シナリオ詳細
義賊達のフーガ
オープニング
●とある義賊達の……
幻想における脅威とは何だろうか。
悪人? モンスター? 悪徳貴族?
どれも大きな問題だろう。しかし、他にもある。
たとえば……善人の皮を被った極悪人、とか。
「ぐあっ……」
古びた、廃屋に近い建物の中で苦悶の声が響く。
刺されたのは、黒装束を纏った1人の男。
周囲には男の仲間と思わしき人間が血塗れで倒れているのが分かる。
「散々手こずらせやがって。だが、これで終わりだ」
下衆そのものの笑みを浮かべるのは、武装した……何処かの私兵と思わしき男達だ。
彼等の持っている武器は血塗れで、この惨劇を引き起こしたのが彼等である事は明白だ。
「……下衆、め……人の涙と血で肥え太るダニにすり寄って、楽しいか……」
「ああ、楽しいね! こうしててめえらみたいな正義気取りもぶっ殺せる!」
ザクリ、と剣が刺さる音。トドメを刺したのか。
いや……まだ黒装束の男は生きている。
「いずれ、その報いを受けるだろう。貴様とその主人に……ザラストラに呪いあれ!」
「うるせえ!」
振り下ろされる剣。飛び散る血……義賊と呼ばれた一団「薄明の光」は、此処に滅びた……かのように思えた。
しかし、光は僅かに継がれていた。
頭目たる黒装束の男が最後に逃がした1人の少年に。
●1つの依頼
「……ちょっとした依頼があるです」
ザラストラ商会。そう呼ばれる商会がある。
幻想の、とある町で幅を利かせている商会だ。
町のほぼ全ての店はザラストラ商会に強引な手法で合併吸収され、流通のほとんどはザラストラ商会の手の中にある。
かなり強引な商売をしている彼等には黒い噂もあり……その中には人を売買している、というものもあった。
勿論ザラストラ商会自体はそれを根拠のない噂としていたし、事実官憲による調査でも何も出なかった。
しかし、だ。
その町から遥か遠く離れた町に、その証拠が持ち込まれた。
ボロボロの少年が持ってきたソレは……目を覆うような、ザラストラ商会の各種の悪事の証拠。
その中には人身売買の証拠も当然のように含まれていた。
だが、それでは足りない。
もっと確実な証拠を押さえる必要がある。
それには……かなり強引な手法が必要になってくる。
「そこで、潜入捜査ってわけです」
目的となる町は事実上、ザラストラ商会の支配下にある。
その中に潜入し悪事の証拠を掴むのは簡単ではないだろう。
だがしかし、ザラストラ商会は人身売買に手を出している。
ならば……やりようは、いくらでもあるだろう。
「うすぎたねえクズ共を一掃するチャンスです。ばっちりキメてくるです」
- 義賊達のフーガ完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●とある町への潜入
その町は、とある商会に支配されていた。
ザラストラ商会。商人であるザラストラが一代で築いた商会であるが……常に黒い噂の絶えない商会でもあった。
そして……この町に潜入した彼等は、それが真実であると知っている。
そう、たとえば。
「ちわーっす、この地域の屋根を無料で点検しています……あー、これは早く修理しないと雨漏りが起こりますねー」
屋根の修理工を装い屋根に登った『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)であったりする。
「……直営店で外部出入りの多い店が怪しいと思うんスよね」
美咲がやっているのは、高所からの主要な通りの観察だ。
町の外部から来る人とその目的地を控えておこうという考えだ。
そしてそれには美咲が名乗った通り、屋根の修理工を装うのが手っ取り早い。
「町一個支配してバレないと思ったんスかねー……さて、少年たちの努力に応じて『教育』してやりますか」
そして当然だが、潜入しているのは美咲だけではない。
たとえば美咲の視線の先。取引仕入れ先の人員を装い潜入している『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)と『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)のように。
「良い取引でした」
「ええ、こちらこそ。それでは……」
武具店に品を卸した錬は、店の主人に挨拶をしながら店を出る。
自分で製作した高性能品を卸す事で信用を得る作戦だが……上手くいっているかどうかは、まだ判別できない。
「……どうだった?」
「エコーロケーションで探ってみたが、怪しい反応だらけで逆に分からんのう」
しかし奴隷らしき反応はなかった。それを伝えるウルファに、錬は頷く。
「人身売買ってのは隠れてやるには難しい仕事だ。食料などの生活必需品の流れは"商品"の価値を保つためには零にする事が出来ないからな」
何処かに決定的に怪しい何かがある。それを探っていかなければならない。
直営店の1つである家具屋に近づいていくにつれ、2人の被る「仮面」は強度を増していく。
「どうも初めまして。今日はご挨拶に伺いました。ああ、申し遅れました私……」
「いやはや、これはご丁寧に。ところで、そちらの方は?」
「我は護衛じゃ。ああ、品をよく見てもよろしいか?」
「ええ、よろしいですとも」
会話自体は、ひどく平穏に進んでいく。
しかし、それ自体が空恐ろしい。此処は敵地。いつ暗殺者を差し向けてくるかもしれない連中の口の中なのだ。
何処からバレるかも分からない、そんな綱渡り。ファーマイン卿の用意した偽装身分とて完全なる安全を保障するものではない。
それでもやらねばならない。たとえば……錬とウルファがいる家具屋の前を通り宿屋へ向かう、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が「行商人の世間知らずな娘」として潜入しているように。
「パパが商品仕入れてこいってさぁ、ひどくない? 14の私に一人で。で、この街に来たわけ。なんかおすすめある? 商会のボスにお目通りとかできないかしらねぇ」
イーリンが話しかけているのは、宿屋の主人だ。
数日泊る宿であり、「世間知らずな娘」らしく高級な宿だ。
無論……その宿もまたザラストラの支配下であることは間違いない。
事実、宿の主人は困ったような顔をしながらもイーリンに探るような目を向けている。
「そうですなあ……この町で一番の商会といえばザラストラ商会ですが……まあ、難しいでしょうな」
「そうなの? じゃあ、そこに近づけるお店とかあるかしら」
「うーん。直営店ならありますが……」
「へえ、いいわね!」
これもまた、種まきの1つだ。14などと実際より若く名乗ったのも、「1人で」などとわざわざ言ったのも。
違法な奴隷取引をやっている証拠を自ら掴む為の、種まき。
狐と狸の化かしあい、と言い換えてもいい。最終的に化かされるのがどちらかは……まだ、分からないが。
しかし、ザラストラが組織で来るならば、こちらも組織。
宿の主人の見えない場所では……『仕込みバグ』エマ(p3p000257)がえひひっ、と笑っていた。
「こういう何かを嗅ぎまわる仕事は得意分野です。盗賊の本領発揮と行きましょう。今回は面子にも恵まれていますしね、えひひっ」
「ええ。愚者かそれとも何か自信があるのか幸運なのかもしれませんが……それもこれで終わりでしょう」
エマに答えるのは『不可視の』イスナーン(p3p008498)。ギフトの変色体質で髪を派手な金髪にし皮膚の色を濃い褐色に変えたうえで変装しているという、凄まじい念の入れようだ。
「では下調べを済ませたら、後は……」
「ええ、手筈通りに」
2人の役割は、夜闇に紛れての店への直接侵入。
危険すぎる任務ではあったが……2人に、気負った様子は一切見られない。
それはあるいは、同様に危険な任務を担当している2人……『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)のことがあるからかもしれなかった。
その寛治とウィズィが何処にいるのか……その答えは簡単で。ザラストラ本人と対面していた。
それは当然尋常なことではないが……持てる力を最大限に磨きあげザラストラへのアポをとった寛治の凄まじさであるとも言えるだろう。ザラストラの部下に袖の下まで渡す念の入れようは、もはや執念じみた何かという他ない。
……あるいは、だからこそザラストラも会おうと思ったのだろうか。
寛治の秘書としてスーツを着ているウィズィを見る視線を分析するに、多少の色仕掛け効果もあるのかも分からないが。
「それで……あー。カンジ殿、でしたかな? 儂に会うために随分とお骨折り頂いたとか」
「ええ、お会いできて光栄ですザラストラさん」
「うむ……しかしまあ、互いに忙しい身。本題といきましょう。儂にわざわざ会わねばならぬ理由とは?」
用件を言え、と急かすザラストラ。美辞麗句の類を好まない性格なのだろう……そう感じた寛治は、その要求に応える事にする。
「実は私のコネクションの貴族で一人、奴隷を欲しがっている方がいましてね」
「奴隷取引は禁じられておりますぞ?」
何を言っているのか。善良な商人の皮でも被っているつもりなのか。
そんな事をウィズィは思うが、表情には出さない。
表情には出さないが……ファミリアーは出している。
放っているのはネズミのファミリアー。何処まで情報を探れるかは分からないが……。
(敵戦力の推測に繋がる情報や『商品』がいればその数や状態を確認。さて、どうなりますかね……)
そんな事を考えながらウィズィが笑顔を浮かべる横で、寛治は動揺した様子すらも見せない。
「ご禁制品ほど欲しがる方はいらっしゃるし、そういう時ほど値は上がる。違いますか?」
「その通りですな。商機であるのは確かだ。諸々の問題に目を瞑ればね」
「一流のビジネスマンは、一流の取引先を見逃さない、そういうものでしょう?」
「……なるほど?」
ザラストラは背後に立っている使用人らしき男に目で合図すると、寛治へと向き直る。
「一流の取引先。口で言うならば簡単ですな。しかし儂はカンジ殿が口先だけ達者な男であるという疑惑を捨てきれてはおりませぬ」
「最もな疑問でしょう。そして同時に私も、貴方が先方の要求を満たす『在庫』を抱えているか懸念がございます」
「ほう?」
「現在の在庫について、お伺いしたい。それによっては全部買い取る用意もあります」
充分すぎる程の金額を示してみせた寛治にザラストラが見せたのは……善人の皮を脱ぎ捨てた、醜悪にして邪悪な顔だった。
「……どうやら、良い取引が出来そうですな」
「ええ、お互いに」
●壊滅作戦
夜。直営店の1つ……馬屋の地下で、エマは目的のものを見つけていた。
(……女子供ばかり7人。匂いも音も誤魔化しやすい……ってことですね)
寛治が得た情報では、現在の「在庫」は7。つまり、此処に居るので全員ということだろう。
錬とウルファが得た情報から判断するにアサシンを含む汚れ仕事担当の連中は恐らく武器屋に潜んでいる。
こちらはイスナーンが戦力分析の為に忍び込む予定になっているが……上手くいくことを祈るのみだ。
(見つかって捕まるのは美味しくないので、慎重に戻りますか)
此処ではまだ、捕まっている人々にも見つかるのはマズい。
「えーと……あとはイーリンさんに頼まれた件でしたね」
誘拐して商品にでもしようとしたのか、イーリンをつけてきていたという男の情報を「こんなやつだったわ、エマ」という少々お怒りの言葉と共に受け取っていた。
もっとも、その情報はイスナーンとも共有済だ。まもなく全員に情報が行き渡るだろう。
それも「成功すれば」ではあるが……屋根の上に美咲が定期連絡要員として潜んでいる。
だからきっと、上手くいく。そう信じているし……錬が練達上位式で放った式神も、町の外で連絡員と接触していた。
「……なるほど、了解した。錬殿にも伝えてほしい。明日、収穫の準備を整えるとな」
そして、朝。まだ鶏も鳴かぬような時刻に、寛治はザラストラとその護衛……いや、前日にイスナーンが確認した裏仕事担当の私兵団と相対していた。
「商品は?」
「用意しております。運搬用の馬車はサービスだ。よろしく伝えてほしい」
なるほど、確かに馬車があるが……寛治とウィズィの位置からでは確認できない。
「ふむ……」
寛治が馬車を見るふりをしながら屋根の上に視線を向ければ、そこには合図をしている美咲の姿がある。
……ならばもはや、こんな胸糞悪い偽装の必要もない。
「確かに伝えましょう」
その「合言葉」に、無数の足音が響く。
武器を抜きかける私兵団が武器を抜くより先に飛び込んだのは、「司書」を名乗っていたイーリン。
「『騎戦』である!! その罪、自覚はあるかしら?」
掲げるのは旗印たる「見果てぬ先」……そしてレガド・イルシオンの王フォルデルマンが認めた勇者の証である、真のブレイブメダリオン。
その意味を知らぬ者など、居はしない。
「勇者だと……!? 馬鹿な、何故こんなところに!」
悪人故の思考か、瞬間的に馬車の方へ私兵団が振り向くが……そこに、エマとイスナーンが着地する。
「えひひ、そうはさせない、ってところですかね」
「くっ、この……ぐはっ!?」
イスナーンのブルーコメット・TSが私兵団の1人を容赦なく貫く。
「どうして悪人は『自分なら大丈夫だ』なんてありもしない幻想を抱くのだろうな? 年貢の納め時という奴だ、観念しろ」
「金で全てを支配しようとする輩は、金ではどうしようもない力でねじ伏せられるものじゃ」
そして別方向から現れたのは錬とウルファの2人。
それにしても、強引な支配には不満がつきもの、反発する領民が居てもおかしくないはずじゃが……と、潜入捜査の際にウルファは錬にそう漏らしていた。
その答えはイスナーンがもたらした、非常にシンプルな答えで……全滅した「薄明の光」が、その最後の抵抗勢力だった。
他は全員殺されている。
その事実に、錬もウルファも……これ以上ないくらいに憤っていた。
「魔刻開放……」
秘めた力を開放し、圧倒的な魔性を発揮する錬に私兵団はすでに及び腰で、ザラストラはすでに逃亡できるルートを探している。
だからこそ、ウルファは怒りと共に叫ぶ。
「逃げるな、死してでも償え!」
「じょ、冗談ではな……ぐあっ!」
「はいストーップ。別に殺してもいいって言われてるんですよ、私達は」
ザラストラを捕らえたのは寛治とウィズィ。
証拠隠滅の恐れのあるものについても、今頃は美咲が窓からダイナミックエントリーしながら確保しに行っている。
「く、くそうっ! 何故、何故こんな……!」
何故かと問われれば、何重にも罠をかけ、何重にも策を練ったからであり……それに嵌ったからだという他ない。
しかし、一番の理由は……やはり。
「言っただろう。年貢の納め時だ、とな」
「貴様が他者をねじ伏せたように、今は貴様がねじ伏せられる。それだけの論理である」
錬とウルファの言葉に、ザラストラは悔しそうに2人を睨みつけ。
しかし、今回の「鍵」であった寛治へとザラストラは視線を向ける。
「貴様さえ、貴様さえおらなんだら……!」
それに寛治が返す言葉は、ただ1つ。
「経費は後日、貴方の私財で精算させていただきます。では」
まもなく、連絡員の手配した幻想貴族ファーマイン卿の治安部隊が突入してくるだろう。
それで、この町の闇はひとまず一掃される。
どのような経緯があったにせよザラストラの配下と化していた町の住民も御咎めなしとはいかないだろうし、失われた命は返っては来ない。
しかし……それでも太陽は昇る。どのような形であろうと……新しい日は、くる。
願わくば来たる未来が、今日よりも良いものであれ。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
コングラチュレーション!
ゴリッとザラストラにアポを捻じ込んだ時点で勝利が確定したとも言えましょうか。
その他被害も皆様の素晴らしいプレイングによりゼロでした!
おめでとうございます!
GMコメント
ザラストラ商会の悪事の証拠を掴みましょう。今回、潜入捜査官の証拠として近隣の幻想貴族「ファーマイン卿」の紋章を1つ預かっています。いざという時に突き付けると良い感じになる可能性があります。
ただし、使いどころによってはザラストラ逃亡の危険を招くでしょう。
町には食料店、雑貨店、武具店、家具店、馬屋といったザラストラ商会直営店、そしてザラストラ商会の本拠地である3階建ての屋敷があります。
何処かに人身売買の証拠である違法に奴隷にされた人達が隠されています。
この町はザラストラ商会に事実上支配されている為、強引過ぎる手法は事態をややこしくする可能性もあります。
また、ファーマイン卿により偽装身分も入手可能です。
必要な小道具なども入手可能となっております。
□ザラストラ
ザラストラ商会の主。傲慢で自信過剰。超極悪人で、登り詰めるまでにかなりの人間を殺している。
捕えても良いですし、死んでも問題ありません。ただし、確実な証拠を掴まなければなりません。
□私兵団
ザラストラ商会の雇っている私兵団。金の力で結構強いのを雇っています。
戦い方は様々ですが、「薄明の光」のアジトを暴いたアサシンが1人所属しているのが分かっています。
ちなみにこいつらも死んでも問題ありません。
□連絡員
ファーマイン卿との連絡をしてくれる人。
毎日夜中に町の外で会えます。前日に連絡をすれば、ザラストラ商会をどうにかした後の治安維持部隊を派遣してくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
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