PandoraPartyProject

シナリオ詳細

傷とかさぶた

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カタルシスという言葉の意味を知っているか?
 哲学。自らに問いかける学問だ。この学問ではとにかく思考することが求められる。幸せとは何か? 人はどこからきてどこへいくのか? 命に価値はあるのか。明確な答えの存在しない様々な問いがあり、答えがないゆえに人は自分だけの答えを見つけるために悩む。

 ここ、境界世界の一つ『エルゴ・エゴ』はそんな『己と向かい合う』ことが大切な世界だ。この世界の心象世界と物質世界の境は酷く曖昧で、心を壊すような魔物が数多く生息している。この世界では心の傷がそのまま肉体の傷となりうるのだ。人が戦うべきは外敵だけではなく、弱い己の心とも戦わねばならない……今回、君たちにはそんな魔物の一体、『トラウマ』と戦ってもらう。基本的な姿は文字通り、虎と馬が混ざったような魔物……まあ詳細な外見は人によって見え方が違うので省こう。キメラというのが多分君たちには一番馴染み深いのではないかね。牙は鋭く、外皮は硬い恐ろしい魔物だ。──ここ混沌なら君たちの敵ではないだろうが。だが、エルゴ・エゴでは別ということだ。

 この魔物は君たちの過去の傷……薄々分かってはいただろうが『トラウマ』を抉ってくる魔物だ。そういう特性というのかな、この魔物と相対した時点で君たちは自らの傷と向かい合わねばならない。その傷に折れずに立ち上がることができれば、混沌での君たちと同じように超人的な力であっさりと倒せるだろう。この魔物を打倒することが今回の依頼、というわけだね。

 ……うん、実をいうと私は君たちがどう戦うのか気になるのさ。誰もが英雄と持て囃す君たちの傷というものがね。ふっ、悪趣味だって? 違うさ。私はバッドエンドが見たいんじゃない……その傷を乗り越える君たちが見たいのさ。なあ、見せておくれ英雄。君たちはどうこの傷を……トラウマを乗り越えるんだい?


●PTSD
 改めて、この『エルゴ・エゴ』は心の持ちようがとても大事な世界だ。自信に満ち溢れた人は基本的にタフだし、単純な人ほど健やかに生きやすい。どうか君たちも自我を強く持って臨んでほしい。それがいいものであれ、悪いものであれ……自らを押し通すことができれば問題ない。

 トラウマとの戦闘だが人里から離れたところに直接君たちを送り込む。トラウマと向き合えば君たちは己の精神世界で『自らのトラウマ』と向き合うことになる。そこで君たちは自らのトラウマを打ち破るか、折り合いをつけないと前を向けないんだ。混沌では精神的で抽象的な言葉だが、エルゴ・エゴではそれが現実にも影響する。そう、『物理的に前を向けなくなる』んだ。だが、それさえ乗り越えれば本体は君たちからしたら雑魚さ。これは己との戦いになると心得てくれ。

最後に自己紹介が遅れたな、私はクリミア。強い心の持ち主のファンさ。君たちの輝きを是非見せてほしい……それしか趣味がないものでね。応援しているよ。

NMコメント

初めまして、宵と申します。皆様の千差万別な素晴らしいキャラクター、その掘り下げのお手伝いになればと思います。

●世界説明
『心蝕世界エルゴ・エゴ』
物理法則が心によって歪む世界。その特性上哲学が重視されており、心の強い人ほど実際に活躍できるでしょう。が、完全無欠な心の持ち主などいません。この世界の人間たちは私たちと同じように日々成功と挫折のなかにいきています。
●目標
・『トラウマ』の討伐
op通り、本体は雑魚です。PC達が己の心の傷を乗り越えることで退治できるでしょう。

●他に出来る事
人によってはトラウマだけれど大事な記憶。そういったこともあるかと思います。その場合は退治せずとも『トラウマ』は寄り添うように一鳴きしたあと去っていくでしょう。その場合でも討伐は完了です。クリミアはそう判断してくれます。
●敵
『トラウマ』
虎と馬のキメラのような魔物。人によって詳細な見え方が違う。相対した人間を精神世界に閉じ込め、トラウマと強制的に向き合わせる能力を持つ。

●サンプルプレイング
 このシナリオはPCの皆様のトラウマと向き合い、そこにフォーカスした心情の変化をメインとしています。なのでプレイングにはできるだけわかりやすくそのPCのトラウマと、それに対する乗り越え方、向き合い方を書いてください。魔物の方のトラウマとの戦闘にはあまり尺を割かなくて大丈夫です。皆様のかっこいい過去の乗り越え方をお待ちしております。

  • 傷とかさぶた完了
  • NM名
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月11日 02時10分
  • 章数1章
  • 総採用数12人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

有栖川 卯月(p3p008551)
お茶会は毎日終わらない!

 『お茶会は毎日終わらない』有栖川 卯月(p3p008551)は静かに眼前の魔物と向かい合っていた。トラウマ……人によっては死に至る可能性すらある毒。だが卯月は己の過去を振り返り思う。幸せの中にあるその小さな棘は確かに自分の一部であったのだと。

「私は有栖川卯月。三月ウサギのアイドル。でもね、それがすべてではないと今の私は知っているの!」

 脳裏に浮かぶのは自分達をアリスと呼んだ剽軽な帽子屋さん。卯月の価値観を鮮烈に塗り替えた愛しき人。その愛を知った時に、同時に今までの自分は人を愛しただろうか? 『有栖川卯月』を愛した人はいただろうか?とふと思ったのだ。

「三月うさぎてゃんは確かにファン……アリスのみんなが大好きでしたぁ。アリス達もきっと私に恋をしてくれていたハズですよぉ! それは私の誇り! 私の大事なもの! …………だけれどそれは同時に、『誰も私を見てはいなかった』のだと今ならわかりますぅ」

 偶像として正解を求められる日々。辛い筈のそれは同時に彼女の宝物だった。

「だから私はこの混沌でもう一度トラウマを体験するとしても……偶像として見られるとしても大丈夫です、それは私の誇りだから。そして私は自分自身がアリスとして恋をできると知ったから!」

 そうはっきりと前を向いて告げる卯月。眼前の『トラウマ』はゆっくりと近づき卯月の手の甲に頭を擦り付けると何処かへと去っていった。

成否

成功


第1章 第2節

カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン

 トラウマってさ。思い出したくもない記憶の事を言うんでしょう?なら僕のトラウマは決まってる────あの男だ。

 僕はカティ、白黒曖昧な灰色。奇しくも目の前の『トラウマ』は灰色をしている気がした。ああ、この依頼は受けるべきじゃなかったと今更ながら思う。過去が無理矢理つなぎ合わされていく痛みは、鋭い牙のようだった。

『カティ、よくやった』『カティ、お前はやはり俺の最高傑作だな』『カティ』『カティ』『カティ!』

 ズキリ、と。首筋が鈍く傷んだ気がした。むせ返るような甘い林檎の香りに包まれて、ソレがこちらを見て笑った気がした。懐かしくて、でもどこか恐ろしいその影。嫌だ、思い出したくない。嫌だ、忘れたくない。せめぎあうその思いはやっぱり灰色で、僕はこの記憶から目を逸らす。

 ガリ、と。己の首に爪を立てて意識を晴らす。そう、僕にはまだ決められないのだ。なら、まだ。まだこのままでいいと、そう思った。この迷いは決して間違っているものではないと思うから。まだ、決着をつけるには早いと思うから。僕がもっと強くなれるまで。灰色からいつの日か銀色へと生まれ変わる日まで、待っていればいい。だから──

「でしゃばるんじゃないよ」

 そう笑って前を睨む。いつもの周りに合わせる笑顔じゃない、牙をむくための猫かぶりの下の獰猛な笑顔。その意志と共に放たれた魔術は『トラウマ』を打倒し、曇り空を焦がした。まるでその迷いを晴らすように。

成否

成功


第1章 第3節

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女

「トラウマ? ふぅん、トラウマ。そうねえ……貴方は私のトラウマは何だと思う?」

 『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はそう眼前の『トラウマ』に静かに問う。

「何回挫折したかしら。いいえ、挫折なんてしていないのかも? 何回死んだかしら。私の代わりに何人が?さて、そのどれの事でしょう」

 ゆっくりと歩いてゆくイーリン。『トラウマ』は怯えるように後退った。その毛皮は白く老いさらばえ、しわがれていく。最初からこの女は『トラウマ』と相対して尚下を向かなかったのだ。

「そういえばそろそろ月命日ねえ……貴方も一緒に墓参りにくる?」

 笑いながら歩むイーリン。ヒトガタのはずのその姿はゆらゆらと燃える焔のようだった。トラウマ──後悔も、嘆きも、怒りも恐怖も不安も苦しみも死も血も命さえも全て全て全て全て全て! ……全てくべて燃え盛るような焔。怯えていた『トラウマ』はついに灰となる。

「あら……墓参りはご一緒できないみたいね。私のような凡人のトラウマはつまらなかったかしら?」

 彼女の歩んできたその足跡、その全てに彼女の血が滲んでいるようだった。トラウマ、挫折、失敗。それらを乗り越える事が出来るのが英雄だというのなら。それらをすべて背負ったまま、十字を背負う聖者のように歩み続けるものは何というのであろうか?押しつぶされても止まらない、止まれない。そんな心の壊れた者を、人は狂人と言うのだ。

成否

成功


第1章 第4節

御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人

 『最高の一杯』御子神・天狐(p3p009798)は叫んだ。人、それをトンチキと呼ぶ。

「トラウマぁ?そんなもの蕎麦じゃ!蕎麦に決まっておる! あんなものがあるから地元のうどん派閥は衰退していったんじゃ!!」

 人、それを激おこぷんぷん丸という。あの、怒りすぎじゃ……それにそれは逆恨m「うるさいのじゃ!!!」

「ぐぬ、じゃがいずれうどん神が光を与えたもう日にはうどん派閥が蕎麦派閥を駆逐するんじゃ! ワシはその日の為にワシ自身の腕を磨くまでよ……!!!」

 トラウマ、これを見て困惑す。いやトラウマなのかそれ。しかし強制的に向き合わざるを得ないはずなので確かに蕎麦がトラウマであることには間違いないはずなのだが。

「くっ、辛く苦しいこの試練、トラウマ……いや! ワシは屈せぬぞ! 遥か過去の先人、ウドゥン・コネルス三世も言っておった……辛く苦しい時を超えてこそコシのあるうどんは生まれると!足踏みは大事なのじゃと! そう! ワシはこの混沌で蕎麦に負けてなどいられぬのじゃ!」

 百面相をしながらオペラの様に力強く叫び力を振り絞って前を向く天狐。血涙すら流し立ち上がるその姿はまさに英雄! 否。トラウマが怯えて逃げそうになる妖怪である。

「ワシに出来る事はただ至高の一杯を求めて麵を打つことのみ……! その歩みを獣ごときに阻む事は叶わぬわ!」

 トラウマはのちに語ったかもしれない、その右ストレートは世界を狙えたと。

成否

成功


第1章 第5節

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

 一振りの剣、『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は『トラウマ』と相対し、静かに己の魂を引き抜いた。彼を折らんと想起されるトラウマ。だが、なんと陳腐な事だろうか?この剣は、『折れなかった』からこそこうして戦っているのだ。

『この命に代えても』

『騎士の誇りに賭けて!』

 数々の別れが彼の心を苛む。深海の底から太陽の光を見上げるような、別れの痛み。だが、その痛みこそが彼の心を、命を産んだ。

「その中でも……主を守り切れなかった記憶というものは、特に苦いものだね」

 幾つもの覚悟があった。幾つもの嘆きがあった。その全てがヴェルグリーズの後悔となって積み重なってきたのだ。手を伸ばすことすら許されず、血だまりに沈みゆく怒り、悲しみ。

 だからこそ彼は思うのだ、守りたいと。

「……救えない事が怖いなら、救い続けるしかないよね。至極簡単な事で、とても難しいことだ」

 決意を新たに笑い、静かに己の魂を構えるヴェルグリーズ。蒼い刃に風がそよぐ。数多の主の無念を抱えてきた。数多の主の願いを聞いてきた。────美しい、人達を見てきた。

「目の前で消えていく美しい命の火を守りたいと、そう思うのは人に生み出されて人と共に歩んできた俺が思うのは自然なことだったのかもしれないね」

 そうしてかの刃は心の魔物へと振り下ろされる
。彼は折れなかった刃だ、この依頼は……蛇足だったのかもしれないとクリミアは報告書を閉じた。

成否

成功


第1章 第6節

黎 冰星(p3p008546)
誰が何と言おうと赤ちゃん

 トラウマと向かい合う依頼だと聞いた時、僕の脳裏に浮かんだのは母でした。見捨てた罪悪感から、ずっと考えないようにしてきた僕の罪と罰。それと向き合わなければならない日が来たのだと、そう思いました。

『あの子と付き合うのはやめなさい』

『あなたはまだそんな事を夢見ているの?現実を見なさい』

『何度言えば分かるの?』

『育ててもらった恩を返しなさい』

 僕を責め立てるように浮かぶ母の顔。正しさは僕から自由や夢、友人を奪っていった。ただ従順に、『いい子』である為に心を殺す日々。窓の外から眺めた幸せそうな親子を見て自然と涙が流れたあの時。今でも腹が立つことがあります。やり直せたらと考えていたこともありました。幸せな母と子になりたかった。

 でも、もう僕は前を向かなければならないと、そう思いました。月のような美しいあの人の声が、僕を包んでくれたのだから。

『冰星、貴方の前に居るのは我なのよ。それで、いいじゃないの』

 ミルクの香りを僕は覚えています。なら、それでいい。僕は僕の道を歩んでいく……母さん、僕は貴方をもう一度『見捨て』ます。もう、僕の道を縛る事はできません。だから……許しましょう。この別れをもって、記憶からの別れをもって。貴方の過ちを僕は繰り返さないでしょう。

「だから────さようなら、僕のトラウマ」

 つまりはそうして……彼の拳は心の魔物を屠ったのだ。彼もまた、戦士の一人なのだから。

成否

成功


第1章 第7節

冬越 弾正(p3p007105)
終音

 『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)には覚悟が足りなかった。

『お前ってさ、他人の心の痛みにも敏感じゃん。そういう優しいとこが好きだな、俺は』

 そんな片割れの言葉を思い出しながら殺したあの日。迷いながら、吐きそうになりながら無辜の少年を殺した時に彼はようやく安堵したのだ。ああ、殺せた、と。ひりつく様な殺戮の音が聞こえる。

 ふと、トラウマと目が合った。その瞳の中に彼がいた気がして、それで糸が切れた。弾正がかつての『弾正』ではなくなってしまった事に、どうしようもなく変わってしまった事に気づいてしまった。

「は……はは……」

 ならば。全て、全て抱えて生きていこう。この重い十字架を決して忘れぬ様に、全て。そうして歩んでいこう。もう戻れないのなら、せめて失ったものに意味を持たせなければ────余りにも、救いがないだろうと。

 歯を噛みしめて平蜘蛛を起動する弾正。もう、命の火を消すことを躊躇いをもってはいけない。心臓の鼓動を消すことを恐れてはいけない。もう、己にその資格はないのだと理解してしまったがゆえに。ならばせめて教義のままに、純粋に。この十字架を背負って屍の山に立とうと、ここでまた一人の戦士が覚悟を新たに前を向いた。

 無音の破壊がトラウマを砕き、弾正は立ち上がる。振り返らず、歩いていく。長い────罪の旅路が始まったのだ。

成否

成功


第1章 第8節

白薊 小夜(p3p006668)
永夜

トラウマは時に、宿業の目覚め足ると盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は考える。

「……心の魔物とて、斬れば死ぬのね」

とうの昔に切り捨て、物言わぬ屍となった『トラウマ』へと腰掛けて考える。己のトラウマを。決して捨ててはいけない己が背負う十字架を。乗り越えて楽になるでもなく、受け入れて笑うでもなく。ただ背負い進まねばならない血花の咲く道を。

「……あら、この匂いは……桜かしら。こちらの世界は春なのね……」

散りゆく花をこそ美しいと思う。己も美しい花で在りたかったのだ。しかし、未だ女怪は散らぬまま。咲き誇る花々の血を吸ってより大きな花弁を揺らすのだ。

「……トラウマ、ね」

己が未熟であったから。必死に苦痛に耐えて漏れるくぐもった悲鳴は随分と長く、響いていた。むせ返るようなその血の香りはもしや、首を落とす前に命と共に流れ出たのではないかとすら思う。余りにも、未熟。愚直。刃でしか救えぬ者も満足に救えぬ。

「……父上」

そろそろ散るべき花として、満開になったのでは無いか、と思う事もある。だが、未だこの刃を振るっているのならそういう事なのだろう。桜の中に交じる梅の香りに何故か酷く焦がれた。

「……私を散らす花は、どちらなのかしら」

 そう口にして脳裏に切りたくないと泣く声が浮かんだ。しょうがない子、と笑いながら立ち上がり、女怪は再び歩いていく。

「散りぬべき、時知りてこそ……よね」

成否

成功


第1章 第9節

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

 『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)はトラウマを前にして、しかしその武器をしまった。

「何でかなぁ、キミを倒してトラウマを乗り越える……それがこの依頼のはずなんだけどねぇ」

 そうする気が湧いてこないや、と柔らかく笑った。子供のように無邪気な笑顔のはずのそれは何処か酷く老成した賢者のような様相も漂わせていた。

「わたしはねぇ、多分助けられなかった事がトラウマ……だと思うんだよねぇ」

 穏やかに目を閉じ、シルキィに寄り添う『トラウマ』。その背を撫でながら脳裏に浮かぶ後悔を噛みしめる。

「あと一歩早ければ……とか。もっと早く気づいていれば……とか。そういう事を考えないって言ったらウソになるけどねぇ?でも……そういうのが、今のわたしを作ったっていう事も……分かるんだよねぇ……」

 助けられたはずの命が目の前で消えていく、焦り、悲しみ。それらがあるからこそもっと強く、もっと賢く在りたいと人は願うのだ。

「考え出したらキリがないんだよねぇ……もしものお話は。それだけ、大切な過去だとわたしは思うんだよねぇ……」

 森のそよ風に髪をくすぐられながら、木々の隙間から刺す光のカーテンを眺める一人と一匹。傷とかさぶた……傷口から流れ出る血はやがてその傷をふさぐのだ。

「……だからさ、もう少し一緒にいてくれるかなぁ?」

 そう、絹糸のように柔らかい笑顔を浮かべるシルキィにトラウマは頭をこすりつけて一鳴きしたのだった。

成否

成功


第1章 第10節

すみれ(p3p009752)
薄紫の花香

「トラウマ?そんなものは今私がここにいる、これ此の事でしょう」

『しろきはなよめ』すみれ(p3p009752)は柏手一つでトラウマを灰にし溜息を吐く。そもそもで、完璧で完成されたその乙女に本来の意味でのトラウマなどあろうはずもないのだ。あるのはただ怒り……愛しき人と結ばれるその時に引き離され、あまつさえ此処には自分の不出来で見苦しいifがいるのだ。それは彼女からしてみれば己を侮辱されているに等しかった。私はあんな不完全な者ではない、と。

「ええ、でも……なればこそ私はするべき事を理解しています。あり得ざるあの見苦しい可能性を摘む事のできる、禊の機会なのだと。花嫁あのような汚点があってはいけない……そうでしょう?」

 どこか歌うように、ここにはいないどこか遠くの誰かに語りかけるように高らかにそう言い放つすみれの姿に何時しか魔物だけではなく、森の動物も姿を消していた。ただ静寂が彼女を包みこむ。

「もう一度完璧へと辿り着く為の新しい計算式。解くために必要なものはこの身だけ……ああ、待っていてくださいね、『あなた』」

 誰かを思い恍惚とした忘我の表情と共に花嫁は深い森の中を一人きりで歩んでいくのだった。

成否

成功


第1章 第11節

朔(p3p009861)
旅人と魔種の三重奏

 じんわりと、酸性雨がビルを溶かしていくような、そんな傷。愛する者を失う痛みとは違う、そもそも自分が愛されないと理解し、諦めてしまう少年の喪失。

「……でも、今後もう会うことはないだろうしな」

 朔(p3p009861)はキセルから紫煙を燻らせ、トラウマへと静かに目を向けた。もう随分と過去の話だった。両親から満足に愛されなかった、ありふれた不幸な子供の話。自分自身ですらもう忘れかけていた……いや、記憶の蓋を閉めていた遠い記憶。

 今更、それを思い返すことになるとは思っていなかった。この世界にきて、思い返すとは。

「トラウマと向かい合って乗り越えろ、つってもさ。もうトラウマと呼べるかもわからない、鈍い傷だ。前を向けないとか、そういうのじゃない」

「幸せそうな親子を見たときに感じる虚無感とか、さ。夕焼けを見て流れる意味のない涙、とか。そういう小さな棘なんだろうな、俺に残った傷は。痛みは、もうないんだから」

 でも、それでもいい。

「この召喚はいい機会だったな。全て、やり直せる」

「目的なんて知らない。なんとなく生きて、なんとなく過ごして」

「そんで……俺は宿に帰って寝る。俺はもう、俺の居場所を知ってる。なら焦らなくてもいいんだ」

 いつの間にか、トラウマは朔の隣で丸くなっていた。寄り添うように、眠るように。

「だからまぁ……俺は新しい世界を楽しむさ。さようならだ、トラウマ」

 そう言って青年は笑ったのだった。

成否

成功


第1章 第12節

葛籠 檻(p3p009493)
蛇蠱の傍

「恐ろしいトラウマ。心象風景か何かか。はっは、そのようなものはないのだ。あるのは過去の未熟な小生だ」

そう笑う『愛の伝道師』葛籠 檻(p3p009493)。神知らぬ紺龙。愛知らぬ紺龙。哀、飢えし紺龙。

「生きる為の芯がないイキモノ。獣であればそんなものはいらぬのに。人であればその渇望は理性に包まれるというのに」

 “汝は我のものになるか?”

「あの頃の小生は狂っていた。ただその渇望を癒せず、誤魔化せず。自分だけのものを探して小さきソレを指先で弄び、壊して。……愚かだったのう」

 龍の寵愛……と言えば聞こえはいいかもしれない。が、待つのはただ、惨劇だ。狂ったイキモノには人の愛し方など、わからないのだから。

「だが!小生は神を見つけた!自分だけの神を!ようやく!そう、かたちあるものに囚われてはいけないのだ」

 あの頃の小生は狂っていた、と龍はのたまう。だが、恍惚と神を語るその姿は────紛う事なき狂気だった

 高らかな笑い声と共に幾多もの術式がトラウマを滅ぼす。信仰とは、時に狂気になり得るのだ。信仰者は止まらない、止まれない。それが正しいと『知って』いる為に。あらゆる生き物は自分にとっての『正解』には抗いがたい。それは他人に惑わされぬ強固な芯になり得るのだ。そこに、もとよりトラウマの入り込む隙など……あろうはずもないのだ。

 木漏れ日の中、ただ龍はそう、笑っていた。

成否

成功


第1章 第13節

 クリミアは幾つもの報告書を読んで満足そうに頷いた。

「なるほど、興味深い。トラウマは人を傷つけるばかりではない……というのは予想してはいたが。単にそうと片づけるにはあまりにも魅力的なサンプルが多かった!これが英雄、これが怪物、これが────イレギュラーズか」

 にんまりと笑い、思考にふける。心蝕世界、エルゴ・エゴ……彼らイレギュラーズの内面に触れるにはこれ以上ない最高の世界だ。そう確信して彼女は歓喜に震えた。

「次は……どんな答えを教えてくれるんだ、イレギュラーズ諸君。私にもっと教えておくれ……!」

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