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シナリオ詳細

アドラステイアの赤

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●赤
「皆様、『アドラステイアの赤』をご存知ですこと?」
 そんな『俗物シスター』シスター・テレジア(p3n000102)の言葉に出てきた『アドラステイア』は、特異運命座標なら知る者も多かろう。
 天義――聖教国ネメシスに反旗を翻した“独立都市”。偽りの神『ファルマコン』を頂いて、人々を禍々しき“聖獣”へと変えてゆく赤色の多幸薬『イコル』をばら撒く、“選ばれし子供たち”の街。

 では……彼女の言う『アドラステイアの赤』とはその『イコル』に関わるものだったのだろうか?
 ……たぶん違うな。何だか夢見がちな表情でよだれを垂らすテレジアの様子を見るに。

 天義のみならず無辜なる混沌の各地において、ワインは愛飲される飲み物のひとつであったろう。幻想南部のヴォードリエ領、鉄帝山あいの名もなき町……有名無名を問わず優れた産地も少なくはない。
 そしてそんなワイン産地の中にアドラステイアも含まれていると、テレジアは力強く主張したのだ。
「いえ、世間的にどんな評価をされるワインなのかなんてどうでもいいのですけれど……わたくし、女子修道院時代にちょっと――ええ、あの頃は15かそこらでしたから本当は飲んではいけなかったのですけれど、ちょっとした事故で口に入ってしまいましたのよ! そしたら……まあ!
 細かいことは抜きにいたしますけれど、わたくし、あのバb……マザーが神に召されるかわたくしが口うるさく言われない年齢になったら、必ずやもう一度あの味をちゃんと味わうと心に誓いましたのよ! なのに……何ということでしょう!
 ババアは全然くたばる気配はないし、かと言って大人しく待ってさしあげていたら、国そのものが大波乱。その後、ようやく落ち着いて流通が再開するかと思いきや……アドラステイア独立ですって!? 許しませんわよ魔種ども! 無辜の少女の夢を台無しにした大罪、必ずや特異運命座標の皆様が贖わせると知りなさい……って、そう言えば元凶の冠位強欲はもう皆様が倒して下さいましたわねオホホ……。

 ……コホン。
 兎に角わたくし、あのアドラステイアの赤ワインをもう一度いただきたいんですの。全然関係ありませんけれど、本日、5月15日はわたくしの22歳の誕生日。
 皆様がアドラステイアの赤を持って帰って下さる頃にはちょっぴり遅くなってしまいますけれど……わたくし、皆様がちょっと遅れてでも暖かくわたくしの誕生日を祝ってくださることを期待しておりますわ」

GMコメント

 そんなわけで皆様には、アドラステイアのワイン蔵を急襲し、ワインを強奪……もといアドラステイアに悪用されないよう接収していただきます。報酬は……そのワインを売り捌いた売上から支払われるので、失敗しないように頑張ってください。
 ……標的がアドラステイアじゃなければ悪属性依頼だったよねこの依頼。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代に魔種支配を防げなかった天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落としつづけています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●アドラステイアのワイン蔵
 最外殻の城壁から少し離れた、衛星都市(というか農村)の中にあります。
 周囲の畑では地位の低い孤児たちやイコルにより奴隷化させられた大人たちが黙々と働いていますが、皆様に反応はしないでしょう。
 皆様の障害になるのは、彼らを監督・監視する『聖銃士』の少年少女たちと、聖銃士の使役する怪物『聖獣』たちです。彼らはブドウ畑のあちこちで労働者を監視しているほか、“薄汚れた大人たちの悪徳の象徴”たるワインが盗み出されないように、蔵の周辺を比較的厳重に警戒しています。
 多幸感を得たければイコルがあるしワインなんて捨ててしまえば……という気はするんですが、子供たちを支配している大人たち――マザー・ファザー・ティーチャーらにはきっと何らかの思惑があるんでしょう。たとえば彼ら自身が飲みたいとか。

●聖銃士と聖獣たち
 多数の同胞を『断罪』し、ファザーたちから『鎧』と武器を授かった騎士たちが『聖銃士』です。『聖“銃”士』とは言いますが実際の得物は様々で、剣だったり魔道書だったりもします。同様に『鎧』も実際にはローブだったり魔法少女コスチュームだったり。
 聖獣たちも様々な能力を持ちますが、飛行や地中移動などの脱走者をいち早く見つけて逃亡を阻止する能力を持つものが多いようです。
 聖銃士や聖獣は適性を元にこの村に配置されているでしょうから、その能力を想定し、対策を講じることが成功の鍵となるでしょう。

  • アドラステイアの赤完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)
重戦士
ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)
鉄腕アリス
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

リプレイ

●葡萄畑の片隅で
 纏わせた魔力が少年の体を貫く感覚が、『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)の拳に伝わった。
 召喚前の自分と重なる聖銃士の姿。けれども手加減をしている余裕はないし、彼らとて哀れまれたくもあるまい。それでも命ばかりは取らずに済んだのは、ひとえにそのほうがサンディの目指す“怪盗”らしいと信じたお蔭だ。
「周りはどうだ?」
 降りしきる雨の中、小声で、手短に訊いた。
「まだ気付かれた様子はありませんね」
 『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も小声で返す。どれほど遠くの物音に集中してみても、聞こえるのは、悪天候にもかかわらず一つ一つ手作業でブドウの新梢を摘んでいる労働者たちの疲れ果てた溜め息と、それが何のための作業なのかすら理解しておらぬ癖、作業の遅さを高圧的になじる監視役聖銃士たちの声ばかり。
 先ほどの少年を倒すに至るまで、はたして何度同じ手順を繰り返しただろうか? 時には特異運命座標たちは聖銃士たちのみならず、『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が葡萄たちの囁きあっていた根の下の不快感に対する不満を感じ取ったことにより、ミミズじみた不気味な怪物――聖獣と戦うことになったことだってあった。それでも、警戒と誘引と撃破のサイクルが変わらず今も続いているということは……それらが効果的な遣り方であったことを何よりも物語ってくれているのだと言えよう。
 だとすればこの代わり映えのしない作業を、いかに正確に繰り返すのかが成功の鍵に違いないのであった。
(声が聞こえるのは……あの辺りと、あの辺りと……)
 ざっと居場所を確認してから地面の幾つかの場所を指差せば、次は『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)が何やら祈りを捧げる番だ。
 瞬間、意識は星幽の世界へ。正純の視界はまるで天の星々から眺めたかのようなものに切り替わり、眼下で雨の雫に濡れる葡萄畑全てを映し出す。
(右手に2人、左手は1人ですが聖獣つきですか……近いところにいる監視役の数は、ヘイゼルさんの報告の通りですね)

 このような強盗じみた遣り口に思うところがないと言えば嘘にはなるが、正純とて目の前に広がる奴隷農場めいた光景を、そのままにしておきたいとは思わなかった。より与し易いと見た左手に速やかに向かい、天津甕星の一撃を放つ。傍らにいた巨大な脳が顕になった聖獣が、目を瞑り、何かを念じたように見える……だが無駄だ。撃つ前に、彼女は既にテレパシーを遮断する領域を展開済みだ。
「何事だ!?」
 ブレストプレートに剣を提げた聖銃士の少年は声を上げたが、ほとんど広い畑の至るところで葡萄の葉を打っている、無数の雨音の前に掻き消されていた。村に来る途中にスティアが行なっていた雨乞いの祈りが、天佑を招いたのであろうか?
「やったー! 神頼みが通ったお蔭だー!」
 だが奇跡とは、自ら動かぬ者に与えられるものならず。動き、自ら掴まんとする者にのみもたらされる特権であろう。
 不意にスティアの瞳に真剣な光が宿り、魔力が福音の音色を奏ではじめた。聖獣を撃った者らがそこにいるのか……? 聖銃士は剣を抜き、憎悪の突撃を開始する。そうすれば、聖獣も自分に従うものだと知っていたから。
 ……が。実際には聖獣は、どういうことか彼に従わなかった。聖獣が向かったのは『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)のいる方向……そして聖銃士よりも一足先に集中攻撃を受け、その巨大な脳を散り散りに砕かれる。
「今回はこんな時、どんな反応をすればいいのか判りかねるでありますね」
 エッダがそう洩らした言葉の意味を、聖銃士は理解できようはずもなかった。アドラステイアに蔓延る背徳への悲しみと憤り。この先に眠るワインへの興味と期待。相反する感情は自ずと拳に篭もり、聖獣に忠誠心を上回る警戒心を与えた末に撃破するだけでは飽き足らず、聖銃士に向かっても雪崩れ込まんとしている。
 逃げないと。
 侵入者を打倒したいという高揚が切れた後には、自分は逃げ延びて救援を呼ばなくてはという思いばかりが少年を支配していた。
 けれども……侵入者たちはそれを許してくれるかどうか? 意を決し、彼はスティアの足首に斬りつける。そうすれば、少しでも追っ手の勢いを削げるだろうと信じ――。
「――そう上手くいくと思われちゃあ敵わんね」
 不意に『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が投げつけたコルク抜きが地面に刺さり、少年の剣先を僅かに逸らした。それだけで、少年の目論見は崩れ去る。残るのは彼の覚悟の攻撃が、単に自らの離脱を遅らせたという事実だけだ。
「アンタは上の奴らに、いいように扱われてるだけさ」
 そうヤツェクは嘯いてみせ、それからさらに言葉を続けたが、その時にはもう聖銃士にその言葉は聞こえていなかった。
「子供をこんな目に遭わせる奴らにゃ、うまい酒なんてのは勿体ない限りだ」
「がっはっはっはっは! まったくだわい!」
 同意するのは『重戦士』ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)。まだ子供にすぎない聖銃士よりもさらに小さなドワーフの体から繰り出された斧は、聖銃士の鳩尾へと突き刺さっている。
 ギルバルドが斧を引き抜いたなら、聖銃士の体は地に崩れ落ちた。ドワーフはその姿を一瞥したきり、すぐにそわそわとワイン蔵のある方角へと目を遣っている。
「悪に支配された国から正義の名の下に酒を盗むとは、全く大それた考えじゃのう。しかし、実に上手い考えじゃ。お蔭でいい酒を飲めるというのなら、わしとしても異論は挟むまい」
「ならば、今のうちに先に進むのである!」
 『鉄腕アリス』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)がその巨体の腕を伸ばして、高らかに行くべき道を指した。周囲に点在する侮蔑の感情が、警戒感や使命感に変わった様子は見られない。ということは他の聖銃士らは任務を果たしながら侵入者の様子を伺っているのではなく、実際に今も特異運命座標たちの存在に気付いてはおらぬのだろう……ヒャッハー、ワイン強奪の時間である! 今日の吾輩はワルである! ――そうやって気分を高揚させていなければ、感じ取った侮蔑の感情の持ち主はどのような者たちなのかと考えてしまい、遣る瀬ない気持ちを抱えてしまいそうだから。
「ああ、行こうぜ」
 サンディも口許に笑みを浮かべてみせた。あと数人ほど倒してやれば、ワイン蔵周辺を警備する集団まで接敵できる。
 まず1人。それからもう1人。ようやく雨霞の中に佇む蔵の姿が浮かび上がってきた様子は、ますますサンディの気持ちを熱くさせてくれる。なにせ、盗むのはビールでもシードルでもなく赤ワインなのだ。それも、まだ小娘だった頃のテレジアの味覚を信じてもいいものならそれなりには高級なはず。怪盗の標的としてもそう悪くない――と、いっそう胸を高鳴らせたその時!

 咄嗟にサンディがひるがえした雨具を、一条の魔光が貫いた。

●蔵番たち
 すぐさまサンディの前に飛び出したエッダ。そのフロールリジの傑作の肉体が、第二の光を浴びて赤みを帯びる。
「大丈夫でありますか?」
「見張りが散らばっててくれたお蔭で助かった、消耗した分を回復しきれてなければ怪しかったけどな」
 訊くエッダ。軽口を叩いて返すサンディ。ワイン蔵周辺からは侵入者の存在を伝えるものとその場所を問うもの、2種類の子供たちの声が次々に上がる。
 相手は、まだこちらの正確な位置には気付いていない。だとすれば――矢継ぎ早の魔法の光は誰の仕業か? 
「蔵の屋根の上ですよ」
 ヘイゼルの鷹の目が種明かしをしてみせる。うすぼんやりと映るワイン蔵の屋根のひさしとほぼ同化するように、首から上を巨大な眼球に変えた猿のような生き物がこちらを覗っていた。無論、こちらも並ならぬ視力の持ち主なのだろう、目玉の聖獣は違わずヘイゼルのほうを凝視して……その目から、三たび輝く光を射出する!

 ヘイゼルがひらりとステップを踏めば、光条は彼女の足元の地面を一瞬だけ乾いた地に変えた。正純の指先がしなやかに滑り、天星弓から無数の矢を天へと吐き出さす。一部は目玉の聖獣に、残りは聖獣の度重なるビーム照射の結果、ようやくこちらの位置に気付いたばかりの聖銃士たちに、まるで吸い込まれるかのように突き刺さってゆく。
 だがヘイゼル自身は、攻撃を躱してみせたきり動かなかった。何故なら突然の襲撃を受けて混乱する聖銃士たちの行動なんて、解りきっているからだ。
「見回りに出てた奴らはどうしてたんだ!?」
「やられたってことだろ! まあ、俺たちはこれだけ揃ってるんだから負けるわけがねえ! ……けど、もしかしたら他でも襲撃があるかもしれないな……『リサ』をファーザーに送れ! 報告だけは早いほうがいい!」
 蔵の手前にいる聖銃士たちではなく蔵の裏手からアドラステイアに向かって飛び去らんとした大きな翼に、ヘイゼルは既に狙いを定め終えていた。
 そのことにローブの聖銃士が気付く。杖を掲げて呪文を放つ。けれども、それさえ容易く跳び超えて……指先から放てし魔力の糸にて、翼の聖獣を絡め取る!

 こちら側にいた幾人かの聖銃士らも、一瞬だけ、そちらに気を取られたように思えた。
 けれどもそれを……今度は、スティアが意識を自分に向けさせる。再び響く福音の音色。ひとつ響けば聖銃士たちは注目し、ふたつ響けばもうひとつ響いた音を掻き消してしまう……もうひとつの音?
 そうだ。エッダが正拳突きを閂に叩きつけ、厳重に封じていた扉をぶち破った音だ!
「おお、これこそまさに、ワイン蔵の匂いじゃのう」
 邪魔な扉がなくなったと判った途端、小躍りしながら棚に近付いて、瓶を片っ端から自分の鞄に詰め込むギルバルド。見咎めるべき聖銃士たちは……けれども、スティアの福音に釘付けだ!
 何故ならば、それは天義の福音だからだ。それはアドラステイアに毒された少年たちにとっては、必ずや憎まねばならない邪悪。真なる神はファルマコンひとつ。自分は誤った信仰を捨てたと身を以って証しつづけなければ、次に『疑雲の渓』に落とされるのは自分であるという思いが少年たちを突き動かしている……どれだけ彼らが憎悪に塗れようとも、誤った信仰の力によりつけられた疵なんて、スティアはすっかり何事もなかったかのように自分で癒やしてしまうのではあるが。だって、子供たちばかり危険な目に合わせるような人たちからワインを没収するまでは、倒れるわけにはいかないんだから!
 聖銃士たちの抱いている感情の中に、大きな警戒感が膨れ上がっていった様子がローガンへと流れ込んできた。いいや……この場合は警戒というよりももっと心を揺さぶる何か、たとえば『危機感』や『焦り』といった名で呼ぶほうが事実に即するだろうか?
 そればかりでなく。
(……むむ? 別の方角にも似たような感情が現れたであるな?)
 どうやら侵入経路から離れていた辺りを持ち場にしていたらしい、新たな聖銃士の感情をもまた彼は察知する。念のため、いつでもそちらに対処できる位置取りを選んで牽制の銃弾を打ち込んでみせる。まだローガンよりもふた回りは小さな少女のようには見えるが、侵入者に対する憎悪で自らを奮い立たせている姿はまさしく狂信の戦士だ。
 だが……そこまでだ。

(おれだって、こんなことせずに済むならどんだけ良かったかとは思うがよ)
 骨董品のリボルバーそのものの見た目の銃を少女に向けるヤツェクの心は、しとしとと降り続ける雨とは裏腹に乾ききっていた。
 必要とあれば引鉄にかけた指に躊躇いが要らなくなったのは、はたして何時の頃だっただろうか? 心はこんなにも悔しく思っているのに、リボルバーから撃ち出された光線は少女を翻弄し、容易く泥の中へと伏せさせる。
 あっさりと失われたささやかな増援。こうなれば足掻いていた聖銃士たちも膝をつくまで、決して長い時間などかからずに――。

●撤収と祝福
「くっはー! 皆様、ご安心いただけるであります! このワイン……まさしく本物の『アドラステイアの赤』であります!」
 エッダの我が身を呈しての“鑑定”の結果、今となっては貴重になってしまったワインがひと瓶空いた。正解じゃ、と頷くギルバルド。封を開けたワインはすぐに飲んでしまわねば変質してしまう。ワインの出来を確認するのに「一口だけ」なんてことを言うのは折角のワインを台無しにしてしまうのと同義なのだから、ギルバルドの手の中にも空き瓶が増えているのも“仕方のないこと”ではあろう。
「さて、レッツ回収じゃ!」
「大きな荷物は吾輩に任せるのである!」
 ギルバルドがそわそわと号令をかけたなら、どんと胸を叩いたローガン。まだ瓶に小分けにしていない、一抱え以上もあるワイン樽を丸ごとひとりで持ち上げて、危なげなく外に横付けされた馬車へと積み込んでゆく。……馬車? そんなのあったっけ?
「おう。裏に馬小屋と荷馬車があったから接収させて貰ったところだ」
 御者台ではヤツェクが片手を上げて、どんどん積み込めのジェスチャーをしてみせていた。無論、彼の腰にもガンベルトのように並ぶ瓶。今から帰り道の間に追っ手が来ないとも限らないのだから、その時にいつ馬車を捨ててもいいようにするためだ……ヘイゼルが幌の上で辺りの様子を覗っていることから、よほどの不運でもなければそうなる未来は訪れぬかもしれないが。

 そんな時……サンディが皆の下へと、幾人かの労働者たちを連れ帰ってきた。
「この人たちも一緒に連れてって欲しいってさ」
 聖銃士らにイコルを与えられ奴隷のように働いていた労働者たちの中にも、幾人かはまだ思考力を奪われきっていない者たちがいたようなのだ。
 荷運びを手伝うので安全なところまで連れてってくれと懇願する彼らの協力があれば、もしかしたらイコルの洗脳作用を解明し、効果を打ち消すすべが見つかるかもしれない――そんな未来が訪れることを正純は願う。その意味でも村人たちの自主的な協力は有り難い限りだ。だって本音を言ってしまうと、どうせ手遅れならひとりくらい攫って……なんてことも頭によぎったくらいなのだから。
「行こう。聖銃士たちに異変を気付かれないうちに、急いでワインを運び出そうぜ!」
 労働者たちの協力もあって馬車はさらに幾つか並び、それらがサンディの呼びかけを合図に降りしきる雨の中を進み始める。あとはあのシスターにワインと労働者たちを引き渡すだけだが……。

●アドラステイアの赤
「というわけでシスター、おめでとさん」
「まあ皆様! こんなに根こそぎ手に入れて下さるだなんて、まるで夢のようですわ!?」
 ヤツェクからワイン瓶を受け取った『俗物シスター』シスター・テレジア(p3n000102)はしばらくうっとりした表情で瓶に頬をこすりつけていたものの、すぐに思い出したかのように、ささ、皆様も一杯、と勧めはじめた。
「ほう、気が利くではないか」
 どっかりと椅子に座り込むギルバルド。お目当てのものがたんまりあることに機嫌をよくし、甲斐甲斐しく料理やらつまみやらを用意してくれるテレジアは……もしかしたら昔は案外素直な子供だったのか? なんてことをサンディは考えてみる。
 いくらテレジアが強欲といえども、功労者には報酬を出すほうが利益になると解っているのであろう。スティアが叔母様へのお土産にしたいと申し出たならば是非とも持っていってほしいと追加の取り分を許すし(とはいえあの叔母が出元と入手の経緯を知ったらどんな反応をするものか)、そればかりか「ヘイゼル様も少し遅い誕生日の祝福はいかが?」なんて気前よく自らワインを注いでくれもする。
「おや、テレジアさんは私と半月差で同齢なのですね……。酒! 飲まずにはいられないのですッ>< 乾杯ッ!」

 村の劣悪な労働環境のせいか、それとも単に思い出補正が強すぎただけか。テレジアは記憶の中の味ほどではないとは語ったが、それでも芳醇さや重厚な味わいは、良い酒の条件を十分に満たすとエッダは評価する。
 何が邪悪か。自分が汗水垂らして持ってきた酒を金稼ぎに使おうなんて目論む小癪なテレジアの方が、良いものに邪悪のレッテルを張った上で自分だけ楽しむような輩と比べればまだ可愛げがあるものだ……エッダはそう思ったところだったのだが。
「いいことを思いつきましたわ? この空き瓶に井戸水でも入れて売り出せば、廃品利用ができますことよ!」
「テレジアさん……お誕生日はおめでたいですけれど、飲みすぎはダメですよ? ね?」
 酔って本性を露わにしたテレジアが正純に叱られていた。
「助けて下さいましローガン様!」
「はっはっは! テレジア殿は元気があって良いのである! こうして健康的にこの世に生を受けたことを祝えるのは、とても素敵な話であるな!」
 ローガンが悪気なく祝いの言葉を向けたことにより、テレジアは味方ができたと勘違いしてますます調子に乗ってゆく。
 ああ、これは逃げるに限るであります。
 一足先に宴会場を後にしたエッダ。そのスカートの裏には……アドラステイアの赤の瓶がこっそりと吊るされていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 まあ、7人もいればテレジアが何しでかしてもすぐに取り押さえられるんで、その後大事には至らなかったんですけどね。
 なお皆様がワインを凄まじい勢いで強奪してきたので売上は結構あったはずですが、救出した労働者たちの亡命手配にもいろいろと費やすことになったらしく(※テレジア談)、酒宴の場での現物支給以外の追加報酬はなかったとか……まあがめついテレジアのことだから、どうせ最初から追加報酬なんて出すつもりなかったんでしょうけれど。

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