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シナリオ詳細

強襲! 奴隷商人の屋敷 ~囚われの冒険者達を救出せよ~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●慢心の末に、敗れ囚われ
 狭く暗い檻の中に、五人ほどが一緒に押し込められていた。檻の外にはまた別の檻があり、それが通路を挟んで左右に三つある。それらの檻にも四~六人が押し込められており、全部で三十人ほどが囚われていた。
(ちくしょう……何でこんなことに)
 その中に囚われている、一人の冒険者の男は悔やんでも悔やみきれないと言う顔をしている。いや、この男だけではなく、ここの檻に囚われている者達の多くが、同じように考えていた。
 言葉を交わせば見張りにうるさいぞと怒鳴られてしまうため、彼らは話をすることが出来なかったが、もし話が出来たならば彼らは同じクエストを受けて失敗し、囚われの身となったことに驚いたことだろう。
 そのクエストとは、ごくありふれた隊商の依頼だった。少なくとも、彼らにはそう思われた。
(あの時、有頂天になっていなければ……)
 彼らは護衛の最中、隊商から金をせびろうとする傭兵団を四度までは退けた。それも、楽勝と言えるほどに容易く。だが、そこで彼らは自分達の実力が傭兵達に比べて高いものだと勘違いし、慢心してしまった。そして五度目に遭遇した傭兵団に敗れ、囚われの身となったのである。
 ただ、彼らは知ることはなかったが、一度目から四度目までの傭兵団は極めて弱い一方で、五度目の傭兵団は相手が慢心すればするほど強くなると言う特性があり、ある意味でこのクエストは初見殺しの内容であったのだ。
 そして、本来は混沌なる世界の練達なる国家で戦闘とは全く関係ない日常を送っていた彼ら――正確には、その中身――が、その罠に乗せられてしまったのは仕方なかったと言えるだろう。
 ともあれ、彼らはこの世界『Rapid Origin Online』からログアウトすることが出来ず、奴隷商人に売られてずっと囚われたままになっていた。

●戦場は屋敷前(確定)
 仮想環境『Rapid Origin Online』にログインした練達の研究者達や希望ヶ浜学園の生徒が戻ってこないと言う事態が発生すると、イレギュラーズ達に『Rapid Origin Online』にログインしてもらい、仮想環境に閉じ込められた人達を救出して欲しいという種々の依頼がローレットに飛んだ。
 その中には、五度目に遭遇した傭兵団によって捕えられた、檻の中にいる冒険者達の救出依頼も含まれていた。

「さて、皆さんお揃いですね」
 『Rapid Origin Online』世界、砂嵐首都ネフェルスト付近のサクラメントで、『緑の騎士』ウィルヘルム(p3y000126)が一緒にログインしてきたイレギュラーズのアバターを見回して、欠員がいないことを確認した。そして、依頼の説明を始める。
「今回の依頼は、クエストに失敗してログアウト出来ないまま囚われた人達の救出です。
 ですが、その前に強制イベントが発生しますので、戦闘は必須となります」
 前にもそんな強制イベントの説明をしましたね、と心の中で苦笑いしつつ、ウィルヘルムは続けた。
 囚われた冒険者達は、ネフェルストにある奴隷商人の屋敷の地下牢に押し込められている。だが、イレギュラーズ達が救出を決行しようと屋敷に近付いた時点で見張りが必ず気付き、奴隷商人の護衛がわらわらと出てきて屋敷の前で戦闘が始まってしまう。『Rapid Origin Online』を蝕むバグのせいか、これは絶対に避けられない。
「強制イベントであるせいか、向こうの準備が整うまで一切の攻撃、状態異常の付与、接近は不可能となります。
 また一方で、向こうも準備が整うまでは皆さんに対して戦闘行動は行いません」
 なお、それまでの間に付与などを行うことは可能であるようだ。
「それともう一つ、奴隷商人に対しては皆さん思うところがおありでしょうが、この依頼では絶対に手を出さないで下さい」
「……何で?」
 奴隷商人に手を出すな、と言われたイレギュラーズの一人が、納得いかない様子でウィルヘルムに尋ねる。
「奴隷商人に手を出した時点で、クエスト失敗のフラグが立ちます」
 酷いバグではありますがね、とウィルヘルムは苦笑せざるを得ない。だが、すぐに気を取り直して締めに入った。
「そう言うわけで、皆さんには奴隷商人の護衛達を倒し、囚われた方々の救出に専念して下さいますよう、よろしくお願いします」
 そこまで告げるとウィルヘルムは深く頭を下げ、奴隷商人の館へと向かうイレギュラーズ達を見送った。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。ROO4本目は、先に執筆した拙作『五度目の傭兵団』の関連シナリオとなります。なお、基本的な情報はこのOP中に記しているはずですので、このシナリオのために『五度目の傭兵団』の方を読む必要はありません。
 さて、皆さんにはいろいろと理不尽な仕様、もといバグを乗り越えて、奴隷商人の護衛達を倒し、囚われた冒険者達を救出して下さいますようお願いします。

●成功条件
 奴隷商人の屋敷の地下牢に囚われた冒険者達の救出(事実上、奴隷商人の護衛達の全滅(生死不問))

●失敗条件
 奴隷商人に攻撃を行う。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ネフェルストの大通り、奴隷商人の屋敷前。天候は晴天。
 仕掛ける時間は自由ですが、夜の場合、【暗視】やそれに類する能力がないと命中や回避にペナルティーが入ります。
 なお、大通りの道幅は30メートルほどで、周囲には保護結界同様の保護がバグによって為されています。

●初期配置
 屋敷の前の大通りに、護衛のうち20人ほどが、わらわらと陣取ります。また、2階建ての屋敷の屋根には、10人ほどが陣取ります。
 イレギュラーズ達は、大通り上の一番近い護衛から最低40メートル離れた所までしか近付くことは出来ません。

●奴隷商人の護衛 ✕30
 能力傾向として、大通りにいる20人は白兵戦タイプで、半数が攻撃力や生命力に優れるパワー型、半数が手数や回避に優れるスピード型となります。屋根の上の10人は命中と攻撃力の高いスナイパー型です。
 パワー型の武器はロングソードやバトルアックス、スピード型の武器はダガーやショートソード、スナイパー型の武器はクロスボウとなっています。
 彼らを全滅させないと、如何なる手段を用いても屋敷の中には入れません。逆に全滅させることが出来れば、屋敷の中では妨害がないため、障害なく地下牢に囚われた冒険者達を救出できます(鍵は護衛の一人が持っており、特にプレイングに書かなくても入手できるものとします)。

●奴隷商人
 冒険者達を捕えた傭兵団から、冒険者達を購入して自らの屋敷の地下牢に押し込んだ奴隷商人です。彼への攻撃は、シナリオの失敗を意味します。
 屋敷にはいますが、護衛が全滅したら怯えて隠れます。そのため、イレギュラーズ達がわざわざ捜索しようとしない限り、遭遇することはないでしょう。

●冒険者達 ✕30
 『五度目の傭兵団』のクエストで敗れ、囚われてしまいました。アバターの中身はOPでも記したとおり、練達の研究者や学生達です。
 商品でもあるためか、特に酷いことなどはされておらず、命や健康に問題はありません。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
 『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 強襲! 奴隷商人の屋敷 ~囚われの冒険者達を救出せよ~完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
シャドウウォーカー(p3x000366)
不可視の狩人
イルミナ(p3x001475)
冒険者
アルヴ(p3x001964)
分岐点の別の道
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
沙月(p3x007273)
月下美人
キサラギ(p3x009715)
呉越同舟

リプレイ

●納得出来ないバグ
「……この世界での最初の依頼は……囚われた人たちの救出、か……。
 ゲームの中からログアウトできなくなった……普通に考えたら、とても恐ろしいこと、だよね……」
 白い獣人の姿をしている『分岐点の別の道』アルヴ(p3x001964)は、これから挑む依頼のことを考え、静かに独り言ちた。ただ、売り物の奴隷として囚われている故に、救出対象の冒険者達に命の危険が無いと言うことは、救出する側からすれば安心出来る材料だった。ならばと、アルヴは『Rapid Origin Online』で活動するにあたって選んだ戦い方が通用するかを試すつもりでいた。
 それにしても、とアルヴは納得がいかない様子を見せる。冒険者達を『商品』として『仕入れ』た奴隷商人を攻撃したら、依頼が失敗するフラグが立つと言うバグがあるからだ。
「なんだか……元凶をかばうようなバグの起こり方だけど、深読みし過ぎ……なのかな……?
 ……これ以上、クリア条件に関わるバグが……起こらなければいいんだけど……」
「――納得はいきませんが、現実とは違うということがよくわかりますね。よくよく、注意するようにしておきましょう」
 冷静沈着でクールビューティーな『月下美人』沙月(p3x007273)としても、アルヴほどではないが、そのバグへの不満は隠しきれない。ただ、そのバグは沙月の言う様に『Rapid Origin Online』の世界では『無辜なる混沌』とは違う法則が働くと言うことを、ありありとよく示していた。
 『無辜なる混沌』とは違うと言えば、この先に待ち受ける奴隷商人の護衛達との戦闘にしてもそうだ。イレギュラーズ達は奴隷商人の屋敷に乗り込む時間を早朝としたが、護衛達が屋敷の周囲に出そろうまでは攻撃が通用せず、護衛達が全滅しなければ屋敷の中に入ることも出来ないのだ。
「寝起きはあんまり力が出ないのは全ての人間に当てはまると聞いたけど……『Rapid Origin Online』だと関係無さそう……?」
「そう見るべきでしょう……先手の取れない強制イベントというのは、厄介ですね」
「奴隷商人に攻撃するとミッション失敗になることと言い、なかなか面倒なクエストだな……まあ、頑張らないと捕まってる人たちが大変だし、頑張ろう」
 身長五十センチ弱の本と盾を持った妖精、『妖精粒子』シフルハンマ(p3x000319)が、沙月の顔の横を飛びながら疑問を口にした。その疑問に答えながら、沙月はふぅ、と小さく溜息をつく。シフルハンマはううん、と考え込みながらも、救出対象の冒険者達のことを考え、意気込んでみせた。

「――奴隷商人への攻撃が駄目だったり、直接の潜入ができなかったり……やはりこの世界はこの世界で独自のルールがあるのかな?」
 『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は、『Rapid Origin Online』のバグによる制限に不思議そうに首を傾げつつも、そうした部分の探求も面白そうだと考えている。
「さて、この世界ではレインリリィとして生きると決めたわけだが……捕まっているのが学生たちだと聞いたら、『黎明院・ゼフィラ』としても全力を尽くさないワケには行かないね」
 レインリリィの中の人である『黎明院・ゼフィラ』は、『無辜なる混沌』にて希望ヶ浜学園と言う学校で非常勤ながら教鞭を執っている。そして、奴隷商人に囚われている救出対象の中には、『Rapid Origin Online』のテスターとしてログインしている希望ヶ浜学園の生徒達も含まれているのだ。ならば、教師として生徒を助けるのは当然であろう。
 そうでなくても、レインリリィは窮している者には躊躇うことなく手を差し伸べ、救うことを旨としている。ならば。
「今回は、思い切り暴れさせてもらおうか!」
 パシン! と拳を掌に叩き付けて、レインリリィは気合いを入れた。
「おう、ガーッとぶっ飛ばしてバーッと助け出そうぜ!」
 レインリリィに触発されたか、大剣を肩に担いだ『冒険者』イルミナ(p3x001475)が気合い十分といった様子で、豪快に笑った。奴隷商人に手を出せないことについても、イルミナは肯定的でさえある。
「ま、逆に考えることが減って良いってもんよ!」
 
「商人を倒して一発解決……はやっぱり許してくれないよね。むしろダメまで言われちゃった」
「ゲームの中で、フラグを無視する訳にはいかねぇわなぁ」
 セーラー服の中学生に見える少女『組織の刺客』シャドウウォーカー(p3x000366)が残念そうにこぼすと、SFチックな女性将校『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)が慰める様に応じた。
 もっとも、『Rapid Origin Online』を一つのゲームとして捉えているシャドウウォーカーは本気で残念がっているわけではなく、クリアは簡単ではなくともゲームとしてはこの方が遊び甲斐はあると感じている。
「まぁ、連続物のクエかもしんねーし。クソ商人をボコる機会はまた別にあると思って、頑張ろうぜ?」
 それを知ってか知らずか、Tethはシャドウウォーカーを励まそうと、その肩をバンバンと叩いた。

「奴隷商人。リーグルの唄、なんてモノもあったと聞いたぜ。まァ今回のクエストには関係ないだろうが……奴隷ねぇ。
 カワイイ女子なら、オレも一人欲しいなぁ……」
 『無辜なる混沌』の幻想で起こった、『大奴隷市』に始まる奴隷がらみの騒動を口にしてから、巫女姿の『狐月三刀流』キサラギ(p3x009715)は奴隷という存在に想像の翼を広げる。そしてポツリと欲望を漏らしたところで、周囲からの白い目に気が付いた。
「――なんて、冗談だ冗談。そう睨むなって、本気じゃねェよ」
 その視線に気が付いたキサラギは冗談だと弁明したものの、半分はな、と心の中で付け加えていた。

●戦闘、開始!
 イレギュラーズ達が奴隷商人の屋敷まであと四十メートル強と言う所に至ると、透明な壁でもあるかの様にそこから先へと進めなくなった。同時に、次から次へと護衛達が屋敷の中からわらわらと現れてくる。そう待つことも無く、護衛が全て現れたのだろう、透明な壁は消滅した。
「出揃ったんだね。なら、仕掛けるよ」
 いち早くそれを察したシャドウウォーカーは、護衛達との距離を半分ほど詰める。そしておそらく俊敏性に長けているのであろう短剣を持った護衛を、タン、タン、タンと小型拳銃で撃った。シャドウウォーカーに撃たれた短剣の護衛は、迫り来る弾丸に牽制され動きを制された上に、数発をその身に受けてしまう。そしてシャドウウォーカーは素早くマガジンを交換すると、さらに同じようにして、再度短剣の護衛に銃弾を浴びせた。
「さァて、あっちも準備が終わったか。行くぜ! 死にてェやつからかかってきな!」
 シャドウウォーカーが動き出したのを見ると同時に、キサラギも動いた。『恵璽御魂刀静神楽』を鞘から抜きながら、護衛達の中では戦斧を持つ大柄な、膂力に長けているであろう一人に駆け寄り、稲妻の如き速さの剣閃を見舞った。ザシュッ! と、あまりの太刀筋の速さに防御も回避もままならなかった戦斧の護衛の身体に、縦に深い傷が刻まれる。
 だが、キサラギの攻撃はまだ終わらない。振り下ろした『恵璽御魂刀静神楽』の刀身に霜を纏わせると、今度は上へと振り上げた。もう一筋、戦斧の護衛の身体に深い傷が刻まれると、そこから瞬く間に凍気が戦斧の護衛の全身へと広がり、凍てつかせる。
 屋敷の屋根にはクロスボウを構える護衛達がいたが、Tethは屋根の上に登ってその護衛達を排除しようと、屋敷の壁へと近付いていく。Tethは電磁力を用いて足を壁に吸着させ、垂直な壁を駆け上ることが出来るのだ。
「天より降る雷よ、吹き荒ぶ嵐よ。この剣に宿り、我に力を貸し与えよ――」
 屋敷の壁の側まで至ったTethは、短剣『パツィルーイ』に魔力を宿す。そして、手近な護衛達を狙い、二度『パツィルーイ』を振るった。一度目で『パツィルーイ』の先端から雷光が迸って護衛達を雷で打ち、二度目ではそこに重ねて嵐の如き暴風が吹き荒れて、巻き込まれた護衛達を立つのも辛いほどによろめかせていく。
 一方、護衛の方もやられっぱなしではいない。まず、短剣を持った身のこなしの素早い護衛達が、襲撃者たるイレギュラーズ達を排除するべく動き出した。すぐ近くにまで迫っているキサラギに七人、屋敷に取り付こうとしているTethに三人が、襲い掛かる。
 この護衛達は武器が武器であるため一撃の威力は大きくなかったが、数に加えて手数で押してくるのが厄介だった。キサラギもTethも、深くはないものの少なからず傷を負わされてしまう。
「ガンガン行くぜー! 痛い目見たいやつからかかってきな!」
 イルミナは大柄の護衛達の前へと意気盛んに進み出ると、ブン、と大剣を勢いよく横に振るった。その一閃は直接大柄の護衛達を斬っただけでなく、衝撃波となってその後ろにいる護衛達をも襲い、傷を負わせつつ後方へと弾き飛ばす。そのうちの一人、既にキサラギに攻撃され身体を凍てつかされていた戦斧の護衛が、弾き飛ばされたまま仰向けに倒れ伏し、動かなくなった。
「囲まれてるのは……まずい、ね……今、助けるよ……」
 アルヴは短剣の護衛達に囲まれたキサラギを救援するべく、短剣の護衛のうちシャドウウォーカーに撃たれている者に接近すると、軍隊格闘術を用いて攻撃を仕掛けた。俊敏性に長けている短剣の護衛はアルヴの攻撃を見切っているとばかりに避けようとするも、アルヴの攻撃はその先を読んでいるかの様に短剣の護衛の動きを捕えて、回避するのを許さない。シャドウウォーカーに撃たれアルブに殴打された短剣の護衛は、ダメージが脚に来ているのか今にも倒れそうにふらふらとよろけた。
(相手が数で押してくると言うのなら、一気に薙ぎ払ってしまいましょう)
 イルミナの大剣に弾き飛ばされた大柄の護衛達の、最前にいる三人を狙って沙月は駆け、距離を詰める。そして流れる様な動きで、その三人に次々と拳を叩き付け、蹴りを浴びせる。大柄の護衛達三人を強かに打ちのめし、さらにダメージを与えたところで、沙月は後方に跳びすさって距離を取った。
「さあ、かかってきなよ! この程度の数じゃ、ボクたちは止められない!」
 レインリリィは高らかに叫びつつ、Tethが屋根へ登るのを援護しようと、細剣『セイクリッドスフィア』でTethの側にいる短剣の護衛達を連続して突いていく。『セイクリッドスフィア』が短剣の護衛に突き刺さると、そこからボウッと業火が燃え広がり、短剣の護衛達の身体を業火に包んでいった。
(クロスボウ持ちの攻撃は高い威力と聞くが、自分の装甲、生存能力なら、撃ち合えるはず!)
 耐久面を重視したビルドを頼みにしているシフルハンマは、屋敷の側に近寄りつつ、屋根の上のクロスボウ持ちの護衛に向けて魔力で創りだした剣を撃った。魔力の剣はクロスボウの護衛の腹部に深々と突き刺さり、その口から血を流させる。
 屋根の上のクロスボウの護衛達は、自分達を狙って撃ってきたシフルハンマを、反撃とばかりに次々とクロスボウで撃つ。だが、襲い来る十本の矢を、シフルハンマは『花盾シエルプルーメ』で次々と受け止めた。
 そして大柄な護衛達は、イルミナを最も危険な相手とみて集中攻撃を仕掛ける。膂力に長けた大柄の護衛達に集られてはイルミナの守りにも限界があり、イルミナは浅くはない傷を負わされた。

●護衛全滅~救出!
 イレギュラーズと護衛達の戦闘は、次第にイレギュラーズ優位へと傾いていった。護衛達の数は多かったが、イレギュラーズ達は手数や範囲攻撃で応じて、次々と護衛達を倒していく。だが、イレギュラーズ達も相応の傷を負うことになった。特に、威力の高い一撃を繰り出してくるイルミナ、手数が多いのに加えて傷つくほどに攻撃の威力を増してくるキサラギは危険視され、二人には攻撃が集中することになった。

 大上段から振るわれたキサラギの『恵璽御魂刀静神楽』が、攻撃を受け止めようとした長剣ごと、大柄の護衛を一刀両断にぶった斬る。既にキサラギは満身創痍になっているが、それはキサラギを一度戦闘不能に追い込んでなお余りあるほどの威力がキサラギの一撃に加わることを意味していた。こうなると、キサラギの一撃には余程の耐久力か防御力が無い限り耐えることは不可能となる。
「さァ、次はお前だな!」
 返す刀で、キサラギは戦斧の護衛の胴を輪切りにして、上半身と下半身を泣き別れさせた。巫女姿でありながら、今のキサラギは血塗れの戦鬼を思わせる。
「なーにがパワー型だ! 本当のパワーってもんを見せてやるよ! そーら、受けてみな!」
 キサラギと同じく満身創痍に陥っているイルミナだったが、力を売りにするには力が足りないとばかりに、大剣の先端を前に向けながら渾身の力を込めて、戦斧の護衛に向かって突進した。大剣が戦斧の護衛の腹を背中まで貫き通し、そのまま絶命させる。
 シフルハンマによって屋根の上から叩き落とされたクロスボウの護衛達は、落下の苦痛に耐えながらも屋根の上にいるTethやシフルハンマと互いに打ち合っていた。だが、次々と撃ち減らされていき、残るは傷ついた一人のみとなる。
「こいつで、仕舞いだぜ!」
 『パツィルーイ』に魔力を込めながら、Tethはその切っ先を最後のクロスボウの護衛に向ける。『パツィルーイ』の先端から迸った二本の光条に胸板を貫かれたクロスボウの護衛は、目から光を失い、ゆっくりと倒れていった。
 残るは短剣の護衛が二人のみとなったが、二人はせめて一矢報いんと、イルミナとキサラギをそれぞれ攻撃する。既に満身創痍に陥っていたイルミナとキサラギは、短剣の護衛から受けた傷によって死亡したと見なされ、『Rapid Origin Online』からのログアウトを強いられた。二人のアバターが、この場から消滅する。
(イルミナさん……! キサラギさん……!)
 二人が倒される前に短剣の護衛を倒しきれなかった無念を噛みしめながら、アルヴはキサラギを倒した方の短剣の護衛に格闘を仕掛けた。相手に回避することを許さないアルヴの拳が、短剣の護衛を強かに殴り飛ばす。
「――もうこれ以上は、させません」
 アルヴの殴打によって生まれた隙を衝いて、沙月が短剣の護衛に迫った。沙月は流れる様に滑らかな動きで短剣の護衛の懐に入ると、その水月に下から突き上げる様に拳を叩き込む。短剣の護衛は身体をくの字に折り曲げて苦悶の表情を浮かべ、白目を剥いて昏倒した。
(ボクの力量じゃ、攻撃を当てるのは難しい――)
 短剣の護衛の俊敏さに、レインリリィはそう感じざるを得なかった。だが、レインリリィは一人で戦っているわけではない。自分で攻撃を当てられないのならば、仲間達の攻撃に繋げばいいのだ。そう思い定めたレインリリィは、『セイクリッドスフィア』で短剣の護衛に突きかかるも、予想どおりこの攻撃は躱されてしまう。だが。
「バッチリだね! ナイスだよ!」
 短剣の護衛が避けた先に、シフルハンマの放った魔力の剣があった。否、シフルハンマの魔力の剣の射線上に、レインリリィが短剣の護衛を誘導していたのだ。しまった、と短剣の護衛が思った時には既に遅く、魔力の剣は短剣の護衛の脇腹に深く突き刺さる。
 それでもなお短剣の護衛は戦闘を継続しようとしたが、それは果たせずに終わった。一瞬にして短剣の護衛の背後に肉薄したシャドウウォーカーが、短剣の護衛の首を深く斬ったからだ。首を半ばまで斬られた短剣の護衛は、ブシューッ! と頸動脈から血を噴き出しながら倒れていく。その頃には、シャドウウォーカーは短剣の護衛から距離を取っていた。 
「ふー、まさか原作でやってた事を再現できるなんてねー」
 原作、とは、シャドウウォーカーの中の人である『日向 葵』が暇つぶしに遊んでいたアクションゲーム『サイコウォーズ』のことだ。その『サイコウォーズ』で使っていた奥義が『Rapid Origin Online』で再現出来たことに、シャドウウォーカーは満足そうな笑顔を浮かべた。

 護衛達を全滅させたイレギュラーズ達は屋敷の中に入り込み、囚われている冒険者達を救出する。
「落ち着いて、私は希望ヶ浜学園の教師だ。君たちを助けに来た」
「よく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ」
 レインリリィと沙月が冒険者達を落ち着かせ、シャドウウォーカー、シフルハンマ、アルヴはその様子を眺めながら、無事に冒険者を救出できたこと、そして依頼を達成出来たことに胸を撫で下ろす。
 その後は特に妨害も障害も、奴隷商人と遭遇することもなく、イレギュラーズ達は救出した冒険者達と共に奴隷商人の屋敷を出た。そして帰ろうと言うところで、Tethが奴隷商人の屋敷へと振り返る。
「テメェを倒すクエが出る時を楽しみにしてろや。なぁ?」
 中で怯えて隠れているであろう奴隷商人に告げる様に、Tethは親指を下に突き立て、吐き捨てるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

イルミナ(p3x001475)[死亡]
冒険者
キサラギ(p3x009715)[死亡]
呉越同舟

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。奴隷商人に囚われていた冒険者達――練達の研究者や学生達のアバター――は、皆さんによって無事に救出されました。
 それでは、お疲れ様でした。

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