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シナリオ詳細

すてぃあすぺしゃる~楽しいお料理教室

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義――

 ヴァークライト領はフォン・ルーベルグ郊外のフォン・ルーベルグ郊外の北部地域から北方教区の南部地域に跨がった領地である。
 フレンチ・ルネサンス様式で建てられたヴァークライト邸にて本日は『お料理教室』が行われるのだという。
「大丈夫?」
 やけに真剣な顔をしたサクラ (p3p005004)は友人でありヴァークライトの跡継ぎ娘であるスティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)のかんばせを見据えた。
「大丈夫だよ。教えるのは肉じゃがかな? と思ってるし、イルちゃんが望むなら軽食とかもいいかもしれないよね。
 折角なら今日のデザートとかもいいかも。あ、差し入れならクッキーとかもそうだけどスムージーとか……」
「スティアちゃん」
「どうしたの? サクラちゃん」
「作りすぎない?」
 サクラが心配するのはスティアの料理スキルではない。彼女の料理は普通に美味しい。出来も良ければ、栄養バランスにも気は配られている。だが量が兎に角多すぎるのだ。『すてぃあすぺしゃる』と名付けられた料理群は食べきるのも難しいほどに積上がる。
「だ、大丈夫。イルちゃんにも『作りすぎないでくれ』って言われたし! ね!」
 手をぶんぶんと振ったスティアにサクラは溜息を吐いた。
 そう、今日は彼女の友人でもある天義の見習い騎士イル・フロッタ(p3n000094)に料理を教えるのだ。
 天義を襲った厄災以降、彼女と仲良くなったスティア。関わる内にイルが先輩であるリンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)に片思いしていることは――聞かなくても良いくらい、寧ろ見て居て「そうでしょ?」って揶揄いたくなるくらい――分かっていた。
 友人の恋路を応援したい一心で料理教室をヴァークライト邸で開くことを決定したのだ。

「頼まれてた材料買ってきたぞ」
 ほら、と買い物袋を手渡すシラス (p3p004421)はヴァークライト邸を見回してどこか落ち着かない雰囲気を見せる。案内人として共に買い物をこなしてきたアレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)は「シラス君は初めて来たっけ?」と首を傾いだ。
 スティアにヴァークライト領を案内して貰ったアレクシアは地理をある程度把握していたのだろう。シラス達を案内しながら料理教室とその後のお茶会の茶請けの材料を購入してきたのだろう。
「……スティアがご迷惑をおかけして。買い出しも当家の使用人に言い付けてくれて構いませんでしたよ」
 何処か困った顔をしたのはエミリア・ヴァークライト卿。スティアの叔母にして現・ヴァークライト当主代行である。
「いいえ! そんなことで使用人の皆さんを動かすのも悪いもの。
 素敵な場所でした。お花畑もあって……ゆっくり観光してみるのもいいかもしれないわ」
 微笑んだタイム (p3p007854)にエミリアはほっと胸を撫で下ろす。エミリアにとっては『スティアの友人』というより『救国の英雄』を招いた気持ちなのだろう。
「エミリア様にもご迷惑をおかけします。大人数で押し掛けて……」
「いいえ、テレーシアも喜んでいます。此方こそ、のんびりとなさって下さい」
 足下に寄ってくる自信を鮫だと思い込んでいるヴァークライト家の愛犬テレーシア(通称:てる子)にリースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)はにんまりと微笑んだ。
「こんにちは、てる子ちゃん」
 脚を持ち上げてやれば、「あん!」と楽しげに鳴いたてる子。フラン・ヴィラネル (p3p006816)は「カワイイ~!」とふんわりと笑みを浮かべる。
「あ! スティアさん! イルさん来たみたいだよ!」
 玄関先でもだもだと揺れ動く影に気付いて笹木 花丸 (p3p008689)は扉の元へと直ぐに駆け出した。「こんにちは」と声を掛ければ扉の前でもだもだとしていたイルがびくりと肩を跳ねさせる。

「わあっ!? こ、ここ、こんにちは。今日はお招きいただきありがとう!
 そ、その。これ、父が皆にって。お土産なのだけど……ええとマカロンとスコーンなんだ。エミリアさまもよければ」

 もじもじとしたイルに花丸は「美味しそうだね」と微笑んだ。手を引いて入れば、スティアが満面の笑みで待ち構えている。
「イルちゃん! エプロンは私が用意しておいたからね! 今日は一緒に頑張ろうね。
 あ、みんなも、良ければ着てね。やっぱり皆一緒だと嬉しいから」
 にんまりと微笑んだスティアが持っていたのはヴァークライト家の使用人が着用するクラシカルタイプのメイド服なのだった。
 ――因みに、メイド服の登場にエミリアの顔が強張ったのを見たのはリースリットだけである。

GMコメント

 夏あかねです。
 イルちゃん曰く「やっと先輩のお休みにお約束できたんだ!」です。わくわく。

●目的
 お料理のレッスンをしよう

●ヴァークライト邸
 ご存じスティアさんのご実家。天義のヴァークライト邸です。
 現在の家主であるエミリア・ヴァークライト(スティアさんの叔母様)と飼い犬のテレーシアが居ます。
 使用人達も居ますので何かあれば気軽にお声かけ下さいね。

●お料理教室
 料理長は今日は午後休です。ご飯を一緒に作りましょう。厨房はとても広く、使いやすい設備が整っています。
 料理の材料は肉じゃがを準備していますが、買い出ししてきた設定なので皆さんお好きな料理を作って下さい。
 ちなみに、イルちゃんの料理の腕は『で、できないことはない』程度です。お料理経験があまりなく騎士になるぞ!の一心で過してきたのでかなり不安だそうです。

 スティアさんは「折角だから」とエプロン代わりにメイド服の着用を奨めてくれます。イルは着用します。

●お茶会
 エミリア様と料理教室を眺めながらお茶会を楽しめます。お願いすれば手合わせも出来るでしょうが、エミリア様的には「のんびりとした休暇を楽しんで欲しい」との事です。
 足下では飼い犬テレーシアがびょんびょん跳ねてお菓子を狙っています。料理教室で作った軽食や料理を食べてもいいですね!

●イル・フロッタ
 天義の見習い騎士。明るく元気で猪突猛進系ガール。リンツァトルテに片思いをしています。
 PCの皆さんの活躍(?)でちょっと距離を縮めたのですがお家の事に真剣に向き合うリンツァトルテには伝わっていません。
 お土産のマカロン&スコーンを持参してワクワクでやって来ました。スティアが言うなら……でメイド服を着用しています。
 イレギュラーズの皆さんが大好きなので何でも信じてしまいます。色々と教えてあげて下さい。

●リンツァトルテ・コンフィズリー
 コンフィズリーの不正義で知られていたコンフィズリー家の跡取り息子。天義の聖騎士。
 一応予定を伝えたそうです。遅れて来てくれるみたいです。なんだか良さそうなタイミングでお邪魔します。

●エミリア・ヴァークライト&テレーシア
 叔母様と犬です。テレーシアは『てる子』の愛称で親しまれています。
 叔母様は兄と義姉の忘れ形見であるスティアを大切に育てた――だと言うのに!というテンションで見守ってくれています。苦労性です。
 てる子は自分をサメだと思い込んでますが犬です。持ち上げると一生懸命犬掻きをするのがチャームポイント。

●その他
 日常シナリオです。日常的にこんな事やりたい!など自由に行っていただけます。
 基本はヴァークライト邸でのお料理&お茶会(食事会)が中心ですが皆さんで何か遣りたいことを合わせて頂ければ行動可能です。

それでは、頑張ってお料理しましょうね!

  • すてぃあすぺしゃる~楽しいお料理教室完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


「今日はわくわくするお料理教室! ――だというのに!
 皆が私を警戒してるような気がする……でもイルちゃんやアレクシアさんは私のことを信じてくれるに違いない! 純真な瞳で見つめる作戦だ!」
 ススメ! 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)!
 皆にメイド服を着用させて楽しいお料理教室を行う為に!

 ヴァークライト邸にて行われるお料理教室には複数のイレギュラーズが訪れていた。

 \お料理教室の時間だーっ!/

 普段は食べる専である『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)も今回は作る側である。お料理のお手伝いを行う事はあったとしても本格的に自分から作ろうという事は中々無い。これを機にちょっとでも料理スキルが向上していつかは音呂木ひよのに――「おや、花丸さん。凄いじゃないですか」なんて行って貰っちゃうのである。
「その為に頑張らなきゃ!」
 やる気十分の花丸の足下でテレーシアが「わん!」と尾をぶんぶんと振り回している。
「今日はお世話になりまーす! エリミアさんも、また騒がしくしちゃいますけど宜しくお願いしますね。てる子も元気してたかな~!?」
 にんまりと微笑んで丁寧に屋敷の主であるスティアの叔母、エミリア・ヴァークライトに挨拶を行った『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)。
「ええ、宜しくお願いします」とエミリアは穏やかに微笑んで居る……がその表情をちらりと見詰めた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は「大丈夫ですよ、屹度」と微笑んだ。
「作り過ぎについては、まあ、実の所今回に限って私はそこまで心配はしていません。
 何しろ、用意した以上の食材が無ければ、流石のスティアさんでも作り過ぎる事は出来ないでしょうから……食材調達はシラスさんとアレクシアさんですしね」
「ええ、シラスさんとアレクシアさんのお話はかねがね聞いております。ええ、其処は不安では……」
「そう、ですよね。そして、食材を余らせる位なら、買ってきた分を使い切る程度の量であれば……多分……大丈夫じゃないかなあ……? 多分、ですが……」
 リースリットはエミリアの杞憂は其れだけではないのだろうかと首を捻る。テレーシアが尾をぶんぶん振ってタイムにアピールを行った後、そそくさとリースリットに抱っこを懇願してくる。もふもふと触りながら「何故、サメなのかよく分かりませんが……」と呟いたリースリットにエミリアは「私もです」と暗い表情をしていた。
「正直あんまりお料理は得意じゃないから……今日美味しい肉じゃがを身につけて、頑張ったねとか美味いじゃんって皆に褒めてもらえるように頑張る!」
 むんっとやる気を漲らせた『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)にタイムはこくこくと大きく頷いた。
「お料理は好きだけれど、上手いって言えるほど自信がある訳じゃないし、みんなと一緒にスティアさんに教えて貰えるの、嬉しいな」
「スティア先輩――先生の料理は美味しいっていうしね!
 ……にしてもスティア先輩はなんかすごい危険な気がするけど、まさか肉じゃがの器がバスタブだったり、工事現場みたいな音しないよね? まさかね。前評判が怖いんだけどー?」
 フランにスティアは「大丈夫だよ! 今日は叔母様も居るし!」と慌てたように手をぶんぶんと振った。
(そう――私がスティアちゃんを監督しないと……あの時の苦しみをみんなが味わうような事は防がないと……)
 一人、決意を胸にするのはロウライト家が令嬢、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)だった。エミリアとお茶会をしながら料理教室――ではなく、スティアの監視役を務めるつもりであるサクラはリースリットへと蒼白い貌を向けた。
「甘いよリースリットさん…スティアちゃんなら予め用意してたとか、庭に迷い込んだ牛を殴り倒してきたぐらいはするよ……!
 サメに好かれるのもそうだけど、スティアちゃんは謎の運命に愛されているから……!」
「な、成程……」
 サクラはエミリアの表情を見て、「あ」という顔をした。庭に迷い込んできた牛をハッ倒しそうな気迫を叔母様から感じる……。


「お料理はできるようになると楽しいから、今は得意じゃない人も少しずつ覚えてほしいな!
 ここはスティア先生の手腕に期待! というところだね! ――ええと、とりあえず折角用意してくれたのだし、メイド服には着替えさせてもらおうかな!」
 折角だもんねと微笑む『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に「そうしようか」とクールに返した『完食達成者』シラス(p3p004421)は歓喜していた。

 ――生きていて良かった、サンキューヴァークライト!
 スティアからみんなにメイド服を着せるって聞いてたからね! そこにアレクシアも来るらしいから頼んで滑り込んだよ!

 幻想の勇者は肉じゃが程度なら簡単だと胸を張り、何をしに来たのかというと。
「似合うかな? どうかな? ふふ、ご主人さまはいないけれど、張り切ってお料理するとしましょう!」
「……可愛い、それ貰って帰ろうぜ」
 アレクシアのメイド服姿を見に来たのだった。シラス少年、下心をフルオープンでお送りしているがアレクシアはにこやかに「有難う!」と返すのだ。
「さあ、料理する前に皆も着替えようね。イルちゃんは私が手伝ってあげる。サクラちゃんは?」
「私はエミリア様とお茶してるから」
「サクラちゃんは? リースリットさんも。ね?」
 スティア・圧が強い・ヴァークライトである。エミリアの膝の上にてる子を返却して着替えに連れ去られていくリースリットを見詰めるエミリアの目は――サクラはその時気付いた。ああ、エミリア様の表情筋が大仕事をしている理由は此れなのだ。
 そう、つまりは天義の貴族ヴァークライト家次期当主が隣国の幻想貴族ファーレル伯の二女にメイド服を強要している場面をまざまざと見せ付けられているのである。因みに当のリースリットは気付かないのであった。
「気合も入ったとこでメイド服にお着換えタイムっ! エプロンだけじゃダメなの? って思う事はあるけど、それはそれ!」
 花丸は「皆の可愛い姿が見れるなら兎に角、ヨシ!」と指差し確認。ちょっぴり何かの『クセ』が出ているのかも知れないのである。
「髪はお団子にして、メイド服よし! シラス先輩がメイド服じゃないの残念だなー、むむ」
 フランの拗ねた表情にタイムは「フランさんの髪、わたしやろっか?」と皆のヘアアレンジを手伝っていく。折角ならばメイド服で可愛く決めたいのだ。
「みんなのメイド姿もシラスさんの給仕姿も新鮮で素敵ね。ふふ、実はこういう服憧れてたの。似合うかな~?」
「タイム、とっても可愛いのだな! 私もスティアに髪の毛を触って貰ったんだ。似合うか?」
 嬉しいと言わんばかりに飛び付いてくるイルに「似合いますよ」と微笑んで。後ろでドヤ顔をしているスティアに「自信作かな?」とタイムは揶揄うように微笑んだ。
「シラスさんもメイド服をってお話もあったけど、給仕服似合っててそっちもヨシ! 皆に、ヨシ! ――但しエミリアさんの反応だとかは見ない事にするっ!」
 ……花丸は正解である。
 因みにシラスは給仕服でかっこよくキメている。アレクシアに「シラス君似合うね!」と微笑まれただけで今日のお料理教室は『完』なのだった。


「エミリア様、今回もお世話になります」
 いつもはエミリアが胃を痛めるサメ展開だが今日は平和に済みそうだとサクラは微笑んだ。テレーシアと遊びたいけれど、彼女の手前、リースリットのように犬に構えないサクラに気付いてか「良ければテレーシアと遊んで下さい」とエミリアは『てる子のおやつ』と書かれた袋をサクラへと手渡した。
「有難うございます。天義の復興も進んできましたし、こういったのんびりした時間を取れるのは喜ばしい事ですね。
 エミリア様も今日の料理教室での食事会やお茶会で楽しんで頂ければ嬉しいです。心穏やかに過ごせる時が続くと良いですね」
「ええ」
 ふと、リースリットはティーカップを手にしながらエミリアへと向き直る。
「ところでエミリア様。先程スティアさんがメイド服を持ち出した時の事なのですが……」
 ぴく、と肩が揺れる。確かに次期当主であるスティアが客人に給仕や使用人の服を持ち出すのは可笑しいという話なのかも知れないが――
「トラブルは付き物ですし、これはこれで……とは思いますが……」
「リースリット嬢。ファーレル家はスティアの暴虐(むちゃぶり)に何も仰られませんか?」
「え? はあ、まあ……大丈夫ではあるかと」
 サクラは思わず吹き出した。確かに彼女の立場からすれば国家を跨いだ騒動の発端がメイド服になれば洒落にならないのだろう。一般人とイレギュラーズの壁を感じてから「屹度大丈夫ですよ」とサクラはエミリアを宥めた。
「私はオマケ、だと思いますから。そもそもサクラさんやイルさんにメイド服を着せたいだけですよねスティアさん?
 メイド服を着たイルさんをリンツァトルテさんに見せつけたいとかもあるかもしれませんけど……主役はイルさんなの忘れてませんよね?」
 ――忘れている気がしたサクラは「リンツァ様とイルちゃんの関係を進めたいそうです」とエミリアにこっそりと耳打ちをした。二人ともを知っているエミリアは可笑しいやら、愉快やら分からぬ顔をして「可愛らしいですね」と綻んで。

「それではスティア先生のお料理教室の始まりー自信のない子達は私と一緒に作ろうね!
 イルちゃん、タイムさん、フランさん、花丸さんかな? 作るのは肉じゃが、しょっぱくならないように作るね」
 その為にはちょっと手間だけれど出汁からとスティアは昆布を水に浸けて、その間に野菜の下処理をしようと材料箱の前に皆を誘った。
「出汁…なるほどいっぱい出るように絞ろう!」
「ふ、フラン。違うと思うんだ……」
「え!? イル先輩!? ジュース作る時は絞った方がいっぱい出るのにダメなの!? むむ、難しいから一個ずつメモ!」
「フランさんは……うん。一緒にちゃんとしたお料理作れるようになろうね? って事でお世話になります、スティア先生っ!
 ふむふむ。先ずは出汁から……出汁から始めるとかすっごいお料理してるーって感じだね?」
 花丸さえも黙するレベルの調理スキル、フラン。「ええ!?」と驚いた顔をした彼女はスティアが「野菜の下ごしらえです!」と包丁とまな板を用意する。
 花丸は逐一メモを取り、タイムは包丁を手にいざ、野菜の切り分けに――
「わースティアせんせー! 野菜を切っておくのはわたしもやるやるっ。
 基本中の基本だものね。これくらいはちょちょいの……いたっ。む~~~! 指切っちゃった……」
「わわ、タ、タイム。大丈夫か!?」
「あわ、イルさん絆創膏ありがとうございます」
 そんな様子をニコニコと見詰めるスティア(を見詰めているサクラとエミリア)。イルに少し過保護なように見えるスティアは嬉しそうなのであった。
「野菜の皮むきとか切るのは任せて! 猫の手にしてー、ゆっくり丁寧に! ふっ、人を刺すのかって言われた持ち方からは成長したよー!」
 フランがフンッと勢い良くにんじんを切りわけている。おこぼれに預かろうと尾を振るてる子には「いっぱい食べて将来は強いサメになるんだよ!」とにんじんをプレゼントするが――「鮫になって良いのかな」と花丸は小さく呟いた。
 一時間ほど経過して、出汁取りの時間が開始する。
「10分程煮出したら火を止めて鰹節を入れて少しだけ沸騰させてから濾すね。その後は、具材を炒めて普通の肉じゃが作りだよ。
 出汁があるからあんまり醤油をいれなくても大丈夫なはず! 味付けはタイムさんの好きな甘めにしてみよっか」
「やったぁ、甘めの肉じゃが大好き! 量もみんなで食べる分には丁度よさそうだし、ここまでは特にすぺしゃる要素ないよね?
 ねえねえ、アレクシアさんとシラスさんが作ってるデザート作りも順調そう。なんだかあの二人ちょーっといい雰囲気……?」
 そんなタイムの心を裏切るように――あやしい気配が迫るのだった。
「はいはいスティア先生質問でーす! 隠し味は愛情、ってよく言うけどどうすればいいのかなぁ
 食べてもらう人のこと考えて呪文とか……あ、じゃあ今回はリンツァトルテ先輩のこと考えればいいんだね、イル先輩っ」
「ええっ!?」
 わちゃわちゃと楽しげに語らうイルやフランも気付いていない。スティアのちょっとがいーんでごごーんでぎゅいーんなスペシャルな微笑みに。


 ご機嫌でデザート作りを行うシラスはアレクシアがケーキを作るならば飾り付けの係を担っていた。
「リンツァトルテさんがこのあと来るんでしょう?
 それなら、肉じゃが以外にも用意しておいたほうが長く楽しんでもらえるしね! イル君もそっちのほうが多分いいでしょう、ね?」
 そう告げたアレクシアにイルは「先輩と長く一緒」と幸せそうににんまりである。因みにシラスもアレクシアと一緒に調理が出来てにんまりだ。
「やり方聞いても良いかな?」
「うん。卵を溶いて、湯煎をして、泡立てて……薄力粉とそれから少しのバニラオイルも混ぜて、生地を作っていきましょう!
 作るたびに思うけど、この混ぜる作業って結構重労働だよね~腕がいつもくたくたになる!」
 花丸がメモをとり、アレクシアが口頭で説明を続ける。シラスは「言ってくれたら手伝うぜ」と笑みを零した。
 見栄え重視のカットフルーツは適当な大きさに刻んで薄く切れ目を入れてスライド。程よく平たく食感も大切にを心がけて用意する。
「……その、スティアスペシャルなるものも少し心配だし!
 もし何かしようとしてたら全力で止めるからね! 大丈夫だと信じてるけど!!!」
「いつも不思議な雰囲気だけど、今日はそれとも違う何かを感じる。ブルっと来たぜ……何だ?」
 首を捻ったシラスにアレクシアは「ス、スティア君!」と叫んだ。
 シラスは薄く溶いたゼラチンを塗って光沢を出したフルーツに飴細工の飾りを作成し、ケーキにデコレーションを集中状態で行っていた。
 その間に背後では恐ろしい事が起こっていたのである。

「うわーん助けてだれかー! スティア先輩を止めてー!!」
「ははー、すてぃあすぺしゃる……。うん。見なかったことにしよう。シラスさんの作るデザート楽しみだなーっ!」
 叫ぶフランに目を逸らす花丸。叔母様はリースリット共にお茶会中だ。やったね、スティアちゃん。バレてないよ!
 だが――サクラは違った。最初からスティアに警戒して目を光らせていたのである。
「駄目だよスティアちゃん! 食べ過ぎは身体に毒なんだからね! イルちゃんも止めるの手伝って!」
 慌てて走るサクラ。勢いよくスティアに飛び付いたサクラとイルに「ええっ!? 駄目!?」とスティアが叫ぶ。
「あれがすてぃあすぺしゃるなの? ひゃあ……いつもこうなの?」
 タイムの問い掛けにアレクシアは重々しく頷き、シラスは「まあいい。俺は幻想で唯一人のすてぃあすぺしゃる完食達成者にして勇者……何が出てこようが一歩も退かないからな」と格好良く完成したケーキを冷蔵庫に仕舞い込むのだった。

「エミリア様、お待たせしました。スティアには子竜の活動をはじめに何度も助けられ、頼もしい仲間です。いつも感謝してます――が」
「……ええ、アレですね」
「……エ、エミリア様、止められなくて……」
 シラスは山のような肉じゃがに重く頷いた。項垂れたサクラは「あ、でもリンツァ様くるし! ね!?」とシラスとリンツァトルテの胃袋にダイレクトアタックを仕掛けることを提案する。
「お料理が出来上がったらお食事タイム! 美味しそうだよね! スペシャルなモノも出来上がってるけど頑張るぞいっ!」
 取り皿を運んできた花丸は予想以上の『すぺしゃる』にむんっとやる気を溢れさせ、てる子は首をぶんぶんと振り続けている。
「食べきるまでがお料理教室!? よ、よーし! 倒れるまで頑張ろうね……! てる子も手伝って~!! なんで嫌がるの!?」
 てる子を捕まえているタイムは「大丈夫だから、ね!?」と鮫のように宙を泳いで逃げようとするてる子の胴体をぎゅうと抱き締めた。
「あの……あれ、食べなきゃ帰れないかな……?」
「頑張ろう。……あ、けど、リンツァ様に肉じゃが褒められるといいねイルちゃん!」
 フランの肩をポン、と叩いたサクラにイルは緊張したようにこくりと頷いて――「肉じゃがもよくできてるね、美味しいよ! これなら他のお料理もできるんじゃない?」とアレクシアのお墨付きである事にそわそわと身を揺らがせた。
「イルちゃん、リンツさん来たよー!」
 スティアに促されてやって来たリンツァトルテはメイド服姿のイレギュラーズ+後輩と山盛りですぺしゃるな料理に驚愕したような顔を向けてから「有り難く頂こう」と戦に赴くような表情をしたのだった。

 ――余談だが、庭園鑑賞を奨められ二人きりでイルとリンツァトルテが庭園を巡っている最中に「美味しかった、だが、量が多い」とコメントが齎された。
 結果、「スペシャルは次回はなし!」と厳しくスティアは言い付けられたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加サンキューヴァークライト!(シラス君風)
書いてるとき、お腹空いてうろうろしました。ね、てるこちゃん!

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