったかもしれない」
そんなシラスの袖をぐいぐいと引いた子供たちは「おにいちゃん、おやさいたべれる?」と揶揄うように笑ったのだった。
準備を終え、祝祭の時間がやってくる。淡く輝く光がふわりふわりと雨の様に注ぐ。瞳へと映りこんだ鮮やかな光にチックは小さく息を飲んだ。
「始まりますか?」
「そう、みたいですね」
瑠璃の問いにクラリーチェも静かに頷いて。プルウィアの樹が淡く光を灯し雨の様に光を生み出して行く。その光を受け止めて雨浮草がふわりと踊った。
「フランツェル! 一緒に行こうぜ!」
手を振ったミヅハに「あら、珍しいお誘いね」とフランツェルは茶化す様に微笑んだ。一応は余所者――幻想種としての種族特徴を持たない――であるという事から周囲からの特異な視線が気になったのだ。幻想種であれども立ち入れないような閉鎖的な集落ではアンテローゼの司教と一緒に行動した方が安心だろうと考えたのだ。
「――ってことでデートしようぜフランツェル!」
「ええ、素敵なお誘いをありがとう。エスコートをお願いするわね?」
幼子たちが降り注ぐプルウィアの祝福にきゃあと声を上げている。彼女達が華で飾った冠を被り踊っている様子を眺めてフィラは「どれが美味しいのかの?」と問うた。料理もファルカウのものと少し違うのだろう。ミヅハとフランツェルが「これって珍しい」と語る様子に耳を傾ける。
「フィーの集落では常に質素を良しとしていたが、この集落はどうなのじゃろう?
祝祭の光も、霊樹も気になるのじゃ。どうかフィーに教えてくりゃれ!」
「祝祭の時だけ!」
「たくさんのごはんがあるよ!」
楽し気に微笑んだ子供たちの声音に耳を傾けてフィラはそうかそうかと頷いた。
雨の力は秋の恵みを齎すらしい。その幻想的な美しさは目を瞠る程である。ウィリアムはドリンクを片手にほうと息を飲んだ。
「ああ、本当に綺麗だね。……見せたかったな」
此処には居ないあの人。青銀の髪先に踊った紅の色。彼女ならば「綺麗ね」と笑ってくれるだろうと、小さく呟いて。
いつか、彼女と共に訪れることが出来ればと――そう、考えずには居られなかった。
祝祭の光に鎮魂の願いを乗せる。美しいそれを眺めるクラリーチェはグラスを茫と見下ろした。
皆の魂に安寧を――それ以上に、この村の事を知りたかった。それが故郷へと近づく道になるのではないか、と。そう願ったのだ。
プルウィアの民からは何も得られなかった。期待はしていなかったが、それでもいいとさえ感じているのだから。
「……ああ、凄いですね」
荘厳なる光は、雨の様に降り注ぐ。聖なる哉、と思わず感激を唇に乗せてしまいそうなほどに。瑠璃はその光に魅入っていた。
忍びである己が、その立場さえを忘れて大いなる自然に魅入られている。本来は合ってはならない事であるのに。
「……きれい?」
「ええ。そうだ、お礼をお聞かせしましょう。春の木漏れ日に、妖精郷であった一幕を――」
瑠璃の歌声に耳を傾けて、子供たちが笑みを零して。
チックは歌う。穏やかな旋律を、歌に乗せる。祝福を、恵みの雨への感謝を。祈りの言葉をなぞらえながら。こういう時はそうするべきでしょうと問えばフランツェルは破顔した。余所者だと厭われる存在であろうとも――彼女らを尊ぶ気持ちが伝われば、祝福に転じてくれる筈。
雨に濡れても構いやし無かった。ごろりと転がって光を一心に受け止めたシラスはふ、と息を吐く。
昔から想い出には雨が多かった。雨が降り荒み、抱きしめてくれた『誰かの気配』が拭う様に流される。思い出は、幾重も重なって思い出されて――気づけば、固く拳を握っていた。体の奥で火が燃えている。ゆらゆらと揺らいでいる己の心を褪めす様に、雨や森の空気が身を包む。
――はあ、と。息を吐いた。それだけで穏やかに緩んでいく。
「シラス君」
花籠を抱えていたアレクシアは「皆と遊んできたんだ」と微笑んでシラスへと手を振った。
「今回は来てよかったな。幻想の事件からの良い気分転換になった気がするぜ」
「そうだね」
濡れたねとタオルを差し出したフランツェルを見上げて、シラスはゆっくりと身を起こす。
「あ、そうそうフランさん、帰ったら古語のこと教えてほしいな!
次にまたここに来たときに、もっと詳しくみんなのことを知りたいもの!」
「ええ、勿論。と言っても私は分かる範囲だけよ。……みんなに教わってもいいかもしれないわね?」
くすりと笑ったフランツェルにアレクシアは大きく頷いた。
もうすぐ、プルウィアの祝福は終えるだろうか。この祝祭もそろそろ終わりだ。光が、穏やかに落ちてい征く様子を目で追いかけてからフィラは「美しかったのじゃ」と手を叩いた。
「フィーが見る事の無かった、霊樹プルウィア。なんと言葉にすればよいかの?」
「―――」
幼子が告げた難解な言葉。それに首を傾いだフィラを見てから子供はくすくすと笑う。
「どうか、幸せに。秋の恵みが訪れますように」
幼子の言葉を真似て、祈る。光が落ち着き訪れた静寂は――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でしたイレギュラーズ!
深緑のある村のお祭りでした。皆さんの思い出になりますように!
GMコメント
夏あかねです。霊樹の民の夏祭りを手伝いに行きませんか? 祝祭でもミッドなやつじゃないのです。
●成功条件
・モンスターへの対処
・夏祭りの成功
●霊樹プルウィア
ファルカウより離れた『古語』も残っているような閉鎖的な地域です。浅黒い肌を持った幻想種だけの集落。
プルウィアはクリスタルを思わせる透き通った霊樹です。雨の力を蓄え、魔力に変換し祝祭の夜に花開くように魔力を降らせるそうです。
プルウィアの民の長老である『フィアーレ』はアンテローゼ大聖堂の商会で或る皆さんを歓迎しています。
集落の民達との交流も可能です。幼い子供の姿もちらほらと見られます。
祝祭ではプルウィアの料理が振る舞われますが、全体的に野菜が多めです。森を傷付けないのでしたら料理を振る舞うことも可能となります。
雨浮華で飾られた集落は祝祭ならではの様子に変わります。飾り付けなどのお手伝いも可能です。
仕事をクリアした後はプルウィアより降注ぐ祝祭の光を見に行くことも出来ます。よければ、のんびりと鮮やかな光を眺めに行きましょう。
●モンスター『ずんぐりむっくりとしたクマ』2匹
とても巨大な熊さんとその傍に居るすこし小さめの熊さんです。どうやら親子のようですが。
腹を空かせているために近付くととても狂暴です。
親熊は小熊を傷付けられまいと懸命に闘う素振りを見せます。小熊は親熊のために懸命にちょっかいをかけてきます。
不殺攻撃で倒すことで追い払うことが出来そうです。勿論、倒してしまっても構いません。
●雨浮草
美しい白い花です。瑞々しい香りをさせており、大きな蕾を並べています。
花を開くと受け皿のようになってまるで雨を受け止め、水の上にはぷかぷかと浮くことからこの名前が付けられて居ます。
雨浮草はモンスター達の餌にもなっているようで『ずんぐりむっくりとしたクマ』たちは此れを餌にするために姿を見せたようです。
●同行NPC
フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)がご一緒します。
戦闘は支援を行います。自分の身は自分で守れます。一応は深緑ではアンテローゼ大聖堂の司教の立場ですので其れなりに何かお願いすれば聞いてくれるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、ご一緒に夏の祝祭を見にいきましょう。
よろしくおねがいします。
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