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シナリオ詳細

六月の恋

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



 ──恋。
 それは様々な感情が些細な事で大きくも小さくも浮き沈みしたりする。そんな病のような何か、だ。
 無辜なる混沌の人々は様々な種族が様々な恋をする。甘いひとときも、泥沼のような苦しみも、死に追いたいと願う悲しみも……様々な形を造形するが、それを『恋』や『愛』と呼ぶのならそうなのだろう。
 どんなに堪難いものだったとしても、そこにはその人の譲れない何かがある。恋とはきっとそういうもので。

 それを踏まえた上で、この世界『闇夜』には『恋』と呼ばれる感情は希少だった。

 『闇夜』の民は『恋』や『愛』の感情で番になどならない。必要なのは『利害の一致』。子を成せるか成せられないか……そこで今後の将来が決まる世界。
「はぁーつまらん」
 種族としての生存本能が最優先だと言う事になるのであろう。そんな本能に『つまらん』と窓辺で一言吐き捨てる少女が一人。
「……リーチェリカ様、何がつまらないのです?」
 傍で少女を見守っていた使用人と思われる女性が静かに尋ねる。すると少女はダンッと大きな音を立て、使用人に向かって指をさした。
「何がも何もない! 俗物の本だとか抜かしてアタシに隠してた本にはたくさん恋だの愛だのしてるのに、この世界の民は揃ってそんな話しないではないか!!」
「ぞ、俗物に手を出されたのですか?! なんと……隠し場所が甘かったでしょうか……?!」
「そうじゃない!!!!」
 変に焦り出す使用人に少女は指をさしたまま。
「我々夜の民にだってそういう感情はあるはずなのに、ラブロマンスの一つもないなんておかしいではないか!! あんな面白iゴホンッ! 素敵なもの!!」
「…………今面白いって言いかけませんでした?」
「と に か く だ !」
 そう叫んだ少女は再び椅子に座り足を組み片目を隠す……それは何だか厨二病のようなポーズだが。
「アタシはもっとロマンスに触れたい」
「……理解出来ません、あのようなもの」
「お前達には期待していない。外の者を呼べ、その辺の貴族でも……平民でもいいだろう。とにかくロマンスをもっと聞かせろ!!」
 こうして横暴なワガママ姫の一言でそれが決まったのだった。



「いやはや変なお姫様もいたものだね」
 開始早々その温厚そうな顔の割にズバリと一言呟いたのは境界案内人のセイジ。
「簡単に言えば恋バナを聞いたり、イチャイチャを目の前で見てみたいとか……そう言うの、カナ。この世界の民にとっては傍迷惑そう……」
 民を思うとセイジからも漏れ出るのはため息。
「ま、仕方ないね? 特異運命座標の皆には……この世界の貴族とか平民になって、話を聞かせてあげるといいんじゃないかと思うよ。これを機に自分の恋人や片思いの相手を自慢をするのも一つじゃないかな? ……なんてね?」
 悪戯っぽく笑うセイジは何処か楽しそうで。
「気楽に楽しむといいよ。何事も考え方次第さ。さ、準備が出来たら世界に送るから言ってね!」
 そうにこやかに特異運命座標を待っていた。

NMコメント


 お久しぶりのラリーとなります。
 ちょっと恋愛ものが書きたくなった月熾です。
 よろしくお願いします。

●世界説明
 世界『闇夜』
 夜の民と呼ばれる吸血鬼の世界です。彼らは長寿種ではありますが子孫を残す事に重きを置いている為番う事はあるものの、政略的なものが殆どで恋愛をあまり好みません。邪魔な感情だとすら思っています。
 ですので、この世界の姫様でもあるリーチェリカはその中でも例外と言えるでしょう。

●目標
 リーチェリカに恋だの愛だのを語る。
 彼女の前で仲良くするのもいいでしょう。

●他に出来る事
 おひとり様の場合は好きな人について語ったり、好きなタイプについて語ったり、将来はこんな人と結婚したいのだ! のように語って頂いても大丈夫です。
※参加者以外のPC様のお名前は登場させる事は出来ません。

 ペアでのご参加の場合は思う存分惚気るとリーチェリカは喜ぶでしょう。ペアの場合は迷子防止にお名前は正確に。長い場合は愛称とIDを間違いなくご記入下さい。

 また、NPCのリーチェリカへのアクションも一応可能です。

●登場NPC
 リーチェリカ・ブランシェ
 夜の民(吸血鬼)のお姫様。ロマンス小説を見つけて恋や愛に飢えた年頃の少女です。

●サンプルプレイング
一行目:おひとり様(ソロ等の明記で可)か、ペア相手の名前とID、グループタグの場合は全員の人数もあると嬉しいです。
二行目からプレイングをご記入下さい。



月見ちゃん(P3p0000xx)
俺ちゃんと月見ちゃんの惚気話が聞きたいって?!そんなのめっちゃ語ってやるぜ!!
い、痛い痛い?!なになに月見ちゃん?!何で叩くの!!
月見ちゃんの事こんくらい好き!!っての話すだけなんだけk痛い痛い!!
ははは!!でも俺ちゃんわかってるぜ!!
これはツンデレってやつだろ!!なぁ!!ちょ、ま!!マジで痛?!ま!!!!

ちぇー俺ちゃんいっぱい話したかったのにさー
人前じゃなきゃいいって?
はは〜なるほどね!(にっこり)
って、痛いってばぁっ!!



 それでは、ご参加お待ちしております!

  • 六月の恋完了
  • NM名月熾
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月04日 19時05分
  • 章数1章
  • 総採用数15人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ



「初めましてリーチェリカ殿、レイリー=シュタインよ」
 そう最初に来てくれたのは『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)だった。
「お前は……騎士? 騎士ってどんな恋をする? アタシにいっぱい聞かせるんだ!」
「そうか、リーチェリカ殿は恋愛に興味があるのね」
 横暴な聞き方をするリーチェリカにレイリーは少し苦笑気味で。そして、一息ついて……
「私が好きな人は……放っておけない人かしら」
 静かにポツリと溢れる言葉。

「ひねくれてて寂しがり屋なのに肝心な所で曲げないし自分で何とかしようとしがちで……大変な時ほど頼りなさいって思うの……」
 それも私を愛してくれるから、好きだからって分かってるけどね。レイリーの言葉にリーチェリカは理解は出来なかったが、それでもその表情を見れば何となくは察する事が出来た。
「そういえばね、あの人も貴女と同じで長命なんだけど……」
 レイリーは一瞬迷いの色を見せたが、それでも聞きたいと思う。
「……もしもよ、もしも、恋人が種族とか摂理とか超えて長命を願ったら貴女はどう思う?」
「……嬉しく……ないのか?」
「そうね。でも私は……あの人と一緒にいつまでもいたいけど悩むのよ。あぁ、でも死ぬまで一緒にいたいってのは確かよ。死が二人を分かつまでってね」
「……恋とは幸せなものばかりではない、のだな……」

 リーチェリカにとって、リアルなレイリーの話はとても興味深かった。

成否

成功


第1章 第2節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者



「……で、依頼を受けたのは俺なんだがね」
 恋の話をしろって? まぁ、うん、できなくもないんだがさ、いざしてくれと言われると中々言葉に詰まるというか。そう頬を掻くのは『死の痛みを知る者』クロバ・フユツキ(p3p000145)。

「男目線で聞くのも然程参考にはならないと思うけどこう、なんだ」
「なんだかハッキリしないな、アンタも大切してる者が居るという事だろう?」
「大切にするのはもちろんの事ながら譲れないものというか」
 リーチェリカがむぅとする一方、クロバは中々どう説明したらいいものかとため息を着く。
「……自分の事を見てくれる存在というのは中々大きい、って事だな。物理的なことじゃなくて自分という存在を見てくれる、だからこそ自分が成り立つような……、って何いってんだ俺」
「むむむー! 何故そこで止めるのだー!!」
「はは、こう言う話は苦手なもんでね」
 頬を膨らませるリーチェリカに苦笑を浮かべるばかりの彼だが

 それでもこれだけは。
「まぁ、結局のところ何にも代えても手放したくないもの、って事だよ、たぶんね……」
「全く……最初からそう言えば!」
 こう言う恋も愛もまた一つ。普段は中々語らない彼としては随分と譲歩したのであろうが、リーチェリカから見て彼は煮え切らない男のように映ったようで。

「……そんなに思う事があるのなら持ってるロマンス小説の一冊でも貸してやろうか? 参考にするといい」
「余計なお世話だ」

成否

成功


第1章 第3節

ニル(p3p009185)
願い紡ぎ



「好きな人のお話をするのだと聞きました」
「うむ! 存分に話すといいぞ!」
 続いて訪れたのは『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)。こののんびりな雰囲気のニルがどのような恋や愛を語るのだろうとリーチェリカがキラキラと期待を寄せると。

「ニルは、ごはんが好きです」
「……ごはん?」

 期待していた回答の斜めも斜め、リーチェリカにとって随分と方向の違う答えが返ってきて転けてしまいそうになっていた。
 だがニルも真剣なようで
「ごはんを作る人も、食べる人も好きです。おいしいって顔をしている人を見ると、ニルもとってもとってもおいしいきもちになります」
 そのまま人懐っこそうな頬笑みを浮かべる。ああ、この者は本当に心からそう思っているのだろうとリーチェリカも思った。
「リーチェリカ様は、何が好きですか? ……あれ? 好きな人じゃなくて食べ物の話になってしまいました?」
「はっはっはっ! よいよい、許す」
 ニルのその人柄にリーチェリカも笑みが零れたて。

「ニルは、恋愛はよくわからないのです
楽しそうで、難しそうで、しあわせそうで、大変そうで……リーチェリカ様はとても詳しそうなのです。リーチェリカ様の知っているろまんす? のお話、ニルは聞いてみたいです」
「おお! 本当か! 実はロマンスを語る同誌が周りに居なくてな! いいぞ! 待ってろ、アタシがアンタにおすすめのロマンスを見繕ってやる!」
「わぁ楽しみです!」

成否

成功


第1章 第4節

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣



「恋か…俺の主達にとって恋はとても大切なものだったね」
 そう儚げな表情を見せたのは『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)。
「キミは甘い幸せな恋の話がいいかな、それとも悲しい恋の話? ……俺の主達は恋で幸せになった人もいればそれこそ命を落とした人もいた。どちらの話もしてあげられると思うよ」
 そんなヴェルグリーズの言葉にリーチェリカは面白くなさそうにしかめっ面を見せた。
「なんだ、アンタの話じゃないのか……」
 そんなしゅんとした様子に驚く。
「え、俺の恋の話? うーん、そうきたか。そうだね、無くはないよ」
「本当か!」
 彼の答えにリーチェリカは身を乗り出して興味を示す。その目はキラキラと輝いていて……ヴェルグリーズは少し苦笑してしまう。
「……とても素敵だと思う女性に出会ったことはあるし想いを打ち明けたりもした」
「ほぉほぉ! それで?」
「え? ああ、うーん…………秘密」
「ここで?!」
「あははは、済まないね。だってこうやって焦らすのも恋バナの醍醐味だろう?」
「そうかもしれないが……き、気になるぞぉっ! それとも照れ隠しなのか?!」
「いや、照れくさいとかそういうことじゃないんだ。ただ……大事な思い出だからね」
 そう楽しそうに話しながらも
「焦らして焦らして……期待を高めておきたいじゃないか」
「……意地悪いヤツめ」
「あははは」
 少し意地悪い一面が見え隠れ。

 じゃあ……ゆっくり話そうか。

成否

成功


第1章 第5節

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者



「恋の話? 良いよぉ、話してあげる。面白いかどうかはわからないけどねぇ〜」
 のんびりな口調でにこやかにここを訪れたのは『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)。

「わたし、残念ながら恋人さんはいないんだけれど……好きな人がいるんだ」
「それもよいよい! どんなやつなのだ?」
「その人はとっても優しくて、頑張り屋さんで。格好良くて、可愛くて。力になってあげたいって、心の底から思える人なんだよぉ」
「ほぉほぉ!」
「わたしの笑顔を陽だまりみたいって言ってくれる、月明かりみたいに優しい人」
「いいやつではないか! アタシは応援してるぞ! きっと叶うといいなぁ!」
 目を輝かせるリーチェリカはシルキィの話を聞いて満足そうにしながら、握りこぶしを作り応援しようと口にする。そんなリーチェリカを見てシルキィは微笑んだ。

「……ね、キミの話も聞いて良いかなぁ。リーチェリカちゃんは恋の話を聞いて、どうしたいと思う?」
「いいものだなと思うぞ? やはりロマンスは聞いてて心地いい」
「もっといっぱいいろんなお話を聞いて、楽しい気持ちになりたい? それとも、自分も恋をしてみたい?」
「アタシ自身が恋? ……ふむ、その発想はなかったな……」
 でも、人の話を聞いて楽しくなれたから自分も……と彼女は思わなくもないようだ。
「夜の世界では、どちらも簡単なことじゃないかもだけど。キミの望むことができるよう、祈らせて」

 キミの恋に幸あれ。

成否

成功


第1章 第6節

ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの



「ほぉほぉ……二人で来たと言う事は……アンタ達は恋人と見ていいものか?」
 初めての二人組にリーチェリカはまた目を輝かせる。一体どんな話が聞けるのか、期待に胸を躍らせているようだった。
「ん、と……なんか、惚気を人に話すって、ちょっと恥ずかしいね」
 そんなリーチェリカに対し、そう少し照れくさそうにする『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)の横で『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は嬉々として自身の胸元をポンと叩く。
「ジェック様はですわね、笑顔も真顔も涙も泥も全てが似合うお方なのですわ!」
「タ、タント……?」
 どうしようか悩んでいた自分とは裏腹に勢いよく話し始めたタントに、ジェックは思わず彼女の方へ振り向いた。
「夜闇を翔ける猛禽にして、太陽の翼ハイペリオン様からも太陽の娘わたくしからも愛される夜明けの使者!」
「タント!」
「夏の日差しも冬の灯火も、春の曙も秋の星座も、全てがジェック様を照らす為の舞台照明!」
「タ、タントはね、アタシに夜明けをプレゼントしてくれたんだ。ガスマスクが外れなかったアタシに寄り添って、ただ一人奥に隠された目を見てくれたの。それで、綺麗って言ってくれたんだ……へへ。

 ……やっぱりちょっとだけ、恥ずかしいな」
 自分からも自慢し返せばある程度止まるかと思いいざ話してみたものの、やはり照れくささが解けずに居て。

 そんなジェックの横でタントの言葉のマシンガンはまるで止まる気配は感じられない。
「ジェック様の喜びも悲しみも怒りも慈しみも全てがさながら叙事詩の一節!」
「そのきらめきを一番近くで守りたいと思ったの。そのぬくもりを一番近くで感じたいと思ったの」
 ジェックも負けじとと頑張るものの、タントの口からはするりするりと愛の言葉が溢れてくる。
「ジェック様を描くこの世界のすべてが美しく……いいえ、ジェック様こそがこの世界、森羅万象であると申し上げても過言ではございませんわー!!」
「だから、えぇと……もう、タント、言い過ぎ」
「つまり、ジェック様こそが、わたくしの世界! ですわ!」
「もう、タントってば!」
「ひゃっ!?」
 遂に耐えられなくなったジェックは今度はタントの腕を強引に引いて。そのままその額へ──そっと口付ける。

「……ふ、不意打ちおでこはいけませんわ~……あうあうあ……」
「……呼んでるのに止まらないタントが悪い」
「で、ですが……ジェック様を自慢出来るいい機会ですのよ? まだまだ言い足りませんわーっ!」
「ま、まだあるの?」
 アタシの太陽は中々情熱的な愛を注いでくれる。ジェックは気恥ずかしくて、でも何よりも……その愛の言葉は嬉しくて仕方がないのだ。

「大変仲が良くて結構なことだな! はっはっはっ!」
 そこでリーチェリカが満足そうな声を上げて、二人は彼女もいたことを思い出す。

「やはり恋や愛は良いのだな……とても嬉しくなったぞ」

成否

成功


第1章 第7節

御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの



「やはり外の者の話はいい……もっと聞きたいぞ!」
 リーチェリカが持ってるラブロマンスにはない感覚が彼女の心を瑞々しく満たす。
「……リーチェリカ様、リーチェリカ様」
「ん?」
 そこへ今度は『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)一人が再び訪れた。
「先程はジェック様の麗しさばかり話してしまいましたが、ジェック様はですわね、内面もとってもステキな方なのですわ~! まだお話してもよいですかしら?」
「むふふ! 話し足りないとは愛い。よいよい! 存分に話すといい!」
 まさか彼女達の話をまた聞けるとは。リーチェリカはご機嫌な様子でタントを迎え入れる。
「ジェック様はいつ如何なるときもわたくしの話をにこにこと聞いて下さり、それだけでなく必ずご自身の意見も加えて下さり、沢山たくさん、素直に愛を伝えて下さる方なのですわ!」
「あんなにも照れくさそうだったぞ?」
「人前で語るのは恥ずかしいようですが、わたくし毎日そうして愛の光を受けており……ですから、ジェック様もまた、わたくしにとっての太陽なのですわ~!」
「ふふ、なるほどな!」
 普段は月と太陽と称される二人。けれどお互いにとってはかけがえのない太陽のような存在なのだ。ニコニコと話すタントにリーチェリカも笑顔が零れた。

「……はっ、呼ばれておりますわ! 今戻りますわ~!」

 リーチェリカはヒラリと彼女を見送る。
 ──試練を超えた二人へ、幸あれと。

成否

成功


第1章 第8節

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり



「恋、ッスか……」
 少し憂鬱そうに呟いたのは『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)。
「なんだ、アンタは物憂げな表情だな。アンタの話はどんな物語なんだ?」
 そんな鹿ノ子の顔を覗き込むリーチェリカ。
「うーん、物語にある恋物語はあくまで物語ッスから……現実は、そんなに良いものじゃないッスよ」
 それはずっと胸に秘めている感情だった。
「僕も恋を知らないときは、恋をしているひとたちを見て「なんてきらきらしているんだろう」って思ってたッス。でも実際に自分が恋をしてみたら、きらきらとしたきれいなものばかりじゃなかったッス」
 鹿ノ子はキュッと唇を軽く噛む。
「自分以外の誰かが、恋した相手と一緒にいて、それを見たまた別の誰かが「お似合いだね」と零す。……ただそれだけのことが、悔しくて悔しくてたまらなかったッス
自分の中に、どろどろとした暗く醜い気持ちが生まれたッス」

 自分を見て欲しいと願う
 自分に笑いかけてほしいと
 名前を呼んでほしいと
 触れてほしいと想う

「……そういう、ままならない感情ッスよ」
「何を言うかと思えば。それだけ強い感情と言うだけではないか」
「?」
 リーチェリカの反応は少し予想外だったかもしれない。
「ラブロマンスはキラキラとしたものだけではない。感情がぶつかり合う物語……だから面白ゴホン! 素敵なのだ!」
「はぁ」
「だからな? もっと強くあれ」

 アンタは誰よりも彼を思っているのだろうから。

成否

成功


第1章 第9節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛



「はじめましてリーチェリカさん。ごきげんうるわしう……」
「こんにちはリーチェリカさん。惚気をご要望ですか。でしたらいくらでも!」
「ってカンちゃん、しょっぱなから飛ばしすぎだよ。少し落ち着いて」
「僕の大切な大切なしーちゃんとの日々は甘いばかりじゃなかったけれど、今となってはそれもいい思い出です」
「落ち着いてって言ってるじゃないかあ」
 リーチェリカと会って早々、嬉々として話し始めた『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)を『若木』秋宮・史之(p3p002233)は冷静に……いや、慌てて宥めていた。
「はっはっはっ! これまた良き二人がきたなぁ! アタシは嬉しいぞ!」
 そんな二人に今度はどんな話を聞けるのかとご機嫌なお姫様。

「僕はね、ついこの間まで性別不明だったんですよ」
「ほぉ、性別不明……か?」
「運命の人を見つけたらその人に合わせて性別が固定すると言われていて、だけどどんなにしーちゃんを想っても体は変わらなくて…切なかったです」
「ふむ、アンタ達にも苦労があったのだな」
「だけど勇気を出して愛を告白したら見ての通り女性になれたんです。そのうえ婚約までしてくれて。諦めずに想い続けてきてよかったです。幸せになりますね、僕たち」
「うん、カンちゃんの言うとおり婚約していてるよ。……正確には隷属宣言なんだけどね。俺の命を貴女に捧げてお仕えしますっていうやつ。俺たちが元いた世界って身分や上下にすごくうるさくて、結婚は片方が片方の奴隷になるっていうものだから……」
「はいそうですよ。僕がしーちゃんのご主人様です。元がお世話係だから特に違和感はないですね」
「婚約が隷属……それもまた変わったものだな。……幸せ、なのか?」
「……野暮なこと聞かないでよ。……す、好きでなきゃ、隷属を誓わないよ」
 そう不器用に言う史之の頬が赤く染ったのを見て、リーチェリカも安心したように微笑む。

「……考えてみればお互い一目惚れだったんだよな俺たち。すごくすれ違って遠回りしちゃったけど」
「そうですね……たくさん悩んで、たくさん泣いて……そうしてここまで来れました。……そう言うことがきっと、恋や愛なんだと思うんです」
「ま、俺の好みは年上のオネーサンなんだけどね……睦月は、睦月だけは特別」
「しーちゃん……っ」
「……ふふ、アンタ達を見てると本当に幸せなのだなと思う。恋や愛の先でアンタ達は至高のハッピーエンドを掴み取ったのだな!」
「……そ、その言い方はなんだか照れくさいなあ」
「でも間違ってないです」
 照れる史之の傍で睦月とリーチェリカは楽しげに笑いあった。

 恋や愛の結末は誰しもがいい結末にいけるとは限らない。
 だがこの二人はどんなに試練があっても乗り越え、そしてその先へ辿りつけたのだろう。

 たくさん悩んで、たくさん泣いて
 悲しみで溢れ挫けそうになった分

 二人のこの先も……きっと幸多からん事を祈ろう。

成否

成功


第1章 第10節

伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標



「こんな旅人にまで恋や愛を聞くとはなあ」
 やれやれと言った様子で現れたのは『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)。
「初めまして、お姫様。俺は伏見行人、旅人をしている。旅すがら、感じた事で良ければ話をしよう」
「うむ! 期待しているぞ!」
 そんな様子でも話を聞かせてくれるのなら、好奇心の強いリーチェリカはそんな彼でもにこやかに受け入れる事であろう。
「本を読んでいる様子だが、燃えるような恋とか、恋が冷める、とか。そういう表現は聞いた事が無いかな?」
「うむ、字ではな! だがイマイチ理解は出来ていない……アレはどういう感覚なのか……それともただの表現に過ぎないか?」
「そういう場合もあるかもしれない。ただ、こういう表現は結構あたっていると俺は思っていてね」
「ふむ、と言うと?」
「寒い日に扉を開ける時、ドアノブを冷たく感じた事は有るかい? 寒い日に暖房で体を温められる事は有るかい? それと同じような物だよ」
 お互いの温度が移って行くように、互いが触れ合う度に心の温度が近くなっていく。恋人同士の期間は、そういうものだと思うよ。穏やかに話す行人の言葉に
「……ふむ。なかなか難しいな……」
 リーチェリカは少しばかり難しそうな様子だった。

「……最初はまぁ、そんなものさ。そして、互いの温度が一緒になって行くと──おっと、そろそろ時間だ。続きはまた、今度」

 ──きっと、恋に落ちれば自ずとわかるだろう。

成否

成功


第1章 第11節

冬越 弾正(p3p007105)
終音



「初めての恋に落ちた瞬間、失恋も同時に決まっていた」
「そうなのか?」
 『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)の静かな出だしに、リーチェリカは思わず息を飲む。
「好きになった人は、もう恋人がいて。俺の事は親友だと思って懐いてくれて……。結局、俺は思いを告げられないまま彼とは死に別れてしまったよ」

 胸の痛みが春を遠ざけてから、しばらくの間俺は死人のような日々を過ごしていた。この恋は間違いだったとさえ思った。俺が愛してしまわなければ、彼はまだ生きてたんじゃないかなんて、どうしようもない事を考えて自分を責めた。
 弾正の言葉に真剣に向き合う彼女。幸せなラブロマンスばかりを読んでいたわけでは無い為、弾正のような誰かもいる事はわかっていたが……
 それでも実際の声ともなると、中々に重苦しいものがある。
「けれど最近、そうでもないと思ったんだ。……新しく、好きな人が出来た。俺が愛してもいいんだって、心から思える人が現れたんだ」
「……そう思える相手が出来たのなら良かった。はははっ! アタシにはわかるぞ、何冊も本を読んだからな! じ、実際は……え、縁はないが!」
「そんな事はない。……リーチェリカサンにも、きっと縁はあるさ」
「ほんとか? へへ、皆の話聞いてな……益々興味が湧いてるから嬉しいぞ!」



 恋は複雑だ。
 人を生かしも殺しもする。だからキミには幸せな恋が訪れる事を祈っているよ。

成否

成功


第1章 第12節

すみれ(p3p009752)
薄紫の花香



「恋や愛…そうですね、私の結婚式の話をしましょう」
「結婚式……?」
 『しろきはなよめ』すみれ(p3p009752)の珍しい言葉にリーチェリカは首を傾げる。
「生殖目的の番ならば結婚式が何であるかも知らないのでしょうか。結婚式とは、永遠の愛を誓う儀式のこと……そして人生で一番の晴れ舞台です」
「そ、そんな催しが存在するのか……?!」
 ラブロマンスでも見たことがないのは、きっとこの世界でそういう文化がない為だろう。リーチェリカは身を乗り出して興味を示す。
「夫婦になるだけなら婚姻届……番契約の書類を提出することで叶いますが、その日にしか着られない衣装に身を包み、好きな人の特別な姿を独占して幸せな思い出を作ることに式の意味があるのでしょう」
「ほぉほぉ」
「タキシード姿の彼は、それはそれは格好良く惚れ直しましたね。式では神様の前で双方の愛の宣言をします。微笑みながら向かい合い、目を閉じて、誓いのキスを──

 ……と洒落込みたかったのですが」
「む?」
 そう言いかけたすみれは、残念そうに深く深くため息をつく。
 そして綺麗な頬笑みを柔らかく浮かべた。
「……この瞬間に空中神殿に呼び出されたのでキスはお預けのままです。早く彼に会いたいですね」

 嗚呼、あの至高の瞬間の続きをいつか。
 綺麗な頬笑みを浮かべる彼女に、リーチェリカは空気を読んで静かに祈るだろう。
 その永遠の儀式とやらが……いつの日か遂行される事を。

成否

成功


第1章 第13節

ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人



「はろーっ! じゅてーむっ! ごきげんようっ! 未来人のヨハナ・ゲールマン・ハラタですっ!」
「うむ! アタシはリーチェリカだ!」
 『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)の高テンションに嬉々として返すリーチェリカ。
「今回は恋に恋する少女で少女な少女に愛や恋やの誰そ彼を語りに来ましたっ! といっても残念ながらヨハナ自身が恋愛を語れるほどの経験は一ミリもありませんっ! ですのでこちらっ! 異世界の恋愛に関する教材をたくさん持ってきましたっ!」
「教材?」
「はい、同人誌です」
 ヨハナは鞄の中からドサドサドッサリ持ってきた『教材』をリーチェリカの前に出す。
 ……ちょっと、いや、待て!? これは……少女には見せられないものも含まれているのでは!? どうしてモザイク処理が?! されて?!
「ご存じかどうかはありませんがこちらは漫画、絵と文章を組み合わせたハイブリッドな小説ですっ! こちらを存分にご覧下さいっ!」
「な、なるほど……ん? 男性同士のもあるのだな?」
「ほう、ほうほうほうっ? 気づかれましたねっ? 何を隠そうこの本の絡みは男同士なんですっ!」
「まぁ、世の中にはいろんな愛がある事はわかっている。この程度の事は動作もない。……どれ?」

 そうしてリーチェリカが読み始めたのはあろう事か、あの赤髪の誰かさんとあの金髪碧眼の誰かさんがモデリングされた同人誌だったとか……何とか。

成否

成功


第1章 第14節



「皆それぞれ……様々なロマンスがあった」
「最後のは覚えてはいけませんよリーチェリカ様」
「……あれは少しハードだったな!」
 ガハハと笑うリーチェリカに、使用人は頭痛を抱えるように自身の額に手を添える。
「アタシもいつか……皆のようにロマンスをしてみたいもの……この世界では諦めているが、な!」
「この世界の民は……まぁ、そこを重視されておりませんからね」
「寂しいヤツら目……」
 使用人の機械的な返答に不貞腐れたように呟けば、使用人もバツが悪そうな顔を浮かべる。
「……まぁいい。だからこそ、今回はいい機会になったのだからな」
「ロマンス小説は暫く没収ですよ」
「一番の娯楽であるのに何をするか!!」
「教育に悪いですし、必要ありませんので!!」
「む」

 ムッとしたリーチェリカは使用人の胸ぐらを勢いよく掴み
「必要あるかはアタシが決める事だ。お前が決めることでは無い」
「……ですが」
「ふふ、まぁ程々にはする。……実際リアリティのある皆の話の方が聞き応えがあったからな」

 この闇夜に恋やら愛やらが流行る日が来るとは思えないが……それでも。
「アタシという物語が続いてる限り……この燃えるような野望は朽ちることはないだろうさ」
「リーチェリカ様……」
 リーチェリカは誰よりも若い姫。だからこそ様々な感性を持ち、これからも追求していくことだろう。その姿勢に使用人の心は少しずつ揺れ動きそうになっている。



 ──少女たる姫の夢は始まったばかりである。

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