PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>占領された村

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以来、混乱の続いたレガド・イルシオンだったが転機が訪れた。
 民衆の暴発『幻想蜂起』事件を解決する事で貴族へ恩を売ったローレットが動き、彼等と民衆を説得する事で味方につけ、サーカスの絶対的庇護者であった国王フォルデルマン三世を動かすに至ったのだ。
 かくて『ノーブル・レバレッジ』と呼ばれた一大作戦は大成功をおさめ、フォルデルマンはサーカスへの公演許可を取り消した。サーカスを気に入っていた彼が行ったのはそこまでだが、事実上ローレットの味方の立ち位置を取る貴族達の思惑を考えれば、彼等に討伐指令が出るのは時間の問題だった。
 サーカスはそれを察知し、王都を脱出した。
 しかし、一連の事件を不倶戴天の天敵・魔種の仕業と位置付けるローレットはこれを逃がす心算は無い。俄かに物分かりのいい所を見せる門閥貴族達と共同戦線を張り、検問と封鎖で彼等を国内へと釘付ける。
 狭まる包囲網に焦るサーカスと、団長ジャコビニ。
 座せばやがて死ぬこの状況に彼等が最終的に選んだのは決死の覚悟を持った反撃だった。
 イレギュラーズは人々の平穏をかき乱したサーカスの悪あがきを食い止め、今度こそ彼等と決着をつけるのだ。
 この最高の機会を逃してはならない。決して!


 滅びの美学ではないが。
 彼らは追い詰められていた。
 乾坤一擲、あるいはヤケッパチ。窮鼠猫を噛んだところで所詮は鼠、大局に逆らえるなんてことはない。それでもせいぜい盛大に、ブチかましてやる最後っ屁。
「さあさ、『シルク・ド・マントゥール』追加公演、今宵ここでも盛大に! どなた様も御覧じろ!」
 『毒ナイフ使い』リップ・ヴァーンの号令一下、幻想の片隅にある宿場村『ビンス』はサーカスに占拠されたのである。

「ヒャッハーーーハハハハハ! 開きなおったオレラ強いぜ最強だー!!! 殺しに殺して殺しまくって、最後はみんな殺される!!! むべなるかな、むべなるかな! この世はおしなべてこともなし!!! ハッハー!」
 村長一家の屍を前に。水をえた魚とばかりにはしゃぐ『糞うざ道化師』ピエロのマシュー。
 無残に横たわるのは村長、その妻、そしてその子供ら二人。皆リップのナイフで事切れている。ナイフに塗られた毒の影響か、彼らは目を見開き、一様に苦悶の表情を浮かべていた。
「でもでも、終わっちゃったね、終わりだね! オレラが手を出すなんて、ありえないったらありえなーい!」
 糞うざいがマシューの揶揄は、実に的を射ている(それだけに腹ただしいのだが……)。
 あくまで搦め手で動き『幻想蜂起』を裏で牛耳っていたサーカス一団。だがここにきての、なりふり構わない行動。それはサーカスが窮地に追いやられてることの証左に他ならない。
「チッ……五月蠅いね」
 舌打ちするリップ。彼女は覚悟を決めていた。おそらく自分は生きて幻想から脱出することは出来ないだろう。
 しかし、それで救われる仲間がいるなら、少しでも派手に散ってやるだけさ。
「ここが死に場所か……」
 リップは『ライオン使い』ゴーグに向き直り指示をだす。
「村人を一箇所に集めて人質に。抵抗するなら、何人かライオンの餌にしちまいな」


「話は聞いてるかい? 今現在、逃亡中のサーカスの連中が各地でバラバラに事件を起こしてるんだけどね」
 情報屋『黒猫の』ショウ(p3n000005)が集まったイレギュラーズ達を前に口を開く。
「連中のうちの一派、『毒ナイフ使い』リップ・ヴァーンとその一味が街道沿いの村を丸々占領しちゃったのさ」
 結構な事件じゃないか、と応じるイレギュラーズ達を尻目にショウは言葉を続ける。
「村長一家を惨殺したリップは村人を人質のタテにして、その先の検問――封鎖してある街道の解放を要求してきたのさ。もっとも、彼らも要求が通るとは思ってないだろうね。衛兵が村に来たら儲けもの、あわよくば戦闘の隙をついて脱出を図る目論見なんだろう。
 だけどもレオンの旦那が『何が何でも封鎖を維持しろ』と伝えているから衛兵が動くことはないだろうさ。わかるかい? つまり衛兵の代わりにリップ一味を討伐するのが今回の依頼さ」
 ここでショウはいったん口をつぐむとイレギュラーズ達をゆっくり見回した。
「少しばかり問題があってね。サーカスの狂気に影響を受けた村人が少なからずいるらしい。彼らに見つかったら、戦闘になるかもしれないね。勿論今までのイレギュラーズの活躍で、幻想住人――つまり村人にも多少の狂気耐性はついているし、今ならまだ正気に戻ってこられるだろう。今後の為にも、なるべく無用な戦闘は避けたほうがいいかもしれないね」
 最後に少しだけ声に力をこめる。
「事態は急を要している。人質の安否は君たち次第さ」

GMコメント

 こんにちは。茜空秋人です。
 以下、シナリオ補足情報です。ご活用ください。

●情報確度
 Aです。想定外の事態は起きません。

●依頼成功条件
 『毒ナイフ使い』リップ・ヴァーンとその一味討伐。
 人質が無事だと望ましい。

●ビンス村
 国境に通じるルートの1つにあるため、小さいながらもそれなりに宿場村として栄えています。
 宿屋、食堂等もあるが、村人の大半は農民です。

●状況
・女子供を中心に20人程が教会に集められ、人質として捕えられています。
・残りの正常な村人は、人質をとられた為に身動きできずにいる。
・狂気に囚われた村人は一見普段通りの生活を送っているが、サーカスの支配下にある。彼らとの戦闘を避けるには、戦闘時間帯を選ぶ、囮役が彼らを他所に誘導する等なんらかの作戦を立てる必要があります。

●教会
・村唯一の教会です。平屋で入口は一つだけ。
・リップ一味は二台の馬車を教会前に停め、そこを拠点にしている。
・戦闘中、追詰められた賊が入口を開け、教会の中にライオンを放つ可能性もあります。

●リップ・ヴァーン一味
・『毒ナイフ使い』リップ・ヴァーン
 毒を塗ったナイフ使い。決死の覚悟を決め、かなり手強い。全ての攻撃にBS【毒】。
 ナイフ捌き(物至単)
 ナイフ投げ(物中単)
 スーサイドアタック(物至単)
・『糞うざ道化師』ピエロのマシュー
 ジャグリング用クラブを装備。
 糞ウザイ笑い声(神中単)【狂気】
 SPD(神中単)HP回復
・『ライオン使い』ゴーグ
 無口。ライオンが友達。鞭を装備。
 鞭捌き(物至単)
・ライオン。三匹います。ゴーグの言うことにしか従いません。ゴーグが倒されると仇とばかりに【怒り】に囚われます。
 噛みつき(物至単)
 突進(物中貫)【抑え込み】:抑え込まれたら20%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなります(受動防御は可能)。最大3ターン継続。一度抜け出すとBS消滅。
・狂気に囚われた村人
 イレギュラーズに比べると弱いですが、数で囲まれると面倒なことになります。

●アドリブ
 アドリブ描写が用いられる場合があります。
 プレイングやステータスシートにアドリブ度合、『アドリブNG』等記入くだされば対応いたします。

  • <Liar Break>占領された村完了
  • GM名茜空秋人
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
銀城 黒羽(p3p000505)
アグライア=O=フォーティス(p3p002314)
砂漠の光
プリーモ(p3p002714)
偽りの聖女
レウルィア・メディクス(p3p002910)
ルゥネマリィ
Morgux(p3p004514)
暴牛
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド

リプレイ

●序
 深夜、常人ならば寝静まってる時間帯。夜の闇に紛れ幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の残党に占領されたヴィンス村に、密かに潜入した一団があった。サーカス一味の討伐とヴィンス村――人質解放の依頼を受けた我らがイレギュラーズ達だ。
「邪魔になりそうな村人たちはいないみたいです」
 超嗅覚とエネミーサーチで周囲を警戒、索敵していた『砂漠の光』アグライア=O=フォーティス(p3p002314)が小さな声で仲間に告げる。ピンク色の獣耳と尻尾を持つ少女は嗅覚も猟犬のように優れていた。懸念であった狂気に囚われた村人も既に眠りについているのであろう、とても静かな夜だった。
 一同は足を忍ばせつつも教会に急行する。
「特に罠も設置されてなさそうです。
 人質を取られている上にサーカスの狂気に影響を受けた村人もいるとは厄介ですね。これ以上村人に犠牲が出ないようにしなくては……急ぎましょう」
 金髪碧眼に尖った耳が特徴的な幻想種の少女、エリーナ(p3p005250) がカンテラをかざす。事前に村の地図を確認し地形把握に努めたエリーナは罠対処も万全で、彼女が感知しなかった以上、罠はないとみてよいだろう。
「既に村長一家が犠牲になっているんだ……。人質も、狂気にあてられた村人も、これ以上犠牲は出したくないな」
 『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)もカンテラを掲げ応える。無表情、無感情だと誤解されることもあるが、実際のところ慈愛の恩恵――じゃがいもの花言葉を冠するポテトは正しく慈愛に溢れる妖精なのだろう。言葉にその心情がこもっていた。

●二人の女装シスター
 教会前には馬車が二台。『ライオン使い』ゴーグが三頭のライオンを従え見張りをしている。情報にあった残りの二人は馬車の中だろうか? 確認することは出来ない。
(サーカスの残党、やってくれるじゃねぇか。関係のねぇ村人達にまで手を出しやがって。
 だが、これ以上てめぇらの好き勝手にはさせねぇ。もう誰も傷つけさせねぇし殺させねぇ)
 灯りのともった教会に近づき彼らが視界に入るやいなや『Quell the Storm』銀城 黒羽(p3p000505)に強い想いがこみあげる。
「守る、衛る、護る、俺の前で死なせはしねぇ」
 普段は怠惰でマイペースな黒羽だったが、芯にとても熱いものが流れる漢であった。
『グルルゥゥゥ』
 イレギュラーズの接近の気配を感知したのか、ライオンが低い唸り声をあげた。それを皮切りにイレギュラーズが素早く動き始める。

 まずは『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が自身と仲間たちに補助スキルをかける。ノブレス・オブリージュ――弱者を見捨てず悪事は決して許さない高潔な性格。没落したとはいえ、かっての名門貴族の出である彼女は幻想には珍しい高貴な心の持ち主だ。
「罪のない方達を操り、あまつさえ人質に取るとは、許しません!
 卑劣なる者達よ、大いなる意志の名のもとに裁きを受けなさい!」
 シフォリィは美しい銀の長髪をなびかせ、怒りに震えていた。
 支援を受けた『ルゥネマリィ』レウルィア・メディクス(p3p002910)が一頭のライオン目がけ長い尻尾をたなびかせ駆け抜ける。両手には身長140cmの小柄な体躯には不釣り合いなサイズの大盾だ。
「わたしの攻撃、受けてみなさい……です」
 鈍い衝撃音をたて、ライオンは痺れている。
(人間はまだいい、話が通じるし、通じなくても心を揺さぶることはできる。問題は獣だ)
 シスター姿の『偽りの聖女』プリーモ(p3p002714)も、重装火器で遠距離からライオンを狙い撃つ。修道服に身を包んでこそいるが、それはあくまで趣味。実は聖女どころか女性ですらない男性ハンターだ。
 あと、ついでに、はいてない……だと……!?
「というわけでライオンを最優先で狙っていきましょう」
 野生動物に特化した火力を誇るハンター、プリーモの無慈悲な一撃だった。

 修道服が流行っているのか、もう一人のシスター姿は『暴牛』Morgux(p3p004514)だ。あくまで私服だと言い張る彼もまた、男である……。なんだこの女装シスター率は!?
「いいねぇ、久々に人間相手……しかも手練と来た。……まぁ、仕事達成を最優先だがな」
 まずは邪魔な獣から殺るとするか。闘争神Vainの忠実な僕、敬虔な信仰者のMorguxは闘争を求める如く、グレートソード――魔剣ロアを両手にかざし獲物に襲いかかる。常人では扱うこと適わぬ超重量級武器の一撃が、絶大な破壊力を生み出していた。
 ライオンの呻き声、吠え声に呼応するかのように馬車から二つの影が躍り出た。
「敵襲かっ!?」
「ヒャーッハッハハー! なんだなんだなにごとだ!? オレさまちゃん退屈してたのよぉー。退屈すぎて熟睡グーグー。でもでも折角来てくれたけど、眠りを妨げられてとっても不機嫌……『我が眠りを起こすのは誰ぞ?』 ……なーんちゃって!  ハッハー! ってことで、とりあえずオマエラ死ね!」
 『毒ナイフ使い』リップ・ヴァーンと『糞うざ道化師』ピエロのマシューが颯爽と登場。マシューはもう、なんていうかほんとに素なのか寝起きハイテンションなのか、一本筋が通った糞うざさだ。
「お前らはもう誰も殺せない。この俺が殺させない」
 その糞うざマシューに、黒羽が相対し挑発する。煽りまくる。
「口ばっかの軟弱野郎が、てめぇはこの俺すら殺すことは出来ねぇよ」
「ヒャッハッー、元気のいいボクちゃんですねー。お望みどおり遊び縊って、遊んで殺してあげるよ、ハッハー! 肢体はお人形にして可愛がってから、飽きて忘れさって雨の日の路地裏に捨ててあげるねハッハー!」
 まんまと策にはまったマシューは黒羽に傾注するのだった。

 ちゅどーん。
 聖樹の杖を携えたエリーナのマギシュートが後方からライオンを襲う。
 まずはライオンから削って行こう、それがイレギュラーズの一致した意見だ。むろん、エリーナも異論はない。
 人質をライオンが襲う前に。そんな願いをこめ、エリーナは大いなる叡智の力を振るうのだった。
「喰らいやがれっ!」
「全力攻撃……です」
 遠距離爆撃の次は近距離による掃討と相場が決まってる。Morguxの連続攻撃が、レウルィアの強烈な一撃が情け無用の追撃をかます。
『グオオオオォォォ……』
 断末魔の咆哮をあげ、一頭目のライオンが崩れ落ちた。

「容赦なく人を殺している相手です、此方が躊躇っている場合では有りませんね」
 此処で止めなければ被害が多くなる。必ず止めようという不退転の決意でもって、アグライアはリップ・ヴァーン――この集団のリーダー、ボスを一人で引きつけていた。
 防御力に優れ、毒に抵抗のある彼女がリップの盾役に適任なのは間違いない。
 だが、決してそれだけが理由ではない。
 白銀色の両刃の直剣――星乙女の正剣を構えたアグライアは青白い燐光を纏っていた。その呪術的な蒼光は、強敵リップに自らを『倒さねばならぬ敵である』と認識させ強い憎悪を抱かせる。倒れぬ限り誰かを守り助け続ける守護者の挟持を胸に、それを証明すること。彼女もまた、誇り高い騎士であったのだ。
 アグライアはリップを十分以上に引きつけていると判断すると、踵を返しライオンに駆け寄る。
 ――月光!
 疾くあるのみ。銀の弧を描いた剣先の煌めく軌跡の後に残ったのは、息絶えた二頭目のライオンだった。
「ライトヒール!」
 しかし流石にリップの攻めを一人で受け続けた反動か。
 体力が削られたアグライアであったが、ポテトの支援回復が絶妙のタイミングで届く。
 ゆるふわマイペースなポテトは、とても働き者だ。いつも土いじりで汚れている普段着が、それが如実に表している。
 今宵も仲間に祝福を与え回復にと勤しんでいた。慈愛の精霊の面目躍如である。

●無口な男が喋るとフラグ
「……」
 二頭目のライオンが沈んだのをみてとると、戦況の不利を悟ったかライオン使いゴーグは教会の扉に走る。
 いち早く気づいたレウルィアが阻止せんと追いすがるも、卑劣なゴーグの手により教会の扉は開け放たれる。
「こい! 教会の中で仕切りなおすぞ」
 無口なゴーグが初めて口を開き、ライオンに命ずる。
 しかし、ライオンは動けなかった。
 最後の一頭と対峙していたシフォリィが、人質の下へ送り込まれないようにと教会を背にむけ行く手を阻むように戦っていたのだ。
「たとえ使われるための獣であろうと、切り伏せなければ危ない命があるんです……!」 自分に言い聞かせるように、そして憐れむようにライオンに声をかけると、神聖なる祝福を受けた大剣の形をした聖遺物――聖剣グランプリエールをシフォリィはかざす。
「オートクレール!」
 聖剣グランプリエールを媒介に顕現した白銀色の魔剣が一閃。後には砕けた魔剣の魔力の残滓が白銀に煌めき宙を舞っていた。
 非常に重い魔法の斬撃。ライオンの体力を半分以上奪った一撃だった。
 ちゅどーん。
 トドメを告げるエリーナの超遠距離マギシュートの轟音が、無慈悲に鳴り響いた。

「中には入らせない……です」
 ゴーグに追いついたレウルィアが、開いた扉を遮るかのように立ちはだかる。
「……」
 レウルィアの重い鈍撃の痺れに、声にならない呻きをあげるゴーグ。
(いけませんよ、教会は聖なる場所です。血生臭いものを持ち込むなど言語道断です)
「そんな悪い子には……神のご加護をくれてやるよォ!!」
 そんなゴーグに敬虔なる神の使徒プリーモが、ブチ切れていた。
「Fuck'n!!!」
 中指をぶっ立てながら、超遠距離射撃を正確に大破壊力で決めやがる。
 怖い。宗教関係怖い。何が琴線に触れるのか、何が地雷なのか判らないから突然のブチ切れ超怖い。
 ゴーグは死んだ。
「Foooo! 間違った道に進んでしまった迷い子を導くのも聖職者の務めでしょう? そうでしょう?」
 にっこりと微笑んだ相貌が、どこまでも怖ろしい悪人ヅラの笑顔だった。

「サーカスの奴等は、名ばかりの烏合の衆かよ。これならまだ砂蠍共のが手応えあったぜ」
 一方、糞うざマシューのヘイトを一身で受けている黒羽。
 口撃はすれど、攻撃は一切しない。全くしない。ただ受けるのみ。受けて受けて受け続ける。
「何で俺が攻撃しねえか判るかよ?
 てめぇらにも、ここで死んでもらうわけにもいかねぇ。死んで楽になろうなんて絶対許さねぇ。
 村人たちに、そして今まで殺してきた奴等に懺悔し続けやがれ。いいか、簡単には死なせねぇぞ」
 常に至近距離で立ち回り、マシューに得意の中距離をとらせない。基本的にマシューは後衛、近接攻撃は不得手である。
「ヒャッハハハー。死ぬも天国、生きるも天国。死ぬも生きるもおしなべて、この世は全て面白く。ハッハーーーー。嗚呼、楽しいな楽しいな」
 黒羽が狙った怒り、苛立ちすら愉悦にかえて、無邪気な笑顔でマシューはウザ笑う。
 多分、おかしい。どこか壊れてる。もっとも壊れてるからこそ、サーカスの一員なのだろうが。
 言葉が通じない、暖簾に腕押し。理解できない苛立たしさ、肌寒さを逆に感じながらも、それならそれでと黒羽は挑発を続ける。俺以外が目に入らなくするくらい、という当初の目的は果たしているのだから。
 黒羽の仕事は糞うざピエロを怒らせることではなく、味方に害が及ばぬように、ただマシューの相手をすることなのだから。
 ――俺も何も怖れず、ただ受け続ければいい。
 黒羽もまたマシューに負けじと狂戦士の本領を発揮し、ただ挑発し、釵――異世界の古武術の武器。忍者が使う武器とも云われている――を両手にマシューの攻撃を捌きつづけるのだった。

●正直ここまできたら、後は数の暴力
「糞ッ! なんだってんだ。なんなんだこの戦いは!」
 マシューと違い、苛立ちを隠せずにリップが叫ぶ。
「これが! 『シルク・ド・マントゥール』の! 私の! 最後の戦いなのか!?」
 この期に及んで、リップはまだ一撃もダメージを受けていなかった。
 それなのに手勢で残るはマシュー一人のみ。もはや壊滅は時間の問題。イレギュラーズの徹底した作戦勝ちともいえる。
「糞ッ! 糞ッ!」
 リップはアグライアを切り付け、毒のダメージを与える。
 が、誰も気にしない。当のアグライアすらも気にしない。
 Morguxが距離をとり、『飛ぶ斬撃』でマシューを襲う。ニヤニヤと嗤いながらマシューの狂騒を眺めるあたり、いい性格をしている。
「×××××××!」
 プリーモも負けじと罵詈雑言を浴びせつつ、遠距離からマシューを狙撃する。
 唯一の例外、ポテトだけはリップの攻撃を気にかけ、アグライアにヒールをかける。いい人やで……。
 毒なんて気にしない。アグライアもリップを無視してマシューを殴る。ちょっとだけ、リップが可哀そうになってきた……。
「ヒャーッハハハー! 今宵、公演はここまでに! それでは! 皆さん、ご機嫌よう!! ハッハー……」
 最後にシフォリィの一撃を受け、なお高らかにウザ笑いながらマシューは力尽きた。
「簡単には死なせねぇ……けど、ま、決めんのは俺じゃねえしな」
 徹頭徹尾、マシューと対峙しつづけた黒羽がボソッと呟いた。

「負けん。私が死んでも、決して『シルク・ド・マントゥール』は負けたりしないっ!」
 最後の一人となったリップが吠える。
 イレギュラーズたちは黙して、ただ決着の時を待つだけだ。
「そうかよ。どっちでも構わねえぞ。お前が後悔し続けることに変わりはねえ」
 まず動いたのは黒羽だった。今まで一切攻撃することなく挑発のみに徹した男。それだけではない。記憶にある限り、未だ推定殺害者数0人を誇るイレギュラーズの異端児が挑発をかける。
「さて……お前は強いらしいな。毒を受けようが構わねえ。力で叩き潰してやるよ!」
 闘争を求めるMorguxが後に続く。
 さらにエリーナが! レウルィアが! アグライアが! プリーモがリップをボコる。
 ポテトが傷ついた仲間を回復する!
 シフォリィのピューピルシールが――封印がリップに決まった時、勝負は決した。
 スキルを封じられるわずかな30秒が、永遠の長さに等しい。
「……クッ、先に地獄で待ってるぞ! やあれ、御代は見てのお帰りだ! どなた様も御覧じろ!」
 最後にサーカスらしい口上を述べるリップに引導を渡したのはアグライアだった。
 リップの攻撃を受けつづけた彼女が、最後に還した一撃だった。
 アグライアが愛剣を鞘に納めると、彼女を纏っていた青白い燐光が徐々に薄れ消えていく。戦いは終わった。

●Fin
 イレギュラーズは教会を解放する。
 人質は一人も傷つくことなく無事だ。
「人質も村人たちも良く今まで頑張ったな。もう大丈夫だ」
 彼らの安全を確認したポテトが、心から呟いた。
 戦いの喧騒に遅まきながら起きてきた村人たち。狂気に囚われた村人も。
 無事を喜び合い、村はちょっとしたお祭り騒ぎだ。
 異常にカリスマが高いシフォリィ、プリーモが事態を落ちつけようとするが徒労に終わるだろう。喜ばしい徒労ではあるが。
「ひとは眠る時間です。帰りなさい。眠りなさい。また明日、目覚めるために。
 ……いいから眠れって言ってんだろうが!!!」
 さっそく、プリーモがキレている。が、その顔はどこか嬉しそうにも見えた。
 狂気に囚われた村人も、やがて正常に戻るだろう。

「出来ればサーカスの残党もなるべく死なせたくなかったな。死んで逃げようなんて虫が良すぎんだろ」
 喧騒を眺めながら黒羽が呟く。鋭利な目は、一体何を見ているのだろう。
「いい人なんですね……」
 誰とはなしに、声がかけられる。
「ハッ、俺は善人でもなければ悪人ですらねぇよ」

 Congratulations!
 イレギュラーズの奮闘によりヴィンス村に平和が訪れた。サーカスの壊滅ももはや時間の問題だろう。
 おめでとう、依頼は成功だ。

成否

成功

MVP

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れ様でした。
 人質救出の鍵を握っていたのは、ライオンに唯一命令できるゴーグでした。
 MVPはライオンの行く手を遮った貴方に。ゴーグのおかげで、かなり際どかったです。もしライオンを止められなければ、依頼は成功したものの後味悪い結果になったでしょう。
 それではまたご縁がありましたら、よろしくお願いします。

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