PandoraPartyProject

シナリオ詳細

錬金術師の小道

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 錬金術師の国、シェベリ。
 真紅のサラマンダーを旗に抱げるこの国は『賢者の石』の錬成を目的とした錬金術師たちによって建国された、らしい。古の伝説とはいつだって曖昧である。

 骨董品と書籍を扱う金融港町「ライ」
 錬金素材を中心とした貿易市場街「タリー」
 研究塔と妖精森が並ぶ新古都市「リール」
 偉大なるの砂漠神殿「イタ」

 四つの街で構成されたシェベリだが、秘密の多い実験をしているためか普段は門戸を固く閉ざしている。
 しかし年に一度「錬金術師の小道」と呼ばれる日にだけ、外へとつながる門を開いて各自の研究結果を外界へ発表するのだ。
 世界各地から商人、研究者、観光客、楽師に金職人。それに人ならざる存在がシェベリへと集まり、さながら国全体が祭りのような賑やかさに包まれる。
「人だ。馬もいる! むこうの人だかりは何だ!? ドラゴンの鱗を防火材にだと!? これは聴講せねばなるまい」
「王子、いえ、ヨー様。そのようにはしゃがれますと目立ちますぞ。各地の研究成果を視察する身としてもっと気品のある振る舞いを心がけてくださいませ」
「案ずるでないぞ、爺。私も数え年で十である。常日頃から次期国王として分別のある行いを心がけておる。おっ、承継寓意味とはどんな味だか想像がつかん。一つくださいうわマズイ」
「言ったそばから何やってんじゃ王子ー!!」
「称号で呼ぶなと言うておろうが、カカ第一主席錬金術師ィーー!!」
 傍から見れば爺と孫。
 しかし会話の内容を聞けば正体が丸分かりの者も祭りに混じっているようだ。


「観光、ですか? むむむ」
 気晴らし、興味、情報収集。
 理由は何にせよ境界図書館を訪れ、そうして面白い場所は無いかと尋ねた。
 小柄な境界案内人は悩んだ末に一冊の本を手に戻ってきた。 
「こちらの国はどうでしょう。普段は外との交流をしていない錬金術師たちの国なんですが、今日から一週間ほど解放されて外からのお客さんを招いているそうですよ」

NMコメント

●目標
 錬金術師の国「シェベリ」を観光、情報収集しましょう。
 四都市でそれぞれ特色が違います。

【1】骨董品と書籍を扱う金融港町「ライ」
 海風爽やかな石畳の港町です。
 町全体が古道具屋のような小さな店舗兼研究所となっており、体系魔術書や植物図鑑、銀秤や蛍石フラスコなどのアンティークが数多く売られています。掘り出し物も多いですが、偽物も多いです。

【2】錬金素材を中心とした貿易市場街「タリー」
 王都と呼んでも差し支えが無いほど高級感に溢れた街です。
 乾燥させた薬草や錬金用の宝石を取り扱う煉瓦造りの店舗が並び、馬車の通りも多くなっています。
 喫茶店やレストランなどもあり、疲れた場合は休むこともできます。

【3】研究塔が並ぶ新古都市「リール」
 新旧二つの研究塔が並んだ都市です。
 妖精森に隣接しており、錬金術で使用する動物や幻獣の住処にもなっています。
 他の街と比べると閑散としていますが何とかと天才は紙一重な人たちが多く集まっているようです。
 
【4】偉大なる砂漠神殿「イタ」
 砂漠の中にポツンと浮かんだ神殿。
 シェベリ唯一のサラマンダーを祀る神殿ということもあり、僻地にも関わらず賑わっています。
 行商が多いのか屋台での販売が多く、神殿に住む孤児たちのテントでは自作の錬金作品を売っているようです。

●NPC
 ヨー様と爺
 どこにでもいる、やたらと騒がしい怪しい二人組。呼ばれたら出てきます。
  

  • 錬金術師の小道完了
  • NM名駒米
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月05日 20時00分
  • 章数1章
  • 総採用数16人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

冬越 弾正(p3p007105)
終音

「祀られているサラマンダーというのは、やはり火の神なのだろうか?」
 火と変化を司る神なのだと神官は語った。
 黒衣に包まれた異教の信徒は神殿の由来を静かに聞いている。敬虔なイーゼラー教徒は他の神を貶めない。
 イタの神殿においても敬意を忘れない『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)の姿勢にイタの神官は酷く感動していた。
「お参りするにはどのような儀式が?」
「決まった作法はございません。ご神体と向き合い、感謝と錬金ガチャの確変を心から願うだけです」
 宗教作法にしては随分と簡素だが、それもまた一つの形なのだろう。
 信者の確保はどこの世界においても悩ましい問題である。
 いち信者として、イーゼラー教の未来を考える者として、取りこめる部分はないかと弾正は貪欲に目を光らせていた。
 象牙色の円柱に真紅に染め抜かれた三角旗。途切れる事のない巡礼者の列。
 太陽の熱は神殿の影を歩いていても肌を焼こうと手を伸ばしてくる。
 暑さに愛されるのは色の所為かもしれないと弾正は自身の服を見下ろした。
「砂漠では、もっとゆったりとした服の方が良いですよ」
「あとで探してみよう。しかし神殿もこれだけ広いと維持が大変なのでは?」
「信者の善意でまかなっております」
 奉納金の話題をかわせたと神官は安堵の表情を見せている。
 しかし弾正の興味は既にバザールにむけられている。税収に辿り着くのは時間の問題だった。

成否

成功


第1章 第2節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

「屋台って、掘り出し物がありそうでワクワクしちゃうよねぇ」
『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は渡り鳥のように旅をしていた視線を、察しの良い胸元の倹約家へと戻した。
「やだなぁ、散財なんてしないよオフィーリア。ちゃんとね、気になった物しか買わないから……え?」
 うさぎのお姉さんは自白させるプロである。ぎこちない笑顔のなか、イーハトーヴの目が横へと逸れた。
「……数は、どうだろう、わかんないなぁ」

 時に怒られ時に目を輝かせ、カルーセルのようにテントを巡る。
 豪奢な賑やかさを抜け、薄暗い静けさを通り過ぎ、朽ち果てたテントが軒を連ねる砂漠のゴミ捨て場。
 ここがイーハトーヴの目的地である。
 並んでいるのは商品とも呼べないガラクタばかり。そのなかの一つを宝石のように掌に乗せた。
「これ全部、君達が作ったの?」
 ボロ布の下、身を寄せ合う子供達が警戒と興味の混じった目で頷いた。
「すごいねぇ」
 手に取った小石の花は、太陽にかざすと赤や金に色を変えていく。錬金とは呼べないほどの児戯なのだがイーハトーヴにとっては十分な驚きだ。おすすめは? あれは、これはなぁにと子供たちの輪に溶けこんでいく。
「ねえ皆、錬金術って楽しい?」
「うん、楽しいよ!」
「そっかぁ」
 真意を探る視線を笑顔の奥へと隠し、引きさがる。スラムを見慣れているが故に抱いた疑念。優しい守護者は人知れず胸を撫で下ろした。

成否

成功


第1章 第3節

セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)
一番の宝物は「日常」

「まだ見たことが無い素材がたくさん!」
 タリーを訪れた旅の錬金魔導士は目を輝かせた。
 どこの店からも珍しい錬金素材が『こっちにおいで』と手招きしている。
「出来ればいっぱいゲットしたいけど、お財布事情もあるし。も少し見たり聞いたりして買うものは選んでいかないと!」
 慎重さを胸に刻んで『一番の宝物は「日常」』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)は丁寧に店を吟味していく。
「こんにちはー!」
 選んだのは花屋を思わせるのんびりとした雰囲気の店だった。
「生命力にいい効果があるものはありますか」
「あら~、アナタ、錬金術師さん?」
 ふっくらとした女性の店主がセリカの装備を見るなり破顔した。 
「とても素敵なアイテムたち。きっと大切にしてるのねぇ。生命力なら『七日七時の糸杉』がおすすめよ」
 もしかして、と常緑の小枝を見たセリカの瞳が賢者の輝きを増した。
「七という数字で回復効果の底上げを!?」
「ええ、生命属性のある糸杉を先祖代々七代にわたって品種改良したものよ~」
「下さい!」
「うふふ、目の肥えたお客さんが来てくれて嬉しいわぁ」
 回復の錬金を嗜む者同士、話は弾んで防御系の錬金魔術の触媒売り場へ。案内された少女の華やかな歓声が響く。
「ありがとうございましたー!」
 店を出たセリカの両手には零れんばかりの戦利品。良い買い物をしたとほくほく顔で……。
「はっ!?」
 ――軽くなったお財布に気がついた。

成否

成功


第1章 第4節

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

 天窓から射し込む太陽。照らされた雪埃が『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の肩へと触れる。
 古びた紙に記されている錬金術の理論は、マルベートの生まれた世界――魔法に満ちた『豊穣なる次元』の常識と重ねると非効率極まりないものだ。
 錬金術。一般的な知識はあるが縁深い存在では無い。
 頁を閉じるとマルベートは嫣然と笑って立ち上がった。
「お嬢さん、その本を買うのかね」
「いや」
 本棚にかけられた梯子の上から音もなく飛び降りる。
「偽のアンティークには興味無いんだ」

 まるで気ままな生き物のように歩きながら蒼い潮風を頬に浴びる。
 折角の機会だと新鮮な気持ちで始めた錬金術の観光は中々に充実した時間となった。
 知識を得るには本を読むのが手っ取り早いと、趣味と実益を兼ねた古書店巡り。
 没食子インクと鞣した皮の匂いに満ちた店が幾らでも見つかるのは嬉しい誤算であった。
 いまは趣味の料理に活かせるような調合や動植物に関する書籍を乱読してまわっている。
「消化と昇華を結びつけた考察か、面白いね。こっちはサラマンダーフルーツについての本っと……うん、トマトだ」
 贋作も嘘の知識も、見方を変えれば面白い。
「お客さん。これ、贋作とレシピ本ですよ?」
 レジに出された本の題名を見て、本当に良いのかと古書店の店主が尋ねる。
 料理も立派な錬金術。それで構わないとマルベートは自信をもって頷いた。

成否

成功


第1章 第5節

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

「さて……」
 一流店から笑顔で見送られ『夜に這う』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は思案した。
 毒薬や剥製といった一癖ある土産は見繕い終わった。配送はポーターに頼み、今は文字通り身軽だ。
「錬金術は専門外だが、なかなか興味を惹く品が揃っているじゃないか」
 タリーの裏通りに足を向けたルブラットはある輝きに目を止めた。
「そこにあるのは水銀か?」
 実験室に似た店内にはラベリングされた瓶が整然と並んでいる。夢遊病のように扉を開くと銀の水へと近づいた。
「そうだよ」
「水銀。唯一無二の美しき銀の流動体。まさしく神の寵愛を授かった物の一つと言えよう。一方で古き書には毒性の存在が記載されており、事実私が投与した際も」
「突然どうしたお客さん!?」

(しばらくお待ちください)

「――しかし私自身もその霊的な外観にふさわしい薬効を期待してい」
 はた、と。鳥が翼をたたむようにルブラットは熱弁の腕を下した。
「すまない。興が乗ると喋りすぎてしまうのは私の悪い癖だ。その水銀を何瓶か買わせてもらおうか。いくらでも出そう。なに、有効に使ってみせるさ」
 客から滲んだ裏通りの気配に、店員は笑った。
「もし捕まっても店の名は出さないでくれよ」
 ルブラットは頷いた。
「貴方がたの研究も上手くいくといいな」
 複数形。カウンターの後ろに隠れていたもう一人の店員がそろりと顔を出す。
「貴方にも星と蛇のご加護がありますように」
 

成否

成功


第1章 第6節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 妖精森の調査に来たという初々しい二人に、デートですかと門番は微笑んだ。
「調査だよ。だから俺はただの護衛だよ、護衛なんだから……」
「ふふっ、しーちゃんとデートです」
 つないだ手。愛しい幼馴染が嬉しそうに言うなら『若木』秋宮・史之(p3p002233)は認めるしかないのだ。
 本当はカンちゃんが幻獣と触れ合って喜ぶところを見たかっただけ。だって絶対に可愛いもの。
 お揃いの指輪は隠せない。
 婚約者の青年は照れ隠しではにかんだ。

(あと一ヶ月もすればしーちゃんの誕生日だな。なにを贈ろうか)
 幻獣牧場を目指して歩きながら『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は考える。
 隣で歩く人のための、小さくて幸せな悩みは万華鏡のように睦月の心を編んでいく。
「どうしたの?」
 自分を見つめる心配そうな眼差しの、なんて嬉しく愛おしいことか。
 なんでもないと首を振って、見えてきた柵の向こうを指さした。
「あ、見て見てしーちゃん、大きな牛だよ。背中にハーブが生えてるね。まるで岩が動いているみたい。こっちは小さい、ウズラが何十羽も。どのウズラもカラーひよこみたいに鮮やかな色をしてる」
 幻獣たちにとっても久しぶりに見る来客が珍しいのだろう。ふたりを見上げながらピヨピヨと囀る姿は、まるでお菓子だ。
「もっと近くで見たいし、餌もあげてみたいな、ねえねえしーちゃん、牧場の人にお願いしてよ」
「はいはい、雑用は俺の仕事。なにせカンちゃんは俺が隷属するご主人さまだもの」
 花咲く笑顔の為ならば。睦月の可愛いおねだりを、史之は騎士の如く叶えてみせるだろう。
「ね、睦月」
 
 高級アルコールの力は偉大である。
 牧場の主からありとあらゆる許可を快くもぎ取った史之は、ひんやりと冷えた甘露と共に戻ってきた。
「カンちゃんも喉乾いたでしょう。桃ジュースいる?」
 大樹の幹に背を預け、木陰でそよ風に吹かれていた睦月は眠たげな瞼を開ける。
「うん」
 木陰に座り、こくりこくりと喉を鳴らす。濃厚な甘さが暑さと疲労をじんわりと溶かしていくようだ。
「はーおいしい」
「しかしのんびりしたところだなー」
 風に吹かれて遊ぶ蝶を眺めながら史之は呟いた。
『だって何にもないんだもん』
『それより、大事な雨が降るから準備しておいた方がいいよ』
 蝶のような存在はそう告げるとひらひらと飛んで行ってしまった。
「妖精だ」
「見るものには事欠かないね、ここ」
 それにしても、雨が降るとはどういうことだろう。
 見上げた睦月の頬に、柔らかな綿毛が触れる。
「ケサランパサランの雨だ」
「これも貴重な錬金素材になるのですね。収穫をお手伝いしましょう」
「待って、カンちゃん」
 休憩時間は終わったようだ。
 空に向かって両手を挙げる睦月の後を、史之は慌てて追いかける。
 迷子にならないよう目を離さないでおかないと。

成否

成功


第1章 第7節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

『ポポちゃん、Cucumberさん、こちです。ここから見えるお砂神殿の景色、すごですよ!』
 どこまでも広がる雄大な金色砂漠。
 その上に浮かんだ巨大な神殿に砂妖精は大興奮。
 キノコを食べたアリスみたいに大きくなったり小さくなったり。格好良くなったり可愛くなったりと姿を変えて大忙しだ。
「キュウ、キュウ、すごいわねえ。行ってみましょう」
 つられて『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)も小鹿のようにくるくる回った。鍵盤楽器みたいな足取りで案内人は先へと進む。
「もう、二人共待って、待って」
『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は慌てて二人のあとを追いかける。
 けれど本気で焦っている訳ではなくて、頬には慈愛の微笑みが浮かんでいた。
 はしゃぐ二人の姿を見つめ、なんて可愛いのかしらと顔を綻ばせる。
 大好きな三人でのおでかけ。
 楽しい時間の始まりは太陽の下で。

「神殿、浮かんでいるの。不思議よ」
「本当ねえ、こんな大きな建物がこんな風に浮いているなんて……」
 混沌でも滅多にお目にかかれない不思議な建築物を、三人は純粋な好奇心と共に見上げた。
「サラマンダーの神様にお参りもしたいし、神殿の子供達の錬金作品も見に行きたいわ。砂の魔法の品物があれば、連れて帰りたいな」
「ええ、見たいものは沢山。ここに生きる人たちの営みも知りたいし、思い出に残るお土産も買って帰りたいし」
 ポシェティケトが言えばラヴもまた頷いた。

「ね、順番にゆっくり全部、回ってみない?」
「皆で一緒に、一回りしましょうか」

 鏡合わせのように見つめ合う。出てきた同じ提案にきょとんとして、そしてやっぱり鏡のように同時に笑った。
 水曜日の夜と月の砂時計。
 天空の薬草畑に建ったサラマンダーの石碑に子供たちの創った星空の護石。
「そうだわキュウ」
 強行軍の途中、陽炎のようにふらりと揺れたラヴにポシェティケトは手招きをした。
「砂漠は暑いから、良ければクララの日陰に入ってね。ちょっとひんやり、してるのよ」
『どぞです、Cucumberさん。今日のクララは影も大き。二人はいっても大丈夫のことです』
「そう、ね……お言葉に甘えて、涼ませてもらおうかしら」
 ハンカチで額の汗を拭っていたラヴは、大きくなったビッグver.クララシュシュルカの影へと座る。
 いつもは焼きたてパンのようなふわふわの毛が、今は心地よい夏夜の涼しさを運んでくる。
 ふぅと熱を帯びた息を吐いて、金糸と銀糸の髪が小川のように砂の上へと波打った。
「クララさんは、砂地だとこんな姿になれるのねぇ。妖精って、ふしぎだわ」
「ふふ。不思議がいっぱい、楽しいわねえ」
 休憩のお供は赤果実のジュース。くすくすと笑うポシェティケトを見て、愛おしむようにラヴは目を細めた。
「世の中、不思議がいっぱいねえ。境界世界も、混沌世界も。ふふふ」
 

成否

成功


第1章 第8節

郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

「やー、王都っていうだけあるねー、賑やか賑やか!」
 教会に似た老舗店が並ぶ大通り沿い。
 ウィンドウに映った『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)の完全な肉体美は、線の細いタリーの住民にとって羨望の的であった。
「んー」
 ちらちらと向けられる視線を気にした様子もなく、本人は熱心に宝飾品を眺めている。
 ただし、その目には興味よりも困惑の色が濃い。
「色々あり過ぎてよく分かんないや。京ちゃんには錬金術は難しいのです……」
 彼女の天性の才はアウトドアやアクションといったアクティブ面で発揮される。
 けして柔らか黄金の正体を見破るためのものではないのだ。
「お客様、錬金術は難しいものではございません」
 げっ。と言わなかった自分を褒めてあげたい。
 後に京はそう語る。

「授業かよ……」
 重厚な机に顔を伏し、呻く。
 延々と続く説明の途中で眠りはしなかったものの蓄積された疲労が全身を蝕んでいる。
「お待たせいたしました。葡萄牛のアッシ・パルマンティエでございます」
「わーい、ご飯だご飯だー、あっはっはー!」
 肉汁を豊満に含んだ湯気と、こんがり焼き目のついたパリパリチーズとじゃがいも。
 アッシ何とかの意味は不明だが食欲をそそる匂いは万国共通である。
「んむ、なかなかレベル高いじゃないのー、おいしー!!」
 次は喫茶店!
 ジャガイモと牛肉のパイに舌鼓を打ちながら、京は幸せな心地で調査対象の変更を決意した。

成否

成功


第1章 第9節

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

 ふわ、ふわり。
 旅風を含んだ白い髪が頬をくすぐる。
「……うん、海風が気持ちいいねぇ」
 港に並んだ帆布テントの骨董品市は上品な興奮に満ちていた。
 白銀の召喚用レースに水銀の量り匙、珍しい品に『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)は翠の目を輝かせる。
 シルキィは錬金術という学問に明るくない。
 それでも、普段閉じられた国へと行けるチャンスは逃せないとライを訪れていた。
「これは、何に使うものなのかなぁ?」
 使い方の分からない不思議な品は、眺めているだけで知的好奇心をくすぐられる。
 歩く港町はどこもかしこも時間泥棒でいっぱいだ。
「それは星の時刻表さ。空にかざしてごらん」
 器材を磨いていた老婆が笑いながら答えた。
 折り畳まれた定規や分度器が蔓草のように伸び、シルキィの掌の中に小さな天球儀が現れる。
「……わぁ」
 お土産にしては高すぎるお値段。
 それでも、このまま店を去るのは何だか勿体なくて、足取り軽くテント内を探検していく。
「……とっても綺麗で、インテリアにも良さそう」
 モミの木棚に並べられた色彩の展覧会。
 フラスコ瓶に詰め込まれた蛍石は触媒として使われるためか、種類も豊富で値段も手ごろである。
「お家に置いて眺めると楽しそうだし、一つ買って行っちゃおうかなぁ〜」
 春眠りの波色、夏晴れの空色、秋夕の暗礁色、真冬の流氷色。
 色や産地、採掘時刻によって分類された鉱石たちもまた、時間泥棒であった。

成否

成功


第1章 第10節

ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂

「そこのお爺さん、申し訳ないが初心者にお勧めの錬金術の本があれば教えてもらえないかな」

 カウンターに座っていた老人は片眼鏡を外すと、声をかけてきた蒼髪の若者にむかって頷いた。
 見れば見るほど神秘的な若者だ。
 子供のようなあどけない眼差しの中に、老成した賢人の落ち着きも兼ね備えている。
 洗練された穏やかな物腰は、年齢はおろか、かの人の性別すらも曖昧にしていた。
「外の国から来たはいいが何分錬金術は専門外でね」
「錬金術師でもないのに、錬金術師の国に来たのかい?」
「知識を収集できる貴重な機会を逃すだなんてとんでもない」
 くすくすと微笑みをこぼしながら『書の静寂』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)は告げた。
「初心者なら初等部の教科書なんて良いかもしれないね。子供用だが、侮れないんだよ」
 老人は表紙に樹形図が描かれた大判の本を取り出した。
 年少の子供に与えられるという錬金術の教科書。
 他にも触媒の資料集や図説をじっくり吟味した結果、ルネは数冊の媒体図鑑を選びだした。

「ありがとう、ライを楽しんで」
 ルネはギフト『移動図書館』を呼び出すと色鮮やかな新人たちを加えた。先の店で買った本も加え、再び古書街を歩き出す。
 財布が許す限り買いたいが、まだ三件目。
 他の古書店も回ることを考えれば此処で全額を使ってしまう訳にはいかなかった。
 さあ、散策を続けよう
 まだ見ぬ書物たちがルネを待っている。

成否

成功


第1章 第11節

すみれ(p3p009752)
薄紫の花香

 日焼けした古書がぎっしり詰め込まれた本棚は、どこかチョコレートボックスに似ている。
 その間を迷い蝶のように揺蕩いながら淑やかな麗人は悩ましくため息をついた。
 花のようなかんばせには不安の翳がさしている。
 しばらくテントの中を見て回ると『しろきはなよめ』すみれ(p3p009752)は露店の主へと近づいた。

「こんにちは、大した知識もないまま滅多矢鱈な実験を繰り返して禁忌を犯した上に未熟なモノばかり造り出している愚か者にぴったりな品を探していまして」
「へ?」

 いま、禁忌とか愚か者にぴったりな品って言った?
 店主は驚きに目を開く。
「知り合いに錬金術師……作ろうとしているのは卑金属や貴金属ではないのですけれど、錬金術師紛いの者がおりまして――」
 聞くところによると、すみれには錬金術師の知り合いがいるらしい。
 その人への贈り物を探しにライを訪れたものの、彼女自身は錬金術に詳しくない。
「私では真偽も見分けられず、ならばいっそ素直に聞いた方が早いと思いまして」
「ならば、こちらの品はどうでしょう。お勧めですよ」
 店主は一冊の本を取り出した。
 四隅を合金で縁取った革張りの装丁。何とすみれの手持ちでも買える額だ。
「文字は、読めませんね」
「錬金術師なら大丈夫、成功間違いありません」
 そう力強く太鼓判を押されれば信じるしかない。
「ふふ、成る程。良い買い物をしました」

 其の日、シェベリから形骸禁書が消えた。

成否

成功


第1章 第12節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい

 森の小径に星をちりばめた揃いの外套が揺れる。
「キュウ、キュウ」
 ポシェティケトは、こっちこっちと手招いた。
「ここは砂漠とはまた違ったにおいがするわねえ。みたことのない生き物のみなさん、たくさんだわ」
「本当、見たことのない動物でいっぱい。幻獣というの?」
 綺麗、と囁いたラヴの言う通り、柵のむこうには幻想的な光景が広がっている。
 青い水面に咲く蓮亀は優雅に泳いで日当たりの良い場所に集まり、林檎馬は背中から生えた透き通った翼を飴細工のように伸ばしている。
「見ているだけで一日中過ごせそう」
 月の香りを纏った訪問者たちの存在に気づいたのだろう。
 二人が通り過ぎると植物たちはサラサラと葉を鳴らした。歓迎の意思を感じるということは精霊に近い存在なのだろうかと、手を振り返しながらラヴは思う。

 せっかくだからリールも行っちゃいましょう!
 急遽一泊二日のプチ旅行へと切り替えたラヴとポシェティケトは、イタを朝早くに出発してリールの街に隣接した妖精森を訪れていた。
 朝の森特有の爽やかな空気とレモン色の木漏れ日。るんるんと歩くポシェティケトの後を、お土産と着替えをつめこんだラベンダー色のトランクが、よちちちとついていく。
 トランクの上にはちっちゃな砂妖精。
 砂のホテルで夜遅くまではしゃいで疲れてしまったのか。眠そうな目をこすっては、ぬいぐるみのようにぼんやりしている。
「錬金術で使用する動物と聞いたときには、ちょっとだけ不穏を感じていたけれど……みなさんのびのびとしているから錬金術で使うのは、鹿でいうところの伸びたツノや抜けた毛みたいなことかしらねえ。ふふ」
「ええ、そうね……うまく共存しているのかしら」
 牧場で働く錬金術師たちが寝そべる巨大苔狐のブラッシングをしていた。
 換毛期なのか、大もこもこ祭り開催中である。
「ゆったり、のんびりしていて。長閑なところねぇ」
 言葉に反して、ラヴは探るような視線を左右に揺らした。
 彼女たちが歩くのは牧場の大通り、観光客や来客が通る道だ。
 見せたくない仄暗い一面は、他人の目が届かぬところにあるのかもしれない。
「あちらの道はどこへ続いているのかしら?」
「ポシェティケトさん」
 獣道に似た細い裏道へ進もうとするポシェティケトをラヴは呼び止めた。
 あのね、と迷うように口にして。
「私、少し……お腹が空いてきちゃったみたい。もう少しこの辺りを回ったら、ねえ、お昼にしましょう?」
「お昼ごはん? あらもうそろそろはらぺこさんの時間ねえ」
 見上げた時計台の鐘が鳴る。
 興奮して気がつかなかったが、意識すると何だか急にお腹がすいてきたようにポシェティケトは感じた。
 今日の朝ごはんは早かったから、きっとキュウもお腹がすいてしまったのね。
「ええ。たくさん食べに行きましょ」
 あっちのアイスクリームはデザートね。
 そう言って手を繋ぐと、ラヴは安心したように微笑んだ。


成否

成功


第1章 第13節

ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人

 新古都市『リール』のカフェには二つの側面がある。
 一つは喫茶店として食事や飲み物を楽しむ憩いの場所。そしてもう一つは。
「はろーっ! じゅてーむっ! ごきげんようっ!」
 扉が開き、逆光に黒い輪郭が浮かび上がる。
「未来人のヨハナ・ゲールマン・ハラタですっ!
 今回は錬金術という観点から時間移動に関するヒントを求めて有識者に意見を求めに来ましたっ!」
「ようこそ、若いの。このカフェを選ぶとは見所がある!」
 情報交換、そして討論の場としての側面である。
 新たな論客『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)の登場に店内がざわめいた。
「ゾンビ含めて四名様ですねー、お席にご案内します」

「というかぶっちゃけどうなんですかねっ。錬金術って神話と科学とその他諸々を内包した総合的学問とは伺いますけども、時間移動に関する部分にはあまり言及ないんですよっ」
「そりゃあ錬金術は自然物質を変化させる現実世界に準拠する学問だからだ。自然やエーテル界のコントロールは魔術や魔法領域だろ」
(略)
「時間とは、内と外側に無限の広がりを持つ入れ子形状だと思うんですよ」
「なら移動する際の一番の問題は無限の壁だな」
(略)
「で、空間はその中で前後に枝分かれしてるとっ」
「幾何学キターねえねえ四次元推し? 九次元推し?」
「でも未来予知は超紐理論だし」
「いま宇宙って言った?」
「言ってない」
「次のお代わりから有料でーす」

成否

成功


第1章 第14節

「今年の親善日はどうであった?」
「例年よりも賑わっておりました。それにどうやら今年は面白い客がいたようですぞ」
「面白い客?」
「不思議な雰囲気を纏った外からの来訪者だとか。良い刺激を受けたと各地の錬金術師が活気づいております」
「おお、そうか!! これならば王も……」
「はい。外との交流を、認めて下さるやもしれませぬ」

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