PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>動き出す闇

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ショーの始まり
「さあさ皆さんご覧あれ!」
「ナイフ投げのショーを始めるよ!」
 屋根の上から響いたそれに、人々は何事かと空を仰いだ。
 同時に何人かが呻き声を上げて倒れる。
 倒れた者の額に刺さるのは投擲用ナイフ。

「……っ、わあああああああああああああ!!!」

 それを見た誰かが悲鳴をあげた。
 その声を切っ掛けに、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。
「えへへ、的が逃げちゃった。追いかけっこだ」
「そうだねぇ。ね、ハンス。どっちが沢山的に当てられるか競争しようよぉ」
 屋根の上からそれを見た少年はニタ、と笑みを浮かべ、瓜二つの顔をした少女が楽し気に提案する。
「いいよ、ルス。負けないからね」
「私だって負けないよぉ?」
 2人は顔を見合わせながら手の中に新たなナイフを出現させた。
 気づけば2人の周りには、ふわふわとナイフが浮いていて。
「さあ、遊ぼうか!!」
 足元をよぎったナイフを足場にして、2人は屋根から屋根へと飛び移った。

●追いかけっこに終止符を
 一旦は行方をくらました幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』。
 彼らは王都を脱出したものの、各地に張られた検問と封鎖によって幻想(レガオ・イルシオン)から逃れることができずにいた。
「またサーカスが混乱を振り撒いているわ。。けれど、外へ逃がすわけにはいかないの」
 胸の前でグッと拳を握る『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)。
「あなた達にお願いするのはハンスとルスというサーカス団員の抹殺よ。彼らはナイフ投げの演目を担っていたわ」
 ハンスとルスは突然町の広場に現れ、屋根の上から人々を的にしたそうだ。
 そして今も逃げ出した人々を追いかけている。
 加えて、連れてきたらしき獣も人々を襲っているのだと言う。
「狂気の影響を受けた人も何人か暴れているようだけれど、危険度してはチャイニーズ・レッド。まだ正気に戻せるわ。可能な限り住民への被害は減らして頂戴ね」
 ノーブル・レバレッジ作戦の成功、そして『絆の手紙作戦』。これらによって国民には狂気の耐性が付き始めていた。おかげで多少の影響力であれば正気に戻すこともできる。
 いずれにせよ、被害軽減のためには早い段階で正気に戻す必要があるだろうが。
 ハンスとルス、獣の抹殺。加えて住民達の被害軽減が依頼内容よ、とプルーは要約する。
「もしかしたらこの混乱に乗じて、砂蠍の残党も動くかもしれないわ。けれどあなた達はサーカス団員の対処をお願いね」
 盗賊の怪しい動きがある、という情報も入ってきている。だがそちらは他のイレギュラーズに頼んだのだそうだ。
「何事もなければ、あちらもサーカス団員を食い止めるために動いてくれるわ」
 プルーがそう告げるものの、嫌な予感は頭から離れてくれないものである。

●予想通り
 混乱に包まれた街を進む。
 その中であなた達は見覚えのある顔がいくつか別の方向へ向かうのを目撃した。
(ああ、やはりか)
 心の中でそんな呟きが漏れたことだろう。
 プルーとの話に上っていた、盗賊の動きがあったに違いない。
 それでも進むほかはない。自分達のやる事はこの先にあるのだから。
 そうして進んだ先──町中央にある広場に、あなた達はたどり着いたのだった。

GMコメント

●成功条件
 ナイフ投げのハンスとルス、及び放たれた獣の抹殺

●失敗条件
 ハンス、もしくはルスの逃亡

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 本来であれば2チームでの合同依頼となる予定でした。しかし盗賊たちの動きがあったため、もう片方のチームは盗賊の対処に向かいました。
 あなた達は中央の広場まで辿り着き、そこから作戦を開始します。

●地形
 碁盤のように路地が縦横で交差する町です。
 路地は広い場所で馬車がすれ違える幅、狭い場所で人間種(カオスシード)がすれ違える幅です。
 町の入り口(南側)と中心には広場があり、ここでは特に障害物を挟むことなく戦闘を行う事が出来ます。

●敵
○ハンス
 ナイフ投げの少年。ルスは双子の姉。飛行種(スカイウェザー)です。
 小柄ですばしっこく、魔術の心得があります。町の東側へ向かいました。
 ナイフは攻撃、防御の他、軽い足場にすることが可能です。ナイフに乗って空中移動などはしません。

・ナイフ生成
 魔術でナイフの生成をします。本物と寸分違わぬものとなりますが、範囲としてはレンジ3まで、数は最大で8つまでしか出せません。
 任意で消失、再生成可能です。
・威力促進
 投擲の際、そのスピードと威力を促進させます。
・銀の檻
 ナイフを用いて対象を壁や地面に縫い止めます。【呪縛】【崩れ】付与。

○ルス
 ナイフ投げの少女。ハンスは双子の弟。飛行種(スカイウェザー)です。
 小柄で正確な投擲です。魔術の心得があります。町の西側へ向かいました。
 ナイフは攻撃、防御の他、軽い足場にすることが可能です。ナイフに乗って空中移動などはしません。

・ナイフ生成
 魔術でナイフの生成をします。本物と寸分違わぬものとなりますが、範囲としてはレンジ3まで、数は最大で8つまでしか出せません。
 任意で消失、再生成可能です。
・威力促進
 投擲の際、そのスピードと威力を促進させます。
・捕らえる瞳
 ダメージなし。自らの命中力を上げ、逆に対象の回避を下げます。加えて【体勢不利】付与。

○獣
 全部で5体です。
 総じてハンスとルスの命令を聞き、人々を襲う為に町中を駆けています。

・虎×1体
 黄色くて縞模様のある虎です。
 回避に富んでおり、牙で攻撃をしてきます。
 牙は大変鋭く、【失血】付与の攻撃です。

・狼×2体
 黒い毛並みの狼です。
 素早い動きで機動力、回避力が高いです。牙や爪で攻撃してきます。

・熊×2体
 大きな体を持つ熊です。
 そこまで素早くはありませんが、爪などの攻撃は脅威となります。また、打たれ強いです。

○狂気に影響された住民達×??
 狂気に影響された住民です。老若男女問いません。
 持っていた武器を振りかざし、正常な人間を襲っています。
 今回はサーカスの団員が現れたことで一時的に影響を受けている状態です。可能な限り生かして無力化が求められます。
 ただの人間であるため、不殺スキルでなければ死ぬでしょう。ただし数がいるので舐めてかかるとイレギュラーズでも厳しい状況に立たされます。
 

●注意事項
 当シナリオは全体依頼『Liar Break』に属します。
 同時参加は不可能となっておりますのでご注意ください。

 また、別シナリオ『<Liar Break>闇に潜む影』と部分的に絡んでいますが、時系列をずらしますのでリプレイ上では全く関係しません。同じ場所で戦闘を繰り広げる事も可能です。
 別シナリオからの妨害はありませんが連携等もできませんのでご注意ください。

●ご挨拶
 愁と申します。
 住民の悲鳴などを辿れば敵のいずれかに辿り着くでしょう。
 ハンスとルスは片方が殺されたことを知れば撤退を始めます。サーカスの悪あがき、ここで食い止めてください。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <Liar Break>動き出す闇完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月27日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
カザン・ストーオーディン(p3p001156)
路傍の鉄
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
リリー・プリムローズ(p3p001773)
筋肉信仰者
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)
不死鳥の娘
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者

リプレイ

●助けの声
 『筋肉信仰者』リリー・プリムローズ(p3p001773)の使役する鳥が2羽、混乱の広がる町の上空へ飛んでいく。
 その鳥達と共に『不死鳥の娘』アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)は炎の翼で空へ舞い上がり、敵がいると思われるおおよその位置を確認した。
「やれやれ、悪い予感程よく当たるって本当ね。ま、無茶ぶりは慣れっこだけれど!」
 その言葉が指すのは、先ほど別動隊が向かっていった盗賊の件だろう。
 人数が減ってしまったことで厳しい戦いになるだろうが、この騒ぎに乗じた悪事を見逃すこともできない。
 しかし、その言葉に追いついてきた『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)──QZが心配げな表情を浮かべる。
「アリソンちゃん、」
「だいじょーぶだって! 言ったでしょ? 無茶ぶりは慣れっこだ、って。QZも無茶しすぎないでね!」
 アリソンはQZへウインクをしてみせると、地上で見上げていた『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)へ敵の方向を指差した。スペルヴィアが頷くとアリソンも「じゃあまた後で!」と住民達の悲鳴が上がる方へ飛んでいく。
 その背中を見て、QZは目を細めた。
(私は……人を守りたい)
 アリソン達のような知る者も。町の住民のような知らない者も。
 その思いは戦いや殺しを嫌うそれより、ずっと強い。
 だから──。
「……よし! ルーミニスちゃん、行こう!」
 『白銀の大狼』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)がその言葉に頷き、QZが目指し始めたのと同じ方向へ走り始める。
「さて、俺達もすべきことをするか」
 双子がいるでろう方へ向かっていく4人を見て、『断絶の死神』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が残りの面々を振り返った。クロバの言葉に「ええ」と『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)が頷く。
「この場の凶行だけでもさっさと止めましょうか」
 『路傍の鉄』カザン・ストーオーディン(p3p001156)と『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)の感じる『助けの声』と耳に届く悲鳴。それらを元に大きな通りへ出ると、住民が右から左へと必死に逃げている所だった。
 横殴りに向かってきた爪をクロバが2振りの刀で受け止める。
 『信風の』ラデリ・マグノリア(p3p001706)は敵の姿を視認して苦々しく呟いた。
「……熊か」
 聞き及んでいた獣達の優先順位としては低いが、ここで見逃すわけにもいくまい。
(ここで1つ、終わらせる……狂気の声ごと潰してやる)
 本性を現したサーカスを滅ぼす。その思いが、殺意が武器となる。
 ラデリの全身から黒い霧が立ち上り、逃げる住民を追いかける熊を捕らえた。
 苦し気にもがく熊は霧に囚われ、住民を追いかけようとしても叶わない。
 熊が動きを止めた隙に佐那はその懐へ踏み込み、その刀で深く切り裂いた。霧に苛まれる熊はその攻撃をもろに浴び、怒りをはらんだ鳴き声を上げる。
 そこへ続こうとしたカザンは、脇から飛び出てきた影に思わず振り向く。
 煌めいた銀の光を咄嗟に腕で受け止めると、笑みを浮かべる狂気の瞳と視線があった。
「狂気に影響されたのか……」
 その武骨な腕で振り払い、距離を取ると代わりに一悟が前へ出る。
「しっかりしろよ! 魔種の叫び声なんかに負けてんじゃねぇ!」
 風を切るように突き出されたその拳は容赦なく。
 再び立ち向かってこようとしていた男は地面に沈んだ。
「こっちは任せろ!」
「我もこの鍛え抜かれた筋肉でもって戦おう! 何、大した筋肉(戦闘力)のない相手に負かされることはない!」
 一悟とリリーの言葉にカザンは頷き、熊の足元へ拳を打ち込んだ!
 ようやく霧の晴れた熊はその攻撃によってぐらり、と体勢を崩す。
 カザンの脇を黒い姿がすり抜け、その軌跡を赤いマフラーが追いかけた。
「厄介なものだが、別に殺せないって事はない!!!!」
 クロバの2連撃が熊の腹に十字の傷を刻む。
 直後振り上げられた大振りな爪の攻撃は誰かへ掠める事もなく。
 的確に急所を攻撃した一同は倒れ伏した熊を横目に、次の敵影を捜しに駆けて行った。

●おいかけっこ
「目標以外と遭遇はしたくないけど」
『こちらの都合に合わせてくれるわけでもないだろう』
 スペルヴィアはサングィスと言葉を交わし、身を潜めていた路地をそっと後にする。
 大して離れない場所で鳴らす短い笛の音は獣発見の合図だ。
 あとは獣がこちらに来ないことと、仲間が向かってきてくれることを祈るしかない。
「いたわ!」
 空からアリソンの声が降ってくる。彼女の指差す方向へ向かっていくと、スペルヴィアは広場へ飛び出した。
 溢れかえる赤。今にも殺されそうな住民の前へアリソンが降り立ち、向かってきたナイフを炎で受け止める。
「私達が来たからもう大丈夫、あっちが安全だから逃げるのよ!」
 アリソンとスペルヴィアの登場に目を瞬かせた少年。けれど、その表情はすぐ笑みへと変わった。
「あーあ、的が逃げちゃった。ねぇ、僕の為に死んでくれる?」
「まっぴらごめんだわ。貴方、ハンス?」
 空から降りてきたアリソンが少年を睨みつける。
「わ、僕のこと知ってるの? ああ、おねえさんたちもしかしてイレギュラーズ?」
 そっかぁ、と1人納得した様子のハンス。その隣の空間から突如としてナイフがアリソンへ飛ぶ。
 その不意打ちはアリソンの肩を赤く濡らし、その表情を歪めさせた。
「邪魔しにきたんでしょ? やだなぁ。今、ルスと的当てゲームしてるんだ」
 アリソンへ刺さったナイフを消し、手元へ新たに出現させて弄ぶハンス。その表情もまた歪む。
「っ……なに。おねえさん、そういう能力もってんの?」
 ハンス自身の肩もまた赤く染まる。アリソンは勝気に笑った。
「やられっぱなしじゃないわ、火傷に気をつけなさい!」
 アリソン自身の炎が尾を引いてハンスへ迫る。その攻撃を受けて血を流しながらも、ハンスはアリソンへ再びナイフを放った。
 その煌めきはその身を包む炎によって防がれ、スペルヴィアの遠術がハンスを追撃する。
 勿論ハンスの攻撃が当たっていないわけではないが、持久戦の準備を万端にしてきた2人の方が優勢だ。
「もーっ、ルスが居れば楽なのに!」
 頬を膨らませたハンス。周りに出現したナイフが飛び、スペルヴィアを民家の壁へ縫い止めた!
「スペルヴィア!」
「問題ないわ。少々抉れようが……」
 ナイフの呪縛に抗うように、スペルヴィアが体を前へと進める。
『動けないよりはましだな』
 サングィスの言葉と共にその身は自由を取り戻した。
 その様子にはハンスも目を丸くした。その耳にほら貝の音が2度、長く伸びる。
「それで仲間を呼ぶの?」
 逃げちゃおうかな、と呟くハンスはくるりと踵を返した。
「させないわ」
 スペルヴィアの放った術式がハンスへ当たるが、その足は止まらない。ナイフを足場にして屋根へと上っていく。
「おねえさんたち、おいかけっこしようよ! 僕を捕まえてみて!」
「待ちなさい!」
 アリソンは炎の翼で屋根の高さまで飛び、その背中へマギシュートを放った。それはハンスの足を鈍らせたように見えたが──。
「いったぁ……おいかっけこだってば、おねえさん!」
 子供らしく拗ねた表情を浮かべたハンス。その姿は屋根から消える。次いでその下から住民の悲鳴。
 その元へ辿りついたスペルヴィアはナイフを振り上げてくる住民を咄嗟に回避する。
「コロ、ころす、殺したい!!」
 その狂気的な様子にスペルヴィアは目を眇めた。
「無力化は殺すことになるから最後の手段ね」
『追われるなりした場合はやむなしだがな』
「……今の状況かしら」
 呟いたスペルヴィアの隣でアリソンが威嚇術を放ち、気絶させる。
 路地の先を見れば、ハンスの背中は既に遠い。
「死にたくないなら、家の中に避難していなさい」
 スペルヴィアは道の隅で震える子供へそう声をかけ、アリソンと共にハンスを追いかけ始めた。

●手分けして
「東は筋肉(虎)と筋肉(狼)と筋肉(熊)、西は筋肉(狼)だけだ」
「……東に3体、西に1体だね」
 リリーの言葉にカザンが頷いた。佐那が少し考えた素振りの後に口を開く。
「手分けをした方がいいかしら」
「ああ。獣の討伐だけではなく、住民の救援も必要だろう」
 クロバがそう返し、6人は2手に分かれて町を駆け始める。
 西側へ向かったカザン、一悟、クロバは助けの声を元にして路地を進んでいく。その合間に見かけるのは狂気に侵されてしまった住民達だ。
「たのしい、愉しいこと!!」
 子供へ包丁を振りかざす女へ、手加減の加わった一悟の拳が入る。
 壁へ打ち付けられた女が気を失ったのを見て、一悟はぐっと唇を噛みしめた。
(わりぃ……痛むだろうが我慢してくれ)
 殺さないように、傷を残さないように。極力手加減はするが、痛いものは痛いだろう。
 これ以上狂気に人々が侵される前に決着がつけばいいのだが。
「邪魔だ、道を開けろ!!」
 クロバが乗っていたバイク『BWG・2300”月光”』を横向きに止め、正面から向かってきた住民を蹴り飛ばす。
 2人の背後を守るのは囲い込まれることを警戒するカザンだ。
 追いかけてくる様な住民がいないことを確認すると先程気絶した女に屈み、その手からそっと包丁を外す。
「申し訳ないけれど……寝て起きたら、悪い夢は終わりだ」
「──いたぞ!!」
 先頭を走っていたクロバの声がカザンの耳に届く。
 カザンは立ち上がり、クロバと一悟──そして狼の元へと駆けて行った。
 一方、リリーのファミリアーによる位置把握とラデリによる植物との会話で得た情報で佐那達は的確に獣と交戦していた。
「これで最後かしら」
「ああ。我の使役する筋肉(鳥)達では、あと感知できるのは双子のみだ!」
 佐那の問いにリリーが頷く。
 ラデリは目の前の虎へ向かって黒い霧を向かわせようとして──周囲に躍り出た住民に慌ててひっこめた。代わりにと鳴らされた音は魔力を帯び、虎へと飛来する。
 躱そうとした足にそれは当たり、虎は素早い動きでラデリとの間合いを詰めるとその牙で噛みついた!
「ラデリさん!」
 ラデリへのしかかった虎を追い払うように、佐那の刀が横へ薙ぐ。ひらりとそれを回避した虎は邪魔だとでも言いたげに佐那へ唸り声を上げた。
「大丈夫?」
「ああ」
 短く返答を躱したラデリは自らに回復の魔術をかける。だが、血が失われていくのと共に体温も下がっていくようだ。
「此度も狂気の筋肉化(無力化)は任せるがよい」
 リリーは次々と湧き出してきた住民達へ拳での衝術を喰らわせる。
 佐那は眼前の敵に刀を構えながら、嫣然と微笑んだ。
 この依頼で、双子を覗けばおそらく1番の強敵。期待に気分が高揚する。
「折角だもの……少しは楽しませてくださいな?」
 佐那と虎はほぼ同時に地を蹴った。

●あそびましょう
「おいかけっこ、おーしまい♪」
 壁に辿り着いてしまった男は、恐怖の面持ちで振り返った。
 離れた屋根の上に立っているのは1人の少女。住民を既に何人も屠った少女だ。
 その少女が嗤いながらナイフを構える。男は自らの最期を悟り、ぎゅっと目を瞑った──。
「──遊ぶなら、アタシ達が遊んであげるわ!」
 ガキン、という金属質な音。男が目を開くと白銀の長髪が揺れる。
「イレギュラーズがきたわ! 此処はアタシ達がくいとめるから、近くにいるなら今のうちに逃げなさい!」
 ルーミニスの声が広場に、そして近くの路地までも響いた。
「ありゃ? イレギュラーズかぁ」
「これ以上、殺させるわけにはいかない」
 首を傾げるルスの前へ立ちはだかったQZ。その姿はゆっくりと地面へ降りていく。
(子供でも……容赦はしない)
「──さっさと終わらせようか」
 その言葉は、戦闘開始の合図だ。短いほら貝の音が2度鳴らされる。
「おねーさんたち、ルスと遊んでくれるの?」
 2人の顔を順に見たルスははっとQZを見つめた。
 QZの存在を大きく感じる。それはまるで、見下ろされているかのように。
 あんな低い所にいるのに? 何故こんなに引き付けられるの? どうして──。
 そんな疑問をルスは放棄した。
「きーめた! おねーさんが先だよぉっ」
 少女の瞳が妖しく光る。その絡みつくような視線をQZは回避し、刺突槍を防御の体勢で構えた。
 ナイフを片手に向かってきたルスを躱し、足払いをかけるQZ。受け身を取ったルスは楽し気に笑った。
「きゃははっ」
「余所見は怪我の元よッ!」
 勢いよく振り下ろされた巨大剣にルスの背中から血が流れる。顔を顰めたルスはきっとルーミニスを睨みつけた。
「……っ!?」
 何かが絡みつくような感覚にルーミニスが目を瞠る。
「私、あっちのおねーさんと先に遊ぶのぉ」
 口を尖らせたルスは再びQZへ向かっていく。
(東側は……見えないかな)
 ちらと路地の先を見遣ったQZは向こうの状況が見えないことを確認し、視線をルスへ戻した。
 飛んできたナイフを槍で弾き飛ばすと、QZはルスへ肉薄する。槍の穂先で勢いよく突くと、ルスの脇腹に浅く赤い筋を作った。
 若葉のようなQZの瞳とルスの瞳が合い──膝が重くなる。
 ナイフが襲い掛かり、QZは眉を寄せた。注意がQZに向いている間にルーミニスが攻撃を仕掛けて、その注意はやがて──ルーミニスへ。
「おねーさんも遊びたくてしかたないのぉ?」
 ルーミニスの攻撃を避け、ルスが笑う。
 金属と金属の打ち合う音、大剣が地面へめり込む音が辺りへ響く。
 飛来したナイフを受けて膝をついたルーミニスにQZが振り返った。
「ルーミニスちゃん!」
 膝をついたルーミニスの前へQZが立ち、尚向かってきていたナイフから守る。
「ありがと、QZ」
「どういたしまし……っ」
 脇の路地から住民が飛び出してくる。その手が握る短剣に、油断しかけたQZははっと息を呑んだ。
 その刃は立ち上がったばかりのルーミニスへ向かって──。
「させねぇ!!」
 路地から飛び出してきた一悟が住民の横っ面に殴り掛かった。
「悪い、遅くなった」
 駆けてきたクロバが2人の前へ立ち、ルスへそれぞれの手に持った刀を向ける。
「おにーさんも私と遊ぶのぉ?」
 きゃは、と笑うルスは周囲に複数のナイフを出現させる。飛んできたそれが腕を掠めたのをそのままに、クロバはルスへ切りかかった。
 周囲のナイフをはじいたクロバの影から共にやってきたカザンの拳がルスを打つ。
 体勢を崩したルスは、ルーミニスの蹴りによって壁へ叩きつけられた。
 ルーミニスは近づき、力なく壁へ寄りかかるルスの前へ立つ。ルスの瞼がゆっくり持ち上がり、ルーミニスの瞳を見返した。
「聞きたいことがあるわ。こういうのをやめて……真っ当に生きようと思ったことはないの?」
 それは、自らに重ねて見てしまうからこその問い。
(そういう生き方しか知らなくても、確率が0じゃないなら助けたい)
 しかし、少女の答えは。
「……あっはははははは!! ねぇ、真っ当ってつまらないことでしょぉ? 楽しくないなんてお断り!!」
 高らかに笑ったルス。その様子を見てルーミニスは静かに目を閉じる。
(……悪い癖ね。アタシはアイツじゃない)
 ルーミニスは巨大剣を握り、その命を取ろうと振り下ろす。──だが。
「──クロバ!?」
「お前の英雄譚に子ども殺しなんて、加えたくはないだろう。だが……」
 ルーミニスとルスの間に漆黒の刀が割り込み、その巨大剣を押し留める。同時にルーミニスの頭上へ出現したナイフをQZが槍で弾き飛ばした。
 クロバは視線をルーミニスからルスへと移した。
「……恨むなら恨め。これが、死神の在り方だ」
 その刀を反転させ、一思いに切り捨てる。
 地面に血の跡が一筋残った。

●殺意の行方
「ふふっ、心地いい殺意ね。私も一緒に遊ばせてもらえるかしら?」
 屋根から撃ち落とされ、イレギュラーズと撃ち合っていたハンスがはっと身をよじる。しかしそれより早く繰り出された一撃に、ハンスの腕から朱が散った。
 佐那と共に向かってきたラデリがスペルヴィアとアリソンの傷を順に癒していく。
「ちぇっ、増えちゃった。僕もルスのとこに──」
「行かせるわけないでしょう」
 立ちふさがる佐那を睨みつけ、ハンスはくるりと踵を返した。
 ナイフがラデリへ向かって飛ばされる。急所を庇ったラデリは、その瞳に明確な殺意を宿した。
(狂気の声など聞こえない、聞こえてなるものか)
 自分は父親のようにならない。そんな声、全て潰してやる。
「──あぁ、全て、食い千切ってやる」
 ナイフと入れ違いに飛ばされた攻撃は、その殺意を形にしたかのようにハンスを射抜く。
 受けた箇所を押さえたハンスは、そこから回る何かに顔を顰めた。
「いたい……いたい、いたいいたいいたい!! みんな、みんな殺してやる!!」
 適当な方向へ飛ばされたナイフがアリソンの頬を掠める。けれど、彼女の恐るべき持久力はそれをものともしない。
 飛び交うナイフはやがて──。
「汝らの舞台、我が直々に幕切れにしてくれるわ!」
「なっ……!?」
 死角から放たれたリリーの力に術者が呑まれ、全て融けるように消えていった。

 双子は死んだ。獣も討伐した。住民も、被害は比較的少ない方だろう。
 しかし様々な思いに包まれて、イレギュラーズ達は町を後にした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。無事双子と獣達を殺すことができました。
 様々な思いを抱いての戦いでした。
 またご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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