シナリオ詳細
千の波紋を指差し数え
オープニング
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ぴちぱたぽとん、ぱたぴちぽたん。
大きな樹の下を通ると、大粒のしずくがこぼれ落ちてくる。
傘をさすほどでもない雨だけれど、あえて相合傘してみようか。友達と、恋人と、思い出と。
やわらかくふりそそぐ天の恵み、紫陽花の庭は粉砂糖をかぶったよう。道なりに飛び石の上を歩けば、広く浅い池の上に立つ屋敷がある。湧き水清水がこぽこぽと、透明な池をつくりあげ、そこへいくつもの紫陽花が、願いと共に投げ入れられる。投げ入れた波紋の数を数えてごらん。奇数ならかなう、偶数なら神のみぞ知る。どんな結果になるかは、やってみなくちゃわからない。
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「……豊穣には紫陽花屋敷と呼ばれる場所があるって」
『無口な雄弁』リリコ(p3n000096)はあなたへそう言った。一部だけ透明な緑の傘をさしている。その透明な部分からそっとあなたをのぞきこみ、リリコは「……行ってみない?」とつぶやいた。
「……屋敷は湧き水で作られた池の上に建ってる。その池へ願いを込めて紫陽花を投げると、ちょっとしたおまじないができるって。投げ込む紫陽花は自分で自由に選んでいいみたい」
そういうとリリコは人差し指を口元へ当てた。
「……ハートの形の紫陽花を見つけたら、大事な人のことを想いながら投げると加護が得られるそうよ。だけど直接本人へ送るのは考えたほうがいいかも。だって紫陽花の花言葉は『冷酷』。どうしてかしらね。雨のそぼ降るなか、我関せずとばかりに咲き誇っているからかしら」
植物が美しくあるのは理由があるのにね。リリコはそう嘯き空を見上げた。
「……今年は七夕なのに空が見えないから、天の妹は泣いているわね」
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千の紫陽花が雨に濡れている。
ほろほろと風に舞う天のしずくが、一面銀を撒いたように景色を彩っている。
冷酷の青。
情熱の赤。
神秘の紫。
愛情の桃。
寛容の白。
中庸の緑。
それらがたがいにたがいを補い合いながら、虹のように屋敷を包んでいる。
手毬のような紫陽花は、あなたの来訪を静かに待っている。
- 千の波紋を指差し数え完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年07月21日 22時10分
- 参加人数15/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 15 人
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参加者一覧(15人)
リプレイ
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雨は天からのベールのようだ。あの冬の日を知るマルクには、この程度どうということはなかった。ぬれていく前髪をはらい、マルクは紫陽花を両手に取り、池へそっと投げ入れた。今はもう会えなくなった幼馴染、クレアのことを思いながら立ち尽くす。
――元気にしているだろうか。僕の方はここ数年、色々あったよ。無力だったあの頃より、強くなれたと思う。……気になる人ができた、と言ったら、君は怒るだろうか。あの頃に戻ることは、もうできないけれど。
(どうか幸せに暮らしていますように)
ささやかな、切なる願い。今やおぼろげになってしまった幼馴染の面影を胸に抱けば、十年以上もの月日が重くのしかかった。
願いなど口に出すのは無粋。イサベルにはそのくらいわかっていた。紫陽花も色々あるが、イサベルに必要なのは青でしかないということも。
(私の願いは『強く死ぬ』)
強くなければ死ねるけれども、そこにあるのは甘えだ。恥だ。
だから傘などささずに、波紋など見ずに、池へ青を投げた。ひろがっていく思いの丈など気にしない。どちらにせよ、叶うまで努力し続けるしかない修羅の道。果てしなく長い、登り続ける坂。
強さに憧れた。胸を張って、力を出し尽くして、そして最後にどこかで殺されたい。それがイサベルのわがままな『お願い』だ。
「うふふ、強欲なのですよねぇ、私という者は」
それでいいともう決めた。決めてしまった。
「紫陽花綺麗ねぇ!」
素直なお姫様は感嘆の声を上げた。
「そうだね、章殿。去年も星に願ったが、今年は何をお願いするんだ?」
お姫様は小さな手に余る紫陽花を抱き真面目な顔。
「ずーっと仲良くみんなと一緒に居れますように! えいっ!」
「波紋はいくつかな?」
「7つ! 7つよ鬼灯くん!」
「七夕と同じ奇数とはさすが章殿だな。きっと星が叶えてくれるよ」
優しい声でお姫様の頭をなで、鬼灯はさて自分の番となると首をひねった。お姫様といつまでも共に、だけどそれはいつも言っている。悩んだ末の答えは……。
「……睦月がもう少し俺用財布の紐を緩めてくれますように」
残念、波紋は4つです。頑固な部下は今後も変わらないようだ。
夏の雨は涼しいくらいだ。こんな時は傘よりも外套。ヴィクトールはフードを被り、マントの中へ未散をいれた。その場所は少し温かくて、そしておおよそにおいてひゃっこい。なので未散は花を摘んだ。選んだのは白の紫陽花。雨露の重みが手に吸い付く、たしか思い起こさせる言葉は寛容。そして……。
ヴィクトールの選んだ萼紫陽花は、傍らの少女の蒼に少々似ている気もする。あっちのほうがつめたくてあまくてつるりとしているけれど。
未散が投げた。
ヴィクトールが放った。
王は銀水晶の瞳を彼へ向ける。
「ぼくは、あなたさまがせいぜい、しあわせになってしねばいいって、いのったんです」
「幸せになって死ねばいい、ですか。なら……」
にこり。笑う。
「――お願いしましょうか」
お願いされては断れない。そうだろう、銀河をはさんであちらとこちら、ふらりふらり手を振るような関係。
「ボクが幸せになったら、心の臓でも貫いて殺して、せいぜいこの男を後悔させてやってくださいね?」
「ええ、責任を持って後悔、させてやりますよ」
雨が降っている、さらさらとさやさやと、言の葉を重ねるように外套へ降り積もっていく。
白い紫陽花には花言葉もうひとつ、『辛抱強い愛情』。未散はいまだ波間に揺れるそれへ視線を移した。
(所で其れって、幸せの瞬間に寄り添えと云う遠回しな告白ですか?)
なんて。絆される女ではない。はず。王は外套の裾をきゅっと握りしめた。
しけた煙草を諦めて、ヘーゼルは前を行くアッシュを見つめた。
黄色いレインコートに葡萄色の長靴。
「ぴよぴよと鳴いてご覧、娘さん。ひよこを連れて行くような気分だ」
「そう言われましても、気持ちがはやるのです」
「まるで水遊びを愉しみにして、雨の中を我慢できずに飛び出した子供だねぇ」
きゅっと逆だった柳眉。ぷっとふくらんだ頬。だけど意外にも、そんなに不快ではないのです。そんな自分を新鮮に思いながら、アッシュは紫陽花へ手を伸ばした。うきうきと桃色が視界いっぱいにきらめいて、匂いなどかいでみると雨の香りがした。となりで緑を手に取るヘーゼルは大人の余裕で「嗚呼、其れを選ぶのね」。なんだか腹立たしい。
声を合わせていっしょに池へ投げた直後に、余裕綽々の意地悪な笑み。
「ねえ娘さん。桃色の紫陽花の花言葉を知ってるかい?」
「さあ」
「『愛情』『ひたむきな恋』」
「……どうして選んだ時に言ってくれなかったんですか」
そっぽをむかざるをえない乙女心。頬に宿る熱は偶然ではない。だってだって、知らなかったんだもの。何を願ったのかすら忘れてしまったではないですか。
「知らずに選んのだからこそ、別に良いじゃないですか。別に誤っている訳では、ないのですから」
少女の想いが自分へ向けられている優越感。桃色は花の終わりに染まる色。最初から選ばせてしまったという罪悪感ちくり、ヘーゼルの微笑を深くした。
……すこしでも彼と結ばれるためなら、なんでもするのだ。恋はチョコレート。時に甘くときに苦い。しょくらあとを彼は好んだかしら? 朝顔は想いを馳せる。そして歩いて歩いて、やっと見つけたハート型の紫陽花。色は桃色。今の気持ちにぴったり。
想うは最愛の人。天香・遮那君。
誰より輝いている少年、笑ってくれる人。彼の笑顔が好き、真面目な横顔が好き、照れ隠しのつんととがった唇が好き。彼が好き。
好きで好きで好きで、壊れそうなんです。
すきですきですきで、燃え尽きそうなんです。募るは想い。重なり重い。
「遮那君の最愛になれますように」
(私を、私だけを選んでほしい。そうでなければ、この恋は醜く、苦しいだけなんです)
「こんなにたくさんの紫陽花、すごいッスねぇ」
ハート型の紫陽花を探して鹿ノ子は歩いていた。同じおまじないをするなら、願いを込められるだけ込めたい。ぐっしょり濡れるほど歩き回って、ようやく見つけた桃色のハート。これなら願いは叶うだろうかと、独り考える。
(遮那さん。たとえば貴方が、まだ恋を知らぬ貴方が、僕を想ってくれたなら)
甘い夢想にひたり、けれどと首を振る。そうなりたい。なりたい。なりたいけれど、それは星や花に叶えてもらうことではない。自分でなんとかしたいのだ。だから。
「……どうか、貴方が感じる痛みや苦しみが、ひとつでも少なくて済みますように」
そのためになら僕は、剣にでも盾にでもなるから。
「……結婚おめでとう」
緑の傘の下でリリコは微笑んだ。背伸びした彼女に合わせてヨタカは背を屈める。
「……勇気を出したのね。すてきよ。今のあなたは誰より輝いているわ」
「…知っていたんだね…。」
「……私は情報屋」
清々しい白のユーストマの花束を取り出し、リリコはヨタカへ渡した。
「ヒヒ、ありがとうね。ラスヴェートもお礼を言うといいよ」
「はい、ありがとうございま……」
赤いハート型の紫陽花をリリコから捧げられたラスヴェートは、その美しさにすこしばかり驚いた。リリコの儚い微笑みの。
「……私とも仲良くしてね、ラス」
ラスヴェートはこくりとうなずいた。
武器商人が傘を広げる。大きな傘のした、息子をまんなかに夫婦になったばかりのふたりが並ぶ。横目で家族を見た武器商人は我知らず笑んでいた。
(なんともまァ、愛しいこと)
「さてどれにしようか。こんなに色彩豊かだとつい目移りしてしまうね」
池の畔についた3人は紫陽花を探しはじめた。武器商人は青いものを。ヨタカはめおとを思わせる紫を。それぞれ手に抱き、せぇので放り入れる。
「これからも家族皆ですごせますように…。」
ヨタカの願いはシンプルで力強い。
「これが夢じゃありませんように」
ラスヴェートの願掛けはときに死地へ赴く二人を想ってのもの。
(我(アタシ)は好きなモノを危険から護ろう)
武器商人はそんな2人を眺めながら静かに決意する。波紋の数は見ない。どちらであろうとも為すべきことには違いないのだから。3人の投げた紫陽花の波紋がお互いに響き合い広がっていく。
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アーマデルは内心安堵していた。雨はあまり好きではないから、乗り気じゃなかった。だけども独りでないなら余計なことを思い出すこともない。そう、独りじゃない。なぜか弾正とアーマデル、ふたりの保護者までついてきたのだ。
「ああ申し遅れた。俺は練達の発明家で弾正の相棒、辻峰道雪だ」
「イシュミルだ、よろしく頼む。アーマデルのかかりつけ医といったところかな」
「これが君の作品かい?」
「ああ、そうだ。立派に育っているだろう」
作品呼ばわりされる覚えはないと、アーマデルは道雪の物言いにムッとした。それを否定しないイシュミルにも。
「弾正、始めるぞ」
「わかった。この勝負に俺が勝ったら恋人繋ぎで散歩してくれ」
「……保護者の居ない日に頼む」
かすかに頬を赤らめたのは了承の証。弾正は俄然やる気を出した、が。
「その勝負、俺も参加させてもらおう」
(なにィィィ道雪サンまで!? 苦戦しそうだ、しかし、やるしかない!)
何に気合を入れているのかと言うと、廊下の雑巾がけレースだ。道雪が言い出し、アーマデルがその程度ならできそうだと同意した。
ジャッジ役のイシュミルが片手を上げる。
「位置について、スタート!」
勢いよく手が振り下ろされた瞬間。弾正はアーマデルからタックルを受けてコースアウト、外の池に吹き飛ばされ派手な水しぶきをあげた。
「アーマデル!!」
「生存戦略だ」
キレ気味の弾正へ冷静に返事し、目指すはゴール一直線。しかしテープ直前でブースターをかけた道雪に先を越された。
後日、メイド服で道雪のラボの掃除をしている弾正とアーマデルの姿があったそうな。
「きれいな紫陽花ねぇ」
沙夜は皿の上のきらびやかな和菓子に喜んだ。
「ぶはははっ、そう言ってもらえるとこっちの気分もアガるな!」
豪快に笑うゴリョウの手料理は、今日も冴え渡っている。
熊笹を敷いた上にちょこなんとそろった紫陽花たち。
「これはどうやって作ったん?」
「白玉団子を白いこし餡で包み、土台を作ってだな。粉寒天を糊代わりに花びらの寒天ゼリーを散らしてんのよ」
「そうなんやね、きれいなお色。本物そっくりやなぁ」
「着色料なんて使ってねえぜ! 紫キャベツの煮汁で青色を、それにレモン汁を入れることで、だんだん赤に染まっていくんだ。それを小分けして使ったぜ。あとは砂糖と寒天を混ぜて固めて崩せばおしまいよ。料理は化学だ!」
「おそれいったわぁ。それじゃさっそく味見させてもらおうね」
沙夜の口の中、溶けた紫陽花は柔らかく優しい味。彼女はそのまま池へ目をやる。
「美味しいものも食べれるし、きれいな景色も見れるし、贅沢やねぇ」
そのとき、とぷんと水面が揺れた。誰かが願掛けをしたのだ。
(あの紫陽花はどんな願いを込められたんやろ。うちは思いつくもんなかったけど、ここに浮かんだ子らは皆、願いを背負ってるのよね)
そっと目を閉じると、暗闇の中に極彩色が残る。
(……全部ちゃんと叶うとええなあ。願った人のためにも、願われた紫陽花のためにも)
「来年の今頃には、うちも願い事、思いつくようなっとるかなあ……?」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
尊い。しんだ。
皆さんの日常を描くお手伝いができて幸せです。
おつかれさまでしたー! またのご利用をお待ちしてます!
GMコメント
短冊の代わりに紫陽花を抱いて、願掛けをしてみよう。
傘はいらないみたいだけど、もちろんさしてもいいのんよ。
●書式
一行目:同行タグ または空白
二行目:行先タグ
三行目:プレ本文
●行先タグ
【願】
紫陽花を池へ投げ入れ、願掛けをします。あなたはなんの紫陽花を、どんな思いで投げ入れますか。言葉に出しますか。胸へ秘めますか。
池の波紋が、奇数ならかなう。偶数なら、がんばろう。
【屋】
紫陽花屋敷の大広間でのんびりします。あけはなした障子の合間から見える池は極楽模様。屋敷の人の好意で、お抹茶と羊羹がでます。
料理を振る舞いたい人やお掃除お片付けをする人も募集中。
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