PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>CRAZY BURNER

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●show down!
 昼下がりの午後、キミ達イレギュラーズはレオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)の求めに応じて集まっていた。
「おう。全員揃ったな。『ノーブル・レバレッジ』ではよくやってくれた」
 開口一番にレオンが口にしたのは、先の一大作戦への労いだ。
 幻想蜂起を鎮圧した事から連なる『ノーブル・レバレッジ』作戦は大成功。貴族や民衆は味方となり、国王フォルデマン三世は『シルク・ド・マントゥール』への公演許可を取り消した。
 サーカスを気に入っていたフォルデマン三世が行ったのは、それだけだ。
 だが、それだけで十分とも言えた。
 『幻想蜂起』事件を通してローレットと関わりを深めた門閥貴族達から討伐指令が出るのは時間の問題で、身の危険を感じたサーカスは逃亡を試みる。
  だが、ローレットとしては逃がす訳にはいかない。門閥貴族達と共同戦線を張り、検問と封鎖で彼らを国内で釘づけにすることに成功したとレオンは言う。
「ぶっちゃけた話包囲網は徐々に、だが確実に狭まってる。あまりの順調っぷりにちょいと一杯引っかけたい気分だが、その前にもう一仕事してもらうぜ」
 レオンは、資料の束をキミ達に提示する。
「この状況で何もしないような馬鹿だったら楽だったんだが……色々と事件が起きていてな。追い詰められたサーカス団は一か八かの大博打って訳だ」
 キミ達はパラパラと資料の束をめくった。
 個々の事件は突発的かつ衝動的で、ほとんど暴発のような有り様だ。
 今のところは大事に至っていないが、捨て置けば重大な被害が出る可能性もある。
「奴らの狙いはお貴族様方の結束を乱し『幻想の檻』を崩すことだ。大方、一部だけでも国外へ逃げられれば御の字とでも思っているんだろう」
 ローレットの抱える優秀な情報屋達の分析によれば、サーカスは魔種及びそれに連なるもの<終焉(ラスト・ラスト)>の勢力である事を隠すつもりはもはやない。
 とにかく派手な凶行を同時多発に行う兆候が見て取れるそうだ。
「お貴族様方には何が何でも封鎖を維持しろ、と伝えてある。渋った連中も居たが、フィッツバルディ翁やお嬢様の一喝で簡単に黙ったよ。つまり、お歴々の信頼を一身に受ける俺達がサーカス連中を直接やればいい。サーカスの狙いが逃走なら、遊撃勢力の俺達が始末をつければ向こうの狙いは御破算だ。此処が正念場って奴だ。お前ら、出来るな?」
 レオンは、力強い瞳でキミ達を見る。
 キミ達が決意を込めて答えると、レオンは満足そうに頷いた。
「良い返事だ――さて。お前らに仕留めてもらいたいのは、実力はともかくイカレっぷりじゃ『シルク・ド・マントゥール』でも飛び抜けた男。『ウェルダン』ハンス・ブラックマンさ」

●『ウェルダン』ハンス・ブラックマン
 地方都市の活気ある市場を、1人の男が往く。
 あからさまに不審な男だ。
 季節柄蒸し暑くなってきたにも関わらず、分厚い布地のフード付きローブを身に纏っている。
 フードを目深く被っており、男の表情を窺い知ることは出来ない。
 ただ、フードの闇の奥底で、火の灯ったような赤い目がチロチロと忙しなく動き続けている。
 市場を行き交う人々は、自然と異様な男を避けるように動いていく。
 誰だって不審人物には近寄りたくはないものだ。
 ただし、前が見えていれば、だが。
 買い物帰りだろうか。身体の前に大きな紙袋を抱えていた少女が、男とぶつかってしまった。
「ごめんなさい! 大丈夫で……」
 そのとき風が吹き、少しだけフードがまくれた。
 男の顔を見てしまった少女が、にわかに身を強張らせる。
 そんな少女の肩に、男はゆっくりと手を置いた。
「嗚呼……ちょうど良かった。今日は君から始めよう」
 男は何気なく空気を吸い、大きく息を吐く。
 瞬間、熱が少女の肌を焼く。
 息と共に吐き出されたのは、紅蓮の炎だ。炎は一瞬にして少女の身を包み、彼女を薪として盛大に火柱が上がる。少女の上げる苦悶と絶望に満ちた悲鳴を聞きながら、男は叫んだ。
「ヒ。ヒヒッ。キヒヒヒヒヒッ。やっぱり女子供が燃える匂いは最高だ……! ……皆、みぃーんな、俺みたいにしてやるぞ……!」
 陶酔感に満ちた男は勢い良くフードを脱ぎ捨てる。
 喜悦に歪み、歯を剥いて笑う男の顔は、焼死体のように真っ黒だった。

GMコメント

●挨拶
初めての方ははじめまして。
知っている方はお久しぶりです。

きのじんです。
この度はどうかよろしくお願いします。

●依頼達成条件
『ウェルダン』ハンス・ブラックマンの抹殺です。
他のサーカス団員に関しては、殺さなくてもOKですが、相手は魔種に与する者達です。
殺せるのなら殺してしまうに越したことはありません。

●情報について
ローレットお抱えの情報屋達が精査・分析した情報は確かなものです。
OPとこの捕捉情報に記載されていない、いわゆる想定外の事態は今回の依頼では発生しません。

●『ウェルダン』ハンス・ブラックマン
『シルク・ド・マントゥール』の火吹き男です。
全身消し炭色の彼は、生き物を燃やすことが大好きです。
行動としては、常に可能な限り多くの対象を巻き込むように攻撃し、時には味方を巻き添えにすることも厭いません。

ハンスは『炎を吹く(神中貫・BS火炎、業炎)』、『火を撒き散らす(神近扇・BS火炎)』、『大きく息を吸う(副行動による自己強化。ミスティックロアに相当)』等の攻撃を行います。

また、彼にBS火炎・業炎・炎獄に対する耐性はありません。通常通りダメージは通ります。

●取り巻きジャグラー×3
3人居ます。
ショーの盛り上げ要員で、油の入った壺で踊りながらジャグリングをしています。
ハンスのショーをより派手に、よりダイナミックにするべく壺を投げて炎を広げます。
彼らはハンスの後方に陣取り、支援を行います。ハンスさえ倒せば彼らは撤退することでしょう。
彼らの攻撃は、『油壺を投げる』(物遠単・特殊効果あり)、『踊りで鼓舞する』(神遠単・治癒。ライトヒールに相当)です。

特に『油壺を投げる』には注意する必要があります。
ダメージは非常に軽微なものですが特殊な効果があり、油壺を投げるに被弾した者はBS:火炎・業炎・炎獄の攻撃を受けた際の命中度判定時に、命中度補正に+30の修正を受けます。要するに特定の状況(例えばハンスの攻撃を受ける、味方のエクスプロードに巻き込まれるなど)でクリーンヒットが発生しやすくなりBSを受ける確率が上がる、ということです。
但し、効果は累積しません。
『壺を投げる』に1回当たろうが、10回当たろうが、命中度補正への修正は+30のままです。

又、取り巻きジャグラーを戦闘不能にすれば油壺を1つ落とします。
油壺は副行動で拾え、戦闘中に使用できます。
油壺のデータは以下の通りになります。

●油壺
取り巻きジャグラーの落とした油壺です。
副行動で拾え、1個につき1回だけ主行動で投擲できます。
投擲は物遠単扱いとなり命中した場合、取り巻きジャグラーの『油壺を投げる』と同じの効果を発揮します。

●市民
たくさん居ます。
中にはハンスの狂気に当てられ、放火を行ったり自分から炎に向かって歩き出したりする人もいます。
しかし幻想の人々は、イレギュラーズの活躍と『絆の手紙作戦』によって若干狂気耐性を得ています。少なくとも今回に関しては狂気の影響は軽微なものであり、十分に戻って来られる段階です。
派手な登場を決めるだとか、避難誘導を行うだとか、とにかくイレギュラーズの存在をアピールして頂ければ、人々は落ち着きを取り戻すことでしょう。

●その他
オープニングで燃やされている少女ですが、プレイング次第では救出可能とします。
但し炎から庇う方向で救出を試みた場合、ハンスと少女の間に割って入るような形になると思われますので、ダメージを受ける可能性はあります。

  • <Liar Break>CRAZY BURNER完了
  • GM名きのじん(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
セルウス(p3p000419)
灰火の徒
シェンシー・ディファイス(p3p000556)
反骨の刃
ガーグムド(p3p001606)
爆走爆炎爆砕流
しだれ(p3p005204)
特異運命座標
黒・白(p3p005407)

リプレイ

●『ブラックマン』のファイヤーショー
 刹那、少女の視界一面を炎が覆う。
 恐怖に震える少女に出来たのは、目をつむり痛みに備えることだけだった。
 少女の鋭い悲鳴が、市場に響く。
「きゃああああ――え?」
 炎に灼かれたのか、多少顔に痛みはある。だが、思い描いた痛苦よりはるかに軽いものだった。
 恐る恐る少女が目を開けると、大きな男の笑顔がそこにはある。
「流石に無傷とは行かなかったか……だが、うむ! 服に燃え移っていないならひとまず良し!」
 少女を庇った男――『爆走爆炎爆砕流』ガーグムド(p3p001606)は少女の無事を確認すると大きく頷く。
 後から続く仲間に少女を任せて、『ウェルダン』ハンス・ブラックマンと対峙する。
「斯様にか弱い少女を害するとは、何と卑劣な! 絶対に許さんぞ!」
「ゴメン! 今は急ぐから!」
 『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は少女を抱え上げると、素早く駆け出しハンスから引き離す。安全な場所まで下がると、近くに居た女性に少女を預けた。
 戸惑う女性に、黒・白(p3p005407)は、ガーグムドが用意した救急箱を手渡す。
「お姉さん! その子を連れて離れて。出来たら、コレで手当も! そこの赤の服の人は火に向かう彼を止めて!」
 白は自身を『同胞』と呼ぶ特異な黒腕で個人個人を指差して、市民達に具体的な指示を与えた。明確な行動目的を与えられた市民達は、この場で為すべきことを行っていく。
 それでも恐怖でその場に縫いつけられた市民は多く存在した。
 『反骨の刃』シェンシー・ディファイス(p3p000556)は、マフラーをなびかせて現れると、そんなか弱い市民達を一瞥。
「死にたくないなら黙ってこの場から消えろ」
 蛇を思わせる鋭利な視線に射すくめられた市民達は、ハッと我に返る。
 シェンシーの剣呑な一言も相まって、市民達は弾かれたようにその場から駆け出した。
 弱者に逃げ出す勇気を与えたシェンシーは、不愉快そうに眉をひそめてハンスに視線を移した。
 逃げ去る市民達と入れ替わるように進み出た『叡智の捕食者』ドラマ・ゲツク(p3p000172)が高らかに宣言する。
「我々はイレギュラーズ。貴方達魔種と、それに連なるモノ達のもたらす滅びを許しません! 滅びに立ち向かう勇気を持って、貴方達を断罪します!」
 若干芝居がかってはいるものの、イレギュラーズの到着に市民は歓喜の声を上げる。
「おいおいおい。冗談じゃないぞ。すっかり場がシケっちまった……! 『ウェルダン』ハンスのファイヤーショーだぞ……水を差さないでくれよ……」
 反面、ハンスは両手で頭を抱えていた。背中を丸め、早口でまくし立てる彼の姿は酷く小さく見える。
「……演出」
 しかし、やがてぽつりと呟きハンスは顔を上げた。その真っ黒な顔には笑顔が貼り付いている。
「そうか、そうだよな……助かると思い込んで希望に満ちてた連中を燃やしまくるのも……ヒヒッ。キヒヒヒヒヒヒ……!」
 文字通りハンスは気炎を吐き、イレギュラーズを睨む。
「やれるもんなら、やってみろ!」
 真っ先にハンスに飛び掛かって行ったのはチャロロだ。
 カジュアルな軽装姿だったチャロロだが、身体が光に包まれたかと思うと一瞬にして赤と銀の重装甲に覆われた鋼のヒーローへと変身を遂げる。
「オイラたちイレギュラーズが、邪悪な魔種を打ち倒す!」
 盾の代わりに使えそうな程に長大かつ重厚な大剣を構え、堂々とハンス達に宣戦布告する。
 ハンスの周囲を取り巻くジャグラーの1人が、油壺を頭上に掲げてチャロロに突っ込んで行く。興奮に身を任せ油壺で殴りかかるが、力任せの攻撃がチャロロに当たるはずもない。
 芸人の癖に芸を忘れやがって、と毒づくハンスだが、そんな彼もまたぎらついた視線をチャロロに向けている。どうやらチャロロを最初に燃やすべき相手と決めたようだ。
「お前ら……もうショーは始まってんだぞ……ステージは大きく使えよ!」
 ハンスの指示に従って、残りのジャグラー2人は油壺を投げつけながら後ろに下がる。大方、主戦場から離れた位置からハンスの支援を行うつもりなのだろう。
 己に向かって放られた油壺をかわしたシェンシーはハンスとジャグラー達の間に身体を滑り込ませ、その場に陣取る。ハンスの後退を封じ、ジャグラー達との連携を寸断しにかかった。自然と血潮が滾るのは、魔種の在り方が気に食わないからだ。弱者を嫌うシェンシーだが、弱者に害を加えるような輩は気に入らない。
「だから、お前らはここで始末する」
 端的に告げ、拳を構えた。
 さらに後退したジャグラーの背を、強大な魔術が打ち据える。
 ジャグラーが後ろを振り返れば、『夜星の牢番』セルウス(p3p000419)が静かに佇む。
 もう安心だから、危なくないとこに隠れててねー、と逃げる女子供や老人に話しかけながら移動していたセルウスは、品定めするようにハンスを見やった。
「若干同好の志っぽいけれど女子供しか燃やせないキミより、悪い奴を力いっぱい殴って燃やす僕の方が格好いいと思うな。合法(おしごと)だし、ここまで悪い事されて同類扱いされるのも癪だしね」
 セルウスの虚ろな三白眼の奥に、仄暗い火が点る。
「だからさ、僕の信仰(しごと)と、ついでに趣味の為に死んでくれないかな」
 セルウスに次いで、『幽霊……?』しだれ(p3p005204)は得物を大上段に振り上げた。
「イレギュラーズが来たよ~、これで安心だね~」
 瞬く間にジャグラーとの距離を詰めると、愛用の武器、卒塔婆うえぽんを叩き込む。細長い木の板と言ってしまえばそれまでだが、しだれに掛かれば立派な武器と化すので何ら問題は無い。
「……上手くいったな」
 セルウスとしだれ――奇襲組の先導役を務めた『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)は、打ち捨てられた屋台の物影に潜み機をうかがう。
 キドーは盗賊だ。故に正面切って仕掛けるような真似はしない。ヒーローにはヒーローの、盗賊には盗賊の作法がある。
 つぶさに戦況を観察したキドーは、狩るべき獲物を見定めると忍び寄る。
 音もなく接近してきたキドーに面食らったジャグラーを白の遠距離術式が貫く。
「よくも女の子を傷物にしたな……なにより『同胞』を増やそうとしてるのが気に喰わない」
 『同胞』――即ち蹂躙され、理不尽に死にゆく者達が増えることを、白は忌み嫌う。ハンスらの行動は到底許容できない。言葉の端々に激しい怒りをにじませ、荒々しく魔力を猛らせる。
「如何にも悪者って感じで、倒すコトに躊躇が必要ないのは良いコトです」
ゲツクは、一際前線から離れた位置から古の魔術を行使する。魔力の矢がハンスに放った。
 踊るような足取りでハンスにかわされるも、己にできるのは魔力を持って敵を撃ち滅ぼすコトだけ、と割り切っているゲツクの意識は研ぎ澄まされている。淀みない手つきで複数の魔導書を開くと、それらを同時に読み解き、術式の精度を高めていく。
ハンスはそのままフラフラと立ち位置を調整。軽く息を吸い込む。
「ヒヒッ。燃えろ、燃えろ……! 皆まとめて燃えちまえ……!」
 そして、灼熱の火炎が迸る。
 炎はチャロロ、ガーグムド、そしてチャロロ目掛けて突進したジャグラーすらもまとめて包み込む。
「悪いね、オイラ炎はへっちゃらなんだ!」
「人の身にしてはまずまずといった所だが、溶岩風呂に比べれば涼しいものよ!」
 全身を炎に覆われ、地面を転がり回るジャグラーを余所に身に受けながらも2人は涼しい顔だ。
 ガーグムドに至っては油壺の直撃を受けていたものの、怯みもせず、全身の筋肉を怒張させ、渾身のストレートパンチをハンスの顔面に放つ。
「お前……何だ……!?」
 驚愕しつつも両手を十字に構えハンスは辛くも防御。しかし威力を殺し切れず、大きく後ろによろめいた。


●焦熱戦線
 一進一退の攻防を繰り返す最中しだれの剣(?)戟が、ジャグラーの1人の脳天に直撃する。
「え~いっ!」
 ともすれば癒しすら感じられる声とは裏腹に凄絶な勢いで振り下ろされた卒塔婆を受け、ジャグラーは派手な音を立てて倒れる。彼が、そのまま置き上がってくることはなかった。
 しかしハンスにもジャグラー達を気にかける余裕はない。
 防御した手が痺れる程のシェンシーの連打を捌きつつ、ハンスは呟く。
「痛いなあ……酷いじゃないか……」
「自分の行いを棚に上げて言うことがそれか?」
「俺は、争いは嫌いなんだよ。ただ、楽しく、ゆっくりと……肉の焼ける匂いに酔いしれていたいだけだ……」
 あまりに身勝手な言い草にシェンシーはより一層嫌悪を覚える。
「同じ『敵』とはいえ、魔種という連中とは相容れることは出来そうにない」
「まさに暴発だね。ここで終わりにしてやる!」
 チャロロは大剣を振り上げ、力一杯ハンスを殴りつける。
 強烈な一撃を受けつつも自ら後ろに跳んで威力を殺すハンスだったが、小さく舌打ちを漏らした。初撃こそ多くを巻き込む形で攻撃できたものの、それ以降の戦況はどうにも芳しくない。
 三方をイレギュラーズに囲まれ、その上ハンスとシェンシーに執拗に貼りつかれてしまっては最適な立ち位置に動くことすらままならないのだ。
 せめて誰か1人でも燃やせれば状況を打開できそうなものだが、彼が燃やせる範囲内にいるイレギュラーズはすこぶる燃えにくい。比較的燃えやすいシェンシーにしても、数度の攻防を経る内に身体に纏わり付いていたはずの炎は消えている。
 狂った頭で必死に策を巡らせるハンスだったが、思考に集中し過ぎた彼の頬を魔力の弾丸がかすめる。
 射撃したのは、キドーだった。いかにも野蛮なゴブリンといった風に、挑発的に口の両端を釣り上げたキドーは、からかうような口調で言う。
「『ヴェルダン』か。傑作。誰が付けてくれたんだ?」
「お前……ゴブリン風情が……!?」
 激怒したハンスは反射的に炎を浴びせるも、やはり期待した程の効果は見られない。
「ぜえええいッ!」
それどころかガーグムドの正拳突きが腹に突き刺さる始末だ。体格を活かした豪快な一撃に、ハンスの身体がくの字に折れ曲がった。
「好機ですね」
 敵味方の立ち位置をよく確認した上で、故郷の大樹を用いて作った栞――ひとひらの深緑を挟み込んだページを開く。
「――王よ。謳い奉ります」
 半ばトランス状態になったゲツクが書の文字をなぞると、書は謳い上げ、嵐の王が顕現した。かつて在りし古き王は古の暴威を振るった。巨大な風の鎚が、ハンスと、彼と一直線状に並んでいたジャグラーを弾き飛ばす。
 特にジャグラーの傷は酷いもので、起き上がるのにも難儀しているような有り様だ。そんなジャグラー目掛けて、黒い腕が伸びる。
「オヒネリをあげるのにそんなに急いでどこに行くの?」
 白の『同胞・黒』がジャグラーを掴み、容赦なく手足をヒネリ上げる。
 ジャグラーに注意を払っていたセルウスは、決定的な好機を見逃さない。
 すぐさま破壊の魔力を急所に叩き込ジャグラーはそのまま動かなくなった。術式の余波で、天高く舞った油壺を指差しセルウスは仲間達に告げる。
「僕こういう繊細な事は苦手でねえ。誰か、どーんとあいつ目掛けてぶん投げてくれない?」



●灰に還る
 セルウスの声に短く応えたキドーは俺に任せろ、と言わんばかりに空中の油壺をキャッチ。そのまま。勢い良く油壺を投擲する。
「ハンス、表面がコゲてるだけじゃブルーレアだぜ。中までこんがり焼き直して貰いな!」
 ハンスは油壺をかわそうと華麗にステップを踏む。
「ヒヒッ。ヤバいとわかってて……食らう訳が――んなっ!?」
 否。踏もうとした。だが、遥か遠方からゲツクが放った遠距離術式はハンスの太腿を射抜き、ほんの一瞬ハンスの動きが止まる。
 その一瞬が、ハンスにとって命取りになった。
 シェンシーが身を屈め、地を擦りそうな程に低い姿勢から蹴りを放ち、ハンスの足を刈り払う。
 大きく体勢を崩したハンスには避けることはできず、彼の頭頂部に、見事油壺は直撃。ハンスの全身は粘つく油塗れとなる。
 そして、数瞬の間も置かずにイレギュラーズ達の炎が殺到した。
「どうだ、オイラの炎も負けちゃいないよね!」
 チャロロの左腕から放射された熱線が、ハンスの脇腹を焼き切る。
「炭みたいな顔してるんだ、真っ赤に焼けたら本望だろう?」
 セルウスの鮮烈なる魔術の炎が、ハンスの大小様々な傷口から侵入し身体の内側から焼けつく痛みを与える。
 ガーグムドは炎そのものと化した巨拳を弓のように大きく引き絞り、ハンスの顔面に叩き込む。
「ほう、久しぶりに炎を戦闘に使ったがまだまだか……」
 爆発的な威力にも関わらずガーグムドは己の炎に不満げな表情を浮かべる。だが、イレギュラーズ達の炎は十分過ぎる程に効いていた。轟々と燃え盛る紅蓮の炎が、ハンスの全身を容赦なくなぶり回す。
「ヒ。ギ、ヒヒヒヒ……いよいよ幕引きの時間か……」
 ならば最後に派手な1発を、とばかりに大きく息を吸い込んだ。
 己を焼く炎の熱が臓腑を焼くも、全く意に介さない。
「喋るな、動くなよ、残飯野郎」
「――ああ、があああああっ!」
 しかし、炎を吐き出す前に白の黒腕が繰る魔術の縄がハンスの口に十重二十重に絡みつく。どうせ死ぬならば、最後に派手な一発をと意気込んでいたハンスは怨嗟のうめき声を上げる。
 必死に縄を解こうと格闘するハンスに、しだれは圧倒的な速度で踏み込んだ。
「一刀両断しだれちゃんすらーっしゅ!」
 しだれの袈裟斬りを受け、ハンスの身体が無惨に砕ける。
地面に落ちたハンスの断片も地面にぶつかった衝撃で粉々になり、風にさらわれ消えてゆく。後には彼のシルエットだけが残された。
 その様は、燃え尽きた炭が唐突に崩れゆく様にとても良く似ていた。



●残り火
 ハンスを倒れ、最後のジャグラーにも勝利したイレギュラーズ達は後片付けに追われていた。
 炎に対し万全の対策を取っていたイレギュラーズ達の中には重傷者はいない。ただし、ハンスの撒き散らした炎は、市場のあちらこちらに燃え残っており、
 水入りのバケツを持ってあちらこちらを走りまわる中、チャロロはぽつりと呟く。
「ほっといたらまたこんなことになるだろうし……仕方なかったのかな……」
「ハンスさんもジャグラーさんもばっちりしっかりやっつけたけど、普通の演技をみたかったね~」
 何処となく元気がない様子のチャロロに、しだれはどこかおっとりとした返事を返す。
 実のところ、しだれはハンスの他に火を吹く生き物を見たことがなかった。だからハンスに会うのは少し楽しみではあった。無論、市民に被害を与える彼らをイレギュラーズとして見過ごすことはできなかったが、戦いを終えて、こうも思う。
「せっかく芸を身につけたのなら、人々を楽しませる為に使えば良いのに~」
「やはり魔種に連なる者……というコトなのでしょうか。ハンスさんはとんでもない人でしたが、彼らに真っ当な感性を期待する方が間違いなのかもしれません」
 幻想各地で起きている事件――連鎖する滅びに一刻も早く終止符を打たなければ、とサーカス団長との決戦に臨むゲツクはより強く決意する。
 セルウスは被害に合った少女に治癒の魔術を施していた。迅速に応急処置がなされたこともあり、少女の顔には火傷の痕は残らなそうだ。
 何度も礼を言う少女を見送りながら、セルウスは零す。
「やっぱり人や街を燃やすのはよくないなあ」
 火とは道具だとセルウスは考えている。道具は使い方次第とは言うものの、人を不幸せにする使い方は紛れもない悪である。
「うむ! やはり炎は尊く気高く輝くものでなくては!」
 セルウスの隣で、少女の治療を見守っていたガーグムトは豪快に笑う。
 何はともあれ、邪悪な企みは潰え、サーカス壊滅への布石は確実に打たれた。
 特にイレギュラーズ・市民の双方に1人の死者を出さずに済んだのは、素晴らしい戦果と言えるだろう。

成否

成功

MVP

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

状態異常

なし

あとがき

まずはPL・PCの皆さま方にお疲れ様でした!
初の全体依頼ということで、難易度ノーマルの敵としてはちょっと強めをイメージして用意したハンス君でしたが、プレイングが来てみればダイス振る前から「あ……これはハンス、多分死ぬ」と感じるくらいの素晴らしいものでした!

メンバーの大半が火炎無効だったりそうでなくても特殊抵抗高めだったりそもそも射程内に近づかなかったりと、徹底して倒すという意志が感じられ、GM冥利につきる作戦が印象的でした。

また機会がありましたら是非ともよろしくお願いします。
それでは、また今度。皆様の良い冒険をお祈りしています!

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