PandoraPartyProject

シナリオ詳細

正義の国と暗躍者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ログイン、完了。
 意識を束の間沈めて、最初に感じたモノは何だっただろう。
 頬を撫でていく風か。
 腹の虫を鳴かせる匂いか。
 それとも、子供達の楽しそうな声か。
 目を開けて視界に入れるのは、穏やかな街の風景。過去には苛烈な宗教国家の顔を持っていたここは、しかし今世においてかなり軟化した。完全に消えたとは言い難いのだろうが、それでも小さな嘘一つで断罪されるようなことはほとんどないだろう。
 ここは混沌で言う天義国――ネクスト『正義(ジャスティス)』。国王フェネスト六世の治める強国である。
 サクラメント(ログイン・ポイント)があったこの街は昔の名残を残し、教会やそれに準ずるような施設が多い。しかし全てが全てそのように機能しているわけではなく、孤児院であったり、病院であったり、誰もが使える多目的ホールであったりと用途を広げているようだ。
 正義は強国かつ政治的にも現在安定しており、故にネクストを覆わんとしている黒い影と対抗する勇者(プレイヤー)たちを支援する動きが強いらしい。ここならばクエスト以外でそうそう危険な事も起こるまいと、プレイヤーたちはクエストが集まっている騎士団へ足を運んだ。

 R.O.O――正式名称『Rapid Origin Online』。練達で日々研究を重ねる者たちが作り出した仮想空間の名だ。彼らウォーカーは元世界に帰る為のヒントを得るため、混沌の法則を知るべく開発した者だったのだ。
 しかし深刻なバグを発生させたR.O.Oは開発者たちすら予想できぬ事態を引き起こした。ゲームマスター(三塔主)の権限をはじき、ログインしていた者をゲーム内に閉じ込めた。
 何故このようなバグを引き起こしたのか、そしてログインしていた者たちがどうしているのか。これらの調査を三塔主はローレットへ依頼したのである。
 ローレットに在籍するイレギュラーズたちはログイン装置を用いてR.O.Oへと介入し、仮想空間で動くためのアバター――もうひとつの自分を作り出すこととなった。それは現実と全く異なる姿の者もいれば、全く同じ姿の者もいるだろう。なんであれ仮想空間でも肉体を得たイレギュラーズたちは、目的を達成すべくゲームを攻略することとなったわけだ。

 騎士団の詰め所へ入ると、クエストが受けられると思しき掲示板がかかっている。ざっとそれを眺めたあなたはとある1枚に手を伸ばした。どうやら行方不明者を探すクエストのようだ。
「それ、きな臭い噂があってね。受けるなら気を付けて行くと良い」
 あなたへそう話しかけてきたのは騎士の男。どうやらこのクエストに興味を持つと話しかけてくるNPCのようだ。彼はこちらの反応を待つことなくどんな噂が立っているのかを教えてくれた。
 行方不明になっているのはこの街の人間ではない。厳密に言うとそれも少し違うのだが、最近まで余所者だった者が狙われるらしいのだ。
「身寄りがないとか、すぐには捜索のかけられないような人を狙っているようなんだ」
 その口ぶりは単発のものではなく、そして意図的な犯行であると分かっているようなそれだ。だが一方で、プレイヤーであるあなたは考える。
 身寄りがない。
 すぐに捜索がかからない。
 『最近までは』余所者だった。
 これはもしかして、いやもしかしなくても。閉じ込められているというプレイヤーを狙っているのではないだろうか?
 プレイヤーたちはひとところに留まらず――留まっても良いのだろうが――各国で色々なクエストを受け、解決し、ゲームクリアへ向かっていく。そういう意味では須らく余所者だ。近頃街に住み始めた者というのも、恐らく一時的な滞在場所として腰を落ち着けるつもりだったのだろうと予想される。いつかは『外』から助けが来ると、そう信じて。
 ならばその助けであるイレギュラーズがこのクエストを受けなければならないのだろう。その決意を感じ取ったか、男が渋面を浮かべる。
「君、受けるのかい? 全然尻尾が掴めないんだ、敢えて誘拐されてもらいでもしなければ――」
 ふと男の言葉が止まって、それから「それだ」と呟いた。そして、視線はあなたへ。
 嫌な予感がした。いや、もう確信していいだろう。

「――君、協力してくれるね!?」

 クエスト受注の音が、聞こえた気がした。

GMコメント

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline


●成功条件
 行方不明者の救助

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不測の事態に気を付けてください。

●作戦
 皆さんは囮として誘拐されます。街を適当にのんびりぶらついたりしていれば突然やってきて風のように攫っていくでしょう。流石に8人全員を一気に攫う事はできないので、バラバラに行動して攫われてきます。
 リプレイスタートは牢屋に放り込まれてからです。ここで8人とこれまでの行方不明者が合流します。全員で脱出し、こっそり持たされていた花火を空へ向かって打ち上げるのです!

●フィールド
 牢屋はじめじめしていて暗いです。個室ですが、柵越しに何人かは様子が見えるでしょう。見張りがいます。
 そこを出て階段を上がると、どうやら何かの刑務所的な場所であるようです。未だ地下だと思われますので、地上を目指してください。詳細な地図はありませんしわかりません。皆さんの勘とプレイング力が鍵です。
 大きな武器を所持していると没収されることがあります。回収しに行かないとクエスト中ずっと素手で戦うことになります。

●エネミー
・傭兵×???
 いかにもガラの悪そうな奴等。『砂嵐(サンドストーム)』から流れてきたと思われます。体格の良い男たちです。
 彼らは巡回していたり、見張りしていたり、交代制で休憩も取っているようです。皆さんの脱走を知るや否や捕縛、ないしは殺害しようとします。
 いずれも剣や短剣など、小回りの利きやすい武器を所持しています。武器の振るい方は粗雑ですが、攻撃力は脅威です。

●友軍
・騎士×12
 詰め所にいた騎士たちです。皆さんが持っている花火が打ちあがったのを見て向かい始めます。外に出ればわかりますが、街からそこまで離れていません。花火が打ち上がればほどなくして来ます。
 合流すれば制圧に協力してくれるでしょう。それなりに戦えます。

 騎士に渡された花火は強力なクラッカーみたいなものです。発射したオブジェクトは人を通り抜けるので殺傷力はありません。空に向けると高く打ちあがる安心安全なパーティグッズ、みたいなものです。

・行方不明者×4
 ゲーム内に閉じ込められたプレイヤーたちです。怯え、諦め、或いは抵抗し……様子はまちまちですが、抵抗したと思しき者は拘束されているようです。中身はいずれも練達の研究者のようです。
 武器を隠し持っている者が1人。没収された者が2人。そもそも所持していなかった者が1人です。最後の1人は助けが来るまでR.O.Oスローライフを送るつもりだったのだと言っています。
 イレギュラーズたちの言うことには従います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 この悪事を白日の下にさらしましょう。でもその前にできるだけ生きて帰ってきてください。
 安全な場所(街)まで行方不明者を伴って帰ってくるとクエストクリアです。
 それでは、よろしくお願い致します。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 正義の国と暗躍者完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア(p3x001034)
天真爛漫
レイ(p3x001394)
ゴースト・イン・ザ・マシン
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
アリシア(p3x004649)
デッドリーヘブン
レニー(p3x005709)
ブッ壊し屋
ジョージ(p3x007332)
よう(´・ω・`)こそ
ルイン(p3x008578)
世界終焉機構最終番
天狐(p3x009798)
うどんの神

リプレイ


 暗く、鬱屈とした場所。そこへ放り込まれた冒険者たちは、互いに見知った顔――クエストを受けた一同がそこに介していることを互いの表情で何となく悟った。『世界終焉機構最終番』ルイン(p3x008578)は破壊者の神眼で牢屋を見るが、如何せん破壊できるような武器は没収済みである。やるなら素手だ。
「わざわざ個室待遇とは、歓迎痛み入るな」
 『ブッ壊し屋』レニー(p3x005709)が肩を竦めながら皮肉を零すも、見張りの傭兵は反応する素振りがない。これでは皮肉のし甲斐がないとレニーはため息をついた。
 彼女から斜め前方の牢屋に入れられていた『ゴースト・イン・ザ・マシン』レイ(p3x001394)はそっと辺りを見回す。1人1室、恐らくは何か悪だくみをしないようにだろう。しかしこの状況は逆に利用できると、レイは自分の宛がわれた牢屋内で隠れられそうな場所を探した。
 隅には薄っぺらい毛布が無造作に積まれ、隅には中くらいの瓶がひとつ。間違っても人が入るようなものではないし入れない。
(牢屋は、流石に初めての体験だ)
 興味深げにきょろりと視線を巡らせるのは別の牢屋に入ったペンギン、じゃなくて『よう(´・ω・`)こそ』ジョージ(p3x007332)。なかなかにシュールな図である。
 R.O.Oはゲームであるがゆえにこのようなクエストが存在する。しかしその内容は現実のローレットで行うようなモンスター討伐クエストもあれば、薬草採取クエストだったり、お使いクエストだったりと多岐に渡る。普段はローレットに持ち込まれないようなこともクエストとして存在しているのだ。
 この『脱出クエスト』も後者に近いが、探せば現実でもあるのかもしれない。多分、きっと。
(これが攫われる人の気持ち……できたら理解したくなかった)
 『天真爛漫』スティア(p3x001034)は思わず小さくため息をつく。この程度で見張りに何か言われることはないようだが、騒げばきっと――ああなるのだろう、とスティアは先客を見た。
 今回救出対象となっている行方不明者だろう。スティアからは見えない者もいるが、視界に入る牢には手足を拘束された青年が転がっていた。あとで助けてあげなければ。
 スティアは彼らへ助けに来たことを伝えようとしたが、如何せん見張りに聞こえないようにと思うと難しい、というかどう足掻いても聞こえる。
 故にスティアは安心させるようににこりと笑みを浮かべて見せた。青年は目を瞬かせ、それから怪訝そうな表情を浮かべる。少なくともスティアたちが策なしに捕まった者ではないことは理解できただろうか。
(攫われた後の脱出が全てこちら任せとは……現実でやられたらふざけるな、と言いたいところですが)
 遊戯(ゲーム)ですからね、と『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)は大きなテディベアを抱きしめる。人の子供ほどの大きさがあるこの子は、杖を没収された彼女が涙目で懇願したことにより未だ手元にあった。本来であれば没収であったはずの品であるが、このままだとハルツフィーネが泣き喚いて面倒な事になると傭兵たちは諦めたのである。
 実際に、テディベアがないと物理的に困るのか、と言えばそうではない。彼女1人でだって戦える。だが嫌なものは嫌なのだ。
 まあそんなこんなで彼女はテディベアと一緒だが、他の者は基本1人きりである。別の牢に閉じ込められた『きつねうどん』天狐(p3x009798)は見張りに見えないような場所でむん、と張り切った。
(頑張って脱出しなければならんな!)
 これからどうなってしまうのかとか、そういった心配は全くと言っていい程ない。牢屋から出る手段は仲間たちが用意してくれる。というかやってもいいならやるけど荒々しい手段にしかならない。故に天孤はその先のことを考えて行動するのだ。
 静かにしていれば見張りは怪しまない。天孤は息をひそめ、この施設に響く音へ耳を澄ませる。見張りが動く際に発する足音の反響が、どのように続いていくのかを。あまりにも遠くまでは補足できないが、それでも周辺の構造などは知ることができる。
 スティアは見張りが通り過ぎた隙に精霊のサメを召喚し、牢の外へ向かって放つ。できるだけ目立たぬように、静かに。幸いにして灯りはそこまで多くないからうまくすれば闇に紛れられるかもしれない。
 階段を上がった先は廊下のようだ。左右どちらに行くか迷ったサメが、やがて右へと折れる。スティアたちが連れて来られた時は何が何だか分からなかったっが、しばらくはぼんやりと薄暗がりの通路が続くらしい。
 進んで暫し。見回りらしい傭兵の声にサメは影への方へと寄っていく――が。
「なんだコイツ」
 灯りを持っての巡回に見つかり、ひょいとつまみあげられる。可愛く鳴いてみたが、
「さっきの奴らの武器かなんかじゃねえか? ほら、でっけえぬいぐるみもってるガキもいたし」
「じゃあ武器庫に放り込むか」
 見逃しては貰えなかった。サメを摘まみ上げた傭兵が来た道を戻っていくが、武器庫まで辿り着くまでに距離が開き過ぎてスティアとの繋がりが切れてしまう。
(大体の方向はわかったし……良しとするかな)
 サメさんはきっとうまく逃げてくれるか、武器庫でじっとしているか。スティアの使役からは解き放たれているのでどこかへ消えてしまっているかもしれない。
 スティアはレイと『クレイジーメイド』アリシア(p3x004649)へアイコンタクトで終わったことを伝える。
「それでは1曲、いってみましょうかぁ」
 彼女は歌って踊れるメイド――それが種族なのか冥土から来ているのかは不明だ――である。彼女が歌えばなんだって踊りだす(ことがある)のだ。
「おい、お前! 何してる!」
 流石にこれには見張りも反応する。牢の中にいれば向こうから手出しもできないし、牢の柵が踊りだして鍵が開かなくならない限りは続けるつもりだ。
(ありがとう、アリシア)
 彼女が見張りを引き付けた、一瞬に隙に。レイが閉じ込められた牢屋から大きな物音が響く。同時にアリシアも歌を止め、見張りもまた首を巡らせた。
「どいつもこいつも……!」
 つかつかとレイの牢へ足早に歩いていく見張り。柵へと投げつけたのか、奥にあった瓶が柵の下で粉々になっていた。おい、と怒鳴りつけながら柵を蹴りつけた見張りは、その後に瞠目する。
「いない!? いったどこに、」
 苛立たし気に鍵を取り出し牢を開ける見張り。その瞬間、複数人が一気に動き出す。
 レイは同化していた奥の壁から見張りへ接近し、見張りというNPCへのハッキングを。
 ハルツフィーネは牢の外にテディベアを生成し、その目からビームを放つ。
 レニーはこっそり時間をかけて壊した牢の扉を開け、素手で殴りかかって昏倒させた。
「ったく、か弱いレディのフリは疲れるぜ」
 やれやれとでも言いたげにレニーは見張りから鍵を拝借し、次々と牢の扉を開けていく。自分の牢は――というかどの牢も、しっかりとした手入れが行われているわけではない。錆び付いた箇所は脆いので壊せたが、そうでなければ自分も救出を待つ側だっただろう。
「もう大丈夫ですよ、お任せください」
「ローレットのもんだ、って言えばわかるか? 助けに来たぜ」
 アリシアは先ほどの歌いっぷりはどこへやら、メイドらしい優しい雰囲気で救出対象に接する。そしてレニーの言葉で救出対象たちは喜びを露わにした。
「NPCではなさそうだと思っていましたが……!」
「おっと、まだお静かに。な?」
 しぃ、と人差し指を立てるレニーに女性プレイヤーがほう、と頬を赤らめる。果たして中の人がキャラと同性であるかはさておいて。
「練達の依頼で訪れた。怪我などはないな?」
 ジョージの言葉に一同は頷くも、数人はそのペンギンフォルムから目が離せないらしい。好まれる姿なのは大変結構、だろうか?
 何はともあれ。あとは脱出すれば解決である。
「でも、まずは武器を取り返しに行きたいんだ。その後は良かったら手伝って欲しいけど、怖かったりするなら自衛だけで大丈夫だよ」
「わかりました」
 スティアの言葉に頷く少女キャラクター。彼女もまた武器を没収された1人のようだ。
「レイさん、どう?」
「詳細なデータは……時間がかかりそう……でも、脱出経路は……大丈夫」
「それなら進んだ方がいいな。スティアも武器保管庫までの道は行けるだろ?」
「途中までだけど」
 レイの返答にレニーが視線を向ければ、最初にレイへと問うた彼女は若干不安げにしながらなんとなく、と答える。サメとの距離が開いて完全に把握できなかったが、そこまでなら進めるだろう。
「なら、いこう。クエストを終わらせにいくぞ」
 ジョージの言葉に一同は頷き、階段を登り始める。ジョージはアクセスファンタズムでペンギンを召喚すると、先行偵察に向かわせた。
「後ろの灯り、落としちゃいますね」
 アリシアは道に設置されたランプの灯を落とす。暗くすればそれだけ追手がかかっても追いにくくできる。
「私が先を見てくるから……皆はついてきて」
 レイは先ほどのデータを頼りに、ペンギンと共に先行偵察を。周囲になるべく溶け込むようにしながら進む彼女は、周囲に敵がいないか神経を尖らせる。
(最初の……シャドウランニングにしては……いい仕事を当てられた、と思う。でも……もしグリッジしたら、ごめんね……チャマ)
 未だ全身のサイバーウェアは完全適応とは言い難い。故にグリッジ(ファンブル)してしまう可能性は無きにしも非ずだ。その時は仲間にも頑張ってもらう他ない。
「大丈夫です、私達とクマさんが来たので……ここから脱出するなんて余裕、ですよ」
 ハルツフィーネは救助対象のプレイヤーたちを安心させるように微笑む。可能ならば後衛からの援護でいいのだ。それでも自分たちはずっと楽になる。
「場合によっちゃ突貫も必要じゃろうな」
「ああ。武器庫の前には誰かいるかもしれない」
 天孤とジョージはひそりと囁き合う。このフロアに全く人がいないと言うことは無いだろう。ジメジメとしているから、大半は地上階にいるかもしれないが。
 ジョージの懸念通り、前を行っていた眷属がひょこひょこと戻ってくる。どうやらこの先に武器などが保管されているようだが、やはり無人ではないようだ。
「いけるか?」
「ああ」
 ジョージの言葉にレニーと天孤が拳を握りしめる。幸いにして敵の数は少なく、こちらも素手とはいえ数の利がある。こんな地下だからと番をする敵も隙だらけだ。
 その隙を狙い、天孤は素手による連続攻撃を繰り出す。敵が驚いて応戦しようとするも束の間、一拍遅れたレニーの拳が男へ命中した。仲間たちが畳みかければ、油断していた相手はあっという間に地面へ伏す。
「よし、あとは物陰に隠すか」
 レニーがずるずると武器保管庫の死角になる場所へ男を放り、残ったメンバーは自分の武器を探すと手に取った。まずは一安心である。
「この勢いで出口を目指そう!」
 スティアの言葉に頷く一同。もうこの施設に用はない。ハルツフィーネは魔法人形のテディベアを生成するとジョージのペンギンと共に先行偵察させる。
 レイがハッキングしたデータと、先行する生物たちが感じる風の方向などを元に移動する一同。暫しして上へ繋がる階段が見えた。
「もう少しか」
「ああ。だが……」
 ジョージの視界の先には戻ってくるペンギン。どうやら傭兵がいるらしい。そっと様子を窺うと、傭兵の向こう側に出入り口らしき扉が見える。これならば進んでしまった方が早いか。
「武器防具さえあればこっちのもんですからね」
 アリシアは真っ先に仕掛ける。提灯についた導火線へ着火し、その細腕からは想像もできぬ腕力で傭兵へと投げつける。
「正義の――燃え燃えキューン!」
「うわっ」
「なんだ!?」
 投げたそれは当然ながら、ただの提灯ではない。大量の薬物と火薬が詰め込まれているのだ。これを投げつけるのはメイドの嗜みらしい。わらわらと現れた傭兵の1人へレイはカサス・ペリで開戦を告げる。向かってくる彼らにハルツフィーネはテディベアを操り、クマさんクローで応戦した。
「大丈夫だ、俺達がついている」
 ジョージは非戦闘者を背後に庇い、その腕に召喚していたペンギンを抱えさせる。多少の癒しがあれば気が紛れるだろう、と。
「片っ端からうどんに変えてやるから覚悟せい!」
 天孤の発言に傭兵たちは笑うが本当である。その攻撃に当たったら30分は【食材適性】がつくし、その間に倒されたらうどんドロップである。うどん食べたくなってきた。
 スティアはそんな傭兵たちを引き離すべく、その攻撃を誘うように動く。そして徐々に入口へと向けて動き始めた。
 応戦しながら、守りながらの戦いは外へ出たことで少しずつ変わり始める。空へと花火が上がったのだ。
「おい、あれ」
「まずいんじゃねえか」
「逃がしませんよぉ?」
 動揺する傭兵たちを尻目に、アリシアは建物の入り口へ炎を放つ。あれだけ広さがあれば早々焼け死ぬことはないだろうが、易々と出られもしまい。
「此れで立場は逆転、逃がさねぇのはこっちのほうってな!」
 レニーはにっと笑みを浮かべ、前へ。後ろへなど引くものか。
「ここまで来たら、後ひと押しだ!」
 ジョージは傭兵の攻撃に耐えながら叫ぶ。あの花火を見た友軍が早く到着してくれることを祈って――それまではゲームの中であったって、死んでも死にきれない!
 体力の半分をきったアリシアがワザモノの包丁をどこかから取り出す。そして徐に敵を駆逐しだした。
「キャァッ、刺さったぁ!」
 敵に刺さると嬉しそうにするアリシア。復讐もメイドの嗜み……らしい。
 手にしたお賽銭箱で連続攻撃を繰り出す天孤は、背後から聞こえた複数の足音に思わず口端を吊り上げた。
「いたぞ! 加勢しろ!」
 友軍が到着したのだ。建物内外の行き来が絶たれていたこともあり、ほどなくして場は鎮圧される。この場にいた傭兵は捕縛され、建物の中に閉じ込められている者たちも鎮火後に制圧するということだった。
 天孤はドロップしたうどんをアイテム欄から取り出し、救助対象だった者たちへと配る。
「あんな場所じゃ美味い飯もロクに食えんじゃろて。まあ……現実に戻ったら、また食わねばなるまいが」
 それでも、ログアウトする少し前に――心の栄養をお裾分けだ。

成否

成功

MVP

レニー(p3x005709)
ブッ壊し屋

状態異常

ジョージ(p3x007332)[死亡]
よう(´・ω・`)こそ
ルイン(p3x008578)[死亡]
世界終焉機構最終番

あとがき

 お疲れさまでした、冒険者たち。無事にクエストクリアとなりました。

 それではまたのご縁をお待ちしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM