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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>終末の翼スルトリヤデ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●終末の翼
 ずしん。ずしん。
 黒い巨体が、ウィーグリーズの丘を目指す。
 その体は黒い羽毛に包まれ、その黒い嘴……たぶん嘴(?)は、かなり直線的に山を描き、その黒い瞳もやはり直線的である。
 何というか、かなりあっさりとしていてーーまるで、現在に再び目覚めた神翼獣ハイペリオンを彷彿とさせるフォルムであった。かなりでっかいが。
『ユウシャ……カエレ……』
 しかし、かの神翼獣のようにご機嫌になることはなく。歌うこともなく。
 怒り……たぶん怒り(?)の表情を貼り付けたままの巨鳥は、手勢を引き連れてずしんずしんと戦場を目指していた。
『ユウシャ、カエレ。カエレーッ!』
 愛らしさすら感じるその口を開けば、その容姿からは想像もつかない地獄の炎を振り撒く。
 あっさりと森が焼けた。森の近くの湖は干上がった。
 土すら焼けて、運悪く近くにあった家は住人ごと跡形も無くなった。

 『終末の翼』スルトリヤデ。
 ウィーグリーズでの決戦のため、幻想貴族ミーミルンド家が『神翼庭園ウィツィロ』から解き放った古代獣。その怪王種である。

●打倒スルトリヤデ
「トリヤデさんなの!?」
「トリヤデさんですが、トリヤデさんではないと思いますよ?」
「トリヤデさんなのに?」
「トリヤデさんでもです」
 ウィーグリーズの丘近くの天幕にて。
 『終末の翼』と呼ばれる怪王種の被害と対応を求められ、真っ先に反応したのは『トリヤデさんと一緒』ミスト(p3p007442)であった。
 名前にもトリヤデって入ってるし。見た目もほぼジャイアントトリヤデさんであるし。トリヤデさんはスルトリヤデさんのようなひどいことはしないが。
「トリヤデ、とは?」
 同じく『終末の翼』の対応を求められここにいる『暗黒竜王』ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)。彼は元魔王という出自ではあるが、争いを好まない魔王である。とはいえ、求められれば仕方が無いと参じたのであるが。
 トリヤデとはなにか。
「……多分鳥? トリヤデって言ってるし」
「『終末の翼』は、確かに喋るらしいーー」
「はいこれ、トリヤデさんのぬいぐるみあげるね! これでおともだち!」
 突如布教されるトリヤデ。結局トリヤデとは何なのか、その姿以外はやはりわからないのであるが。
「この度、皆様にお相手頂くのは『終末の翼』スルトリヤデ。神翼獣ハイペリオンを黒く反転させたような見た目ですが、その力は侮れません」
 『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)が、簡潔にその容姿と実力を伝える。ちなみに冒頭でミストとトリヤデ議論をしていたのも彼である。
「歩くだけで周囲を破壊し、息をするだけで侵し、蹂躙するような古代獣です。その上、怪王種でもあるとか。見た目はまあ、愛らしいと言えば愛らしいのですが……」
 ユウシャカエレ、ユウシャカエレと、人間への憎しみを繰り返しながらこの丘へ近付いているという。一大決戦が行われる場所ヘそのような怪王種が到着してしまえば、甚大な被害は免れない。
「……口がきけるんだろう。話は……できるのか」
「説得してお帰り頂くのは……止めは致しませんよ。ええ、それが貴方のアイでしたらご随意に」
 チャンドラはそう言って微笑むが、相手は無条件に人間への憎しみを募らせた古代獣である。説得はまず難しいだろう。問うたルツ自身も、薄々は感じていた。
「スルトリヤデは多くのモンスターや動物達を道中で手勢に加えたようです。ですが、そちらは幻想の騎士団で受け持って頂けるとの事ですので。
 我(わたし)達は、ただスルトリヤデの打倒を」
 ただし、時間はかけられない。騎士団の兵士達が押し止められている内に、できれば彼らに被害が出ない内に。

 スルトリヤデを、討て。

GMコメント

旭吉です。お久し振りのシナリオは全体HARDです。
ひとまずレベル15超えてれば一撃死は無いです!
なんか……そんな戦場があってもいいなって……思……

●目標
 『終末の翼』スルトリヤデの討伐

●状況
 幻想のヴィーグリーズの丘。その一角にある森。
 『神翼庭園ウィツィロ』からの道中で出会った動物やモンスター達を反転させながら、『終末の翼』スルトリヤデがやってきます。
 他の戦場に到着させると壊滅的な被害は避けられませんので倒しましょう。
 
●敵情報
 『終末の翼』スルトリヤデ
  神翼獣ハイペリオンを不機嫌な顔にして黒くして巨大化(全長5mほど)した姿の、鳥っぽい古代獣の怪王種。
  姿は似ているが血縁とかではない。
  カタコトの人語を話すが、難しい言葉はわからない。

  ステータスとしては、反応が極めて低い分他が総じて高め。
  攻撃順は基本的にターン最後です。
  基本的に歩いて踏み潰し、ジャンプして踏み潰し、地団駄を踏んで範囲踏み潰し(いずれも【失血】付)
  時々『終末の翼』を広げたかっこいいポーズをすることで、それを見た対象(無差別)に【重圧】【魅了】を付与します。
  最大の火力は口からの範囲遠距離『終末の炎』(【炎獄】【必殺】)

 取り巻きモンスター達
  スルトリヤデが森までの道中で反転させた動物やモンスター達。
  基本的には兵士達が相手をしてくれますが、スルトリヤデの討伐に手間取ると兵士達が劣勢になり、イレギュラーズの戦いに加勢します。
  スルトリヤデが討伐されると一気に士気を失うため、三々五々に散っていくでしょう。

●NPC
 チャンドラ
  戦力的には回復(単体・範囲)とも可能。
  特に言及が無ければ描写はありません。
  (防御は紙なので壁には向きません)

 騎士団、領土の兵士達
  取り巻きのモンスター達を何とか引き留めてくれます。
  (リプレイ冒頭で、ミストさんとルツさんの領土からも援軍が駆けつけてくれます)
  士気を上げることができればより長時間持ち堪えてくれるでしょう。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ヴィーグリーズ会戦>終末の翼スルトリヤデLv:15以上完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年07月07日 22時08分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)
暗黒竜王
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ミスト(p3p007442)
トリヤデさんと一緒
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

リプレイ

●可愛いけど依頼である
 ずしん。ずしん。
 地響きがそこまで近付いているのがわかる。それに伴って聞こえてくるのは、暴風が唸るような怨嗟の声。
『ユウシャ……カエレ……』
 手勢を引き連れ、ついに姿を現した『終末の翼』スルトリヤデ。その対決の時が近付いていた。

「コャー……なんと、スルトリヤデ……」
「トリヤd……スルトリヤデ? ナンデ?」
 巨体を見上げながら『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)はただ驚き、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はただ困惑する。『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)との久しい再会に言葉を交わしていたらこれだ。
「実は私、トリヤデって初めて見るんだけど、結構かわいいわね……近くで見ると不機嫌面も……」
「こう、色はともかく倒すのは躊躇われる見た目ですね」
 『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)や『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)もまじまじと。白い方とセットでグッズ展開も十分ありではないか――などと考えてしまうのはファンドマネージャの性か。
 しかし、悲しいかなこれは討伐依頼である。その見た目は他のイレギュラーズ達からも概ね好印象を得ていたとは言え、誰も彼もが魅了されていた訳ではない。『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)などは、視線を逸らすことなく真剣に見つめて――。
(可愛い……可愛い……)
 強敵を前に引き締められた美しい顔の下ではしかし、例に漏れずそんな状態であった。
『ユウシャ……カエレ……』
(悲しい……)
 可愛いものに拒絶されるのはとても悲しい『勇者』でもあった。
(第一……猫まで反転させてるじゃないかばか――――!!)
 スルトリヤデの取り巻きの中に目聡く見つけたのは、かの巨鳥によって反転させられ大型化したり、凶暴化してしまった猫達。可愛いものを討伐するのは心が痛むし、そんなものがよりによって猫を反転させるのも、反転させられた猫と兵士達が戦うのも心が痛む。ねこ辛い。泣きそう。ねこ。
「ちがうのー! トリヤデさんあんなのじゃないのー!」
「え、違うの?」
 そんなヨゾラの内心での葛藤を他所に、『トリヤデさんと一緒』ミスト(p3p007442)がスルトリヤデを全否定する。思わず聞き返したイーリンはもちろん、今しがたトリヤデを布教された『暗黒竜王』ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)にとってもそこまで違いがあるようには見えなかった。確かに色とか表情とか、纏うオーラが違うというのはわかる気もするが。
「トリヤデさんあんなに禍々しくないもん! 僕のトリヤデの森だってできたばっかりなのに、あんな偽物みたいなのが現れるなんて……!! しかもトリヤデさんよりおっきいし目立つ! トリヤデさんが悪者だって勘違いされたらどうするのばかぁぁ――――っ!?!?」
 憤りは留まる所を知らず。
 トリヤデの森とはミストの領地である。ミストの愛するトリヤデさんに満ちた森だ。あんな悪目立ちするものが人々の印象に残ってしまっては、意図せず似てしまっているトリヤデさんにいい迷惑である。ちなみに神翼獣ハイペリオンもトリヤデさんに似てはいるが、こっちはいい鳥さんなのでミストはむしろ崇めている。
『カエレー!!』
 そうこうしている内に、スルトリヤデのシンプルな嘴(?)がカッと開いてどこかの一帯を焼き尽くした。見た目の愛らしさに反して、その威力は『火の鳥』と称しても差し支えないものだ。
「……炎の鳥とだけ聞けば、元の世界でのポエニークスの親戚みたいにも思えるけれど……そんな生易しいものでもないわよね、これ」
 『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)がいた世界で、ポエニークスとは再生と復活を司る神聖な象徴であった。そのようなものと敵対するなど、本来であればとんでもないことではあるが――あれは明確に非なるもの。不死を持たぬ鳥であったことは、彼女の信仰にとって幸いだったのだろう。
「ともあれ、相容れがたい存在であるのは確かだし、倒すしかないわね?」
「特異運命座標として呼ばれた限り、その責務を全うせねば」
 思うところはあれど、向けるべきは刃。
 ルチアの言葉に異を唱える理由も無く、ルツが頷く。

 ――軍勢が、来る。

●終末の翼を封殺せよ
「こちらはお任せ下さい!」
「総員、構え! 今こそ我等王国騎士の名の下に!」
 取り巻きの軍勢が幻想勢力を敵と見なし一斉に襲いかかってくるのを、王国の騎士団達が正面から迎え撃つ。精鋭の騎士達は、今のところ意気も十分で反転勢力と互角に渡り合えている。
 そんな彼らでも適わない敵は、イレギュラーズが討てば良い。
「帰れと言われても、帰るわけにはいかないわ。私も望むものがあるから」
 漆黒の愛馬『ラムレイ』に跨がり、見果てぬ先を指す旗印を掲げるイーリン。駆け抜ける先に知るべき『未知』がある限り、紫苑の騎戦乙女は引き返さない。
「求めるならば、奪うまで。――神が、それを望まれるのだから!」
 あらゆる戦場で得た叡智と共に、巨鳥へ向けて駆け出した彼女はその脇を駆け抜け、背後へ回り込む。振り返ろうとするスルトリヤデへ旗印の穂先を向けると、その先端から発せられた衝撃が動きを妨げた。
 イーリンが同時に発した黒いキューブは弾かれてしまったが、その間に反対方向からアーマデルが攻め立てる。
(……ハイペリオン殿やGペリ殿を思い出して微妙にやりにくい顔なんだが……)
 ちなみにGペリとはゲーミング量産型ハイペリオンである。発光してしまった量産型だ。どうして。それはさておき。
 巨体の例に漏れず、足元は随分と無防備のようであった。この頑丈そうな足にいくらか攻撃を受けた所で、大きなスルトリヤデにとっては些細な事なのかも知れないが――それはアーマデルにとっても同じ事であった。
 彼はただ、『当てればいい』のだ。
 響かせる『逡巡』の残響。どこまでも無常に、規則正しく刻まれる刻の音は、永く生きてきた古代獣であるスルトリヤデの胸中をも撃つものであったのか。
『ウゥ……カエレ、カエレ! カ・エ・レー!』
 首を振り、じたばたと暴れ、幼子のように嫌がる巨鳥。スルトリヤデでなければ素直に可愛かったかも知れない。
「……ちょ、ちょっと可愛い顔しててもだめなんだからね!! もう!!」
 ぐらつきかけた心を持ち直すと、ミストは手にした秘剣を振り回す。悪いトリヤデさんを許さん気持ちをありったけ込めたH・ブランディッシュは、スルトリヤデの膝(?)から赤い血を迸らせた。
『イ・タ・イ!! カ・エ・レ!!』
(ごめんね……でも反転は好きになれないし……君を倒すまでは、帰れないから……)
 痛そうだなぁという気持ちは決して表には出さず、ヨゾラはミスト達の攻撃の間にルツと共にイーリンの近くへ駆け付けた。今は回復の必要は無さそうだ。
「怒っている……のだろうな」
 スルトリヤデを見上げながら、ルツが呟く。そのことは認めながらも、ヨゾラは背に光の翼を顕した。
「あのサイズで、怒りに任せて大暴れなんてされたくないからね。何としても止めるよ」
 この巨大な暴力が、兵士達へ向かうことの無いように。
 ヨゾラが光の羽根を刃の雨となして放ち、ルツは間近からショットガンブロウの拳を鋭く撃ち込む。
『カァ――――ッ!!』
 シンプルな瞳が赤く光ったかと思うと、スルトリヤデはそれらの攻撃を大きな翼で弾き飛ばしてしまう。二人の攻撃は決して軽いものでは無かったはずだ。それを。
「巨体に見合った耐久力はあるということね……持久戦の備えはあるけど、騎士達のことを考えると」
 できれば、彼らの戦いでも犠牲が出ない内に。そう考えたルチアの判断は早かった。
「新田さん、こっちはお願いするわ」
「承りました」
 プロトコル・ハデス――敵が攻撃する前に、可能な限り味方の手数を増やし『行動を完全に封じる』可能性を上げる術を、まず寛治へ。続いて胡桃へと施した。
「そなたに動かれてしまうと、大損害が出てしまうの」
 先に術式を起動したのは胡桃。身に纏う蒼い狐火は、火花を散らしながら蒼い雷へと変化した。
「終末の翼スルトリヤデ、わたしとそなた。お互いがお互いの天敵であるのならば」
 稲妻が奔り、スルトリヤデの周囲を駆ける。かの巨鳥をその周囲の空気ごと嵐の如くかき混ぜて、乱してしまおうというのだ。
「これは、比喩抜きで小規模な嵐ですね……」
 眼鏡の奥で一度は驚嘆しつつも、動じることなく長傘を構える寛治。その構え方は明らかに傘としてのものでは無く、杖としての打撃でもない。
「ですが、外しませんよ」
 寛治のもう一つの顔。『死神の狙撃』だ。
『ギャーッ!!』
 およそ鳥らしくない悲鳴をあげて、雷と魔弾を受けたスルトリヤデがのたうち回る。巨体は地に沈んで暴れるばかりで、反撃もできないようだ。
 封殺はここに成ったのだ。

●頼もしき勇者達へ
 封殺は成った。しかし、それも僅かな間のこと。すぐに起き上がったスルトリヤデが、怒りの視線でイレギュラーズを見下ろしてくる。
「コャー……でも、今ならほとんど邪魔できる、はずなの」
 ルチアの背後から巨鳥を見上げる胡桃。イーリンの足止めに始まったスルトリヤデの行動阻害は、今となっては胡桃の雷を中心に幾重にも抵抗力を下げていたのだ。
『タ・ス・ケ・ロー!!』
 地団駄を踏んでスルトリヤデが助けを求めると、騎士団の戦いに変化が起こった。
「引き留めろ! 絶対に向こうへ行かせるな!!」
 取り巻き達が、スルトリヤデの求めに応じて加勢に向かおうとしているのだ。騎士団も耐えてくれているが、一人、二人、押し切られる者が出始める。
「司書さん、こちらは大丈夫だよ」
 ヨゾラの女神の口付けがイーリンに祝福をもたらすと、イーリンは迷わずラムレイの手綱を引いて騎士団の戦場へと駆けてゆく。その影が向かう方向から、こちらへ新たに向かってくる勢力があった。
 旗印は二つ。ひとつはルツの領地のもの。もうひとつは――見紛う事なき『トリヤデさん』。ミストの『トリヤデの森』からだ。
 イーリンが抜けている今、前衛であるルツとミストはこの持ち場を離れにくい。しかし、領民の彼らには万全の状態で戦って貰いたい。
「……騎士団は、イーリン殿の士気なら安心だし。領地の兵は、やはり自分の領主から直接指示を貰えた方が嬉しいんじゃないか?」
「少しくらいなら私達で持ち堪えますから」
 アーマデルと、寛治が傘(銃)をついて送り出す。
 ミストはすぐ戻るからと駆け出し、ルツはやや逡巡しながらも後を追うのだった。

「みんなー!! トリヤデさんが悪い子じゃないって証明するためにも、絶対勝とうねっ
 トリヤデの森に住む皆の、トリヤデさんへの愛を見せる時だよ☆」
 ミストが領民の援軍に呼びかけると、異様なほどに盛り上がった。ミストの領民なのだから当然皆トリヤデさん愛に満ちている。旗印がトリヤデなくらいには。
「トリヤデさんもがんばヤデって応援してくれるからね! それーっ!」
 両手を広げてジャンプすれば、綿雪のように優しく降り注いでくる。
 ――ミストのギフトで生まれた、たくさんの小さなトリヤデさん達が。
 その顔は確かに『(-╹V╹)』こんな感じであった。
 一方、ルツの領民達は領主の言葉を待っていた。自分もミストくらいに領民を盛り上げられる弁があればいいのだろうが、元々表情にも口にも出にくい性格な上、ここでは以前ほどのカリスマもない。
「私は……知っての通り、表情が固くてな……口数も少ない。だからまぁ、うまくお前達に伝えられていない自覚は……ある」
 それでも、言葉を選びながら丁寧に伝える。
「だが……これだけでも聞いて欲しい。
 生きて、領地へ帰るぞ。……私が望むのはこれだけだ」
 強面で、物静かな領主が戦場で求めるものが、勝利ではなく生還。
 一部の領民が思わず聞き返してしまったほど、ルツは謙虚だった。
「贅沢を言えば、怖がらず頼って欲しいとは思うが……この顔だ、それも致し方ないだろう。だから……せめて生きて帰るように」
 あくまで静かな、最低限の要求。しかしそれが逆に火を付けたのか、ぽつりぽつりと領民達が声をあげる。
 もっと話して欲しい。領主様の声が聞きたい。領主様も頼って欲しい。
 そのような声を聞けば、望まずに得た領民とは言え頼もしくもなる。
「これもまた大きな戦いなのだからな、気張ろう。まだまだ至らない領主だが、皆の力を貸してくれ」
 ルツが控えめに声を掛けると、領民達は大いに鬨の声を上げた。

 士気の上がった援軍を得た騎士団。
 しかし、スルトリヤデの救援へ向かおうとする取り巻き達も負けてはいない。
 そんな中、転がされてしまった騎士の一人をイーリンが救出した。
「おはぎ食べる? おいしいから元気出るわよ」
 ウインクと共に茶目っ気たっぷりにおはぎを渡す彼女の姿は、完全に『余裕』であった。敗北が見えた者の諦観ではなく、勝利を確信している者のそれだ。
 おはぎを渡したイーリンは、再び馬上の人となる。
「貴君らに私の戦績を誇りはしない。ただ助力を願うわ!」
 彼女が振るう旗印は、乱戦にあってもよく目立つ。それは、騎士達にとっても希望の徴となっただろう。
 しかし、それとは別に体力の限界が近付きつつあるのも事実であった。あとどれほどもつだろうかと、騎士の誰もが考えている。
「こんなこと、何回もできないだろって思った? ええ、私もそう思うわ。だからこそ、ラクさせて頂戴?」
 強いことだけが、崇められることだけが。伝説に残ることだけが勇者なのではない。
 勇者とは、心持ちひとつで示されるもの――イーリンは騎士達と共に戦いながら、行動でそれを諭し続けた。

●終末の終焉
 兵士達の士気回復を見届けたイレギュラーズ達が戦線に復帰する。意気も火力も、阻害も回復も、十全の采配で終末の翼を追い詰めていく。
 スルトリヤデの行動を封じてしまうことで一方的に攻め続け、無尽蔵にも思えた体力も寛治の狙撃を中心とした高い火力が抉り取ってゆく。
 何より、早い段階でその抵抗力をほぼ無力化してしまったことが大きい。皆でスルトリヤデの行動を防ぐためにかけ続けた不調状態が、呪殺により大きな力となり始めたのだ。
『ユウシャ……ユウシャアアアアアアア!!!』
 傷付いた両翼を大きく広げてスルトリヤデが胸を張る姿は、恐らくとてもかっこいい。かっこいいのだろうがしかし。
「ここまで来て、今更魅了はされないわ。『勝てるとわかってるから』こちらに戻ってきたのだもの」
「……すまんな、うちのGペリ殿の方がずっと可愛い。正直言ってもふもふが」
 イーリンはギフトによって確かな勝利を『知って』いる。アーマデルはもっと別のものに魅了されていたようだ。
 これがとどめの攻撃と狙いを定めると、イレギュラーズ達は残る全力を注ぎ込んだ。
 剣と化したイーリンの魔力は、カリブルヌスとなり紫を残す。
 そこに一閃煌めくは、アーマデルの呪殺の蛇銃剣アルファルド。
 ヘイトレッド・トランブルは思い知らせるかのようなミストの剣先。
「ヨゾラさん、お願いできますか。どうにも燃費が悪いものでしてね」
「元よりそのつもりだよ。この戦いを終わらせるために!」
「ご期待には仕事で応えますよ」
 ヨゾラの女神の口付けは、攻撃の一端を担ってきた寛治へ。
「これ以上領民を巻き込むわけにはいかない……領主としての責務、果たさせてもらう」
 かつての片鱗を思わせる竜爪を突き立てたのはルツ。
 それを引き切ると、ルチアが胡桃を巻き込んでクェーサーアナライズを。
 これが最後になればいいと信じて。
『ウゥ……シュウマツノ……ツバサ……』
「終末の翼。終末の炎というのなら、それすら燃やし尽くしてみせるのがわたしの炎なの」
 炎を雷となす胡桃。その雷が、嵐となってスルトリヤデに降り注ぐ。
 そして。
『ク・ル・ナ……カ・エ・レ……!!』
「仕事を残して帰るわけには参りませんから」
 それは、仕事をこなす者として当然のこと。一弾一殺――寛治のデッドエンドワンが、威嚇するスルトリヤデを貫く。

 羽根を散らしながら、黒い巨体が地に沈む。
 地響きと共に巨鳥が倒れると、騎士達と戦っていた取り巻き達はたちまちの内に逃げていく。
 スルトリヤデを、撃破したのだ。

●会戦の丘に日は落ちて
「みんなお疲れさまー!!」
 スルトリヤデの討伐完了後。
 トリヤデの領民への労いに、ミストはそれまで召喚していた小さなマスコットのトリヤデさんに代わり大きなトリヤデさん一羽を呼びだした。そのふわふわともふもふは彼らの大いなる癒しとなったようだ。おつかれヤデ。
「もうトリヤデさんに似た子とはあんまり戦いたくないなあ……みんな仲良くなればいいのにねー? ハイペリオン様みたいに!」
「あの生き物を倒さなくてはならないのは……心苦しかったな……」
 戦いを振り返って想うルツ。二人の様子を見て、やはりぬいぐるみの需要はあるのでは? などと商機を窺う寛治である。
「残敵の全ては追い切れなかったけど……第二第三のスルトリヤデが来たりしないかしら」
「統率していた個体がいなくなったとは言え、反転済み……なのだよな?」
 一方、逃げ去った残党について懸念が残ったルチアとアーマデル。
 戦場に死骸が残った取り巻きについては、エネミースキャンで完全な死を確認している。しかし、その他については逃亡した方角も、状態も不明だ。
 今から全てを追うには、流石に自分達にも余裕が無い。
「怪王種ということは、本来の有様からして人類の敵ではなかった、のだろう」
「イミルの民に愛された、善良なトリヤデさんだったのかな……」
「しかし、古代獣は人を憎むものですから。実際はどうだったのでしょうね」
 チャンドラが答えを濁す中。せめて死した魂には安寧あれと、ルチアとヨゾラが倒した動物達の簡素な墓を作っていた。もちろんそこには、スルトリヤデの墓も。
 それらの墓標の中に人間のものが無かったのは、ひとえにイレギュラーズ達の激励と奮闘によるものだ。重傷を負った者こそいたが、彼らは皆『生きて帰る』ことを捨てなかったのだから。
「スルトリヤデ、そこから見るの」
 巨鳥を終始雷電で縛り続けた胡桃が、その墓の隣りに腰を下ろす。
「勇者ならずとも、多くの人々がそなたの怒りに抗ったの。わたしはこれからも、そんな人々の味方でいたいと思っているの」
 独り言のように、呟くように。胡桃は墓石へと伝えた。

 ――危機がひとつ去ったヴィーグリーズの丘に、夕陽が沈もうとしていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お待たせしました。
長期戦になるかと思いましたが、全くそんな事はありませんでした。
スルトリヤデさん特殊抵抗低くは無かったはずなのにどうしてヤデ。
おつかれヤデ。

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