PandoraPartyProject

シナリオ詳細

絶望航路アクエリア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 絶望航路アクエリア――

 それは、船乗りが一生を賭けてでも越えたいと願った海原の名前。
 航海(セイラー)の悲願。そして、それを叶えた数年前『大号令』で産まれた英雄達はこの海を越え、竜神リヴァイアサンが眠るフェデリア海域へと到達した。
 フェデリアの海原の静けさに絶望の名など似合わぬと人々は口を揃えてその海を『静寂の青(Serenity Blue)』と呼んだ。

 海を越えた地で、航海者が得たのは自国の領域ではなく同盟者である。
 前人未踏とされた海の向こうには特異な文化に根ざした鬼人と精霊種が暮らしていたのだ。
 その都の名を神咒曙光(ヒイズル)――
 神をも呪い、光を欲しい儘にする彼の地。自身らを神の子として憚らぬ八百万と、彼等の支配下に存在する獄人達は和平を誓い合い、航海が踏み入ろうとも揺るぎない政を治めていたという。

 貿易は航海に莫大な利益を齎した。
 神咒曙光の品々はネクストへと広まり、親しまれているのだ。


 ――『ネクスト』が2.0へとアップデートされました。
 ――エリア『神咒曙光<ヒイズル>』が開放されます。
 ――エリア『航海<セイラー>』絶望航路アクエリアが開放されます。
 ――エリア『航海<セイラー>』眠竜大海フェデリアが開放されます。


「さて、皆様。改めて自己紹介を致しますわね。わたくしはカヌレ・ジェラート・コンテュール。
 航海貴族コンテュール家の一員ではありますが、貴族令嬢扱いは無用ですわ。そんなもの『外面』ですもの」
 にんまりと微笑んだカヌレは外見や服装こそ貴族令嬢ではあるが、現実と違い、かなりのお転婆娘である事が見てとれた。
 航海の開拓した神咒曙光との貿易。そして、彼等によって発見されてゲームシステムに組み込まれている此岸ノ辺のワープポータル。
 ソレを使用するならば功労者である航海にもそれなりのバックが必要であると彼女は言った。
 それはそうだろう。現実世界では共に絶望を越えた英雄であったイレギュラーズではあるが、ネクストでは関係が無い存在なのだ。
 故に、エリアが広がったと言えど神咒曙光に勝手に乗り込め! では航海側からの心証も悪くなる。
 それを和らげるためにアクエリアやフェデリアでのモンスター退治や商船の護衛を行って欲しい。そして先ずは『有力貴族』であり航海でも名を馳せるコンテュール商会の護衛役を担え、と。
 女王派に叛意を翻すコンテュールではあるが、イザベラ女王とて『可愛らしい小鳥が突いてくる』程度にしか思って居ない。彼等と仲良くしておいても、女王派に嫌われることは無いだろう。
「別に悪い話ではないのです。わたくしはコンテュール商会として神咒曙光へと渡り買い付けを行う。
 その道中で特に危険区域であるアクエリアでの護衛をお願いしたいだけなのです。ええ、神咒曙光(かれら)にとっては同盟者である我々が認めた『友人』を紹介するという意味合いもありますのよ?」
 にんまりと微笑んだカヌレは中々に悪い顔をしている。

 さて、話を纏めよう。
 このクエストは『同盟者として神咒曙光との交易を行っている航海のコンテュール商会がイレギュラーズを『友人』として神咒曙光に紹介する』ためのキークエストである。
 そのクエスト報酬を得るために『神咒曙光への航路を護衛して欲しい』とのことだ。
 クエストとして見なければ、航路を開拓したと言えどもモンスター被害は年に幾つも聞こえてくる。戦列無敵艦隊アルマデウス提督のトルタ・デ・アセイテや『海賊王』と名高いドレイクに毎度の買い付けを護衛させるわけにも行かないという理由が付くのだろう。
「……それに、此処でお願いを断って、わたくしを一人で行かせて死なれては目覚めが悪くありません事?」
 ――クエストを拒否して、カヌレを一人で買い出しに行かせ殺してしまったとなれば『航海との問題』に発展する可能性は否めない。
「ふふ、どうぞのんびりと船旅を楽しみましょう。大丈夫ですわ。
 狂王種くらいしか居ませんもの。船にサクラメントは積んでおきましたもの」
 にんまりと微笑んだカヌレが指さした貿易船には確かにサクラメントが設置されていた。

 ――ネクスト2・0 『サクラメントシステム』のアップデートが行われました。
 『イベントボス専用サクラメント』設定が全サクラメントへと適応されます。
 此れにより、比較的早期の『コンテニュー』が可能となります。今後とも、ネクストをお楽しみ下さい!

GMコメント

 夏あかねです。2.0パッチですね。カヌレが神咒曙光へ買い付けに行くそうです。アクエリア海域をサポートしてあげて下さい。
 サクラメントも強化されてますので詳しくはRapid Origin Onlineの特設をチェックチェック!

●クエストクリア条件
 アクエリア島へ無事に到着すること

●アクエリアへの道
 ご存じの静寂の青ですが、狂王種の姿が多く見られます。
 コンテュール家の貿易船(ソレなりに大きいです)での戦いになります。襲い来る狂王種との連戦状態です。
 サクラメントは船の上にあるので直ぐに戦線復帰が可能となります――が、サクラメントも耐用数が決定されているのか、リスポーンしすぎるとサクラメントは壊れます。壊れた場合は即時復活は不可となります。どれ位持つのかは分かりませんが、全員が2度くらいはリスポーンできそうだとカヌレは語ります。

●狂王種
 静寂の青で狂暴化したモンスター達です。大きな鯨を始め、様々な生物が狂暴化しています。
 それなりに強いです。カヌレ様は野生の勘で4~5回くらいは敵襲がありそうだと認識しています。
 どの様な攻撃を行うかは其れ其れの個体による為に分かりませんが、カヌレ様を信用すれば何となく情報が得れる気がします。

●カヌレ・ジェラート・コンテュール
 航海貴族コンテュール家の令嬢兼コンテュール商会所属。
 NPCです。
 現実とは大きく違い、とってもお転婆で気が強く猪突猛進ご令嬢のようです。商才に長けており、神咒曙光でも懇意にする役人達が多く居るそうです。
 彼女からクエストを受注した時点で神咒曙光には書簡が飛び、神咒曙光では『航海国の良き友人』として認識されるようになるそうです。

 指示があれば従います。戦闘時には野生の勘(笑)で敵襲を知らせる&情報をくれます(軽度のエネミースキャン能力)。
 一応ですが、護衛対象です。カヌレが重傷を負うとクエストが失敗します。

●コンテュールの貿易船
 とってもでかいです。そして堅牢。狂王種位じゃ沈まないというのがご自慢の貿易船です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 が、カヌレ様の野生の勘を信用して下さい。何となく情報をくれます。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

それでは、がんばりましょうね!

  • 絶望航路アクエリア完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア(p3x000111)
世界の意思の代行者
シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
IJ0854(p3x000854)
人型戦車
マーク(p3x001309)
データの旅人
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
ミーナ・シルバー(p3x005003)
死神の過去
アカネ(p3x007217)
エンバーミング・ドール
きうりん(p3x008356)
雑草魂

リプレイ


 大海に潜む危険は形を潜める。絶望を共に渡ろうと求め、自身らにベッツィータルトを差し出してきた貴族令嬢は今、自ら船へと乗り込んだ。
 コンテュールの家紋が描かれた貿易船でサクラメントがきらりと輝いている。
「海だ!ㅤ潮風が塩味で塩漬けきゅうりになっちゃうぜ……!
 今回は新しいとこに行くための航海なんだよね!ㅤよく知らないけど新しい事ができるようになるのはいいことだからね!ㅤ張り切っていこう!」
 楽しげに微笑んだ『開墾魂!』きうりん(p3x008356)。折角なら海向こうにも菜種の楽園を拓きたいものである。
 新しいとこ、と呼ばれたのが現実世界でのカムイグラ。R.O.Oでは神咒曙光(ヒイズル)と呼ばれるエリアである。
「航海による国を挙げての『紹介』か……この依頼(クエスト)を達成しなければ、僕らはヒイズルに公式には立ち入れないってことになるのかな」
 そう呟く『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)にカヌレは「紹介状は送付しておきましたのよ」と自慢げに言った。
 成程、彼女からのクエストを受注した時点でR.O.Oのプレイヤーは『紹介状』を手に入れた状況になったのだろう。故に、サクラメントを利用してヒイズルに渡っても其方でクエスト受注が可能であった、と。だが――「ああ、そうか。『紹介状』を出したカヌレさんが怪我をしたら、か」
 マークは合点が言ったように頷いた。このクエストが失敗するなら海上だ。紹介状を得て同行する神使達が貴族令嬢を害したとされれば航海、神光の双方からどの様に接されるようになるかは明白だ。責任重大である事には変わりないかとマークは息を吐いてから、カヌレへと微笑んだ。
「貴族のお嬢様自ら乗船だなんて、行動力があるんだね、カヌレさんは。……まあ、王女様も海賊船に乗っていたって言うけれど」
「うふふ、有難うございます。我が国では陸(おか)で待っているだけの護られるお姫様ではいられませんことよ」
 堂々たるカヌレ一人をとっても現実とは大きく違っているのだ。彼女ならば、自身の存在を守り切るというオーダーを課さないだろう。
「豊穣……此方では神咒曙光と言うのであったか。……神咒曙光でも、何かしらのイベントは発生するだろう。
 今回は神咒曙光絡みの最初のクエストに当たる……見事成功させ、幸先の良いスタートを切るとしよう」
 呟く『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)にカヌレは意味ありげな笑みを浮かべた。
 そうだ、『ヒイズルのエリアはこのクエストを受注した時点で開放』されているが『ヒイズルのイベント』は音沙汰が無い。
 このクエストをクリアすることで『ヒイズルのストーリー』が開始する可能性は十分にあるのだ。
「……カヌレ嬢?」
「何でしょうか?」
 NPCはNPCらしいのか。彼女はあくまでもR.O.OのNPC『カヌレ・ジェラート・コンテュール』なのであった。
(海洋からカムイグラへ……混沌の時は泳げないから参加しなかったが……まさか電子の世界で参加することになるとはね。
 ……まあ、とにかく生き残ってカムイグラまでたどり着こう。こっちではヒイズルだったか……?)
 物珍しげに眺める『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)にとって、この航海は初めてのものだ。バーチャルでもシルフハンマの行う事は変わりない。先ずは船の設備の確認だ。特に大砲などの武装や修理資源の確認は欠かせない。一足先に仕事を始めた小さな背中を眺めながら『傘の天使』アカネ(p3x007217)は頬を撫でる潮風に煽られたスカートをそっと押さえる。
「静寂の青ですか……現実だと最後の方にしか関われなかった上にちょっと苦い思い出もありますが……。
 R.O.Oでは比較的平和……もしくは終わった後なのでしょうか? 現実とは違うIFはゲームとしては面白いですよね♪」
 現実との大きな相違はイレギュラーズが『絶望の青を越える』必要が無いと言う部分だ。航海王国は事前に海を越え、神咒曙光に到着している。
(まさかこの航海路を2回も行く事になるなんてなぁ……。ああ、いや……あんな事は起きないってわかってんだけどな)
 それでも居心地が悪いのだと『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)は肩を竦めた。様々な事件とも呼べるイベントが多発したこの海は蒼く美しいままだ。
「かつての絶望の青での冒険を思い出すね。こちらでは、既に向こうの国とはやりとりがあるらしいけど、。それでもこの海を渡る冒険は楽しみだ。
 さて、こちらの世界ではどうなるかな……?」
 微笑んだ『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)へとカヌレは「出発致しますわよ!」と声を掛けた。


「こんにちはカヌレ。私はIJ。貴方の健康を守ります」
『人型戦車』IJ0854(p3x000854)に「お願い致しますわね」とカヌレはにんまりと微笑んだ。IJ0854は装甲と反応速度、飛行、水中行動の様々な『機能』を活かしての遊撃手としての船舶防衛に従事すると宣言していた。
 青い海を進む貿易船でもIJ0854は姿勢を正したまま敵影の接近をくまなく探し続けている。鍛冶や修理と言ったスキルを駆使して船の防衛に携わるシルフハンマは船の応急修理や設備点検は任せて欲しいとカヌレへと宣言していた。
「使えるものはガンガン使ってもいいかな? 使用後に修理は出来るし、出来ればコンテュールの船を活躍させたいんだ!」
「ええ、宜しくてよ。アフターケアはサービスとしてついていらっしゃるかしら?」
 勿論だと笑ったシルフハンマ。その様子を見詰めていたミーナは慣れないなと頬を掻いた。どうにも現実の『お嬢様』とは違いすぎる。
「なんつーか、不思議な気分なんだよな。あんたとこの海の上を行くなんて、よ」
「そうですの? 私にとっては慣れた航海に為ってきたのですけれど」
「いや……あんたの兄なら過保護に海になんか出さないだろうしさ」
 ミーナが困ったように肩を竦めればカヌレは面白そうにくすくすと笑った。確かに兄・ソルベは過保護である。現実との違いをまざまざと見せ付けられているかのようで、どうにも心地よくは無いのである。
 精霊達に何かあれば知らせて下さいねと囁いたアカネは傘を差して水飛沫や日差しを塞ぎ、空からの航海を楽しんでいた。依頼とは言え、楽しまなければ損の心持である。
 上空を旋回していたIJ0854は「敵影感知しました。砲撃準備」とアナウンスを行う。カヌレは「皆さん宜しくて?」とにんまりと微笑んだ。
 予習済みであるマークはカヌレに「IJ0854さんからの情報によれば『巨大タコ』のようだよ」と指示を仰ぐ。グレイシア曰く、現場の司令官(リーダー)はカヌレなのだ。
 敵の出現地域をマップに記載したマークは「指示を」とカヌレへと仰ぐ。翼をばさりと揺らした貴族令嬢は「シルフハンマ様、よろしくて?」と囁いた。
「カヌレ嬢、まもりは万全に任せてくれ。……さて、接敵だ!」
 セイクリッドスフィアを構えたレインリリィが地を蹴る。開幕と同時に砲撃が開始された。それも許可を事前にとっておいたからだろう。
 水飛沫が上がる。激しく波濤の中を先行するIJ0854は「接敵します」と静かに告げた。
 大縄飛び熟練こと一糸乱れぬ連携を見せるが為にIJ0854は「きうりん氏、ご同行を。これより当機は敵影に攻撃を仕掛けます」と声を掛けた。
『縄跳び』をしながらきうりんはエメラルドプラントこと翡翠の恵み――自分の親指――を勢いよく前線へと投擲する。
「うおおおお召し上がれぇ!ㅤやだ気持ち悪いとか言わないで我慢して食べて!」
 凝縮された生命力を感じるが傘を揺らがせたアカネが微妙な顔をしたのは言わずもがなである。
 タコへと向けて茜傘を一気にぶつけた。傘を振るだけで暴風が作り出される。タコの脚が持ち上がり、隙を作り出した刹那、天空の翼で宙を駆る守護天使が後方を確認する。
「お嬢様はそこで見てな。危険な真似はさせねぇよ」
 カヌレを護る様に唇を吊り上げたミーナが敵の急所を狙うようにその身を投じる。
「そのタコは眼を狙って下さいまし!」
「了解した」
 グレイシアは静かに頷いた。指揮官であるカヌレは安全位置に立っているが護衛役はイレギュラーズで分担済みだ。
 グレイシアの影がずんと伸びた。タコを拘束し、攻勢捕縛術を持ってその動きを食い止める。
「今だ! 構わないから全弾、僕の所に落としてくれ!」
 立てて構えた剣を斜めに振り下ろす。それこそが剣術の基本で或る。現実ではありえない戦い方――それでも、心は決まっているとマークはIJ0854に支援要請を行った。
 放たれるのは周囲に炎を放つ烈火の如き一撃。人型戦車が勢いよく前進して行く。マークごと燃やし尽すその炎。その中で青年は狂王種との攻防を繰り広げた。
 シルフハンマはカヌレを庇う様に立ち続ける。小さな体に庇われるお嬢様は「無理はなさらないで」と揶揄うようにつんつんと突いてくる。
「大丈夫だよ! さ、来るよ!」
 癒しを送ったきうりんは気を取り直して生命エネルギーを叩き込み免疫力を高めていた。サラダとしての適性のあるきうりんは先陣で巻き込まれ上等のマーク以外に応援する気持ちを授け、彼にはお祈りを1つ。
「それじゃ、行くよ! 雑草の一撃!」
 ――只のパンチなのである。

 タコを越え、次は鯨。そして……数体との戦闘を繰り広げ、疲労も蓄積し出す。アクエリア海域を抜けフェデリアに差し掛かれば、其の儘、黄泉津に到着するはずだ。
 だが、そうも為れば敵のバリエーションも豊かになるか。マークを庇うIJ0854から火花がばちりばちりと散った。そして、その四肢は爆発四散する。見事なその姿に、次は己かと覚悟をし捨て身の一撃を放ったマークはちらりと後方を見遣る。船の上のサクラメント。リスポーンまでカヌレを庇い、狂王種を食い止められれば良い。
「おっと、次の相手はボクだ。付き合ってもらうよ?」
 船から落ちぬように気をつけ、レインリリィは空中を蹴った。力場発生装置はばちりと音を立て狂王種を弾く。
 指先手招けば武器が狂王種へと飛び付くように突き刺さる。続くように一気に飛び出したのはきうりんだ。アカネが対応する敵以外は自身の元へおいでと手招いた。それは餌食(さらだ)であると言う強いアピールだ。
「はい!!ㅤ次はこっちのエサだよ!ㅤ美味しく食べてね!! 魚も食べたくなる野菜だぞ!!」
 蔓で出来た翼を広げ、眼前に現われた巨大な鮫を受け止める。宙を踊るように飛び出してきた鮫は波に乗るように船へと乗り上げようとし――
「駄目ですよ?」
 アカネは指差し告発を。「はい、貴方のせいで雨が降るー!」の勢いで冤罪をこすりつけた彼女へと鮫があんぐりと口を開けて飛び込んでゆく。
 疾走する翼は広げられ開いた傘が風を産み出し暴風ごと鮫を押し返す。ミーナは死神の目で鮫の生命力を確認した。
「後少しだ、行くぞ!」
 地を蹴った。紅い翼を広げて風の如く命を奪う。猛毒を付与した苦無がじわりと染み込むその刹那、後方から更にスタートしたマークが「待たせたね!」と叫んだ。
「当機は敵勢対象を撃破します」
 IJ0854はずんずんと進む。その行く手を遮るように滑り込む。リスポーンまでには少しの時間を有したが防衛網は完璧だ。
 数が多いのはそろそろこのクエストの終わりが近いという事か。冷静に対処を行うグレイシアは船より落ちないようにとロープを握り、バンシーの歌を以て影より無数の刃を生み出した。風を切るように、眼前に迫る鮫達を退ける。
 青年のグレーの髪に潮風が絡み付く。ゴワゴワと絡み合ったそれを気にすることも無く、グレイシアの『声』は影を前進させる。
「ッ――!」
 鮫の体当たりを受けて船より落ちかけたレインリリィの腕を掴んだアカネは「そのまま!」と叫ぶ。レインリリィの後方から剣が姿勢を崩す鮫へと叩き付けられた。
「カヌレ、あの鮫、倒しても倒しても数が増えない?」
「ええ。そろそろ『大津波』ですわ。それを母体から無数に生み出されてきているのです。それさえ倒せば怖い物はなくってよ!」
 司令塔であるカヌレの言葉を伝達するシルフハンマは自身を掠めてゆく鮫嵐に「激しすぎるよね?」とクレームを物申す。
 ざあ、と波濤が一気に襲い来る。大津波とカヌレが称したのは更に巨大な鮫であった。その眼前へと飛び込んだマークは騎士としての誓いの言葉を掲げ、その意識を引き付ける。
「……全く! 巨大すぎる鮫はどちらの世界にでも居るんだな……ッ!」
 見渡す限りの海は穏やかだ。あの絶望の気配など、何処にも感じられやしない。この穏やかな海に滅海竜が眠っていると思えばこそ、どうにも愉快で仕方が無いが――相手は竜では無く鮫だ。
「鮫はもう見飽きたんだよ!」
 レインリリィの剣が後方より飛び付いた。鮫の目玉を抉り、一気にその体が飛翔する。水滴が雨のように降注ぐ。衣服がびしょびしょになったことを苛立つようにミーナは勢いよく跳躍した。翼が風を切る。
「ガラじゃないってのはわかってんだが、やられたらやり返すのが信条なんでなぁ!!」
 月光を映す慈悲の刃は今日は晴天の太陽に煌めき返す。放つは疾風の剣士と呼ばれた母の技。スピードラッシュ『模倣』が勢い付けて叩き込まれる。
「さあ、楽しい航海を邪魔するのは止めて頂かないと。穏やかな海なんていうロケーションには似合いませんよ?」
 くすりと笑ったアカネの傘が大きく開かれた。『不可視の楯』となった傘はどのような脅威からも退ける。
 サラダになりそうなきうりんが「ダメダメダメ! 餌になっちゃうからー!」と叫び、己の親指をミーナに対して「美味しいよ!」と叫ぶ。決死の回復を行う菜種。
 彼女の命を守るように鮫を受け止めたマークは「今だ、皆一斉攻撃を!」と叫んだ。
 青年の周囲がIJ0854によって火の海に化す。続くグレイシアの影、レインリリィのナイフが鋭くも鮫の喉元を切り裂いた。
 まるで波が崩れるように。巨大な鮫の体が海面へと打ち付けられて激しい波濤が生み出された。正しくその様子こそ『大津波』
 ……まさか『倒された後の様子』をモンスターの通称にするとは。流石は『大号令を自力で越えた航海(セイラー)』なのであろうか。


「皆様! ほら! ご覧下さいませ!
 ご期待の場所ですわ。今日は敵襲がとっても多かったですけれど、何も問題はありませんでしたわよね?」
 ぐうと背筋を伸ばして。狂王種に気をつけなくてはと呼んだシルフハンマにカヌレは首を振る。
 フェデリアを抜け、一行が入ったのは穏やかな気性の海だ。その向こうにぽかりと浮かんでいたのは『あの絶望を抜けた先で見かけた島』――黄泉津ではないか。
「着いた……?」
 ぽつりと呟いたレインリリィにカヌレは「ええ。お疲れ様でした。皆様のお陰で無傷で航海を終えましたわ!」とカヌレはにんまりと微笑んだのだった。
「さて、と。……結構な長丁場だったな」
 肩をぐるりと回して骨の鳴る音を聞いたミーナが溜息を吐く。船上サクラメントでのリポップを何度か体験したが余り慣れぬ経験であるのは確かだ。
 船の様子を確認したいと告げるシルフハンマは狂王種の撃破で生じた傷などは出来るだけ修復しておきたいと提案した。
「クエストをクリアしました。当機は此れより新エリア『神咒曙光』へと着陸します」
 IJ0854が着陸した時、コックピットの内部に乗っていた『パイロット』は「何あれ!?」と目を剥いた。剥いたが、その声は『IJ0854』の内部での話である。
「そういやぁ、あいつがいないから廃滅病とかもないんだよな……これが本来の狂王種って事か」
「そう、ですね。それより彼方を……」
 ミーナに見て下さいと告げるアカネは有り得ないものを見るかのような表情をしていた。
「無事神咒曙光まで辿りつけたね!ㅤ私達は別に無事じゃないけどね!!ㅤめっちゃ疲れた!!
 っていうか、神咒曙光が無事じゃなくない!? ねえ、無事っていえるかな!?」
 慌てるきうりんに「何がだ?」と首を捻ったグレイシアがゆっくりと船から下りてくる。カヌレに怪我は無いかと確認を行っていたレインリリィはきうりんが言わんとしていることに気付いてぱちりと瞬いた。
「皆が、此方での活動をしやすくなるよう、情報収集をしつつ心証を良くしておかねば――……何だ、あれは?」
 神咒曙光に到着したグレイシアが見た者は『見慣れたカムイグラ』ではない。後方に立っていたカヌレは何食わぬ表情をしているが、さて。
 目の前に広がるのは諦星(たいしょう)の景色。文明レベルからシテ何から何まで神威神楽とは変容しているその景色。西洋造りの建物に、イレギュラーズを出迎えたのは『陰陽頭』月ヶ瀬 庚だ。さて、彼が『どちらの庚』であるかは分からないが――
「此方へどうぞ、神使の君。中務卿より皆さんにお願いしたいことがあるのです」
 マークは何らかのイベントは始まったのだと気付いて息を飲んだ。
 此処はR.O.Oだ。エリアを開放し、導入は済んだ神咒曙光に『クエストを終えて到着した』ならば、起こることは単純明快。

 ――新規イベント『帝都星読キネマ譚』現想ノ夜妖 ハジマリマス。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

IJ0854(p3x000854)[死亡]
人型戦車
マーク(p3x001309)[死亡]
データの旅人
きうりん(p3x008356)[死亡]
雑草魂

あとがき

 ――航海(セイラー)からの緊急依頼をクリアしました。

 お疲れ様でした! カヌレお嬢様も満足げなのです。

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