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シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>完璧の在り方

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ヘルフリートさん、覚悟はできた?」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は片腕が義手になった青年に視線を向けた。
「……あぁ、大丈夫だ」
 対して、ヘルフリートはこくりと小さく頷いて、その視線をシラス(p3p004421)に向ける。
「貴殿が勇者になったのだな。この国のこと、よろしく頼む」
 シラスへと静かに頭を下げる。
 シラスはそれを見て微かに複雑な瞳を向けた。
「……それより、本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、問題ない。今日は父も邸宅にいるはずだ……何かやましいことが無ければ、だが」
 そういうヘルフリートの瞳は揺らいでいた。
「……いよいよご対面ってことになればいいが」
 以前、シラスへと暗殺者を送り込んだであろう男――その首筋まで刃が届いている。
 そう思うには、どことなく不安な要素がある。
 それでも、何かがあるかもしれない。それが、今日だ。
「それじゃあ、皆も……行こう!」
 ちらりとスティアは後ろにいる6人にも声をかけて、目的地――サヴァリシュ邸へ向けて動き出した。


 そこはその町でも比較的大きな作りだった。
 壮観を絵に描いたような広大さと物々しさは、その外観だけでどれだけの資金がこの邸宅に掛けられているのかを見せつけるかのようだった。
 重々しい扉を開き中へ入ると、外観に比例するような広大さの邸宅がイレギュラーズを出迎えた。
 前を行くヘルフリートが立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回した。
「どうかしたのか?」
「おかしい、こんなにも人がいないはずがない……」
「それはそうだろう、貴様らを殺すためにだけ、この家は残っているのだから」
 たっぷりの嘲りを含んだ声がした。
 視線の先には、一人の男。
 容姿はヘルフリートに面影を感じさせつつ、顔つきはどこまでも傲慢に歪んでいる。
 淀みに浸った、幻想貴族らしい幻想貴族の空気を纏い、その男はこちらを見下ろし嗤っている。
「愚兄よ、貴方は……どこまで落ちるのだ? 汚らわしき孤児とつるみ、正統ならざる者達を連れ込むとは」
 その言葉から察するに、彼はヘルフリートの弟だろうか。
「――貴族とは、完璧でなくてはならぬ。貴族とは、無欠でなくてはならぬ。
 貴族とは、その血の一滴さえも、完璧ではなくてはならぬ!
 どうやら貴方は、我らにコレを齎したあの日、誠に死んだのだな!」
 そう言って男が掲げ持ったのは、一本の杖だった。
 その先端には、宝玉が嵌っている。
 毒々しく渦を巻く何かを内包したそれは、ここから見ても邪悪な物だと理解できた。
「馬鹿な……それがどうしてある? あの時、教会に献上して然るべき保存をしてもらうはずだろう!?」
「ヘルフリートさん、あれって?」
 スティアの問いに、驚いていたヘルフリートが複雑な表情を浮かべた。
「……貴殿らの中にはあの時からのイレギュラーズもいると思うが、『シルク・ド・マントゥール』を覚えているか?」
 所謂イレギュラーズ大量召喚の日から少し経ったばかりの頃、幻想で魔種による策動があった。
 その時に主体的な行動を見せたのがサーカス団シルク・ド・マントゥールである。
「あれはその際、ザヴァリシュ家の領内を暴れたサーカス団員が使っていた杖だ。
 俺がこんな腕になったのも、その時だ」
 そう言ってヘルフリートが義手を振ってみせる。
「なんでそんなものを……」
「適当に放棄するわけにはいかないからな。
 俺が中央教会で然るべき封印をしてもらうように父上に言っておいたんだが……」
 残念ながら、そうはならなかったのだろう。
「……あれには、魔物を操る能力がある」
「……じゃあ、もしかして」
「あの時、三匹の魔物を使役したのは……」
 スティアとシラスが呟くのと同時に、ヘルフリートの表情が苦悶に歪んでいた。
「――ようやく理解したか! 愚か者どもめ! さぁ、魔獣どもよ! あの間抜け共を喰らいつくせ!」
 その瞬間、室内にぎょろりと複数の瞳が見えた。
「すまない、イレギュラーズ。俺がもっと考えていれば、こんな下手を打たなくて済んだだろう。
 少しばかり、力を貸してほしい」
 ヘルフリートがそう言って剣を抜く。
 それと同時、イレギュラーズも各々の武器を構えた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 魔獣をぶち抜いて、あとついでに物知り顔の男をぶちのめしてみましょう。

●オーダー
【1】アムシェル・フォン・ザヴァリシュを戦場から逃がさない。
【2】魔獣の討伐

●フィールド
ザヴァリシュ家邸宅エントランス。
めちゃくちゃ金がかかっており、恐ろしく広いです。
戦闘を展開するには十分な空間があります。

●エネミーデータ
・アムシェル・フォン・ザヴァリシュ
 エントランス奥に布陣し、魔力を練り練りしている10代後半の青年です。
 『貴族とは完璧であるべし』の家訓に則り、戦闘力も高いです。
 【毒】系統のBSを有し、遠単、遠範、遠扇の神攻スキルを有します。
 また、魔獣に対する付与スキルを持ちます。

・ネメア×1
 黄金の毛並みをした3m級のライオンです。
 常に放電しており、他の魔獣より強力です。
 【痺れ】系統、【麻痺】系統のBSを有します。

・スケープゴート×4
 ヤギの下半身に人間の上半身、ヤギの頭をした奇怪な化け物です。
 手に大きな鎌を握っています。
 反応速度が高く、【混乱】系列、【呪い】のBSを利用します。
 中扇、中単の物攻スキルを持ちます。

・ガーゴイル×4
 小型のドラゴンっぽいゴーレムです。
 【乱れ】系統のBSを有します。
 近単スキルを持ちます。

・ヘルハウンド×4
 紅い瞳の黒犬を思わせる黒い炎の塊です。
【火炎】系列のBSを使います。

●友軍データ
・『隻腕の廃嫡子』ヘルフリート・フォン・ザヴァリシュ
 近隣に領地を持つザヴァリシュ家の長男。
 不慮の事故により片腕を失い廃嫡された後、義手を嵌めてハンデを乗り越えた努力の人です。
 実力主義でイレギュラーズに好意的な人物です。
 戦闘面では卓越した防御技術と抵抗力を攻撃に転換するカウンターファイターです。
 何も指示などが無ければ壁役としてふわりと行動します。
 何かあればプレイングでお願いします。

<スキル>
専守先攻(A):護りを固め、後の先を撃つ凄絶なる斬撃です。
物至単 威力中 【自カ至】【攻勢BS回復:小】【怒り】

先見迅剣(A):千里を見据え、渾身の力で斬り伏せることで対象の抵抗力を奪います。
物至単 威力大 【渾身】【多重影:小】【邪道:中】【ショック】【感電】

尽忠報主(A):主君を傷つけることなく、それ以外を斬り伏せる熟練の妙技です。
物近域 威力中 【識別】【苦鳴】【停滞】【自カ近】

君臣之誓(A):自身の在り方を明確にして敵対対象を引きつけます。
物特レ 威力無 【対象:自分を中心に2レンジ以内の敵】【識別】【怒り】

護剣之構え(P):この剣はただ主を守るために
【反】【覇道の精神】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ナグルファルの兆し>完璧の在り方完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
シラス(p3p004421)
竜剣
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎

リプレイ


 獣共の鳴く声がエントランスのそこかしこから響いている。
「貴族の捕縛依頼と聞いていたけども、大分話が面倒になってきたね」
 周囲を見渡し、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は薄く笑う。
「こういう場でこそボクの美しさが際立つとも言えるが……
 たかだか魔獣を使役する程度で粋がるようじゃ役者の底が知れるな」
 きらりと指輪が輝く。
「貧相な輩が良く吠えるなァ!」
 激昂するアムシェルをセレマは静かに受け流し、静かに笑む。
 魔性の微笑を挑発とでも受け取ったのか、アムシェルが更なる激昂と共に複数の魔獣をけしかけてくる。
 この身へ食らいついた魔獣の牙が突き立ち、ぱたりと倒れ。
「例え操られるだけの愚かで哀れな怪物であっても、ボクの美しさを無視することはできないか」
 いつの間にかそこに立っていたセレマが再び微笑した。
「な、なな、なんだ!?」
 アムシェルの驚愕が聞こえてくる。
「いいんだな、あいつアンタの弟だろ?」
 魔術を励起させつつ『竜剣』シラス(p3p004421)は視線をヘルフリートへ向ける。
 返事がどうであれ、加減する義理も余裕もない。
 ちらりとそちらを見たヘルフリートの方が小さく頷いた。
「構わない。あれも武器を取ったのだからその覚悟はあるはずだ」
「そうか……じゃあさっさと魔獣を蹴散らしてあの野郎を何とかしよう」
 頷きあう。シラスは身を低くし、飛ぶように走り出す。
 視線の先には、奇怪な姿をした化け物――敵を掻い潜り、身を屈めて体のバネを駆使して跳躍。
 拳がヤギの下あごを捉えると同時、そのまま腕で取り付き、捩じり取るように動かした。
 振り払ったヤギの鎌が自身の身体を斬る――その直前、時間が止まったかのような錯覚。
 間合いを開けた。
「――貴族とは、完璧でなくてはならぬ……ね。
 言ってる事は正しいんだと思うよ。民の上に立って民を従える存在なんだから、
 相応しいモノを持っていなければいけないんだろう……って」
 ――でも。
 動き出そうとする魔獣たちの方へ、『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は歩みを進めた。
「花丸ちゃんにはそう言った貴方自身が全く別のモノに見えるよ。
 傲慢に歪み他者を見下す貴方こそ、何処まで落ちれば気が済むの?」
「ふん、お前のような小娘如きに何が分かる。
 そんなに吼えるなら――喰らえ、獣共!」
「――うんうん、そうだよね。知ってる知ってる。
 貴方みたいなタイプには言葉でいくら言っても分からないだろうね」
 アムシェルから視線を外さず、花丸は拳を握り締めた。
「だから――先ずは魔獣をぶち抜いて、歪んだ性根を叩き直しに行こうかっ!」
 宣戦布告を告げるように言い捨て、今度こそ花丸は向かってくる魔獣へ視線を向けた。
「完璧か……そんなものは存在せん、理も、貴様の主義もな。
 だが……もしもそうであろうとするのなら、逃亡などはするまいな?
 『完璧で無欠』な貴族である貴様が」
 挑発の言葉を残して、ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)は動き出したスケープゴートの方へ走り出す。
「ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
 槍を地面へ突き立て、大きく息を吸い込み、大喝。
 復讐者たる狼の大喝に、1匹のスケープゴートがやや後退、その近くにいたヘルハウンド2匹もろともに後退していく。
(……。あれがヘルフリートさんの弟君ですか。
 この様子では、どうやらお父君もそちら側の人間のようね……)
 剣を抜き、『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)は静かにアムシェルに視線を向けた。
 先程の台詞、それに今回のこと。
 それを思えば――視線がヘルフリートへ向く。
(あの様子を見ると、ヘルフリートさんがこうも真っ直ぐな心根に成長しているのが驚きですが。
 それとも、家族の様子も昔は違ったのかしら?)
 そして、もし『そう』であるならば。
 その手の『変わりよう』が生じる事柄を舞花は――そして他のイレギュラーズ達も覚えがある。
 それが事実であるかは、ヘルフリートに変わったかどうかを尋ねないことには分からないが。
 静かに構える。
 未だ動きを見せぬガーゴイル、そのうちの1匹めがけて走り抜け、舞花は剣を振るった。
「そんな身勝手な完璧を理由に、他の誰かを、何かを、踏みにじっていい筈がないわ。
 そんなあなたが、誰よりも努力したヘルフリートさんやシラスさんを侮辱しないで!」」
 タクトを握りしめる『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)はアムシェルへ詰めるように問うた。
「――ッだと?」
 敵の手に握られる杖がより一層と禍々しさを増していく。
「良いだろう! 良く吠える長耳めが! まずは貴様からだ!」
 思わず睨むように告げたタイムの言葉に、敵が動く。
 黄金の毛並みを持つライオンがタイム目掛けて走り出す。
 タイムはそのライオンから視線を外して、魔力を籠めた。
 杖の先、花丸の近くへ向かう魔獣たちへ鮮やかに輝くネメシスの光が降り注ぐ。
 そこへ、『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は割り込むように立ちふさがる。
「貴族として完璧でないといけない言いながら貴族としての責務を果たそうとしない。
 その行いは貴族の名に恥じないとでも? 何かを語るなら責務を果たしてからするべきだよ!
 これ以上、貴方達の好きにはさせない!」
 怒気を露わに声を上げた。
 獅子の前に立ちふさがるように立ったスティアの周囲を魔力の残滓が舞い散る。
『グルゥオォォ!!』
 気丈なる天使を警戒するようにネメアが唸る。
 その眼前でスティアは両手でセラフィムを持ち、終焉の花を咲かせた。
 美しき氷の花が舞い踊る天使の羽根と触れ合いその花を拡大し、舞い散っていく。
 ネメアがソレを警戒するように雄叫びを上げた。
 放電する雷が激しく音を立て、その口元へ集束、槍のように鋭く射出される。
 スティアは動かなかった。
「私は逃げない。向かい合うよ。貴方と違って貴族としての責務を果たすから!」
 狙いの甘かったらしい雷霆が頬辺りを駆け抜けていった。
「ヘルフリートさん、先に魔獣の討伐をお願い!」
「あぁ、そうだな。この数だ」
 そういうと、剣を静かに構えて彼が走り抜ける気配がした。
「『シルク・ド・マントゥール』……私と同じ名前の魔種が道化師として『はしゃいで』いた事件ですね。
 今になってその名前を聞くことになるとは思いもしませんでした」
 ヘルフリートの話を聞いて『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は溜息を一つ。
 事件が終われども残ったモノは根を張っていた――ということもあるのだろう。
「……ですが、ここはあの杖をどうにかする機会が訪れたと好意的に解釈しましょう。
 この贅を凝らしたお屋敷には相応の被害が出てしまいますが、やむをえませんね」
 クラリーチェは少し後ろに下がっていく。
 微かに葬送の鐘が響く。
 独特な音色が反響し、魔獣たちの脳を揺らせば、唸り声が聞こえてくる。


 戦いは続いていた。
「やはり、魔獣であれば群れたとしてもこの程度。
 魔性と取引でも結んでから出直してもらおうか」
 セレマが呟くのと共に、瘴気が2匹のスケープゴートを包み込む。
 霧状の瘴気の奥深く、姿を見せた騎士の剣が静かに振り下ろされた。
 斬り裂かれた2匹のスケープゴートが瘴気の傷を生みだされた。
「もっとだ! もっと我ニ喰わセロ!!」
 滾る闘志を露わにロックは吼える。
 灰色の毛並みを逆立たせ、五つの眼が血走り見開かれた。
 幾度目かになる復讐の大狼が咆哮が轟き、圧に押された魔物達が後退していく。
 震えだしたガーゴイルが飛翔し、花丸めがけて突っ込んでくる。
 花丸は静かに拳を握り締める。
 向かってきたガーゴイルの体当たりをクロスした両腕で抑え込み、振り払うように解くと拳に力を籠める。
 そのまま、目の前のガーゴイルへと拳を叩きつけた。
 炸裂と同時、闘気が爆発し、紅蓮の炎となって周囲を巻き込み燃え上がる。
 入れ替わるようにして挑みかかってきたヘルハウンドがヘルフリートの剣で斬り下ろされる。
 魔獣たちの間を縫うように舞花は一気に走り出した。
「サヴァリシュ卿の弟君。お相手願いましょうか」
 アムシェルが手を翳して魔方陣を浮かび上がらせ、毒々しい色をした魔力の弾丸を撃ち込んでくる。
 強かに身体を打つ弾丸の威力は意外に重い。
(実力自体は云うだけの事がある……
 ヘルフリートさんがそうであるように尚武の気質の家柄という事ね)
 攻撃への対応もそうだが、あの杖の能力があるであろうとは言え10体以上の魔獣を同時に制御している。
 半端な術士ではないことはたしかだろう。
「――それだけに、何とも惜しいですね」
「なにぃ?」
「何を完璧と、無欠と評するかは各々の基準故に仕方ないけれど、
 魔物を操りけしかけて得意げになるような性根がその基準に含まれていないというのは……」
「ふん、言ってろ!」
 アムシェルが杖を前に翳すように横たえ、魔力を籠めていく。
 その刹那、舞花は剣を握り静かに呼吸を整えた。
 描くは破城を為す絶大なる一刀。
 城をも砕く太刀筋に比べれば、たかだか杖の一本や二本、ただの枝切れに等しい。
 踏み込みと共に撃ち込まれた斬撃に、アムシェルの握る杖がメキっと音を立てた。
 刹那、魔獣たちの様子がおかしくなる。
 それらは呪縛から解き放たれたかのようだ――が。
 稲光が走り、轟音が轟いてスティアの身体を焼きうつ。
 傷が増えつつあるその身体を穏やかな輝きが包み込む。
 それはネメアの雷すら塗り替えるほど美しく輝き、スティアに刻まれた数々の傷を瞬く間に癒していく。
「私達の力は民を守る為にあるんだ。
 傷つけたり、押さえつけたり、蔑んだりする為にあるんじゃない!」
 唸るネメアの黄金の毛並みの向こう側を睨むようにスティアは言い切った。
「民を守る、くだらぬ、くだらぬ、くだらぬ!
 吾等は完璧でなくてはならぬ! そうだ、完璧である我らは、完璧ならざる者など受け入れてはならないのだ!
 奴らは、守るものではない……結果として守ってやることはあってもなぁ!」
 掌を中心に構築された魔方陣から、毒々しい弾丸が飛んでくる。
「生まれ持った血筋くらいしか威張れるものがなくてあんな杖使ってズルまでして。
 そんなハリボテみたいな完璧でほんとにいいの?」
 握りしめたタクトを振るい、魔性を帯びた大号令で仲間の傷口を侵す異常を取り除いたタイムは思わず言葉に変えて問うた。
「なにぃ? いうに事欠いて、ハリボテといったか、娘!!」
 ぎらりと殺意に満ちた瞳がタイムを向く。
「ええ、そうよ! だってそうでしょう。貴方の『完璧』には中身がないわ!
 どうして完璧じゃないといけないのかも、何もわかってないでしょう、あなた!」
 啖呵を切るように言い切ってから、タイムは天使の歌を奏でた。
 美しき音色の歌が周囲の仲間が負った傷を癒していく。
 シラスはそれを最小限の動きで躱してアムシェルの下へ踏み込んだ。
「完璧だァ? 刺客やらこんなゲテモノやらが頼りの臆病者が何を言ってんだ。
 笑うぜ、ユーモアだけならアンタの勝ちだ、流石はお貴族様ってところかい?」
「ざ、雑草風情が……いいだろう、そこまで言うのなら魔獣ではなく私が相手してやる!!」
 絶叫と共に放たれた紫色の弾丸の弾道は挑発もあって見え見えだった。
「はっ、見え見えなんだよ」
 踏み込みと共に身体を屈め、全身を弾丸のようにして拳を叩き込む。
 崩れたアムシェルへめがけ、追撃とばかりに蹴り飛ばし、連打を叩き込んでいく。
 最後の蹴り飛ばしが鳩尾を撃ち抜き、その身体が崩れ落ちる。
「ぐ、ぐぅ……」
 よろよろと、その身体が前へと近づいてくる。
 ある一歩の踏み込みが深いことにクラリーチェは直ぐに気づいた。
 その直後、アムシェルは一気に走り出す。
「貴族の『高潔であれ』という一種の排他主義に理解を示さない訳ではありませんが、
 それ以外を蔑ろにしていいわけではありません」
 進路上へと立ちふさがったクラリーチェは静かにアムシェルの前へ立ちふさがる。
「……修道女ごときに何が分かる。そこをどけ――」
「ここで逃がすわけにはいかないでしょう?
 それに、後ろの方々を倒さずに逃げおおせることができるとお思いですか?」
 ちらりと逃亡に走ったアムシェルを追わんと動く他のイレギュラーズを見たあと、視線をアムシェルへ戻す。
 葬送の鐘が鳴る。
 静かな最後の鐘の音――その瞬間、アムシェルの四方の床が盛り上がり、土を露出させてその身体を埋め尽くした。
「……あとはもうこの魔物を倒すだけだね」
 その様子を横目に見た後、花丸は視線を自分を囲む魔獣に向けた。
 その視線にちらちらと見える怒りの矛先が徐々に自分ではなくアムシェルへと向きかけているのを何となく察して、拳を開いてパン、と手を叩いた。
「花丸ちゃんが相手だよ。君達を攻撃したのは私だからね!」
 魔獣どもからすればアムシェルは自分達を無理やり従えた相手。その憎悪や怒りは理解できるものだ。
 とはいえ、気絶して土葬された彼を殺されてはたまらない。
 多種の魔獣の声を聞きながら、花丸は静かに拳を作り直す。確かな殺気がその身を打ってきた。
「あんな物に頼るなら、もっと己を磨くべきだったな、小僧」
 土に囚われたアムシェルを一瞥したロックは雄叫びを上げた。
 赤黒い包帯に巻かれた右腕を、大雑把ともとれる大振りで薙ぎ払う。
 全力を以って振り抜かれた爪が魔獣の肉を裂き、骨を断ち、傷跡に痺れを齎して吹き飛ばす。


 連携力を失った魔獣を討伐するのに時間がかかるはずもなく、アムシェルを討伐した後のイレギュラーズは瞬く間に魔獣の鎮圧を終えていた。
(……しかし、今回の依頼でも『奴』の情報は得られないか……
 貴様は……貴様はどこにいる……)
 日差しの漏れる窓を見上げ、ロックは骸槍を握り締める。
 凄まじい強度を誇る槍が、微かに軋むほどに強く、強く。
 今回の依頼で情報を得られるとは流石に思っていなかった。
 関係をするような要素は存在しない。
(……どこにいる、【赤ずきん】)
 内に秘めた憎悪と衝動が燻り続けていた。
「……ところで、だ。
 依頼人の――それに君の父親はまだ邸宅内にいると聞いていたけども。
 どこにいるんだろうね?」
 縛り上げられたアムシェルを見据え、セレマは問う。
「父上……ハッ! ここにいるわけがなかろう! とっくにこの家を捨てられたわ!
 今頃、ミーミルンド卿と一緒に戦の準備を始めている頃だろうよ! 残念だったな!」
 にやりと口角を釣り上げて男が嗤う。
「ここにアンタの父親がいなくて、ミーミルンドと一緒にいるってことは、もうあいつを突き出すだけで良いな」
 シラスはヘルフリートの方へ視線を向けた後、そう言ってアムシェルを一瞥する。
「あぁ、そうだな。……重ね重ね、申し訳なかった。
 君達に迷惑をかけてしまった」
 複雑な気持ちがにじみ出た表情のヘルフリートだった。
「ひとつ、よろしいでしょうか?」
 舞花はヘルフリートへ戦闘中に考えていたことを問いかけてみることにした。
「……そうだな。たしかに、以前とは違う、かもしれない。
 その傾向はあったが、極端ではなかった。
 たしか、そうだ。僕の腕がこんなことになってからだな」
「それって、あの杖の影響ってことはない?
 あんまり考えたくないけど、何も知らないのはヘルフリートさんだけなのかも」
 タイムも懸念を口にする。
「たしかに、あの杖は魔獣を操る力があるようだが、それだけだ。
 それ以外の何かはなかったと記憶している……何も知らない、というのは事実のようだが」
 ヘルフリートが自嘲するように微かに笑みを零した。
「……もしかして」
 スティアは小さく声に出した。
「……うん、そうだとしたら家族が可笑しくなっていたっていうのも説明がつくよ」
 少しだけ考えて、もう一つ。
 それは可能性でしかない。結論に至るには流石に情報が少なすぎる。
 だとしても、今回の件――幻想を襲った一連の事件の背景に魔種がいるのなら。
 『そう』なのだと推測するのには容易い。
「……ヘルフリートさんのお父さんは反転してるんじゃ?」
 反転による歪み――そして狂気に侵されたが故の歪み。
 そう考えると、納得できることは多い。
 ちょうど、雲が切れたのか、日の光がエントランスを照らしていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
お目当ての本人には出会えませんでしたが、必要な情報はこの後、アムシェルくんがぺらぺらと喋ってくれているでしょう。

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