シナリオ詳細
子ガニ捕り~カニの死神を添えて
オープニング
Rapid Origin Online――通称R.O.O。
疑似世界『ネクスト』の国家「航海」にあるレストラン。
「子ガニを三匹捕まえてきてくださいませんか?」
そんな依頼をしてきたのは、レストランの店主兼シェフだった。
シェフの言う『子ガニ』は、少し離れた洞窟に棲む陸生のカニの群れの中にたまに混じっているらしい。
実はこの子ガニ、煮てよし焼いてよしの人気食材。できれば安定して仕入れたいが、なかなか見つからない上に仲間意識が強いカニの群れに阻まれて一般人ではまず捕まえられないのだとか。
「なので、腕に覚えがありそうな方に子ガニの捕獲をお願いしているのです」
捕獲できれば当然報酬が支払われる。依頼を受領しレストランを出たイレギュラーズの面々を、一人の少年が待ち受けていた。
●
「ねぇねぇ、君たち洞窟に行くの?」
獣の耳に獣の尻尾、獣種と思われる容姿をした少年が問いかける。頷くイレギュラーズに、少しだけ考えるようなそぶりを見せた少年はこう言った。
「……やめといたほうがいいと思うよ? あそこは『カニの死神』が出るから」
カニの死神? と問い返せば、少年はコクリと一つ頷いた。
「洞窟でカニを捕まえていると出てくるんだ。見つかったら……殺されるよ」
少年の話を要約するとこうだ。
洞窟で「子ガニ」を捕まえるためにカニ狩りをしていると、少年が言うところの「カニの死神」が出現する。
一度出現するとしばらく広場を徘徊する。動きはランダムで、時間が経つと広場から出ていきそのまま姿を消すのだが、どれくらいの間広場を徘徊し続けるのかも不明。
このカニの死神の強さは異常で、見つかると確実に殺される――。
「逃げることに専念すれば、少しの間は持つだろうけど……」
結果的に殺されることに変わりはない。
「それでもやっぱり洞窟に行くのかな?」
確認する少年に頷くイレギュラーズ。依頼、つまりクエストを受注した以上こなさねばならない。
イレギュラーズの答えに少年は小さく息を吐き、彼らに最後の忠告を送る。
「じゃあ仕方ないね……くれぐれもカニの死神には気を付けて。死にたくなかったら、絶対死神の視界に入ったらダメだよ」
- 子ガニ捕り~カニの死神を添えて完了
- GM名乾ねこ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月05日 22時21分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
岩肌に張り付いた苔のような植物が淡い光を放つ。足元の砂が歩を進める度にさくさくと軽い音を立てる。
「蟹か」
『恋屍・愛無のアバター』真読・流雨(p3x007296)がボソッと呟いた。
ここはR.O.Oの世界『ネクスト』、混沌世界で言えば「海洋」にあたる国家『航海』にあるとある洞窟。
「何故『子ガニ』なのでしょう? 幼体の方が食材として適しているという事でしょうか?」
言いながら首を傾げるのは『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)。
『洞窟に出現する子ガニを三匹捕まえきてほしい』
これが、今いる洞窟からそう離れていない街のレストランで彼らの受けたクエストだった。
「さあ……成長したものに比べ柔らかいとかでしょうか」
やはり小首を傾げながら、『R.O.O tester?』珠緒(p3x004426)が返す。
「子蟹という事であれば、甲殻も柔らかいのだろうか」
誰にともなく尋ねた流雨が、更に言葉を続ける。
「ソフトシェルクラブのように殻ごと食べるのか。殻から良い出汁も取れそうではある。クエストになるくらいであるなら良い味なのだろう」
真顔のまま頷く流雨に『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)が同意した。
「ニアサーは、カニのうまさを知っているよ」
「もし余ったら俺達も食べられないのかなあ」
『エスタシオン』史之(p3x002233)が言えば、『開墾魂!』きうりん(p3x008356)も主張する。
「私もカニ食べたいね!!」
話を聞く限り、子ガニは大変美味でレアな人気食材。
「美味しいカニ料理を作る為にレストランからカニ漁を頼まれるのは分かるしなんなら私も食べたいけれど」
そこまで言って、トリス・ラクトアイス(p3x000883)ははあ、と息を吐く。
彼女とて子ガニに興味がないわけではない。しかし何より問題というか、気になるのは。
「カニの死神って……、何?」
クエスト受注後のレストラン前にいた少年曰く、「見つかったら絶対に殺されてしまうカニ」らしいが……。
「美味しい物を食べるためには危険も顧みないのが人の愚かなところ」
うんうんとニアサーが頷く。
「だけど、それは美点でもあるんだ」
「命懸けで捕まえてくる子ガニ、どれだけ美味なのか気になるわよねぇ。ボク、この依頼から無事に帰って来られたら、味わいたいな……」
「VRとはいえ色々精巧らしいので、食に触れてみるのも一興ですね」
ふふ、と笑みを浮かべる『R.O.O tester?』蛍(p3x003861)に、珠緒もまた微笑みながら答える。
「何にせよ、まずは仕事といこう」
淡々とした流雨の言葉に仲間たちが頷いた。
「そうだね。食の煩悩はわきへ置いておいてカニ漁へ専念しようかな」
史之が言えば、ニアサーもくすりと笑ってみせる。
「それがいい。店主も完璧にクエストをこなせば食べさせないわけにはいかないだろ?」
さあ、今夜はカニ料理だ――。
●
洞窟の突き当たり、カニ達が生息するという広場に出たのはそれからしばらく後の事だった。
広い広い空洞――点在する大小の岩、まるで天井を支えているかのようにそびえる自然の岩柱。それらが淡く光る苔に照らされ、うすぼんやりとした影を砂地に落とす。
そしてその広い砂地のあちらこちらに見える、数匹から十数匹くらい生き物の群れ。
「カニだ!」
きうりんが声を上げた。しかしその直後、きうりんは仲間たちを振り返り確認するように問いかける。
「カニ……だよね?」
「カニ、だとは思うけど……」
「カニ……と言われればカニかな」
トリスとニアサーの答えもどことなく歯切れが悪い。
イレギュラーズの微妙すぎる反応の原因は、「カニ」と思われる生物の見た目にあった。大きな左右一対のハサミと、四対の足。このあたりは普通のカニと変わらないのだが、その甲羅はまるで岩を背負っているのかのように大きく盛り上がり、サイズ自体も両手で抱えられるかどうかというほど大きい。
よくよく見ればハサミや足を覆う殻もいかにも硬そうなごつごつしたものであり、普通の「カニ」とは言いにくいような……?
「どちらかと言えば『カニ型のモンスター』といった感じでしょうか」
「「「ああ」」」
珠緒の発言に、幾人かが納得したかのように相槌を打つ。
「……とりあえず、子ガニらしきものは見当たらないね」
辺りを一通り見回す史之。今、この空洞にいるのは全て似通った大きさのカニばかり。
「では今のうちにバリケードを用意しますね」
職人魂を発揮し、広い空洞に遮蔽物を構築し始める壱狐。
「カニ死神対策、リンクの抑制……なんにせよここでは遮蔽が大事ですね、腕がなります!」
特にカニ死神は、その行動パターンすらわからない。バリケードの位置取りには注意しなければ。
「全体的に明るいのね。もう少し明るさに偏りがあるかと思ったのに」
蛍の呟きに、道中で光源となっている苔を確認していた珠緒が返す。
「苔を削って暗所が作れればと思ったのですが、これではあまり意味がないかもしれませんね」
何せ、苔は天井にまでびっしり張り付いている。
「カニは幾つかのグループに分かれてるみたいだね、少ないグループから攻めたほうがいいかな?」
カニの分布を確認する蛍に、きうりんが問いかけた。
「私が全部引き付けちゃおうか?」
「うーん、あまり数が多くなるのもどうなんだろう?」
問い返すのはトリス。強くはないとはいえ万が一ということもある。
「なら近くのグループから順に狩っていけばいい」
ニアサーが洞窟入口に一番近い位置にいるカニの群れを指さした。
「そうだね、群れと群れの距離はそれなりにあるし」
史之が同意を示したところにバリケードを構築し終えた壱狐が戻ってくる。
「うん、じゃあそういうことで!!」
言い終わるなり、きうりんはカニ達に向かってそのスキルを発動させた。
「よおし、カニ鍋になりたいやつからかかってこーい! 付け合わせのサラダである私が相手だよ!」
一斉にきうりんに向き直るカニの群れ。
「今だよ!ㅤ私ごと撃って!!」
流雨が投げた竹槍が、きうりんに殺到するカニ達を一直線に貫いた。笹ぐにるに貫かれ恍惚に堕ちたカニたちの様子をつぶさに観察し、流雨はそのデータを収集していく。
「狩りまくらせてもらうからね」
ニアサーがカニ達に向けて両腕を突き出す。突き出された両手から放たれるのは、無数の球雷――洞窟内に凄まじい雷鳴が轟くと同時、球雷がカニ達に着弾した。
「ニアサーは、止められないよ」
不敵な笑みを浮かべるニアサー。強力な範囲攻撃に巻き込まれたカニの群れに、珠緒と壱狐、それに史之が飛び込んでいく。
群れの外周寄りにいた一匹が、まるで引き寄せられたかのように珠緒が構えた妖刀『無限廻廊』に切り捨てられ消滅する。
「データじゃなくて実際に混沌に生きていればこうはなりませんが……ノンアクティブの身の上を恨んでくださいね」
近づく自分にまったく気づかないカニにそう告げて、壱狐は自身の本体でもある太刀を振るい星神徹しを放つ。
(とりあえずこのあたり殴るか)
受けたダメージが大きそうな個体を選び、大振りの刀剣を振りかぶる史之。そのまま勢いよくカニの足の付け根目掛けて振り下ろす。
(痛い! カニのはさみがちくちくする! 頑張れ私!)
カニの猛攻(?)とニアサーの範囲攻撃に巻き込まれたきうりんの耳に、トリスのエレキギターのサウンドが届いた。
エレキギターの音に載せられたトリスと、続けて発せられた蛍の、二人の癒しの力がきうりんの傷を癒す。
「ありがとー!」
二人に向けてブンブンと手を振り礼を言い、きうりんは次なるカニの群れに視線を向ける。
「どんどん行っちゃうよー!」
●
ひたすらカニを狩り続けるイレギュラーズ。空洞内のカニの群れを粗方狩り終えた頃、最初の群れがいたあたりに新たなカニが出現し始めた。
「なるほど、こういう湧き方をするのか」
確認するかのように流雨が呟く。おそらくは倒された順に再出現しているのだろう、最初の群れがほぼ復元された頃には次に殲滅された群れのカニがちらほらと現れ始めていた。
「――あ」
誰かが声を上げた。再出現したカニ達の中に明らかにサイズの違う――といってもそれなりの大きさがあるのだが――見慣れた姿をした「カニ」が混じっていたのだ。
「今度こそカニだ!」
嬉しそうにきうりんが見慣れた姿のカニ……「子ガニ」を指さす。
「周りのカニもまだ少ないですしチャンスですね」
「こっちのカニは任せといて! そっち行かないよう惹きつけとくから!」
呟く壱狐にそう言って、復元した最初のカニの群れに突撃するきうりん。
「きうりんさんはボクたちでフォローするから」
蛍の言葉にトリスが頷き、残るイレギュラーズは子ガニの捕獲に向かう。
タイミング悪く目の前に湧いたカニをつむじ風のごとく得物を振るいながら乱雑に切り捨てるニアサー。続く珠緒と史之の攻撃で、カニは他の仲間に気付かれる間もなく消滅していく。
「子ガニはこのカニより脆い。気を付けていこう」
改めて認識合わせをする流雨に頷き、壱狐がすらりと得物を構える。
「一撃で気絶させます」
術式を纏った太刀の一撃が子ガニを襲い、その体を強かに打つ。その直後、子ガニはお約束のように口元から泡を吹きながらこてん、とその場にひっくり返った。
消滅するでもなくピクピクと痙攣する子ガニを手早く確保する流雨。
「ん。まずは一匹、だな」
そうこうしているうちに、カニは少しずつ増えていく。
「この数ならまだ一体ずつ集中して殴ればいけるかなあ」
「そうですね」
「ではニアサーは向こうの群れを片付けてこよう」
史之と珠緒のやり取りを聞いたニアサーは、自分がきうりんたちが相手をしているカニの群れの処理に回ることを提案する。
「お願いします」
壱狐が答えるとほぼ同時、ニアサーはきうりんたちの元へ駆け出していった。
●
一度カニ達を一掃したことでリンクの可能性が減り、きうりんがまとめて惹きつけたカニ達には範囲攻撃を、そうでないカニには単体攻撃の集中砲火を、とカニ狩りをある程度分担して行えるようになったことで殲滅スピードがあがった。
子ガニが次に湧いたのは、きうりんが惹きつけたカニ達の只中。
「私に任せて」
トリスのエレキギターの音が、きうりんの周りのカニ達を傷つける。それに耐えきれず痙攣しひっくり返った子ガニを、きうりんが庇うようにしっかりと胸元へ抱え上げた。
「子ガニくんは私が守るよ!」
子ガニがきうりんに捕獲されたことを確認したニアサーのクーゲルブリッツが、彼女の周囲のカニ達にとどめを刺す。
「やっと二匹目だね」
きうりんの傷を癒しながらそう呟いた蛍の背に、ゾワリ、と悪寒が走った。
慌てて周囲を見回せば、やはり何かを感じたのだろうか、緊張した面持ちの珠緒と目が合った。
異変を感じたのは二人だけではない。他の面々もそれぞれが覚えた違和感故に身構え、周囲を警戒している。
ピンと張りつめた雰囲気の中、カニ達が動き回る音だけが妙に大きく聞こえる。
ずん、と空洞内の空気が一気に重くなった気がした。
ほとんど間を置かず、見上げるような巨大な「何か」が現れる――。
「カニ死神です、皆さん遮蔽に!」
壱狐が叫ぶのと、皆が行動を始めたのはほぼ同時だった。岩陰に、あるいは構築されたバリケードの影に飛び込んで身を潜める。
戦闘途中だった一部のカニは彼らの後を追ってきたが、これらは岩陰やバリケードの裏で問題なく処理された。
(カニ神が視覚感知で助かったわ)
トリスが内心で安堵する。視覚以外に反応しないカニ死神の習性を把握できていたからこそ音を気にせず戦える。多少離れた場所にいる仲間とも、会話ができる。
(空気が変わった感じはしたが、それ以外予兆らしきものはなかった)
カニ死神の様子を窺いながら流雨は考える。
(他のカニを倒しても反応せぬ。死角に回り込み続けられれば、狩りも可能か)
カニ死神が空洞内を歩き始めた。直進したかと思えば右へ、そうかと思えばくるりと後方を振り返りそのまま前へ。
「動き方に規則性はないようですね、厄介な……」
蛍と同じ岩陰に隠れ、彼女の応援バフの力も借りて御霊によるカニ死神の解析を試みていた珠緒が言った。
「移動しながらカニ漁するのは無理かなあ」
近くのバリケードの影で史之が呟く。
何か規則性があれば見つからぬよう立ち回り続けることもできるかと思った。しかし規則性なく、しかも不意に後方を振り返るような動作すらするとなればそれもなかなかに難しい。
史之自身は死亡してもそれはそれ、R.O.Oの醍醐味とすら考えてはいるが……。
「他の情報は出てきませんね」
小さく息を吐く珠緒。それも無理はない、まず解析のための情報が圧倒的に足りないのだ。出現条件にしたところで、一度きりの出現確認ではその特定は困難を極める。
「ニアサーが、仕掛けてみるよ」
カニ死神が自分が隠れる岩に背を向けたタイミングでニアサーがケーリアンを使用し自身に飛行能力を付与した。そのままカニ死神の背中、巨大な甲羅目掛けて飛翔する。
トンと硬質な音が響き、ニアサーは難なくカニ死神の甲羅に着地した。カニ死神が反応する様子はない。ニアサーの狙いは目玉――しかし。
巨大な甲羅の頂点からニアサーが顔を出した瞬間、カニ死神の目玉がぎょろりと動いた。
「!」
咄嗟に頭を下げるニアサー。
(これは無理かな)
他のカニ同様、カニ死神の甲羅は大きく盛り上がっている。おかげでその背中は完全な死角となっているのだが、ニアサーからも目玉の動きが全く見えない。
目玉への攻撃を諦めたニアサーがカニ死神の背を離れる。カニ死神の動きを警戒しつつその前方へ視線を向けたニアサーは、とあることに気が付いた。
「カニ死神の前の群れに、子ガニが何匹か混じってる」
ニアサーの報告に、流雨が答える。
「ならば、カニ死神が消滅次第それを確保しよう」
「場所がわかってるならうまいこと回り込んで狩れないかな」
史之が提案した直後、壱狐が声を上げた。
「こちらへ来ます!」
何が、などと問う必要もない。
幾人かのイレギュラーズが隠れるバリケードの近づき、回り込むような動きを見せるカニ死神。イレギュラーズはその動きに合わせるように慎重に移動し、別の遮蔽物の影へ……と、突如カニ死神が方向を転換した。
「――だめっ!」
咄嗟にカニ死神の前に飛び出す蛍。
「蛍さん!!」
珠緒が叫ぶ。
「珠緒さんごめん! あとはお願い!」
全速力で空洞の出入口へと走り出す蛍に向けて、カニ死神がその巨大なハサミを振り下ろす。その直後、珠緒の御霊が彼女に新たな情報を伝えてきた。
『死から逃れる術はなし――』
珠緒の顔が引き攣った。カニ死神は蛍を追いかけ空洞を後にする。
「早く子ガニを捕まえて僕たちも撤収しよう、もたもたしてまた蟹神に遭遇などしては笑い話にもならぬ」
流雨の言葉に、微かに震えながらも珠緒が頷いた。
「ええ、ええ、そうですね。犠牲はないほうが良いに決まっております……」
「ニアサーさんのおかげで場所はもうわかってるし、一気に終わらせてしまいましょう」
トリスも同意し、イレギュラーズは子ガニが複数混ざっていたという群れ目掛けて走り出す。その途中、史之は空洞の出入り口をちらりと見遣った。
(さようなら、あなたの雄姿は忘れない――)
一方の蛍は、懸命に洞窟を走っていた。
少しでも長く、少しでも遠くへ――けれどそれもやがて終わりが訪れる。走る蛍の頭上を巨大な影が覆った。
思わず振り返った視線の先にあったのは、巨大なカニのハサミ。
(あーあ、珠緒さんと一緒に子ガニ食べたかったな……)
●
「ありがとうございます!」
とある街のレストラン。子ガニ捕りの依頼主は、嬉しそうにイレギュラーズが捕まえてきた子ガニを受け取った。
「もしよろしければ味わっていかれませんか? 沢山捕まえてきてくださいましたし、特別にサービスいたしますよ」
そう言う彼は、目の前の面子が一人減っている理由を問う事すらしなかった。
不信感を強める珠緒の脇で、史之がグルグルと肩を回す。
「延々と敵を狩るのってけっこう疲れるね、肩こっちゃったよ」
一通り肩を動かしふぅと息を吐いた史之が、依頼主に問いかけた。
「できれば代わりに料理させてもらえませんか? 流しの料理人ですよ?」
「またまたご冗談を。そうだ、もしよろしければまた子ガニを捕ってきていただけませんか?」
「「え?」」
依頼主の返事に幾人かが困惑の声を上げる。
「……また危険を冒せというのでしょうか?」
思わず呟いた珠緒に、依頼主が不思議そうな視線を向けた。
(もしやカニ死神の存在を知らない……いえ、認識できない?)
思い至った結論に、自分でも驚く珠緒。しかしそう考えれば依頼主の態度にも説明がつく。ある意味純粋なNPCだから、カニ死神がバグの産物だから……理由は幾つか考えらえる。
「その話はまた今度。それより子ガニってどんな料理になるの?」
トリスの問いに、依頼主は先程と同じ言葉を繰り返す。
もしよろしければ味わっていかれませんか? 沢山捕まえてきてくださいましたし、特別にサービスいたしますよ――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
洞窟で確保した子ガニを依頼者に納品し、クエストクリアとなりました。
ご参加ありがとうございました。ご縁がありましたらまたよろしくお願い致します。
GMコメント
乾ねこです。
混沌世界では海洋に当たる国家「航海」のとあるレストランの店主から、「子ガニを三匹捕まえてきて欲しい」というクエストが発生しました。
指定された洞窟でカニを倒しているとたまに出現する「子ガニ」を捕まえてきてください。
洞窟には稀に異常な強さの「カニの死神」が現れます。見つかれば確実に殺されます。
いなくなるまで隠れてやり過ごす、誰かが死亡前提で囮になって広場から引きはがす等、出会ってしまった場合の対策を考えておく必要がありそうです。
●成功条件
子ガニを三体以上捕獲する。
●戦場
依頼主である店主のレストランがある街のほど近くにある長い一本道の洞窟、そのつきあたりにあるやたらと広い広場が戦場です。
足元は砂地、所々に大きめの岩が点在しています。
うっすらと光るヒカリゴケのような植物が自生しており、ランプのような光源がなくとも問題なく動ける程度の明るさはあるようです。
●敵の情報
基本的には子ガニが出現するまで陸生のカニを狩り、子ガニが出現したらそれを捕まえていく形になります。
まれにカニの死神が出現し、目に入ったプレイヤーを問答無用で殺害しにかかります。カニの死神に見つかった場合、確実に死亡します。
ちなみにカニたちは左右だけでなく前にも動けます。
・陸生のカニ(カニ)
洞窟の広場に生息するカニです。こちらから手を出すまでは大人しくそこまで強くもありませんが、仲間意識が強く子ガニを含む仲間が攻撃されていることに気付くと周りのカニも襲い掛かってきます。
子ガニを出現させるために狩り続ける必要があり、倒しても比較的短時間で再出現します。
・子ガニ
陸生のカニを倒し続けているとたまに出現する他のカニより一回り以上小さなカニです。戦闘能力は高くなく、簡単に倒され消滅してしまうので捕まえる際にはやりすぎないよう注意が必要です。
・カニの死神(カニ神)
洞窟の広場にまれに出現する巨大で異様に強いカニです。出現条件、消滅条件ともに不明。視界に入ったプレイヤーを殺害します。
おそらくはバグの産物であり、プレイヤーが攻撃されればほぼ一撃、良くて二撃ほどで死亡確定なうえにプレイヤー側の攻撃はまともにあたりません。
完全な視覚感知タイプで、視界にさえ入らなければ超近距離に立とうが大きな音を立てようが反応しません。
そのかわり一度視界に入った相手は死ぬまで追いかけまわし、対象が死亡するまで存在し続けます。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet