シナリオ詳細
無差別なる救済の手
オープニング
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伝承はネクストにおける幻想に相当する。
この国を統べる貴族達は一枚岩ではない。ある者は伝承の発展の為にと全身全霊で活動している。その一方で、専横的な者も少なくなく、一切民のことを顧みることなく、欲望のままに振舞う。
ガハハハハハハハ!!
領主の館から汚らしい笑い声が響く。
そこは、伝承某所にある領地。領主であるモディーロは新たな奴隷達の到着を喜ぶ。
「おお、実に質の良い奴隷どもだ」
召使いが連れてきたのは、奴隷商人から仕入れた奴隷達。
台車で運ばれてきた鉄製の檻の中、ネクスト中から連れてきたと思われる様々な種族の少女数名がびくびくしてモディーロを見上げる。
「ぐふふ、やはり奴隷は歯向かう気力もない怯えた瞳がいい」
しばらくじっと牢の中の少女達を見つめていたモディーロ。机の上には領地内から嘆願書や認可依頼など大量の書類が溜まっているが、彼が逸れに手を付ける素振りは一切見せない。
小一時間ほど舐め回すように視線を傾けていたモディーロはある程度満足したのか、手で振り払うようにして召使いに奴隷達を運び出させる。
「さて、仕事するか」
そして、机の上の書類を一気に振り払い、モディーロは全ての召使を呼びつけて一列に並ばせる。
「ぐふ、今日はお前だ。机の上に乗ってワシを満足させろ」
それのどこが仕事なのかと、召使いだけでなく、廊下に控える傭兵らからも溜息が漏れ出す。
しかしながら、召使いとしては給金は生活に十分な額が得られる。それを失えば、自分とて地下牢の奴隷達と同じようになってしまうかもしれない。
だから、心底嫌でも体を預けざるを得ないのが実状である。
催す吐き気をぐっと堪える召使いが前に出ると。突然窓ガラスが割れて1人の女性が飛び込んでくる。
「外道が。アンタのような悪人は、私が裁いてやるよ」
剣を抜いて領主へと突き付けようとする黒髪の女性。その名は、天之空・ミーナといった。
ぐぬぬと声をもらすモディーロは召使い達の後ろへと下がりながらも、廊下にいた傭兵達を呼び寄せる。
「詰めている傭兵全てを呼べ。ペットどもも連れてこい! この不埒な女を捕まえるのだ!」
その指示を受け、召使い数名が廊下へと駆けだす。
残る召使いや駆けつけた傭兵に囲まれ、ミーナも身構える。
「救済を求める者は手を出すな。私が討ち取るのは……モディーロのみ」
そう告げ、ミーナは邪魔をしてくる取り巻きへと刃を振るうのである。
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『Rapid Origin Online』……略称『R.O.O』。
混沌にも似たネクストなる仮想世界。ダイブしてきたイレギュラーズのアバター達が立っていたのは、伝承と呼ばれる街中だった。
「皆さん、こんにちは。接続は問題ありませんか?」
人が行き交う中だが、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は構うことなく挨拶し、説明を始める。
伝承という国はリアルワールドである混沌における幻想をベースとしたのか、貴族が幅を利かせる社会。
この世界にはローレットが存在しないこともあって、完全に私利私欲の為のみに生きる貴族が伝承の地には数え切れぬほど存在している。
「モディーロと呼ばれる貴族は一領地の主なのですが、この統治がなんともひどいものなのだそうです」
まず、自身の領地であるにもかかわらず、領主としての仕事は一切しない。
日がな召使いや奴隷の相手をしていることも多く、ふらりと出かけたかと思えば、あちらこちらで得た奴隷やペットを売買しに出かけるなど、自らの欲望の為にしか行動しない男である。
これを許すわけにはいかないと、行動を起こしたのはネクストの天之空・ミーナだ。
「現実にいるミーナさんと似た印象を受けますが、こちらは悪人を見れば無差別に成敗しているようなのです」
弱いながらも予知の力があるアクアベルだが、それによると、ミーナはこの後、モディーロの館を直接強襲すると思われる。
ただ、その館には武装した召使や雇われた傭兵達、気性の荒いペットと侵入者には容赦ない警戒態勢が敷かれている。
「ミーナさんを助けつつ、モディーロを討伐したいところです」
また、奴隷とされた女性の中に、R.O.Oのテストプレイヤーであるアバターが混じっているという。この救出も併せて行いたい。
アクアベルはわかる範囲で、屋敷の見取り図と控えている召使いや傭兵、ペットらのデータを依頼に臨むメンバー達へと送信して。
「ここはR.O.Oです。リアルとは勝手が違うことも多々あるかと思いますが、どうかよろしくお願いいたします」
そう説明を締めくくり、アクアベルは頭を下げてこの依頼をイレギュラーズ達へと託すのである。
- 無差別なる救済の手完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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伝承のとある領地。の主であるモディーロの討伐依頼を受け、ネクストで活動するイレギュラーズは急行する。
「理不尽な支配と富の集積……断じて許すわけにはいきませんね」
全身真っ赤な衣装を纏う『無政府共産主義者』赤井・丸恵(p3x007440)の一言に対し、皆それぞれ自身の意見を主張する。
「なんつーか、胸やけしそうな貴族様だな」
SF風の見た目をした金髪少女、『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は、ぶった斬りたくなる気持ちもわかると悪徳貴族の所業にうんざりとした表情を見せた。
「……何故でしょう。これも十分ひどいレベルの貴族ではあるのですが、可愛げがあるように思えてしまっています」
全身黒衣の女戦士、『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)は現実の幻想に些か毒されすぎだろうかと、他メンバーに比べて大きな反応を見せずにいた。
「汚らわしい下衆が存在するのは、現実もROOも同じという事ですね」
このテの輩の本性(なかみ)を覗くまでもない。光の羽と天使の翼を持つ『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)は一蹴し、被害が増える前に掃除しましょうと皆に促す。
「やはりゲームの中とは言え、現実と同じ様な物だな」
左目に眼帯をした竜の血と魂を宿す『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)はモディーロが典型的な悪徳貴族であり、ここで倒すことには賛成と語った。
「どうやら、NPCの彼女は違うようだが……」
ただ、1人屋敷に突入するウォーカー女性を気に掛けるベネディクト。その兄弟である赤髪三白眼の大柄男性、『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)が頷く。
「ま、こんなジジイぶっ殺したくなる気持ちはわかるけどな。ジジイをぶっ殺すために死ぬのは勿体ねえ」
その2人を含め、皆の視線は現実と同じく赤い翼を背に生やす『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)へと集まる。
「いやー、あのー、うん」
仲間達に見つめられ、ミーナは罰が悪そうに唸って。
「こんな形で自分と出くわす事になるとか思わないじゃん? 帰っていい?」
しかし、依頼を受けた以上、それが許されるはずもなく。
「あ、ダメですかそうですか……会いたくねぇなぁ」
(ミーナが2人、両手に花!)
嘆息するミーナに、水色の髪に中性的な容姿をした『青空へ響く声』ブラワー(p3x007270)は刹那目を輝かせるが。
「……そういうわけにもいかないか」
こちらのミーナが無駄に手を汚すことを是とできぬし、カワイくないとブラワーは我に返って。
「終わったら、ミーナとミーナとボク、3人で遊びに行かない?」
カワイイ仕草で問いかけるブラワーはこう続けた。
「彼女を助けよう」
少し迷っていたが、ミーナは彼の呼び掛けに首肯したのである。
●
まだ日の高い時間。
間もなく、目的の館へと到着する一行は目的のモディーロ確保の為、作戦を確認する。
「ともあれ、依頼内容はモディーロの確保ですから、一応は生きたまま連れ帰らねばなりませんね」
それ以外に言及はなかったが、必要以上の殺しは粋ではないとラピスラズリは主張する。
そこで、一行は陽動と隠密の2班に分け、作戦の実行に移る。
「こんにちはァ! 正義の味方のお届けに参りましたッ!!」
「悪徳貴族モディーロ! 貴族としてあるまじき蛮行、今日限りにして貰うぞ!
真正面から真っ先に領主館の敷地に飛び込んだのは、Teth。そして、続けてベネディクトが館に向けて達士で強化された大音声を使って叫びかける。
「ぐふぅ……!?」
「邪魔するぜ。ここに不遇な奴隷が捕まってるって聞いてな。解放しに来たぜ」
自室の窓から正門方面を見て、驚くモディーロを見据え、リュカも堂々と言い放つ。
「奴隷達を解放させて貰う!」
そこで、先に突入していたNPCのミーナも剣を握り直す。
「……さあ、観念しなよ」
後続でやってきた一団を気に掛ける素振りを見せるも、ミーナはモディーロの討伐を優先する。
「次から次へと……、捕えろ、縛り首にするのだ!」
「「了解しました」」
ベネディクトが重ねて戦線布告したことで、モディーロが雇った傭兵や召使い、それに2体のペットが動き出す。
アエエェェェェエエ!
アオオオオォォォォオオ!
「んじゃ、ド派手にいくぜ!」
針アルマジロとふわふわグマが同時に吠えて突撃してくると、Tethは派手に動き、別班が行動しやすい状況に持ち込むべく、自動反撃ドローンを召喚して二基一対のマイクロロケットランチャーを敵陣へと撃ち込んでいく。
継いで、丸恵が真っ赤な催涙剤を噴霧するグレネードを投げ込む。
敵女性陣が咳込む中、ペット2体はものともせずに突貫してくる。
「頼むぜ、ベネディクト!」
「勿論です、兄上。我ら兄弟の力──此処に示しましょう」
兄リュカの要望に弟ベネディクトが応え、向かってくるペット2体を注視する。
(針アルマジロにふわふわグマか……)
戦いの相手でなければ交流してみたいものの、状況的に止むを得まいとベネディクトは切り替えて全身から竜の圧倒的な存在感を放つ。
2体のペットはそんなベネディクトを恐れ、全力て叩こうと攻撃を仕掛けていた。
さて、この場に現れていた女傭兵、召使いは合わせて8名ほど。他はモディーロの方へと向かったのだろう。
編成としてやや多めの傭兵は前に出て肉弾戦を仕掛け、その後方から召使いらも銃を手にしてこちらを牽制してくる。
「ま、俺も傭兵。信用商売だから手ぇ抜けねえってのはわかるがね」
傭兵が女性だけというのも、ジジイ……モディ―ロの趣味に違いない。彼女達にも思うことはあるはずとリュカは察する。
「俺らが勝ったら、邪魔しねえぐらいのワガママは聞いて欲しいもんだな」
いたずらっぽくウインクしたリュカだが、女傭兵達は依頼主の命を遂行すべく、殴り、蹴りかかってくる。
リュカは彼女達へと竜の爪の如きオーラを手に纏い、力任せに殴り掛かっていく。
一方、陽動班が館の正面で大っぴらに暴れる中、隠密班がこっそりと館の裏手から内部へと侵入していた。
予め用意されていた簡単な見取り図を頼りに、4人は屋敷内を移動する。
廊下を移動する際は、通路の角や部屋の前で、ミーナが皆を一度制止する。加えて彼女は気配消失の技術を使い、死角となる部分の偵察を行う。
次の箇所では、ラピスラズリがアクセスファンタズム「サードパーソンズビュー」で見下ろす視界の位置、向きを調節していた。そうして、彼女は曲がり角、障害物の陰など、誰か来ないか逐一確認する。
「地下室は……、ここですね」
また、ツルギはオープンに出入りできる地下室の入り口を確認する。オディーロにとって、隠す必要がないのだろう。
『美と叡智の座』を使った思考も想定していたツルギは時間を短縮できたと前向きに捉え、後で陽動班にも場所を教えようと考える。
その3人に、ブラワーはできるだけ音を立てずにそっとついていく。彼は同時に、他の戦闘音が起きていないかと耳を澄ませていたのだが。
「……いる」
ミーナが再びメンバーを制止すると、前方から傭兵と召使いが駆けてくるのが見えた。
皆、囮や潜伏の手も講じようとするが、皆、廊下の物陰に潜もうとするが、数は5,6人おり、見通しの良い廊下での遭遇とあってやり過ごすのは難しい。
「強行突破する。準備はいいな?」
ミーナの提案を了承するメンバー達はそこで、館の女性達の行く手を遮る。
侵入者を発見して構えをとる女性達へとミーナも身構えるが、彼女を制したラピスラズリがカリスマを働かせて館の女性達を説得する。
「協力しろとまでは申しません」
「「…………」」
「少しの間目を閉じて頂くだけで、金払いのいいスケベ貴族はここから消えます。そういう環境をお望みでは?」
この場にいた3人の傭兵達はラピスラズリの説得を受けてなお威圧して来ようとするが、召使いらが大きく首を振る。
もう嫌だ……。
ここから出たい……。
そうした声を、傭兵達も普段から聞いていたのだろう。解放のタイミングとあれば、拳に迷いが見える。
「本当なのだな?」
この場は拳を下げる傭兵達は手を出さぬだけで、場合によってはイレギュラーズを鎮圧すると明言する。
すなわち、モディーロの拘束が叶わぬ場合だ。
ラピスラズリも了承し、攻撃を止める。
「ぐふっ、そうだ、やってしまえ!」
「モディーロの居場所は……探るまでもないですね」
汚らしい笑い声と共に銃声が聞こえてくる。ツルギが皆に急行しようと促すと、館の住人らも続いていた。
ただ、ブラワーだけはエコーロケーションで何かの物音を察していた。どうやら、先ほどの集団から遅れた召使いが1人いたようだ。
「モディーロ様に呼ばれたらはぐれてしまいました」
そこで、ブラワーはカワイイ仕草で怯えたふりをし、少女の声で話しかける。
「ボクはどこへ行けばいいですか?」
「そう……、こっちよ」
嘆息する召使いに連れられ、ブラワーも少し遅れて領主室へと向かうのである。
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館正面、陽動を行うメンバー達。
向かい来る召使いを丸恵が、傭兵をリュカがメインで対処する。
リュカは仲間から距離を取り、竜の爪を振るい続けて少しずつ数を減らしていたが、少ない数で2体の強敵ペットと交戦するメンバーは厳しい戦いを強いられる。
ベネディクトは、針アルマジロとふわふわグマを纏めて攻撃を引き付ける。
ただ、彼の意識は抵抗を行う召使いへと向いていた。
「退いて貰う訳には行かないか」
アルマジロのとげとげアタックをその身で受け止める彼は体力をすり減らしつつ、呼びかけを行う。
「助けに来たんだぜ。死にたくなきゃ前に出るなよ!」
Tethもまた召使いらにそう呼びかけながらも、火力の高そうなふわふわグマへと向かう。
抑えるベネディクトを巻き込むことを懸念したTethは範囲攻撃を避け、高エネルギー化した励起電子を浴びせかける。
それは命中することで強烈な熱衝撃が発生し、雷鳴のような轟音と共にクマの体を粉砕せんと大きく破裂する。
ア……アオオォォォオオ……!
なお、苦しむクマを盾とし、もう1体の針アルマジロの突進を防ぐTeth。
しかしながら、その攻撃は仲間に集まっており、速攻で勝負を決めねば持たないと、Tethはさらに励起電子を放出するのだった。
バアアアァァン!!
勢いよくミーナが領主室の扉を開く。
「よぉ、大馬鹿者。ちょいとばっかりツラ貸してもらうぜ」
NPCミーナの襲撃もあり、扉側まで下がっていたモディーロは後方から現れた侵入者の存在に驚く。
「ぐ、なぜここまで……!?」
扉の外には召使いや傭兵もいたが、彼女らが侵入者を捕えようとする様子はない。オディーロが睨みを利かせるが、動こうとしない。
アエエェェェェエエ!
続き、ツルギが事前にデータとして得ていた針アルマジロの鳴き声の音声から声真似し、領主室内の女性達を牽制する。
さらに、ラピスラズリが所持していたダートを投げつけてオディーロの気を引いた。
「ぐぬぬ……」
敵もサーベルを抜き、自ら応戦することにしたようだった。
「あれは……」
驚いていたのはNPCミーナも同じだ。何せ自分と同じ顔、同じ赤い翼を生やす女性が飛び込んできたのだから。
「やめて! こんな奴のために手を汚すことないよ、ミーナ!」
オディーロの命を狙う彼女へブラワーが呼びかけ、その行為を止める。
「キミが悪を許せないからやってるんだよね!」
ブラワーはここでオディーロの命を奪えば、彼は罪を自覚せず、償うこともできないと指摘する。それは、NPCミーナも含め、誰の気も晴れることはない。
「何より、カワイクない! ミーナ、楽しい? 幸せ?」
「一体なんだ……?」
傭兵を切り払うミーナは、傷を負いながらモディーロを狙おうとする。
そこで、守りを固めたツルギが味方だと証明するかのように、タンク役となってモディーロの指示を受けた女性達の攻撃を引き付ける。
この場にペットが乱入してこないのは陽動班がうまくやっているからと思われる。ツルギは傭兵のみに攻撃を行い、この場を凌ぐ。
「貴族を恨み、復讐したいと思っている人間はこの地に大勢いらっしゃいます」
モディーロの気を引くラピスラズリも次いでNPCミーナへと声をかける。
「その彼らを差し置いて我々が貴族を殺めても、恨みを抱えた彼らには行き場のない感情が残るだけでしょう」
「くっ……」
人を殺めぬよう説く面々に、NPCミーナの剣、そして信念が鈍り出す。
「現地スタッフの協力を得て彼らの鬱憤が晴れるようにするので、少なくとも貴族が生きた状態で引き取りたいのです」
理解はできる。命を奪ってしまえばそれで終わり。召使いらが受けた心の傷が癒えることはない。
そこで、ミーナが粘り蜘蛛の巣で使用人の動きを止めつつ、NPCミーナへと声をかけて。
「……ほんっと、私とは思えないめんどくせぇ事してんだな」
「私とは……めんどくせぇ事……?」
自分とあまりに特徴が似すぎる女性からの呼び掛けに、NPCミーナは訝しむ。
「悪人を裁くって言うけどよ、本当に裁かれるべきなのは私達だって事はわかってんだろ? お前のやってる事は、罪から逃げる為の事だって」
「言ってくれたな……」
その間も最低限の戦いは続けるNPCミーナ。ただ、モディーロへの意識よりも、呼びかけてくるミーナの方に強い関心を抱いていたようである。
「ボクのライブステージ始まるよ!」
回復役となるブラワーが掛け声を上げ、歌を歌い始める。
そして、ブラワーはNPCミーナへと歩み寄り、そっと彼女を抱きしめる。
「笑おう、カワイイ顔が勿体ないよ」
可愛らしい声で歌うブラワーに、幾分NPCミーナは表情を和らげる。
外の状況はかなり厳しい為、この場は一気にケリをつけようとメンバーはNPCミーナの力を借りて攻撃を加速させる。
2人のミーナ、ラピスラズリが素早くモディーロへと切りかかって傷を増やすと、命まで奪わぬようにと攻撃に転じたブラワーがクールな男声で歌うロック・ミュージックで相手を圧倒しようとする。
動きを止めたモディーロへ、ツルギが飛び掛かって。
「今まで虐げてきたレディ達にあの世で土下座して詫びろ。こいつで終いだッ!」
「ぐふううっ!」
刹那現れた嵐の聖騎士の斬撃を浴び、意識を失うモディーロ。その体はぴくぴくと痙攣していたのだった。
外の戦いも終結に向けて大きく動く。
重点的にクマを叩いていたメンバー達。ベネディクトがオーラで飛ばす竜の爪によってふわふわグマを卒倒させてしまえば、Tethが残るアルマジロが伸ばす舌を引っ掴んで。
「おイタをするペットにはお仕置きが必要だよなぁ?」
そのまま、Tethはアルマジロの口内目掛けて束ねた励起電子を投げ込み、爆裂させた。
ヒィオオォォォ……!
痛みに苦しむ針アルマジロは興奮し、全身の針を逆立ててベネディクトへと体当たりを繰り出す。
何とか抑えようとしたベネディクトだったが、体力が尽きて消え去ってしまう。
そこで、領主室から上がる白旗。それがモディーロ討伐の知らせと察し、リュカが女性達に降伏勧告する。
「あのジジイはぶっ倒した。もうやり合う理由はないと思うがね?」
リュカの言葉に、むしろ喜びを見せる召使い達。その1人がすぐアルマジロを手なずけ、大人しくさせたのだった。
●
その後一行は領主館内の召使い、傭兵達を集め、状況説明する。
「言ったろ、助けに来たって」
Tethの一言に召使いらは歓喜に湧くが、生活を考えると手放しに喜べぬ者もいたようだ。
「さぁ、死ぬより辛い贖罪生活が待ってるぜ? モディーロさんよぉ」
さらに、彼女が続けた言葉に、領主も力なくうなだれていた。
「ミーナ、お疲れ様」
ブラワーはミーナへと抱き着き、頬にそっと顔を寄せる。
その様子に、NPCミーナは複雑な表情を見せて。
「アンタは……」
その見た目、仕草、戦い方。やはり、NPC側は何らかのシンパシーを感じ取っていたのだろう。
「……私は、まあぼちぼち生きるさ。大切な奴もいるし、な」
「ああ、そうか」
すでに悟ったようなミーナの態度に、NPC側は何を感じ取ったのだろうか。
程なく、領主館へと戻ってきたベネディクト。
「悪徳貴族モディーロは討たれた。傭兵の皆はこの屋敷から契約金に相当する物を持ち帰る事で手を打たないか?」
職を失った女傭兵達へとそう提案すると、彼女達も首肯して金品のみ分配して領地を去ることに決めたようだ。
また、彼はリュカと共に地下室に囚われていた奴隷達を解放する。
「弟と拠点にしてる城があるが、そこに来るか?」
困惑する彼らにリュカが誘い掛ける。
「皆が望むのであればそれも良いかも知れないな。助けるだけ助けて、その後を放り出すのは流石に忍びない。どうだ? 少なくとも、酷い扱いはしないよ」
続いて、ベネディクトもその提案は悪いものではないと念押しする。
奴隷らは一度親に会いたいと主張していたが、召使いは今後の生活もあってか喜んで誘いに応じる。
結局、この領主館に残る者はおらず、召使いの大半と奴隷だった子供の一部が2人の管理する城へと向かうことにいたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは厳しい陽動班の戦いで、ペット1体を無力化、さらに召使を説得した貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
『Rapid Origin Online』のシナリオをお届けします。
●状況
伝承のとある領地の主、モディーロを懲らしめ、かつ、強制的に奴隷、召使いとされた女性達の解放が目的です。
夜は出歩くことが多いようですので、襲撃は彼が館にいる昼間に行うことになります。
屋敷は平屋建てに地下室があります。牢屋には奴隷とされた少女達が囚われており、その1人がR.O.Oのテストプレイヤーであることが分かっています。
広い館の内外には金にものを言わせて雇った傭兵女性達に加え、魔物如きペットが徘徊しており、侵入者を逃しません。
なお、女性の召使いも一部、領主を守ろうと交戦に当たります。彼らを無力化した上でモディーロの確保を願います。
●敵
〇悪徳貴族モディーロ
40台人間種男性。伝承にある一領地の主です。
住民に重い税を課して私腹を肥やす一方、領地に関して完全に人任せにし、自らは奴隷や召使として屋敷に若い女性を侍らせて好き放題に暮らしております。
一応、サーベルと拳銃を所持してはいますが、よほど無防備な状態にでもならなければ問題なく撃破できるでしょう。
○傭兵×15体
格闘戦を得意とする人間種の女性達。ナックル、トンファー、手甲、爪などを使い、近距離戦を仕掛けてきます。
○召使い×10人
いずれも人間種の2~30代女性で、モディーロに雇われている召使い達。普段はモディーロの身の回りの世話を行っています。
領地から無理やり連れてこられた女性達であり、保護対象です。
ただ、モディーロの命によって、拳銃、ライフルなどで狙撃を行います。
また、後述のペットの世話も任されております。
○ペット×2体
モディーロの屋敷で飼われているペット達。
飼い主であるモディーロと召使い達には慣れておりますが、それ以外の者には気性荒く攻撃を仕掛けてくるようです。
・針アルマジロ
全長2mほど。針となる硬い甲羅を持ちます。
普段は大人しいですが、侵入者には全身を丸めて針を突き出してからの体当たりを行う他、長い舌で捕獲することもあるようです。
・ふわふわグマ
全量3mほど。羊のように柔らかい毛皮を持ち、抱き着かれるだけで眠ってしまいそうになるのだとか。
ただ、侵入者にはそのままベアハッグを仕掛ける残忍さも持ち合わせております。また、ダッシュからの突進や、強靭な腕での薙ぎ払いも強力です。
●NPC
〇天之空・ミーナ……ウォーカー女性。
気だるげな印象を受けますが、悪徳商人や腐敗貴族といった悪人に対しては無差別に成敗しようとしているようです。
悪徳貴族モディーロの悪行を聞きつけた彼女は剣を手に、領主の館へと突入して目標の討伐を目指しているようです。
○奴隷×10名
いずれも若い少女達。領民の他、他国から連れてこられた幻想種や海種、飛行種らの少女です。
基本的に屋敷の地下牢で個別に幽閉されています。入れ替わりで売買に利用されたり、慰め者にされたりと人と思えぬ扱いをしているようです。
戦闘能力はなく、保護対象です。中に1人だけ『D.O.O』テストプレイヤーが混じっているようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
それでは、よろしくお願いいたします。
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