シナリオ詳細
クリサリスの述懐
オープニング
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●君の夢はなんだった?
将来、大きくなったら冒険者になりたかった。
人を助けたり、感謝されたり、褒められたりしたかった。
「ッ――!?」
轟音と暴風。首が取れるのではと思うほどの衝撃と共に視界が回転し、木目の壁を粉砕しながら馬小屋を通過。更に数枚の壁を壊しながら回転し、最後にはぬかるんだ土の上を転がった。
全身の感覚はないが、身体はどうやら動いているらしい。
片目が潰れたのか、はたまた多量の出血のせいか、視界がかすむ。
なんとか動かした片腕を地に着け、身体を起こすと、つい先ほど自分のせいであいた穴の向こうから人型の影がゆらめいたのが見えた。
「いけませんねえ。いけません……」
スポーツマンのような引き締まった肉体。傷ついたジーンズパンツ。むき出しの上半身やや長い両腕はだらんと垂れ下がり、肘から先は赤黒く汚れていた。
右手の指をこきりこきりと鳴らして動かすと、顔についた丸眼鏡を人差し指と親指でそっと押すように位置を直した。
眼鏡レンズの反射で、かろうじてその輪郭だけがはっきりと見える。
顔をあげたことが、わかる。
十メートルほどの距離があったにも関わらず、もう目の前にその顔はあった。
「『あの姿』を見た人間は、皆死ななくてはいけません」
顔面に、手がかかる。
鉄のにおいと、圧力。
ボキンというくぐもった音が、自分から聞こえたのが分かった。
●潰えた夢と亡霊の証言
天義。その首都郊外。
ローレットに協力する情報屋ラヴィネイル・アルビーアルビーはそこまでの内容を絹のようにさらさらとした声で語ると、開いたままの手帳を置いた。
「今のが、現場に残された霊魂からの証言です。恐怖に支配されていて、これ以上の情報は得られませんでした。それ以外の方法でも調査はされましたが、『それ』がなんだったのか……どういう生き物だったのか。そもそも生き物ですらあるのか、まだ分かっていないんです」
牧場のようにもみえる、広い広い草原の一角。小屋の外に置かれた椅子に座った彼女は、晴れた空とずっと向こうに見える山へ振り返った。
ちょうどそのあたりに、今し方話した『ウェールチット』という村があったらしいのだが。
「先日未明、ウェールチットの住民がすべて殺害されていました。
酷く破壊されていて身元の特定には時間がかかりましたが、皆その場所の住民だったとあとで確認がとれたそうです。周辺の村はこの情報をもとに避難や防衛を始めていますが……」
そこまで語って、ラヴィネイルはフウとほそくため息をついた。
「正体の分からない怪物を警戒し続けるのは、きっと人にとってとても重いことです。
周辺の村長たちからの連名で、ローレットに調査の依頼が入りました。
おそらくその『何か』が向かったであろうもう一つの村……『エリーサベト』へ、調査に向かってください。
依頼内容は『調査』です。それ以上のものは求められていません」
振り返った先。
その怪物だかなんだかを倒してしまえばいいんだろう? そんな顔をしたイレギュラーズに、ラヴィネイルは目を細めて、どこか悲しそうに言った。
「もう一度、言います。依頼内容は『調査』です。
そのために、命を投げ出すようなことはしないで」
やがて依頼を受けたあなたは、仲間達と共に『エリーサベト』へと足を踏み入れる。
その場所になにがあるのか。
何が待っているのか。
どんなことが起こるのか。
わからないまま。
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- クリサリスの述懐完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月22日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ウェールチットの悲劇から
ぱきり、と小枝を踏んだ。
乾いた土は長い年月で踏み固められ、馬車が通ったであろうわだちの跡がいくつにも重なりまるでレールのようだ。
ここはウェールチットからエリーザベトへと続く道。
一見何の変哲も無い、道。
しかしここまでに通ってきたウェールチットの風景は、あまりにも悲惨なものだった。
無残に破壊された遺体は回収され、別の地域の者が代表して弔ったというが、家々は酷く損壊し馬や山羊といった家畜までもが過剰なまでに破壊されていた。
それによる軽い腐敗臭やたかった虫が、この世の終わりを思わせる。
「あんな状態が、また繰り返されるのかしら」
『神は許さなくても私が許す』白夜 希(p3p009099)は資料を片手に、轍のあとを仲間達と共に歩いていた。
「まるで夜妖案件のような事件だな。『まともな人間』の仕業でない事だけは確かだ、という意味で」
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は蛇鞭剣ウヌクエルハイアの弾倉に連なったメダル状の弾をこめると、握った手で叩いてガチンと蓋を閉じた。
「集落全滅だと数が居るか、余程強力な個体なのか……いや、予断は良くないな。少なくとも『まともじゃない』のだから……」
「そういえば、損壊状態が激しかったのだったな」
『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は杖の先端を地面にトンと当てると、杖を通して魔力を循環させ始める。既に臨戦態勢、というわけだ。
「ただ殺すだけなら殺人鬼。過剰に破壊するならもはや怪物だ。
霊魂もそこまで恐怖に染まっているとなると、異常なまでの化け物がいたんだろうな」
予想はいくらでもできる。今からするのは、確認だ。
「どちらにせよ死者の尊厳を穢している以上、はやく討伐したいものだが……。
この情報の少なさでは無謀だろう。この調査でその化け物のことを探り当てれるといいな」
「うん」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はそっと手をひろげ、眼前にかざした。
「目に見えない怪物は殺せない。けれど、見えたなら殺せるはず。
『空想の怪物』に怯える人達を救うためにも、これから本当に殺されてしまうかもしれない人々を救うためにも……」
光のなかに溶け出たように、白い羽根が一枚浮かぶ。それをぎゅっと握りしめた。
「必ず、正体を明かそうね」
「話に聞いただけでも、随分と“破滅的”な存在だ。
ならば滅ぼさねば……と言いたい所だが、ラヴィネイルの言う事には素直に従うべきだな」
しばらく歩いて行くと、エリーザベトの村が見えてきた。
村と村の間は森に阻まれており、通り抜けるには道が使われる。道と言っても、先ほどまで歩いてきたような土の道。ながく馬車が行き来したことで草や木がはえなかった場所であり、それをたどれば到着できるというものにすぎない。
逆に言えば、道をたどるでもしなければ村にたどり着けないほど、このあたりは森に視界や方向感覚を奪われていた。
「いつかは滅ぼさねば、やがてこちらが滅ぼされるだろう。
これはそうさせない為の、いつかは滅ぼす為の布石を置く段階と心得よう」
『いやー、滅ぼすのはいいんだけどさー……』
『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)、その虚サイドが片手を顔の前にかざした。小指が無意識に震えているのがわかる。古い恐怖の記憶がよみがえり、肉体に警告する一般的なサインだ。
『めっちゃビビってんな俺。でも、ヨエルに約束したもんな……』
「何があっても動じるな。感情を殺して目の前の事に集中しろ」
『感情って殺せるの? 生き返る? それ?』
「いいから集中しろ。そうでなければ肉体ごと死ぬだけだ」
稔は眼鏡を取り出し、スッと装着する。アンダーリムの黒い眼鏡だ。
特別必要なものではないが、心理的なガードになる。
そんな様子を横目に見ていた『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は、深く息を吸って、そして長く吐いた。
(単なる調査では、済まなそうだ、な。もっとも、そうでなければ、我々が来る意義も薄い、が)
本件を『アドラステイアがらみ』と見て参加を希望したイレギュラーズは少なくない。地理的に近い位置であることや、霊魂の目撃証言になにかしらピンときた者がいたからだ。
エクスマリアは、どうだったろうか。
(わからんな……アドラステイアの関連か、或いは在野の魔種、肉腫ども、か。なんにせよ、心して臨もう、か)
アドラステイアと聞いて彼女が思い出す事柄はいくつもあるが、特に印象深いのは自分を拉致しようとしたダサいネクタイの男だろうか。彼もどうやらアドラステイアに絡んでいるようだが……。
「『あれ』は、こういうことを好むタイプでは、なさそうだな」
「……」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)がエクスマリアのつぶやきに反応してちらりと視線をやった。
どれのことだろうと考えて、ふと思い出す。
『雷桜の聖銃士』ジェニファー・トールキン。秘密教会に保護……と呼んでいいのか、少なくともそこにいる少女。
彼女の肉体は確かにとらえたが、心はまだあの塀の――アドラステイアのなかにある。
信じたものを覆すのは難しいものだ。ココロ自身の信じるものを誰も奪えやしないように。
(アドラステイアの中は未だ不透明で、切込を入れる場所すら見つからない。
この村に何か手がかりがある、と断言はできない。無駄足かもしれない。でも……)
見つめなくちゃいけない。それが信じがたいことであっても、目をそらしたくなるような事柄であっても。
「目を開けて手を伸ばさなくちゃ、相手の手は掴めない」
ココロは手を伸ばし、見えないなにかを握りしめた。
●エリーザベトの悲劇へ
村は激しく損壊していた。
建物ひとつとっても、全焼し柱数本しか残らない家屋や、壁や屋根の一部が破壊され風が吹き抜けている家屋が目立った。無傷な家屋はほぼ無く、仮に居住するならいちから建て直すほかないような状態ばかりだった。
家畜も残っていたが、そのすべてが例外なく抹殺されている。
希は、無意味に思えるほど派手に破壊された山羊の死体へかがみ込み、口元にあてたハンカチごしに息をついた。
「何かの余波で偶然殺された……ってわけじゃなさそうね。狙って殺してる」
「なぜ山羊まで殺す必要がある? 見た者すべてを抹殺するなら……いや」
R.R.は顎に手を当て、はたと思い入った。
今回の情報は霊魂から得たものだ。可能なら植物や動物、そのへんの石ころからでも情報を収集しただろう。そんなとき、動物が生きていたならそれなりのインタビューが可能になるはずだ。
「情報の流出を避けた? しかし霊魂まで消し去っていないのは半端だ。その手段がないのか……それとも、『そこまでの情報は漏れてよかった』か」
恐怖で塗りつぶされ情報が得られなかったという所も、もしかしたら関係しているかも知れない。
「とにかくまずは、生存者を見つけましょ。耳を使ってサーチして。私は空から俯瞰する」
R.R.が耳をすませ探索を始めた頃、エクスマリアもまた深く耳をすまし、周囲の半壊した建物を透視しながら慎重に歩を進めていた。
予め村に入る前、外周をなぞる形で三方向に分かれていたイレギュラーズたち。エクスマリアたちのチームは建物の多いエリアの担当だった。住民もそう厳密に区別したわけではないだろうが、R.R.たちの担当が農場区ならさしずめこちらは居住区といった所だろうか。
「生存者はいそうか。そもそも、人間は」
Tricky Starsは半壊した建物の壁面に手を触れ、そして目を閉じた。
しばらくそうしていると、彼のかざした手の中に戯曲(台本)となって現れる。
エクスマリアはその様子にまばたきをすると、Tricky Starsのもとへと歩み寄る。
「資料で、見かけたな。『Hollow Truth』、か」
その能力があるなら聞かずとも分かるんじゃないか? エクスマリアはそう言いたげだったが、Tricky Starsはただ首を振って戯曲のページをめくった。
「この力で分かるのは、辿ってきた歴史と込められた想いだ。サイコメトリーと一緒にしてもらっては困るな」
「どう違うの?」
スティアは道ばたにはえた草をそっと撫でてから立ち上がり、振り返る。
「『ジュリエットが服毒する悲劇やその想い』は分かっても、その毒の成分やその日付を知ることは無粋だ」
「『無粋』なんだ……」
「力や形とはそういうものだ。もし必要性だけを突き詰めるなら、人間は人間の形をするべきでない。だがこの形だからこそ純粋で美しい」
ぱたんと戯曲を閉じ、かけていた眼鏡をゆっくりと直す。
「美術の議論は、興味深いが……今は、情報が欲しい」
エクスマリアの発言に、Tricky Starsは苦笑した。
「この村エリーザベトはごく普通の……ああ、この家に暮らす者からすれば普通の村だった。平和な、当たり前に不自由で、当たり前に豊かな。だがあるとき、ひとりの男が――子供を一人だけ連れて訪ねてきた。それから一日とたたず、村のすべては壊れ去った。ということらしい」
「ちょっと抽象的だね。けど、情報は増えた」
スティアは道ばたで揺れるタンポポの花を振り返ると、『この子達が教えてくれたよ』といって道の端から、酷く壊れた家屋の一つに向けて指を線を引くように走らせた。
「こう……いうふうに、大きな物体が通り抜けたあとがある。踏み方が規則的で、そんなに重みをのせてないから、たぶん意志のある生き物だと思うよ」
ぴくりと片眉をあげるTricky Stars。
「そこまでぺらぺらと喋ったのか? タンポポの花が」
「たんぽぽは喋らないよ」
スティアはTricky Starsを真似るみたいに苦笑して、そしてそっと花へ屈んだ。
「けどこの子達は身体にいろんな物語を残してる。浴びた雨、浴びた光、踏みつけた誰かとか……しみこんだ、血とか、薬とか」
「……薬?」
エクスマリアはその単語を聞き漏らさなかった。
「血以外になにか浴びたのか」
「うん。どんなものか分からないけど、きっと人によくない薬だと思う……」
真実に近づきつつある。
そう、ココロは自らの胸元をぎゅっと握りしめた。
「このあたりの霊魂は、危ないな」
グリムがそうつぶやくと、アーマデルもそれに同意して頷いた。
「危ない、って?」
足を止めて振り向くココロ。目の前には教会のような建物。集会場を兼ねているのか、教会としての造りは最低限に、横に広く建造されている。さび付いた鐘が、やけに印象深い。
アーマデルは数秒言葉を探すようにして指を宙に振ってから、ココロにわかりそうな言葉で話し始めた。
「霊たちが恐怖や強迫観念に縛られている。凄惨な殺人現場だとか、戦争の跡地だとかに、人に害なす悪霊モンスターが発生することがあるだろう。この場所も放っておけばそうなりかねん」
思わず身構えたココロに、『まあまて』とグリムが手をかざす。
「そのために墓はあり、そのために葬式はあがるんだ。自分たちの本職を忘れたか? そう、墓守と……」
「いや、まて。俺は別に葬儀屋ではないが……まあ、その関係者のようなものか。危ない霊魂は見つけ次第浄化を試みておく。完全な鎮魂には時間がかかるから、調査や諸々が終わった後になるだろうが」
「そっか……」
ココロは改めて、目の前の教会を調べてみることにした。
教会は他の建物と同様ひどく破壊されているが、屋根や壁が吹き飛んだり全焼したりといったレベルの壊れ方には見えなかった。そう言う意味で、『無事な建物』と呼べたかも知れない。
中に入ってみると木製のベンチが乱れた並び方をし、その一部にはべっとりと血がついている。
「このにおい……」
血、に混じって奇妙な匂いがした、ような気がした。
ココロは確証をもてないながらも、ベンチについた血を指ですくってみた。
まだ指につくほど。つまり渇いていない。ココロは何か予感めいたものを抱きハンカチに血を吸わせ。そして自分のポケットへとねじ込んだ。
「どうした? 急に……」
グリムの呼びかけの一方、アーマデルは敏感に何かを……否、音を聞き取っていた。
「何か来る。人間の足音だが不自然だ。警戒し――」
言い終わるよりも早く。
教会の壁が外から崩壊し吹き飛んだ。
●走れ
振り向いて観察する余裕も、増して立ち止まって戦う余裕もなかった。
「二人とも、まだ生きてる!?」
ココロは僅かに振り向き、片手に抱えた魔道書を開く。浮きあがる波音のような魔素がかざした手に集まり、『ヴェノムクラウド』の魔術炸裂弾となって発射された。
放たれた魔術――を、巨大な白い腕が粉砕する。
あがる煙をわって現れたのは、右肩からさきが不自然に巨大化した少女だった。
「にげないで。わたしはともだちよ」
抑揚の全くない声でそう呼びかける少女は、次の瞬間めきめきと肉体全体を変化。全身を真っ白な女性型の巨人へと変えると、すさまじい速度で走り出した。
「追いつかれるぞ。ココロ、先へ行け!」
アーマデルとグリムは同時にブレーキアンドターン。
グリムは自らの胸に手を当て『祝福のブローディア』を発動。肉体を聖域化しあえて前へ出た。一方アーマデルはメダル型のショットガンを発砲。スピードの乗った巨人の拳をグリムが押さえ――きれずに吹き飛ばされ、アーマデルに激突しまとめて転がっていく。
「倒せる相手か?」
「不可能じゃあないだろうが、誰か死ぬかもわからん」
「今やるべきじゃない、ね!」
倒れた二人を引っ張り起こし、ココロは……三人は再び走り出した。
別の場所では同じように戦闘が起きていた。R.R.と希はそれぞれ美しい装飾の入ったマスケット銃を構え、同時に発砲――するが、少女の上半身がはえた銀色の獅子はそれをジグザグな走行で回避し、R.R.の顔面へと爪を繰り出した。
すんでのところでかわし、後方へ転がる。
(破滅の音色が頭を掻き乱す。
奴を殺せと騒ぎ立てる。
だが、駄目だ。耳を貸してはならない。
俺達にはこの命と情報を――)
「持ち帰る義務がある!」
「相手が素早すぎるわ。私達で即座に当てられないなら、対策なしで勝てる相手じゃない」
希は銃をはじめとした武装をドローン化しプロトコル『心なき魔女の兵隊』を発動。
一斉掃射で足止めをしかけると、途中まで移動させていた『メサイア・ミトパレ』へと飛び込んだ。同じく飛び込んでいくR.R.。
「他のチームを回収して回れるか?」
「共倒れの危険を侵せばね。けど、今は仲間を信じて撤退しましょ」
R.R.はこちらを追いかける獅子の少女へ振り返る。獅子からはえた少女の上半真がぐにゃりと動き、世にも美しく笑った。
「待って。一緒に遊びましょお」
開いた手にべっとりとついた血は、R.R.たちのものではない。
その存在ごと放つ破滅の気配に。R.R.は歯がみした。
「必ず滅ぼす。『貴様ら』を」
他のチームが『人間から変化した怪物』と遭遇する一方――エクスマリア、スティア、Tricky Starsの三人はまたべつのものと遭遇していた。
「おや、おや……」
優しく低い男性の声だった。
丸眼鏡をした、上半身裸の、やや腕の長い印象のある男性だった。
背は高く、彫りの深い顔。
仲間がかつて事細かに記してくれたアドラステイア内部調査資料――中でも実験区画フォルトゥーナの神父バイラムの特徴に、それは一致していた。
「こんな所で出会うとは、奇遇ですね。ギルド・ローレット」
「戯曲に登場した人物はこいつか……だが」
Tricky Starsは腕からひどく血を流し、よろよろと後退していた。
一方でスティアがかざした手に魔法を集め、天使の羽根が集まった白い剣を作り出す。
「私が隙を作るよ。その間にみんな逃げて」
「反対だ。二人の安全のために一人の命を晒すことになる」
エクスマリアは二人を頭髪による伸縮ロープで掴むと、多脚戦車のごとく走って撤退。
その間に切り離した雷の弾を放り投げ、ファーザー・バイラムを牽制した。
バイラムはそれでも追跡してくる――かに思われたが、スティアが振り返るとただ立ったまま、走り去るこちらを見つめていた。
もう『用は済んだ』とでも言うように。
「情報を持ち帰ろう。そろそろこちらも、本格的に動くべきだ……」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――依頼完了
――全員無事に帰還することができました
エリーザベト村では以下のことがわかりました
・隣村及び当村では住民が皆殺しにされていた
・事件はアドラステイアのファーザー・バイラムが起こしたものである
・村に来た時点では『一体』だった怪物が『二体』に増えている。
・怪物は聖獣と思われるが、部分的にだが人間のように振る舞っていた
GMコメント
●オーダー
このシナリオは『調査シナリオ』です。
もし命を大事にして終わらせた場合、被害は最小限に済むでしょう。
ですが欲張って突っ込みすぎると、最悪命を落としかねません。
●エリーサベトについて
山中にある村です。
立地的に『独立都市アドラステイア』の北西部にあり、関連が疑われています。
それがこのシナリオアイコンがアドラステイア由来になっている理由です。
この村に入り、そこがどうなっているのか調査する。
これが依頼内容です。逆に言えば、これ以上のことを求められていません。
また『この場所で何がおきるか』全く分からないので、その分構えて生きましょう。
●調査プレイングのすすめ
『ぱっと思いついた予想をしてみる』といったプレイスタイル今回あまりお勧めできません。
『何があるか分からない場所』に対して『自分の持ちうる調査能力、ないしは方法』をプレイングに書いてみてください。
もし調査や探索がからっきしだよという方がおりましたら、調査に全振りした仲間を護衛するといったスタイルをとってみるといいでしょう。
また、村が全滅したという背景から戦闘行為が予想されます。
どれだけの相手が現れるか全くわかりませんが、本当にヤバいものが出てきた際にある程度抵抗しつつ逃げるという動きが出来るように構えておきましょう。
もしほんとうにほんとうにこの未知の相手を倒せる自信がありましたら、そのための作戦を立てても構いませんが、その場合シナリオ難易度が1~2段階はねあがってしまうリスクが御座います。どうかお気を付けください。
そして必要無いかも知れませんが……こちらの警告文を付け加えておきます。
『●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします』
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●独立都市アドラステイアとは
天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia
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