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シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>シギュンの洗桶

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想王国を巨人や古代の獣が襲う事件が発生し暫く……
 かの事件の裏には、かつて存在したイミルの民の長『フレイス・ネフィラ』がいる。イミルの民という一族は勇者王の時代に……つまり幻想王国が国として成立する前に、一地域を統括していた豪族と言える者達だ。
 周辺の部族と争いを続けていたものの、勇者王や『巫女』の尽力により一度は和平の道を辿ろうとしていたのだが……陰謀に巻き込まれ裏切られ、最終的に巨人化の秘儀を用いて決戦を行い――そして封印された。
 それらを当時率いていた長がフレイス・ネフィラだ。
 そしてフレイス・ネフィラは『死の神』としてイミルの民から崇められている。
 ――何故だろうか?
 イミルの民は神に連なる様な一族ではない。元は只の人間だというのに……
 それは彼女が『死』を『力』とする為。
 巨人化の秘儀に伴って、彼女は己が存在を――『魔人』とも言える姿――へと変質させた際に極限の憤怒からかそのような力を得たのだろう。彼女は死が巻き起こるたびに力を宿す。
 特に憎き幻想王国の民が苦しみ死ねば死ぬ程に。
「全く。巨人共の長はなんと血に飢える事なのか……」
 吐息。漏らすは幻想王国に属する――とある貴族だ。
 彼の名をフィフ・メントース。ミーミルンド派閥に属する一人であり……
 かの者の意思を遂行するために此処、ドン川へと訪れた者。
 ――ドン川は幻想の一角を横断している川だ。ここは周辺各地の水源にも繋がっており……人々の生活を支える場所であると言っても過言ではない。そんな場所にフィフが持ってきたのは。
「見よ。これがかの一族より委ねられ、それに呪術を重ねた――毒だ」
 死の結晶だ。
 それは口にするだけで生物を内から死に至らしめる劇薬。
 ……ミーミルンドと盟を結んでいるフレイス・ネフィラは死を求めている。しかし封印が解けて以降繰り広げられた幾度もの幻想王国との攻防は芳しくなかった――最初期はともあれ、イレギュラーズの介入が始まってからは彼らに何度阻まれた事か。
 少し前には王都方面に向かわせた魔物の群れも撃退されたという。
 さすればフレイス・ネフィラが所有する戦力もすり減っているものだ。奴らの数も無尽蔵という訳でなければ……恐らく余裕のあるような状況ではないのだろう。だからと、ミーミルンドに協力を求めてきた――
 死を齎せと。
 多くの死を。であれば何が効率的かと、思案した結果が。
「毒物とはな。まぁ効率的ではある……フフフ、まぁ民など幾らでも生えてくるものよ……」
 そう毒だ。
 廃鉱山を崩し、鉱毒を各地へ。
 地下水路を呪い、病を各地へ。
 川に毒を齎し、死を各地へ。
 ミーミルンド一派は『将来』も考えれば、この国にあまりにも甚大な被害を与えるのは乗り気ではない、が。巨人めらの優れし力を借り受ける為にも彼らを立てる必要もあろうと実行に移ったのだ。
 何――最終的に勝利してしまえば全ての採算は取れるのだからと。
 流すのは毒。流すのは呪い。
 かの死の女王より委ねられ、主たるミーミルンドお抱えの呪術師が更に増幅させた死の権化。
 これを一たび口にすれば皆が死に絶える。
 喉の奥が焼ける様に。臓腑が飛び散らんとするばかりに撃を受け。
 死ぬのだ。
 皆、皆死ぬのだ。ヒッヒッヒ!
「おお、見よ」
 直後。指差す先にあったのは――水面に浮かんでくる魚共。
 全てが腹を見せて流れに乗る。
 力なく。
 ――その数は秒を経る事に加速していく。
 生きている事を許さぬかのように。
「だがこれでは足りぬな」
 されど毒と言ってもこれもあくまで液体にすぎぬ。
 やがては水に薄まろう。どれ程の有毒なるモノであろうと、大海に一滴零した程度で世界を染め上げるには足りぬ。だからこそと、フィフが見据えたのは後方にある――大量の毒の在庫。大樽に詰められ幾つもそこに在るのだ。
「よし、放て! これらを全て落とせば事足りよう。その後はミーミルンド卿に報告を――」
「フ、フィフ様!」
 瞬間。部下の一人が声を荒げた。
 何事か――そう思って目を向けた先に、あったのは。

「なっ……大樽が、動いている……? いや、これは……!?」

 震える大樽の数々。なんだ、何が起こっている?
 あの大樽の中に何かいるのか――? いやあれには毒しか詰まっていないはず。何か生物がいる筈がない……強いて言うならば。
 『呪い』がタールの様に詰まっているぐらいだが。
 困惑と同時。全ての樽の蓋がはじけ飛ぶように炸裂。
 ――直後に形成されるのは全ての毒が集合し、一つの個体となる様。
 それはミーミルンドお抱えの呪術師たちが仕掛けていた『防衛機構』であった。
 もしもこの件を察知し、何かしら敵意を抱くものが近くに至った際には。
 呪いが形を成して――その『敵対者』へと襲い掛かる様にと。

『――!!』

 金切声の様な何か。響くと同時に超高水圧の水弾が――彼方へと放たれて。
「な、なんだ何をしている!? これは一体……あっ!?」
 刹那、フィフは見た。
 『呪い』が放った藪の先。着弾するよりも一瞬早く動いた影があった事に。
 それは人影。近くにまで至って気を窺うように潜んでいた――
 
 イレギュラーズ達の集団であった。


「お願いしたい事があります。至急、ミーミルンド領へと向かってほしいのです」
 事の始まりは少し前。『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)の屋敷に招待された者達――つまりイレギュラーズである『貴方達』がいた。その中には先日勇者として称えられた武器商人(p3p001107)とセララ(p3p000273)の姿もあって。
「ヒヒ……ミーミルンド領、かい? 噂の渦中に手を伸ばそう――って?」
「そうであると言えるかもしれませんね……ミーミルンド家の動きはあまりに怪しい。そして実際、ミーミルンド家配下の貴族の方に動きが見られたのです」
 ミーミルンド家はかつて王家の相談役とも称された貴族の家だ――その当主、ベルナールは妹であるマルガレータが死亡してから色々と『変わった』という。
 そして件の始まりであるギストールの惨劇など以降、きな臭い動きが見られていた。
 巨人達と手を組んでいるのではないかと。
 そしてもしもフレイス・ネフィラと組んでいるのなら。
 奴らの支援の為に――『死』を齎す何かを成そうとしているのかもしれないと。
 そうならば見過ごせない。いや、ある意味これは好機とも言うべきか?
 奴らの目論見を阻止し、その配下の貴族を捕らえて口を割らせる事が出来れば。
「一気に黒幕へと繋がるかもしれません。
 ……危機を好機とは、あまり思いたくはありませんが」
「でも見過ごす訳にもいかないしね! うん、任せてよ!」
 意気揚々とセララが言葉を発せば、さて。
「ええ――そうですね。では、皆さんには……このドン川へと訪れていただきたいのです。何やら大量の物資を上流の方に運んでいるのだとか……その動きを追い、奴らの狙いを阻止してください。お願いします」
 ガブリエルが地図の上で指差す先。
 それはミールミンド家が統括する地域にもあるドン川。
 人々の生活を支えている地にて何かを企むとは、良くはなさそうだと誰かが小さく呟いた。

GMコメント

●依頼達成条件
・『呪い』の撃破
・『呪い』を川に長時間浸けない事
・貴族『フィフ・メントース』の捕縛

●フィールド
 ミーミルンド領付近にある『ドン川』上流。時刻は昼。
 それなりに幅広い川です。周囲は木々に囲まれています。
 一般人の類はいませんので、その辺りを気にする必要はないでしょう。
 この川は近隣の街や村に水源として繋がっている場所でもあります。
 万が一汚染されれば夥しい数の死者が出る事も想定されるでしょう……

●敵戦力
・『呪い』
 それは死の結晶。憎悪の結晶体。
 元々はドン川に放流される予定だった『呪い』を煮詰めた『毒物』でした。
 しかしミーミルンドお抱えの呪術師たちが仕掛けていた防衛機構がイレギュラーズ達の接近を察知。起動し、一つの魔物として形成されました――その姿はドス黒い水の塊です。

 内部から超高水圧の『毒』を射出してきます。
 それは純粋な攻撃力も脅威ながら――何よりも命中した場合高確率で『毒』系列のBSを付与してくる事でしょう。また、複数回受けると『毒』系列のBSに限り、段階が悪化する可能性があります。

 基本的には自らを狙ってくるイレギュラーズのみを攻撃してくるのですが。
 ――実はあまり敵味方の区別はつけていないようです。

 なおこの個体が川に長く浸かっていると川が毒に汚染されていきます。
 長時間その状態が続くと下流に影響を及ぼし失敗となりますのでご注意ください。
 シナリオ開始時はまだ川には漬かっていませんし、自ら川の方に行こうとはしてないようですが、戦闘開始後の動き方は不明です。

・『フィフ・メントース』
 幻想貴族にしてミーミルンド派閥の一人です。
 今回の毒を放流する計画の一端を担いましたが、まさか呪いが形を成すような仕掛けが施されていたとは知らなかったようです。目立った戦闘能力はありませんが、下記の私兵たちの戦闘能力を強化する指揮能力を有しています。
 『呪い』の発する強大な圧があればイレギュラーズも撃退できるのではと、戦闘意欲は高いようです。

・フィフの私兵×8
 フィフの警護に付いていた私兵たちです。全員剣を帯刀した近接タイプ。
 戦闘能力はそこそこ程度です。フィフの身の安全を最優先にする動きを見せています。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ナグルファルの兆し>シギュンの洗桶完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年06月05日 22時21分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


 毒とは。生物を内より効率的に破壊するモノだ。
 古来よりソレは多くの者の命を奪い続けてきた。
 井戸に放てば村一つをも容易く壊滅させよう――
「なりふり構わぬ手段だね。以前はこうまで露骨な手は取っていなかったと思うのだけど……それだけ向こうの泥舟も蕩けてきたというところかな?」
 ヒヒヒヒヒ、と。毒が『呪い』として顕現した様を見据えながら『闇之雲』武器商人(p3p001107)は笑みを浮かべていた。このようなモノにまで頼らねばならないとはなんたる無様か――今まで幾度も巨人や魔物での襲来があったというのに『成せなかった』が故がこの有り様か。無様というかなんというか……
 まぁ毒を流そうとした愚かな人間らの思惑はともあれ。
 誕生した『呪い』には斯様な事は関係ない。
 誕生より幾度も振るわんとする超高水圧の一撃。毒を纏いし撃がイレギュラーズ達を襲いて、武器商人らは当たらぬ様に即座に動き出す。躱しながらそれぞれの役目を果たさんと。
「やれやれ……このようなモノを水源に落とそうとしていたなどと、また為政者落第の作戦を起すものですね。幾らかマトモになったとはいえ、幻想貴族らしいと言えばらしいのかもしれませんが」
「いっぱい人が死んじゃうって――分かってる筈だよね!」
 武器商人が貴族の私兵らの方に向かうのであれば『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)と『魔法騎士』セララ(p3p000273)は『呪い』の抑えの方へと進むものだ。
 とにかく奴を川へ浸す訳にはいかない。
 川が汚染されれば人も死ぬし、土壌の汚染にまで至れば回復にどれだけかかる事か。
 ――その闘志を感知したのか『呪い』は迎撃の様に更に高水圧の射撃を繰り出さんとしてくる、が――
「ふふ。だめよ、ええ――部隊の幕を上げる役目は私が頂くの」
 それ以上のお手付きはいけないのだと、往くは『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)だ。
「川に毒を流すなんてどうしてそんなことができるのかしらね?
 毒って別に美味しくないのよ? 好き好んで飲む人はいないと思うわ――
 ええ。実体験だもの、私がよーく知っているわ?」
 ふふ、なんて『冗談よ』とばかりに。
 一体どこからどこまでが冗談であったのか――さておき、彼女の神速たる踏み込みが機先を制す。流れを掴むのはこちらだとばかりに。さすればソレに乗る様に武器商人やセララ達の動きも連動するものだ。
「ええ、絶対に止めてみせるわ」
 運ぶように、或いは手を取る様に。
 一気に懐へ。死線掻い潜り舞踊行うに足る至近の領域へ――
「民の命をなんだと心得ますか。貴族とは名ばかりの外道めら」
 直後。至りしと同時に撃を叩き込むは『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)だ。
 剣を構えし私兵へ一閃。読み難く避け難く只人には解する事さえ叶わぬ流閃を。
 もしもあともう少し来るのが遅れていたら奴らは毒を投じていただろう――
 この状況は不幸中の幸いと言うべきなのだろうか、しかし。
「無事に物事が解決した暁には報いを受けていただきましょう」
「だ、黙れッ! 貴様らはイレギュラーズか……! ええい、如何なる者達であろうと倒せば事もなし! 掛かれ! 討ち取れ――!!」
 沙月の鋭き視線がフィフを睨みつけ――であればフィフらも刃を向けるものだ。
 イレギュラーズ達が来た程度でなにするものぞ。
 己らの『栄光』を掴む為にはこんな所で屈する訳にはいかぬとばかりに。
「何が栄光……そんなものは貴方達の私欲にすぎないでしょうに!
 国を守り、民を守る事が貴族の務めであるとどうして理解できないの!!」
 ――だからこそ『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は兵を薙ぎ払うように。頭、喉、鳩尾……眼前立ちし兵の急所を目にも止まらぬ一閃と共に突き貫く絶技には怒りと意志が籠っているのだ。
 ノブレス・オブリージュを知らぬのか。立場ありし者には大いなる義務が伴うのだと。
「貴方に――いえ、貴様に貴族を名乗る資格なんてない!!
 他者より物を奪う盗賊にも劣るその魂! 然るべき場所にて己が罪を悟りなさい!!」
「ええい小娘に何が分かるか! 何をしている、早く討たぬか!!」
 命は奪わねど全霊たる力をもって。
 アルテミアはフィフへの道を切り開かんとする――外道に容赦は必要なし。
 苛烈たる勢いにフィフが慌てて指示を出す、も。歴戦のイレギュラーズ達たればそうそう簡単に崩れる事などないものだ。なにより、安寧とした場所で常にあぐらをかいていた者に彼女らが打ち破れようか。
「勝手な事ばかり言って……!
 人も動物も自然も、誰かの生命は、あなたたちのものじゃあないんだよ!
 皆みんな――生きているんだ! 誰にも、好き勝手にしていい権利なんてないんだ!」
 そしてアルテミアと同様に彼らの行いに対して『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は憤慨していた。
 どうしてこのような事が出来る? 清き水と思って口に含めば死に至ろう。
 命を繋ぐ水を死に繋いで……誰も彼もが苦悶の内に散ってしまおう。
 ――許されざるべきことだ。
 だから彼女は戦う。救うべきこの戦線を保たせるべく。
「呪いになんて負けるもんか……私がいる限り誰も倒させやしないよ!」
 麗しき癒しの花弁が彼女より紡がれる。
 それは決して人の命を奪わぬ慈愛の結晶。呪いに抗する大華の一片。
「うん――あの人にはちゃんと自分がした事を自覚してもらわないとね!
 捕まえておしおきだよ! 皆が生きる為の大事なお水を台無しになんてさせない!!」
「……此の国の地図を死で塗りつぶしたとして、其処に未来があると御思いですか。
 本気で『そうで良い』と思っているのなら……哀れ極まる愚かな演者ですね」
 であればとアレクシアからの治癒を受け取るは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)だ。彼女は炎を顕現させし札を投じて奴らの身を縛れば、次いで『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が縛られし一瞬を見逃さずに雷撃を放つもの。
 地を這うような一撃を。纏めて穿ちて薙ぎ払わん。
 ……富と権力は時として人の目を――魂を眩ませてしまう黄金物。
 濁り切った瞳では、本来見えるべきものも見落としてしまう病の如き蝕み。
「嗚呼……」
 なんという禍々しさだと、アッシュは視線を横に向ければ『呪い』がある。
 一体如何程の悪意を孕んでいるというのか。
 そしてこの貴族達はそれに気づいていないのか?
 見れば分かる危険物。とても制御しかねるモノだと……
「これは――幻想を救う戦いである」
 だからこそ『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は往く。
 この国を救うのだ。愚か者からも、怨嗟詰まりし過去の一族からも。
 ――己が旗印と共に。
 死如き何するものぞ。呪いなどにこの国を跨がせるものか。
 魔力の塊が一つの意思と共に形成され戦場に瞬く――ああ。
「神がそれを望まれる」
 ただ一人の司書は全てを見据えて。
 遍く災厄を打ち払わんべく――歩を進めた。


 呪いを押さえねばならぬ――イレギュラーズ達の目的はまずソレにあった。
 奴が川へと到達してしまえばどれだけ他の上手く戦いを勧めようともご破算になってしまう。下流は死に塗れ、魚も自然も人も全てが浸食されよう――
 だが。かといってフィフらを逃しても同じことだ。
 主犯を逃せば『いたちごっこ』となる可能性もある……それは避けねばならない。
「汚染はさせない。背後関係も掴む。
 両方やらなければならないのが――大変な処ですね」
 尤も、覚悟は出来ているのでありますがと紡ぐのはヘイゼルだ。
 まるで重機関銃の如き水圧の連射に、しかし彼女は臆しもせぬ。
 奴を釘付けにする為には常にその注意を引き付けねばならぬのだから――注意を奴の意思そのものから啜る朱き魔力の糸をもって。幾度にも多重なる顕現にて単独の飽和時間差攻撃を仕掛けよう。
「では、参りませうか。精々今しばらく共に興じると致しましょう」
 前から左から右から。奴の攻撃そのものを引き付け、その一片すら川へは寄せぬ。
 ――頬を掠める毒の撃が、それだけで痛みを伴っている。
 このようなモノが川そのものに狙いを定めればどうなる事か――幸いにして彼女自体は毒の効力を無効化する術を持っているが故に、その身中が毒の要素に蝕まれる事はない、が。
「でも水自体に結構な威力があるね……! マトモに受けない方がよさそう!」
 ヘイゼルの補助役の様に動くセララは直感している。『呪い』の毒自体は無効化できても、水圧の威力にも脅威があると――奴めの一撃により抉れた地を見据えれば呟くものだ。
 迂闊に貰えば、如何に毒を無力化出来ようとも体力が一気に削れよう。
 故に警戒は怠らぬままにヘイゼルが『呪い』を引き寄せ、川のない方向へ攻撃を寄せんとして。セララは万一にも奴が川へと向かわぬ様にと側面を抑えるのだ。取り出す『セラフィム』のカードと共に、輝く身が衣装を白く染め上げ光の粒子を伴いて。
「いっくよ……! 絶対に此処で止めるんだ!」
 放つ一閃。十字に切り裂く聖剣の一撃が、奴を川から引きはがさんとする――
 どこかに核の様な、全体を統率している中心点があるはずだと模索しながらだ。
 ――水であれば雷撃の力にはきっと弱い筈だ。
 核を認識すればそこへと一閃を叩き込もう。セララは常に観察を怠らず立ち向かい。
「毒にまみれた悲劇の幕は上げさせないわ。
 これから始まるのは勇者と仲間たちの活劇。皆が笑顔で終わる活劇よ」
 更にヴィリスは己が蹴りを兵士の胸へと。
 セララ達が抑えている間に、彼女らは兵たちの無力化を急ぐのだ――フィフらを捕らえ、そして『呪い』に万全をもって対処する。あぁ当然、この私兵らを殺してもいけない。
 『呪い』の原型である毒が何のために齎されたのか……リーグルの唄と呼ばれる一連の事件において、死の女神フレイス・ネフィラが生命の死を糧にしている事は既に予測付いている事だからだ。
 だからこのような事件を起こした者と言えど命を奪うは敵に利する事。
「ただし腕の一本くらいは覚悟して頂きましょう」
 とは言え『お優しくしてやる』必要などない。
 故に沙月は戦闘力を奪う為の一手を重ねる――振り下ろされる剣撃に合わせ、狙うは敵の肘だ。躱し、一方の手は手首の内側を押さえ、一方の手は肘の上から撃を叩き込む。関節が『逆』になる様に放つ一撃が、人体の腕をあり得べからざる方へと導き――絶叫を齎すのだ。
 もののついでに膝の上から更に一撃蹴りを加えれば悶絶するように兵士が一人転がって。
「死ぬ程の痛みがあるかもしれませんが、死ぬ事はないでしょう。恐らくですが」
「ええ。殺さなくても容赦は必要ないわ」
 次なる者に沙月とヴィリスは狙い定めるものだ。確実な不殺の術が無い故に、確実なトドメとなりうる一撃は余裕あらば他の者に任せたい所ではあるが。
「……此処では誰一人として死なせはしませんよ。絶対に。
 貴方達には然るべき場所、然るべき時にて罰が下されるのですから」
 そうして倒れた者がいればアッシュが端へと避けておくものだ。
 彼女の放つ光の輝き――悪を裁く閃光が殺さずにして動きを奪おう。
 敵が呪いと接触することが無いように。呪いの動きを援護する様な事がないように。
「ぬ、ぬぅぅぅ……! な、なにをしているか!
 アレめを援護しろ!! アレの力を利用すればこの状況とて幾らでも――」
「さて、どれだけ果敢に吠えるのも自由だけど……ミーミルンドお抱え呪術師が鉱山に籠もった今。貴方はただの目くらましとして使われているわけだけど。ねぇ、今ならまだ逃げてどうにか出来ると思わない?」
 直後。戦況の悪化にフィフは焦る様に兵士たちに指示をだすものだ。個人個人はイレギュラーズに劣れども、発生した『呪い』を上手く使えば状況は流動すると――しかしそこへ言葉を紡ぐのはイーリンである。
 それは揺さぶり。このままここで戦っても意味はないのだと。
 しかしまだ兵士の数も多い今ならば――貴方一人ぐらいは逃げる事が出来る、と。
 無論本当に逃げられては困る故にあくまでも心の動揺を誘う為だけではあるが。
「まぁこのまま戦いを続けても、好きにすればいいわ。
 利用される駒の一端として最後まで殉ずる……滅びの美学が好きならね」
 同時。彼女が周囲を滅さんとばかりに放つのは闇夜の魔力だ。
 敵のみを照らす月の雫が兵士らを覆って撃と成す。
「ヒヒヒ、尤も。機はいつまでもある訳じゃあない……迷う度に遠くものさ。
 さてさてキミ達がいるここは果たしてルビコンの辺か、それとも三途の辺か」
 更に続くのは武器商人だ。惑わす様な減と共に破滅感じさせし呼び声を一つ。
 それはあの不快なる言を齎すものを滅ぼせと焦燥させる力――
 されど武器商人は倒れぬ。
 数多を無力の刃と成す冠の加護が武器商人を覆っているからだ。
 今の武器商人を滅すにはそれこそ冠を無力化する術が必要となろう――崩れぬ散らぬ浮雲が此処にあれ、ば。同時に視線を『呪い』の側へと向けるのも忘れない。
 今の所『呪い』には二人で。兵士らには八人で対処している形だ。
 それゆえにこそフィフの指揮があったとしても兵士側の戦況は大分優勢な形を取れている――が。強大なる負で固められし呪いの結晶との戦線は一方で綱渡りの様な状況であった。万一にもヘイゼルとセララが落ちれば呪いは武器商人らの方へと至りて、一気に状況は不利となろう。
 そういう意味では――『呪い』が左程賢い知能を持っていない事だけは幸いだった。
 とにかく目の前の。己に立ち向かってくる者を優先して攻撃してくるような節がある……元からして、純粋な生物ではなく緊急の脅威に対する防衛機構の様な存在だったからか。
「とはいえ急がないといけないね……『呪い』が急に気を変える可能性もあるから!」
 故に、と。アレクシアは常に治癒の力を、体力が削れている者に齎さんとする。
 予測はしていたがやはり呪いを押さえている二人の体力の減りが早い――だからこそそちらへの集中を主としつつも、時折には自らを中心とした多くの者らを癒す魔術をも展開する。淡い白と赤の混ざったような花弁が顕現すれば皆の傷を塞いで。
 それでもそれは一時の時稼ぎ。やはり人数比の関係上、全開の状態を保つには難しく。
「ああもう! 急いでるんだから早く倒れてよー!
 そんなにまだ戦いたいなら――こっちも全力でなぐっちゃうからね――!!」
 だからこそ焔は兵士らの殲滅を急がんとする。加減はせねども不殺の意思を込めた槍の一撃が兵士の顎を穿ちて意識を刈り取るのだ。特に狙うは武器商人らに引き寄せられていない、未だ正常な判断を保っている者達。
 兵士の中には、イレギュラーズらの呪いを川から引きはがす動きを邪魔せんとする者もいるが――そこはこちら側に八人投入した甲斐もあってか全て防ぐに足る戦力があった。兵士らは自由に動けず突破も出来ず、一人。また一人と無力化されていく。
 気づけば最早残っているのは半分もおらず。
「お、おのれ……!! こ、この、イレギュラーズ如きが……!
 勇者などと馬鹿な民共におだてられ調子に乗っている者などに私が――ッ!」
 焦るフィフ。ここに至りて最早『呪い』の援護も利用も無理と悟りて。
 逃げだす算段を――するにはもう遅かった。
「絶対に逃がしはしないわよ、この下郎がッ!
 自らが統治し、導くべき達を馬鹿などと愚弄する貴様は……
 人の上に立つべき貴族に――相応しくない!」
 邪魔立てする兵士を斬り捨てるアルテミア。
 憤怒の感情は当初より増幅する程に。フィフの様は彼女にとっての逆鱗に等しい。
 奴めの背中――逃亡を見据えていたのか飛行の力を用いれば何にも邪魔されずに回り込めて。
「ヒッ! ま、待て! わ、私を殺すつもりか――!!?
 は、話し合おうじゃないか! なぁ!?」
「殺しはしないわよ。ええ――ただ」
 無様に命乞い。
 主すら売らんとするその姿勢にアルテミアは、ただ青色の刀身を持つ細剣を構えて。

「――手足の一本や二本は不自由になってもらうわ」

 両肩と両膝を深く鋭く刺突し。
 動けぬ様にする為に――奴めの絶叫を周囲に轟かせた。
「よし! こっちはこれで良さそうだね、後は――ッ!?」
 直後。最後の兵士をも無力化した焔が視線を呪いの方へと向ける。
 フィフは殺さずにして捕らえた。後は『呪い』を川にいれずにして対処すれば終わりだと。
 ――だがそれが一番難しいのだと。
 激しさを増す勢いを携えている――アルテミアらの『怒り』とは異なる、深く濁った『憎悪』の結晶体である呪いを見据えながら、誰ぞがこの戦いの正念場を察していた。


 ソレにあるのは憎悪であった。
 ミーミルンド家お抱えの呪術師による手が入っているとはいえ――元はイミルの民の産物だ。
 かの一族は幻想王国に恨みがある。勇者王の末裔に、勇者王の血族に。
 長き時を経て蓄積された感情の結晶体は遂に役目を与えられたと嬉々として。
 全てを屠らんとする為にその力を振るうのだ。
「ふぅ、ふぅ……! どれだけ飛ばせるんだろうね、この毒を……!!」
「ふ、む。放つ度にどこからか湧き出ている様な……やはり核がある、という事でせうか」
 セララは己が剣を携え『呪い』が放ってくる撃を辛うじて捌いていた。
 ヘイゼルも同様に防御を固めて、射撃の『起こり』を予測して直撃の回避に努める。同時になるべく川から離れる様に立ち位置を常に調整し続けている――が、高速で飛来せし水圧の弾丸はバリスタが如き太さを携えているのだ。
 掠れるだけでも威力を実感する程の一撃。
 ソレを、セララは切っ先で逸らして致命を避けつつ戦線の維持に務めるのだ――だが幾度弾こうとも『呪い』の勢いが衰える様子は見られなかった。それ所か、奴に近づけば近づくほどに射出されるその弾丸を捌くも躱すも難しくなる。
「だけど――こんな程度で諦めたりなんかしないよ!!
 だって私たちが引いたら……皆死んじゃうんだ!!」
 それでも。セララは一歩も退かない。
 それは毒を無力化する術を持っているが為――? 否、そんな理由では決してない。
 川の水に毒を入れれば人が死ぬ。生活の為の水源に繋がっているのであれば大量に。
 そう、皆死ぬんだ。
 ボクが退けば皆が死ぬ。ボクが一歩退けば、皆が死ぬのに一歩近づく!
「そんな悲しい未来は――絶対に阻止してみせる!」
「ええ。幸いにしてどうやら……間に合ったようですしね」
 己が額を狙って放たれた一撃を剣で受け止めつつ、言葉を放ったのはヘイゼルだ。自らの傷を治癒もしながら見据えたのは兵士達の側に回っていた他のイレギュラーズ達が――こちらへと駆けつけてきてくれる光景。
「待たせたね――ッ、これは近くに来るとより禍々しいね……!
 でも、私も魔法の腕は磨いてきてるんだ! 呪いの力なんて浄化してみせる!」
「さぁてさて。この国の過去が現在に追いついてきたという訳だ――ヒヒ」
 己が魔力を振るうアレクシアが引き続き治癒の花弁を皆に。
 同時に動く武器商人は物理も神秘も弾きうる冠の加護を携えながら前へ、だ。
 呪いを止める。決して川へとは近寄らせない――
「邪悪……ただひたすらに、負だけを敷き詰めた存在。こんなものが生じるとは……」
 更に続くアッシュが舞踊が如き動きと共に『呪い』へと撃を放つ。
 なんたる存在だろうか。過去より連なる結晶は、このような形で具現と成すのか。
 ――奴めが触れている地上が穢れている。
 草が枯れ、木は腐り。土には死が浸み込んでいるのだろう。
「人も大地も、育むには大いなる時間を要するもの」
 決して、容易く替えが利くものではないというのに。
 フィフらはこれを――大地に投じようとしていたのか。
 軽い気持ちで。己らがただただ権力を掴む為だけに。
 ……其れすら解せぬ者達に、未来を委ねられる訳がない。
 もしも未来を手にしたとしても――誰も彼らに賛同する者はいないだろう。
「支える者は一人もおらず、支持する者もおらず、重ねた屍の上に立つ。
 ……滑稽な舞台の役者になろうとでも? それが望んだ本懐とでも?」
 気付かぬは愚か。気付いている上でならば救えぬ愚者。
 『呪い』に一撃繋ぎながら思考を重ねて――さすれば。

『コ、カカッカ、カカカカカカカ!』

 瞬間。目の前にある呪いから――まるで笑い声の様な音が発せられた。
 嘲り笑うような。決して純粋たらぬ一笑。
 ――意志を持っている?
 最初はそんな様子など見せもしていなかったというのに。
 周囲に人が増えて――殺せる対象が増えて――
 喜んでいるのか?
 直後に、呪いが放つは天への一撃。水を放ちて、それはまるで雨の様に周囲へと降り注ぐ。
 ――酸性雨とも言える浴びてはならぬ殺意の雨――
「あらあら……毒を吐いてくるみたいだけどごめんなさい。
 私、色々あって毒はもう効かないのよね」
 慣れちゃったわ、と。言うはヴィリスだ。
 毒の雨を浴びながらも彼女の動きに乱れはない。身を削る様な痛みはあれど蝕みはせず。
「でも――私と同じように毒で苦しむ人を見たくないの」
 その時。彼女が脳裏に想起したのはいつの光景か。
 忘れられぬ苦悶の一端。けれどそれも一瞬で、ただ彼女は。
「だから……この舞台の幕を引かせてもらうわ! ええ! 最後はハッピーエンドにて!」
 往く。
 至高の一閃をここに。地を踏み砕かんばかりの勢いと共に跳躍し。
 時間さえ置き去りにする――蹴撃を一つ。
 さすれば『呪い』を形成する身である水塊が揺らぐ。如何に不定形の魔物と言えど、物理に対して特別な耐性がある訳でもない。セララも、基本的に抑える事を優先していたとはいえ全く攻撃しなかった訳でもないのだ――
 蓄積されしダメージが『呪い』の存在を揺るがせている。
「全く。地下水脈がないとも限らないし、厄介な事だわ……!」
「でも――兵士さん達と違って、遠慮する必要はないよね!!」
 この機逃すべからずと、イーリンに焔は動く。敵対者の察知による防衛機構が作動した故とはいえ、何故アレは川に積極的に向かわないのかと考えていたイーリンは――土にしみ込んでいる様を見て地下水脈の存在にも思考を馳せていた。
 直接川に行くよりは大分時間があるだろうが、今も浸食しているのでは……? と。今の所実際にそうではあるかは不明だが、より急がねばならぬと魔力を生成し。同時に焔は不殺を狙っていた兵士と違いこれは討滅すべき存在だからと遠慮はせぬ。
 倒す。滅する。誰にも被害を与える前に、消し飛ばすのだ!
「ボクには毒も効かないもんね……! いっくよッ――!!」
 放つ一撃が『呪い』の放つ水撃と交差する――
 しかし追い詰めてはいる筈だが呪いは未だ活力に満ちている様だ。
 機関銃の如き水弾のあられは健在。雨を降らせば皆を纏めて捉えて削ろう。
 木々を消し飛ばし土を抉る威力はイレギュラーズであろうと只ではすまぬ。
 いやそればかりか――その攻撃は先程倒れて端へと寄せた兵士も対象に――
「そうはさせません。
 護るべき価値があるかも甚だ疑問ですが、死の目論見を果たさせるは御免であれば」
 だが、それを予測していた沙月が射線に割り込むようにして彼らを庇う。
 超速の弾丸――その狙いを逸らすように腕を伸ばして『乗せる』のだ。直線の軌道を変えて、彼方へと『流す』は柔の極意。只人では到底出来ねども彼女であれば不可能でもなし。
 ――腕が削れるような痛みはあるが。
 それは決して致命とはならぬ。
 このような外道共には報いを受けさせるのが当然だが、それは今ではないのだと。
「ましてや死の神に捧ぐなど愚問」
「うん――幾ら流そうとした張本人たちとはいえ……彼らを呪いの糧にするのは、ね!」
 見据える。『呪い』はイミルの民達の蓄積された願いだ。
 それでも好きにはさせぬとアレクシアも紡ぐもの……
 敵とは言え死なずに済むなら越したことはないのだ。
 無為なる死はやがて護るべき幻想王国そのもに降りかかるのであれば尚更に。
 ――攻め立てる。
 水弾の射撃を掻い潜り、討滅する為に。
 一歩、一歩と皆が寄る。
 毒を弾いて。躱せぬ一撃があらば身を焼くような痛みはあれど。
 それでも――こんなものに屈するわけにはいかない。
「くっ……でも、液状の身体なら好都合よ。
 やりようというものはあるものッ――! 凍てつき、燃えなさい!」
 そして。遂にアルテミアの剣撃が『呪い』の芯を捉えた。
 剣先に乗せるのは身を焦がすが想い。蒼と紅が『呪い』を包んで――その身を凍てつかす。
 同時に蒸発させるが如き紅蓮の焔と共に。
 ――身を縛るのだ。
 水弾の射撃が止まる――それは刹那の出来事、たった一瞬にして、しかし。
「例えこの身が朽ちる程の痛みを受けようと」
 アルテミアはその間隙を見逃さない。
「無辜なる民を守るのが――真の貴族よッ!」
 直撃させるは一筋の力。叩き割る様に大上段から繰り出す全霊の一閃。
 凍ったその身を纏めて砕かんと――振り下ろした。

『――コカッ、カッ! カッ、カッ、カッ――ッ!!』

 さすれば。
 同時に響くのは『呪い』の嘲笑。
 これで終わりではないのだと言わんばかりに奴めは笑う。
 死の神はいずれ、この国に真なる死を齎すのだと――
「例えそうだとしても、その時はボク達がまた止めてみせる!!」
 が。豁然とセララは言い放つ。
 身は限界に近く、流血せし全身なれど――それでも。
「それでも――ボク達を信じてくれた人達がいるんだから!」
 ブレイブメダリオン。次世代の勇者を決める祭事にて、称えられた一人であるセララ。
 ――彼らの声援を覚えている限り彼女は立ち止まらない。
 必ず、フレイス・ネフィラの。ミーミルンドの思惑は打破するのだと。
「ヒヒッ。首尾よく捕らえる事も出来たしねぇ……いやぁお話合いが楽しみだよねぇ? うんうん。ねぇキミは指が全部反対側にへし折れるのと、上手にお話しするの、どっちが好み? ああそれとも――爪の方でお話する方が好みなのかな?」
「ひ、ひぃ!! 待て待て話す! 話すとも!! そもそもこれは呪術師オサレスから……!」
「全く。本来ならコレに巻き込まれて死ぬだけの貴方を、悲劇の登場人物から英雄譚の敵役にしてあげたんだから感謝してほしいわ。おバカさん」
 次いで武器商人とヴィリスは捕らえたフィフへ言葉を紡ぐものだ。
 戦闘能力はなく、兵も倒れた彼に抗う術はあるまい。
 いざとなれば魔術の目の力を用いて聞くとしよう。
 ……全く。何も知らない人の自由を奪おうとするなど。
「本当に嫌いよ」
 まるで吐き捨てる様に。或いは何かを思い浮かべる様に。
 ヴィリスは空へ言葉を零せば――同時。

 『呪い』が力尽き消滅する。

 力を保てなくなった毒は集合体ではなくなり、地に全てが滑り落ちる。
 同時に毒そのものの効力も失われたのか――土壌を汚染する様子も無い様だ。
 只の液体。祓われたと言っていいソレに、もう人を殺すだけの力はなく。
「……では、帰還するとしましょうか。まったく、水源の汚染を企む輩の阻止に来たと思えば、とんだ苦労をさせられたものです」
 ともあれこれでフィフの口からミールミンド家との繋がりも絞れれば上々だと。
 ヘイゼルは吐息を一つ零しながら呟いた。
 後の事はフィフを連行した先での事――

 幻想を覆う一連の事件の幕は近いと、誰もが感じていた。

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
雪村 沙月(p3p007273)[重傷]
月下美人

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 これにて水源の汚染から大量の死を齎さんとした目論見は阻まれました――
 フィフの口から、或いは他の依頼からも首魁の名が零れれば一気に事態は進むかもしれません。

 ともあれそれらはまた今度――ありがとうございました!

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