PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ヴァン・グリの軌跡

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴァン・グリ
 さざ波の音が聞こえる。先行して聞こえた『音』は耳に馴染むリアリティ溢れる効果音だった。
 暗転した世界に光の粒子が淡く舞う。背後に感じるのはサクラメントの存在か。
 目を瞠るほどに鮮やかな空は地平線を描く。雄大なる美を想わせたのは広がって行く海色であった。
 地に着けた足が沈み込むような感触は柔らかな砂か。

「驚いた?」
 真っ青な景色に、入り込んだのは桜色。パステルピンクで飾られたワンピースに薔薇の意匠が躍っている。
 ふんわりと揺らいだリボン、豪奢なレースとフリルを粧う『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)は揶揄うような笑みを浮かべた。
「航海へようこそ! ……って、私が言いたいだけなの。改めて、冒険に行きましょう?」
 くるり、くるりと砂浜の上で躍る様な。
 爪先が砂に埋まって行く感覚さえも愉快だとでも云う様にスノウローズは微笑んだ。
 ふんわりと躍った桃色の髪は柔らかに揺らいでいる。
 鼻先を擽った潮風の気配。注ぐ陽が肌を僅かに刺激する。そんな感覚さえ現実と変わりない。
 一歩踏み出したとき、爪先に何かがぶつかった感覚までも仮想空間とは思えない程の『現実』を感じさせた。
「実は、このフラグメントの近くに……そう、あの村。
 現実だとこの辺りは何だったかしら。この村がなかったのは確かだったけれど……」
 現実との違いを、一つずつ思い出すようにスノウローズは指を折る。首をこてり、と傾いで「うーん」と小さく呟いた。
「まあ、いいかなあ。此処は『海洋』ではなくて『航海(セイラー)』。R.O.Oの世界――ネクストの中に存在する国なのよ!」

●introduction
『Rapid Origin Online』――
 それがスノウローズと話しているこの空間の名だ。練達の技術によって作り出されたこの仮想空間では現在、予期せぬエラーが発生しているのだそうだ。
 ゲームマスターである『三塔主』の手から離れ『強制的なログアウト禁止措置』を行うゲームシステム。
 其処から閉じ込められた研究者を救出しなくてはならない。
 ……けれど、本題に取りかかる前にこの世界に少し慣れて置いた方が良いだろう。

「スノウローズ先輩からMMOへのオススメ! お遣いクエストをしましょう。
 やっぱり歩き回るのって大事だし、お遣いだってとっても楽しいわ。『私も』このクエストは実はやったことがあるの。
 何度も何度もお願いしてくるから、そういうシステム的なモノなのだと思って居るけど」
 指さしたのは村の入り口で項垂れているNPCだ。麦わら帽子と褐色の肌が眩い青年は「どうしよう」と情けなく呟いている。
「ああ、皆さん! 丁度よかった。
 実は私のヴァン・グリがモンスター達に持ち去られてしまったのです。その香りから、モンスター達にも酩酊を齎すようで……」
 モンスターにも人気のワインなのだという事をつらつらと述べるNPCの青年の言葉をスノウローズが適当に遮った。
 つまり、モンスターにも大人気なワインボトルが4本、持ち出されてしまったのだという。
「砂浜にモンスターがいるの。まず、鳥夫婦。卵を守ってて狂暴なのよ。其処に2本。
 それから、見える? うろうろしてるの。ヤドカリさん。あの傍にも2本。
 持ち去ってダッシュで帰ってきて彼に報告すれば大丈夫! モンスターは諦めるようになってるみたい。けど……」
 けど――?
「実は、結構強くって。このモンスター達。
 逃げ切れるとは限らないの。私は他のコとこのクエストした時、ワインを拾う係だったわ。
 他の皆がモンスターに『可哀想なメに合わされている』間に報告まで走ったの。私は無傷だったけど……」
 スノウローズはちら、とサクラメントを見てから恥ずかしそうに目を伏せた。

「ふふ、兎に角! 頑張ってクエストをクリアしましょうね。MMOは積み重ね!」

GMコメント

 日下部あやめと申します。オタクな旅人男子を所有しておりましたらネカマとして起用居ただけとても楽しいです。
 そんなスノウローズちゃんとご一緒に。

●目的
おつかいクエストをクリア!

●ロケーション
 航海(セイラー)の海沿いの村。こじんまりとしていながらも居心地の良い場所です。
 砂浜に埋められているという『ヴァン・グリ』を拾いに行きましょう。

●『ヴァン・グリ』
 この村の名産ワイン。如何したことか、ワインボトル『4本』をモンスター達が持ち去ってしまいました!
 勿論、ワインを拾いに行くとモンスター達はお怒りになるでしょう。
 なんと、このクエストは等でも発生するようです……。

 ・モンスター『コークトリス夫婦』
 鳥のモンスター。ふわふわとしています。卵と一緒にヴァン・グリをどうしてか一緒に温めています。
 卵を抱えているために雌はとても凶暴。雄は雌と卵を護る為に冒険者を待ち構えます。
 雄を引き寄せれば雌が加勢しようと追いかけていきます。その隙を付いてヴァン・グリだけ持ち去ってダッシュすることも可能です。
 2本あります。

 ・モンスター『シーハーミット』
 ヤドカリの様なモンスター。ヴァン・グリの近くをうろうろとして居ます。
 ヴァン・グリだけを持ち去ってダッシュすることも可能です。
 2本あります。

●同行NPC
『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)
 桃色の髪の可愛らしい女の子。「皆さんの先輩、だよ♪」
 ヒーラーです。中の人は山田君ですがそれを言うと「やだ~!乙女の秘密!」と拗ねてきます。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • ヴァン・グリの軌跡完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

桃花(p3x000016)
雷陣を纏い
ルチアナ(p3x000291)
聖女
トリス・ラクトアイス(p3x000883)
オン・ステージ
ルルリ(p3x001317)
闇のしらべ
ユリウス(p3x004734)
循環の天使
ミドリ(p3x005658)
どこまでも側に
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)
蛮族女帝
Adam(p3x008414)
Hide Ranger

サポートNPC一覧(1人)

スノウローズ(p3y000024)
春の魔術士

リプレイ


 耳障りの良いBGMは何処かのスピーカーが響かせて居るのだろう。波の音も、砂浜に踏み入れ足先が沈む感覚さえも現実(リアリティ)の塊で。
「海だ! 俺の知ってる海の景色とほぼ変わらないな……!」
 驚愕し、目を煌めかせた 『Hide Ranger』Adam(p3x008414)は掌を天へと透かしてみる。注ぐ陽光に、落ちる影。何処まで行っても海洋王国で眺める海と同じ――疑似世界へのフルダイブ。素晴らしいと称賛するのは簡単だが、現実と非現実の区別が付かなくなる畏れを感じて 『ゲーム初心者』ユリウス(p3x004734)は末恐ろしいと呟いた。
「……まだ慣れないな、この空間は。奇妙を通り越して不気味ですらある。物は試しと思って参加してみたが、長居はしたくない」
 青い髪を風が揺らしてゆく。美天使たるユリウスを撫でた夏風の孕む涼やかな気配さえも現実そのものであるのは気味の悪い幻想のようである。
「しかしお使いクエストか、ゲームって感じだな! モンスターが強いってのはレベルがかなり離れてる……とかだったら怖いなー。まず勝てないし」
 ゲームでも死亡(ロスト)は嫌だと肩を竦めるAdamに「お遣いクエストかあ」と 『どこまでも側に』ミドリ(p3x005658)は呟いた。
「練達で遊んだことのあるゲームでもこうやってお使いだったり、落とし物拾ったりして経験値を稼いだこともあったっけ……。
 まあ流石に、こんな風にゲームの中に入ってたわけじゃないけど」
 ゲーム序盤ならば良くあるクエスト形態なのだとミドリは感じていた。何処かデジャヴを感じるクエストだが――それはある意味、慣れているとも言いやすい。
「ワイン拾いでレベル上げが出来るなんて気が効いてるじゃねえカ!」
 気が利いてると 『殲滅給仕』桃花(p3x000016)は手を叩いて喜んだ。彼女が語るのも『練達で遊んだことのあるゲーム』の話だ。
「そうだよなー初心者はまずこういうのでレベリングダンジョンにいけるようにするのが基本だよなー。
 ところで桃花チャンは色々あってレベル16になったから1日に1回いける効率の良いコンテンツにいけるようになった気がするから、帰ったらダメか?」
「ダメだよー!?」
 引き留めるように桃花の手をぎゅっと握ったのは『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)。赤い眸を潤ませて「一緒にクエストクリア、しよ?」と声を掛ける。
「ダメかー。 しゃーねーナ! そのうちこの村が一大リゾートになる予感もするし、恩売っとくカ!
 それにしてもスノウローズはいい趣味してるアバターだな! 桃花チャンはそういうの理解ある方だから素直に褒めるぜ!」
「え、ふふ、そう? そうでしょ?」
 可愛いでしょうとくるくる。スノウローズが浮かれている様子をちら、と見詰めながらクエストとは別の懸念事項を抱いて居た 『聖女』ルチアナ(p3x000291)は爪先で砂浜を掻いた。
(難儀なことに、なったわねぇ……)
 一先ずは状況整理だ。クエストを引受けてR.O.Oでの冒険準備を整えようと考えていたルチアナ。アバターも『ちょっと大人な自分』を用意してセレクトした――筈だったのに。
(ルアナとしてこの世界にログインしたはずなのに、『私』が『私』の意志と関係なく表に出ることになった。
 ……理由は分からないけれど、せっかくの機会。『ルチアナ』として気ままに動いてみましょうか)
 もう一人の自分が顕在化してしまっているこの現状を受入れて仕事をこなすしかないと、ルチアナは心に決める。柔らかな風が吹き、クエストの説明を行う麦わら帽子と褐色の肌が眩い青年の言葉を聞きながら『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)は首を捻っていた。
「海辺でワイン拾い……ワイン拾い? 変なクエストもあったもんだな」
 ――確かに。海辺でワインを拾うというのは端から見れば奇妙な状況である。 茫としていた紅玉の眸を瞬かせた『闇のしらべ』ルルリ(p3x001317)は小さく欠伸を噛み殺す。
「海辺のワイン……ね。冷やされていていい具合に美味しくなっている……のかしら。私は飲めないから関係ないけれど……」
「そういうのもあるのか。モンスターがわざわざ人間の酒を盗るってのも変な話だが、まぁそういうもんだと思っとくか。
 海とワインと言やぁ、沈没した交易船から回収された古いワインはえらく上等って話をどこかで聞いたことあるな。
 海の底でじっくり熟成されて美味いんだとかなんとか……まぁアタシはまだ飲めねぇんだけどよ」
 何方も『ワインはまだ飲めないけれど』と締めくくる。芳醇な馨を楽しめるという豊かな自然の恵み。味わえないのは残念ではあるが、仕事は仕事。
「海辺の風景でも眺めながらお使いをこなすとするのだわ……。
 お使い……しなきゃいけないのは分かっているのだけれど……やっぱり面倒なのだわ……眷属にやらせたい……」
 眠たいともう一度欠伸を漏らしたルルリは潮騒の音だけを聞いていた。


「まあ、そうね。アバターというのも馴染みが無いし、こちらでの動き方を知っておくのは良さそうね。
 ……とはいえ。混沌を基にしたって言っても色々違いそうなのは確かみたいね」
 海洋王国とは違った活気に溢れる航海で トリス・ラクトアイス(p3x000883)は悩ましげに小さく呟いた。常識と知識に乖離が発生することを留意して――と細かに対策からら行わねばならないだろうが。
「……今回のおつかいの事を考えるなら、まあワインを取りに行くだけなのでそこまで気にしなくても大丈夫そうだけど」
「とはいえ、バカ正直に突っ込んでいってもやられちゃうからね、だから山……ゴホン、じゃなくてスノウローズ先輩のやり方を倣ってやってみようか」
 ミドリの『うっかり』に鋭い反応を示したスノウローズは「山の美しさも霞むような可愛いスノウローズですって!?」と大声で叫んだ。
 幸いワインは4本、イレギュラーズは8人。1本を二人組で担えば良い。各自のペアに『ワインの回収』を任せることになる。
 効率よくこなしてさっさと終わらせたい桃花のペアは何処か思い空気を纏ったルチアナだ。
「――つーワケで、んじゃよろしくルッチー!」
 か弱い桃花ちゃんはワインを担当すると気軽な挨拶と共に笑顔を送れば「るっちー!?」とルチアナは驚愕したように彼女を見遣った。
(ルアナの知り合い? ……わからないけど、まぁいいわ。『私』としての初陣。成果を出してみせましょ)
 ルチアナにとって『自分の知り合いであるか』の判別も付かないのは何とも居心地が悪いが、彼女が気易いだけかもしれない。気を取り直して、どんな矛も防ぐ盾をしっかりと確かめるように握りしめた。
「私なりに精一杯あいつらを引き付けてみるから、ワインの事はよろしくね」
「オッケー!」
 こくりと頷く桃花は準備運動を行い始める。砂浜での準備運動は此れから海水浴にでも赴くかのようだ。
「んー……アイドルって感じの女の子に陽動任せるのはなんか申し訳ないけど。すぐ回収するんで、ちょっとの間お願いします!」
 申し訳なさそうに肩を竦めたAdamにトリス「任せて」と小さく頷いた。彼女が狙うはコークトリス夫婦の片割れだ。
「ふぁぁ……わたしもコークトリス夫婦の一匹でも受け持とうかしら……。
 しかし、ワインを自分の卵と間違えて暖めているなんて……狂暴だというし…っ巷でよく聞く『のーきん』というやつなのかしら……ふぁ」
 眠たげに目を擦ったルルリにミドリは「脳金、なのかなあ……」と首を傾いで頬を掻く。
「まあ、この世界でやるべきこと…それにやってみたいことはまだまだたくさんあるし、慣らすだけじゃなくこの世界での強さも身に着けないとね?
 ――それじゃあ、今日のお仕事はワイン拾い! 立ち塞がるは強いと噂のモンスターたち!! ぼくは広う係だね、ルルリくん、よろしくね」
 微笑んだミドリにルルリは「ええ」と転た寝の間でこくりと頷く。
「ま、与太話はそこまでにしといて、だ。ワイン泥棒は鳥モンスターの番にヤドカリのモンスターか。どっちもなかなか強ェらしいな。
 回収して報告さえ済ませちまえばそれ以上追ってこねぇらしいが……つーわけでユリウス、ちぃと手ェ貸せ」
「は」
 トモコの言葉にユリウスは彼女を凝視した。思わず「何だって?」と言いかけたが其れを飲み込んで凝視するだけに留まり、気を取り直す。
「ぜひともやまっ…げふん、スノウローズ君も先輩として一緒に参加してくれると嬉しいな。
 前回は回収役だったって? なら今度はモンスターと戦う役が良いんじゃないか」
「わたしは見てる係ィ、するからあ……ほら、ユリウスさん、トモコちゃんが呼んでるよ~?」
 ――やま、と言いかけたことを根に持っている。にんまりと微笑んでユリウスをぐいぐいとトモコの元へと引き摺るスノウローズは「ユリウスさんが囮?」と声を弾ませる。
「可笑しくないかな?」
「はは、なぁにアンタを囮にしようってわけじゃねぇ、逆だ逆。アタシがシーハーミットを引きつけてるうちに回収してくれや」
 安堵したユリウスは「ならば其れで往こう」と頷いた。
 コークトリス夫婦はルルリとトリスが。シーハーミットの相手はトモコとルチアナが担うこととなった。「頑張れ~!」と背後で応援しながら手を振っている桃色のらぶりぃぷりんせすを何時か一人でこのクエストの真っ只中に放り込んでやろうとユリウスは固い決意をしたのだった。

 ――まぁそれはそれ、今はただ舞台に向き合うとしよう。見ず知らずの村人にも優しいこの私。ああ素晴しい、今日も私は輝いている!


 踏み締めれば足先が沈む。その感覚さえ現実の如く。ミドリは『十全』に仲間を支えるべき支援眼で周囲を確認する。
(全部のワインが納品されないとクエストは終わらないだろうし、一番危ない人の援護に回らなくっちゃね……)
『兎に角攻撃を受けたくない人』の戦術はミドリに染みついていた。ルルリがふわりと、コークトリスの前へと躍り出る。ゴシックロリィタのドレスを揺らして、指先で鳥を誘う。
「ワインを卵と勘違いするなんておバカでかわいいのだわ……」
 嘲笑に、苛立ったように雄鶏が地を蹴った。指先をぱちりと鳴らしてステージを出現させたトリスはエレギギターを手に堂々と宣言する。

 ――いざ高らかに。アイドル活動を始めよう。

 野外ライブの設営はアクセスファンタズムで容易く。演奏で掻き鳴らしたギター、ルルリを追いかける雄鶏の後方から雌が加勢を始める。
「月日は百代の過客にして、ドサ回りもまたアイドルなり――トリス・ラクトアイス、歌います」
 最悪、ギターで殴ってやれと考えていたトリスの前を颯爽と走り抜けてゆくコークトリス達。追いかけられるルルリはその勢いから逃れるように脚を動かし続ける。
「ギターでぶん殴ってやろうかしら。それはもうデスメタルでジャンルが変わっちゃうけど!」
 癒しの音色を奏でるトリスの支えを受けながらルルリは、歌を口遊む。その音色は力と変わり、コークトリスの体をじわりじわりと痛め付ける。
「こっちよ。……あわよくば、このモンスター羽毛とかドロップしないかしら……。
 惰眠をむさぼるためにふわふわのマクラを作ってみたいのだけれど……まぁこちらはあまり期待していないのよ」
 眠たいと呟くルルリに鶏たちの意識が向いている内に。Adamとミドリは顔を見合わせ、大きく頷く。
 Adamは景色に馴染み、息を潜めて――敵の動きを確認しながら、いざ、「ハイドレンジャー出撃! GO!」
 ミドリと共に駆けてゆく。巣の中にしっかりと暖められていたワインは古い銘柄だ。雄を惹きつける事でワインから見事に視線を逸らしているルルリに安堵してAdamとミドリは砂浜を駆けた。
「このまま、ワインを納品してしまえば――!」
「……けど、うわっ、流れ弾!」
 翼をばさばさと音立てて。牽制の声を高らかに上げたコークトリスに己のステルス機能が剥がれてしまったとAdamは肩を竦める。
(勢いが凄い……)
 コークトリスの雄は子を奪われると認識し、無我夢中にルルリを追い回している。その背後で加勢する雌の勢いも鋭く、気後れしそうな程に。
 ミドリが「トリスくん!」と呼べば、トリスは小さく頷き治癒の歌声でルルリを包み込む。アイドルの声音は人々を癒すのだと彼女はそう知っているから。

「んじゃ、ルッチー! 行くゼ!」
 桃花に頷いたルチアナはロザリオをぎゅうと握りしめる。まずはシーハーミットの視線を奪わねばならない。
「――あなた達に恨みはないけれど、貴方達が持っているものに用事があるのよね」
 攻撃することに集中し、遠くから引き寄せるようにルチアナは堂々と言い放った。髪を揺らした柔らかな風――穏やかにワイン広いが終わって呉れさえすれば……。
 ヤドカリはその後ろ足に力を込めて砂浜を移動してくる。距離はある。けれど――彼女には相手が強者である事が分かった。
「相手が格上ってのもアタシには都合がいい。挑発した瞬間アタシのアクセスファンタズムがガンガン鳴り響きやがる!」
 危機を察知するトモコは直感的に強者との逢瀬を感じ取っていた。精確に痛いほどに把握できる『実力の差』。それでも勝ち気な赤茶色の瞳は愉快で堪らないと『デルさん』を担ぎ上げる。
「防無攻撃はさすがにそこそこ痛ェだろ? こそ泥に注意を向ける暇は与えねーよ、ちっとアタシと遊んでいけや!! はっはぁー! 紙一重で遊ぶぜェ!!」
 純粋なアタッカーであるトモコはルチアナよりも前へと飛び出した。ヤドカリから放たれた泡さえも知らぬ存ぜぬで飛び込んだ。腕に力を込め、ヤドカリを押し止める。
 ぱちり。音を立て目の前で弾ける泡にルチアナは痛、と小さく呟いた。攻撃方法は地味であれども、一撃一撃の設定数値が高いのだと冷静に判断し、表情を崩すこともしない。
「ふふ。結構痛いじゃないのこれ。それに……女の肌に傷をつけるなんて、許されないわね」
 スカートを大仰に揺らがせる。惹き付ける役を担ったルチアナの前で魔性を映し、疵獣の魂を輝かせるトモコはそのかんばせに3つの三日月を作り出す。
 闘争の苦痛こそが彼女にとっての美学。勝利の栄光と敗北の屈辱が戦士の魂を磨き上げる事を知っている。
(……凄いな)
 今のうちだと良好な視界を確保しながらユリウスは走り抜ける。遠く、離れたシーハーミット。ならば、と落ちたワインを取り上げる。
「さっさと回収だけすますゼ! いくゼ!」
「ああ。……あちらはまだ、大丈夫……そうだな」
 桃花は「ルッチーはまだまだやれるゼ!」とやる気十分に微笑んだ。ユリウスも屹度、そうだろうと頷く。
 砂が絡み運び辛い。ワインを護りながら依頼主の元まで駆けて行かねばならない中で、モンスターが遠距離に放つ攻撃の範囲を見極めるのは至難の技だ。
(シーハーミットは周囲に泡を吐き続ける。ならば遠回りか……)
 ユリウスが「あちらから行こうか、桃花君」とささめきごとをひとつ。声音でモンスターの興味を引かぬようにそろそろと進み続ける。
 コークトリスの側ではワインを運び終えたが、未だに大騒ぎで追いかけてくるモンスターとの接敵が続いている。
(そーいや、知ってるクエストもレベル差がハンパなかったよナ……)
 応戦できているだけでも御の字なのだと桃花は肩を竦め、一気に走り出す。
「回収カンリョー! 撤退ダー!」
「ええ、分かったわ。けれど、此の儘引受けるしかなさそうね」
 報告に走って、と声を掛けるルチアナに桃花はシーハーミットの脚を縫い付けるように『ゴリラ』の力を放った。
「ヘイ、鬼さんこちらっとナ!」
 一瞬でも注意を引ければ、ルチアナが逃れられる可能性が上がる筈。
 何とか、依頼人の元に滑り込み、クエスト報告を行えば、先程まで執拗に追いかけてきていたコークトリス夫婦は突然全てのことから興味を失ったように素に戻り、シーハーミットも素知らぬ顔で浜辺の定位置へと戻ってゆく。

「お疲れ様! ね、簡単だったでしょう? ……周回も出来ると思うけど、繰り返すと結構、事故るときもあるから気をつけてね」
 にんまりと微笑んで居たスノウローズは「わたしも時々事故っちゃうの~」と肩を竦める。
「さて……成功したら何かご褒美があるんだろうか? せっかくだし、祝い酒でも飲みたいね」
「うんうん、そうだよね! 走り回ってたら喉乾いちゃうし、後でなにか飲み物とか貰えないのかな? 例えば……さっき拾い集めてた、ヴァン・グリとか!」
 ユリウスとミドリの視線を感じて、スノウローズは「休憩で葡萄ジュースなら貰えると思うけど~?」と視線を逸らした。
「しかし……お使いでもスリルあるなぁ。さすがのリアリティだ……! それじゃあ、もう一週行ってみようか!」
「荒稼ぎだゼー!」
 Adamは葡萄ジュースを飲み干してから盃を掲げた。
 頑張ろうと拳を振り上げた桃花はその後――「事故っタ」とだけ鮮やかな航海の海に小さく言葉を溢して――

成否

成功

MVP

ルルリ(p3x001317)
闇のしらべ

状態異常

ルルリ(p3x001317)[死亡]
闇のしらべ
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)[死亡]
蛮族女帝

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 とっても素敵なワイン拾いでした。陽動、お疲れ様です!
 MVPを差し上げたいのは、最も危険な場所に居た方へ……。一番鶏に殴られていたと思います。

 それでは、またご縁がございましたら。

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