PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>ゴリラマジシャン

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●巫山戯た様な狂気を孕んでおきながら
「紳士淑女の皆様、ようこそお集まりいただけました。これより当サーカス秘密のマジックショーをお見せいたしましょう!」
 それは一匹のゴリラだった。
 タキシードに身を包み、シルクハットをかぶって、ステッキを持ったゴリラ。
 多種多様な種族が存在する混沌ではあるが、やはりゴリラというのは目を引くものだ。その上、マジシャンじみた格好をしていればなおさらだった。
 小規模な村というのは、娯楽に乏しい。その為か、奇怪な恰好のゴリラが現れたと聞いて、あれよあれよという間に人が集まっていた。
 ノーブル・レバレッジ作戦の成功に伴い、貴族も民衆も今や一丸となってサーカス団の排除へと動いている、
 公園の取り消しを受けたサーカス団は逃走はを開始したが、団結した人間というのは強いものだ。既にサーカス団の壊滅は時間の問題だと言えよう。
 しかし、彼らは知らなかった。いや、知ってはいたがまだ実感していなかったのだ。
 追い詰められた手負いの獣が、如何に恐ろしいのかということを。
「私のシルクハット、中には何もございませんね? ですがこの魔法のハンカチを被せて呪文を唱えれば」
 ワン・ツー・スリー。
「ご、ゴリラが出てきた!?」
 そう、一匹のゴリラが窮屈そうにシルクハットから出てきたのだ。
 体長は目測で180センチメートルに届かない程度。つまりはオスだ。
「さあ、どんどんいきますよ! ワン・ツー・スリー!」
 そうすると、今度は立て続けに2体のゴリラが飛び出してくる。
「そんな、無限にゴリラを呼び出せるのか!?」
「いいえ、バナナの消費が激しいので、2週間に3体が限界です。それよりもお客様?」
「え?」
 驚いていた村人が、ゴリラに両腕を掴まれる。
 人間を超えた握力に動かすことなど出来ない。ゴリラの表情は読み取れない。一体何をしようというのか。先程までの余興の空気が一変し、笑声がかき消える。
 ゴリラはそのまま、村人の両手を力任せにぶつけ合い始めた。
 ごしゃり。ごしゃり。右手と左手が叩き合わされて、ひしゃげていく。見るも無残なそれはまるで、
「マジックが成功したら拍手だろうううう? マナーがなってねえ客はこれだから嫌なんだよ! 理解できましたあ!?」
 豹変したゴリラマジシャンに問われるが、痛みで村人は気絶している。
 それを見て興味をなくしたのか、ゴリラマジシャンは村人に振り返り、今度はステッキを掲げてみせる。
「さあ、次なるマジックは――」
 ゴリラマジシャンの顔にはもう狂気の色は浮かんでいない。
 いや、そうではない。そうではないのだろう。彼はとうに、最初の最初から逸脱しているのだ。
 サーカス団が追い立てられる側に回ったことなどとうに承知しているはずだ。にもかかわらず、堂々とマジックショーを宣言してみせた。
 ジャコビニの命を受け、サーカス団は脱出すべく各地で騒ぎを起こしている。
 だが、目の前のゴリラは違う。
「人体、ねじ切りショーなんていかがでしょう?」
 やりたいからやっている。やりたいようにやっている。誰彼お構いなしに。自分だって追い立てられているだろうに。生き残ることすらまるで視野の外。
 ダメだこれは。ダメだこいつは、狂っている。
 数え歌を口ずさみながら村人を協力者に選ぼうとするゴリラを前に、皆が我先にと逃げだした。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

サーカス団の団員、ゴリラマジシャンがとある村で暴れています。
これの討伐に向かい、村の平和を取り戻してください。

【エネミーデータ】
■ゴリラマジシャン
・シルクハットからゴリラを出すゴリラ。バナナの消費が激しいので、2週間に3体までしかゴリラを出すことがが出来ない。また、呼び出したゴリラは1週間で消滅します。
・ゴリラなので、力任せの攻撃が得意。自慢のステッキを握り、パンチで攻撃してきます。
・バナナを補給することで回復しますが、この近辺には生えていないし、持ってきてもいません。

■ゴリラ
・ゴリラマジシャンに呼び出されたゴリラ。
・3匹います。
・ゴリラなので、力任せの攻撃が得意。また、ゴリラなので味方を投げ送り、隊列をかき乱します。
・ゴリラなのでドラミングで自己強化を行います。
・ゴリラなので最後のゴリラになると怒りで金色になります。この時、ゴリラの攻撃力は2倍です。
・ゴリラなので手からビームを出せるのですが、バナナが足りないのでシナリオ中に使ってくることはありません。

【シチュエーションデータ】
□とある村
・娯楽に飢える程度には何もない村。
・村人は今の所全員無事に逃げていますので、戦闘に巻き込む可能性はありません。

  • <Liar Break>ゴリラマジシャン完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
ローラント・ガリラベルク(p3p001213)
アイオンの瞳第零席
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
レンゲ・アベイユ(p3p002240)
みつばちガール
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー

リプレイ

●茶化した様な瘴気を纏っておきながら
 ゴリラの気持ちになりたいのなら、勇ましく胸を叩け。遠くまで鳴り響くように。強く、強く、強く、強く。そうするとよくわかる。結構痛いことが。

 その村は、娯楽に飢えている。
 流通に乏しく、閉じた社会ではどうしても文化的な流入を見込めないためだ。
 そのために、小さな娯楽にも惹かれてしまうのだろう。
 手品師が来るなど数年に一度あるかどうか。ましてそれがゴリラだと言うなら物珍しさに一度拝みたくもなる。
 かと言って、こんな珍しさは御免被るが。
「私の知ってるゴリラと違う。妬ましいわ……」
『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)が資料に目を通してそれを点にした。
「いや、え? 本当に知らないんだけど。いえ、見た目は知ってるゴリラなの……でも、私の知ってるゴリラって、森の賢者って言われてて……ローラントさんがそれっぽい、のかしら……?」」
「ゴリラvsゴリラ&ゴリラっす!」
 文字として起こすと改めてわけがわからんが、『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)はとても意気込んでいる。なにせ今日はゴリラが呼び出したゴリラをゴリラと一緒に倒すのだ。誰だ全体でこんなもんぶちこんだのは。
「今日は正義のゴリラの手助けをするっすよ!」
「この世界にも、言葉を話せるゴリラがいたことは嬉しく思うが……残念だが、良き友人にはなれそうにないな」
『GORILLA』ローラント・ガリラベルク(p3p001213)は芯の熱い、心優しきゴリラだ。
「大いなるゴリラパワーには大いなる責任が伴う。罪無き者に向けていいものではないのだ。止めさせてもらうぞ」
「ゴリラとゴリラのぶつかり合いを最前列アリーナ席でただただ眺めていたい。そんな欲求に駆られているわたくしがおります」
『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)の気持ちはわからないでもない。しかし相手は4ゴリラ。1ゴリラで立ち向かうには些か無理がある。やはり戦う仲間は必要だろう。
「あたし、ゴリラってまだ一度も見たことがないの。とても凶暴で野蛮な猛獣なのでしょう? 怖いわ」
 他の仲間が『みつばちガール』レンゲ・アベイユ(p3p002240)を「何いってんだこいつ」という目で見ている。無知であるというのは悲しいことだ。ゴリラを知らないなんて。いやほら、れんげー、うしろうしろー。
 なんと、『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は以前にもゴリラと戦ったことがあるというのだ。なんというゴリラ経験値。これは初ゴリラと比べれば大きなアドバンテージだろう。
「お前は彼とは違うな。ああ、とても邪悪だ。故に、滅する!」
 前のゴリラは邪悪じゃなかったらしい。良いゴリラってどんな、ああ、いや、いたわここに。
「敵もゴリラで仲間もゴリラで!? ゴリラって何だっけ……霊長目ヒト科ゴリラ属――地球での常識が懐かしいわ」
『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)がどこか遠くを見ている。
「と、ともかく! サーカスって、楽しい思い出と余韻だけ残して日常の彼方に消える……そこまで出来て初めて一流。そう思わない?」
「逃げ出したサーカスは、各地で一斉に騒ぎを起こしたみたいね~。この小さな街にも不思議なゴリラが現れたみたい。でも、こちらにもイケメンゴリラのローラントちゃんが居るのよ。んふふ~、頼もしいなぁって」
『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)は今日もどこかぽわぽわとしている。ゴリラの美醜ってどういう基準なんだろう。やっぱドラミングかな。
「サーカスのゴリラなのですか。きっと多彩な芸をするのですね」
『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)が知るサーカス団の動物といえば、ちょっと危険な芸をするものだ。獅子が火の輪をくぐったり、象が玉乗りしたりするのだ。だが、今回のゴリラは使われる方ではなかった。
「え、マジシャン? 私の知ってるゴリラとは違うのです」
「マジシャンゴリラに空飛ぶゴリラ! ゴリラも色々いるけれど―! うちのゴリラがきっと一番!」
 高らかに、『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)。待って、空飛ぶゴリラ気になる。凄い気になる。
「ゴリラと一緒にゴリラを倒すぜロックンロール!」
 隠して勇者たちは、ゴリラを先頭にゴリラへと戦闘を挑みに行くのだ。
 頑張れゴリラとイレギュラーズ。え、ゴリラもイレギュラーズ? ともかく、村の平和は君たちにかかっている。

●戯けた様な怒気を発しておきながら
 サーカス団というのは厳しい世界だ。そこではただゴリラだというだけで食っていくことなど許されない。そこでマジシャンになったのだ。磨いた芸で一員となるために。ゴリラ要素が役に立たなくなってしまったが。

「遅かったではないですか」
 イレギュラーズの姿を見るなり、シルクハットをかぶったゴリラがほくそ笑んだ。
「この通り、当舞台は閑古鳥の泣いている有様でしてね。お客様のひとりも欲しかったところなのです」
 その筋肉質な肉体が、着ているタキシードをぎちぎちに引き伸ばしており、マジシャンと言うより要人警護か何かのようだ。
「それでは、観客の皆様からステージでお手伝いしていただきましょうか!」
 それが開始の合図となった。

●囃し立てた様な怖気を講じておきながら
 ところで気づいたんだが、マジシャンから先に倒れると後もうただの害獣駆除だな。

 視神経を活性化させ、狙いを定めていたエンヴィは驚愕する。
 3体のゴリラが、こちらに向かってくるでもなく己の胸を叩き始めたからだ。
 ドラミング。
 まず自己強化からスタートするのは定石とも言える戦術のひとつだ。それを理解しているのであれば、なんと知能の高いことか。
 だが、それを統括するはずのゴリラマジシャンは、こちらへとまっずぐに駆け込んできていた。
 やはりマジシャン一匹だけ別物なのだろう、スキル構成とかそういうのが。
 ステッキを握り込んだ拳を振りかぶるが、前に出た仲間がそれを押し止めている。
「ステッキは攻撃に使わないのね……自慢のステッキらしいから、壊したくないのかしら。よっぽど大事なのね……」
 双銃の引き金を絞る。
 放たれた2つの魔弾は、違うことなくマジシャンを穿ちていた。

 エリザベスがオーダーを発すると、空中に縦向きの方陣が描かれ、そこからミニサイズのゴリラが飛び出し、ステッキを握った拳を振り回すマジシャンへと駆けていく。
 またゴリラが増えた。だって戦闘能力のある召喚物としか書いてないんだもの。
「馬鹿な、バナナの消費もなしにゴリラ召喚を!?」
 自分の秘術に似たそれに驚愕するマジシャン。
「さあ、そのガチムチな筋肉の弱点は何でございますか!? 意外と優しくくすぐったらエクスタシーを感じたり!?」
 見たいか、それ?
「それにしても、ゴリラは本来、ローランド様のような心優しい紳士な生き物と聞き及んでおります。それがどうしてこのような凶行を……何か特別な理由があるのか、もしかして彼等はゴリラのように見えて実はゴリラではなかったり? ゴリラとは一体……うごごご!」

「……ローラント、貴方ゴリラだったのね!?」
 敵の姿を確認し、驚愕するレンゲ。遅えよ、とは皆胸中での叫びにとどめた、
「あたしの役割はヒーラー! 戦線を支える重要な役割よね」
 胸を張って宣言する。相手にも聞こえているが、いいのだろうか。
 だが、圧倒的な膂力を持つゴリラを前にして、癒術の存在は非常に重要だ。ゴリラに対し、血で血を洗うだけの闘争など自殺行為に過ぎない。
 だが、此度のレンゲはただのヒーラーで終わったりはしなかった。回復は重要な役目だが、攻撃の手を減らしているのもまた事実なのだ。
「……大丈夫、あたしは完璧な才女だもの。攻撃だってきっと上手くできるわ」
 周囲の確認を怠らず。脳内で組み立てていた術式のパッケージを入れ替える。
 放たれた術式は、確かにゴリラの胴体を焼いていた。

 砲台用意。
 バレーボールでいうレシーブの様な構えをとったゴリラの手の上に、別のゴリラが足をかけた。
 そしてそれを持ち上げるベクトルを利用し、ゴリラが空高く跳躍したのである。
 ゴリラジャンプ。
 跳び上がったゴリラは両手を振り上げると、そのまま自分が落ちる重力を利用し、ひとつの砲弾となって叩きつける。
「あらあら~、ここから先は通さないわよ~」
 しかし、その攻撃はレストによって受け止められた。
 攻撃を阻んだ旅行鞄がぎしぎしと音を立てるが、壊れてしまうようには見えない。盾の代わりにできるなど、なんと堅牢なのだろう。
 鞄の取っ手を掴み掲げたままの姿勢で留め具を外す。ぱかりと開かれた中から取り出されたのは、一本の傘だ。
 それを長銃のように片手で構えると、受け止められたゴリラに向けた。

「荒ぶる同胞よ! 力に振り回されし哀れなる者たちよ! もし君らに、僅かでもゴリラの矜持が残っているのなら、まずこのゴリラを倒し乗り越えてみせよ!」
 高々と名乗りを上げるローラント。
 この場には、ゴリラの矜持ってなんだろう。とか突っ込むやつはいなかった。
 だが、呼び出されたゴリラたちは見向きもしない。それはそうだ。彼らはゴリラ。人間の言葉はいまいちよくわからない。
 だが、それを解するなら話は別だ。
「ゴリラの矜持ですと? そんなものはいらねえよ! マジシャンは客の拍手があればいいのさあ!」
 振りかぶられた大きな拳を、ローラントもまた肉厚的なそれで受け止める。ぎりぎりと、軋む音。
「マジシャンよ。君は奇術師としても、ゴリラとしても未熟だな。客の拍手が得られないのを客のせいにするとは、エンターティナー失格では無いのかね?」

 ゴリラが砲弾のように投げ込まれ、布陣を崩された時、ジルがここぞとばかりの秘策に出た。
「あ、なげるやつ間違えたっす!」
 持ってきていたバナナのおもちゃを投げつけたのだ。
 戦闘は血と土の匂いが蔓延するもの。さしものゴリラも匂いによる判別がつかなかったようだ。
 大好物を前に野生が抑えきれるわけもなく、ゴリラは明後日の方に投げられたバナナのおもちゃに向けて思わず飛びついた。
 空中で見事にバナナをキャッチするゴリラ。バナナを力の源に変え、スキルを発動させる。
 両手で球を作るように腰だめに構え、裂帛の気合とともに青白く光るビームが――出なかった。
 だっておもちゃだからね。
「痛いの広がれーっす!」
 その隙きを突いて投げ込まれる毒顔に命中。クリーンヒット。眼球に毒汁。悶えるゴリラ。転がるおもちゃ。悲鳴。悲鳴。

 悶えるゴリラの脳天に、汰磨羈の空襲が突き刺さる。
「本気で引っかかるとか。貴様、それでもゴリラか!」
 ゴリラ以外相手にこんな作戦しなかったと思う。
 回転力をプラスされた強烈な踵落とし、そして命中した頭頂を起点とした爆発がゴリラを襲う。
 毛がチリチリになったゴリラ。立ち上がろうとするも、膝に来ているのか。がくがくと脚を震わせるだけで動けそうもない。
 その瞬間を見逃すなら、荒事など生業にするものか。
 剣戟が、銃弾が、術式が一匹のゴリラを襲う。
 流石の野生も限界を迎え、どさりと大きな音を立てて倒れたまま、動かなくなった。
 そこで集中を途切れさせるような汰磨羈ではない、次をと視線を向ければ、ちょうど同じくしてゴリラマジシャンも地に伏せるところだった。
 残すは2匹。絡め手ももう通じまい。
 相手には奥の手。ここからが正念場である。

 ゴリラマジシャンを2本の刺突剣で貫いて。
 それを抜きざま、倒れるマジシャンの生死も確認せぬまま、絵里は自身の勢いを殺さぬよう駆けていく。
 じいっと。じいっと。
 残った2匹のゴリラを見ている。観ている。観察している。
 事前情報が確かであれば、最後の2匹は可能な限り同時に倒すのが得策だ。
 飛び回り、暴れるゴリラの息の根を完全な同着で止めるなど不可能だが、傷具合を察してダメージを分散させることはできる。
 だが、その間のゴリラもただやられる木偶ではない。振り回される丸太のような拳は相変わらず驚異の一言であり、まともに喰らおうものなら骨がまとめてへし折れてしまうだろう。
「でも負けません。新しい『お友達』ゲットのためにも頑張るのです。皆一緒なら寂しくない、頑張れる、です!」

 そして時は来た。
 明らかに空気が変わったのだ。
 張り詰める緊張感。びりびりと何かが空気の振動を持って伝わってくる。偶然だろうが、曇天の黒いそれが稲光の音を含み始め、あっというまに大振りになった。
 痛いほどの大粒の雨が、戦闘で流された血と汗を拭い去っていく。
 視界の悪さで見失ってはならないと、蛍は視界の中にゴリラの姿を探すが、その必要はなかった。
 それは雨天でも見間違うはずのない金色。明らかにこれまでの2倍はある巨体。唸り声を潜ませる口からは蒸気が漏れている。
「あ、あれは……超(検閲音)人!?」
 蛍が叫ぶやいなや、振るわれた腕が仲間のひとりをこちらへと吹き飛ばしていた。
 身を挺して抱きとめ、すぐさま治療を開始する。
 恐ろしい。恐ろしいが、これ以上の犠牲を見るほうが、もっと恐ろしかった。

 巨体になっても敏捷性を失わないまま、ゴリラが跳ぶ。
 柱を、壁を、家々を足場にして縦横無尽に金色のゴリラが襲い来る。
 空から落ちてくるそれをヴィマラは転がることで回避してみせた。
 石畳を削り、小さなクレーターを作るゴリラ。
「サーカスで見れたなら見物だったんだろーけどねぇ、ほんっと惜しいなー」
 あがる土煙も、降雨が掻き消していく。
 土煙が晴れるのと、呻き声が響き始めるのはほぼ同時。
 だがもう、ヴィマラは次の手に入っている。
 術式によって生成された糸が重なり、絡まり、編み上がっていく。
 クレーターから這い出てくる手。
 金色に光る大きなそれに、生み出したばかりのロープを巻き付けた、
 指から先へ、肘から向こうへ、肩から更に、顔の方へ。
 呻き声が一瞬、止まる。
 さあ、総攻撃。

●冷やかした様な活気に遊んでおきながら
 うほー。

 大きくなって、金色に光って、力強くなったところで、傷が癒えるわけではない。
 召喚主のゴリラはマジシャンの格好をしていたが、戦闘中に術式の類を編み込もうとはしてこなかった。
 おそらく、ゴリラ召喚にわずかな術式用のバナナまでも使い切ってしまっていたのだろう。
 やはりバナナの使いみちは計画的でなければならない。
 だが、しかしだ。よって、故にだ。
 突き刺さった刃は、術は、弾は、意志は、願いは。
 邪悪の金色ゴリラにけして好き勝手を許さなかった。
 倒れ伏したそれから、色が抜け落ち、元通りの黒毛へと戻っていく。
 雨に濡れた獣は、どこか哀愁さえ感じるものだった。

 了。

成否

成功

MVP

ローラント・ガリラベルク(p3p001213)
アイオンの瞳第零席

状態異常

なし

あとがき

味方にもゴリラは反則だと思う。

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