シナリオ詳細
<現想ノ夜妖>出し抜けに現る風雷の怪
オープニング
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神光と言われる地にも、夜は訪れる。
この国の夜は若干暑さが和らぐものの、島を囲む海からの風で運ばれてくる湿気によるむし暑さは残ってしまう。
多少寝苦しい日々が続くことになる神光の帝都において、様々な事件が散発しているのが確認されている。
日が変わる頃、人気のない帝都の街中を足早に歩くのは、1人の男性。
彼は形代・清一といい、人形職人の家系に生まれ育ったことで職人として半生を過ごし、今なお現役として働いている。
子供も職人として歩み出したばかりであり、簡単な仕事を任せる一方、大切な顧客は自分で制作を続ける清一はお得意様の貴族の要望もあって出張して人形の修繕に向かっていた。
人形は思い出の品となることも多く、貴族であっても生涯大切にするという。色々な人形を購入する貴族女性だが、やはり子供の時清一に作ってもらった一品は手放せず、劣化した見た目を元に戻してほしいと依頼したのだ。
手早くそれを直した清一はお礼にと馳走をいただき、土産の折詰を手に家路についていたのだ。
「すっかり遅くなってしまったな……」
今宵も昼間の熱気が残る熱帯夜となっていたのだが、清一はどこか背筋に寒気を感じながらも早足で静まり返る街を歩く。
夜空は星の瞬きや、円を描く月がはっきりと見える程に晴れている。
そんな中、突如として清一の前に風が吹き荒れ、雷が落ちてきた。
「なっ……!?」
前方に現れたのは、怪異の類。
1体は風を纏う小狡さを感じさせる巨躯の狐。もう1体は横柄な態度をとる雷纏いし大柄な狸だった。
「ふむ、余り美味しそうには見えないな」
「贅沢言うな。食にありつけるだけマシだろう」
狸が悪態をつけば、狐が諭そうとする。ただ、餌扱いされる清一としては溜まらない。
なんとか逃げ出そうと反転して駆けだそうとするが、後方には獣状となった青白い炎の群れが道を塞ぐ。
「餌は大人しくしていろ」
「さて、下拵えからはじめようか」
狐が微笑み、その身を竜巻へと変えれば、赤いものが飛び散り、清一の体は無残に切り裂かれる。
そこに落ちた雷が清一だったモノを焼き焦がすと、狸が舌なめずりして。
「俺が先だ」
「いいだろう。残りは僕がいただく。鬼火共の分も残しておけよ」
狐の言いつけに小さく手を振る狸だが、程よく焼けた肉へとがっつき始めるのである。
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時は諦星(たいしょう)十五年。
神咒曙光(ヒイズル)……神光と呼ばれる地に、ログインして降り立つローレット・イレギュラーズは、ベースとなった混沌の豊穣の地とは違った街並みに驚く者もいて。
「皆様、お疲れ様です」
サクラメントの傍でイレギュラーズ……勇者となるアバター達を待っていたのは、混沌でもネクストでも変わらぬ姿で情報屋を営む『穏やかな心』
アクアベル・カルローネ(p3n000045)だった。
「R.O.Oがバージョンアップして解禁されたこの神光ですが、ここでも様々な事件が起きるようですね」
この地域に現状現れているのは、夜妖……混沌において練達の地、主に再現性東京などで確認されているモンスターである。
練達で開発されたR.O.Oに出現する夜妖。これは無関係であるはずがない。
「ただ、現状はその因果関係を解明するには至っていません」
その原因を突き止める為にも、イレギュラーズにこの地域の「神使」として夜妖と戦ってほしいとアクアベルは告げる。
アクアベルにも弱視で未来を予知する力はあるが、今回は渾天儀【星読幻灯機】なる装置によって、得られた『未来の確定悲劇』によって事前に事件の情報が得られている。
「これはすごいですね。私の力と合わせて今回の事件について確認させていただきました」
アクアベルが言うには、今回悲劇に会うのは人形職人の男性だ。
すでに、ここに至るまでの間に、渾天儀【星読幻灯機】を目にしたものもいるようだが、重ねて状況を説明する。
事件は数日後の夜中に起こる。
明るい月夜、帝都の街中に堂々と現れた夜妖の群れは帰宅しようとしていた職人の体の命を奪い、その体を喰らってしまうのだという。
「風纏う狐と雷纏う狸。そして、鬼火の狼の群れ。いずれも攻撃方法のみ確認しております」
情報をデータとして各メンバーへと渡すアクアベル。
それらの夜妖は和風テイストではあるが、確かに混沌の再現性東京にも現れそうな都市伝説風の見た目や力を持っているようにも感じる。
ともあれ、人形職人を守りつつそれらを討伐し、何らかの情報を得たいところだ。
「R.O.Oは仮想世界ではありますが、罪もない人が無残に命を奪われる様を見過ごしては置けません」
ネクスト、神光の人々を好き勝手にさせるわけにはいかない。
アクアベルは改めて、夜妖の討伐をイレギュラーズへと託すのである。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/47699/a83ba92c936f454cd9f11ef686461365.png)
- <現想ノ夜妖>出し抜けに現る風雷の怪完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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ネクスト、神光。
イレギュラーズは被害に遭うと予知された職人の工房へと向かう。
「しっかしまぁ、星読幻灯機ってのは大したもんだな」
『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は同行する仲間達に、バグだらけのROOの中で正確な未来予測が可能な状況について思考を促す。
「……確定的な悲劇を予測だなんて、便利な物ですね」
『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)は、悲劇が起こる前に駆け付けられる情報を得られる性能を絶賛し、量産したいと思わざるを得ないと語る。もっとも、そう簡単にはいかないだろうが。
「未来が見えるって便利だね!」
『開墾魂!』きうりん(p3x008356)は、バンカラきうりが悲劇を喜劇にしてやろうと腕まくり。
「未来が予知されてるなんて、いかにもゲームらしい」
『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は、物語が既に決まりきっているのは都合がいいと言えなくもないと指摘するが、『下衆にふさわしきトラウマを』九重ツルギ(p3x007105)は顔を顰めて。
「ただ、星読幻灯機が映した光景はあまりにも酷い」
被害者の職人が夜妖によって肉すら喰らわれる未来。
獲物を嘲笑う夜妖の笑みが彼らの残虐性を物語っていたとツルギは語って。
「何としても退けねば」
「気分のいいことではないな。その未来、変えてやる」
アズハもツルギの意見に大きく同意する。
「今回の相手は化け狐に化け狸。そして鬼火の狼か」
『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)も相手の姿をそのまま口にしてからこう告げる。
「俺達が介入する事で助かる者が居るなら、助けて見せよう」
幸い、まだ事件が起こるまで数日ある。ベネディクトはうまく説明できるか気に掛けていたが、ツルギはこの期間を有効に活用して信頼関係を結びたいと考えていたのだった。
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まず、メンバー達は人形職人、形代・清一に接触することに。
予知によって夜妖に襲撃されるという彼は、何事もなく息子や弟子らと共に人形制作に励んでいた。
「家族にも顧客にも愛されて、清一さんの人形は素敵な作品なのですね」
ツルギは客が修繕にと持ち寄った実際の作品を見せてもらい、アクセスファンタズム「夜明けの求道者」により、右手で触れたその人形に残る思念を読み取っていた。
また、途中、人形を求めに来る客が嬉々としていて。
「創造物を大事にしてもらってるのはぁ、とっても嬉しいことだよねぇ」
『仄光せし金爛月花』エイラ(p3x008595)も思ったままの感想を口にする。
「分かるんだよぉ。作る側のヒトを見てきたしぃ、作られた側としてもねぇ~」
エイラの背後の本心も込められていたが、清一もまんざらでもない表情をしていたようだ。
ある程度、清一の警戒を解いたところで、メンバーは夜妖に狙われる事を告げ、護衛の為にやってきたことを話す。
「職人気質の貴方には、誠実さを持ってお話する事が大事だと思いました。貴方は俺達が守りぬきます。どうか信じてください」
「何かあったらおれ達が駆けつけるから、大声で呼んでくれよな!!」
夜妖討伐に協力してほしいとツルギが頼むと、『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)も胸を叩く。
物腰の柔らかい清一はうんうんと話を聞いてくれる。
正直、ルージュとしては予知の話など信用してもらえるかも判らなかったが、事前の顔合わせによって戦闘での指示もスムーズにいくだろうと踏んでいたのだ。
流れをカノンが説明し、夜の送迎を護衛する旨を伝える。
「帰宅ルート周辺で見回りをやっています。何かあれば直ぐに逃げて助けを呼んでください」
「現れたら、俺達が守る」
カノンの説明を受け、ベネディクトもそう約束する。
また、同じタイミング、その工房から戦場となる街中の道をTethやアズハが調査を行う。
Recon_Droneによって、戦闘が起きる予定の区域の地形を俯瞰的に観測。人形職人や敵出現の位置、人通りなどについて確認を行う。
アズハもアクセスファンタズム「響界感測」で、地形の把握に努める。
そのタイミング、用事で出かけていた清一とアズハは出会うと、彼はしばらく見回りをするつもりだと伝えて。
「大丈夫、何かあっても対応できる。安心してくれ」
なるべく清一を不安にさせぬよう心掛け、アズハは準備を進める。
なお、それらの調査を元にツルギが帰宅ルートを設定し、イレギュラーに備えていた。
当日夜は星々が見える程天気も良く、月明かりが街を明るく照らす。
仕事後、馳走を頂いた清一は土産を手に帰宅の途につく。護衛として、ルージュのみが同行する形をとっていた。
なお、彼の仕事道具の中に、エイラは「フェイス・オブ・ザ・ムーン」でクラゲの姿となり、ぬいぐるみのふりをして潜む。
あまりに強く働きかけると、星読幻灯機の予知を歪める恐れがある為、エイラも潜伏して待ち伏せし、敵の出現を待つ。
ルージュがたわいない世間話をしながら、清一と共に街中を歩く。
周囲に人通りがないことは、Tethがドローンで確認する。万一、一般人が近づくならば、封鎖や追い払うなど対処も考え、構えていた。
周辺で見回りするカノンは「レリックインベントリー」から質の良い明るいランタンを取り出し、木陰や草むらに注意を払う。
併せて、彼女は探索技能で索敵して怪しげな気配を探る。
こちらも建物の物陰に潜んでいたアズハ。カノンから少し遅れる形で物音を聞きつけて。
「……聴こえる。来るぞ」
すると……。
「なっ……!?」
驚きの声を上げる清一。
目の前に現れた怪異が形を成し、夜妖の集団へと変わったのだ。
「ふむ、イキがよさそうな小娘だ」
「贅沢言うな。食にありつけるだけマシだろう」
炎を揺らめかす獣の群れを従えるは、2体の巨獣。
敵は清一よりも隣のルージュに気を引かれていたようだったが、メンバーは皆、清一を守るべく動き出す。
「大丈夫です。落ち着いてください」
安心させるよう声をかけるルージュの傍、清一の仕事道具の中からエイラが姿を現す。
Tethがドローンで伝達した位置を元に駆けつけた他メンバー達も清一の前に立ち塞がり、夜妖の侵攻を食い止める。
「来い、化け狸。お前の相手はこの俺だ」
「ふむ、お前は食べ応えありそうだ」
暗視で敵集団を捕捉するベネディクトは武器を抜き放ち、雷の狸、雷獣へと向かう。纏った雷の腕で応戦の構えの雷獣は不敵な笑みを浮かべる。
「食べるなら私をたべろー!!!」
また、瑞々しさも感じさせるきうりんは風の狐、風獣へと躍りかかり、おっさんより絶対私の方が美味しいからと主張する。
「いやまぁ、大人しくはしないけどね! とりあえずメインディッシュは私でお願いします!!」
「ならば、存分に全身を噛みしめてやろうぞ」
身軽な体で飛び掛かる風獣。後続の鬼火獣らもお腹を空かせているのか、我先にとイレギュラーズへと飛び掛かってくるのである。
●
群がる夜妖の群れは、獲物を求めて襲い掛かってくる。
「一家のお父さん。人形達のお父さん。お守りするんだよぉ~」
鬼火を揺らめかす獣から清一を守るべく、不滅の紅を纏うエイラは彼に張り付き、速度を生かして敵の体当たりや鬼火を受け止める。
何せ相手の数が多い。気を抜けば足止めできずに抜けられかねない為、エイラはしばらく手を出さずに清一のカバーへと注力する。
「形代さん、下がってください」
「あ、ああ……」
カノンの呼び掛けもあって後退する清一。
それを確認した彼女は力を高める敵を狙ってワンドオブダークネスを振るう。
「――最早遠慮は要りません。全力で敵を叩きましょう!」
ワンドの先に集まる魔力を、カノンは敵陣へと放出する。
炸裂する魔法は敵を強く地面へと縫い留め、動きを鈍らせる。
それらを俯瞰できるようにと、飛び上がったアズハは民家の屋根に飛び乗って。
戦闘態勢に入り、目を見開いたアズハは追撃する適応能力を高め、ライフル銃の引き金を引く。
「ただの弾ではないぞ」
銃弾はスキルによって破裂し、鬼火獣の体へと浴びせかかる。
ダメージも小さくないが、的確にその精神状態へと作用することで、敵の体を縛り付け、あるいは狂気に陥らせて敵陣を乱す。
Tethもまた近場の壁を駆け上がって宙へと舞い上がる。
すでに、ドローンで敵の配置は視認済み。双子座の神器「St.Elmo's Fire」を両手に持ち、Tethは多くの敵を直線上に捉える。
「強襲は十八番なんでね。一気に行かせて貰うぜ!」
称号「Lightning-Magus」は伊達ではない。まさしくTethは眩い光を束ねて閃光の如く敵を強襲し、大規模な爆発を巻き起こす。
しかしながら、単なる雑魚ではない鬼火獣は獲物を逃さぬと燃え下がる炎を投擲し、自らも身を躍らせて直接喰らいかかってくる。
それらをできる限り引き付けるべく、ツルギは翼を広げてスキルによって命中力を高める。
仲間の立ち位置を気に掛けて巻き込まぬよう鬼火獣目掛け、彼が放出する光。それらが突き刺されば、電流が駆け巡り、体が凍り付く。多少外れたところで、地面を一時的に液状化させて相手の動きを鈍らせる。
もちろん、敵の気を引くのが最優先であり、炎の中から光らせる獣の視線を感じ、ツルギは次なる手を打つべく盾を身構えていた。
「きうりの御加護だよ! がんばれ!!」
攻撃が集まるタンク役はすぐに疲弊する。きうりんは逐一仲間の状態を確認して自らの生命エネルギーを放出していく。
他にも、風獣、雷獣をそれぞれ、2人が抑えていて。
「いい具合に潰して食べやすくしてやろう」
見下すような視線を向けてくる雷獣は雷を纏って重い一撃を繰り出す。
ベネディクトが避けて殴りつけた地面は陥没し、振り回す尻尾は周囲の民家を粉砕してしまう。
確かに威力はかなりのもの。ベネディクトはそれを認めはするが。
「一撃一撃が重かろうとも、俺をそう簡単に倒せるとは思わん事だ。……試してみるか?」
竜の圧倒的な存在感を放ち始めるベネディクトに、雷獣は鼻をひくつかせて。
「思った以上の獲物じゃないか」
黒く縁取りされた両目を大きく見開き、雷獣は彼目掛けて雷を駆け巡らす。
風獣はというと、空中を蹴って2段ジャンプし、身を翻す。
「下拵えだ。いい具合に裁いて血抜きせねばな」
敵は全身を凶器として叩き付ける他、大きな尻尾を振るって衝撃波も放ってくる。
下手に距離をとると、後ろに下がらせた清一に被害が及びかねぬと、近接戦に臨むルージュは愛の力によって魅剣より放つ光で風獣の気を引く。
「悪いけど、形代のじーちゃんはお前達なんかに食わせてやらねーぜ!!」
「よかろう。貴様から食われるのを所望なのだな」
舌なめずりする敵は薙ぎ払う爪でルージュを傷つけてくると、すぐさまきうりんがきゅうりを投げつけて。
「それ食べて元気だして!! プラシーボプラシーボ!」
スキル「エメラルドプラント」によって得られた恵みは食べずに触れるだけでも癒しの効果は得られるが、折角だから食べてほしいときうりんは願う。
ともあれ、皆、互いの役目を果たし、夜妖の数を減らしていくのである。
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怪異の獣達は、獲物を求めて瞳を光らせる。
その群れの大半を占める鬼火獣を殲滅すべく、Tethはペンシルロケットを乱射し、さらに円形結界で覆った敵を超高温と高重力場によって消し飛ばそうとする。
「――最早遠慮は要りません。全力で敵を叩きましょう!」
カノンもまた魔力を放出し、敵陣の体力を削ぐ。
それを浴びたことで消え去っていく鬼火獣も出ていたが、そうなれば仲間達も集まって広域魔法が使えなくなる。
「予測された悲劇くらいは、完璧に覆して見せますよっ!」
カノンは攻撃パターンを切り替え、無数の魔力弾の弾幕を繰り出す。
しかしながら、前線で炎の牙を剥く鬼火獣どもはしぶとく、エイラやツルギへと喰らいかかっていた。
「貴方がたが狙っているのはこの帝都の宝です。黙って見過ごす訳にはいかないのですよ!」
盾を構え、ツルギが叫ぶ。
互いに傷は深まってきている。ならば、彼は一気に敵を殲滅すべく、細剣で素早く敵の体を貫いていく。
その反動はかなりのものだが、相応に威力も高まり、燃え上がる鬼火獣の体を貫いて次々に消し飛ばす。
少しでも倒れぬ鬼火獣が残っていれば、カノンが魔弾を掃射し、撃ち抜いてとどめを刺していた。
ただ、群がる敵へと完全に対処できていたわけではない。
エイラは敵の多くを引き付ける形となっており、かなり負担が大きくなっていた。
時折正気に戻った鬼火獣が爆炎を広域放射してくると、エイラも庇うのが難しいと判断して相手をじっと見つめ、強くその意識を自身に引き付ける。
きうりんがきゅうりを投げつけるが、敵の炎の勢いが勝る。
「危ないよぉ」
エイラは清一を庇う様に身を投げ出し、体が炎に包まれてしまう。
――よろしく……。
引き継ぐ間もなく消え去るエイラ。しかし、彼女の意向を受けてか、きうりんが前線の穴を埋めるように前へと出て。
「おまたせ! メインディッシュだよ!」
サブタンクとしてメンバーの盾となるきうりんは美味しそうにアピールしてみせる。
「さぁ食べよう! 召し上がれ!」
彼女目掛けて大きく口を開こうとする鬼火獣。
これ以上通しはしないと、アズハはライフルで頭部を撃ち抜いた敵の活動を完全に停止させていた。
鬼火獣を殲滅したメンバーは残る風獣、雷獣に攻撃を集中させる。
「鬼火獣は使えんな」
鼻息を荒くする雷獣は大きくした尻尾に雷を纏わせて広域を叩き付けようとしてくる。
それにTethやベネディクトが耐えている間に、メンバー達は風獣の討伐を急ぐ。
動きの速い風獣は全身を凶器の如く鋭くし、竜巻を巻き起こしてこちらの体を引き裂かんとしてくる
カノンが弾丸を叩き込む間に、きうりんがここでも自らの姿をさらして。
「ねぇ美味しい? 星何個?ㅤみっつ?ㅤみっつ?」
「味だけは誉めておこう」
負けるはずはないと不遜な態度の風獣だが、きうりんは拳を握りしめて。
「お腹膨らんだ?ㅤ殴るね!ㅤ雑草の一撃!!」
渾身の力でぱんちを繰り出すきうりん。しかしながら、神秘の力が込められたその一撃は思いの他風獣にダメージを与えたらしい。
態勢の崩れた敵の大きな尻尾を、ルージュが狙う。
「その大きな尻尾は引っこ抜いて、マフラーにしてやんかんな!!」
ルージュも全身が切り傷だらけとなっていたが、彼女の反撃もあって風獣の傷も深まっている。
一気にとどめをと、ルージュが魅剣デフォーミティを握りしめれば、きうりんが敵を背後から引き付けて。
「邪魔だったらもう私ごとやっちゃっていいよ!」
ただ、ルージュは単体攻撃を得意としており、尻尾の付け根を見事に切り裂くと風獣の顔が歪む。
「な、なんと……!?」
信じられぬといった表情で風獣は果て、落とした尻尾を残して虚空へと消え去った。
相方の討伐に、雷獣も驚きを隠せない。
「チッ、知らぬうちに虎の尾を踏んでいたか……!」
放電を激しくする敵はこちらの力を認めざるを得ないと考えたようだが、一層激しく抵抗してくる。
ベネディクトが怒りを伴って強く引き付けようとするが、自身だけとなった雷獣は思いの他冷静に戦況を見定めて。
「俺の力、その身をもって知れ……!」
頭上へと飛び上がった敵は自重を伴って落下してくる。
反動も小さくないだろうが、その真下にいたTethが強烈な一撃を叩き込まれて。
「俺様が、この程度で……」
抵抗したいという気持ちもむなしく、Tethも姿を消してしまう。
しかしながら、これ以上好き勝手させぬと、残るメンバーが次々に攻撃を叩き込む。
序盤から雷獣を押さえつけていたベネディクトも全身から血を流し、追い詰められた状態となったことで竜刀『夢幻白光』に竜の血と魂の力を乗せて。
「──真に目覚めた竜の力、侮れる物では無いと知れ」
これまでも十分本気で当たってベネディクトだが、この体はどうも命の危険がなければ本気を出してくれないと小さく頭を振る。
ここからが本番。彼は鋭い連撃を刻み込むことで、巨躯の雷獣の体を切り刻んでいく。
「な、にいぃ……っ!!」
こちらもまた実状を認められぬまま、爆ぜ飛ぶようにして帝都の街から消えてしまったのだった。
●
夜妖の群れを滅して。
仲間達が癒しを行う間にメンバーも揃い、状況を確認し合う。
「災難だったな、職人さんよ」
「全くだな」
Tethの呼び掛けに、清一は本当に狙われるとは思ってみなかったと本音も漏らす。
彼に傷などないか確認していたベネディクトは、問題ないと判断して。
「もう帰ってもらっても大丈夫だろう」
「じーちゃんはこれからも良い人形を作ってくれよな。きっと沢山の妹たちがじーちゃんの人形を楽しみにしてるぜ!!」
無事で何よりと、ベネディクトやルージュなどはこの場でお暇すると去っていく。
ただ、状況的に心行くまで話せなかったメンバーもいて。
「帰り道、付き添おうか? よかったら人形の話を聞かせてよ」
「それでは、頼むとしよう」
アズハの申し出を受け入れ、清一は道すがら自身の手掛ける和人形についてをあれこれ語ってくれたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは追い込まれながらも風獣を討伐した貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
R.O.O、<現想ノ夜妖>のシナリオをお届けします。
●目的
人形職人の救出
●敵……夜妖×14体
〇風獣・雷獣×各1体
いずれも全長4m程の巨体を持つ夜妖です。風獣は化け物狐、雷獣は化け物狸を思わせる姿をしております。
それぞれ身に纏う風や雷を使った攻撃を得意とする他、風獣は素早さを、雷獣は自重を生かした攻撃も得意としています。
鬼火獣を伴う彼らは獲物を求め、夜中に行動しているようです。
〇鬼火獣×12体
勢いを増す青白い鬼火が狼のような姿を得た個体。個々の全長は1.5~2mほどあります。
戦いでは体の炎を飛ばしてきたり、体当たりを繰り出してきたり、獣らしく飛び掛かってくることもあるようです。
●NPC
人形職人、形代・清一(かたしろ・しんいち)
代々人形制作を手掛ける家業を継ぐ50代の男性。
五月人形やひな人形といった和人形と呼ばれるものを作成しております。
●状況
人形職人の形代は、その修繕の為に帰宅が夜中になったところを夜妖の襲撃に遭ってしまうようです。
人が寝静まった街中へと躍りくる夜妖は家路を急ぐ形代に目をつけ、獲物にせんと襲ってくる為、彼を守りつつ迎撃、討伐を願います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
それでは、よろしくお願いします。
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