シナリオ詳細
ヘーレの御伽噺
オープニング
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――これは、エルス・ティーネ (p3p007325)の治めるラサの領地『ヘーレ地区』に伝わる御伽噺である。
壁画は語る。
砂鱗を持つ竜は月夜になれば人を象り姿を現すのだと。
彼等は酷く臆病な性質をしている。そも、竜というのは人々を蹂躙する力を持っているからだ。
砂鱗の竜は人を害することを厭う。砂鱗の竜は脈々と紡がれる命を慈しむ。
砂鱗の竜はその力が弱き物を傷付けぬようにと姿を隠して居るのだという。
彼は一度人を傷付け、それを悔やみ、憂いて砂の海へと姿を隠した。
もう二度とは人を傷付けぬようにと誓い深い深い眠りに着いていた。
彼は人の子の歌声を好んでいる。自身には発せぬ美しくもか弱い響き。
その穏やかな歌声に魅せられるように竜は人の子を真似てみせるのだ。
彼は大いなる翼を持った竜である。故に、人の子の常識も、人の子のマナーも分からない。
だが、決して其れを馬鹿してはいけない。人にも竜にも個性や『苦手』が存在するのだ。
優しく教え、そして次の夜にも出会えることを願うべし。
故に、隣人を愛せよ。それは砂鱗の竜かも知れぬ。
故に、隣人を害する事なかれ。それは砂鱗の竜かもしれぬ。
「――と、語られるのが此方の壁画に描かれる砂竜、ソルゲー・ビヤーバーンなのです!」
胸を張ってイレギュラーズを出迎えたのはエスルが治めるティーネ領『ヘーレ地区』の地区長であるロレンツァ・ロレッタであった。
「分かったかね?
つまり、ソルゲー・ビヤーバーンはこの地区の何処かで今も眠っている!
この御伽噺は真実で、嘗て、その姿を見た者がこの壁画を描いたに違いない! さあ、凄いと言うがいいよ!」
胸を張った彼女は早速だというようにイレギュラーズへと向き直った。
ティーネ領の中でも『ヘーレ地区』は多くの謎が残されている。遺跡が点在し、『竜種伝説』が語られる此の地には未だ未だ謎が多いのだ。
「諸君! 諸君達は『あの』ファルベライズ遺跡を越えてきたのだろう?
ならば、このヘーレの洞穴の奥に存在する遺跡の調査のプロフェッショナルであるはずだ! ……でしょう?」
――因みに、彼女は勢いだけで動いている『探索バカ』である。『世界の不思議を探る探索家』と自称するロレンツァは猪突猛進する余り、地区内ではダメンツァと揶揄われることも多いそうだ。
「……え、ええ、そうね……」
少したじろいだエルスにもぐいぐいと距離を詰めるロレンツァは「ならば!」と眸を煌めかせた。
「先ずは第一階層に挑んでみないか! 奥には、屹度何か宝物があるはずなんだ! ダンジョンと言えばそうに決まっているから!」
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――ティーネ領『ヘーレ地区』
砂竜の伝承が残るその地には遺跡が存在していた。領主であるエルス・ティーネにも奥はどうなっているかは分からない。
(何か分かったらディルク様にもご報告できるかも知れない……!)
遺跡の内部には何が存在するかは分からない。
ロレンツァ曰く年代物のワインやら、ヴィンテージ品が出てきたとも言っているがそれ以上の財宝や竜種の手がかりもあるかもしれない。
本当にソルゲー・ビヤーバーンが存在するか。
その謎を辿るように遺跡の中へと踏み入れたロレンツァが突如として「みゃ!」と叫んだ。
何かのボタンを押して、頭の上から真っ白な粉が落ちてきたのだ。
「しょ、諸君……! 見たまえ! この遺跡は危険が一杯なのだ!
と――言うわけで、成果物は山分けで構わない。頑張ってきてくれたまえ!」
- ヘーレの御伽噺完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年06月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ヘーレ地区。それは地下に続いていく洞穴が存在する場所だ。ラサの御伽噺の一つに登場するソルゲー・ビヤーバーンを語る御伽噺が残されたその地を、区長であるロレンツァ・ロレッタは『素晴らしき冒険の地』と呼んだ。
「いや、竜が~……って伝説が語られる系の遺跡でワインが出てくるのは結構すごくね? 竜近すぎね?」
宝物と言えば宝玉やそうした遺構が多い中、お土産であるかのように年代物のワインが出土するというのは『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)にとっては予想外だったのだろう。
「良いかね? 遺跡の中でちょっと調査すれば年代物のワインが出てきたと言う事は……まあ、竜は其れなりに近代にも活動していたと――」
「それ、本当かしら」
問うた『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)にロレンツァは「えーと」と呟いた。「ま、いっか」と笑うサンディは「レディもご一緒に?」と彼女に問い掛ける。
「勿論! この遺跡を探索するのならば区長である私のことをお忘れ無く!」
「へーレの遺跡……ちゃんと来るのは初めてかしら……ほらロレンツァさん、ちゃんと着いてきてね?」
エルスの反応からどちらかと言えば『見守らなくてはならない相手』で在る事を察した『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)はにんまりと笑う。
「ロレンツァさんは居てくださるととても心強いといいますか、ある意味ではタンクのような役割を担ってくれそうな気がするので、是非ともご一緒して頂きたいッスね!」
「其れはどういう……?」
勿論文字通りの意味である。誇らしげなロレンツァであるが探索の腕に限ればトラブルメイカーである。彼女が共にと宣言した時に『若木』秋宮・史之(p3p002233)は「くれぐれも皆の邪魔をしないように」と厳しく告げていた――まあ、それで聞けば『トラブルメイカー』と呼ばれるほどではないのだろうが。
「それで、ロレンツァ……は、旅人?」
「ああ、私は(以下、ものすごい自信たっぷりな冒険譚)……という凄い旅人で探索者なのだ!」
「そっか。まあ、パンドラが減るだけだし気にするだけ仕方ないな」
冒険には犠牲が付き物であると『観光客』アト・サイン(p3p001394)は知っていた。ロレンツァは「ひえ」と小さく呟いた――が、同行を決めたからには腹を括るしかないのである。
「探索か……この様な依頼も取り扱っているのだな。
我としては『何か』起こればそれもまた良い……が、結果を示さねばならぬのもまた事実。さてはて……」
ロレンツァの後に付いていく事に決めたウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)は「行くぞ!」とフラッグを振り上げてにんまり笑顔のロレンツァには何も言うまいと言う姿勢を貫き通している。
「ラサで遺跡でお宝探しでアトさんもいて……!」
――恋する乙女は感動していた。『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は「こうなったら張り切るしかないよね」と鼻息歩くやる気を漲らせる。
「エルスさんも好きな人のためにやる気だね。その気持ちわかるよ」
「えっ!? え、ええ。まあ……確かにお宝なんてあったらディルク様も喜ぶかしら……なーんて……でも何かしら見つかったら浪漫よね」
一方は冒険者(かんこうきゃく)である愛しい人の為に探索にやる気を漲らせ、もう一方は此の地で何か見つかれば愛しい人のためになると信じている。
「遺跡探索ッスかぁ………お宝が見つかったら嬉しいッスけど、せっかくなら噂の砂竜に関する手掛かりも見つけたいところッスね!」
にんまりと微笑んだ鹿ノ子に「なんだかトラップというよりいたずらじかけのおもちゃ箱みたいなダンジョンだね。竜伝説とか」と壁画を眺めた。
「そうッスね……。ソルゲーが本当に存在して居れば彼の為に作られたおもちゃ箱なのかもしれないッス」
竜伝説。砂竜の軌跡。それを辿るのも混沌に住まう者達にとっての浪漫だ。出会えるか分からぬ竜に思いを馳せるよりも、史之はより簡単な欲求を満たすと告げる。
「でも年代物のワインは飲んでみたいんだよな。遺跡の奥だからほどよく冷えていておいしそうだね。食欲はなにより優先する。気合入れて行こう」
ワインを求める者、そもそものダンジョンにやる気を漲らせる者。
そして――『竜』を信じる者。
「竜、なあ。眉唾も甚だしいが……信じたくなる浪漫に満ちた話じゃ。
昨年、その竜を封じた我らの言うことではないかもしれんが。やはり、融和出来るものが在るならば一目逢うてみたい」
『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は海よりやって来た。砂というのは、どうにも馴染めぬものではあるが、気にはなる。
「行くぞロレンツァ! この道は砂鱗への竜に続いてお……」
「ぎゃッ」
「――いきなり踏み抜く奴がおるか!!」
ばかん、と開いた足下に堕ちて行きそうになるロレンツァの腕を掴んでからクレマァダは鋭く叫んだのだった。
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「さーて、トラップ系ダンジョンか。斥候は僕が務めるよ。
僕の足跡の上しか歩かないようにしてね、それ以外に足を踏み入れると命の保証はできない」
そう宣言するアトはロレンツァには言っても無駄だろうか、と考えていた。もしも、全員を巻き込みそうなトラップが出てくるならば棒で転ばせてやればいいと実力行使を考えて。
「今回斥候とかは皆やってくれそーじゃん?」と少しばかり荷が下りた気分であるサンディは先行隊から遅れながらもロレンツァが『ヤバい』事をしないように見張っていた
(敵意を察知だから、多分銅像がガーゴイルになるとかだと物音とかより速いと思うんだよな)
サンディが一応、と機敏に察知する態勢を取る頃に、フラーゴラは忍び足でモンスターの偵察を行っていた。冒険の知識を生かし、罠を対処すると決めれば、アトが棒を使用して進路を確認するその役にも立つ。
「いーにーみーにー まいにーもー どっちにいったら えんじゃろなー♪」
謳うクレマァダの傍らでしょんぼりとしていたロレンツァは「私、こんなにも役に立たず……」と最初から肩を落としている――が「失敗も経験だぜ」と微笑んだサンディの気遣いに彼女は再度テンションがマッハになったのだった。
地上から足を離して、浮かび上がって行動する史之は落とし穴にはこれで引っかかることはないだろうと考えていた。
ウルフィンはと言えば何ぞ危険があった場合は自身では無くてロレンツァが被害を被るだろうと考えていた。それもそのはずだ。堂々と前線を歩いて行く彼女はアトの忠告にも耳を貸さないのだ。
「ロレンツァさん危ない!」
史之が慌てて飛び込み、大岩から彼女を庇おうとする。地を蹴って前線へと飛び込んだ鹿ノ子は見事に岩を自身の攻撃で打ち砕く。
「ロレンツァさん、気をつけて。アトさんなんかは何が来ても平気そうだけれど、女性が痛い思いをするのは俺は厭だからね」
優しい声にロレンツァは感動した調子である。だが、転がってきた大岩を呼び出したのは正しくロレンツァだ。アトの注意も忘れてスキップ気分で飛び出して大岩を転がせた。お約束と言えばお約束だがエルスの「ロレンツァさん……」と呼ぶ少し呆れた声にその肩は震えていたのだった。
その様子にくすくす笑った鹿ノ子と言えば、トラップを警戒するために目と耳、そして鼻を生かして居た。全身全霊を以て怪しいものはキャッチする心得である。そして暗闇を見通す力を有することで、灯りがなくとも危険を回避できる。
「鹿ノ子さんは準備はバッチリなのだね?」
「ふふん、ダンジョンと言えば壁から炎が出ることがあるッスからね。炎の痛みを抑える太陽の輝きの魔石もばっちり準備済みっす。
あ、けど……とはいえこれはあくまで僕自身がトラップに引っかからないためのものなので」
「……私は、炎が出たら燃え……る……?」
鹿ノ子は残念ながらと言うように小さく頷いた。花浅葱の髪留めを揺らしてた彼女は徘徊するモンスターを回避するために尽力するとロレンツァを励ました。確かに、戦闘になれば彼女は見ているだけになる。ロレンツァの活躍(?)の為にはできるだけモンスターを退けて遣る方が良いだろう。
「さあ、ロレンツァさん! 行くッスよ! ――って」
「ああああああッ」
壁に手を突いたロレンツァを勢いよく巻き込んだ炎に鹿ノ子は取り敢えず水をばしゃりと掛けたのだった。
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「『〇〇しないと出られない部屋』……うーむ、掠れていて要旨が見えんのう。
しかし二人で何かをする系の部屋と見た。ふつう無視すればいいところじゃがここに鍵か近道がありそうじゃの」
クレマァダはむうと唇を尖らせてから「アトさん次は如何する?」と問うているフラーゴラに目を付けた。恋する乙女と、その相手。
ふむふむ、それが揃っているならば――そんな『自分がされたら憤死』しちゃうクレマァダもお年頃。意地悪な笑顔を浮かべて「おーっと手が滑ってアトとフラーゴラを押してしまったのじゃ!!」とわざとらしくフラーゴラの背を押した。
「わっ」
アトの腕の中へと転がり込んだフラーゴラは「ご、ごめんね……」と慌てたように身を起す。「扉が開いた」と関さずと言った調子のアトは「クレマァダ、正解だったようだ。成程、『抱擁しないと出られない部屋』だった訳か」と冷静な調子である。
(――そ、そんな事になったら我は大変なんじゃけど、余裕じゃな!?!?)
残念、祭司長。観光客さんはダンジョンに夢中なのである。
「こんな部屋もあるのね……」
私もディルクさまと――なんて言わないでおいたエルスはこほん、と咳払いを一つ。様々なトラップが(半分位はロレンツァの所為で)発見されていることを憂うように悩ましげに唇に指先を宛がう。
「それにしてもどんなことがあるかしらね……大事になるようなものがあれば解除はしておきたいけれども。
遺跡の入口……壁画までは観光客の皆さんが訪れると聞いてるから、やっぱり危険は除いておきたいじゃない?」
「うむ、そうじゃな。音の反響だけ見ても、突然穴に落ちる可能性もあるじゃろう。
そこ、不自然な空洞がある。気をつけて進……ロレンツァあ!!」
クレマァダが『音』に気を配っている最中の事だ。アトは『くれぐれも己の前に出ないように、己の示した道以外を歩かぬように』と声を掛けていたというのに――ロレンツァは普通に顔をひょこりと前に出して、空洞に足を滑らした。
「――っと」
史之がその腕をぐ、と掴む。飛行していたことで彼女の窮地を救う事ができたかとほっと胸を撫で下ろす。
「変な土まみれとか、ヤな感じに足跡が残りそうな感じならぴかぴかにしちゃおうか。転ばぬ先のスプレーってわけだ」
何時だって身体を清潔に保てるスプレーを手にしていたサンディはロレンツァを清潔に保つ。探索を行う彼の傍らでモルダーは針が出そうだと進言していた。
「針か。ああ、それも良く在る仕掛けだね。罠というものは、トリガーと結果という2つの概念を組み合わせて作成されている。
つまり、理論上はトリガーさえ引かなければ結果というものは帰ってこない、これが罠を避けるための大まかな理論だ。
……ではトリガーというものは何を利用しているか……まあ、物理的なものか魔法的なもので変わるが、物理的なトリガーならば感圧板が一般的だろう」
と言うわけで感圧版を探るアトは「ロレンツァ、その先に進むと危険だ」と静かに言う。「え」と足を上げたままの彼女はそろそろ懲りてきたのか慌てたようにアトの背後へと逃げ込んだ。
「魔法的なものだった場合はさっきのロレンツァが壁を触ったときのように、隠蔽されている場合が多い」
「私、歩けないんだが!?」
「……違うッスよ、ロレンツァさん。アトさんの後ろを歩けば良いッスよ」
――まあ、前に言ってタンクになってくれても構わないとは鹿ノ子は口が裂けても言わないのであった。
彼女たちの様子を眺めていたウルフィンは「何かの気配がある」と指さした。
(スライムの仕掛けなんてないといいけれど……うう……皆さんが変なことを言うから思い出してしまったわ……)
そんなことを考えていたエルスの肩をサンディはポン、と叩く。まるでその想像が本当であったかのように。
ウルフィンはロレンツァの背後を歩いていたが、何かを感じ取ったように一歩後退した。
ばしゃ、とロレンツァの頭の上に降注いだのはスライムである。クレマァダは「ロレンツァあ!」と叫び、鹿ノ子さえもさささと後退してゆく。
「待って、服!!!! 私の服が溶けるんだが!? エ、エルス――領主殿!?」
「こんな時だけ領主だなんて!」
逃げる女性陣を眺めてアトは「そのスライム、殺せば良さそうだよ」と取り敢えず棒でロレンツァごと殴りつけた。
「ダメンツァあ!」とクレマァダが叫んだ声だけが遺跡の内部には響いていた。
逆にここまで行けばトラブルメイカーも『罠発見機』と呼べるのではないだろうかとウルフィンは感じていた。
何故か――それは彼女が何処ぞを眺めて居るからだ。
「ロレンツァ」と呼び掛けたウルフィンは首を振る。その様子を不思議そうに眺めたフラーゴラは首を傾いだ。
「ロレンツァさん、何を見て……モンスターいっぱいいる……?! ……ある意味そういう才能があるのかも?」
「……聞いても良いかい?」
ぎぎぎ、と錆付いた人形のように振り向いたロレンツァにフラーゴラは首を傾げる。ぞろぞろと此方に狙いを定めるモンスター達と見つめ合う時間も少ないか。
「これって危険――」
「勿論。ウルフィンさん力を貸して!」
先手を取るが為。フラーゴラの奇襲攻撃がモンスターの脳天目掛けて飛込んでゆくフラーゴラに小さく頷いたウルフィンの闘志が湧き上がった。気力は十分だ。その勢いの儘、叫ぶ。一喝が響き、その音に気を取られたモンスターを全身の力を持って薙ぎ払う。
続き、エルスが鎌を慣れたように振り上げるが――
「っ! えいっ!! あ、勢いでつい……倒しちゃって大丈夫……だったかしら……?」
慌てるエルスにサンディは「諸行無常」と揶揄うように笑ったのだった。
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「ここが――最奥か」
アトは確かめるようにそう言った。確かにこれ以上の途はなさそうだ。サンディは「ロレンツァ、怪我はないかい?」と彼女の調子を伺う。
此れまで驚かんばかりに散々な結果を生み出した彼女が旅人(イレギュラーズ)で在ったことに少しばかりの感謝を抱かずには居られない。これで一般人ならば命が何度あっても足りないというものだ。
「僕はこのダンジョンにおける勝利者となったのさ」
そうだろう、と微笑んだアトにフラーゴラは「そうだね……」と頷いた。フラーゴラの目的は高価なお宝などがないだろうかと言う事だった。
(お酒はアトさん苦手だしなあ。ワタシはキラキラしたものなら嬉しいかも……)
何かないかと探し求めれば、小さな石ころ程度の宝玉などは見つかる。まるで竜の眸を思わせるその宝石の煌めきにフラーゴラは「見て」とアトのもとへと近付いた。
彼女が探していた周辺には魔物の骨なども落ちている。それを加工して装備品をより強力にしたいと考えていたウルフィンは死骸を漁る。
戦士がより高みに近付くためにはそうした努力も必要なのだ。さて、何か良いものが落ちていれば良いのだが……。
エルスは「ここも空洞なのね」とロレンツァを振り返る。嬉しそうに瞳を輝かせるロンレンツァは彼女には答えない。
「ロレンツァさん?」
つんつん、と突いた鹿ノ子にハッとしたように彼女は息を飲んだ。何かに見入っているかのようだ。彼女の視線を辿れば――「ああ」
壁画の続きが描かれるように。眠るソルゲーを取り囲んだのは沢山の品々だ。彼が穏やかに眠れるように、ワインや宝石を飾り付ける民の様子が描かれる。
「……ソルゲーの眠りが穏やかなものになるようにと人々は祈り、捧げたんだね」
「ええ、屹度……砂竜の眠りは彼等の祈りと願いによって、穏やかなものとなるわ。此処に彼が眠るのなら……」
エルスはそっと地面を撫でた。どうか、ティーネ領を見守って欲しい。ヘーレに残された伝説の砂竜の眠りが心地よいものになれば、と願わずには居られなかった。
一連の話を聞いていたクレマァダは何処か、言い辛そうにおずおずと口を開く。此処までの冒険は彼女にとっても楽しいものだった。だが、コン=モスカの祭司長として――竜を祀る者として。
「別に異議を唱えようと言うのではない。感慨として言うのじゃが、人を傷つけまいと己を封じた竜が仮に居たとして、その寝所を暴くのは……
なんだ、その。礼を失してはおらんかな」
そう、ぽつりと溢したのは彼女が竜を祀る為に生きてきたからかも知れない。
「いや、忘れてくれ」
首を振ったクレマァダにロレンツァはにんまりと笑う。「私達が彼を護る為の冒険だったのさ」と明るく声を弾けさせて。
「見たまえ! 彼は愛されていたのだと、この場所が語っているだろう?」
くるりと踊ったロレンツァに史之は「それなら、彼を思って一杯戴かなくては」と揶揄うように笑った。
「――ソルゲー・ビヤーバーンに乾杯」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。ロレンツァちゃん危機一髪!
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
遺跡の奥へと辿り着く
●『砂竜の遺跡』
エルス・ティーネさんの領地内に存在するヘーレ地区の壁画の奥に存在する遺跡。階層が別れており、第一階層の奥へ辿り着く事が目標です。
地区長ロレンツァ曰く「遺跡の中でちょっと調査すれば年代物のワインが出てきた」などと言っていますので成果物は割と多そうです。山分けOKだそうです。
・遺跡の内部には罠が仕掛けられています。
・トラップダンジョンで有るために踏むと突然作動するトラップもとても多いです。
・壁から突然炎が出てきます。ロレンツァ曰く「ドラゴンファイア!」
・竜を模した意匠などが数多く存在して居ます。
・非戦闘スキルを駆使することで近道が見つかることもあります。
・モンスターが周回しているようです。できるだけ戦闘を避けた方が良いでしょう(遺跡内部のものを壊さないように!)
・その他「こんなトラップがある!」と言えばその通りになります。
●ティーネ領ヘーレ地区 地区長ロレンツァ
ロレンツァ・ロレッタ。『世界の不思議を探る探索家』を自称する好奇心旺盛トラブルメイカーな旅人です。
開始1秒でトラップを踏んで粉塗れになりました。連れて行っても良いですし、おいていっても大丈夫です。
ただし、連れて行くことではちゃめちゃにトラップをドヤ顔で踏み抜いて皆さんにトラブルをプレゼントしてくれます。
面白半分で連行して頂いてもOKです。非戦スキルを駆使して彼女が踏み抜くトラップの先回りをしてみるのも良さそうですね。
●ティーネ領の伝説『砂竜』
『砂竜』ソルゲー・ビヤーバーン、砂中で深き眠りについていると伝えられる竜です。
存在して居るかは謎ですが、竜と言うからには屹度竜種なのでしょう。
彼が存在して居るかどうかも遺跡を潜ることでヒントを得れるのではないかとロレンツァは期待しているようです。
(彼は深い眠りについている為、『本当に存在していた』としても会うことは出来ません。ただ、居ると思えば浪漫ですよね)
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、且つロレンツァが同行した場合は彼女の性格で不測の事態が起きる可能性があります。
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