PandoraPartyProject

シナリオ詳細

誰が為に摘む花か

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●高嶺の花
 昔々、或る所に一組の男女がいました。男は女を護り慈しみ、女は男を支え慈しみ、大変仲睦まじい様子でした。
 さてある日、男の友人が言いました。
「おまえはかのじょに おくりものをしないのか」
 男は女に愛こそ常に注いでいたものの、何一つものを渡した事はありませんでした。はて、と男は悩みます。女は今まで全く要求をしてこなかった。けれども、友人は己のパートナーによく贈り物をするという。もしかして、彼女も欲しいものが何かあるのかもしれない。今までそれを我慢していたのではないか。
 思えば女が着飾ったのを、男は見た事がありません。女はあるがままで既に美しいと思っていたからです。しかし、女はそうではないかもしれない。美しい髪飾り、華やかな首飾り、しなやかな腕飾りが欲しいのかもしれない。
 悩んでいる男に、友人は言いました。
「おまえにいいはなしがある たかねのはなをしってるか」
 男は身を乗り出しました。是非聞かせてくれと、友人にせがみます。
 友人は言いました――“高嶺の花”が南の絶壁にあるという。白い獣が守っているが、武器を持っていれば、お前の腕なら問題ないだろう。その花は白く、きっと女に似合うはずだ――

 男はさっそく棍棒を手に、絶壁を上り始めました。花の場所はすぐに判りました。だって、ほら、あんなにも綺麗に輝いている白色の花を男は見た事がありません。
 少しの間昇り続けていると、数匹の獣が器用に凹凸を渡りながら、男に近付いてきました。これが友人の言っていた白い獣なのでしょう。男は棍棒を振り上げ――そして、岩を踏み外しました。

 美しい白い花は崖の上。悲しい赤い花は、崖の下。
 女はただただ泣きました。あなたの愛さえあれば、着飾るものなど何も要らなかったのに。


●ノーブルリリー
「という噺があるのです。少し悲しいですね」
 地図を広げて語るのは、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。ユリーカは小さな旗をぽんと山の傍に置くと、ここが今回の崖なのです、と明るい声で言う。
「依頼人はこの村に住む病弱なお兄さんです。彼女さんが学者さんで、お花の事を調べているから協力したいそうなのです」
 でもでもきっと、彼女さんへの「あいのあかし」かも知れないですね! とユリーカは少女らしく照れた様子。情報屋に専念しているとはいえ、彼女も年頃の娘だ。そういう話に興味がない訳ではない――のかもしれない。
「お話では、そのお花は百合のような形をしているそうなのです。実際、崖の上がぴかぴかしてるのを見た事がある人はいるそうなので、あるかどうかの確認をしてほしいのです。摘んじゃうかはお任せしちゃうとのことですが……ちょっと厄介な場所にあるのです」
 ユリーカが言うには、崖へのアクセスは下から昇っていくしかないのだという。山から回り込んでも、崖になり損ねたような亀裂がいくつも走っていて、しかも整備されておらず、とてもじゃないが崖にはたどり着けないのだとか。
 飛行すれば簡単じゃないか?と問うイレギュラーズに、駄目なのですとユリーカは首を振る。崖の辺りは気流が乱れており、安易に飛行すれば風に振り回され、落ちてしまうのだという。ゆえに“下から昇っていくしかない”のである。
 さらに、崖を住処にする動物もいる。シカに似た草食動物と、そのシカを餌にする肉食動物。今回警戒すべきは後者だ。草食動物はヒトを恐れて逃げてしまうだろうが、肉食動物はそうはいかない。
「今は巣立ちの時期らしくて、みんな元気いっぱいに狩ってくるそうなのです。齧られたら大変なのです! きっと痛いのです! あ、でも殺しちゃ駄目なのですよ! 獣を見に来る観光客さんもいるらしいのです!」
 なので、気をつけて下さいね!
 念を押し、ユリーカは一同を送り出した。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 素敵ですよね、高嶺の花。花に関する伝承は、割と物悲しいものが多いように思います。ですが今回はハッピーエンドで終わらせましょう。
 以下、まとめです。

●概要
 “高嶺の花”の存在確認。採取するかは自由

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 高嶺の花の有無について加味した精度です。
 「時折崖上で白い光を見る」という目撃証言はあるようですが…

●立地
 傍の村から崖にアクセス可能です。崖はおよそ20mの高さ。
 伝承により簡単な観光地化されており、道は整っています。歩いて行けます。

●獣
 ※草食動物は勝手に逃げてくれるので度外視して大丈夫です。
 ※出来るだけ殺害は避けて下さい。

 肉食獣が1家族棲みついています。両親2匹と狩りの練習中の子どもが3匹。
 子どもは爪と牙による至、近の物理攻撃を持っています。両親は子を見守るため攻撃はしてきませんが、こちらをマークしたりブロックしたりして動きを封じてきます。(この場合の「後方」は「下に降りること」になります)
 全員崖での生活に慣れているため、器用に動き回ってきます。崖の横幅は広くないので、まく事はできません。ですが大丈夫、慣れているからちょこっとくらい叩き落としても平気です。

●登山?について ※重要
 崖周囲はなぜか気流が乱れており、飛行は出来ません。危険です。
 登山ツールは二本の杭とロープを用いた簡単なものですが、こちらは信用して大丈夫です。武器も扱えます。
 ただし、横移動には主行動を消費し、移動+αは出来ません。ですので、余り離れて登ると危険です。昇る順番や並び方が肝要になるかもしれません。


 アドリブ絡みが多くなるかもしれません。NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写します。
 花について思う事などを綴ってください。

 では、いってらっしゃい。

  • 誰が為に摘む花か完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月30日 21時20分
  • 参加人数6/6人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫

リプレイ

●誰が為に昇るのか
 花の為に散った男。
 その伝承が残る崖は、伝承のおかげで人々の目に留まるような、そんな何でもない平凡なもののように見えた。
 朝の早い時間にイレギュラーズ達はそこを訪れた。上り下りを日没までに終えられるようにだ。

「ううぅ……ぐすっ……ふえぇ……」
「いつまで泣いているのですか……」
 『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が、呆れたような案ずるような微妙な色で声をかける。ハンカチを差し出したが、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は大丈夫、とそれを遮り、ぐしぐしと目元を手で拭った。
「だって、悲しいお話だよぉ。男の人は女の人を思って……ううっうっ、うう……」
「ああほら、やっぱりハンカチいるんじゃないですか」
「ご、ごめん……うぅ、泣いてる場合じゃないよね……」
 結局ハンカチを受け取り、涙を拭う焔。感受性の強い彼女には、悲恋の話は涙腺にチクチクときたらしい。
 一方『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と『特異運命座標』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)、そして『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)は花についてそれぞれ思うところがあるようだった。つまり、崖の上にあるのは実は花ではなく“花のように見える何か”だった、という可能性だ。
「学者さんに聞き取りをしましたけど、伝承以上の事は判らないと言ってましたわねぇ」
「うん……実際に登った人がいないから仕方ないね。崖の周りの風が変なのは何か関係あるのかな」
「関係があるとしたら、採取は少し危険ですね……発光しているのは、アーティファクト、とか……?」
「うーん……やっぱり登ってみない事には」
 わからないかな、とアレクシアが崖を見た。そちらではマルク・シリング(p3p001309)が崖の中央部――見晴らしや凹凸などを考慮して、最適ルートだと相談で決まったところだ――を見分し、杭を打ち込もうとしている。やがて涙が止まったらしい焔とヘイゼルもそれを手伝って、最初の杭を打ち終わったようだ。マルクがこちらを振り返り、準備は大丈夫かと問う。
「一応確認するけど、二列になって昇っていくので良いかな。こっちがアレクシアさんと焔さん、ユゥリアリアさん。そしてもう片方がヘイゼルさん、シルフォイデアさん、そして僕。アレクシアさんは杭の使い方、判る?」
「大丈夫。さっき君が打ってるところも見たし、なんとかなると思う」
「うん、じゃあ日が昇り切る前に始めようか」
 その言葉に全員が頷いた。獣との戦闘で時間をとられるのは判っているし、花の真偽を確かめて、採取できるかも調べなければならないのだ。早いうちに登り始めてしまいたい。
 迅速に、各々が上る準備を始めた。足で体勢を整えながらロープを手繰り寄せるように、崖を登り始める。

 ヘイゼルは慣れたような様子で、アレクシアも丁寧に杭を打ち込み、ロープを巻き、着実に上へ登っていく。速度を合わせるまでもなく、自然と同じくらいのペースで登る事が出来ていた。
 視界が高くなるにつれて、見えてくるものがあった。湾曲した角を持つ小さな草食動物が、岩の狭間に生えた雑草を食べている。
「ふむ、例の白い獣はまだいないとみていいのかな」
「そうですね……まだ、草を食べる動物がいますから……」
 ヘイゼルの呟きにシルフォイデアが頷く。彼らがのんびりしている間は、安全に崖を登れるだろう。マルクは草食獣の動きを気に留めながら、最後方をゆっくりと上がる。

「すごい景色だね。怖くない?」
「ええ、大丈夫ですわぁ。……それにしても、強い風ですわね」
 アレクシアの問いにユゥリアリアが答える。そして髪を押さえ、呟いた。そうだね、と焔も頷く。崖に貼り付いていても判る。確かに此処ではスカイウェザーどころか、鳥さえも生きられないだろう。
 上下左右に風が吹き荒れ、明らかに気流が乱れている。それが高嶺の花の所為なのかは定かではないが――朝に此処を訪れた時から、鳥の影を見ていない。軽く見回してみるが、巣のようなものも見当たらなかった。空の敵がいない、地を走る生物の楽園ともいえるだろう。……だからだろうか。この崖の上にある花が、高嶺の花なんて呼ばれるのは。
(…ならわたくしは、さしずめ雑草というところかしら)
 ユゥリアリアは思う。それは自虐ではなく、どんなに困難な場面に直面しても、踏ん張るように立ち上がってきた自信ゆえのものだ。たおやかに咲く、というには、自分は少しばかり“目と耳が良すぎた”。けれど、それを後悔してはいない。雑草には雑草なりのプライドと、雑草ならではの根性があるのだ。
 ――だからだろうか。そんな一同を見下ろし、崖の上から下りて来る白い影たちはどこか悠然として見えた。己たちがこの崖の支配者なのだとでもいうように。
「来た。みんな、準備して」
 マルクが呟く。全員が頷き、いったん停止した。


●狩るために走るのか
「…狩りの練習でしたら、暇な観光客の方を相手にしてほしいのですが」
 ヘイゼルがやや面倒そうに呟く。観光客の生死や安全は、彼女にとっては然程重要ではない。明らかに自分たちを狙って、軽い動きで降りてきている。それが厄介だという思いの方が強い。
「殺しては駄目……なのでしたね。努力します」
 片手でロープを握り、もう片手で舞うような仕草をとるシルフォイデア。榊神楽――皆の動きを軽くする支援の術だ。
 獣は軽い動きで降りてくる。ヘイゼルたちの側に二匹、アレクシアたちの側に一匹の子どもたちが降り立ち、両親は上から様子見するようだった。

「ごめんね、ちょっと怖い思いさせるよ!」
 さっきまで草食動物が食んでいた葉に、焔がギフトで火をつける。甲高い声を上げて獣の子どもは一旦退いたものの、少しの後、逆に『なんだろう』と興味深げに近付いた。本能で退いたが、余り熱さを感じないので興味の対象になっているようだ。
 やがてその温度が厳しくない事に気付き、少し前足をかざした後……恐怖の対象ではないと判断したのか、乗り越えて再びイレギュラーズを狙う。
「ああ、それはほんとは危ないものなんだけどなー!?」
「そうだね…此処では炎なんてほとんど見ないんだろうね」
 後で火は怖いって事を教えてあげて欲しいなあ、と獣の両親を見上げて呟き、アレクシアが威嚇術を放つ。崖から離れて吹き飛ばないように、微妙に角度を調整しつつだ。
 衝撃に吹き飛んだ獣はころころと崖を落ち、けれど猫のようなしなやかさでもって岩場に着地する。平気そうな様子に、判ってはいたもののアレクシアは知らず知らず安堵の息を吐いた。獣は再び軽々と登って来て、今度は後ろに位置していたユゥリアリアを狙う事にしたようだ。
「一応全員狙ってみる、という感じなのかしらぁ…? それとも……」
 確かにユゥリアリアの懐には、獣ならきっと好きなものが入っている。
 しかし獣が近付くより先に、アレクシアが放った威嚇術が再び獣を吹き飛ばし、焔の火炎弾がサポートするようにその傍で爆ぜた。
「マルク様! これをお使いくださいませ!」
 隣の列に向かってユゥリアリアは声を張り上げ、革袋を取り出した。獣ならみんな大好きな、アレ。

「なかなかしぶといなあ」
 一方、マルクは何度目か獣の子を吹き飛ばし、そのバイタリティに内心で舌を巻いていた。不殺とはいえ痛みはあるはずだし、崖を落ちる恐怖もあるだろうに、獣の子はいまだに喉を鳴らして息巻いている。
 さらに両親の片方が降りてきて、僅かに威嚇の姿勢を示している。
「……親御様を、怒らせましたかね……?」
「いや……本気ならとっくに襲ってきているはずだ。手本を見せる気なのかも」
 シルフォイデアの疑問に、マルクが答える。
 彼女の榊神楽のおかげで体が軽いからか、元々体捌きに自信があるのか、ヘイゼルは曲芸のようにもう一匹の獣の子が繰り出す爪を避けている。彼女がマークしてくれているおかげで、一匹はヘイゼルに気を取られたままだ。翻りざまの衝術が、獣を吹き飛ばしてころころと崖下に落とす。
「全く、元気な事です。こっちの体力が尽きてしまいそうなのです」
「吹き飛ばして地道に削るしか、ありませんかね……」
 ため息交じりにシルフォイデアが呟いたその時だった。
「マルク様! これをお使いくださいませ!」
 隣列のユゥリアリアから声がかかり、マルクが顔を向けると革袋が投げてよこされる。片手でキャッチして、なんだろうと中を改めた。
「……生肉?」
「本当なら登り切ってから使うつもりだったのですけれど、このままじゃきりがないですわぁ!」
「ありがとう! ――ほら、これでも食べて僕らを見逃してくれないかい」
 革袋から出した肉に、ぴくりと子どもたちが反応する。その分厚い生肉を崖の下の方へ落とすと……まさに疾風怒濤の如く、子どもたちは肉を追って降りて行った。
「おや、そんなものが。効果覿面ですね」
「まあ、狩りの練習にはならないけどね。……ほら、親御さんはちょっと怒ってるみたいだ」
 ヘイゼルに答えて、マルクは尻尾をゆらりと揺らす獣の親を見た。その雰囲気は確かに刺々しい。足踏みをするごとに、カチカチと爪が岩に当たっている。
 親が器用に岩を横渡りしてくる。その速さは子どもの比ではない。はっと息を呑んだときには既に目の前。シルフォイデアを狙った爪が鋭く奔った。
「きゃ……!」
「おっと」
 バランスを崩しかけた彼女を、ヘイゼルが上から、マルクが下から支える。彼女が傷付きながらもロープにつかまり直したのを確認し、ヘイゼルが威嚇術を放つ。
 獣は吹き飛ばされたが、子どものようにころころとはいかない。僅かに体勢を崩しただけで、すぐにまた向かってきた。
 ――これ以上は。シルフォイデアが力を指向させる。
「……ごめんなさい…っ」
 マギシュート。
 その一撃は重い音を響かせ、獣を吹き飛ばした。ごろり、ごろり、大きな体躯が転がっていく。見守っていた方の親も思わず立ち上がり、転がっていく身体を追いかけた。
「……大丈夫?」
「はい……なんとか、です。それより、親御様は……」
 三人が見下ろすと、肉に夢中だった子も慌てて落ちてきた親に駆け寄っている。かなり下の岩場に横たわっていた獣に全員が息を呑んだが――やがてむくりと起き上がったのを見て、誰ともなく安堵のため息を吐いた。
「よかった、動けるみたいだね」
「今のうちに登ってしまいましょう。多分戦意は失っているでしょうが、また来ないとも限りません」
「おーい! そっちは大丈夫?」
 隣列から焔の声がする。どうやらあちらは親の介入もなく、肉だけで追い払えていたようだ。
 シルフォイデアの負傷をマルクがヒールオーダーで癒す。大丈夫です、と答えたのはヘイゼルだ。シルフォイデアも大丈夫だと頷く。
 一同は少しだけ休憩し、やがてまた崖登りを再開する。
 高嶺の花まで、あと少し。

●誰が為に咲く花か
 登り初めてどれほど経っただろうか。一同は崖上まであと少し、というところまで来ていた。
「崖の上はどうなっているか判りませんからね、気をつけましょう」
「そうだね。全員が立てるかも判らないし……」
 ヘイゼルとアレクシアが頷き合う。場の確認は最前である彼女たちの役目だ。
 ロープを握り、昇る。崖の淵に手をかけ――目元までをひょこりとのぞかせたのは、アレクシアだった。
「……」
 一面の白に、思わず息を呑んだ。何の色か一瞬判らなくて、何度か瞬きをして……ようやくそれが、広い崖上一帯に咲き誇る花の色だと知る。まるで森が場を用意したかのようにひらけた場所。百合に似てしとやかに俯いた花が、崖の傍とは打って変わって穏やかな風に優しく揺れている。
「……すごい」
「えっ、どうなってるの? 早く見たいよー!」
「あ、ああ! ごめん! なんだか登っても大丈夫だけど、登っても大丈夫なのかな? って感じが」
「どういう感じですの?」
 正直なところを述べたが、矛盾している。矛盾しているけど、そう言わざるを得ないのだ。――隣を見ると、ヘイゼルは崖の上に腕をかけて既に登っていた。アレクシアも同じように続く。まずは最前の二人が登り、助け合いながら六人全員が崖の上へと昇る。
 ほう、と吐いた息は誰のものだったのか。一面に広がる穏やかな白い景色に、誰もが採取やスケッチを忘れて見入っていた。
「……すごいね。高嶺の花っていうから一輪だけか、花じゃないかもしれないと思ってたのに」
「……歌ってる」
「え?」
「花たちが、歌っています……」
 シルフォイデアが、胸元に手を当てながら言う。自然と共存する彼女の耳には聞こえていた。『ようこそ』『勇気のある人』『大変だったでしょ』――花々が歌にメッセージを載せて、そよそよと揺れている。
「……これだけあれば、採取しても大丈夫そうですか?」
 ヘイゼルの問いに、自然と対話する術を持つ者たちは少し沈黙して、そして笑う。何がおかしいのだろう、とヘイゼルは首を傾げた。アレクシアが口元を隠しながら言う。
「ああ、ごめん。だって…みんなが同じことをいうから」
「みんなって?」
「ここのお花みんなだよ。『全然大丈夫だよ、私を連れて行って』って」
「そっか! じゃあ、丁寧に運んであげなきゃね……じゃじゃーん!」
 嬉しそうに頷いた焔が、妙に膨らんでいたバッグからごそごそとスコップや植木鉢を取り出す。採取して持って帰る気満々だったようだ。
「僕はこの風景をスケッチするよ。少し時間をもらえるかな。流石に全部は持って帰れないから」
 準備の良さに笑いながら、マルクが言う。崖を登り終え、獣を払った安心感からなのか、一帯を和やかな空気が包んでいた。
 焔は早速花の選別にかかる。太陽が真上からかなり傾くまで、崖上での憩いは続いた。

●君が為
「……という訳でした」
「はい!これが証拠のお花だよ!」
 数時間後。花を採取し終え、崖を降り、イレギュラーズが向かったのは依頼人の青年が待つ家だった。帰りは獣の襲撃もなく、かといって風の厳しさがやむ事もなかったが――至って順調に地上まで降りる事が出来た。
 ことのあらましはマルクとヘイゼル、アレクシアが説明し、スケッチを渡す。そして最後に焔が実物を。
「どうもありがとうございます。夢のようですね、伝説の元となった花が目の前にあるなんて…綺麗な花だ、確かに百合に似ている。この花が群生しているとなると、圧巻だったでしょう」
「ええ! すごかったですわぁ…あ、でも、見に行っては駄目ですわ。獣は怖かったのですから」
「はい、判っています。頂いたスケッチで風景は想像できますし、何より実物が目の前にありますから。彼女の研究も進むと思います。…いつか、安全に崖を登れるような発明が現れたら、見に行ってみたいですが」
 ユゥリアリアの案ずるような言葉に、青年はスケッチを見ながら呟く。……でも、と僅かに言葉を詰まらせた。
「獣たちの事をおもえば、そういうものは発明されない方が良いのかもしれないですね」
「……そうですね。彼らもあの場所で生きていますから」
 ヘイゼルが頷く。どちらに味方するでもないドライな気風の彼女だが、「人間が安全に崖を上る術」はない方が良いように思えた。きっとそれが、互いの為だ。
「……彼女は、喜んでくれるでしょうか」
「きっと喜びます。…お花も、喜んでいますよ」
 はにかむように言う青年に、シルフォイデアが答える。喜ぶとは学術的な意味でなのか、それとも別の意味なのか。青年は花ではなかったので、彼女にはその真意は測りかねた。
 かくして高嶺の花は青年の手の中に。同胞とはぐれた少しの寂しさと、新天地への歓び、そしてイレギュラーズ達の勇気に応えるかのように、清かに白く輝いていた。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!目的達成です。
ロープでの登る順番や地形の選別などがきっちり詰められていて、寧ろこちらが「なるほど~」という感じでした。
花についてもしっかり考察されていて、お見事でした。
ご参加ありがとうございました!

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