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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>クックロビンのかたわらで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――新規イベント『機動要塞ギアバジリカ』が開催されました。
   鋼鉄内乱『フルメタルバトルロア』を攻略し、皇帝殺害の真相に迫りましょう。
   さあ、機動要塞ギアバジリカ初号艦のクルーとなって戦地へ赴きましょう。
   発進! 黒鉄十字柩(エクスギア)で出撃し、鋼鉄を蹂躙する『シャドーレギオン』と交戦せよ!


 誰が駒鳥を殺したの?
 それは私と――


 皇帝陛下が死んだ。
 街を瞬く間に駆け巡った号外(ニュース)に僕らは顔を突き合せて『次の皇帝』について議論した。
 フーダニットもハウダニットの推理にも興味が無ければ『Whydunit』は明確、赤ん坊だって腹を抱えて笑顔になる程の!
 詰るところ、この国は可笑しくなる力に支配されていた。強ければ勝利をする。強ければ生きていける。
 僕らは子供で、力が弱いから皇帝陛下を殺す事なんてできないけれど、気にはなって仕舞うのさ!

「誰が殺したと思う?」
「さあ、ヴェルスじゃないかな」
「いやいや! ザーバの方が強いよ。ガイウスだって!」
「でも、ヴェルスにはアリバイがないんでしょ? なら、ヴェルスじゃないかな。次期皇帝になるんだ!」
 噂話が駆け巡る。その言葉を聞きながら『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)はさあ困ったと首を傾いだ。
「ヴェルスさんは皇帝になりたくは無い人柄なのに、こうして市井では囁かれているのよね。
 ううん、とっても難しい事になってきているの。皇帝を倒したと思われてる彼は狙われちゃう。
 だから、このイベントではヴェルスの軍閥『ゼシュテリウス』の一員となって街を騒がせる『シャドーレギオン』を倒す事になるそうよ!」
 スノウローズが拓いたのはシステムウィンドウ。2.0の情報を纏めたページなのだろう。
「ゼシュテリウスはクラースナヤ・ズヴェズダーを母体に、狙われ続けるヴェルスさんを救済した新興の軍閥なの。
 私達の機動要請はギアバジリカ! そこから、黒鉄十字柩(エクスギア)で戦場へとひとっ飛び。カッコイイでしょう?
 ふふ、浪漫よね。がががって戦場に突き刺さる黒き十字! 中より現われるのは――みたいな!」
 身を捻り、喜ぶスノウローズはその為にゴシック風の衣裳を用意しようかしらとひらひらとスカートを揺らしていた。
「こほん! つまり、私達はヴェルスさんの味方なの。
 彼を狙う『シャドーレギオン』は……何だか様子がおかしくなった、バグ、みたいなものなのかしら?」
 首を傾げる。
『シャドーレギオン』――それは一種の狂気状態に近しい物なのだという。彼等を見遣ればゲームパラメータを確認することが出来るらしい。
 ヴェルスを狙う彼等には『WISH』と『DARK†WISH』というパラメータが保有されているらしい。
 本来の願い(WISH)を歪めてしまった狂気(DARK†WISH)が彼等を突き動かし悪逆にその身を落す。
「……本当は心優しい人だって、願いが歪んで誰かを傷付けるなんて――そんなの許せないわよね!?」

 ――機動要塞ギアバジリカ乗組員に出動要請。シャドーレギオンが確認された。至急……。

「さ、行きましょう!」


 沈み往く夜の傍らで、幼い弟が絵本を読んでいた。もう暗くなるよとランタンに灯した灯りに影が邪魔なのだと彼は唇を尖らせて。
「皇帝さんが殺されたんでしょう? お兄ちゃん。お兄ちゃんも忙しくなるかな?」
「……ああ、そうだなあ。誰が犯人かを見つけないと中々帰ってくるのも難しいかもなあ」
 そんなあ、と弟が肩を竦めた。けほけほと咳を漏らした彼の背を撫でる。弟は身体が弱い。
 夢だったラド・バウファイターになれどもバトルマネーは塵ほどの量しかなかった。
 早くに両親を亡くした彼にとって、幼い弟の治療費を捻出しながらの生活は苦しかったのだ。出来れば、ささやかな生活でも笑っていて欲しい――彼の為にも金が必要だと鋼鉄軍に入ったが、皇帝暗殺の報により弟の世話を行う時間さえ中々得ることが出来なかった。
「寂しいねえ」
「……そうだなあ。早く、仕事を終えて兄ちゃん、ちゃんと薬を買って帰ってくるからな?」
 寂しがる弟にもう寝なさいと声を掛けた。青年の名はバルドル。心優しき男だった。

 ――おかしい。
 弟を寝かしつけてから仕事に出掛けてきただけ、だったのに、だ。
 目の前に転がっているのは屍だった。殺す必要があったのか? ない。いや、ある。あるじゃないか!
 こいつらが『次期皇帝の可能性がある、この国に生きている奴等』が俺の仕事を長引かせているんだ。
「こいつらを全員殺せば、『皇帝の可能性がある奴』が減る……犯人捜しなんてする必要が無い!」
 そうすれば弟のために薬を買って帰れるじゃ無いか。バルドルの心は躍った。その澄んだ蒼い瞳に翳りが滲む。

 ――『早く帰ろう』

 帰るためには次期皇帝陛下をさっさと擁立せねば。こんなにも皇帝候補が多くては決められない。

 ――『早く帰ろう』

 皇帝候補を『さっさと処理すれば』唯一無二の皇帝が出来上がる! さあ、沢山殺そう。可愛い可愛い弟のために!

GMコメント

 日下部あやめです。

●目的
 バルドルの捕縛

※WISH&DARK†WISHに関して
 オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。

●フィールド
 鋼鉄市街地。周辺に民家が存在し、バルドルと兵士達はずんずんと進んでいます。
 一般人だろうがラド・バウファイターだろうが、軍人だろうが関係なく。全てが害するべき対象のようです。
 避難誘導や、引き付けるなどの行動は有効です。足場や視界に問題はありません。

●鋼鉄軍人『バルドル』
 とても心優しい青年です。早くに両親を亡くし、病が地の幼い弟を養うために軍に所属しています。
 小隊長候補であり、数人の部下を有します。戦闘能力はソレなりに高く、元はラド・バウのファイターでした。
 バルドル自身は魔法部隊の小隊長候補です。魔法で戦います。
 バトルマネーでは弟を養えないために、軍に所属して弟に寂しい思いをさせているのを悔んでいるようです。

 『DARK†WISH』により、彼は歪んでしまっています。心情的アプローチや不殺を行う事で『DARK†WISH』から解放されるようです。
 現状は、自身を邪魔する物は皆、『仕事を長引かせる原因』であるかのように叫び、怒り続けます。

『WISH』
 早く病気がちで寂しがっている弟の元に帰りたい。

『DARK†WISH』
 仕事が長引く原因である次期皇帝候補を全て排除すればいい!
 
●鋼鉄軍人 部下*6
 鋼鉄軍の軍人達です。魔法部隊であるらしく、腕っ節よりも魔術に優れます。
 彼等もまた『民を護りきりたい』という願い(WISH)が変容し『殺せばもう害されない』(DARK†WISH)に変わってしまっているようです。

●黒鉄十字柩(エクスギア)
 中に一人づつ入ることのできる、五メートルほどの高機動棺型出撃装置。それが黒鉄十字柩(エクスギア)です。
 戦士をただちに戦場へと送り出すべくギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

どうぞ、宜しくお願い致します。

  • <フルメタルバトルロア>クックロビンのかたわらで完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
アレクシア(p3x004630)
蒼を穿つ
沙月(p3x007273)
月下美人
アーゲンティエール(p3x007848)
魔剣遣い
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
アズハ(p3x009471)
青き調和
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ


 廃油の香りが鼻に煩う。歯車と蒸気に塗れた鋼鉄は鉄帝国と大きく変化はない筈の――国内を動乱に包み込んだ『トップニュース』は国を悲劇に転落させたか。R.O.Oにて発表されたイベントの冠を有したクエストを受注してアレクシア(p3x004630)は深く落胆の溜息を漏らした。
「鋼鉄では力が一番大事っていうのはこっちでも変わってないんだね……ただ、現実よりもさらに尖ってるような気もするけれど……」
「そうですね。何やら物騒なイベントが始まったようですね。混乱する民を捨て置くわけにはいきません。できる限りのことはやりましょう」
 現実と違わぬ姿を有する『月下美人』沙月(p3x007273)はその華奢な肩を竦める。滑るような金の髪を撫で付けた風に孕んだ涼やかさは現実でも仮想世界でも変わりは無い。此の地が見知っていて、知らない場所。そう思わせるだけの事があるのだと『ギアバジリカ』よりクエストデータを確認して彼女は呟いて。
「『不具合』の被害にあってしまったバルドル様は普段は弟思いの良い方のようです。
 DARK†WISHになってしまった期間が長いほど戻った時に弟とも顔を合わせづらくなってしまいますね」
 クエストデータをまじまじと見遣ったフィーネ(p3x009867)のワインレッドの眸が揺らぐ。
 此度、R.O.Oの鋼鉄で始まったイベントの名は『フルメタルバトルロア』――皇帝暗殺の犯人を、そして『王座の行方』を巡る国家クエストの1つだ。
 不具合と彼女が称したのは『シャドーレギオン』と呼ばれたエネミーデータのことだ。本来的にNPCが有していた願いを歪んだ形で叶えるバグが多発しているそうだ。そして、此れよりフィーネが船上で相手取ることになる人間は。
「今回は弟を思う心、そして民を護りたいという心が捻じ曲げられているのか。
 イベントだろうとその様を見るのは心が痛む。可能な限り早く、元に戻してやる」
『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)の言うとおり『弟を思う心』『民を護りたい心』を捻じ曲げられた鋼鉄の兵。
 人間のこころを容易に捻じ曲げるR.O.O。その在り方はゲームと言えども劣悪で。『魔剣遣い』アーゲンティエール(p3x007848)が鎧で隠したかんばせでどの様な表情を浮かべたのかは誰しもが推し量れるものだ。
「痛ましい事実誤認だね……R.O.O.の主は我が思うよりずっと悪辣、なのかもしれない」
 悪辣なるイベント。そう告げるアーゲンティエールにアレクシアは重苦しく頷いた。理解にも程遠い有り得てはいけない、苦しみのかたわらに腰掛けたかのような曖昧さ。
「それはともかく、人の願いを歪めてしまうような事態は、たとえ仮想現実だとしても放ってはおけない!」
「人を殺める前に……早く戻してあげなければいけません。
 出来るだけ苦しまないように戦闘不能にすること、それが私たちの出来ることです!」
 アレクシアの言葉に続きフィーネは大きく頷いた。だが、その歪んだ想いの発生そのものに理解が出来ると『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は呟く。
「歪んだ願いは放っておけないけど、でも気持ちは分かるな。
 本当に望んでることが素直に叶えられなくて手段を探した結果、元の形を忘れてしまうんだと思う。……真っ向から食い止めて、本当の願いを思い出させるぞ!」
 五里霧中だと手探りを行う最中、そうして抱き続ける本来が失われたとしても、目的と手段が入れ替わろうとも。人は浅ましくも貪欲に願いを求める者である。アズハはその心を否定で来やしないと首を振った。それでも、その歪なる願いが叶ってしまうことは許しては置けない。
(歪んだ願い、かァ。親しみがあるような、正反対のような、どちらでもあるような)
 身に覚えのあるような。慈しみ抱いた赤子のような生暖かさを思わせる。人間には誰しも有り得たかも知れない歪さに『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)は首を捻った。てけりてけり、と笑うように。こころの中で独りごちて。
(ああ、それにしても──)
 皇帝が殺された。物語には良く在る導入。
 されども、この国では一大事。その王座は『強者』のものだと決まっていたからだ。ならば、誰もが口を揃えてそう言った。

『すずめ だぁれ?』


「しかしゲームなだけあって、相応の対抗手段はあるらしい。是非ともその恩恵に与り、まずは勇壮に殴り込みをかけるよ」
 アーゲンティエールは勇壮なる謎の騎士でありながら愛らしい兎の耳をぴょこりと揺らしている。『プレイヤー』は機動要塞ギアバジリカ初号艦を大層お気に召したらしい。
「――いざ出撃、黒鉄十字柩!!」

 ――起動します。

 その声にアズハは何となくの既視感を感じていた。黒鉄十字柩(エクスギア)が機動し、イレギュラーズを船上へと送り届けるが為にアナウンスが流れた。手順の一つ一つを映像を眺めるように見詰めている。
「……何だか新鮮な気分だ。謎なところもあるけど結構便利そうだな。ゲーム、だからかな……?」
 ぼんやりと一連を聞いていたアズハとは対照的に『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は酷く苛立った。長い銀髪は乱れ白いかんばせからは色が抜け落ちたように更に蒼白に落ちて往く。
「……誰だい、こんなもの考えたのは。
 勢いはともかく、揺れはどうにかならないのかな…あと10分揺られていたらちょっと危なかったよね。これ、本物の敵地に撃ち込んだ場合、回収とかどうするのだろうね?」
「ご都合主義で、なんてね?」
 アーゲンティエールの耳がひょこひょこと揺れる。勢いよく大地へと突き刺さった黒鉄十字柩。クルーである八人のイレギュラーズは堂々と戦場へと飛び出して、接近する男の影に武器を構える。
「誰だッ!」
 青年の声が低く轟いた。その姿を視認して、ベネディクトは「バルドルか」と呟く。達士により、周囲の建物を保護する結界を張り巡らせた。
「これ以上、市街地で暴れるのは止めて貰おうか」
「ッ、誰だと聞いている! 俺の邪魔をするな……! 俺は、早く帰らなくっちゃならないんだ!」
 唸るように男は叫んだ。ベネディクトは白き刀身をすらりと抜きゆっくりと構える。男は混乱し、そして、強迫観念を抱いたように帰路を急いでいる様にも見えた。

 ――仕事が長引く原因である次期皇帝候補を全て排除すればいい!

「そうか、お前等が次期皇帝候補か!」
 男の短絡的な思考回路は自身の邪魔をする者全てそうで在ると認識して居る。彼の帰宅を邪魔する民草も、何もかもが全て。
 地奔る雷が一歩歩み出たイズルの足下へまで迫る。夜告鳥の知恵袋を駆使して彼等の心理状態を知り得るだろうかと見据え――ああ、けれど、医学分野ではそれは解明できないか。男の恐慌状態を和らげるためにお気楽になるポーションの1つでもくれてやりたいとじりと後退した。
「本来の願い(WISH)を歪めてしまった狂気(DARK†WISH)。
 切実な願いであるが故に、狂気は願いの歪なパロディとなる。猿の手の物語を思い出してしまうね」
「ああ……それじゃ、お願いするね」
 スナイパーライフルを構えたアズハがイズルに変わり、一歩踏み出す。癒杖『ウルルナルル』をぎゅと握ったフィーネは「バルドル様ですね?」と確かめるようにその名を呼んだ。
「……俺を知っているのか?」
「はい。あなたを、助けに来ました。あなたに、人を傷つける罪悪感は負わせません! すぐに元に戻してあげます!」
 何を、と男のかんばせに影が差す。フィーネは男の心に刻まれる傷以上に、『不具合を生み出す』原因こそが討伐の必須がある仇敵であると認識して居た。
 其れ等のために、男が人を殺す事を避けるために避難誘導を行うイレギュラーズとバルドルそのものを足止めする役割を分担する。
 イズルが民草を喰うために手を伸ばせば、アズハは悪戯に命を奪うバルドルへと堂々と宣言を。その声音は伸びやかに、フーダニットもハウダニットの推理にも興味が無い民の心を引き付ける。
「ここまでだ! これ以上殺させない!」
 至近に近付いたベネディクトは的を見定め、圧倒的な龍としての存在感をその身に纏う。心の隙を揺さぶる如く。竜の覇気はバルドルを、そして彼の引き連れる兵士を惹き付けて止まない。
「縺薙▲縺。縲√%縺」縺。縲ゅ♀縺ォ縺輔s縺薙■繧峨?√≠縺溘@縺ィ縺ゅ◎縺シ縲ゅヲ繝抵シ」
 こっちこっち、鬼さん此方。まるで子供が無邪気に誘うように縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は『アクティブスキル』を放つ。解析は失敗、指定クラスは存在せず、プロパティも無効。それでも縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はてけりてけりと言葉を発する。その発生は不明瞭。
 ぎょうとした軍人達からの視線を遮るように沙月は民草を背に庇う。頷き合えば、言葉なくともアレクシアは直ぐさまに幼児の手をぎゅうと握った。
「さ、ここは危険だから逃げよう!」
「お、お姉ちゃん……」
 大丈夫だよと微笑んで。現実と同じように。背負った天穿の弓は未だ構えない。両手は救いたい人達の手を握るためにあるから。
 索敵中の鶏の鳴き声ひとつ。アレクシアが「沙月さん!」とその名を呼んだ。舞うように、静かに。沙月の指先が敵兵の腕を捻り上げる。
「余所見ですか?」
 沙月が敵兵の行方を塞ぐ。だが、それを是とせぬのがバルドルか。歯を剥き出して獣の如く男は吼えた。
「どうして邪魔をする! お前達のせいで、帰れないんだ!」
「……DARK†WISHは歪められてしまった願い、彼ら本来のWISHを穢さぬ為にも成就させるわけには行かないよ。
 ――無用な殺戮を為してしまえば、何より弟君が悲しむでしょう?」
 アーゲンティエールは大剣を手に、民草を遠く遠くへと奔らせる。魔剣の騎士が静かに告げた言葉に男は僅かに息を飲んだ。歪められた願いが男を突き動かすならば――せめて、『本来の願い』に沿うように彼を救ってやりたくて。


「どうしてそう願ったんだ?」
 アズハは静かに問うた。手段に気をとられている。本質とは遠い、願いの在り方に納得は出来なくて。
「殺して排除して、どうしたい?」
「家に帰るんだ!」
 歪んだ願いは『バグ』によるものか。堂々巡りに唇を噛み締めて。言葉を重ねて、その心を引き戻せることを願えども――倒しきらねば『DARK†WISH』は消え去らないか。廃油の匂いが鼻に煩う。地を踏み締めれば固い大地の感覚が伝わってくる。
「仕事を長引かせたくない、つまり早く帰りたいのは何故? 害されたくないってことは守りたいんだろう? それは何を?」
「ッ――! 五月蠅い! 俺は、帰らないと……!」
 この地の続きに彼の大切な人が待っている。弟を、病弱で一人きりな大切な人を。護る為に、誰かを害する。
 それを彼は正しいことだと思い込んでいるというのか。バルドルの周りの兵士がひとり、またひとりと倒れてゆく。今の彼には冷静な指揮など行えるわけもなく。
「だから! 頼む、死んでくれ――!」
 我武者羅に、男が叫んだ。魔力の弾丸が縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を穿つ。『痛い』と小さな呟きに、てけりけりと笑う声。反撃の時だと告げるが如く放たれた『アクティブスキル』が男の足を貫いた。
 死んでくれ、だなんて。頼むから、だなんて。帰らないと、だなんて。
「そんなの……!」
 フィーネは首を振った。ポーションを作り上げ、ベネディクトへと授ければ、青年はバルドルへと肉薄して。アズハへと応えぬ彼の心を救う為にフィーネは仲間達に進む力を授け続ける。
「殺せばもう害されないか!? 違うな、殺して、殺して行きつく先は憎悪、そして恐怖の連鎖だけだ!」
 ベネディクトの刀に、バルドルの魔力がぶつかった。魔力を駆使し、それでも尚も前線へと飛び出すのは己の手で『願いを成就』させるだけであろうか。
 男は答えない。その眸に滾った殺意に肌を撫でられ粟立つその感覚にベネディクトは唇を噛み締めた。
「お前達は軍人だろう、一般人達も多く居るこの場所で何をしている!
 お前達が本当に為すべきはなんだった?! 護りたいんじゃないのか……?」
「疑うべきを罰するんだ! そうしなくては『永遠に国はこのまま』なのだから!」
 民草の避難誘導を終えたイズルは肩を竦めた。兵士とて全ての命を失うことがないようにと気遣う如く背の翼が輝いた。
 淡い魔力の波がアイアトロマンサーのその体を包み込む。
「他者が害する事の無いよう、守るべきものを自らの手で害する。
 それではまるで侵略者に与えない為に畑を焼き、家を焼く、焦土作戦のようだよ。キミたちは今、何に追われてそうしようとしている?」
「皇帝が殺された。誰もが犯人捜しに躍起になった! 栄冠を頂くものが誰なのか。俺達は、探さなくっちゃ為らないんだ。
 そうしなくてはこの国では誰かが死ぬ。その『切欠』になるやつを野放しにしてはいけない。邪魔する奴等は皆、叛逆の内通者だ!」
 バルドルが朗々と叫ぶ。アーゲンティエールはやれやれと首を振った。己に、そしてベネディクトに固執するように飛びかかる魔力。
 兵士達とてイレギュラーズこそが内通者だと信じて已まない。無用な殺しを弟が好まぬ事を知っていても、その心は進み続ける。
 止ることなど、出来ぬような。
 それだけ『バグ』が強いのか。それとも、此程までに悪辣なR.O.Oの管理者が心優しき青年を突き動かしたか。
 アーゲンティエールの憂いを感じ取りベネディクトは静かに囁いた。
「とても心優しい男の顔には見えんな、バルドルよ。その様な顔、お前の弟にはとても見せられまい」
「何だと――」
「バルドル、お前は立派な男だ。だからこそ、その歪んだお前は見るに堪えん──お前の弟の為にも。必ず、お前を元に戻して連れ帰ってやろう」
 兄ちゃんと呼び慕う病弱な弟の元へ。彼を連れて行くために沙月は花瞼を落してから溜息を吐く。
「どうしてこのような暴挙に出ているのでしょうか? 貴方達の望みはこのようなことだったのでしょうか?
 ……先程逃げていった方達の顔を覚えているでしょうか? 貴方達はあのような顔をさせたいから兵になったというのでしょうか」
 ああ、屹度。彼等は何も覚えてはいないのです。
 そう語らう様に笑った縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の声音に沙月は頷いた。故に、恐ろしい心の変化。
 バルドルの魔力を打ち払うように、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は兵士達を『ばくり』と包み込む。続くアレクシアの弓が男の腕を貫いた。其の儘、刺さり続けるわけでは無い虚空に溶けて消えゆくように。少女の魔力は花弁と変化する。
「あなたの本当の願いは何!? 何のために早く帰りたいの!?
 弟さんのためじゃないの! 誰かの生命をいたずらに奪って帰って、それで弟さんは笑ってくれるというの!?」
「弟は――」
 沙月が言った『逃げていった人々』の恐慌の表情が優しい弟と重なった。アレクシアの叱咤の声に、そして、沙月の冷徹な声音に男は頭を抱えて呻く。
「……何か護りたいものがあったのではないですか?
 であれば、自身の弱さに打ち勝つべきではないでしょうか。貴方達の大切な方も今の姿を見ると悲しむと思います」
 どうしてそんな風に思ったのかなんて聞いてくれるな。男はそう呻いた。
「どうしようもないんだ。どうしようもない。どうすればいいのか。早く帰りたいだけなのに! そうしなくっちゃ為らないんだ!」
 心が、悲鳴を上げている。優しい青年が人を殺めてしまうことを防ぐ為にここに来た。
 アーゲンティエールは剣を構えたまま、青年を真っ直ぐに見遣る。フィーネは首を振って息を飲む。
「……そうしなくっても、いいんだよ」
 アレクシアはおずおずと、そう言った。
「そんなことしなくったって、弟さんの元へ帰れるから。そんな、自分を傷付けないで」
「ええ。そうすることで、貴方だけでは無い、大切な人とて傷付くのです」
 本当の願いが歪んでしまう。あの、畏れを抱いた無数の眸に、男がたじろげば、ベネディクトが今だと踏み込んだ。
 後方でアズハが大きく頷いた。心揺さぶる言葉が男の足を竦ませた。
 この戦いは、心を救う為のものだったから。
 名も無き『モブNPC』であった彼が唯一無二を護る為の――それがデータだから何なのか。
 ベネディクトの剣が、男の意識を奪い去る。
「……殺したいから戦うんじゃない、守りたいから戦うんだ。……この思いは祖国を守ると決めた時から、ずっと変わらない」
 変わらないからこそ――護らなくては為らない思いを胸に抱いて。
 歪んだ想いに変わり果てた男の目が褪めた明日が眩い幸運に恵まれていることをベネディクトは、願わずには居られなかった。

成否

成功

MVP

沙月(p3x007273)
月下美人

状態異常

縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)[死亡]
不明なエラーを検出しました
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)[死亡]
災禍の竜血
アズハ(p3x009471)[死亡]
青き調和

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 歪んでしまった願いを抱いた男へととても素敵なお声かけを沢山頂きました。
 MVPは最も、男の心を揺さぶったあなたへ差し上げたく思います。

 また、ご縁が御座いましたらば。どうぞ、宜しくお願い致します。

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