シナリオ詳細
<フルメタルバトルロア>守るための力、その力の在り方
オープニング
●偽りの守護者
「出たぞ! ギア・ラルウァだ!」
町人の男が悲鳴をあげる。鋼鉄国の鉱山に面したこの街は、鉱山より産出される鉄材によって潤っていたが、昨今この鉱山より、機械化した怪物の類、ギア・ラルウァたちが突如現れ、町民たちに牙をむいたのである。
襲撃は不定期に、しかし確実に行われていた。その都度傷つき、時に命を落とす町民たちの心は、日に日に疲弊していく。
今もまた、イヌ科の動物を模したような機械犬の群れが、街を走った。怯え逃げ惑う人々。その鉄の牙が男に食らいつこうとした瞬間――。
「させねぇっ!」
長髪の女性が飛び込んできた。軍服姿の女性である。鮮やかな緑色の髪と、巨大な鋼鉄の四肢が印象的な、鉄騎種の女性だった。
女性は、男に食らいつこうとしたギア・ラルウァに殴り掛かると、その剛腕で以って粉砕した。ギアと鉄の破片があたりに飛び散る。
「大丈夫か、助けに来たぜ」
「エリさん……!」
エリ、と呼ばれた女性がにぃ、と笑う。その後に続くように、無数の軍服の男女たちが駆け寄り、次々とギア・ラルウァの群れを迎撃していく。
「第17戦隊だ! 鋼鉄軍第17戦隊の皆が来てくれたぞ!」
町人の男の声に、街の人々から喝采が上がる。
「お前ら、気合入れろ! これ以上誰も傷つけさせるな!」
「はい、隊長!」
応じた部下たちが、剣や銃を構え、ギア・ラルウァたちを打ち、撃ち、討ち倒していく。町人たちの喝采を受けながら、第17戦隊は戦線を押し戻し、ギア・ラルウァたちを鉱山へと押し返していったのだった。
「けが人は?」
「はい、数名……今回は、死人までは出ていないようですが」
「そいつは良かった……前は子供が死んじまった……オレ達がふがいないばっかりに」
「エリさん、あんたのせいじゃないんだ」
町民の男が頭を振った。
「あんた達には命を助けられてる……わかってる、あんた達だって完全じゃない。こうして守ってもらえるだけでも、御の字だ」
ぞくり、と。
その身体に何かが奔った。
「けどな……本当は、あんたらをちゃんと『守って』やりたいんだが」
「ううん、お姉ちゃんはちゃんと僕たちを守ってくれるよ!」
と、子供が嬉しげに笑った。
「そうです、第十七戦隊の皆さんは、わたしたちをあの怪物から守ってくださっています……本当に、感謝してもしたりません」
ぞくりと。体に走る。
それはおそらくは、快感の類。
エリは、にぃ、と笑った。
「ありがとう。そう言ってもらえると、助かる」
第十七戦隊の隊員たちは。皆一様に。笑っていた。
鉱山の入り口は一つではない。廃棄された入り口が、街から外れたところに会って、エリたち第十七戦隊の面々は、そこから鉱山へと侵入した。
「守ってくれてる、と」
「はい」
「オレたちが、あいつらを守ってやれてるんだ」
「はい!」
感激するように、隊員たちは言った。その瞳は、皆一様に輝いている。確かな信念を、胸に抱いているようだった。
自分の行いに、疑いなどを持っていないような眼であった。
「オレ達は……誰かを守るために、力を欲した。そのために軍人になったが……それが今、ようやく成就されたわけだ」
「そうですね。いま、私もとても充実しています」
銃士の女性が言うのへ、エリは笑った。
「だろう。オレもだ。だってそれが……オレ達のWISH(のぞみ)であるわけだからな……」
彼女らがたどり着いたのは、鉱山の最奥だった。そこには、超古代文明時代の遺物が残されていて、それは周囲の鉄材を取り込みながら、次々と何かの部品を生産している。やがてその生産された部品はガチャガチャと組み合わされて、機械の怪物を生み出していた。
「増産を急げ」
エリが言った。
「そうだ、オレ達が、脅威から、あいつらを守ってやらなきゃならない。そのためには、世の中に脅威が必要なんだ……守るために。守るために、守られるべきものは脅かされなきゃならない。だってそうじゃなきゃ、オレたちは、何から、あいつらを守ればいいんだ?」
エリの言葉に、部下たちは頷いた。
その誰もが、己の行為を疑う事のない。
昏い目をしていた。
●真実の守護者
「WISHとDARK†WISHか。DARK†WISHに歪められたものを、シャドーレギオンと言ったかな」
『理想の』クロエ(p3y000162)は、ギアバジリカの『黒鉄十字柩(エクスギア)』射出搭乗エリアにて、特異運命座標たちにそう言った。
鋼鉄は、現在皇帝ブランドを暗殺され、帝なき国と化している。その結果内乱が勃発し、あちこちで軍閥が興り、様々な問題を起こしているというのが実情だ。
その軍閥を形成し、問題を起こしているもの達を、『シャドーレギオン』と言う。彼らは元は真っ当な人物であったが、何者かによってその根源たる自身の在り方、願いとでもいうべき『WISH』と言う属性を、『DARK†WISH』なるものに歪められてしまっていた。
「その結果どうなったと言えば、見ての通りだ、多くの者が、本来は善良な願いを、悪辣な行動へと走らせてしまっている」
クロエはデータベースにアクセスした。ディスプレイにうつるデータは、鋼鉄軍第十七戦隊のメンバーと、その隊長、『エリ・エドヴァウ』の姿だ。
「彼女たちは模範的な軍人だった……誰かを守るために力を望んだ、と恥ずかしげもなく言えるような好人物たちだ。だが、その想いは歪められてしまった。彼女たちは、『誰かを守るための脅威を欲する』ようになり……鉱山に封印されていた古代兵器を起動させてしまった。この古代兵器は、ギア・ラルウァと呼ばれる兵器を増産するためのプラントでな。解き放たれたギア・ラルウァたちは、付近にあった街を襲うようになった。これを守るのがエリたち第十七戦隊のメンバーで……つまりこれは自作自演と言う奴だ」
誰かを守る、と言う事は、つまり守るという大義名分、もっと言えば脅威が必要である。彼女たちは、その脅威を自ら解き放ち、それを迎撃することで、その歪んだ望みを発露させている。
「このままでは、あまりにも哀れだ。襲われ、傷つく街の人々はもちろん、第十七戦隊のメンバーもだ。ワタシは、君たちに『第十七戦隊の悪事を暴け』と言いたいんじゃない。どっちも救ってやってくれ、とお願いしたいんだ」
シャドーレギオンは、撃退し、正気に戻すことが出来れば、元の善良な人へと戻るのだという。これは、何者かによって歪められてしまった人々を救い出す、そんな戦いであるのだ。
「これより君たちを、エクスギアにて鉱山入り口へと射出する。そのまま電撃的に鉱山内へと侵入し、内部を制圧してくれ。内部には、第十七戦隊の隊員たちと、エリ、そしてギア・ラルウァたちが居るだろう。激闘にはなるだろうが、くれぐれも注意してくれ」
クロエはそう言うと、コンソールのスイッチを押した。エクスギアの搭乗口が蒸気と共に開き、特異運命座標たちの搭乗を待っている。
「……そうだ、エクスギアの乗り心地、よかった後で教えてくれ。少し気になっていてな……なんて。
ああ、ちょっとした冗談だから気にするな。こほん。
それじゃあ、気を付けて、行ってらっしゃい」
そう言うクロエに見送られながら、特異運命座標たちはエクスギアへと乗り込んだ。
- <フルメタルバトルロア>守るための力、その力の在り方完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●鉱山潜入戦
廃鉱山入り口。街にも接するこの鉱山は、今は多くのギア・ラルウァと名付けられた機械の獣が現れる場所だという。
――ふと、その空より風切り音が響いた。途端、八つの光が飛来するや、次々と大地に着弾していく! その光は、よく見れば十字架型の移動用ポッドであり、それはギアバジリカから射出された『黒鉄十字柩(エクスギア)』だ!
エクスギアは大地に突き刺さると、激しく蒸気の煙をあげた。途端、その棺のふたがゆっくりと開くや、中より現れた八つの人影。それは、ギアバジリカより派遣された特異運命座標たちである!
「……戻ったら、クロエにエクスギアの乗り心地を教えてやるとしよう」
エマノン(p3x007812)は棺から飛び降り、ぱたぱたとスーツの埃を払うと、肩をすくめた。
「パンドラが減るかと思った、とな」
「中々派手な乗り物だったね! あれだけがたかが揺れてても、特にダメージが無いのは結界のおかげかな?」
と、『開墾魂!』きうりん(p3x008356)が笑った。
「現実だったら、VDMランドでアトラクションにしたい所だね!
おっと、ヴァレ家、大丈夫ですか? 手を貸しますよ!」
と、『航空海賊虎』夢見・マリ家(p3x006685)が、『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)の乗るエクスギアへ手を差し出した。ヴァレ家は、その手を受け取りながら棺から出てくると、
「ありがとう、マリ家。
……さて、WISHと、DARK†WISHですか。
最初は誰かを救いたいという純粋な願いであったはずが、こうなってしまうとは……」
ヴァレ家は、鉱山の中をにらむ。中には、鋼鉄軍第十七戦隊のメンバーがいるはずだ。彼らは、本来は心から住民たちを守るために戦う優しい軍人たちであったはずだが、その願いは何者かによって歪められ、【誰かを守るためには、脅威が必要である】と言う思考に歪まされてしまった。
「守るために傷つける。マッチポンプ。
よく分かんないけど、DVと同じ匂いがする。多分」
『せなかにかくれる』ジェック(p3x004755)が、うん、と頷いてそう言った。
「そうですねぇ」
『nayunayu』那由他(p3x000375)が、ふむ、と頷いて続いた。
「守る、と言う行為を行うには、確かに対象が脅威に脅かされていなければなりません。
第十七戦隊のメンバーは、自分達の存在意義を求めてしまったんですね。
何とも悲しい自作自演ではありますが。傷付く街の人々には関係ありませんよね」
「純粋な願いを捻じ曲げて、人を害するようにするなんざ反吐が出る」
『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)が硬いの良い眉を吊り上げながらそう言う。
「ゲームの世界たぁ言え……こんなもんを見せつけてくれたやつには落とし前をつけてやらねえとな。
だがそいつはまだ先の話だ。まずは目の前のコイツラを正気に戻してやらねえとな!」
ばしっ、と拳を鳴らすリュカ。それに頷いたのは『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)だ。
「そうだな!
白銀の騎士、ストームナイト推参!
清き志を持つ者たちを救うため、この剣を振るおう!!」
高く剣を掲げるストームナイト。
「十七戦隊のメンバーたちも、被害者だ。出来れば、彼らの命は奪いたくない。
手伝ってくれるか、皆?」
ストームナイトがそう言うのへ、仲間達は頷く。
「そうだね。すっきりと終われるように頑張ろうか」
きうりんがそう言って笑う。
「さて、お粗末なマッチポンプを止めに行くとするか」
エマノンの言葉を合図に、仲間達は鉱山内部へと侵入する。
「ヴァレ家! 皆さん! 気を付けて進みましょう!」
マリ家が声をあげる。
「……マリ家、警戒とマッピング、お願い」
ジェックが言うのへ、マリ家は頷いた。
「はい、任せてください!」
一行はゆっくりと先を進む。時折、カチカチ、と言う音が聞こえるのは、果たしてギア・ラルウァたちの駆動音だろうか。遠くから足音も聞こえ、人がいるのは間違いない。
「ストップ。見つけたよ」
きうりんがそう言う。果たして一行の前に、鉄機種の戦士たちと、狼の様なギア・ラルウァが佇んでいるのが見えた。見張りだろうか?
「攻撃しましょう。此処であまり時間をかけていては、最奥で敵の生産が始まってしまうかもしれません」
ヴァレ家の言葉に、仲間達は頷いた。
「よし……一気に制圧するぞ!」
ストームナイトの言葉に、仲間達は頷く。同時に、坑道の陰から一気に飛び出した!
「な、なんだ……!?」
鉄機種の戦士が声をあげる。
「侵入者だって?! まずい、生かして帰すな!」
そう叫び、一気に戦闘態勢に入る。狼ギア・ラルウァたちも、まるで吠えるように、口から蒸気を吐きだす。
「生かして帰すな……ということは、自分たちが何をしているのかは理解しているのか?
だが、それがどういう結果をもたらすのか、それは理解できないらしい」
エマノンが眉をひそめた。どうやら認識もおかしくなってしまうようだ。つくづく、DARK†WISHとは厄介な現象である。
「ぶん殴ってやらなきゃ目が覚めないんだったな。
が、機械の犬っころには遠慮は無用だ。
俺は援護の兵士を抑える、アンタたちは他の連中の抑えを頼む!」
リュカが飛び出し、敵部隊の後方にいた術師の男に接敵する。右拳を振り上げ、ストレートで打ち放つ。術師の男は慌てて杖を掲げる。木製の杖が、リュカの拳を受け止めて、みしり、と悲鳴を上げた。
「リュカ殿!」
ストームナイトが叫び、走る。それを確認したリュカは、再び拳を繰り出した。フック気味に放たれた拳が、術士の杖を弾き飛ばす。ガードが解かれた術士に、ストームナイトの刃が奔る!
「みねうちだ、今は……!」
ストームナイトの斬撃が、術師の意識を刈り取った。戦士たちに間に動揺が走る。
「今の隙をついて!
ほらほら!ㅤ私が一番弱っちいから最初に狙うとお得だよ!!」
きうりんが叫び、敵の注意を己にひきつける。
「くそ、まずはアイツから狙うんだ!」
戦士が声をあげ、狼ギアたちが蒸気をあげる。ぼう、ぼう、と蒸気を噴出しながら、狼ギアがきうりんに食らいつく!
「おっと、私は新鮮なきうりだからね!
でも、機械の狼に食べられるほど安くはないよ!」
タワーシールドで、狼ギアの鋭い爪を受け止めるきうりん。そこへ飛び込んできたのはジェックだ。
「ばっこーん、するよ」
勢いよく斧を振り上げて、薙ぎ払うように振り下ろす。横なぎの斬撃が、きうりんが襲っていた狼たちをまとめて薙ぎ払う!
「はじめるよ。この敵を退けて、最奥にむかおう」
ジェックの言葉に、仲間達は頷く。かくして坑道での戦いは、ここに幕を開けた。
●最奥の激戦
果たして激闘は続く。ギア・ラルウァたちと連携攻撃を仕掛けてくる第十七戦隊の軍人たち。だが、特異運命座標たちも、そう簡単に敗北するほど弱い者たちではない。対等、否、まさに圧倒するように、道中の敵たちを蹴散らしていった。
「ケガをしたくなかったら、どいてください!」
マリ家が、ヴァレ家を背中にのせながら吠えた。同時、地を駆け、跳躍。壁を蹴りながら走る稲妻のごとく坑道内を飛び回る!
「と、捉えられない!」
銃士が悲鳴をあげるのへ、マリ家の方の砲塔が動いた。ガトリング砲を乱れ撃ちにし、弾丸が銃士の身体を激しく打った。
「模擬弾だから、辺り所が悪くなければ……! ヴァレ家!」
「了解ですっ!」
とう、とヴァレ家はマリ家の背中から飛び降り、手にした大槌を振り上げ、銃士へと叩きつける。銃士は勢いのまま吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。
「戦士隊は無力化しました! ギア・ラルウァを!」
ここにいたギア・ラルウァは、巨大な鷹の様なデザインをしていた。行動を低く飛びながら、刃の翼で斬りかかってくるそれを、大戦斧を持ち上げた那由他が迎え撃つ。
「それっ、と」
すれ違う一瞬の間に、那由他は大戦斧を叩きつけた。打ち据えられた鷹ギアが、全身から蒸気を噴出しながら地に叩きつけられ、爆散する。
「残念でしたね。次はもっと早く、鋭く飛び込んできてください」
「おう。これで後一匹」
と、にやりと笑いながら、エマノンは肩越しに背中側に銃弾を放った。見ずに放たれた銃弾は、しかし後方より迫る鷹ギアの眉間に突き刺さる。そこから鮮血のように蒸気を噴出した鷹ギアは、空中でその身体を分解させた。カタカタと小さな歯車や鉄の欠片が、エマノンのスーツにあたる。エマノンはほこりを払うと、
「これで全部だ。辺り所が悪かったみたいだなぁ。同情するよ」
肩をすくめるエマノンに、よし、とストームナイトは頷いた。
「だいぶ奥まで進んできたはずだ。最奥までもう少しだろう」
「なら、こんな所でぐずぐずしてる暇はねぇな」
リュカが頷く。
「さっさと行って、このバカみたいな茶番を終わりにしてやらないとな。これ以上、お互い傷つくのはごめんだ」
「そうだね。あまり時間をかけて、新しいギア・ラルウァを生産されても困るし。
速くDARK†WISHからも解放してあげないとね」
きうりんの言葉に仲間達は頷いた。そのまま一気に坑道を駆け抜ける。やがて大きな広間にたどり着くと、ごうん、ごうん、と言う地を揺るがすような振動音が聞こえた。果たしてそれは、ギア・ラルウァを生産する、巨大な蒸気機関の動く音だった。そしてそこには、5体のヒグマのようなデザインをしたギア・ラルウァ、そして5名の第十七戦隊隊員たち……そして、隊長であるエリ・エドヴァウの姿があった。
「なんだ、アンタら」
驚いたようにエリが言った。道中の敵もそうだったが、困惑しつつもすぐに戦闘態勢に入る。よく訓練されていることの証左だろう。
「ゼシュテリウスの特異運命座標です。
悲しい自作自演を終わらせに来た……と言えば、話は通じるでしょう?」
那由他がそう言うのへ、エリが眉を吊り上げた。
「……オレ達の願いを潰しに来たってわけか! けれど、そうはさせない!
オレ達は、この街の連中を守らなきゃならないんだ!」
部下たちも明確な信念の色を、その瞳に宿していた。何とも悲しい光景だろう、その願いはすでに歪められているのだ。
「目を覚まして下さい!
貴女の願いは、人々から感謝を捧げられるためでなく、人々を少しでも悲しみや苦しみから救いたい……その祈りが根源であった筈でしょう!」
ヴァレ家が叫ぶ。エリはヴァレ家を睨みつけた。
「何を……!?」
「歪められた結果とは言え、救うべき人を苦しめるような真似をして、貴女は本当にそれで良いのですか!
それで過去の自分に、『自分は十分にやった』と堂々と向き合えるのですか!?」
ぐ、とエリは唸った。片手で頭を抑える。
「オレたちは……この地の民を守ってるんだ……その、はずだろう!? だが、くそ、頭が痛む……!」
わずかに苦しむ様子を見せるエリ。ヴァレ家は叫んだ。
「だったら……!」
「くそ、黙れ……オレたちは、間違っていないはずなんだ!」
エリが叫び、その手を掲げた。それを合図にしたように、羆ギアが、ごう、と蒸気を噴き上げ、配下の術師、銃士たちが武器を構える。同時に製造装置が稼働し始めた。
「まずいな、ギア・ラルウァを製造されては不利だ!」
ストームナイトが叫ぶのへ、
「ならあのデカブツを先に破壊すればいいだろう!」
リュカが叫ぶ。
「私とジェックくん、ヴァレ家くんで攻撃は引き付けるよ!
まずは皆、装置をお願い!」
きうりんが叫び、
「了解。エリは任せて。きっと、私が適任」
「了解です! さぁ、まとめて引き受けてあげましょう!」
ジェック、そしてヴァレ家が頷き、三人が駆けだした。
「なら、俺達は機械の停止からだ」
エマノンは、かちゃり、と二丁の拳銃を構える。そのままトリガを引き、連発! 雨あられと降り注ぐ銃弾が、装置に降り注ぎ、重要なパーツへ致命的な一撃を加えた。破壊はされたわけではないが、これでは修復に苦労するはずだ。
「ちっ、装置を壊されるな! オレたちの希望だぞ!」
「おっと、お前にもだ、エリ」
放たれたエマノンの銃弾は、エリの巨大な鉄腕を打ち据えた。がん、と音がして、その腕に銃弾が突き刺さる!
「くそっ、乱射してるわりには正確に狙うじゃねぇか!」
「みっともないぜ、エリ。お前はもう少し格好良かった筈だ。
民に害を成す存在と成り果てたお前は、討たれなければならない」
「くっ……さっきから何なんだ、アンタらの言葉は……!」
エリが走る。が、その前に立ちはだかったのは、ジェックだ。
「キミの相手はアタシ。キミの願いを未来へ繋ぎに来た。よそ見はダメ」
「何を……!」
鉄腕が、ジェックを狙い振り下ろされる。ジェックは大斧を振るって、それをはじき返した。がきん、と鉄同士が弾き合う音が響く。
「キミ達の守りたい街の皆が知ったら、このことを知ったらどう思う?
アタシはきっと……傷付くと思う。キミ達が守った以上に」
「そんなことはない、オレ達は、アイツらを守るために……!」
「よそ見をしないで。ちゃんと、自分のしたことを見つめて。
じゃないと、街の皆が、可哀想」
「う、うっ……!」
特異運命座標たちの言葉が、エリたち第十七戦隊たちの心に、何かくさびを打ち込んでいった。その証拠に、エリの渾身の一撃の狙いは定まらず、むなしく空を切る。
「隊長の援護と……装置の修復を!」
術師が叫ぶのへ、ストームナイトがその大剣を振り上げた。荒らしを巻き起こすエフェクトが坑道内に吹き荒れる。
「残念だが、それはさせないっ!」
ストームナイトが大剣を振り下ろした。叩きつけられた斬撃が、術士の身体を討ち、その意識を刈り取る。もちろん、その命まではとらない。
「よし、術師は止めた……装置を!」
「任せなッ!」
リュカが駆けだす、掲げたその手に、龍のオーラを込め。赤龍のそれはまるで燃え上がる炎のようにリュカの拳を包み込むと、さながら竜の頭部のような形を描いた。
「この悪夢も、これで仕舞いだ!
テメェらの望みはこんな事じゃねえだろぉが!」
リュカが、龍の拳を装置へと叩きつける! 爆炎をあげて、装置が一気に粉砕された!
「しまっ……!」
エリが叫ぶ。同時に、ジェックが大斧を振るって接敵。押される形でエリが後方へと飛びずさる。
一方、羆ギアを抑えていたヴァレ家が、傷つきながらも挑発するように笑ってみせた。
「おやおやおや、もしかして拙者が怖いのですか?
仕方ありませんね、拙者ってば最強ですし―。恐れをなして逃げてしまうのも致し方ないっていうかー」
怒る様に蒸気をあげて、振り下ろされた剛腕を、ヴァレ家が受け止める。全身を貫く衝撃。これ以上はマズいか、とヴァレ家が苦笑した瞬間、飛び込んできたのは一匹の虎の姿。
「ヴァリューシャはやらせないよ!」
マリ家が叫び、電磁加速された串を討ち放つ。か細いそれが羆ギアの顔面を破壊して、一体、また一体と打ち倒していく。
「マリィ! 助かりましたわ!」
ヴァレ家が叫ぶ。一方、銃士たちの攻撃を引き付けていたきうりんも、反撃に転じていた。雑草魂を乗せて、タワーシールドを勢いよく銃士へと叩きつける。銃士が気絶したのを確認して、きうりんはエリへと叫んだ。
「脅威なんて作らなくても、守るべき者はいくらでもいるでしょ!ㅤ小さなことから目を逸らさないで!ㅤ派手な成果だけを見ないで!ㅤ貴方達のWISHは、そんなちんけなものじゃないはずだよ!!」
「くっ……そうだ、その通りなんだ……だけど、どうして……!?」
その言葉に、エリは混乱したような様子を見せた。その隙をついて、那由他の放った血液が刃となり、地から救い上げるようにエリを斬りつけた!
「……今、貴女達が守ろうとしているのは自分の弱い心だけですよ。
己の利益のために他者の不幸を望むただの下衆になりたいなら止めませんけど。
それで誰かを守ってるなんて言える訳がないの位は、分かりますよね?」
那由他の攻撃が、その言葉が、エリの心を穿った。戦う力を失ったエリは、静かにその場にくずおれる。
「オレは……何をしていたんだ……くそ……っ!」
悔し気にそう言うと、そのまま倒れ、意識を失った――。
かくして、坑道には静けさが戻った。エリたち第十七戦隊のメンバーは、その誰もが命を奪われることなく無力化している。
意識を取り戻せば、元の願いを取り戻し、善良なる軍人に戻る事だろう。
「……だが、やったことの落とし前はつけないとならねぇ。
こいつ等にとってはよっぽどつらいことが、これからあるんだ」
リュカが言う。最大限のサポートはするつもりだったが、しかし街の者に真実を話す必要はあるだろう。
その時、エリたちは自分たちが犯した罪を……たとえ、悪しき者に歪まされた結果だったとしても、償う必要があるだろう。
「だが、やり直せるという資格はあるはずだ。
彼女たちならきっと、辛くても……やり遂げられるはずだ」
エマノンの言葉に、仲間達は頷いた。
かくして一つの事件は終わりを告げる。
だが、事件の真なる首謀者は、まだその姿を見せない。
次なる戦いの予感を覚えつつ、特異運命座標たちはひとまず、エリたちの意識が回復するのを待った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
この後、エリたちは自身のやったことを自覚し、街の者たちへ謝罪を行ったようです。
街の人たちがそれを受け入れるのにはしばし時間がかかるでしょうが、特異運命座標たちの口添えもあり、決定的な破局は避けられました。
エリたちは今度こそ、本当に人々を守りつつ、時が来た時には、ゼシュテリウスへと合流し、皆さんの力になる事を約束してくれています。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
歪められてしまった願いを持つ第十七戦隊。
彼らを救ってあげましょう。
●成功条件
第十七戦隊メンバー全員の無力化し、ギア・ラルウァ製造装置を破壊する。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
望みを歪められ、シャドーレギオンと化してしまった鋼鉄軍第十七戦隊の面々。
彼らは、『誰かを守るために戦う』というWISHを、『守るために脅威を生産する』と言うDARK†WISHへと歪められてしまいました。
第十七戦隊を止めなければ、自作自演の果てに傷つくのは街の人達です。それに、第十七戦隊もまた、何者かによってシャドーレギオンへと変えられてしまった犠牲者であり、特異運命座標たちが助ける対象でもあります。
皆さんは、エクスギアへと乗り込み、鉱山入り口へ向かいます。そのまま鉱山内部へと侵入し、第十七戦隊メンバーの無力化と、ギア・ラルウァ製造装置の破壊を目標に行動してい下さい。
クエストの部隊となる鉱山内は、照明が設置されているため、基本的には明かりには困らないものとします。内部には第十七戦隊メンバーやギア・ラルウァが徘徊しており、鉱山の最奥にはギア・ラルウァ製造装置と、リーダーであるエリが居ます。
・黒鉄十字柩(エクスギア)
中に一人づつ入ることのできる、五メートルほどの高機動棺型出撃装置。それが黒鉄十字柩(エクスギア)です。
戦士をただちに戦場へと送り出すべくギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。
●エネミーデータ
ギア・ラルウァ ×20
歯車や鉄材で構成された、動物を模した怪物たちです。
その姿は様々ですが、皆一様に固く、タフな性質を持ちます。防御技術とHPが高いわけです。
最奥や、通路などに点在しています。
ギア・ラルウァ製造装置 ×1
最奥にある、ギア・ラルウァを生産するプラントです。大型で、簡単には破壊できない……要するにHPが高いです。
放っておくと、ギア・ラルウァを生産してしまうかもしれません。さっさと壊しましょう。
なお、破壊方法としては、普通にスキル等で攻撃できます。BSなども普通に受けます。
第十七戦隊メンバー ×15
鋼鉄軍の軍人たちです。それぞれ剣士や銃士、回復術師で構成されています。
ギア・ラルウァを蹴散らせる程度には強いです。最奥や、通路などに点在しています。
彼らに共通することですが、そのWISHは『誰かを守るために戦う』こと。DARK†WISHは『守るために脅威を生み出す』となっています。
エリ・エドヴァウ ×1
最奥に待ち構えている第十七戦隊のメンバーです。近接パワーファイター。一撃の重さに注意してください。
EXAは低めですが、EXFは高く、復活する可能性は非常に高いです。また、『渾身』を持つ強力な攻撃や、『乱れ系列』のBS付与にご注意を。
そのWISHは『誰かを守るために戦う』こと。DARK†WISHは『守るために脅威を生み出す』となっています。
※WISH&DARK†WISHに関して
オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。
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