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シナリオ詳細

月雫の香り

完了

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 満天のラピスラズリに、青く輝く月が姿を現す宵の頃。
 エルス・ティーネ(p3p007325)は仲間達を、とある屋敷へと招き入れた。
 マーケットの近くに建っている、茶葉商人――シルバー・ファニングスの別宅である。
 家族が住まう場所でなく、こちらはとある事情に特化した建物だ。
 つまり『茶事』と『商談』である。商談といっても普段は大通りに面した商館を使うため、こちらはもっぱら『好事家の楽園』として機能しているという訳だ。『招かれた』なら『気に入られた』と言っていい。
 エルスは深く知る所だが、ここではシルバー当人曰く『先生の真似事』もやっている。
 講義内容は『茶』について。当然ながら、ひどく実践的だ。

「ありがとう、こっちよ。頑固でかなり変わった人だけど、目利きも腕も確かだわ」
「それは楽しみだ。感謝してもしきれないな、ありがとう」
 エルスの応えたのはリューという――名の通り竜人のような姿の――旅人だ。
「気にしないでね。おかげでリリーもおいしそうなお茶が飲めるからっ!」
 リトル・リリー(p3p000955)が大切にする友人の一人である。
「すごい人のお茶が飲めるんだよね、あたしもすっごく楽しみ!」
 ころころと笑うフラン・ヴィラネル(p3p006816)は深緑出身のハーモニアであり、深緑というのもまた、よく茶が飲まれる地域でもある。そっちはもっぱら緑茶が多いが、ともあれシルバーという商人は白茶から黒茶、紅茶から緑茶まで手広く扱うということだ。
「お茶専門の商人は、はじめてよ。なぁご」
「俺もここにお茶の先生が居るっつうのは初耳だが、美味けりゃクラブにってのも悪くねえかもな」
「私は取引先として記憶している。ファニングス氏と直接の面識はないが」
「いずれにせよ、美味を楽しませてもらえるならば歓迎しよう」
 こちらのティエル(p3p004975)、ルカ・ガンビーノ(p3p007268)、ラダ・ジグリ(p3p000271)、恋屍・愛無(p3p007296)は各々ラサに縁が深い四名だが、それぞれの反応は(好意的ながら)異なるものだった。

「ようこそいらっしゃいました、ティーネ様とお友達の皆様。さあこちらへ。旦那様がお待ちです」
 一行に向かって丁寧に腰を折った女性は、屋敷の召使いであろう。
 ゆったりとした豊かな布を纏っており、冷めた砂漠の夜に相応しい情緒を感じさせる。快適だが乾燥しており、薄着なら肌寒く感じる者も居るだろう。
 大理石の回廊を歩けば、色とりどりの花々に囲まれた噴水が見えるが、この先に応接室があるらしい。
 様々な調度品が良く見えるように配置されており――
「なるほど、どれもお茶に関する品物ですね。この素焼きの壺も容器でしょう。湿気を遠ざける」
「おや、こちらはトルコの茶器。ああ、私の故郷にはそういう国があったのですが――似ていますね」
「「お分りに?」」「なられますか?」
 思わず口を揃えたエルスとメイドが振り返った。
「いえ、まあ。それほど詳しい訳でもありませんが」
 目利きのあるリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は、さすが幻想名門の娘だ。新田 寛治(p3p005073)もまた、こういった事に造形深い。
「けど、お茶を飲み比べるって、どういう風にするんだろうね?」
「拙は、ちっとも検討がつきませんが、何度も飲むのですか?」
「小さい茶器に注ぐのでしょうか」
 三者とも予想は出来るのだが、『ラサならでは』なんてあったりするのだろうかとも思ったのだ。
 傾げたハンス・キングスレー(p3p008418)と橋場・ステラ(p3p008617)に、蓮杖 綾姫(p3p008658)が応え、「それはそれとして、双剣使いというのも気になる情報です」と続けた。
「そちらの腕も確かよ。いつかそのうち、そういった話もあるんじゃないかしら」
 エルスが応えた頃、一行を先導していたメイドが立ち止まる。

「よう、来たか。さっさと入りやがれ」
 頭のつるりと禿げ上がった厳めしい老人、シルバー・ファニングスであった。
 一行は案内される通り、豪奢なソファに腰掛けて、ぐるりとローテーブルを囲む。
 ラサらしい、幾何学模様の金細工が美しかった。


 さて本日の命題は幾つかあるが――
 もともとはここに集ったイレギュラーズが、ローレットで雑談していた際に遡る。
 リリーの友人リューは小さなカフェを持っており、紅茶を取り扱いたいという話題になった。
 ちょうどエルスは茶の師がおり、要するに茶葉の仕入れ先を見つける縁に繋がったのだ。
 書を読んだシルバーは実際に飲んでもらって判断するのがいいと返答し、この茶会を設けたのだ。
 シルバーとしても、世界各地を冒険し、旅人(異世界から来た)も居るローレットのイレギュラーズには興味もあるだろう。何せエルスも旅人。異文化を知っているというだけで、中々の(シルバー曰く所の)油断ならない食わせ者なのである。

 着席した一行の前に用意されたのは、美しいガラスの茶器であった。
 先程寛治がトルコ風のティーカップと表現していた代物である。
 中にはもちろん、紅茶が注がれていた。
 なにせ本日の茶会、その趣旨こそが『紅茶』なのだ。
「面倒くせえ話はいいよな。まずは冷たいのを一杯やれよ。暖かいほうが良ければ遠慮無く言え」

 水色は明るい。典型的な低地産の紅茶だ。
 香りが穏やかで渋みが少ない。ともすれば一見『つまらない』とも思えるが、他を邪魔せずベースに適すること、また冷やした際にクリームダウン(にごり)を起こしにくいことでも重宝される。
 砂漠の夜は温かな紅茶や珈琲が好まれるが、最近では氷を使ったアイスティーも楽しまれる。
 この紅茶もカップの背は比較的高く、たっぷりと透明な氷を使い、金色のストローを添えている。それからふちには飾り切りしたオレンジを飾り、薔薇の花びらを浮かべたと来たものだ。
 紅茶自体にも、仄かに糖蜜の甘みと、柑橘の酸味が加えられていた。
 氷は激しい寒暖差を利用し、地下の氷室で作ったものだろう。間違いなく高価である。
(余談だが、このあと上の説明をさせられ――したのはエルスだった)

 とはいえ『水出しアイスティー』とは、高齢の茶人にとっては邪道も邪道そうである。シルバーもそろそろ齢八十程になるだろうが、どうやらかなり『若い』感性らしい。少なくとも、一杯の『映(ば)える』見てくれは、ベランメェ調のいかつい老人とは似つかわしく思えないものだ。
 つまり彼はこの一杯で、己に『好奇心が衰えていないという自負』を見せ、それから『話が分かる人物』であることを示して来たに違いない。ストイックな『なんでもあり』は、極めて貪欲だ。
「……ええ」
 少々面食らったのは、エルスである。普通に"そうじゃなくない普段"て思った。
「んだよ。嬢ちゃんは黙ってろ」(←千五百歳超なんだけど!?)
 どうやらこれがシルバーにとって『師』としての顔ではなく、『商売人』としての――つまり客人をもてなす時のやり方であるらしい。

 この日シルバーが提供するのは、ラサの各地で飲まれるいくらかの『お茶の飲み方』だ。
 このガラスの器で頂くブラックティーや、スパイスやミルクをふんだんに使ったチャイ、それから旅人が伝えたと言われるミルクで煮出し、蜂蜜をいれたものなど多岐にわたる。
 これは飲み方の提案であり、イレギュラーズはお菓子などと共に楽しむのだ。
 イレギュラーズは、好みのお茶を、飲みたいだけ飲めば良い。

 もう一つ提供するものがある。それは『聞茶』だ。
 茶葉の産地は世界各地。この時期ならば広く好まれやすい(故に高品質を目指して作られたものが出回る量も多い)セカンドフラッシュ(夏摘み)が豊富に出回っている。
 紅茶だけでも多数を揃えているシルバーは、ありがたいことに聞茶まで提供してくれるらしい。
 もちろんシルバー自身が吟味した、お勧めのものだ。
 まずは大まかな産地別に好みの傾向を探り、それから品質の良い地域をあたる。
 最後に農園で絞り込み、その中から目利きして購入する。
 あとは(ほとんどがはずれだが)、名もなきあやしい代物。
 これは茶人らしい道楽(しゅみ)だが、砂利から玉を拾うこともないわけではない。
 いくらかの茶葉には、様々なフレーバーを纏わせている。たとえば、ベルガモットの皮であるとか。
 こうして揃えたいくらかの茶を中心に、好みがあれば趣向を変えてもくれるようだ。
 イレギュラーズは好みの茶葉を探せば良い。
 飲ませてもらっても、あるいは飲む前に茶葉の香りをかいでもいい。

 最後は、これはシルバーからのお願いだった。
 もし茶に詳しいイレギュラーズが居るならば、お勧めを教えてほしいと。
 必要に応じて、調理場や材料だって使ってもらって構わない。

 だからこの仕事とは、つまるところ――シルバーを紹介してほしかったリューと、折角だから茶会を開きたくなったシルバーからの依頼という訳だ。

GMコメント

 リプレイか!
 もみじです。お茶会を楽しみましょう。
 紅茶の監修だーれだ?

●目的
 お茶会を楽しむ。
 お茶を飲んだり、茶器を見たり、お菓子を食べたり、おしゃべりしたりしましょう。
 満月の月明かりが注ぐ、少し肌寒い、ラサの明るい静かな夜です。

 人数が沢山いますので、小さな容器でいろいろな種類のお茶を楽しむのがおすすめです。
 気に入ったものは、たっぷり頂いても構いませんけれど。

●出来ること
・いろいろな紅茶を飲む
 シルバーからの提案は『ラサの周辺で好まれるいくらかの紅茶』です。
 ブラックティー:要するにストレート。様々な茶葉を用意してくれます。
 スパイスチャイ:ジンジャーやマサラスパイスなど、風味は色々。
 おさけ:成年はブランデーやリキュールを入れるのも良いでしょう。
 他:あ、このアールグレイは、エルスさんが調香した(させられた)ものらしいですよ!
  (お茶の鉄人が奨めるものの中に入っているのですから、出来は折り紙付きということでは?)

『おやつ』
 各種果物やナッツ類。
 お菓子(バクラヴァ、ロクム、ウムアリ、バスブーサ、マーモウルなど)もあります。

『お食事』
 焼きカレーが提供されます(だいたいオーブンで焼いたカレーライスと思いなされ)。
 これ割と、チャイのスパイスと合うのか。紅茶とカレー、悪くない。

・聞茶してみる
 注意深く挑んでも、気軽に自然体で楽しんでも良いでしょう。

 今年の夏のおすすめは、以下。
  深緑:ノームの里・エルテ=ファウ茶園・スプリングシルバーティップス
     水色は淡い黄金。甘みのある優しく繊細な味わい。是非ストレートで。
  ラサ:サマラ商会(幻想ファーレル家御用達)・フルクオリティグレイテスト
     水色は金輪の映えた濃赤。爽やかなサロメチルと薔薇香。腕の良い茶師によるクオリティシーズンのブレンド。極めてバランスが良い。グリニッシュな味わいはストレートも良し、たっぷりのミルクとも相性抜群。
  ラサ:ファルミラ・キディス茶園・セカンドフラッシュFTGFOP(取り扱い事業者ラルグス・ジグリ)
     水色は冴えたオレンジ。かぐわしいマスカテルフレーバーと心地よい渋み。ストレートまたは少しのミルクで。
  天義:エストレージャ・エンハンブレ茶園・ヴェラーノ(取り扱い事業者ロスフェルド)
     水色は深紅・蘭蜜を思わせる高貴な香りと豊かなコク。是非ストレートで。
  豊穣:月ヶ湍
     現地では緑茶として飲まれているが、あえて紅茶に。水色は温かな橙。素朴で穏やかな味わい。果物などとの相性もよく、アイスティーにも最適。

 他にもお願いすればありそう。

・茶器の見学や使用
 陶器に磁器、ガラス、金属のもの。牛の骨灰を混ぜて焼いたもの(いわゆるボーンチャイナ)。
 特に多いのは、いわゆるトルコ風の、色とりどりのガラスに繊細な金属細工を施した美しい茶器です。
 幻想貴族に好まれるような、美しい模様の茶器も多数あるようです。

・お茶をいれる
 おすすめの飲み方や、お好きな茶葉の紹介などをしてもいいでしょう。
 あるいはお茶の入れ方を教わるなども出来るでしょう。
   ※これは完全に想像なのですが、例えばシルバーはいわゆる英国流(コクを重視)、エルスさんは仏国流(香りを重視)に近いとか、そんな理由で時々対立するのでは?
 折角なので、呈茶される方は、可愛らしいウェイトレス服やメイド服、はたまたラサの煌びやかな衣装なんかを楽しんでみるのも大切なお作法かと。
 お着替えはあちらに。そうですよね、新田さん?

●お楽しみ要素
 あれれ~? どこかで見た固有名詞が多い、ような……。
 旅人の方は『故郷のこれに似ている』とか、傭兵の方は『これ護衛したことあるわ』とか、やってもいいでしょう。
 他にも『このお茶、実家で飲んだことある』とか『甘ロリ系ウェイトレス服を着ようよ』などと、都合良く思い出したり、おしゃべりしてもいいかもしれません。
 きっと話が膨らんだり、相談が楽しくります。

  • 月雫の香り完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月08日 22時05分
  • 参加人数12/12人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 12 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(12人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ティエル(p3p004975)
なぁごなぁご
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ


 ラピスラズリの星屑が散りばめられた夜空に、まあるい満月が浮かんでいる。
 日中の暑さとは裏腹に、ラサの夜は少し肌寒かった。
 袖口から入ってくる冷たい風に手首を擦った『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は目の前のシルバー・ファニングスへと握手を求める。
「こんな風にファニングス氏と面識を持つ機会が巡って来るとは思わなかったな」
 それにこんな場を用意して貰ったのなら楽しむのが礼儀だとラダは眼を細めた。
「私はこの分野は素人なのですが、茶葉は軽量でありながら香辛料などと同様に高い価値を持つ、交易品として非常に有用で重要な品目です。これを機に学ぶことができることに、感謝を」
 ラダの隣に立つ『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)もシルバーと挨拶を交わす。

「おやつ時のお茶会はしたことあるけど、夜のお茶会は初めて! 皆でのんびり過ごすの、楽しみー!」
 明るいオレンジ色の髪を揺らし、『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)が両手を天上に掲げる。折角だからと用意したラサの民族衣装を身に纏い振り向いたフラン。
「こういうのってばいんばいんで健康! って女の人が似合いそうだけど」
 フランはチラリと隣の『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)と『砕けぬ蒼翼』ハンス・キングスレー(p3p008418)の前に躍り出る。
「似合うかな!?」
「……わっ、フランちゃん似合ってる! かわいい~」
「おう、似合ってるぜフラン。うちの店にスカウトしてえぐらいだ」
 二人の賛辞に頬を染めて笑顔を向けるフラン。
「フランさんの衣装もまた素晴らしい。あどけない表情とは裏腹な大胆な衣装。ギャップが良いですね。難点としてはダメ男に引っかかった場合不幸になりそうという点ですが、まあ周りの男衆がダメ男を叩き出してくれるでしょう」
「に、新田さん?」

 衣装部屋は賑わいを見せる。
「私はラサの衣装はいつも着てるし、メイド服着たほうがいいの? みんな着るのにゃ? どっちでもいいにゃー」
「では、着ましょう。ええ。お茶を淹れるのであればそれなりの正装というものがありますからね」
 こてりと首を傾げた『なぁごなぁご』ティエル(p3p004975)に間髪入れず寛治が頷いた。
「お茶を入れる人は衣装を……?」
 寛治の言葉に考え込むのは『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)だ。
 つい先日メイド服を『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)と共に着てひどい目にあったから、それ以外であればと衣装部屋を覗く。どうせならラサの民族衣装を着てみるかと赤い生地を選び取った綾姫。
「……結構恥ずかしいですね!?」
「これは、拙も少し。肌がその……」
 ステラは綾姫と色合いを変え、深い青の生地を身に纏う。
 シースルーの袖と深いスリットが入ったズボン。


『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は寛治のリクエストでメイド服だ。
「今回は紅茶ということでクラシカルなイメージで選ばせて頂きました」
 眉を下げて登場したリースリットに寛治はメガネを上げる。
「はい、世界は救われました。メイドでありながら漂う気品、絶妙な嗜虐心への刺激。世界平和ですね。ディ・モールト」
 寛治はくるりと振り返り、『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)へと歩を進めた。
 クラシカルなメイド服に身を包み、普段とは違った髪色のエルスに目を細める寛治。
「今回は満月だから……こんな格好なのだけれどっ、お茶を淹れるのには問題ないもの、この姿にも慣れておかなくちゃ!」
「エルスさんは本日は『満月モード』らしいですが……本質は変わらないと言うか、無理難題を言いつけて困った顔をさせたくなりますね。いぢめたい」
 寛治の褒め言葉にメイド服のエプロンを掴んで俯くエルス。長命種のエルスといえど直接面と向かって褒められる(?)のは少し照れくさい。

「僕はどうしようかなぁ。何でもいいんだけど、TPOには合わせたいよね」
 ハンスは衣装を眺めながら首を傾げる。
 大きめの布を纏うことにより、身体の繊細さを引き立てるのも捨てがたいですし、布面積が狭い衣装も良いと思うんですが。此処は一つ、背中が大きく開いた衣装などは如何でしょう。無防備な背中の先のチョーカーは至高の存在かと思います。
「……?」


「えへへ、良い紅茶が見つかるといいね、リュー。特にあの『最強のパンケーキ』に合いそうなのがあったら……ねっ?」
 小さな身体でリューの肩に飛び乗った『リトルの皆は友達!』リトル・リリー(p3p000955)はパンケーキの匂いを思いだしていた。
「ところで、どうしたの? リューその格好。……似合ってるよ?」
 暗色のジレとスマートなスラックスに身を包んだリューにリリーは目を細める。
「とりあえずお茶の入れ方とか、教えてもらったりしたのっ?」
 リリーの楽しげな声を聞きながら『名を与えし者』恋屍・愛無(p3p007296)は「茶か」と一言呟いた。
 知り合いのムゥに聞けば色々と茶葉や茶器のことは聞けるだろうが。
「しかして僕は茶の銘柄や茶器の良し悪しなどは、良く解らんな」
 甘くて飲みやすければ何でも良いし、その場の料理に合えば尚更。先ほどのシルバーの説明も右から左に聞き流していた。
「人の貪欲さには、時折驚かされる。だが、僕としても旨い物にありつけるというなら是非も無い」
 愛無の視線が目の前を往くステラと綾姫で止まる。
「このような素敵な場にお誘いいただきありがとうございます。お茶に関しては素人同然ですが、よろしくお願いいたします」
 ぺこりと腰を折った綾姫の隣ではステラが視線を泳がせていた。
「お茶会、と聞いてつい気軽に来てしまいましたが………場違いなヤツでは???
 だって、これ、凄い本格的というか……え、カレーとかあるんですか?」
 くるくるとステラのお腹が鳴る。
「あ、あの。これはその……今日はお昼ご飯が早くて」
「大丈夫よ。カレーは逃げないわ」
 くすりと微笑んだエルスに真っ赤な顔を上げるステラ。
「私は元居た世界では、どうやら緑茶が主なお茶だったので紅茶はあまり」
 綾姫は茶葉を手に取りどれにしようかと決めかねていた。
「……料理や菓子作りも多少は嗜むので、折角の機会なので熟達のお茶好きの皆様に紅茶の淹れ方を教えていただけると嬉しいなぁ、と」
「紅茶は元の世界でも割りと飲んでいましたね、コーヒーよりは紅茶派です……と言っても、ペットボトル飲料とか、ティーバッグの物位ですが。それは置いといて、スパイスチャイとカレーを頂きたいです!」
 勢い良く手を上げたステラはチャイの茶葉を手に取った。
「好きなのですよねチャイ、スパイスの香りとかちょっとクセになる感じで」
「カムイグラの御茶葉まであるのですか? すごいですね、これ程の品揃えとは……」
 リースリットは豊穣の字で書かれた茶葉を手に取った。
「まさに、世界中の特産品の選り取り見取り。流石はラサ、交易と商いで財を成す国の商人ですね」
「それ位はしねぇとな」
 シルバーの言葉に視線を流し、色とりどりの茶器を見つめるリースリット。
 パライバトルマリンの海を閉じ込めたような色と黄金の縁取り。もう一つはリースリットと同じ赤い色をしたものと、全てが華やかで美しい。
「茶器の品揃えも流石です。ファニングス様は茶葉商との事ですが、流石はご自身で造詣深く嗜まれていらっしゃるだけの素晴らしさ。……もしや、茶器の蒐集もなさっていらっしゃる?」
「勿論。そっちは趣味だがなぁ。ははっ!」
「茶器が違えば味も変わるのかな?」
 小さく呟いた言葉にシルバーがカカッと笑う。
「そうだな。素材や形状が違えば、冷め方も違うからな。まあ、それでも美味い事に変わりはねぇさ」
 機嫌が良さそうだとラダは笑みを浮かべた。
 並べられた茶器を手に取ったラダの瞳には、幻想国で作られた華やかなカップが映り込む。
「白磁でありながら硝子のような透明感……これが、骨灰を混ぜて焼成したもの、我々の世界の言葉ではボーンチャイナと言われるものですね」
 寛治の言葉にラダは興味深そうにカップをくるりと回した。
 ラサの茶器に慣れているからか、幻想の草木が描かれたカップは新鮮なのだ。
「こちらの鮮やかな緑色の彩色、これはエナメル系の釉薬でしょうか。王侯貴族に納められる類いの作りですね」
「ところで新田、トルコというのはラサみたいな国か? 異世界の、ニホン以外の話は初めて聞いた気がするな」
「そうですね。異国情緒溢れる国です。日本以外にも国は沢山ありまして……」
 寛治とラダの会話を聞きながらリリーは「ふむ」と頷いた。
「皿といえば、せっかくだし食器も見て行こうかな? もしかしたらリューが気になりそうなものも見つかるかもしれないし」
 リューの肩から見下ろす茶器の数々にリリーは感嘆の声を上げる。
「わぁ! どれも綺麗だねっ。カイトさんに一つ何か買って帰ろうかな……?」
「これはどうでしょう?」
 寛治はリリーに燃えるような赤い色をしたカップを差し出した。


「紅茶ねぇ……なんか貴族の飲み物っつーイメージが強くてあんまり飲んだ事ねえな」
 ルカはこの機会に恵まれたことを嬉しく思った。
「うちの店は基本的に酒類ばっか扱ってるが、客にはアルコールが好きじゃねえってやつもいる。間口を広げる良い機会だな」
「お酒好きな人には紅茶リキュール……アルコールが入った紅茶もあるし」
「紅茶のリキュールなんてのもあるのか。良いなそれ」
 エルスは茶色い瓶を机の上に置いた。蓋を開ければふわりと香る紅茶のフレーバー。
「因みにティーネ領マジア地区の紅茶は……他で例えるならウバの紅茶に近いわね、香りと風味が強いの……まぁ、コクを大事にするシルバーさんとはそんな訳でよく対立するのよ……」
 その様子を大きな瞳で見つめているのはフランだ。
 エルスが紅茶を淹れてくれるのを逃すまいと注視する。
「紅茶は成分の抽出温度が違うから熱湯を使うのよー」
 エルスの隣に立つティエルがフランに笑みを浮かべた。
「緑茶のお湯は熱過ぎちゃだめなんだけど、紅茶は熱湯を使うんだぁ……ふんふん。どうやったら美味しく入れられるんだろう?」
「フルクオリティグレイテストの茶葉をまず水で煮出して、紅茶が出たらミルクと砂糖を加えて混ぜて弱火でぐつぐつにゃ」
「ほえー」
 皆と楽しい茶会に心を躍らせているのはフランだけではない。ティエルも内心とても喜んでいた。
「色んな種類のお茶の葉を用意してくれたシルバーに感謝にゃ」
 とっておきのチャイを作るから待っててほしいとフランにウィンクしてみせる。
「なごなご、紅茶道は広く深い。数多のお茶から自分に合った茶葉とレシピを見つけ、極めるにゃ……」
 チャイを作りながらティエルが尻尾を揺らす。
「砂漠の夜は寒い、カレーみたいな料理もいいけどすぐに温もるにはこれが一番。なぁごなご♪」
 猫であるティエルは寒いのが苦手だ。このとっておきのチャイを皆に飲んで欲しいと振る舞う。
 ラサは砂漠の国。日が高い内は冷たいお茶を木陰で飲み、日が暮れてからは温かいものを嗜む。
「でも「商人として」考えるのなら国の特色に合わせて売り込みをかけるのがいいんじゃないかにゃ?」
 ティエルはシルバーに茶を注ぎながらこてりと首を傾げた。
「ほう。詳しく聞かせてくれ」
「鉄帝なら沢山の闘士向けの冷たく量が作れるお茶とか?」

 シルバーやティエル達の紅茶の淹れ方を観察する綾姫。
「皆さんにも飲んでもらいたいですが、きっとまだまだベテランには遠く及ばないでしょう。普段からここまできっちりは難しいかもしれないので、簡単なコツや淹れ方で美味しくできる! というのがあれば教わりたい次第」
「まあ、他のヤツらが淹れてるの見て、色々自分で試してみるのが一番さな。淹れ方もそうだが、飲んでみないことには分からんだろ?」
「確かにそうですね。今後の参考に聞き茶も試してみます」
「あ、拙も聞茶というのもやりたいです、折角なら色んなお茶を飲んでみたいですし!」
 ステラは綾姫に豊穣のお茶が気になるのだと目を輝かせた。
「領地が豊穣にあるので飲める機会もあるかもしれませんし。もし他にも種類があれば其方も是非っ」
「豊穣のお茶ということは緑茶なのでしょうか? それでしたらお任せください」
 家庭で淹れられる程度の知識ではあるが、長年飲んできた緑茶ならば難なく淹れられると綾姫は微笑む。
「綾姫さん、とても美味しいです!」
「それは良かった。では、代わりにステラさんが紅茶を淹れて頂けますか?」
「拙でよければ……とりあえず普通にいれてみて、後は曲芸みたいなやり方とかもしてみますか?」
「えっ」
 紅茶を淹れるという静かな所作に、大凡想像出来ない単語が飛び出して思わず声を上げる綾姫。
「元の世界、南方の国では砂糖や練乳を入れた甘いミルクティーがありますが、そのいれ方で高い位置から溢して低い位置の器で受ける感じなのです」
「なるほど」

 寛治は一通り試したあと、視線をエストレージャ・エンハンブレ茶園の茶葉へ向ける。
「取り扱いはロスフェルド氏ですか。あの御老公も、中々に手広い。それにしてもエストレージャ、どこかで聞いた家名ですが……」
 ラダはリースリットに視線を上げた。
「それでは、折角良く知っている茶葉がありましたので……此方をどうぞ。ファーレル伯爵家でラサより取り寄せ愛用させていただいている御茶です。特に、お父様がお好きでして」
「おばさんとこのは……あれファーレル家ってリースリットの家? 付き合いがあったんだな。知らなかったよ」
 お勧めされた茶葉の味を最大限に引き出す事は難しいけれどとリースリットは緊張した面持ちでポットを持ち上げる。
「この茶葉なら、程度は兎も角として勝手知ったるとは言えるものですから、丁度良いでしょう」
 学生時代にも友人に振る舞い、父にも美味しく淹れられているとお墨付きを貰っている。
 茶器は使い慣れた青い意匠が描かれたものを選んだ。
「えっと、まずはストレートで飲んで頂ければ」
「茶を淹れてもらうばかりで申し訳ないが、手際よく動く姿は良いものだな」
 カップに注がれた赤茶色を口に含んだラダは味わうように香りを楽しんだ。
「これいいな。香りが良くてストレートで飲めるやつは好きだ。甘い茶菓子との相性もいいし、仕事の休憩時間に良さそうだ」
「このお茶なんか高級そう! リースリット先輩の家でよく飲む、は納得だね」
 ラダとフランの言葉に少し照れたように笑うリースリット。
「普段やらないけれど美味しいならミルクに挑戦してみようか」
 メイド服姿のリースリットが注ぐ紅茶。流れにそってミルクがゆっくりと広がっていく。
 一息吐いたリースリットはステラが淹れてくれたお茶を舌に滑らせた。
 馴染みの無い茶葉も沢山ある。色々なものを試してみたいとリースリットは赤い瞳を細めた。

「こういうのって基本的に、大きなお鍋で目いっぱい作った方が美味しくはなるんだよね。飲み切れる範囲で、だけど。……っと、沸騰したら熱するのを止めて茶葉を」
 ハンスがお茶を淹れてくれるのをルカは真剣な表情で眺めていた。自分のクラブで出す為に一人でも淹れられるようにメモをとっているのだ。
「蓋をして、蒸らす時間は専門家を頼るのが一番楽で正確だ。ね、先生? 後は放っておいて、粗熱が取れたら移し替え、冷やしておけばそれなりに、の筈です!」
 ハンスは故郷の『悪食女』を思い出していた。グルメ気取りの彼女に強請られて紅茶の淹れ方は少しだけ身についているのだ。
「あくまで教養、嗜む程度の腕なんですけど」
「俺はどういうのが良いかわからねえからよ。お前さんの趣味で選んで貰っていいぜ。ちゃんと礼はするからな。心配すんな」
 甘やかな香りのする紅茶をカップに注ぐハンス。
「えっと。どーですか、ルカ先輩。……お口に合えば、嬉しいんだけどな」
 そこそこの拘りであるならば、手間も掛からないしバーでも提供できるだろう。
「ラサの流通を考えれば、何ならティーバッグでも充分美味しい筈です。そもそも紅茶リキュールなんて代物もありますから、お酒と割ってカクテルにでもしても一風変わって楽しめるかと!」
「なるほど、酒を混ぜて飲むなんてやり方もあるのか……。こりゃ到底覚えきれねえな。またちょいちょい教えてくれよなハンス」
 手を差し出すルカにハンスは青い瞳を丸くする。
「ふふっ、お役に立てたなら光栄ってやつですよ」
 誇らしげに手を取ったハンスは、ルカがこんなにも真剣に運営するクラブ・ガンビーノに思い馳せる。
 きっとそこはとても居心地の良い場所なのだろう。
 ルカの美味しそうな表情に。沢山練習をしておいて良かったとハンスは胸を撫で下ろした。

「これは良く飲むからわかるよー! ほんの一滴だけ花の蜂蜜を入れるのがおすすめ!」
 フランがノームの里の茶葉を掲げ満面の笑みを浮かべる。
「へぇ。初耳だ。うん、これも好きな味わいだ。フランは他の深緑の茶を飲んだことあるかい? 風味が近いなら好みのが多そうだし、今後チェックしてみようかな」
「地元に居た時は紅茶は結構貴重品だったから、召喚されて紅茶が手軽に飲めるようになってすっかりハマっちゃったんだぁ」
 フランはラダにオススメの茶葉を教える。
「私はこれが好みですね。えっと、ラサのファルミラ・キディス茶園? のものでしょうか」
 綾姫は香りの良い落ち着く茶葉を選んだ。
「えっ、これ普段は緑茶なんですか?」
 こんなに軽やかな香りの緑茶があるのかと目を丸くする。
「このアイスティーは美味しそうだな。カレーと一緒に飲むなら、これくらいが合いそうな気がする」
 愛無がカップを傾け、ルカが身を乗り出す。
「それはそうとカレーがあるのは嬉しいな! 俺ぁカレーは好物でな。そうだ。カレーと合う飲み物ってのはどれだ? おすすめが知りてえな」
「カレー好きな人には茶葉に香辛料を加えたチャイなんかもいいわよ」
 ルカの問いかけにエルスが答える。
「チャイってのか。どんなだ?」
「これにゃ~」
 丁度チャイを持っていたティエルがルカのカップに注ぐ。甘い香りとスパイスが鼻腔を擽った。
「なるほど、こりゃ美味ぇな!」
 快活な笑顔を見せるルカにティエルとエルスが顔を綻ばせる。
 紅茶の味を知ってもらうのは嬉しいものだ。
「甘味と酸味のバランスもよさそうだ。どうにも紅茶は甘味を混ぜないと飲みにくい」
「勿論一般的なミルクティーもホッとするでしょうし。ブラックティーだって色んな食材と合うし、レモンティーも爽やかな味わいよ」
 シュガーポットをエルスから差し出され受け取る愛無。白と茶の砂糖があるようだ。
「そうだな。種類があるならば甘味を加えて飲みやすい物があれば、お勧めを試してみたいな。ミルクと蜂蜜が入ったのとかも好きだぞ」
 どうやら愛無の指先は『ハニーミルク』の味がするらしいから。照れた顔を思い出して少し唇が緩む。
「ついでに、カレーも甘めでお願いする。いや、少しなら辛くても良いが」
 あとは、お土産の茶葉を選びたい。
 これから練達は暑くなっていくのだろう。
「ラサとは違って湿気も多いから、爽やかで飲みやすいものがいい」
「じゃあ、レモンの香りがする茶葉とかはどう?」
 愛無の前に茶葉を差し出すエルス。蓋を開ければ爽やかなレモンの香りが広がった。
「これなら子供でも飲みやすそうだ」
「子供?」
「そう、可愛い可愛いお子様の為にね。荒事ばかりではないラサの魅力を知ってもらう良い機会になるかもしらぬ」
 普段は緑茶が多いのだろう。あの家のリビングに広がる香りを思い浮かべながら、愛無はその茶葉をお土産に選ぶ。
「茶葉の紹介ではないのですが、工芸茶なんてあるでしょうか?」
「工芸茶?」
 ステラの問いかけに愛無が首を傾げる。
「茶葉で食用の花等を包んで形を整えて縛ったりした物で、お湯を注ぐとゆっくり花がほころんだり、お湯の中で花が舞ったり漂ったりと。普通は白茶が主ですが紅茶で作った物もあった筈ですし……」
「成程ね」
「入れる花で色々効能もありますし、見た目も楽しめて贈り物等にも喜ばれるかな、と」
「それは子供が喜びそうだ」
 見た目が華やかなら、贈り物に丁度良いと愛無はステラに礼をする

「じゃあ俺も、折角だから同居人の為に茶器と茶っぱ買っていくか」
 愛無が選んだ茶葉も良さそうだと、ルカはいくつかの茶葉と茶器を手に取った。
「とりあえず今日教わった事はメモに取って置いて地道に練習だな」
 自分一人でも淹れられるようにしておこう。紅茶は奥が深くきっと覚えていられないだろうから。
「あ、そうだシルバー。ちょっと頼みがあるんだがうちの店……クラブ・ガンビーノでも茶を扱ってみたいからよ。講師とか頼めねえか?」
「講師だぁ?」
「俺一人でカバーするのは無理があるからな。勿論相応以上の報酬は出すから頼むぜ。もちろん茶葉もアンタのところから優先的に買うからよ」
「まあ、気が向いたらなぁ。お前さんの練習時間も必要だろうしな」
「おう。そんときはよろしくな!」

「リリーはまあ……飲む側だねっ。淹れるのはさすがに無理だよっ……リューとか皆に任せるね」
 小さなリリー用のカップに注がれた紅茶。まずはそのままで。
「そのあとはスパイスチャイ! ……ん、聞茶? なにそれっ、やったことないや」
 少しやってみようかと数種類の紅茶を覗き込むリリー。
「へー、結構色んな所からお茶が集まってるんだねっ。すごいや」
 一口飲んでどの茶葉かを見比べるけれど。
「……えーと、これは……これ、かなっ? ……違う? うーん、難しい」
 うんうんと唸っている間にカレーの良い匂いが厨房から漂ってくるのをリリーは逃さなかった。
「……って、料理も出るんだ、ならせっかくだから貰おっかな? ……小っちゃい取り皿があるなら、その中に少しでいいからねっ!」
「分かったわかった」
 リューに連れられてリリーはカレーの匂いがする方へ。
「私も紅茶の味が混ざらないように、途中でおやつもカレーも食べてリセット! こ、これはお腹空いたなーってわけじゃなく聞茶の為だよ!?」
 色々な国の特色があって、まだまだ知らないことだらけだとフランは少し胸の奥が切なくなる。
「こうやってお友達を通じて、色々知れて嬉しいなぁ!」
 楽しさが溢れるとき、少しだけ涙が浮かぶのは幸せを感じているからなのだろうか。


「私には忘れられない紅茶があるのよ」
「へぇ……」
 シルバーは普段とは違う赤い髪のエルスを見遣る。
 元の世界でも混沌でも再現出来なかったことがエルスを紅茶の道に進ませた原因。
「……私の世界にはどうしても再現出来ない紅茶があったの。使用人が淹れてくれていたのだけれど。段々私の部屋に誰も来なくなって。それから私は紅茶を研究するようになったのよね。あの世界でも、その味には辿り着けなかったのだけれど……あれは、どんなものを入れていたのかしら……?」
「さあなあ。それはお前さんが見つけなきゃならねぇもんじゃねえか。お前さんしか分からない味なんだからな。それを見つけるのもまた、紅茶の道さな」
 果て無き道。その紅茶を見つける事が出来るのかは分からないけど。
 追いかけ続ければいつかは必ず――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 月香るひとときを楽しんで頂けましたら幸いです。

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