PandoraPartyProject

シナリオ詳細

亡きリングスのための暗殺

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●救われなかった昔話
 あるところに、努力家の男がいました。
 男はひとを喜ばせることに幸せを見いだして、もっと多くの人が喜ぶようにと沢山の装飾品を作りました。
 特に宝石をあしらった指輪を作らせれば町一番で、土地の貴族より『リングス』の号を受けるまでになりました。
 男への注文はひっきりなしで、男も皆が喜ぶからと毎日毎日働きました。
 ある日のこと、男の腕に目をつけた隣領貴族の令嬢がやってきて言いました。
「立派な腕だわ。私のための指輪を百個作りなさい。今すぐに」
 しかし男は言いました。
「それはできません。今も沢山の依頼を受けていて、皆できあがりを楽しみにしています」
 令嬢は激怒しました。
 自分の言いなりにならない職人の存在を許せなかったのです。
 当時求婚されていた地治貴族の息子に言いつけ、処罰させました。
 隣領の貴族に危害を加えたというでっちあげの罪により、男は財の一切を没収され、仕事を禁じられました。
 男は悲しみに暮れ、部屋でひとり首を吊ったのでした。
 隣領貴族の令嬢ヒペア・アストラムはこれを指してこう述べました。
「私のために指輪を作らない職人なんて、死んで当然だわ」
 宝石に囲まれて笑うヒペア嬢。
 ――彼女に今夜、暗殺の依頼が発せられたのでした。

●匿名希望の殺意
「ヒペア嬢は生きているべきでは無い」
 裏酒場イエローフラッグの二階個室。卓についた仮面の男はそう述べ、依頼報酬のコインをテーブルに置いた。
「事件をもみ消す準備はできている。できるだけ早く令嬢の家へ乗り込み、殺害してほしい。後に夜盗に入られ不幸にも殺されたと報じられることだろう」

 男は次に、令嬢の屋敷について説明を始めた。
「広い敷地と広い庭。敷地は高い鉄柵に囲まれている。正面には番人が立ち、屋敷の周りにも警備員が巡回しているそうだ。
 こんな性格の女だからな、恨まれ襲われる心当たりもあるのだろう。
 屋敷の中はさらに厳重だ。魔術機械による警備システムがあちこちに設置され、特別なスキルなしでは必ず警報を発することになる」
 逆にいえば、特別なスキルをもってすれば警報を回避し、尚且つセンサーを殺して仲間を引き入れることもできるということだ。
「襲撃は夜間が望ましい。令嬢の寝室は二階のもっとも広い――この部屋だと判明している。ここへ押し入り、護衛を倒して命を奪えば良いのだ」

 地図を丸め、テーブルに置く仮面の男。
 席を立ち、最後にこう言い残した。
「私が何者かは、詮索しないで欲しい。ただ彼女の死があれば、それで良い」

GMコメント

【オーダー】
 成功条件:ヒペア嬢の死亡

 このシナリオのトライには三つのパターンがあります。
 集まったメンバーの特性を見て、どちらを選ぶかを決定してください。全員統一していることが望ましいですが、ばらけていた場合は多数決で統一されたものとして判定されます。

 A:全員一丸となり、正面から攻め入る
 B:隠密系スキルを使いこなしこっそりと攻め入る
 C:正面チームと隠密チームに分け、双方から攻め入る

 どれを選択してもいいように、各所の情報を解説していきましょう。

●屋敷のセキュリティ
 門番(1名)、屋敷周囲の巡回警備員(1名)。どちらも三交代制。
 屋敷の扉、窓、いくつかの壁に侵入者を検知する魔法機械を設置。検知すると大きな警報を鳴らす。
 『罠対処』やそれに近いスキルによって警報を殺しつつ侵入することができます。

 屋敷内には護衛や雑用が何人か働いています。
 護衛の人数は不明ですが、3人以上見かけているとのことです。

●令嬢の屋敷に住んでいる人間
 令嬢とその父親と母親が屋敷に住んでいます。
 父親は令嬢を溺愛しており、甘やかしすぎているようです。
 護衛と少数の下働きは屋敷で寝泊まりをして、多くの雑用係はずっと離れた自宅で暮らしています。

●護衛等の戦力
 門番、警備員、護衛はそれぞれ同レベル程度の戦闘力を持っています。
 真正面からPC10人で突っ込んでいった時敵に『同じかちょっと上くらい』の戦力があると想定しておくと安定するでしょう。
 護衛は令嬢が危険にさらされるか屋敷への侵入者を検知すると令嬢の部屋へ入り、護衛を開始します。
 戦闘では主に『令嬢を庇う>侵入者を倒す>令嬢を逃がす』の優先順位で行動することになるでしょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 亡きリングスのための暗殺完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月29日 20時25分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
シラス(p3p004421)
超える者
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
リアム・マクスウェル(p3p005406)
エメラルドマジック
エリシア(p3p006057)
鳳凰

リプレイ

●命の価値
 フクロウの鳴く空。
 月明かりの小さな、そしてどこか蒸し暑い夜のこと。
 並ぶ家々の間を、何気ない風を装って歩く『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)。
「殺したい。復讐したい。などとは、聴く言葉でございますが……生きているべきではない、と、そう断ぜられる生き様は、余程なのでしょう。人の情とは、時に、酷な怪物を産むものでございますね」
「女はなるべく殺したくないんだが……そうも言ってられねぇか」
 『望を喰らう者』天之空・ミーナ(p3p005003)は横に並び、人相を隠すように布を口元に引き上げた。
 ガラスの割れる音と、ヒステリックな金切り声が聞こえてくる。
 顔を向けてみれば、今から襲撃する手はずになっているアストラム邸である。誰のものかは、皆想像が付いていた。
 周囲の家々は明かりが付いているが、窓から様子を見る者すらない。ヒステリーが日常的なことだと察して、ミーナは薄く苦笑した。
 七色の毛先をつまみ、『飛べぬ鳳凰』エリシア(p3p006057)が憂鬱そうに息をついた。
「傲慢な輩の考える事はよくわからんな」
「分からなくても」
「やるべきことは同じか」
 雪之丞とミーナのがそれぞれの配置につくべく、近くの家の前へと立った。
 刀の柄にそっと手をかける、エリシア。
「火の裁きをくれてやろうぞ」

 今より襲撃をかけるのに、一つ所に固まっては不自然だろう。
 『鳶指』シラス(p3p004421)は串焼き屋台の前で立ち食いをするふりをして、アストラム邸を横目に見た。ガラスの割れる音とヒステリックな声が漏れ聞こえてくる。内容はわからないが、何かに対して怒っているのは間違いなさそうだ。
「さて、ヒペア嬢は誰の恨みを買ったやら。おっと嗅ぎ回ったりはしないぜ、俺も報酬があればそれでいい」
「同感ね」
 他人の寝所に忍び込む趣味はないとでも言うように、『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)は竹串を指の上でつまむように回していた。
「ワガママも可愛いと思えるには限度があるわよねぇ。特に好き勝手やる貴族様は……」
「おっと、お喋りはそこまでだ」
 闇に紛れて本来は見えるはずの無いアストラム邸の門扉に、『Calm Bringer』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は目を光らせていた。
「交代の時間みたいだ。行くよ」
 懐から抜いた拳銃のセーフティを外すと、あえてそのままコートのポケットへと入れる。
「親が甘やかしたツケだね。彼女もある意味被害者かも」
「あと、今日の警備員もな」
 屋台を離れる三人。空になった皿の上に二本の竹串が転がった。

「指輪百個か。指が九十本足りないだろうに」
 光の合図を受け、『信風の』ラデリ・マグノリア(p3p001706)は手にしていた花を手放した。
「まぁ、どの道必要はないか。地獄の門を潜るのは魂だけだ、肉体は親に返すといい。……さ、時間だ」
 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)もまた、同じように花壇から視線を外す。
 アストラム邸へ向けてずんずんと歩き始める。手にはしっかりと魔術杖。
「夜闇に紛れてひっそり……のイメージがあるけれど。手段がない以上は正面突破の討ち入りでも仕方ないわよね」
「……」
 リアム・マクスウェル(p3p005406)は剣をとり、エスラたちと共に歩き出す。
「前にも言ったが、無理をしないでくれ」
「分かってる。できる限りはね」
「貴方がたに何かあると、私が困るんだ」
「門を越えたらハデに行くよ」
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は腕まくりをして、拳に武器を装備した。
「ソトの相手はマカセテもらうね」

●突入
「お嬢様に頼まれて、お持ちした物があるのですけれど」
「聞いてるか?」
「いや、聞いてない。帰らせろ」
「しかし――」
 門番と寄ってきた警備員がもめ始めた所で、ルチアーノは門番の男を炎で包んだ。
 ルチアーノを覆っていた黒衣が剥げ、あわをくった門番が剣を抜いた。
「侵入者だ! 囲め!」
「なんだと、逃がすな!」
 屋敷の中から声がして、交代要員の警備員や門番らしき男たちがばたばたと飛び出してきた。
 このとき『なぜ』や『だれ』を尋ねる者はない。ヒペア氏の横暴ゆえにこういった輩の訪問が絶えないからだろう。
 が、彼らの誤算は侵入者をルチアーノ一人だと侮ったことだった。
「ヤシキの主人はドコに居る!」
 火の付いた松明を掲げ、イグナートが門番へと襲いかかった。
「余計な奴まで出てきやがった!」
「主人を出せ!」
 敷地の外で取っ組み合いになるイグナートと門番。
 それを見て、ルチアーノはそっとその場を離れようとした。
 逃がすまいと警備員が手を伸ばすが、その手が胡蝶によって掴まれた。
 素早く足を払い、その場に投げ倒す。
「今のうちに」
「任せた」
 ミーナは風のように門番たちの横をすり抜けると、屋敷の敷地内へと駆け込んだ。
 同じく駆け込み、刀を抜くエリシア。
「来るぞ。警備員だ」
「足止めを食ってる場合じゃねえ、こいつは任せる」
 警備員はアサルトライフルをとり、こちらに向けてフルオートで射撃してきた。
 避けるでもなく突っ込み、剣を抜くミーナ。
 紅い魔剣で弾丸を斬り、青い魔剣で次なる弾丸を払う。
 その影に隠れるようにして弾を避けていたエリシアは、警備員へ向けて七色の光を纏った刀を振り込んだ。
 魔術と化した光が警備員の胸を切り裂く。
 のけぞった所で突き飛ばしを仕掛けるミーナ。
 そんなミーナの行く手を阻もうと扉の前に立ち塞がろうとする警備員を、急速に接近したエリシアが鍔迫りに持ち込んで横の壁へ押し当てた。
「今だ、行け」
 エリシアに促されるように、ミーナやルチアーノたちは屋敷の中へと駆け込んでいった。
「私はご主人様(父親)に恨みがありますの! お金に物を言わせてあんなことをするなんて! お願いです! ここを通してください!」

「誰が目的かは知らんが、通れるのはここまでだ!」
 スキンヘッドの男たちが錫杖を振り回し、通路を塞ぐように構えた。錫杖から魔術の弾を作っては次々と飛ばしてくる。
 それを次々と破壊しながら防御するシラス。
「戦ってる暇あると思う?」
 ラデリはバイオリンに弓を当てると、高速で奏で始めた。
「彼を10秒居ないに殺せる手順が?」
「野暮なこと聞くな」
「なら押し通るしかないな」
 ラデリの繰り出したロベリアの花がスキンヘッドたちへと炸裂する。
 走行、跳躍、近距離で印を切るシラス。
 生み出された無数の光球が爆発し、スキンヘッドたちを覆った。
「誰かが死ねば俺ぁ首だ! 死んでも通さん!」
 すり抜けるシラスの腕を掴もうとするも、スキンヘッドの腕は空をきった。
 逃がすか、ときびすを返したが――。
「それは悪手だ」
「悪いけど」
 魔術を行使したエスラが追撃のロベリアの花を発射。
 スキンヘッドたちの周囲を殺意の霧が覆っていく。
「本当は命を奪うまでのことはしたくないけど、お嬢様は少々おいたが過ぎてしまったみたいね。そして、これも仕事である以上、手を抜くことは許されないわ」

 『お嬢様を守れ!』という声と共に、ヒペア氏の部屋へ護衛たちが駆け込んでいく音がする。
 追って、雪之丞とリアムが部屋へと走った。
 扉の前に陣取り、ショットガンを放つ護衛の女。
 リアムは自らの防御を固めながら、クロスソードで突撃。
 その勢いを利用して、雪之丞もまた相手へと突撃した。
 女へ同時に体当たりをしかけ、そのまま扉へと体当たりを仕掛け、扉を破壊しながら三人は部屋の中へと転がり込んだ。
「ようこそ」
 と、カウボーイハットを被ったガンマン風の男が拳銃を向けてきた。二丁だ。
 咄嗟に小太刀を抜く雪之丞。
 庇うように飛び出すリアム。
 それぞれ銃弾を弾くと、しびれる腕をそのままに――リアムは額の宝石に触れた。
「俺の名はリアム・マクスウェル。ヒペア嬢、貴女にこれは似合わない」
 ガンマンの先。窓際。倒したテーブルの裏に隠れたヒペア氏に向けて声高に述べた。
 壁に、ショーケースに、いくつもの宝飾品が並んでいる。
 どれだけ金をかけたやら、豪華絢爛な部屋構えだ。
 だが。
「この宝石達は、泣いている」

●それぞれの戦い
 腰の短剣を抜いた警備員は、胡蝶の首や鼻先めがけて素早く刃を振り込んでいく。
 胡蝶はそれを上半身の動きで回避していく。流れる柳のごとくかわす様に、警備員が夢中になって攻撃の手を強めた。
 実のところ優勢というわけではないが、退くわけにはいかない。
 屋敷の主人を狙った襲撃だと思わせる作戦ははじめのうちはうまく言っていたが、いざ部屋へ飛び込んだ段階になれば館のセキュリティは殆どがヒペア氏の所へ集まっていくだろう。この場で敵を引きつけておくことは、今現在部屋へ突入している仲間の成功率を如実に引き上げることにつながるのだ。
「この――!」
 胡蝶の襟首が掴まれ、無理矢理に押し倒される。
 マウントをとり、短剣を振りかざす警備員。
 が、その動きは腕が高く上がった所で止まった。
 なぜならば、胡蝶の手にしていた竹串が警備員の首に突き刺さっていたからだ。
 もがき、その場に崩れる警備員。
 胡蝶は血にまみれたまま身体を起こし、仲間の様子をうかがった。

 松明を投げつけるイグナート。それを剣で払った門番の男は、そのままイグナートへと剣で切りつけにかかった。
 首を狙っての斬撃。スライディングで回避するイグナート。
 相手の股下を潜るように抜けると、イグナートは膝を掴んで相手の体勢を強制的に崩した。
 防御――は間に合わない。イグナートは振り上げた拳を豪快に相手の顔面に叩き付け、ノックダウンさせた。
「ふう……」
「何とか表は片づいたみたいね」
 イグナートと胡蝶は敷地内で戦う味方を助けるべく踏み込もうとしたが、そこへ手榴弾が回転しながら飛んできた。
 咄嗟に飛び退き、伏せる二人。
 爆発。それは二階の窓から狙う護衛のものだった。
「旦那様には指一本触れさせん!」
「……」
 都合が悪いように見えて、実は良い状態だった。相手はまだ屋敷の主人を狙った襲撃だと勘違いしているらしい。
 そこへ、追い打ちのようにルチアーノが屋内側から後ろへ回り込んだ。
 拳銃をしっかりと両手で構え、連射。
「そこをどいて!」
 いくら娘かわいさとは言っても護衛を全て娘側に回すことは(彼らの職務上)ありえないだろう。その上で、こうして主人を狙うモーションをかけてみせれば護衛たちはそちらに意識や人員をさかねばならなくなる。
「チッ……!」
 ライフルを持って反転。射撃を返してくる護衛。
 ルチアーノは廊下の曲がり角に飛び込んで射撃をやりすごすと、腕だけを出して流し打ちした。
 攻めあぐねている……かのように見えるだろう。
 だが。
「――」
 エリシアが刀を納め、力を溜め、髪を七色に輝かせる。
 殺気に気づいて振り返った護衛に、エリシアはギラリと目を光らせ、激しく抜刀した。
 衝撃が魔術となって走り、遠く離れた筈の、それも二階の窓にいた相手の身体を切り裂いた。
「ぐあっ!?」
 よろめき、バランスを崩して窓から転げ落ちる護衛。
「一人やられたぞ! 旦那様に人を回せ!」
 屋内の警備員が駆け寄ってくる気配。
 ルチアーノは廊下の奥へと走り、時間稼ぎを始めた。
 と、そこへ駆けつけるラデリとエスラ。
「こちらも盛況なようだ」
「何人か引っ張り込めたわ。『あっち』に行かせないためには、ここで粘るしか無いわね」
 ラデリが楽器を、エスラが杖を構えて近くの扉を蹴り開ける。
 そこへ使用人の部屋だったが、彼らは全く武装していなかったらしくおびえて両手を挙げている。
「怪我させたくないの。端で大人しくしてて」
 コクコクと頷いて部屋の端に固まる使用人たち。
 エスラやルチアーノは近くの棚やベッドを倒して塹壕化すると、飛び込んできた警備員や護衛たちにむけて杖を突き出した。
 隣のラデリと目が合う。
「あと何発分あるかな?」
「実はこれで最後よ」
「なら――」
 二人は飛び込んできた護衛たちに『ロベリアの花』を同時に叩き込むと、ラデリは飛び出してマジックフラワーによる攻撃、ルチアーノとエスラは術と射撃で援護を始めた。
「魔力の運用には一家言あるの。しのぎ切れるかしら?」

 二丁拳銃を乱射するガンマン。
 対するシラスは魔術を行使し、いくつもの魔力弾が光の尾をひいてガンマンへと殺到していく。
 流れ弾がショーケースにあたり、砕けて散った。ヒペアが悲鳴をあげる。
「なにしてるの! 早く殺して! 私が命令してるのよ!」
「はは、すげぇ部屋――それに」
 なんて横暴なお嬢様だ。
 ヒペアは倒されたテーブルの裏に隠れるようにして潜み、それを守るようにして二人の護衛がついている。ガンマンはその一人だ。
 銀色の剣と盾を装備した騎士が突撃をしかけてくる。
 ミーナが対抗して突撃をかけ、剣をぶつけ合った。
「なぜお嬢様を狙う!」
「自分の心に聞いてみな」
 幾度となく剣がぶつかり合い、火花が散っては咲いていく。
 そこへ加わるリアム。
 騎士の側面に回り込むと、オーラソードによる格闘攻撃を仕掛けた。
 ミーナの魔剣を剣で、リアムの剣を盾で防ぐ騎士。
 直後、ミーナとリアムは同時に相手を蹴り飛ばし、『しまった』と叫んだ騎士めがけて雪之丞が突っ込んでいった。
 すれ違いざまに刀を走らせれば、相手の腕が回転しながら飛んでいく。
 美しい絨毯や絵画に血しぶきがかかり、ヒペアが大きな悲鳴をあげた。
 雪之丞たち四人が同時にガンマンへ狙いを定める――と、そこで。
「おっとタンマ!」
 ガンマンは両手を、というより銃口を上げて数歩下がる。
「降参降参。俺やーめた」
 カウボーイハットの下でにやりと笑うと、ガンマンは近くの家具に縄をひっかけ、ショーケースから高そうな宝飾品を乱暴にかっさらうと、そのまま窓から飛び降りて逃げてしまった。
「あ、ちょっと! 待ちなさい! 命令よ! この私が命令してるのよ!?」
 窓にとびついてわめき散らすヒペア氏。
 その首に、雪之丞の刀が添えられた。
「人を呪わば穴二つ。背負った業は、その身で償うとよろしいでしょう」
「な、なんのことよ……私、何も悪いことなんてしてないわ……ひ、ひどい……」
「あらあら、自覚なしか」
 じゃあしょうがない。
 シラスは冷たく呟いて、ヒペア氏を窓から突き出すようにして蹴り出した。
 髪の毛を掴み、落下せぬギリギリで引っ張る。
 悲鳴をあげるヒペア。
「言い残すことはあるかい?」
「やだ! 死にたくない! みんな、こいつらを殺して!」
 ため息。
 と共に、シラスは手を離した。

●死の意味と値段
 ヒペア氏が死亡したことは誰の目にも明らかだった。
 屋敷の正面に広がる、いびつにひしゃげた肉体。
 元の顔は分からぬほどに壊れていたが、恐ろしく高級そうなドレスが何よりも彼女を証明していた。
「終わりだ。行こう」
「わかった」
 リアムたちは唖然とする護衛や館の主人たちの隙を突くように、屋敷から逃げ出した。

 後日談ではない、なにか。
 シラスやエスラは情報収集のさなか、あちこちでヒペア・アストラムの噂話を聞くことがあった。
『あの人は、ちょっとね……』
『逆らうと何をされるかわからないから』
『悪い噂を流されて追放されるんです』
 彼女の自慢は決まって、無理矢理手に入れた高級品や、気に入らない職人を活動停止に追いやった話ばかりだった。
 だというのに自分が悪いなどとひとつも思うことはなく、常に回りの人間に罪をかぶせ、裁き、すっきりと生きていたという。
「呆れるね、これが貴族のお嬢様とは」
「どこにだって悪人はいるものよ。進んで罪を犯す人じゃなく、ただ生きているだけで悪い人が……」
 かくして暗殺の報告は成り、イレギュラーズたちには正当な報酬が配られた。
 その翌日、ヒペア氏の元婚約者が別の女性と婚約したというが、詮索はせぬが花だろう……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズの皆様。
 無事依頼を達成することができたようで……
 護衛の人員をよそに割かせる工夫は、大変素敵でしたね。

 お怪我をなさってはいませんか?
 今はゆっくり、身体をお休めになってくださいね。

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