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シナリオ詳細

ブラックマネーファイナンス ~Deadly Work~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●人は助け合って生きているのさ!(※可能な限りの前向きな表現)
「シラスぅ~、シラスシラスシラスくんよぉ~」
 ごっつい指輪のはまった手でシラス (p3p004421)の頭頂部を掴み、頬から顎にかけてをぺちぺちなで回す牛頭の男がいた。
 ミノザウワー。混沌ヤミ金融ミノファイナンスの社長であり、ただいま真っ青なかおしてプルプル震えてるシラスに『くそやべえ借金(※可能な限りの前向きな表現)』を課した人物である。
「お前の事は男として認めてる。だからよぉ、借りた金を返さないなんてこたぁねえよなあ」
「あ、ああ……」
 顎をがしりと掴みシラスの頭を固定すると、ミノザウワーはスゥっと顔を前にだし覗き込んだ。
「ミニスカメイドにして売るぞコラ」
「それだけはヤメロォ!」

 さあシラスくんがミニスカメイドなってしまうのかしまわないのかどっちなーんだい!

●なー……――!
 で、終わる話ではござらぬ。
 ただいま絶賛詰められ中のシラスくんと同じ円形テーブルを囲む、七人の男女があった。
 なにもないテーブルの、みょーに沢山あるナイフっぽい疵痕をじーっと見つめるだけで何も言わない咲々宮 幻介 (p3p001387)と日車・迅 (p3p007500)。
 二人それぞれの片手が、別の豚頭の男によって掴まれていた。どういうわけか振りほどけない。パワーでっていうか、恐怖で。
 豚男は二人の手をパーにした状態でテーブルに伏せさせると、鶏頭の男が横からサバイバルナイフを取り出した。
「…………」
「…………」
 二人は何も言わないまま、幻介と迅の指の間を高速でタカタカナイフを突き立てはじめる。あーテーブルの傷ってこうやってできたんだなあっていう気持ち(※可能な限りの前向きな表現)で震える二人に対して、絶賛タカタカ中の鶏頭はベロだして半笑いのまま両目それぞれで違う方向をむくという絶妙にヤバイ顔を二人に向けていた。というか、両目それぞれで二人の顔にぴたりと合わせていた。
「二人とも、何をやっちゃったんだろうねぇ……」
「さあ……」
 シルキィ (p3p008115)と蓮杖 綾姫 (p3p008658)は今にも叫び出しそうな二人を横目に、肩身狭そうな様子で珈琲のマグカップを両手でつつんでいた。
 珈琲は既に冷め、水面は微妙にふるふると揺れている。
 揺れが僅かに激しくなったところで、雑賀 才蔵 (p3p009175)が『ヴァー!』て叫びながらテーブルの額を叩きつけた。
「ニトロマックィーンが絶対に勝つ八百長試合じゃなかったのかよぉおおおおおあああああああああ!!!!」
「落ち着け! あと大声を出すでない!」
 ヴァーって言いながら額を叩きつけ続け眼鏡がたいへんなことになった才蔵を、咲花・百合子 (p3p001385)が後ろから羽交い締めにした。
 そんな彼女のポケットからこぼれ落ち、舞い散っていく白い吹雪。わぁ、季節外れの桜かな? ちがうね、外れた馬券だね。
 白目を剥いて沈黙した才蔵と、その横に座り両手で顔を覆うコルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)。
 場に流れたのは才蔵の額から流れる血と、ナイフでテーブルにタカタカする音だけだった。
 そんな沈黙を破るように、右手いっぱいに握りしめた外れ馬券の束をドンとテーブルに叩きつけるコルネリア。
「こうなったら……受けるしかねえ」

 経緯はシンプル。
 シラスの掴んできた闇情報によって100%財産を十倍にできるチャンスに恵まれた八人は意気揚々と競ロバ場へおもむきおろした貯金から何からをがっつりベット。右手でワイングラスをくーるくーるしながら莫大な財で闇市ぶんまわす想像をしていた矢先、フギャンとかいいながら一位になるはずだった超幸運なロバ(※可能な限りの前向きな表現)の前足がへし折れたのだった。
 その時確かに聞こえた。骨の折れる音。否、自分たちの運命が折れる音を。
 『絶対十倍にするから!』といって金を借りたこともあいまって、監視のために真後ろから様子を見ていたミノザウワーたちの肩を叩く音もまた……同じ音に聞こえた。

「俺は鬼でも悪魔でもあるが、金になるならなんだっていい。お前等の場合内臓うっぱらうよりコッチの仕事を流したほうが金になる」
 真っ黒な紙に魔法であぶり出すタイプの依頼書。
 闇ギルドに出回るという闇依頼である。ローレットにもそうそう来ないような、フツーのヤツが参加したら死ぬタイプの依頼だった。
 受けないという選択肢はない。
「やってくれるよな?」
 ぽんぽんと両肩を叩くミノザウワーに、ノーと言える選択肢もまた、ない。

GMコメント

 ひょんなことからヤバイ借金をしてしまった八人。
 がけっぷちから這い上がるため、八人による起死回生の闇依頼が始まったのであります。

 このシナリオは三つの闇依頼を手分けして引き受ける3パート選択制。人数が2~3人になるように担当を分けましょう。
 それぞれの闇依頼はこちら

●『マジックアイテム窃盗』パート
 セメンダイ卿の実験室から『命の灯火』なるマジックアイテムを盗み出します。
 『地獄の大穴』と言われる恐ろしいモンスターの救うダンジョンの中階層にて謎の実験を繰り返しているというセメンダイ卿。彼の用いるアイテムのひとつ『命の灯火』が高値で取引されています。
 研究室にたどり着くまでは完了したものとして判定し、施設内からいかにアイテムを盗み出すかをプレイングに仕掛けてください。
 恐ろしいモンスターたちを日常的に狩るだけの能力をもった人々が集まり、謎の実験を繰り返しているというこの施設。捕まったらマジでタダではすまないので、あらゆる危険を警戒し、いざとなったら強引に逃げる手段も用意しておきましょう。

●『貴族の誘拐』パート
 幻想王国南に位置する島にてバカンスを楽しんでいる貴族の家族ファーマリー家。
 この家の娘を誘拐することが依頼の成功条件です。
 父と母と12歳の娘という三人家族で、それなりの貴族だけあって4~5人の護衛をつけています。
 海辺でバーベキューなど楽しんでいる最中なので、そこを襲撃する計画になっています。
 父母娘の生存は絶対条件。護衛は殺害してもいいが『殺害しすぎない』ことでハイエナ的に現れた強盗たちに利益を横取りさせないというデリケートな戦い方も必要になります。
 また、このとき正体が知れると大変なことになるので必ず変装していきましょう。(スキルやアイテムがなくても変装に成功するものとします)

●『幼体呪術の人体実験』パート
 一時的に対象を幼体化させる呪術の人体実験を受けます。あなたが受けます。
 この呪術は未完成なものであり、どんな副作用がるか全くわからないのでとりあえず誰かにかけてみようぜという具合に被験者が募られました。
 実験方法は幼体呪術をうけ、それによる身体能力の変化を見るべく獣系モンスターのうようよいる森に放ってみるというものです。
 全員5歳児くらいのちっちゃい身体になり、どこから出てくるかわからないモンスターたちと戦わされることになるでしょう。警戒能力もさることながら、サイズ感やパワーの乱れの中でなんとかゴリ押しで戦い抜くことが求められるでしょう。
 一定時間が経過すると元にもどり実験は終了するらしいです。ずっと猿叫めいた笑い声をあげる呪術サイエンティストのフレーランが『治るよ。たぶんぜったい』て言ってました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ブラックマネーファイナンス ~Deadly Work~完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
シラス(p3p004421)
超える者
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ

●『幼体呪術の人体実験』
「キョーッキョッキョッキョッ! キミらがモルモ――治験バイトさんたちだねェ!? よぉーく来たねェ! ダイジョウブダイジョウブ、何も心配無いからダーイジョーブー!」
 来て早々こんな奴がいたら、誰だって不安になる。背後にはホルマリン漬けになったいろんな動物や知らないひとの手とかが浮いてたしなんなら生首も浮いてた。
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は『結構なおお手前で』とか言えちゃうメンタルだったが、後ろの『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)と『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)は違う。両手で顔を覆ってうずくまり、なんかしくしくいっていた。
「はー……大金に目がくらむとは僕もまだまだ修行が足りませんね。
 当たっていたら一生お肉食べ放題だったと思うと惜しいですが……もう賭けは止めましょう。
 今回は寿命が縮む瞬間を味わいました。貴重な経験でしたが二度は要らないので僕は競ロバにはもう近づきません」
「くそっ、どうして拙者がこんな目に……もうやだ、拙者賭け事やめる!!」
 こういうこと言う人は絶対辞めないものだが、スッと顔をあげて迅と見合わせた。
「過ぎた事を言っても仕方無い、大人しく仕事をするで御座るかね。
 死ぬほどやりたくないで御座るが、シラス殿に全てを押し付けて帰りたいで御座るが」
「いえ、実際に借りたのは自分たち。どんな所からであろうと借りたお金は返さねばなりません。
 怪しげな呪術にさらされようと仕事とあらば必ずや乗り越えてみせましょう!」
「真面目~」
「甘言に惑わされたとはいえ、借金してまで賭博をするとは生徒会長にあるまじき失態である! 知ってる奴を全員殺せばジッサイ無かった事という言葉もあるが……」
 百合子が急に不穏なことを言ったので、幻介と迅がそーっと振り返った。
「ここは平和的に解決するとするか……」
 高速で上下に首を振る迅。
 そんな彼らに、呪術サイエンティストのフレーランは試験管を突き出した。
 くちから髑髏型の煙があがる、見るからにヤバイ奴だったが……。
「コレ飲んで。ダイジョウブ死なないから多分ー」
 こんなの金貰ってもやりたくない。が、今はそれ以上の危機。幻介はええいままよといって試験管をつかみとり、中身を飲み干した。
「あっ、ちょっと待ってやめて不味い事を思い出し……ああーーーーーっ!?」

 三人は森の中にぺふっと倒れていた。
 ゆっくりと体を起こす百合子。美少女レベル50の幼女がそこにいた。
「これが……吾……!?」
 都合良くあった池にうつる自分の顔をぺたぺた触ってから、百合子はハッと振り返る。野生の勘が危険を察知したのだ。
 確かに茂みのずっと向こうから視線を感じる気がするし、獣の気配を感じないでもない。
「幼子故か感覚が鈍い……既に弊害は起きているということか」
 ふと横を見ると、幻介が池を見ながらげっそりとしていた。
「実は拙者、この頃は拙者は病弱で……」
 不安げに首を振る幻介の横で、迅はぴょんぴょん跳ねたりシュッシュとシャドーボクシングのような動きをしていた。
「うまく気が乗りませんね。体力も腕力も少ない。野犬に襲われた程度で死にかねませんよ」
「ほう……確かに」
 百合子が『上手く虹がかからん』とか異次元のことを言ってるのをよそに、迅はこめかみに手を当てる。
「エネミースキャンは……少々心許ないですね。こちらに敵意を持つ程度の獣ならともかく、ただの餌だと認識されれば感知できない可能性すらある」
「えっ、ダメなんでござるか?」
 幻介はそう言ってから、自分が昼に食べたおにぎりに敵意を持っているかと考えて即NOが出た。なんかもう普通に、感情とかゼロでムシャっとやれそうな気がする。場合によっちゃ多少の攻撃的な意志や、敵意に似たなにかを向けてくるかもしれないが……頼りすぎは危険だろう。
「とにかく、ここに残っているのは危険そうでござる。まずは安全な場所を探し――」
 がさ、と茂みをてでどける。
 と。
 目の前に熊。
 それも額にバツ字の傷がついた獰猛なヒグマだった。人間とか秒で殺す獣である。
「――――――――――!」
 言葉にならない悲鳴をあげ、まわれ右してダッシュする幻介。刀がもてないせいでその辺の木の枝もっていたが、これでヒグマが殺せる気がしない。
「うわっぷ!」
 しかし慣れない脚にもつれ、顔から転倒。
「「幻介殿ォ!」」
 全く同時に叫び、そして飛びかかったのは百合子と迅。
 百合子は瞬間的に美少女空間を展開すると、拳に宿した美少女地下を物理的なエネルギーに変えて解放した。
「白百合清楚殺戮拳――奥義(レベル50)! 白百合百裂拳!」
 猛烈なラッシュがヒグマにたたき込まれ、その顔面を踊らせる。
 同時に迅は拳に全力で気をため込んだ。
「――鉄拳鳳墜!」
 相手の意識を刈り取る必殺の一撃。迅の拳がヒグマの脳天に打ち込まれる。
 常人はもとより頑強な熊であっても粉砕しうるツープラトンアタック……のはうずが。
「ヴォウ!」
 ヒグマがバンザイしてから前方向にブンッてやっただけで二人はすげー勢いで吹っ飛ばされた。
「ヴォウヴォヴォヴォウヴォウヴォヴォヴュヴォウ!」
「ウワァ何言ってるか分からないけどくそ怖えでござる姉上!」
「姉上?」
「……はっ、す、すまぬ! 間違えたで御座る! 百合子殿……!」
「仕方ないであるなぁ! 今日は吾がおねーちゃん故、一切任せてついてくるがよいぞ!」
 百合子は幻介を背負うと、一目散に走り出した。
「ヒグマが敵意をむき出しにしています! 勝てる勝負じゃない……逃げましょう!」
 迅が率先して走り出し、適当な金属をガンガンたたき合わせて音を出した。驚いた獣が敵意を向けるであろうことを狙って。
「死因がこれでは嫌すぎます。絶対に皆で生きて帰りましょうね!」

●『マジックアイテム窃盗』
 モンスター蔓延る洞窟の奥深く。
 世間には知られていない研究所のそばに、『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)と『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)がぺたんと座り込んでいた。
 ここまでくることのしんどさもさることながら、こうなるまでの経緯(やらかし)を思い返していたのである。
「どうしてこうなってしまったのだろうな。
 偶々ミスタ・シラスから聞いた金の話に目が眩んだ……と言うべきか。不用心だったと言うべきか。やはりギャンブルはサマ無しが一番なのだろうな」
 借金を返せないとなった途端に臓物抜かれなかったのはシラスの信用あってこのこと。逆にシラスがミノファイナンスを紹介しなかったらこうならなかったので、良いのか悪いのかわからんが……。少なくとも借りたのは自分で返すのも自分。突如降りかかる連帯保証人よりは納得できる状況である。
 納得できる状況であるのだが……。
「わ〜しゃっきんがいっぱいだ〜……」
 ちょうちょちょうちょーって言いながら3等身になった『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)が見えないちょうちょと追いかけっこしていた。
 そう。納得できるのと受け入れられるのは、別!
「……わかってる、わかってるよぉ。全つっぱしたわたしがいけないんだよねぇ」
 急に降りかかる現実にべしゃあって倒れるシルキィ。
「責任は取るよぉ、綺麗な体になって戻るからねぇ……!」
 誰に向けた近いなのか。シルキィはリアル等身に戻って立ち上がった。
 目的は『命の灯火』の奪取。棍棒もって突撃してあちこち叩いて持ち去るというヴァイキングスタイルで行けば死は確実。ローレットを介さない裏バイトゆえ保証も受けられそうにない。
「けど借金を返すために……頑張るよぉ!」
「だな。仕事だ仕事!」

 調べてみた所、『命の灯火』とは小さめのキャリーバッグ程度の大きさと形状をしたアイテムで、研究員たちが更に深層を調査する際そのエリアで発生する呪いを体に受けないようにするためのものであるという。これ自体が消耗品で、使えなくなるたびに本体からパージし交換する仕組みになっておりシルキィは『空気清浄機のフィルターみたい』という異文化になじみまくったことを言った。
 ちなみに才蔵はその原材料についても調べていたが、あえてシルキィには言わないことにした。
「さて、まずは灯火を見つける!」
 隠密活動はそれほど得意じゃあない。だからうっかり見つかってもリスクを減らせるように、シルキィは糸をもこもこ編み込んで作った人形型の式神を、才蔵はAIM PRIMALに格納されたドローンを飛ばして探索を開始した。
 発見は……そう難しくなかった。
 保管してある倉庫らしき場所は遠すぎて(危険すぎて)確認できなかったが、どうやら製造するための部屋は発見できた。
 発見リスクをさけるべくすぐに退避させると、二人は侵入を開始。
 二人はハイセンスによる警戒を怠ることなくゆっくりと施設内を進み、特に才蔵はエコーロケーションと気配遮断を駆使した進行を心がけていた。
 おかげで施設の人間に見つかることなく部屋にたどり着いたが……。
(これは……)
 ひどくなまぐさい。もしくは鉄くさい。部屋は夥しい量の血で汚れており、排水設備や清掃された器具があることから何かの解体現場のようにも見えた。
「ひどいにおいだねぇ。早く持って帰ろうねぇ」
 『命の灯火』を発見し、抱えるシルキィ。二つも三つも持っていこうとはしない。もし儲けになるとして、さばくルートがなければただの妖しい箱だ。
 特にそれがなんだか分かっている才蔵からしたら、一個すら持っていきたくない。
「いざとなれば時間を稼ぐ。ミス・シルキィ、先を」

 幸運なことに、盗み出す現場を発見されることなく彼らは施設を脱出。依頼主に『命の灯火』を届けることに成功したのだった。
 箱の中身は……見ていない。

●『貴族の誘拐』
「俺らがドン底だってのに南の島でバカンスとは不公平だよなァ?」
 血塗れウサギの着ぐるみをかぶった『竜剣』シラス(p3p004421)が、頭をカタカタさせながら言った。
「刺激的な夏を……プレゼントしてやろうぜ……」
「これが……幻想の新世代勇者」
「今ソレいうのやめて」
 『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)は流れる冷や汗を拭った。
「っていうか私もギャンブルで絶対なんて信じるとか頭がどうかしていました……!
 12歳の少女を拉致するとか罪悪感が物凄いですが背に腹は代えられません」
「やぁれやれ、金のためにえんやこら……汚ぇ仕事やっていきましょうか」
 『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)はサングラスを外すと、それを肩越しにどこかへ放り投げた。
 そして、棺桶に偽装した武装ケースにガトリングガンをつめて鎖でつなぎ肩から背負う。
「しっかし浜辺でバーベキューなんざ目立つことしてんねぇ。こっちとしては助けるけど」
「内容は覚えてますね? 『殺しすぎないように』ですよ。攫ったあとでどっかの強盗に身ぐるみはがれて殺されたりしたら全部パーですから」
 綾姫は長い髪をくるくるまとめてとめニット帽につめこむと、赤い伊達眼鏡をかけ目元をキリッと強いものにメイクした。ハーフパンツにラッシュガードの服装といい、日頃の綾姫から大きく離れたいでたちである。ついでに骨組みを入れて偽装したサーフボードカバーに機械式の大剣を詰め込むとベルトを肩から腰へ斜めがけした。胸に食い込み過ぎないように親指で肩の辺りをぐっと掴む。
 ユラァっと歩き出すシラス。
「じゃあ、始めようか。大丈夫大丈夫、誰も死んだりしないから。金持ちに思い出をサービスして代金を貰うだけだからァ……」
 着ぐるみの口部分がギラリとひかる。シラスがたまに見せる本気の目だった。

 浜辺にならぶビーチチェア。
 おつきの人間がバーベキュー台で肉を焼き、紙皿を手にした男がサングラス越しに笑う。
 隣の妻らしき女は体をおこし、てくてくと歩く少女へ振り返った。
「ターシャ、遠くへ行っちゃだめよ」
「わかってるー」
 ターシャと呼ばれた少女は両親に背を向けたまま、小声でチッと舌打ちをした。
「アタシのことなんて愛してないくせに」
 そう言って浜辺を歩いて行くターシャ。が、彼女の探検ごっこはすぐに終わった。
 砂浜の木陰に立つ、血塗れウサギの着ぐるみによって。
「…………」
 体の半分だけ日を浴びた着ぐるみが、ゆっくりと振り返る。陰影のせいか、顔がひどく暗くみえた。
「ターシャだな? ドク家の」
 怯え、後じさりし、しかし反射的に頷いてしまったターシャ。
 悲鳴を上げて逃げ出そうとする彼女にウサギもといシラスが嵐のように襲いかか――ろうとした所へ黒いスーツの男が剣で斬りかかった。
 鎧を仕込んだとはいえ防御突破の魔法がかけられた剣はシラスの着ぐるみを切り裂き、胴体をぬいて血を流させる。
 ……が、重要なのはいつも中身。シラスは防御を抜かれたことも血を流したこともまるで意に介さず、相手の頭を掴んで膝蹴りを入れた。
 一方でターシャを守るべく走り出した黒服たち。
 ひとりが割り込んだところに綾姫が茂みから飛び出しサーフボードカバーを解放。レバーを握って引っ張り出しトリガーオン。充填した精神エネルギーが刃をチェーンソーのように走り、咄嗟に抜刀した黒服の刀ごと切断し返す刀で相手の脚を切り落とした。
 更に周囲の砂塵を剣のように固め発射。新たな黒服がそれを守るべく銃撃によって砂の剣を破壊していくが、その隙へ食らいつくようにコルネリアがゆっくりと偽装茂みから起き上がった。
 バカンと蹴り開いた棺から取り出したガトリングガンを全力射撃。ハッとして飛び退こうとした黒服だが、コルネリアの銃撃を受けて吹き飛んでいく。
「安心しな、『峰打ち』だよ」
 冗談みたいに言うと、ターシャを抱えて茂みに隠していたバイクへと跨がる。
「おらターシャちゃん、パパとママに『行ってきます』しな」
 ニヤリと笑い、バイクで走り出すコルネリア。
 涙を流して走り追いかけようとする両親たちだが、訓練もうけていないかれらが急に走り出したところで砂に躓いて転ぶだけ。
 その様子をただただ見つめるターシャ。
 そして彼らを見送る形になったシラスと綾姫は、すぐにそれぞれの方法で場を撤退していった。

 このあとどのように身代金が支払われたのか、彼女たちが無事に再会できたのか。その結末をシラスたちが知ることはない。
「こういう意味でヤバい橋を渡ったのは久しぶりかも知れない……」
「あの子、大丈夫でしょうか」
「相手はプロ。人質ってのは『無事に逃げ切るため』にも使われるのよぉ。だから宝物みたいに大事に扱われるはずだわ」
 変装を解いた三人は安全な場所まで離れ、そして仲介人から報酬を受け取って帰路についた。
「もうこんな目に遭わなくても済むように……」
 つぶやくシラスにやさしー笑顔で頷く二人。
 シラスは金の入った封筒を握りしめた。
「報酬でもう一勝負だ! 次こそは大丈夫さ絶対!」
「「YAMETE!!」」
 二人は全力でシラスを押さえつけた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――ミッションコンプリート!
 ――借金は返済されました……たぶん

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