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シナリオ詳細

悪夢の夜は二度降る

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●約束の果てに
 遠い昔。ガキの頃の話しだ。国だとか政治だとか、そういうしがらみも知らない俺達は毎日ただ稽古して、馬鹿やっての相棒だった。
「俺、国一番の騎士になるんだ! そん時アジュガは俺の相棒なッ!」
「馬鹿、勝手に決めるな。俺が国一番になってお前が相棒だ。……ただ、まあ。ベンとならどんな戦場も負ける気はしない」

――俺達ずっと、これからも。死ぬ時だって一緒だからな!

 やがて時は過ぎ、少年が青年へと育つうち環境は目まぐるしく移りゆく。
 ベン――ベンジャミンは王子として、政敵と渡り合うため清濁併せ呑む知将となった。
 アジュガは戦地を転々とし、剣の腕を磨き続けた。同時に目の当たりにしたのは国の闇、人々の嘆き。

 反乱軍が挙兵し、王都が火の海に包まれる頃。

「女子供と怪我をしている者は隠し通路へ! 残った者は剣を取れ。このデュオ=ベンジャミン、たかが反乱因子に焼かれてやるほど脆弱な男ではない!」

 頬に煤を付けながら雄々しく兵を鼓舞するベンジャミン王子。
 仲間たちの退避が済み、己も身を引く頃合いかと一歩さがった時――足元に矢が深々と刺さり、その射手の顔に目を見開いた。

「久しいな、ベンジャミン王子」
「アジュガ……!!」

 王宮が襲われた時、暇(いとま)をもらった者の中にその名を目にしてから、妙な胸騒ぎにかられていた。
 思えばあの時、本能としてベンジャミンは悟っていたのかもしれない。

 戦友(とも)と刃を交える瞬間を――

「王子なんて呼ぶなよ。あの頃みたいにベンでいい」
「呼べるものか。ここに立っているのは裏切り者で、貴方にとっての障害だ」
「なあ、ガキの頃に約束したよな。……俺達、死ぬ時は一緒だって」
「……すまない。貴方を、先に死なせる事になる」

 アジュガの瞳は揺るがない。しかしベンジャミン王子にも秘めたる強い意思がある。
 暗殺、謀略――王政が腐敗している事は嫌というほど知っていた。王宮の中でこれほどの陰謀が渦巻くなら、国民もまた政治に苦しめられているだろうと。

「謝るなって! 俺の方こそ、痛かったらごめんな!」
「昔からお前のそういう、真っ直ぐな言葉が眩しくて……嫌いだった!」

 スラリと引き抜かれる長剣。やがて火花を散らすほどの激しい打ち合いの後、互いの胸へ深々と鈍色の輝きは突き刺さり――

●悲劇の荒野に毒花咲きて
「――ッ!!」
 パチパチと爆ぜる火の粉の音で我に返る。
(俺はなぜ生きている? あの時、アジュガとの死闘の末、死んだはずでは……)

「どうしたのですか、ベンジャミン王子。まさかこのまま身内全員焼け死ぬおつもりで?」
「……! いや。女子供と怪我をしている者は隠し通路へ! 残った者は剣を取れ!」

 指揮をした後、ベンジャミン王子は大きな違和感に眉を寄せた。傍らで助言をしたこの女――間違いなく王宮の者ではない。
 加えて彼女を取り巻く四人も、腕は確かだが知らぬ者ばかりだ。

「お前達は何者だ。……信用してもいいのか?」
「それは貴方自身が決める事ですわ、ベンジャミン王子。我ら境界案内人と特異運命座標。ただこの世界の行く末を楽しみに来たに過ぎません」


***


――ここは何処だ。暗いのにいやに熱い。まるで身体が燃えるようだ。
『クハハハッ! 見つけたぞ、あれがベンジャミン王子だ!』
――ベン? そうだ、俺は彼を助けに、戦火の中へ駆けつけて……それから……。
『あぁもう目ェ覚ましちゃったのかよぉ! 心配すんな、お前の身体はもうお前の物じゃない』
――誰の声だ? 何を言っている? ベン、待っていてくれ。

「『必ずお前を、コロシテヤル』」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 戦場での男の友情っていいですよね! 女の友情も好きですけれども!

◆目的
 ベンジャミン王子の生存

◆戦場
 幻想に近い、中世ヨーロッパのような町並みの異世界。若き王子ベンジャミンの悲劇と希望を描いた世界です。
 剣はあるけど魔法を扱える者はごく少数。悪魔や魔物に身を売った者だけが扱う事ができると言われるほど貴重なものとして扱われています。

 時刻は夜。
 ベンジャミンとアジュガがぶつかる場所は王宮内の中庭で、噴水や石像などの遮蔽物は多少ありますが、視界ペナルティが発生するほどではありません。
 周囲は襲撃によって火の手があがっているものの、ロベリア=カーネイジの結界によって煙の侵入は防がれています。

◆敵情報
『叛逆の百人隊長』アジュガ?
 王族デュオ家のおさめる国で戦火を上げ続けた兵団の長です。ベンジャミンの親友であり、数少ない気のおける存在でした。
 国に反旗を翻し、ベンジャミンを仕留めようと追いかけて来ていますが、その言動はやや冷淡すぎるようにも見えます。

 弓の名手で毒矢による【猛毒】付与の遠距離攻撃を主とし、接近においては【連】による連続攻撃を狙ってきます。

アジュガの手下?
 ローブを着込んだ顔の見えないヒト型の者達です。無言のまま剣や槍を使って至近~中距離への物理攻撃を仕掛けてきます。
 アジュガを守るように10人ほどが最初は共に居ますが、戦闘が激化していくほど増えていくような――?

◆味方
ベンジャミン王子(ベン)
 王族デュオ家の長男。元々は快活な性格でしたが、暗殺者を幾度も向けられるうちに清濁併せ持ち国の政治に不信を抱きはじめていました。剣の腕はそれなりですが、長く王族の務めを優先していたせいで現役で鍛えていた頃よりは劣っている自覚があります。

『境界案内人』ロベリア=カーネイジ
 此度の悲劇を書き換えるべく特異運命座標を招集した境界案内人です。結界により火事の煙の侵入を防ぎ、サポートを行っています。
 自身が狙われた時に自己防衛ができるくらいの力はある様子。
 

◆情報制度
 このシナリオの情報制度はBです。
 オープニングや情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上です。それでは、よい旅路を! 

  • 悪夢の夜は二度降る完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月12日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ボーン・リッチモンド(p3p007860)
嗤う陽気な骨
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

リプレイ


 悲しみと憎悪。幼馴染の騎士と王子。絡み合った運命の糸は綻び、あるべき未来へ紡ぎ直される。
 その担い手として選ばれた特異運命座標は、いずれも場数を踏んだベテラン揃いだ。争いの渦中に放り込まれようと怯える事なく身構え、王子を守れと並び立つ。

「それにしても、ロベリアさんが持ってくるお話は悲劇的なものが多いですね。そういう好みなのでしょうか」
『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)がぽつり、素朴な疑問を口にすると、横にいたローブの男ーー『嗤う陽気な骨』ボーン・リッチモンド(p3p007860)が肩を揺らして快活に笑った。
「カッカッカッ! いい事じゃねぇか。悲劇をハッピーエンドで終わらせたいから、ロベリアちゃんは俺達をここに呼んだって訳だろ?」

 物語のかなめである主人公ベンジャミン王子の二度目の死。それはこの異世界の命運を決定づける事になるだろう。死に戻り友と三度殺し合い延々と続く悲劇の螺旋。逃れられない運命の袋小路に迷い込み、残るのは王子の絶望のみだ。つまりーー

「この世界で為すことは……彼を守ること、ですか」

『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)と王子の目が合う。思い出されたその色は、深い藍色をしていた。
 王子は今、敵対している親友と特異運命座標の介入で先行きの不安を抱えている。その感情がギフトにより、グリーフの瞳に色彩として鮮明に映り込んだのだ。
「そうよ。任せてもいいかしら? グリーフ」
「わかりました」
 ロベリアの問いに王子にも聞こえるほどにはっきりと、彼女は返事をしてみせた。
「私にできることでしたら」

「それにしても……」
 取り囲む敵を観察していた『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が人差し指を顎に当て、眉根を寄せた。
「アジュガという反乱軍の首魁はまあ良いとして。その指揮下で動いているあのマント姿の兵、些か妙な気配ですね」
「アリシスちゃんも気づいたか。何とも匂うんだよな。
 見えない悪意っていうか、他者の介入を。それもとびっきり性分の悪いやつだ」
「はい。人型で、得物も剣槍と人間の武器ではあるけれど……。
 ベンジャミン王子殿下。例えばですが、貴国においては人ならざるものを兵として操るような業が使われているのですか?」
 ボーンとアリシスの疑問を受けて、王子はギッと歯を噛みしめる。
「そのような非道、許される筈がない! しかし……」
「上がボンクラであれば、下々の状況など分からない。そうだろうベンジャミン王子」
 円陣を組む手下の中央、フードを脱いだアジュガは怪訝そうな顔をした。
「裏切り者が俺と知っても、あまり驚かないんだな?」
『二度目だからな』と言ったところで信じては貰えないだろう。睦月はやや同情気味に王子を見たが、すぐに気を取り直して仲間にヒソヒソと話しかける。
(とりあえず、どうしましょうか。強行突破をするにしても、さっきから無尽蔵に敵が増えている気がします)
(この世界においては、魔法の類はまさに悪魔と契約でもしないと得られない能力です。であるのなら……あれはまともな人ではありません)
 ならば少しばかり強引に試してみるのも悪くない。アリシアは両手を天へ掲げ、唇を開く。

「天主よ、裁きの光を此処に。彼の者の罪を赦し給え」
 カッ! と目を覆いたくなるほどの眩い光がその手に振り、アジュガを取り囲む手下の方へ放たれた。
 神気閃光がアジュガの手下に直撃し、秘匿のローブを破き去る。
「神なるものの加護と祝福の光です。……何者ですか、貴方達は」
 覗いた顔はーーいや、顔は"なかった"。のっぺらぼうの頭部に十字の切れ込みが入り、細かい牙の生えた口が覗く。目も鼻もなく、それはゲタゲタと不気味に笑い、取り巻きの手下達にも笑いは連鎖した。これから奮う悪意を、心から楽しむ様な弑逆的な声。人の心があるとは到底思える物ではない。
「な、なんだあれは!」
「魔物です。この世界には一握りでもいるのでしょう?」
 動揺する王子を守るように立ち、落ちてきた瓦礫をグリーフが結界で退ける。彼女が使う魔法もまた、王子にとっては悪魔の力だ。
「奴らが仮に魔物だとして、お前達は何故俺を助ける」
「信用が出来ないようでしたら、私を利用する気持ちでいてください。盾にしても構いませんし、私ごと障害を排除していただいてどうぞ」
 不器用なほど飾り気のない彼女の言葉に王子は一度、唇を引き結ぶ。しばしの沈黙の後、強くアジュガを睨みつけた。
「排除はしない。俺とて今の状況、守られている立場なのは承知している。名も知らぬ守り手よ。お前達に縋らせてくれ!」
「待ってたぜぇ、その言葉!」
 アジュガの手下が一斉にこちらへ攻めてくる。それと同時、ボーンが阻むように立ち塞がった。
「ハッ! そっちが物量攻めしてくるなら、こっちも数を増やすだけなんだよ!
 さあ、「目覚めろ」我が軍勢。悉く敵を邪魔してやりな!」
 ォオ…! と怨嗟の声が辺りに満ちた。死霊王の呼び声が志半ばにして腐ちた死者を呼び起こし、魔物と正面からぶつかり合う。
 人ならざる者達の血で血を洗う殺し合いは地獄絵図に他ならないが、王子は果敢に戦う死霊の中に顔見知りを幾つも見つけ、目を見開いた。
「いい部下を持ったな、ベン王子」
 死してもなお王子のために尽くそうとする者達がいる。よい主従だとボーンは素直に零し、眼窩の奥の炎を燃やす。
「美しい主従を死で引き裂いたお前達に、くれてやる慈悲はねぇ!」
 死者が魔物の勢いを上回り、押し返す。その隙にと睦月が王子の手を取り退路を進もうと歩みだすがーー
「俺から逃げるのか?」
 アジュガの声に動揺する王子。放たれた矢をグリーフが決死の盾で素早く庇う。
「グリーフさん、いま治療します!」
「頼りにしています。貴方が癒やしを降らせる限り、私はまだ戦える」
 アリシスの光陣がグリーフを癒やし、グリーフもまた彼女達を守るべく身構えた。この組み合わせは厄介だとアジュガが忌々しげに舌を打つ。
「その力、この国の者ではないな!」
「そういう貴方はアジュガさんでは無いのではありませんか?」

ーー光あれ。
 睦月のピューピルシールがアジュガの右腕を捉えた瞬間だくだくとした負の魔力が溢れ出す。
 その隙に幽世の瞳で覗き込み、読み取れた真実はーー

「おい、顔色悪ぃぞ睦月ちゃん。何かあったか?」
「そうですね、ボーンさん……きっとこれは悪夢です。僕のギフトはアジュガさんの断片的な過去を見せてくれました。
 今の彼は、悪魔に身体を乗っ取られています」

 看破された事により、アジュガに取り憑く悪魔の姿が露わになる。蔦のようにも見えるソレは複雑に宿主へ絡み、根を張ってーー引き剥がす事は、もう。
「命を摘む事でしか、残された道はないのでしょうか」
「諦めるな! きっと何かいい方法がーー」
 アリシスとボーンの問答の中、グリーフが迫る手下を押しのけながら身を寄せる。
「希望はあります。僅かですが」
「なら、それに賭けてみるしか無いですよね! ……ベン王子も、いいですか」
 頷く王子に睦月が微笑む。彼女の目はやる気だ。仲間達も頷きあって、反撃するべく身構える!

「『ベン王子、お前の正義で俺を殺すのか?』」
 悪魔は悲痛な声をあげ、その唇に冷酷な笑みを薄く広げた。両手を広げれば大地から新たな手下が亡者の如く這い上がり、特異運命座標と王子の方へ一斉に走り出す!
「聖なるかな、断罪の秘蹟。生ける者も死せる者も皆、断罪の光を受けよ!」
 アリシスの祈りの力が光刃と成し、雷撃の如く阻む者を削りゆく。その刃はさながら『浄罪の剣』。
 罪ごと手下を討ち滅ぼし、新たなる活路を開く!
 その道へ踏み込んだのは死霊の王。ボーンの想いをのせたレジストクラッシュは敵を強かに叩き、道を大きく広げきる。
「こいつでどうだ!!」
「ありがとうございます!」
 弓を引いてボーンに狙いを定めたアジュガ。ほぼ同時、こじ開けられた活路を睦月が駆ける。
 神気閃光。眩い光が悪魔とアジュガの身を焼くがーー奮ったのは不殺の力。悪魔を殺すに至らない!
「『慈悲のつもりか? そんな半端な殺意で、俺を殺せると思うなよ!』」
「貴方の事は、どうでもいい」
 嘲笑う悪魔の背後をとり、グリーフが両手を前にかざした。光の粒子がアジュガの身へ集約し、形を成してーー
「『なん……だ、これは…!!』」

ーー聖骸闘衣。英霊の鎧、その闘志。
 もし、本人の魂がまだ消えていなければ。

「帰って来いアジュガ! 俺にはお前が必要だ!」
 王子の叫びが届いたか、アジュガの瞳に力強い光が灯る。
「ベン王子、俺は……ッ! うおおぉぉおお!!」
『ぐああああぁっ! ば、馬鹿な…人間ごときが、俺…の……』

 内側から浄化されていくアジュガの身体。その身に完璧な鎧を纏う頃には、悪魔の姿は灰燼すら在らず。
 後に残ったアジュガと王子は、男泣きに泣いて互いの肩を抱き合った。


 柔らかな旋律が城跡に響く。何もかもが焼け落ちたその場所で、アジュガは王子に片膝をついた。
「戦場を移す度に、苦しむ民の声をきいた。国の闇を目の当たりにした俺は、心が揺らぎ……あの通り、気づけば悪魔にされるがままだ。これほどの被害を出した以上、命をもって償うしか」
「馬鹿」
「ばっ!?」
「城は焼けたが、国は続く。再建のためには右腕になる騎士が必要だ。それに……約束は守れよ」

――俺達ずっと、これからも。死ぬ時だって一緒だからな!

 手を差し伸べる王子。その手を握り、立ち上がるアジュガ。
 二人の新たな道行きを祝福するように、ボーンは霊体のヴァイオリンを巧みに操り続ける。
 美しい音色に聞き入りながら、睦月は頬を綻ばせた。
「ヴァン王国はこれからきっと、いい国になるな」
「そうですね。やっぱり物語はハッピーエンドでなくちゃ。いい大人がくよくよはカッコ悪いですから」

成否

成功

状態異常

なし

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