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シナリオ詳細

徒花は愛されず

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●聖獣の脈動
「……聖獣を使う、ですか?」
 アドラステイア、中層。此処にはオンネリネン部隊の本拠地が存在する。その一室に、ティーチャーと呼ばれる男と、その女は居た。
「ええ。此方も、不本意ながら子供達を提供しているのです。彼らの価値の分は、こちらも使わせてもらっても構わないでしょう」
 豪奢な執務机に腰かけた女、オンネリネンの管理者マザー・カチヤは、ティーカップに注がれた薫り高い紅茶をゆっくりと口に含んだ。
「……粗悪品ですね。味も香りもしたものではありません」
「はあ……」
「聖獣の話ですが」
 カチヤは不満そうにティーカップを机に置くと、続けた。
「確かに、オンネリネンはそう言った『異物』とは距離を置いてきました。ですが、現在の状況を鑑みれば……私達の子供達が、一般の相手には戦果を挙げているとはいえ、ローレットに関しては連敗を喫しているのであるとすれば、私たちの立場も悪くなると言うものでは?」
「あのお方は納得しますかな」
「納得させるのが私の仕事です……」
 カチヤはうんざりした様子で、手元の資料を確認した。
「子供達の選出は貴方に一任します。これまで子供達は『ローレットに皆殺しにされている』わけですから、辛くも命を拾った家族を救出するとなれば、希望者も多いでしょう。
 ……そう、これは子供達にとっては希望です。悪い悪魔につかまった家族を助け出せるのですから。
 無駄死にはさせないように、精鋭を頼みます。まだ幼い子を出すのは早いです。くれぐれも、子供達のことを第一に考えてあげてください」
 カチヤはゆっくりと、再び、紅茶を飲んだ。
「やはり味も香りもしない……嫌なものですね」
 カチヤは眉をひそめた。

●旧オランジュベネ領特別復興区にて
「お疲れ様です、領主さま。早速で申し訳ありませんが、『子供達』についてご報告が」
 夜、自身の領地の、役所の執務室へとやってきたマルク・シリング(p3p001309)は、執政官から手渡された資料を受け取ると、
「ああ、以前深緑で保護した『オンネリネン』の子供達だね……あれからどうだい?」
 資料を開きながら、執務机に腰掛ける。
「皆素直なものです。反発を覚悟しましたが……仲の良いもの同士を選んで引き取ったのも理由かと」
「彼らは、家族と言う絆で結ばれているからね。その絆を裂かなかったのが功を奏したかな」
 マルクがため息をついた。
「家族の絆、か……それ自体は素晴らしいものだよ。けど、こうも悪用されるなんてね。まるで囚人の鎖のようだ」
「アドラステイア、ですか……随分と悍ましいものです」
「まったくだよ」
 マルクは資料を閉じる。執政官の男は続けた。
「ご報告の通り、子供達の態度は大人しいものです。反乱のようなものは発生しないとは思いますが、しばらくは観察を続けます」
「お願いするよ。あの子たちは幼い。傷つけないようには注意してほしい」
 マルクは椅子の背もたれに身体を預けると、ゆっくりと伸びをした。
「今日の所は休むよ……書類仕事は明日に回そう。それ位の余裕はあるよね?」
「もちろんです。ごゆっくりと。お茶を用意します。よい茶葉が手に入りましたので――」
 ドンドン! と執務室の扉が激しく叩かれた。マルクは執政官と顔を見合わせから、頷く。執政官が「どうぞ」と言うと、忙しなく扉を開けて入ってきたのは、街の衛兵の一人だった。
「緊急です! 街の外縁に、怪物を伴った武装集団が現れました!」
「怪物? 魔物の類か?」
 執政官が首をかしげるのへ、衛兵は言う。
「わ、分かりません……グロテスクな天使のような外見をしておりました。それから、その怪物を伴って現れたのは、どう見ても子供達です……!」
「アドラステイアだ」
 マルクは言った。
「オンネリネン、ですな。では、怪物とは噂に聞く聖獣ですか?」
「違いないだろうね。でも、オンネリネンが聖獣を? これまで報告にはなかったけれど……」
 マルクは一瞬、考え込むそぶりを見せた。しかし、すぐに思考を切り替える。悩んでいる時間はない。
「あなたは衛兵たちと一緒に、付近の住民を避難場所に避難させてほしい。あなたは、執務室で各部署への対応を。僕は街のローレット出張所にむかって、滞在しているイレギュラーズに依頼を発出して迎撃に出るよ。緊急事態だ、急いで!」
『了解しました!』
 衛兵と執政官、二人が同時に声をあげる。衛兵が走り去っていくのを、マルクは追うように執務室を飛び出した。向かうは、街のローレット出張所。何人か、滞在しているイレギュラーズ達がいたはずだった。

●徒花は愛されず
「Ra――――」
 聖獣が歌声をあげた。両腕を失った、グロテスクな天使のような外見をしている。翼の力か、宙に浮いているその歌声には、神秘的な力がある事を、子供達は知っていた。
「聖獣か……正直怖いけれど」
 リーダー格の少年が言う。
「でも、生き残ってる家族たちがつかまってるんだ。何だって使って、必ず助け出してあげなくちゃ……!」
「頑張ろう、リク」
 仲間の子供達がそう言うのへ、リクは頷いた。
「行くよ皆! 家族を、きょうだいを、助け出すんだ!」
 おー! と子供達は声をあげた。それから聖獣を伴って、ゆっくりと、子供達は進軍を開始した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方はマルク・シリング(p3p001309)さんの危惧(アフターアクション)により発覚した事件です。

●成功条件
 すべての敵を倒す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 マルク・シリングさんの領地に、聖獣を伴った、オンネリネンの部隊が現れました。彼らの目的は不明ですが、おそらくはマルクさんの領地に保護されている、オンネリネンの仲間達を救出するのが目的だと思われます。
 このまま彼らを放置していては、領地内の市民に被害が出ることが予測されるほか、せっかく保護できた子供達を再びアドラステイアに連れ去られてしまう可能性があります。
 皆さんはこの領地にたまたま居合わせたイレギュラーズとして、この敵の迎撃にむかってください。
 作戦決行時刻は夜。作戦エリアは、街の家屋が並んでいるエリアになります。周囲には街灯などがあり、大通りならば明かりには不自由しないものとします。また、近隣住民の避難は完了していますので、戦いに専念してください。

●参考:オンネリネンの子供達
 <Raven Battlecry>事件にて、『子供たちの傭兵部隊』と呼ばれ、イレギュラーズ達と戦った経緯のある、『十歳前後の少年少女で構成された傭兵部隊』です。
 これまで戦った少年少女の多くは戦闘後イレギュラーズに保護されています。
 以下参考シナリオ。
<Raven Battlecry>孤児たちの墓穴
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4726
<アアルの野>幸せな子供たち
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4999

●聖獣
 アドラステイアが保有しているモンスターです。
 個体ごとに能力や形状が異なります。
 当初はただのモンスターだと思われていましたが、現在は人間をイコルによって改造して生まれたものだということが判明しています。

●エネミーデータ
 聖獣・天使A型 ×1
  両腕のないグロテスクな天使のような外見をしています。
  主に神秘属性の攻撃を行います。その歌声には『Mアタック』の力があるようです。
  また、『窒息系統』のBSの付与なども行ってくるようです。

 聖獣・天使B型 ×1
  両腕のないグロテスクな天使のような外見をしています。A型とB型の外見はよく似ていますが、皆さんが見間違えたり、どちらがどちらかを見失ったりするようなことはありません。
  主に神秘属性の攻撃を行います。その歌声には『呪殺』の力があるようです。
  また、『毒系統』のBSなど元行ってくるようです。

 リク ×1
  オンネリネンの少年です。茶髪の元気な少年。家族の奪還に強い決意を抱いています。
  リーダー格であり、物理属性の近距離レンジ攻撃を行ってきます。
  彼が存在する限り、以下の『オンネリネンの子供達』の『命中』の値に若干のプラス補正が発生します。
  また、説得には応じません。戦闘不能になるまで戦い続けます。

 オンネリネンの子供達 ×10
  オンネリネンの少年兵たちです。様々な子供達が存在し、家族の奪還に強い決意を抱いています。
  前衛剣士タイプが5、後衛タイプが5で構成されています。
  特筆すべき能力はありませんが、数の多さによる集中砲火が脅威です。
  また、説得には応じません。戦闘不能になるまで戦い続けます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 徒花は愛されず完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

リプレイ

●聖獣と子供達
「……」
 少年、リクがあたりを見回す。此処は、マルク・シリング(p3p001309)の領内の街。鉱山都市として復興しつつあるこの街に現れた彼らは、アドラステイアより訪れた、傭兵部隊オンネリネンの少年だ。
「上手くいったね。こんなに簡単に中に入れた」
 部隊の女の子がそう言うのへ、リクは頷き、「でも」と言った。
「変だよ。こっちの姿は、多分見つかってると思う……でも、兵士たちがやってくる気配もない……」
「敵は気づいていないんじゃない?」
 別の男の子が言う。
「それか、聖獣もいるんだし。何か加護みたいなものがあるんじゃないかな」
「聖獣、かぁ……」
 リクが唸った。傍らに飛ぶ、グロテスクな天使のような生物。これまでオンネリネンでは使ってこなかったが、しかしマザーからの指示となれば。
(でも……何か怖いもののような気もする……なんだか、触れてはいけないような……)
 リクがそう思ったとたん、聖獣二体が「Ra――」歌った。心を読まれたような気がして、リクがびくり、と肩をすくめた刹那、複数の足音が、リクたちの耳に届いていた。
「見つけた……ここまで入り込んでいたなんて……!」
 やってきたマルクがそう言う。マルクの隣には、依頼を受けやってきたローレットの仲間達の姿もあった。
「報告通り……子供達が武装している。こんなことをするのは間違いなくアドラステイア、オンネリネンだ。それに……」
「聖獣ですね……まさかこの地にまでやって来るとは……」
 ぎり、と唇をかむ『星の救済』小金井・正純(p3p008000)。正純の見据える先には、聖獣を伴うオンネリネンの子供達が居て、こちらに明確な敵意ある視線をぶつけていた。
「保護されていた子供達を奪還に来たようですね。まぁ、そうでしょう。アドラステイアの大人たちが、子供達が保護されて健やかに過ごしているなんて、都合の悪い事を伝えるわけがない」
「彼らは、俺達が子供達を皆殺しにしている……と教え込まれているはずだ」
 『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が言った。確かに、オンネリネンの子供達はそう教え込まれ、こちらに強い像をを向けていることは確かだ。
「助けられる、となったら、きっと必死だ……まずいぞ、多分今まで以上に、彼らは死に物狂いだ」
 アーマデルは蛇鞭剣の柄にゆっくりと手を当てた。経験上、彼らに言葉が通じたことはない。戦わなくては、ならないのだ。それは彼らを救ううえで、どうしても避けられない痛みだった。
「家族の絆を悪用する、ですか。子供の傭兵、位なら……拙の元の世界的にも、なんとも言えませんが……」
 『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)が苦虫を嚙み潰したように言う。
「信頼関係や心を利用するとは、本当にロクでもないですね。それに、あの聖獣という魔物は……」
「元は、人です。詳しい話を省略しますが、あれもアドラステイアの子供達のなれの果てですよ」
 忌々し気に正純が言うのへ、ステラは再度、眉をひそめた。
「元は人? それを聖獣だなんて……まるで魔獣じゃないですか……!」
「それをあの子たちは知らないのですね……いえ、あの、何かを恐れるような表情。もしかしたら、何かを感じ取っているのかもしれませんが……」
 『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は、穏やかな笑みを浮かべながら、一歩を踏み出した。
「子供達。そのような武器は捨ててください……と言っても、通じないのでしょうね」
 マグタレーナの言葉に応じるように、子供達は殺気だった。中央の子供――リーダであるリクが周囲へ頷くと、子供達が散開する。
「ヴァレーリヤさん、マルクさん。引き続き、空から周囲の警戒をお願いします」
「お任せくださいまし、元よりそのつもりです」
 静かに聖獣をにらみつけながら、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が言う。
「マグタレーナ、申し訳ないのだけれど、お客様のエスコートをお願いしてもよろしくて?」
「ええ、お客様のエスコートはお任せ下さい。紳士的にとは行かないかも知れませんが」
 マグタレーナが言うのへ、ヴァレーリヤは少しだけ目を伏せた。
「かまいませんわ……きっと、あの子達をすくえるのは、紳士的な優しさではなさそうですもの」
「ヴァリューシャ……」
 『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)が心配芸に言うのへ、ヴァレーリヤは笑った。
「大丈夫ですわ、マリィ。あの子達をすくいましょう」
「うん……ヴァリューシャ、必ず子供達を守り切ろう! ここへ来た子供達も救いたい……!」
 マリアの身体に、ばちり、と紅の雷が奔る。子供達がそれを攻撃の合図と受け取ったように身構えた。
「みんな、くるぞ! 聖獣を前に出して、悪魔たちをやっつけるんだ!」
 リクがそう言うのへ、『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)は声をあげた。
「私はあなたたちを止めようと思っています。邪魔と思うならばどうぞ、排除なさってください。できるのならば、ですが」
 ゆっくりと立ちはだかる、白く、赤い目のレガシーゼロ。グリーフは静かに構えた。
 すべてを救うため。
 すべてを受け止めるため。
「いくぞ、皆! 家族を救うために」
「あなたたちを救うために」
 リクが、グリーフが声をあげる。果たしてそれを契機に、戦闘は幕をあげた。

●歌う聖獣
「ファミリアーから俯瞰してみている! 子供達は現状、回り込んでは来ない……真っすぐ突っ切ってくるようだ!」
 マルクの言葉に、ヴァレーリヤが頷く。
「こちらの目でも同様ですわ! 正面、突撃! まずはあの偽りの聖獣を撃破します!」
「子供達は俺と正純殿で抑える。皆は聖獣を頼む」
 アーマデルが手にした結晶を掲げる。それは、志半ばにして倒れ子英霊の残した未練の結晶。その結晶より奏でられるそれは、女の悲哀の声にも聞こえた。
「偽りの聖女の声か……君達にも聞こるだろうか。だが、これは君たちを傷つける、あのマザーの声とは違う!」
 軋る音に、歪む空気。目に見えぬ衝撃駆け、子供達の耳から体の内を激しく打ち据える。衝撃に、子供達は耳をふさぎ、苦悶に表情を歪めた。
「怯まないで! いつも通り、遠距離組がけん制! その後に僕たち近接組が突撃する!」
「うん!」
 魔術師然とした女の子が頷いて、その樫の杖を掲げた。続くようにそれぞれのデザインの杖や魔導書を掲げた遠距離組の子供達から、巨大な火の玉や、鋭いつららのようなものが射出され、アーマデルを襲う。
「ちぃっ!」
 舌打ちしつつ、蛇鞭剣を振るう。それらを撃ち落とすことで、アーマデルは回避――爆炎と細かな氷片が舞い散る中、
「正純殿!」
 その噴煙を切り裂いて、地を駆ける狼のごとし矢! 天に吠える狼の咆哮の如き風切り音が、魔術師組の足元に着弾、一気に衝撃を走らせる!
「きゃあっ!」
 女の子が悲鳴をあげる――その声にわずかに表情を曇らせながら、正純は第二射を構える。
「オンネリネンの子供たち、あなた達の家族は生きています。生きて、保護されている。
 あなた方が武器を取らずとも、彼らに会わせることだってきっとできる」
 言いながら、きっとこの言葉は届かないのだ、と正純は思った。諦観とも、切望ともつかぬ、吐き出すような言葉。届かずともかけられずにはいられない言葉。
「サデ、落ち着いて魔法攻撃をつづけて! セッポ、皆を率いて攻撃に行くよ!」
「わかったわ! みんな、がんばろう!」
 サデ、と呼ばれた魔術師風の女の子が、仲間達に声をかける。続いて、リクの隣にいたセッポと言う男の子が、身の丈に似合わぬ剣を掲げて、突撃した!
「魔女を倒せ! 家族をすくえ!」
「くっ……!」
 正純は歯噛みして後方へ跳躍、距離を取り、再度の地狼の矢を斉射。ハウリングが子供達の身体を痛めつけ、それでもなお走る子供達の刃が、正純の腕を斬りつける。
「正純殿!」
 アーマデルが声をあげるが、しかし助けに行く余裕がない。次々と降り注ぐ魔法攻撃から身を守るので手一杯だ。いま、撃ち漏らした氷の欠片が、アーマデルの頬を斬った。流れる血。アーマデルは歯を食いしばった。
「『気に食わない』」
 アーマデルが言う。
「君たちの命を安く使い捨てる……使い捨てさせるやり方が。それは、『死者と生者の境界を保つもの』としてではなく、『俺』として気に食わない」
 アーマデルは吠えた。
「ミーサ殿は、『俺』に言ったんだ……君たちを助けてくれと。だから、『俺』は君たちを助ける……そのためなら……!」
「たとえ声が届かずとも、今は思いが伝わらずとも……」
 斬撃によって与えられた傷など気にも留めず、正純は再度の攻撃にうつる。
「今この時は! 血を吐き、血を流そうとも!」
 二人の守護者と、子供達の戦いは激化していく。
「Ra――」
「La――」
 二体のグロテスクな天使が、奇妙な歌を歌う。響き渡る衝撃が、イレギュラーズ達の脳内を揺るがすようにかき乱した。内側から爆発するような痛み。そして、酷く脱力するように喪失していく活力。
「これは……恐ろしい歌を、歌うのですね」
 グリーフが言った。その腕に、緑のラインの光が奔る。グリーフは聖獣の動きを止めるように立ちはだかると、
「しかし……その歌も、私を破壊することはできません。
 そう、あなたたちに私を傷つけることは、叶いません。
 たとえ傷つけられたとしても、殺すことはできないでしょう」
 グリーフに攻撃の手はない。ただ耐える、ただ立ちはだかる、ただ受け止めるのみである。
 されど。不壊たるその身体は、聖獣の攻撃を受け止め、そこにあり続けた。
「Ra,Ra,Ra――」
 天使A型が声をあげる。体に重くのしかかる様な怠さ。抜けていく、活力の類。
「なるほどね、君も魔力や、力を削ぐ戦法が得意なんだね?」
 マリアが少しだけ辛そうに、そう言った。もし、この戦い方が、以前から――聖獣へと変貌する前からのものなのだとしたら。
 もしかしたら、話が合った、かも、しれない、なんて。
「奇遇だね! 私もさ!! ただ、私の魔力削りはかなり荒っぽいよ!!!」
 体の紅雷が、蒼雷へ。そのまま電磁加速して撃ちだされた砲弾(からだ)が、Aタイプへ接触するや飛び蹴りを放つ。碧の軌跡を残して、Aタイプを吹き飛ばしたマリアが、
「ヴァリューシャ!」
「承知いたしましたわ! 主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え――!」
 挟み撃ちにしたヴァレーリヤが、聖句を唱えてメイスを突き出す。途端。放たれた衝撃波が、Aタイプを打ち据える。蒼の雷、聖句の衝撃、二つから挟まれた形のAタイプが、「Ra――」歌うような悲鳴をあげる。
「ごめんね、でも――!」
 マリアが再度、蒼雷を放ち、突撃する! 蒼雷はAタイプの身体を貫き、その雷の衝撃で以って、身体から『力』を奪い取る。
「R……a、a、――」
 その声がかすれる。その力がかすれる。マリアの攻撃により失われたが、そこへ入り込むようにマリアの雷が身体中を駆け回り、特大のダメージを与えた!
「……」
 もはや、その喉は枯れ、その力は枯れ、歌を歌うこと能わず。Aタイプはかすかな息をしながら、地に落下。
「……どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に」
 ヴァレーリヤの謳う聖句、その衝撃がAタイプに止めを刺した。衝撃に耐え切れず、その身体がバラバラに砕けていく。
「本当に……嫌な仕事だ……。
 ヴァリューシャ、大丈夫かい?」
 マリアが心配げにそう言うのへ、ヴァレーリヤは微笑んで見せた。

 一方、呪殺タイプのBタイプが「La.La.La――」歌う。呪いの歌は、イレギュラーズ達の身体を蝕む毒と呪いを振りまく。内側から走る痛みに耐えながら、マグタレーナはその軽量弓から、魔光を解き放ち、Bタイプを狙い撃つ。さく裂する光がBタイプの身体を走り、痺れるように激しく痙攣させた。
「ああ、ごめんなさい。貴方もまた、救われるべき子供達であったはずなのに」
 アドラステイアの使う聖獣とは、すなわち人の成れの果てである。アドラステイアと言う国の性質上、その素体となるのもまた子供達であるのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、いとし子よ。
 愛されるはずだったあなた。愛を受けて当然だったはずのあなた。
 わたくしは、あなたを愛しましょう。わたくしは、あなたに愛を与えましょう。
 わたくしは母として――あなたに最期を与えましょう」
 きり、と軽量弓を引く。呪言をその手にのせて、弦ではじけば、優しく飛ぶ。放たれた呪いの言葉が、Bタイプの身体を石化したかのように硬直させた。
「La,La,La」
 悲鳴とも、歌ともつかぬ声をあげるBタイプ。その声が、マグタレーナの身体を、内から傷つけた。
 ああ、いとし子よ。あなたは今泣いているのですね。
 マグタレーナが、ゆっくりと弓を引く――途端、駆け抜ける黄金の風が、Bタイプへと迫った。
「弱って自棄にでもなったかと思いましたか? ……バカめ、というヤツですとも!」
 傷ついた身体にてなおも活性化しながら、ステラは手にした武器を振るう。雷の如き瞬閃の一撃が、Bタイプの翼を斬り飛ばした。悲鳴をあげる、Bタイプ。ステラはそのまま、二撃目の瞬撃を振り払う。雷光の如き一閃が空間を切り裂き、Bタイプの胴体を泣き別れにした。断末魔の悲鳴をあげるいとまもなく、Bタイプが地に落下する。
 ステラはその一瞬後に着地し、身体を走る痛みと傷に、僅かによろけた。
「ステラさん!」
 マグタレーナが駆け寄るのへ、ステラは笑った。
「えへへ。大丈夫ですよ。それと、マグタレーナさん」
 ステラは頷いてから、続けた。
「『お母さん』が、『子供』を殺してしまうのは……どんな時でも、きっと違うと思います。だから、とどめ、とっちゃいました。ごめんなさい」
 マグタレーナは、一瞬、驚いた様子を見せると、すぐに口元に笑みを浮かべて見せた。
「ありがとう、ステラさん」
 マグタレーナの言葉に、ステラは頷く。
 かくして、天使は墜ちた。

●子供達の声
「アーマデルさん、正純さん、傷が深くなる前に一度下がってください」
 グリーフがそう声をあげて、子供達の前へと立ちはだかる。
「すみません、一度後退します。
 ……子供達を、どうか」
 正純がそう言うのへグリーフが頷いた。正純とアーマデルの攻撃によって、既に半数以上の子供達が倒れている。残り、イレギュラーズ達の力を結集すれば、倒すことは容易いだろう。
「……なんて目をするのでしょう。憎しみ、悲しみ、怒り、希望……すべてがぐちゃぐちゃになった悲しい瞳。どれほど美しい色でも、その全てを塗り重ねてしまえば、ただ、ただ、昏くなるだけだというのに……」
 グリーフは悲しげに言った。子供達の目に浮かぶのは、昏い色だった。
「以前、深緑で出会った子供達もそうだ」
 マルクが言う。
「こんな目を、子供達にさせちゃいけない。いけないんだ」
 マルクがゆっくりと立ちはだかった。幾度ものイレギュラーズ達の攻撃によって、子供達もすでに限界に近い。それでも、その武器を捨てることはせず、最後の一人になるまで戦うのだろう。
 それが、彼らを繋ぐ絆であり、彼らを縛る枷だった。
「……君の家族は、僕たちがそれぞれ預かっている」
 マルクが言った。
「危害を加えるつもりなんてない。ただ君たちに、違う未来を見せてあげたいだけなんだ」
「だまされるな!」
 リクが言った。
「家族を助けるんだ! 絶対に!」
 刃を振るう。マルクに、リクが切りつけた。マルクは手にした杖で、その斬撃を受け止めた。すでに疲労困憊に達している子供達の攻撃は、マルクが軽くいなせるようなものでしかなかった。
 それでも、彼らが止まらないのだという事実に、マルクは悲しさを覚えていた。
「君等のきょうだいは、ちゃんとここで暮らしている。少なくとも『僕らが殺した』というのが嘘だ、ってことは……ほんとうは解ってるんだろう?」
 マルクが言った。
「同じことを彼らにもいったんだけどね……最低限の衣食住と人間らしい生活は保証する。
 殺したり奪ったりする仕事を課したりする事も無い。
 家族で暮らすにはアドラステイアとどちらがいいか、比べてみるのもいいんじゃないかな」
「ぼくらには」
 リクが言った。
「オンネリネンの家しかないんだ……」
「それは違う」
 マルクが言った。
「それは……違うよ」
 子供達の目を見た。
 皆、悲しそうな目をしていた。きっと、選択肢を与えられず、一つの道だけが正しいのだと教え込まれた彼らは。
「……少しだけ、眠っていてくれ。
 目覚めたら……これからのことを、ちゃんと話そう」
 マルクが杖を掲げる。
 優しい聖光が、子供達を包み込んだ。邪悪を裁くその光は――邪悪こそを裁くのであれば。
 彼らの命を奪う事はない。その光に包まれたまま、子供達は意識を失って行った。
「アドラステイア、か……天義国外へ聖獣が連れてこられた事例は過去にも合った。
 けれどそれは幻想との国境近くの話だ。ここは旧オランジュベネ領、天義から遠い『幻想南部』だ……それだけの長駆を、一体どうやって……?」
 呟くマルクの言葉に、答えるものは居ないまま。
 子供達の襲撃は、ここに幕を下ろした。

成否

成功

MVP

マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 アドラステイア、そしてオンネリネン。
 彼らの根源を断つときは、何時なのでしょう。

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