シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>金色の魔種は戦場を紅に染める
オープニング
●オレンジと赤の世界
夕焼けのオレンジが、戦場となっているヴィークリーズの丘を染める。だが、その一部はオレンジではなく血の紅に染まっていた。
「フフ……ハハハハハハ! 騎士団と言っても、所詮はこんなものか!
従うべき者がわからぬから、こうなるのだ!」
夕日を受けて眩しく輝く金色の全身鎧を纏った男が、自ら築きあげた屍の山を前にして、得意げに高笑いする。
「うおおおおっ!」
味方の仇とばかりに、十人ほどの騎士が金色の鎧の男に挑みかかる。だが。
「まだ力の差がわからぬか、愚か者め」
金色の鎧の男の着けている眼鏡の様な魔導具に光が収束したかと思うと、そこから太い光線が放たれる。光線は鎧など存在しないかの様に騎士達の身体に大穴を穿ち、その命を奪っていった。
光線から逃れた騎士達も、寿命をわずかに延ばしたに過ぎなかった。金色の鎧の男が、斧槍をぶん回して騎士達に襲い掛かったからだ。斧槍の刃によって、騎士達はある者は首を刎ねられ、ある者は上半身と下半身を泣き別れさせられた。
「く、くそう……」
致命傷を負いつつも即死しなかった騎士が、せめて一矢報いようと残る力を振り絞って剣を金色の鎧に叩き付ける。だがその瞬間、与えられた衝撃を返すかの様に金色の鎧から鋭い針が飛び出して、騎士の心臓を鎧もろとも貫いた。
●発見!
「あの魔導具とそこから放たれる光線は……オージ領主バックス!
やっと、見つけました……!」
金色の鎧の男が騎士達を瞬殺する様を遠方から遠眼鏡で目にした、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)は、探している相手をようやく発見して叫んだ。
かつて勘蔵は、奴隷商人に攫われ売られた少女を救出するために、協力して欲しいとの依頼を受けたことがあった。その時に少女を買ったのが、眼鏡の様な魔導具を着けた金色の鎧の男、オージ領主バックスだったのである。
イレギュラーズは少女救出のための陽動を依頼され、無事に成功させた。だが、この依頼はイレギュラーズでなければ成功しなかったとも言える。何故なら、イレギュラーズ達が交戦してわかったことであるが、バックスは魔種だったからだ。
奴隷を購入する様な悪徳貴族であり、魔種である以上、イレギュラーズに領地を与える様な現王権とはバックスは相容れまい。ならば、王位簒奪を狙うミーミルンド派としてヴィークリーズの丘での決戦に参戦するだろうと言う勘蔵の読みは当たっていた。
だが、この広いヴィークリーズの丘の至る所で戦闘が行われていることに加えて、バックスが単騎で参戦していたことが、バックスの発見を遅くした。
ともあれ、バックスを発見した以上、速やかに手を打たねばならない。具体的には、イレギュラーズ以外の兵を遠ざけつつ、イレギュラーズ達を差し向けることだ。魔種には、イレギュラーズ達しか勝てないのだから。
「魔種を相手に、これ以上普通の兵を相手させるわけにはいきません。
倒せとは言いませんから、こっちに誘き寄せつつ時間を稼いでくれませんか?」
「……無茶を言うねえ。でも、これ以上アイツを暴れさせられないのは確かだね。
やってはみるけど、長くはもたないよ」
勘蔵は側にいる『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)に、イレギュラーズを差し向けるまで時間を稼げないか尋ねる。無茶振りとも言える頼みにユメーミルは苦笑いするも、これ以上の殺戮を見るのは気分が悪いこともあってやるだけはやると返した。
●ユメーミルの奮闘
「よくもまぁ、こんなに殺せたものだね! 今度は、アタシが相手してあげるよ」
さらに敵を殺すべく戦場を彷徨っていたバックスに、ユメーミルが遠距離からレールガンを撃ちかける。
電磁加速された弾丸が金色の鎧に衝突すると、金色の鎧から飛び出した鋭い針がユメーミルの肩に突き刺さった。
「うぐっ!」
「ハハハ、如何した? 次はこちらの番だぞ!」
金色の針に肩を貫かれたユメーミルを嘲笑うと、バックスは眼鏡の様な魔導具から光線を放つ。光線は回避しようとしたユメーミルの脇腹を抉り、血をドバドバと流させた。
(全く、勘蔵は無茶ばかり言ってくれるねえ)
ユメーミルは苦痛に堪えながらポーションを飲んで傷を癒やしつつ、これは勝てないとばかりに後退する。
その途中、ユメーミルを救援しようとした者もいた。だが、ユメーミルは大声で叫んで救援を拒絶する。
「気持ちは嬉しいけど、こいつは魔種だよ! 無駄死にしたくなければ、すっこんでな!」
「ほう、儂を魔種と知って相手するなどと言ったか。貴様、もしやイレギュラーズか?」
「さあ、如何だろうねえ? 殺して確かめてみればいいだろ!」
「その割には、随分と逃げ腰ではないか。まぁいい、言われたとおり、殺して確かめるとしよう」
バックスの問いをはぐらかしつつ、ユメーミルは後退を続ける。そんなユメーミルを、バックスは狩りでもするかの様に追った。
ポーションを次から次にガブガブと飲み干しながら、ユメーミルはバックスの攻撃に耐え続けた。だが、バックスの光線はユメーミルの生命力をそれ以上に削り取っていた。最早、ユメーミルはレールガンも持てなくなり、ただよろけながら逃げるしか出来なくなっている。
そこまで弱り切ったユメーミルを、バックスが仕留めようとした瞬間。
「やっと、来たのかい……ホント、待ちくたびれたよ……」
勘蔵の呼んだイレギュラーズ達が、バックスへと迫るのをユメーミルは目にした。
「……やることは、やった……から、ねえ。あとは……頼んだ……よ…………」
イレギュラーズ達の姿を見たユメーミルは、立っているのももう限界だったのだろう、バタリとその場に倒れ伏す。だが、その表情は何処か満足そうな笑顔だった。
- <ヴィーグリーズ会戦>金色の魔種は戦場を紅に染めるLv:25以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月06日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●イレギュラーズ、到着
「……わかった、確かに頼まれたよぉ」
「あとは頼んだ」と言い残して昏倒した『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)を背後に庇うかのようにして、『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)は金色の全身鎧に身を包んだオージ領主バックスから数十メートルほど離れた位置に立った。
「ったく、本当に無茶をする女性だ。けど助かった、足止めしてくれたおかげで間に合ったぜ。
……少し寝とけ。さっさと片付けた後、優しく看病してやっから」
『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)もユメーミルを庇うかのように、シルキィの近くに空から降り立つ。
ユメーミルは、魔種としての力を以て殺戮を繰り返すバックスを相手に、これ以上被害を拡大させないようイレギュラーズ達が到着するまでの時間を稼いでいた。だが、常人からすればタフな方であるユメーミルも、イレギュラーズでない以上は魔種に太刀打ち出来るものではない。アルヴァ達イレギュラーズがこの場に到着すると同時に、力尽きて倒れた。
(………あたしは奴隷商人も、それを買う貴族も大嫌い。
だから、前に頑張って奴隷を解放してくれた仲間や、身体を張ってくれたユメーミルさん、皆の想いを背負って、絶対に今日バックスを倒す!)
バックスは以前、『大奴隷市』の騒動の際に幻想に流入してきた奴隷商人から奴隷を購入したことがある。幸い、奴隷達は別のイレギュラーズ達の活躍によって解放された。だが、そんな話を聞いて『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)がバックスを嫌悪せずにいられるわけがない。
フランの瞳には、バックス打倒の固い決意が宿っていた。
「無差別に“呼び声”を発していないだけ、まだマシだけれど……」
『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、バックスが築いた騎士や兵士の屍の山を目の当たりにして、顔をしかめた。よくも、ここまでの殺戮を繰り返したものだと思う。ともあれ、この場に到った以上は、被害を拡大させないためにもバックスを討つまでだ。
「……悪徳貴族もここまで堕ちれば、もはやただの悪魔に御座るな」
バックスの殺戮の様にそう独り言ちた『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)は、勇者達が魔種を討ち果たすと言う、周囲の騎士や兵士達の信頼、期待をありありと感じていた。
幻介は自身をただの人斬りを生業とする浪人としか見なしておらず、その信頼と期待はこそばゆい。だが。
(期待を背負って剣を振るうというのも……存外悪いものでも御座らぬ)
稀有な経験をしているものだと、幻介は微かに笑った。
「魔種が暴れてるって聞いて、駆け付けたぜ! 任せろ、ああいう類はオレたちが専門だ。
あんたたち騎士の仕事はこの後の戦場だ。力を溜めといてくれ」
「ああ! 我らはきた! 魔種、何するものぞ。騎士たちよ、雄たけび上げろ!
海竜さえ封じた我ら勇者に、アレを討てぬ道理無し!」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)と『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)が、周囲の騎士や兵士達に向けて呼びかける。元より勇者たるイレギュラーズ達に寄せられた期待はさらに高まり、鬨の声が戦場を包んでいく。
「ボク達がピンチになったら、応援よろしくね!」
そんな中、『魔法勇騎』セララ(p3p000273)は周囲に向けて高く手を上げて、大きく左右にぶんぶんと振って訴えた。アイドルを目指すセララにとって、周囲からの応援は何よりもの力になる。
(これだけの観客がいらっしゃるなら、舞で魅せる事に手は抜けませんね。この場を、よくある英雄譚の舞台の如く演出してみせましょう)
戦場には似つかわしくない、露出の多い舞踏用の衣装に身を包んだ『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)はそう意気込んでみせる。例え魔種が相手であろうと、見惚れさせる自信が弥恵にはあった。
ふと、『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)の周囲に桃の花びらが舞った。この花弁に触れた者に、己が心情を包み隠さず伝えるトウカのギフトによるものだ。
(……眼を背けたくなる屍の山、むせ返るような血の臭い。それでも目は逸らせない。
強敵だと、勝てぬ敵だと理解しながらも逃げずに戦った騎士達が此処にいた事を忘れない為に、俺達が到着する時間を必死に稼いでくれたユメーミルさんの為に。
人同士の戦争は初めてという恐怖を、冷静さを忘れたくなる怒りを呑み込んで抑え、戦う力へと変える!)
自身と周囲にその心情を伝えたのは、自身の決意をしっかりと固め直すため、そして周囲に宣言することで精神的に背水の陣を敷くためだ。決意を公然と露わにした以上、無様を曝すわけにはいかない。
●封じられた機能
「さて、あのやかましいのを黙らせてくっか!」
風牙の言に、イレギュラーズ達は皆深く頷き、バックスを討伐すべく戦闘を開始した。真っ先に幻介が、猛烈な勢いでバックスへと突進する。その突進は、縮地の如き速度はもちろん、何者をも跳ね飛ばすような重量感をも兼ね備えていた。
「オージ領主にして、強欲の魔種バックスよ……悪道に堕ちたのならば、無論覚悟は出来ているで御座るな?
正義に討たれ、殉じろとは言わぬ……が、拙者も所詮は人斬りの身。
人を斬らば即ち、その下手人も悪という事……同じ悪たる拙者に討たれるならば本望であろう?
まぁ、此処にいる大半は正義を志す特異点に御座るが、そちらに討たれるのが御所望であれば、好きにするが良い。
しかし、生きてこの場を去るという選択肢は既に無いものと知れ。貴様は此処で、その悪事を清算するのだ!」
「ごちゃごちゃと――うぐっ!」
バックスが幻介に言い返そうとする前に、『命響志陲 ー斬光ー』の剣先がバックスを強く突いた。だが一方で、バックスの鎧からは金色の針が飛び、幻介にも傷を負わせていく。もっとも、幻介達はこの針による反撃のことは予め聞かされており、こうして身に受けるのは覚悟の上だ。
バックスの金色の全身鎧は、幻介に反撃するだけでなく、同時にバックスが受けた傷を回復させようともしていた。そうはさせじと、風牙が動く。
「受けたそばから傷を治すなんて、絶対させねえ!」
風牙はバックスの後背に回り込むと、あらん限りの速度で『烙地彗天』の穂先による刺突と、柄による打撃を繰り出した。やはりバックスの全身鎧から金色の針が飛び出して、反撃を行う。だが。
「バイオリジェネレーションシステム、働け! バイオリジェネレーションシステム、何故働かん!?」
金色の全身鎧のもう一つの重要な能力、バックスがバイオリジェネレーションシステムと呼んだ装着者のダメージを回復する機能は、風牙の連撃によって機能不全を起こした。傷が癒えないという想定外の事態に、バックスは驚愕を隠すこともせずに叫ぶ。
「月を彩る華の舞、天爛乙女の舞をご堪能くださいませ」
「むうっ……!」
バックスから十メートル弱まで距離を詰めた弥恵は、自慢の美脚をはじめ、露出の多い肢体を見せつけるように舞い始めた。艶めかしい色気を感じる舞に、バックスは戦闘中にもかかわらず目を奪われ、戦闘を見守っている騎士や兵士達からも「おお……!」と見惚れたとわかる声が上がる。
「カード『勇者』インストール! 魔法勇騎セララ参上!」
バックスが弥恵の舞に目を奪われているうちに、魔法少女に変身したセララがバックスへと接近する。
「ボク達はキミの攻撃方法を知っている。何故なら、先に戦った兵士さん達が命がけで暴いてくれたから!
ボク達は一人じゃ無い。先に散っていった兵士さん達が、共に戦場にいる仲間達が、今も応援してくれている皆が、力を分けてくれる!」
そう叫びながら『聖剣ラグナロク』を下段に構えたセララは、上へと一気に斬り上げる。バックスの隙を衝いた強烈な一撃は、全身鎧を着ていて重いはずのバックスの身体を宙に浮かせた。
「託された意志を! 皆の応援を! 剣に宿して悪を討つ! それが勇者! それがボク達、イレギュラーズだああああ!!」
「ぐああああっ!」
さらにセララは『セラフィム』のカードをインストールして、白を基調としたセラフィムフォームへと変身する。そして上へと斬り上げた『聖剣ラグナロク』で天からの雷を受けると、今度は大上段から渾身の力を込めて一気に振り下ろした。その一撃をまともに受けたバックスは、たまらずに悲鳴をあげる。
「やあやあ、うちの情報屋が随分お世話になったじゃないか。女性相手にあんな事して、生きて帰れるなんて思うなよ?」
「ぐおおっ!?」
セララが雷を纏った斬撃を繰り出している間に、バックスの上を飛び越えて背後に回っていたアルヴァが『魔導狙撃銃BH壱式』で魔弾を撃つ。背中から襲い来る魔弾の衝撃に、バックスの身体は凍ったように固く硬直した。
「これ以上、好きにはさせない……!」
「ぬぅっ!」
シルキィはバックスとの距離を二十メートル弱まで詰めると、腕を真っ直ぐ突き出して掌をバックスに向ける。そして、膨大な熱量を持った光線を放った。光線はバックスに直撃しダメージを与えると同時に、シルキィの狙いどおりに状態異常への耐性を奪い去る。
「十対一、よもや卑怯とは言うまいな?」
バックスの右へと回り込んだレイヴンは、自身の過去である『無銘の執行者』を自身に、その武器であった『執行の大鎌』を『執行人の杖』に投影する形で召喚。そして、『執行の大鎌』をバックスの脚を狙って振るう。
「ぐあっ……数を頼まねば儂に勝てんと踏んだか、雑魚共が!」
竜の爪を思わせる強烈な斬撃を脚に受けたバックスは、ぐらり、と身体を揺らされつつも、レイヴンに対して罵倒を返す。だが、その表情には苛立ちが見えていた。
「幻想貴族の一員として、イレギュラーズとして、貴方をここで討伐する!」
幻想の貴族として悪徳領主を、イレギュラーズとして魔種を、二つの理由からバックスを捨て置けないアルテミアは、レイヴンとは逆にバックスの左へと回る。そして細剣『ロサ・サフィリス』の蒼い刀身に蒼い炎を纏わせると、バックスの膝を狙って横薙ぎの一閃を放つ。
アルテミアが狙ったとおり、いくらバックスが全身鎧に身を覆っているとは言え、膝は可動の関係で装甲が薄くなっていた。蒼い一閃は、その装甲を斬り裂いてバックスの左膝を傷つける。
「おのれぇ……小娘がぁ!」
アルテミアが二つの理由からバックスを捨て置けないとなれば、バックスもまたアルテミアを二つの理由から捨て置けない。憎悪を露わにしつつ、眼鏡のような魔導具をバックスがアルテミアに向けた瞬間。
「節樹 桃果、故郷の地である豊穣を特異運命座標に救ってもらい、特異運命座標として恩を返す為に戦う者だ!
悪逆非道を尽くし、血に塗れた金色の鎧を纏いし魔種よ! 地獄へ堕ちる前に懺悔の準備を済ませておけ!」
「小癪なことを! ならば、貴様から地獄に送ってくれるわ!」
トウカの名乗りが、バックスのアルテミアへの敵意を、自身への敵意で上書きした。
「そっちが反撃してくるなら、こっちだって反撃を返すよ!」
トウカがバックスに攻撃される前にと、フランは不可侵の聖なる護りをトウカに降ろす。この護りは、ただトウカを護るだけでなく、トウカの受けた傷のいくらかを攻撃した相手に返す。
事実、バックスはトウカに向けて魔導具からビームを放ったが、トウカが受けた傷に応じた反撃をバックスも受けることになった。
●作戦B、発動!
イレギュラーズからバックスへの攻撃には鎧から金色の針が飛んで反撃が為される上、バックスからも強烈な攻撃が為される一方、バックスもイレギュラーズ達の強烈な攻撃を受け、かつトウカを攻撃した際に強かに反撃を受けることになるため、イレギュラーズとバックスの戦闘は熾烈な命の削り合いと言える消耗戦となった。
イレギュラーズの側はフランが必死に回復を行っていくが、バックスの攻撃に加えてイレギュラーズ達自身の攻撃の威力が高いために、回復が次第に追いつかなくなると言う事態に陥っていく。一方、バックスの方も鎧による回復を喪った状態で、イレギュラーズ達からの攻撃やそれによってもたらされる炎と毒を受け、着実に生命力を削られていた。
勝敗は、未だに見えない。
「作戦B、行くよぉ!」
シルキィが声をかけると、アルテミアがポジションを変えるかのような動きを見せる。
(む。彼奴ら、陣形を変える気か?)
バックスはアルテミアの動きに、作戦Bとはそういうことかと判断した。だが、これは作戦Bを成功させるためのアルテミアのフェイントだった。
バックスは警戒しつつも、魔導具からビームを放とうとする。その瞬間を狙って、シルキィが『星夜ボンバー』をバックスへと投げつけた。凄まじい閃光と爆音が、周囲を支配する。
「ぐわあああっ! 何だこれは!?」
『星夜ボンバー』は、あくまで派手に光と音を放つだけの、殺傷力を持たないパーティーグッズに過ぎない。だが、今は魔導具で視覚を補っているとは言え、バックスは元来盲目であるために他の感覚が鋭敏になっている。故に、突然の閃光と爆音に、わずかながら困惑した。
「その厄介な鎧、壊させてもらうわ!」
アルテミアはバックスの困惑を見逃さず、渾身の力を込めて「対城技」と称される武技を繰り出した。元より炎と氷を同時に浴びせる剣閃によって脆くなっていた金色の鎧は、アルテミアの剣を受けた部位から亀裂が入り、ボロボロと粉々になって砕け散っていく。鎧は最期の力を振り絞るようにして、アルテミアに金色の針を撃った。痛撃ではあったが、幻想を、母国を守る為にも、アルテミアはこの程度で倒れるわけにはいかなかった。
「……馬鹿な! 我が家に伝わる父祖伝来の鎧が! おのれえええ!」
「悪に堕ちなければ、大事な鎧が壊れることはなかったのにね! その魔導具も壊してあげるよ! ギガセララブレイクッ!」
「ぬおおおおおっ!」
『聖剣ラグナロク』に雷を纏わせたセララが、鎧を破壊され憤慨するバックスの目を目掛けて、必殺技のギガセララブレイクを放つ。雷を纏った聖剣は見事にバックスの目の位置に直撃し、これまでビームを放ってきた魔導具を破壊した。バックスの鎧が破壊されたために、もうセララが、イレギュラーズ達が金色の針の反撃を受けることは無い。
「もう私の舞をご堪能頂けないのは残念ですね。では、炎と毒でおもてなし致しましょう」
「ぐぬうっ!」
魔導具も破壊されてバックスが視覚を喪うと、弥恵は如何にも残念そうに言いながら後退しつつ、炎の球と毒の球を放つ。未だ『星夜ボンバー』のショックから立ち直っていないバックスは、聴覚に頼って回避することも出来ず、二つの球をまともに受けてさらに炎と毒に蝕まれた。
「ここまでやっておいて、鎧や魔導具を壊されたから逃げようなんて都合のいいことが通るとは思わないよな?
絶対に、逃がしはしない!」
「――――!」
アルヴァは、頼るべき装備を共に喪ったバックスの逃亡を防ぐべく、その前に立ち塞がって移動を阻みにかかる。ギリッと、バックスは歯を軋らせて怒りと悔しさが混ざったような表情を浮かべた。
●魔種は討たれた
全身鎧と魔導具を喪ったことで、戦況はイレギュラーズに傾き始めた。だが、バックスも魔種だけあって強かであり、斧槍を振り回したり爆炎を生み出す札を用いたりして、周囲にいるイレギュラーズを攻撃していく。幸いにもフランの懸命な回復が功を奏して、重い傷を受けた者は多いものの、可能性の力を費やすまで追い込まれたものはいなかった。
そうしているうちに、イレギュラーズ達からの集中攻撃を受け続けたバックスの生命力にもやがて底が見え始める。決着がもうすぐであるのは、誰の目にも明らかになってきていた。
「騎士さーん! 兵士さーん! あと少しだから、声援をちょうだい!」
「そうだよぉ! 最後まで戦い抜くためにも、皆自身とわたし達に力をあげるんだよぉ!!」
周囲で戦況を見守っている騎士や兵士達に向けて、フランは応援してくれるように懇願する。さらに、シルキィが重ねるように同調した。それを受けて、騎士や兵士達は声も枯れよとばかりにあらん限りの声でイレギュラーズ達を応援し始める。
身体の内から活力と気力が湧いてくるのを感じながら、フランはバックスが符で起こした爆炎に巻かれた仲間達の傷を癒やしていった。
「もう地獄へ堕ちるまでの時間はないぞ。懺悔の準備は済んだか?」
「ぐぶぇっ」
周囲一帯に響き渡る声援の中、全身が血にまみれ満身創痍となっているバックスの顔を、トウカは左手で横から殴りつける。さらにトウカは、問いに答えることも出来ずにあらぬ方向を向いたバックスの顎を、下から殴り上げた。
「断頭台の裁きは下った」
「――!! うぎゃああっ!」
トウカの拳によって顔を跳ね上げられたバックスは、いつの間にか飛翔して『無銘の執行者』を自身に投影し、急降下体勢に入っているレイヴンの気配を察知した。これまで地に足を着けて戦ってきたレイヴンが何故そんな所にいるのかと、バックスは驚愕に囚われる。
『執行の大鎌』が、バックスの頭目掛けて振り下ろされる。バックスの頭を両断するかと思われたその一閃は、しかし何とか回避しようとバックスがわずかに動いたため、肩から下、腰の近くまでをザックリと斬り裂くことになった。それでも、致命傷である。
「――詰み、で御座るよ。さらば、で御座る」
「あるいは、お前もかつては良心をもった人間だったのかもしれない。だが、この世界に魔種の存在は許されない。
じゃあな。次に生まれ変わるときは、もうちょい『目が開いて』いるといいな」
虫の息のバックスに、幻介が前から、風牙が後ろからとどめを刺しにかかる。否、とどめを刺しにかかったと思われた時には、幻介は刀を納めて鍔が鳴る音を響かせており、風牙はバックスの背中から胸板へと『烙地彗天』の穂先を貫き通していた。
バックスがごぽり、と血を吐いたかと思うと、直後に首がズズズ、とずれ落ちていき、地面をゴロゴロと転がっていった。
「魔種討ち取ったり! 巨人、死霊恐るるに足らず!!」
「うおおおおおおおっ!!」
遺体となったバックスから『烙地彗天』を引き抜いた風牙が、天に向けてその穂先を突き出し、高らかに叫ぶ。その叫びを受けて、英雄が魔種を討伐したと改めて実感した騎士や兵士達は鬨の声を上げ、大いに沸き立った。
●勝利の後
イレギュラーズ達による魔種討伐を見届けた騎士や兵士達は、士気高くミーミルンド派の軍との戦闘へと赴いた。勇者達の勝利に勇気づけられたのか、ミーミルンド派の軍勢を押しているのが遠目にもわかる。
一方、イレギュラーズ達はバックスを討ったその場に残っていた。一つは、バックスとの戦闘中に『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)によって回収されたユメーミルをフランが癒やすため。
そしてもう一つ、バックスを相手に戦死した者達の遺体を放置したくない、幻想の為に戦った立派な騎士だから然るべき弔いをしたいと言うアルヴァの訴えに応えて、少しでもその準備を整えるためだ。
「やれ、本当に容赦なく殺しやがって……」
大凡の作業が終わった頃、夜の帳が下り始めた空の下で、アルヴァはポツリと漏らす。月明かりは、何事もなかったようにそんなアルヴァと戦場だった場所を照らし出していた。
――後に、戦死者達の遺体は幻想軍によって後送され、ヴィークリーズ会戦での他の戦死者達と共に弔われた。弔いの場に参じたイレギュラーズ達は、戦死者達の冥福を祈らずにはいられなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、オージ領主バックスは討伐されました。
MVPは、膝狙いとか全身鎧破壊とかでGMを一番「ぐぬぬぬぬ……!」とさせたアルテミアさんにお送りします。特に鎧の破壊によって【棘】が喪われると気付いたときの悔しさったらもう……!
氷炎の温度差で脆くしておくという下準備も、悔しいですがナイスだったと思います。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回は<ヴィーグリーズ会戦>のうちの1本をお送りします。
ヴィークリーズの丘で暴れ回る魔種、オージ領主バックスを撃退して、戦況を有利に運んで下さい。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●成功条件
オージ領主バックスの撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
ヴィークリーズの丘。時間は夕暮れ、天候は晴天。
地形は平坦で、環境による戦闘へのペナルティーはありません。
●初期配置
バックスとイレギュラーズとの距離は、最低40メートルあるものとします。
また、基本的にイレギュラーズの配置は一丸となっており、バックスの側面や後方を取る様な配置は出来ないものとします。
●オージ領主バックス
ミーミルンド派に与する悪徳貴族にして魔種です。属性は強欲。
盲目ですがそれを補う眼鏡のような魔導具を着けていることに加え、感覚が鋭敏になっているため、命中が極めて高くなっています。
また、物理神秘問わず攻撃力と生命力も高い領域にあります。
重い鎧を着ているため回避は低くなっていますが、その分防御技術が高くなっており、また、厄介な能力も備えています。
・攻撃手段など
ハルバード 物至単or範 【弱点】【災厄】【出血】【流血】【失血(※)】
※【失血】は範囲が単の時のみ
魔導具からのビーム 神超貫 【万能】【防無】【災厄】【感電】
魔導具からのビーム 神超貫 【万能】【必中】【災厄】【弱点】【ショック】
眼鏡のような魔導具からのビームを放ちます。相手の回避の技量によって、2つのパターンを使い分けてきます。
爆炎符 神遠域 【災厄】【火炎】【業炎】
【封印】耐性(高)
【棘】
再生
●ユメーミル&勘蔵
皆さんがバックスと戦闘している間に、勘蔵が昏倒したユメーミルを回収して後退します。そのため、戦闘には参加しませんし戦闘に巻き込まれることもありません。
●幻想の騎士、兵士達
皆さんがバックスと戦闘している間は、戦闘に巻き込まれない様に距離を取りつつ、固唾を飲んで戦況を見守っています(三国志でよくある、武将同士の一騎打ちの最中、兵士達は手出しせずに見守っている状態です)。
皆さんとバックスとの戦闘は彼らから見れば勇者VS魔種ですので、バックスを討伐するにしろ逃亡させるにしろ、皆さんが勝利した暁には彼らの士気は大いに上がります。そうなれば、その後のミーミルンド軍との戦闘ではきっと大いに勇戦するでしょう。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
●バックス関連シナリオ(経緯を詳しく知りたい方向けです。基本的に読む必要はありません)
<リーグルの唄>天義の白き彗星よ! かつて救いし少女を救え!
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5287
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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