シナリオ詳細
<Genius Game Next>キルロード家の、あり得ざる幸福
オープニング
●リヴィンウェイ男爵領、領都壊滅
「さあ、存分に殺しな! 奪いな! 犯しな! ただし、イイ男がいたら殺さずアタシの所に連れてくるんだよ!」
燃え盛る領都の中で、悪逆非道の傭兵団長ユメーミル・ヒモーテの声が響いた。ユメーミルの手下の傭兵達は、その声を待ってましたとばかりに街全体へと散らばり、欲望のままに略奪、殺戮、暴行を愉しんでいく。
街の人々は混乱し逃げ惑うが、傭兵達によって次々とその財産を、命を奪われた。狙われたのが女であれば、貞操と引き換えにわずかな時間だけ生き存える事が出来た。ユメーミルの琴線に触れる様な美青年がいれば、隷属を強いられる代わりにもっと長く生き延びられたかも知れない。
自らも略奪や殺戮を愉しもうと街の中をうろつくユメーミルの前で、一人の幼児を抱えた若い女が傭兵から逃れようと走る最中、足を躓かせて転倒した。
「アアン?」
苛ついた様子で、ユメーミルは女を上から覗き込む。
「せ、せめてこの子の命だけ――」
恐怖に震える女は、子供の命乞いを最後まで口にすることは出来なかった。ユメーミルのグレイブの刃が、守ろうとした子供ごと女を瞬く間に両断したからだ。
「あーあ、もったいねえなぁ。勘弁して下さいよ、お嬢」
「何を言ってるんだい。殺すも犯すも、早い者勝ちってもんだろ。下らないこと言ってる暇があったら、イイ男の一人でも見つけてアタシの所へ連れてきな」
「ヘイヘイ、とぉ」
女を追いかけていた傭兵が、ユメーミルに愚痴をこぼす。だが、ユメーミルにその愚痴に取り合う道理はない。傭兵もそれはわかっていたのか、わざとらしく肩をすくめるとその場を去り、次の獲物を探しにかかった。
「――フン!」
苛立ちが収まらない様子で、ユメーミルはグレイブをブンと振り、刃に付いた血糊を払う。そしてユメーミルも、さらなる血と男を求めて再び街をうろつきはじめるのだった。
●現実では、あり得なかった未来
「報告です。リヴィンウェイ男爵領が、砂嵐のユメーミル傭兵団により壊滅しました。
ユメーミル傭兵団は、キルロード領に向けて進行中です」
「デイジー様の仰ったとおりになりましたな。砂嵐から傭兵団が伝承に侵攻し、我がキルロード領も巻き込まれると」
キルロード家の面々が集う広々とした客間に、キルロード家が抱える裏組織「キリングロード」の頭領カレンデュラが駆け込み、キルロード領の隣領リヴィンウェイ男爵領の壊滅を知らせた。
その報告を受けたキルロード家当主の弟にして補佐役ナルシス・キルロードが、眼病によって紅く染まった目を擦りながら、デイジー・トランスバール(p3x006172)の方を見やった。
『Rapid Origin Online』から大規模イベント<Genius Game Next>実施の告知が出されたのを受けて、デイジーは砂嵐によるバルツァーレク領、フィッツバルディ領襲撃を『Rapid Origin Online』のキルロード家に報せに来ていたのだ。
「……むう」
「お父様……」
カレンデュラの報を受けて、混沌では既に亡き父が困惑しつつ呻く。そんな父を、ガーベラが不安げに見やる。
「フハハハ! 心配は要りませんぞ、兄上、ガーベラ。賊まがいの傭兵など、私がたちどころに蹴散らしてご覧に入れましょう」
だが、ナルシスは兄や姪の不安を吹き飛ばす様に、自信満々に怪しく笑う。その笑いに、キルロード家の面々を包む空気が明るく転じるのをデイジーは感じた。その様に、デイジーは思わずにはいられない。
(現実でも、こうでしたらよかったのに――)
現実では、ナルシスの謀反によってガーベラの父母は殺され、自らも傷を負った。キルロード家は取り潰されてもおかしくなかったが、ハルトの尽力によって処分は爵位の降格に留まっている。
その事件は、現実のガーベラの心にも深い傷を負わせていた。それだけに、叔父のナルシスが謀反を起こさずに家族が仲睦まじくキルロード領を統治していると言う、現実ではありえなかった光景がデイジーの胸中を疼かせざわめかせる。
「……デイジー様、デイジー様。如何しました?」
ふと、デイジーはナルシスの呼びかけに気付きハッとする。どうやら、いつの間にか自分の世界に入ってしまっていた様だ。
「では、行きますぞ。デイジー様とお仲間も、力をお貸し頂けますね?」
どうやら、既にキルロード家の中でユメーミル傭兵団を迎え撃つ話は整った様だった。ナルシスの問いに、デイジーは一も二も無く頷く。そのために、仲間達とここに来たのだ。
「行ってくるよ、ガーベラ」
「俺っチが、奴らを追い返してくるからな」
「行って参ります。お嬢様」
「叔父様、ハルト兄様、ナハト兄様、花さん……そしてデイジー様。無事のお帰りを、お待ちしてますわ」
ナルシスと共に出撃するのであろう、ハルトとナハト、そしてカレンデュラが、ガーベラに出発の挨拶をする。出撃する家族に、そしてデイジーに深く礼をして見送るガーベラの姿に、デイジーはキルロード領の人々はもちろん、このキルロード家の、そしてもう一人の自分の幸福も決して壊させはしないと、固く心に誓うのだった。
- <Genius Game Next>キルロード家の、あり得ざる幸福完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月20日 22時06分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●戦を前にして
伝承南部、フィッツバルディ派の勢力圏であるキルロード領とリヴィンウェイ領を結ぶ街道にて、それぞれおよそ百人ほどの二つの軍勢が対峙していた。
一方は、砂嵐から侵攻してリヴィンウェイ領を壊滅させ、その勢いでキルロード領を飲み込まんとする、ユメーミル・ヒモーテ率いる盗賊団まがいの傭兵団。もう一方は、それを迎え撃たんとするキルロード家当主の弟ナルシス・キルロード率いるキルロード領の軍。
それぞれの陣形は、ユメーミルの傭兵団が突破力に優れた鋒矢陣であり、ナルシス率いるキルロード領軍は左右から敵の包囲を狙う鶴翼陣だ。
左右に大きく広がったキルロード領軍の中央には、総大将であるナルシス率いる三十人の兵士。その後方には、後詰め兼遊撃隊としてキルロード家の抱える闇組織「キリングロード」のメンバー二十名が、頭領であるカレンデュラと共に他の兵士と同じ姿をして控えていた。
ただ、陣形として奇妙に見えるのは、そのナルシスの隊の前に前後に分かれた六人の姿があることだ。
その最前にいる『モノクローム・イフリート』アッシュ(p3x009804)は、厳しい視線で敵の先頭にいるユメーミルと、その後に続く傭兵達の軍勢を見据えた。
(仮想環境での出来事とはいえ、略奪だの殺戮だのと見過ごせる訳はない。
己の欲望を満たすためだけに行動してそれが許されると思っているのなら、その考えがいつまでも通る訳はないということを俺たちが教えてやろう)
この世界『Rapid Origin Online』は、現実である『無辜なる混沌』をヴァーチャルに再現したMMORPG風の仮想環境に過ぎない。だが、アッシュは仮想環境の中であろうとも、蛮行を働く者達を見過ごすことは出来なかった。
その蛮行を、必ずここで止める。アッシュの瞳には、決意がありありと宿っていた。
(キルロード家の、キルロード領の人々の幸せを、ベルは守ります)
そう固く心に誓うのは、三十センチほどの愛らしい熊のぬいぐるみのような『ちいさなくまのこ』ベル(p3x008216)だ。出撃前にベルが見たキルロード家の人々の姿は、仲睦まじく幸せそうなものだった。彼らが収めるキルロード領の人々も、きっと幸せな生活を営んでいるのだろう。
「勇者」であるベルにとって、そう言った人々の幸福は、絶対に守り抜くべきものであった。
(う~ん……良くはわかりませんが、まぁとりあえず頑張って敵を退けましょうってことでいいんですよね。
耐えるのは……まぁ、慣れてますし。頑張りましょうか。
僕ら視点では、悪い人をぶっ飛ばせばいいっていうのはなかなかシンプルでいいですよねぇ。
……戦況は全然シンプルではありませんが)
アッシュとベルのすぐ後ろにいる『ねこ』ムー(p3x000209)は、これだけ多くの人数が対峙するに至った状況はよく理解出来ていない様子ながらも、とにかくシンプルに考えて、眼前の敵を退けるべく頑張ることにした。難しいことは、領主とかそう言う偉い人の領分だ。
「おー、すっごい人だね。なんか、これだけの人が殺し合いするんだって思うと、ちょっとこわいね。
……ゲームだけど、みんな、生きてるんだよね」
アッシュ達三人のやや後方にいる『このゆびとまれ』ポシェット(p3x002755)は、友達であるキリン、ゴゴティの背に乗って、前方のユメーミル率いる傭兵団、そして左右と後方にいるキルロード領軍を見渡した。ポシェットは二百名近い人数がこの場にいることに驚きを、そしてそれだけの人数が敵味方に分かれて戦争をすると言う事実に怯えを感じた。
「丸ごと強盗みたいな国に、好き勝手させるわけにはいかないからね」
アレクシア(p3x004630)はキリンの上にいるポシェットを見上げながら、優しく諭す様に声をかけた。まだ子供のポシェットが、小規模とは言え人が殺し合う戦争に怯えるのは、アレクシアも理解出来る。
だが、ここでユメーミルの傭兵団を止めなければどうなるだろうか。既に壊滅させられたリヴィンウェイ領の様に、アレクシア達の後背にあるキルロード領も壊滅させられることだろう。そうなれば、犠牲はここにいる二百だけではすまなくなるのだ。
「うん、そうだよね……あたしも、できることをがんばるよ」
ポシェットも、アレクシアの言いたいことはよく理解出来た。だから、怯えを振り払って元気な様子で、アレクシアに応えた。
(正直な話、早く家に帰りたいです……)
周囲に渦巻く戦の気配にあてられたか、『かつての実像』いりす(p3x009869)は俯き加減になってそんなことを考えていた。だが、家に帰りたいと願ういりすだからこそ、帰る家があることのありがたさがよく理解出来る。ここでイリス達が戦わねば、兵士達は、そしてキルロード領の領民達は、例え生き存えたとしても帰る家を失うことだろう。
(……だから、わたしも戦います)
いりすはそう意を固めながら、手にしている銃に魔改造したビーコン弾を次々と装填していった。
ユメーミルの傭兵団とキルロード領軍の会戦に参戦しているイレギュラーズは、ナルシスの隊の前の六人だけではない。キルロード家当主の長男ハルトが率いる左翼には、二人のイレギュラーズが加わっている。
「あり得たかも知れないもう一つの世界……か」
その一人である白いライオンのアバターの『獅子王』レグルス(p3x001627)は、現実とは違う様々な状況に、物思いに耽っていた。その思考は、やがて今回の敵へと移っていく。
「今回の敵は、大量の数で襲いかかる連中か……く、ハイエナ思い出してムカッと来たのじゃあ!!」
その在りように、混沌に来る前の世界にいた者達を思い出したレグルスは、憤りのままに咆える。そして、鬱憤を晴らすべく盛大に暴れることにした。
(……例えゲームの世界であっても、ボクは本物だと思う。
ボク達が負けたら、この領地の人達が皆殺されちゃうんだよね。そんなことは絶対にさせないよ)
左翼にいるもう一人、『妖精勇者』セララ(p3x000273)にとって、『Rapid Origin Online』の世界は本物と何ら変わりない。それだけに、キルロード領の人々が襲撃され、虐殺されるなど許しておける事ではなかった。
「皆の笑顔は、ボク達が守る!」
『聖剣チョコソード』を抜き放ち、その剣先を天に掲げると、セララは高らかに宣言してみせた。
一方、キルロード家当主次男であるナハトが率いる右翼には、その妹ガーベラと全く変わらぬ姿故に影武者となった『女騎士』デイジー・トランスバール(p3x006172)が加わっていた。
(……まさか、ナルシス叔父様とキルロード家の為に共闘できる機会が来るとは、思ってもみませんでしたわ)
左後方、中央に陣取るナルシスの隊を見やりながら、デイジーは感慨に浸っていた。それも、無理からぬ事である。
デイジーの「中の人」、即ち『無辜なる混沌』のガーベラ・キルロードは、叔父ナルシスの謀反によって父母を喪った。さらに、次兄ナハトはキルロード家を出奔している。
いなくなった父母と次兄がキルロード家に居て、家族全員が幸せに生きている光景。それは、『無辜なる混沌』のガーベラが決して叶わぬと知りながらも、心の底で狂おしいほどに望み続けていたものだったのだ。
だからデイジーは、例えこの世界が仮初のものにすぎないとしても、この光景とその中で生きるもう一人の自分の幸せを絶対に護り抜くと決めた。
(キルロードって言ったら、ガーベラの実家だっけ? 確かお家騒動があったのは聞いたけれど、今回の一件では大分雰囲気が違ってる様子だね?)
そんなデイジーの様子を、アバターを凜とした美女に変えている『カニ』Ignat(p3x002377)が、ナハト率いる右翼からさらに右に大きく離れた位置から眺めていた。Ignatはキルロード家から借り受けた十名の兵士と共に、自身は光学迷彩で、兵士達には緑色ベースの迷彩を施した布を被らせて、敵に見つからない様に潜み続けている。
「中の人」同士は、それほど親しい訳ではない。だが、『無辜なる混沌』では依頼でしばしば世話になっていることもあり、Ignatはデイジーのためにも全力を尽くすつもりでいた。
●突撃を止め、左右から潰す
「さぁ、突撃だよ! 邪魔するこいつらを蹴散らせば、また存分に楽しめるんだからね! 気合いを入れな!」
鋒矢陣の先頭に立つユメーミルが、グレイブを掲げて団員を鼓舞しつつ、キルロード領軍の中央を目指して突き進む。部下の傭兵達も、気勢を上げてユメーミルの後に続いた。
デジタルファミリアーの鳥を飛ばして戦場を俯瞰しているアレクシアからは、その様子は中央のナルシス隊を矢印が突き破ろうとしているかのように見える。すかさずアレクシアは、その様子をテレパスでナルシス、ハルト、ナハト、カレンデュラに伝えた。
そして、ユメーミルが弓の射程に入ったのを確認すると、アレクシアは鏃の後ろが膨らんでいる矢を番え、前にいる三人の頭越しにユメーミルに射かける。
「この矢の音で、惑わせてあげる!」
アレクシアの放った矢は、ヒュォヒュォヒュォ……と奇妙な音を立てて、ユメーミルに命中する。その音を聞いたユメーミルと傭兵達は、一瞬、心ここにあらずと言った様子を見せた。ユメーミルはさすがにすぐに我に返ったものの、後ろの傭兵達の多くは虚ろなままだ。
「だーるーまさんがー……ころんだっ!」
ポシェットはアレクシアが矢を放つと同時に後ろを振り向き、その矢が命中すると同時に急に前を向いた。ユメーミルと傭兵達はその様に、動いてはならないと言う強烈な束縛感を覚える。
(アレクシアさんが音で敵を惑わせたなら、わたしは光と電波で惑わせましょう……)
いりすは、やはりユメーミルを狙って、装填しておいた魔改造ビーコン弾を撃った。通常のビーコン弾が発する域をはるかに超えた光と電波が、ユメーミルや傭兵達の視界を眩ませ、灼けるような痛みと痺れを感じさせていく。
「アンタの足、これで止めてやるぜ。行け!」
アッシュがそう言った時には、破壊の黒炎はモグラのように地中を突き進み、ユメーミルの足下に至っていた。地中が破壊の黒炎によって溶かされたため、何の影響も無かったように見える地表が、突然グラリと崩れ落ちる。不意に足下を崩されたユメーミルは、大きくよろけて体勢を崩した。
「さて、しばしここでお付き合いしていただきますよ、外道」
「ええい! 全く、どいつもこいつも鬱陶しいねえ!」
攻勢はまだ終わらないとばかりに、ムーが『宝剣アクストラクロス』でユメーミルを斬りつけた。『宝剣アクストラクロス』の剣閃はユメーミルの脇腹をザックリと斬り裂く。だが、まだユメーミルにとっては軽傷であるようだった。これまでの度重なる攻撃全てに苛立いた様子で、ユメーミルはグレイブをブンと振ってムーを追い払いにかかる。
ベルは、とてとてと音を立ててユメーミルに駆け寄りながら、見目麗しい勇者の姿へと変身。そして一声、がおーっ! と咆えてから、ユメーミルを挑発しにかかった。
「ユメーミルさんは、どうして、悪いことを、するのですか?」
「ハン! 如何してだって? 愉しいからに、決まっているだろ?」
「……悪いことをしたら、悪い男の人しか、出会えないって、ベルは思いました。
そんなユメーミルさんに、ベルは、負けませんよ」
「やかましいねえ! 知ったようなことを言いやがって! なら、アンタをとっ捕まえて飼ってやるよ!」
「そんなことをしても、意味は、ありませんよ。ベルが、この姿でいられるのは、戦いの間だけですから」
「苛立たせてくれるくせに、使えない奴だねえ! だったら、殺してやるよ!」
ベルが男との出会いを持ち出すと、ユメーミルはさらに苛立った様子で舌打ちをした。そしてベルの容姿に目を付けたユメーミルがベルを捕まえて飼うと告げると、ベルは意味が無いと返す。
そのやりとりにすっかり頭に血を上らせたユメーミルは、グレイブを振るってベルを叩き切ろうとする。ベルは浮遊する盾二枚とインテリジェンスソードを用いてやっとその一撃を受けきったが、それでもユメーミルの明らかに人間離れした膂力による衝撃までは殺しきれなかった。
アレクシアの矢が放たれると同時に、キルロード領軍の左翼と右翼も動き出していた。
「皆の笑顔はボク達にかかってる。だから……絶対に負けられない!」
キルロード領軍の左翼では、セララが愛羊『ドーナツテイオー』の背中から、天高く跳躍した。そして、鋒矢陣の矢印様の部分のうち右端の部隊を狙い、雷光を纏って急降下しながらキックの姿勢を取る。セララのキックは傭兵の一人に直撃すると、大爆発を起こしてその周囲の傭兵達を巻き込んだ。
身長三十センチほどのセララがこれほどの威力の攻撃を放つとは思っていなかったのか、傭兵達は呆然とする。そこにさらに畳みかけるように、いつの間にか『ドーナツテイオー』の背中に現れたセララが再度天高く跳躍し、再度雷光を纏ったキックを放った。
「わしも続こう。一斉に、やっつけさせて頂くのじゃ! まぁ、せいぜい抵抗するのじゃな」
二度のセララのキックによる大爆発によって傭兵達が多大なダメージを受けたところに、レグルスが駆け寄っていく。レグルスは目に付いた傭兵達を、手当たり次第に爪で引き裂き、牙で噛み千切った。ただでさえ傷ついている傭兵達は、白いライオンが獲物を狩るかの如く襲い掛かってくる様に、恐慌状態に陥っていく。
指揮官が隊を立て直そうとするが、その努力は無駄に終わった。
「助っ人に負けてはいられないぞ! 進め!」
その前に、この機を逃すまいとしたハルトが兵士達を率いて進撃し、交戦に入ったからだ。既にセララとレグルスに攻撃された傭兵達の隊は、これでほぼ崩壊寸前となった。
「戦闘開始だ! キルロード領の力を存分に見せつけてやれ! 全員構え、そして撃てッ! FIRE IN THE HOLE!」
右翼の側では光学迷彩を解除しつつ号令を下したIgnatが、鋒矢陣の矢印様の部分のうち左端の部隊を狙い、背中に備えている主砲を向ける。主砲から放たれた太い光線は、狙った部隊の傭兵達を横合いから真っ直ぐに貫き、その身体を炎上させた。
号令を受けた兵士達はバサリと姿を隠していた布を取り払うと、Ignatに続いてクロスボウを撃ちかける。Ignatと兵士達に突然横から立て続けに攻撃された傭兵達の隊は、その被害に統率を乱された。
「覚悟なさい、悪しき傭兵共……我が愛剣『ドラグヴァンディル』の錆となるがいい!」
好機を逃すまいと、デイジーは白いレイピアを鞘から抜いて天に掲げ、Ignat隊に攻撃された隊へと突き進む。
「貴様等如き下賤な畜生共に、このガーベラ・キルロード、負ける気がしませんわ!」
そして、手当たり次第に突きかかりつつ、挑発によって自身への敵意を煽り立てた。
「ガーベラに、続くんだぜ!」
ハルトやナハトだけで無く、ガーベラまでもがキルロード領を守るために戦場に立ち、先陣切って奮戦している――と、キルロード領軍の兵士達からは見えている。その事実は、凜々しく美しい女騎士の姿と共に、右翼の兵士達の士気を大いに鼓舞していた。
当然、この機を逃す手はない。ナハトはガーベラに続いて進撃するよう号令を下し、右翼の隊を交戦させた。個々の実力こそ傭兵達の方が上だったが、士気が大いに高揚している兵士達とIgnat隊の奇襲から立ち直っていない傭兵達とでは勝負にならず、傭兵達の隊は瓦解も秒読みとなった。
●ユメーミル、撤退
ナルシス隊の前に位置するイレギュラーズ達は、ユメーミルとその隊による突破を許さず、その場に釘付けにし続けた。この時点で、キルロード領軍とユメーミルの傭兵団の戦闘は、決着が着いたと言っても過言では無かった。
鋒矢陣の特徴は、その強烈な突破力にある。これまでは、先頭に立つユメーミルの圧倒的な戦闘力がことごとく敵陣を突き破ったため、その特徴は最大限に発揮された。
だが今回、ユメーミルの隊がアレクシアの矢と、いりすのもたらすビーコン弾によってまともに行動出来なくなって機能不全に陥り、ユメーミル自身もポシェットやムーの支援を受けたベルを突破出来なかった。ベル自体はもうすぐ死亡扱いとなるところまで追い込んだが、危ないと見てベルを庇いに入ったアッシュまでは倒しきれないでいた。
こうなると、鋒矢陣は陣形として意味を成さなくなる。さらにキルロード領軍が鶴翼陣を敷いており、その左翼右翼にイレギュラーズが加わっていたことも、ユメーミルの傭兵団にとっては悪い方向に働いた。元より、鋒矢陣は側面に回られ包囲されると脆い。その包囲する左翼右翼にセララの飛翔してからのキック、レグルスの爪と牙、Ignat隊による射撃、デイジーの猛毒の結界が加わるとなれば、傭兵団の各隊が長く持ち堪えられるはずは無かった。
さらに、突破を止められて遊兵と化した後方の隊には、カレンデュラ率いるキリングロード隊が襲い掛かり、傭兵団の被害を拡大させた。
「お嬢! もう無理です! これ以上やってると、完全に圧し潰されます!」
「ちっ……仕方ないね! 退くよ、お前達!」
戦力の半ば以上を喪ったところで、傭兵の一人が悲鳴をあげるかのような声でユメーミルに撤退を進言する。ぐるりと周囲を見回したユメーミルは、さすがに不利を悟り、その進言を受け入れた。
ユメーミルは目の前のイレギュラーズ達に背を向けると、後方を塞ぐキリングロード隊を排除にかかる。ユメーミルを相手しては隊の被害が甚大になると判断したカレンデュラは、交戦に固執せずキリングロード隊を下がらせた。
そうして確保した退路に居座って殿を務めつつ生き残った部下達を逃がすと、ユメーミルも撤退していく。イレギュラーズ達もその最中に多少の攻撃は仕掛けたが、本格的な追撃は盾役二人の消耗が大きいこともあって断念した。
かくして、キルロード領に侵攻せんとしたユメーミルの傭兵団と、それを迎え撃たんとするキルロード領軍の戦闘は、キルロード領軍の完勝と言う形で終わった。
「えい、えい、おーぅ!」
「えい、えい、おーぅ!」
「えい、えい、おーぅ!」
総大将ナルシスがあげた鬨の声が、キルロード領軍の至る所へと広がっていく。
その鬨の声を聞き、戦いに勝利してキルロード領領民の生命と幸福を守れたことを実感したイレギュラーズ達は、喜びと満足を感じるだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さん抜きで戦っていたら、先ず間違いなくナルシスが討たれてキルロード領軍は総崩れとなっていたので、この戦勝は皆さんの活躍の成果です。
MVPは、ユメーミルの攻撃を受け止めつつ足止めし、傭兵団の鋒矢陣を事実上殺したベルさんにお送りします。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回は、<Genius Game Next>のうちの一本をお送りします。
『Rapid Origin Online』では現実の混沌とキャラクターの性質が大きく異なることがありますが、そのためかユメーミルは悪逆非道となり、逆にキルロード家では過去に起こった謀反が起きずにフィッツバルディ派としてユメーミル率いる傭兵団に狙われることになりました。
『Rapid Origin Online』世界のキルロード家の人々と協力し、悪逆非道のユメーミル率いる傭兵団からキルロード領を守って下さい。
なお、このシナリオの戦闘は敵味方それぞれおよそ100人強の、小規模会戦となります。
●成功条件
ユメーミル率いる傭兵団の撃退
●失敗条件
キルロード側総大将ナルシス・キルロードの死亡
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
キルロード領から、蹂躙された隣領に通じる街道。時間は昼間、天候は晴天。
地形は平坦であり、環境による戦闘へのペナルティーはありません。
●初期布陣
ユメーミル側は、ユメーミル隊を先頭に鋒矢陣形を敷いています。
ナルシス側はイレギュラーズ達から特に指示がなければ、ナルシスを中央、ハルトを左翼、ナハトを右翼、カレンデュラを後詰め兼遊撃隊とする鶴翼陣形でユメーミル側を迎え撃とうとします。
イレギュラーズ達の初期布陣については、ナルシス側から極端に離れたり、ユメーミル側に近付きすぎたりする様なことをしない限りは、自由に配置して構いません。
●ユメーミル・ヒモーテ
『Rapid Origin Online』世界のユメーミルです。食うためにやむなく盗賊となった『無辜なる混沌』のユメーミルとは違い、悪逆非道を心の底から愉しんでいます。
混沌の方のユメーミルは装備によって火力運用と盾役運用を切り替えていましたが、『Rapid Origin Online』のユメーミルは装備を切り替えることなくその両方を兼ね備え、高い攻撃力と防御力を両立させています。その他の能力もハイバランスと言っていい域で高く、唯一回避だけがややネックとなっています。
さらに悪いことには、何処にとは言いませんが色宝を身につけており、しかもその色宝に願っているのが何者にも屈しない武力であるため、能力全体に強いバフがかかっています。そのため、仮にユメーミルを倒そうとするなら難易度は一気にHard以上相当まで跳ね上がります。
武器は刃が広く大きいグレイブですが、周囲を薙ぎ払って範囲攻撃したり斬撃を飛ばして遠距離攻撃をすることが可能です。攻撃に主に付随するのは、【邪道】、【飛】、【出血】系BSです。
ユメーミルは、以下の何れかの条件が発生すると撤退します。
・自身のHPが、一定の基準以下になる。
・麾下の戦力が、無視出来ない程の被害を受ける。
●キルロード家の人々
『Rapid Origin Online』世界のガーベラさんの家族です。混沌では前当主の弟ナルシスが謀反を起こしたために、アーベントロート派に鞍替えの上で伯爵から男爵へ降格となりましたが、『Rapid Origin Online』ではナルシスの謀反が起こっていないため、フィッツバルディ派の男爵のまま爵位は変わらずとなっています。
・ナルシス:ガーベラさんの叔父です。混沌では当主である兄に謀反を起こし、キルロード家降格の原因を創りましたが、『Rapid Origin Online』では謀反を起こすことなく兄を支える有能な補佐役を務めています。
ユメーミル傭兵団迎撃にあたっては、当主代理として総大将を務めます。
・ハルト:ガーベラさんの長兄です。『Rapid Origin Online』ではナルシスが謀反を起こしていないため、フィッツバルディ派男爵の次期当主という立場です。
・ナハト:ガーベラさんの次兄です。混沌では出奔してリーゼロッテに忠誠を誓っていますが、『Rapid Origin Online』ではナルシスが謀反を起こしていないためキルロード家に残っています。
・カレンデュラ:キルロード家の闇組織「キリングロード」の頭領です。くノ一。
●傭兵達 ✕10名 ✕10隊
ユメーミルの配下の傭兵達です。10隊と言うのはユメーミルを除くユメーミル隊を含めます。
ユメーミル隊は精鋭で固められているので別格として、個人としての戦闘能力は傭兵を名乗るなりに高いのですが、隊長の指揮能力は高くありません。
武装はロングソードやバトルアックスが主ですが、クロスボウも携行しているため射撃戦も可能です。
●キルロード軍 ✕100名(ナルシス、ハルト、ナハト、カレンデュラ除く)
キルロード領の兵士達と、キルロード家の闇組織「キリングロード」の所属員達です。
内訳は、兵士達80名、キリングロード所属員20名(※)。
イレギュラーズ含めて誰にどれだけの兵を任せるかは、イレギュラーズがプレイングで指定出来ます。ただし、各隊を戦力として成立させるために、最低でもナルシス、ハルト、ナハトに兵士を各10名、カレンデュラにキリングロード10名を振り分けなければならないものとします。
イレギュラーズが兵士を率いる場合、上記制限の範囲内で兵士を振り分けることが出来ます。ただし最低人数として、指揮者1人あたり兵士10人は必要であるとします。
イレギュラーズ達が兵を率いた場合、部隊は基本的にイレギュラーズの能力に近い特性を持ちますが、プレイングで「本人の能力とは別にこう言う兵で部隊を編成する」と指定することも可能です。
特にイレギュラーズ達が兵を率いず、また兵士の編成にも口を出さない場合、ナルシスが40名、ハルトとナハトがそれぞれ20名の兵士を率い、カレンデュラがキリングロード20名を率います。
※キリングロード所属員は、兵士達と見分けが付かない姿で参戦します。
カレンデュラがキリングロード所属員のみの部隊を率いている場合、兵士達の倍近いスピードで戦場を移動できます。
また、キリングロード所属員と兵士を1つの部隊に混成すると、キリングロード所属員の戦闘力が活きずにスポイルされるため、混成運用は避けることをお勧めします。
●各部隊の戦力について
このシナリオにおいて、NPC率いる部隊の戦力については、隊長の武勇、隊長の指揮能力、隊員各自の戦闘力をトータルして評価しています。なおトータルの戦力については同数を率いている前提の評価であるため、率いる数によって戦力評価は変化します。
隊長の武勇:ユメーミル>(越えられない壁)>ハルト、ナハト、カレンデュラ≧ナルシス>傭兵団各隊隊長
隊長の指揮能力:ユメーミル(個人的な武勇による補正含む)>>ナルシス>ハルト、ナハト、カレンデュラ>>傭兵団各隊隊長
隊員それぞれの戦力:ユメーミル隊>傭兵団各隊≒キリングロード>キルロード軍兵士
部隊トータルでの戦力:ユメーミル隊>>>>キリングロード>ナルシス隊>ハルト隊、ナハト隊≒傭兵団各隊
イレギュラーズが隊を率いた場合、率いる個人の能力やプレイングによって隊の戦力は大きく変わることになりますが、概ねキリングロードからナルシス隊の前後辺りに落ち着くことになろうかと思われます。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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