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シナリオ詳細

蒲公英珈琲の味

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ありゃもう何十年も前の話なんじゃがのう。
 この国が今より、もうちと戦争に明け暮れていた頃……
 色んな物資の搬入が滞った事があったんじゃ」
 鉄帝の片田舎で語るのは一人の老人だ。
 彼曰く、今よりもずっと前の話――それこそイレギュラーズ達の大規模召喚よりも前の頃、鉄帝国は周辺国と戦争をしたことが幾度もあった。
 最近でもグレイス・ヌレ海戦や砂蠍の行動によるジーニアス・ゲイム事件の折に鉄帝は動いていたが、あの頃はまた別の激しさがあった気がすると老人は紡ぎ。
「まぁそんな昔の戦の内容はともあれの。そんな事をしていれば当然国交なんて制限がかかるもんでの……場合によっては生活必需品や嗜好品の類が、こんな片隅の田舎にまでは中々届きづらい事があったんじゃ」
「成程――まぁ、そうでしょうね」
 戦争と成れば多くの物資が必要となる。
 軍や中央にあちこちの物資が集中的にかき集められるのは当然であれば、隅は後回しになるものだ。そればかりか戦争による国交の制限があれば、外国から輸入していた商品などは止まる事もあろう。
 特に幻想と戦争をするときなど、商売上手のラサと組まれれば尚更……
 それ故に楽しめぬモノがあれば人々は何かで代用したものだ――それが。

「たんぽぽコーヒー、ですか」

 机の上。差し出されていたコップの中に注がれているは黒き液体。
 一見すればコーヒーの様に見えるが――厳密には異なる。
「そう。知っておるかの? たんぽぽの根から作るもので……コーヒー豆を使用しておらんから厳密にはコーヒーではないんじゃが。風味が一部似ている所があっての、たんぽぽコーヒーと呼ばれておる」
 実際に飲んでみると――麦茶の様な味わいの後にほんのりコーヒーの様な後味がある気もする。成程、確かにコーヒーではない『代用品』程度の印象だが……世の中にはこういうものもあるのか。
「それで――私達に何を?」
「うむ。実は最近、昔が懐かしくなってのぉ……あの頃のたんぽぽコーヒーの味を呑みたいのじゃが、昔この辺りで飲まれていたものは山の上の方に生えているモノだったんじゃ」
 指差す老人。その先にあるのは高い山が一つ。
 なんでもあの山にだけ生える特殊なたんぽぽがあるのだそうだ……あんまり美味しくはないそうだが。ただ、体にいい効能が含まれているとかで健康の為にと呑まれていた事もあったらしい。
 しかし若い頃はともかく年老いてからは山には中々登れぬ。
 最近では狼の様な魔物も現れており、危険も増している様で……
「成程。それで、たんぽぽを取ってきてほしいという事ですか」
「そういう事じゃのう。ただ……もう何十年も取っておらん。今どの辺りに生えているかもよく分からんし、山の中に入って探すのにも長丁場になるかもしれん。それに春が近づいてきたとはいえ、山の上は寒いものよ――」
 中々過酷な環境であり簡単な依頼ではないと老人は紡ぐ。
 長く留まっていればその環境故に体力が削れる事もあろう。無論、それを軽減させる方法はある。サバイバルの知識があれば有効な手段を思いつけるだろうし、或いは鉄帝の多くの民……鉄騎種などであればそういう環境に優れし者もいるだろう。
 ただ、先述した様に魔物も幾らか出る。
 奴らを排し環境にも打ち勝った上でたんぽぽの根を――手に入れる必要がある。

「まぁゆっくりでええでの……どうせあれは旨くもない。
 ただただ――思い出の味がするだけじゃからの」

 窓の外。まるで遠くを見据える様に――老人は眺めながら呟いていた。

GMコメント

●依頼達成条件
 たんぽぽの根を持ち帰る事。

●フィールド
 鉄帝国の北部に存在する山間部です。
 それなりに高い標高を持つ山で、山頂に近付けば近づく程寒さが増していきます。季節的に真冬よりは大分マシなのですが、それでもそれなりの寒さがある事でしょう。上に行けば行くほど体力(HPやAP)に影響が及ぼされる事が予想されています。
 過酷耐性や、なんらかの非戦スキルなどによってこの効果は軽減する事が可能です。

●雪狼×10~
 この辺りを縄張りにしている狼です。
 寒さに優れ、山の中であろうと縦横無尽に駆け巡る俊敏さを伴っています。
 縄張りに入った者達を認識次第襲い掛かって来る事でしょう。数は最低でも10はいそうですが、もっといるかもしれません……
 なおリーダー各の狼が一匹いると思われます。この個体を打ち倒す事が出来れば集団の統率が瓦解しますが、リーダー格は優れた牙や体格を保持しておりそれなりの強敵です。

●『タニアたんぽぽ』
 依頼のあった山にだけ生えているという特殊なたんぽぽです。名前はこの辺りの地名から。
 依頼人から特徴は聞いていますので、その形を発見できれば依頼のたんぽぽだとすぐに分かる事でしょう。大事なのはこのたんぽぽの『根』なので、丸ごと持って帰ってきてください。

 この根から抽出されるたんぽぽコーヒーは色々と体にいい効能がある、あんまり美味しくないものなんだとか。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 蒲公英珈琲の味完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月29日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

リプレイ


 求めるべくは過去の味。
 そこに美味なく、益なく、極寒一色。
 ――されど依頼であるならば。懐かしの味がそこにあるというならば。
「いいよ。何かを探すとか取ってくるとかは多分得意なんだ」
 この程度訳はないと『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は述べた。
 己はまだ21……依頼人である老人が感じたようなノスタルジーを理解できるとは言えないけれど、出来る事はあるだろうと。雪山程度何するものぞ。既に五月に差し掛かり始めている山なんて大したことはない……

 ――そう思っていた。大体一時間ぐらい前までは。

「寒い。北国の高山やばい。熱が奪われる。こんな環境で飛べない」
 風が身を撫ぜるだけで立つ肌があるものだ。いや、その風そのものも割と強いだろうか――山の頂上から吹きすさんでくるソレらはミニュイ達の体温を奪い続けて。
「天義の北も寒い方だけど、ここは比べ物にならないよ……こんな所にも住めるものなんだね、人って……すごいなぁ」
「ええ、ですが極寒雪山なんのその! 行くぞ雪中行軍――ッ!」
 同時。故郷たる天義の冬を思い浮かべるは『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)だ。ミニュイや彼女は寒さもあろうかと普段の装いよりも厚着をしているが……それでも足りぬ様な感覚がどこかにあるのは、流石環境に厳しいとされる鉄帝と言うべきなのだろうか。
 一方で『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は意気揚々と。
 いや彼自身も寒さを感じていないわけではないが――鉄騎種特有の過酷なる環境への耐性が大分『マシ』にしている。雪山用の靴も揃えてさぁいざ往かんとばかりに。
 歩を進める。
 急ぎの依頼ではないにしても長期戦になればこの環境が牙を向いてこよう。
「いざとなればキャンプ道具も持ってきましたが、さて夜になる前にはなんとかしたい所ですね」
「うん――なんだっけ、タニアたんぽぽだっけ。
 それから作るたんぽぽ珈琲……か。名前だけ聞くとかわいらしいね」
 でも美味しくないって事は薬湯とかそういうやつなのかなと『揺蕩う器』ハリエット(p3p009025)は防寒着や着替えなど色々な準備をした『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)の言葉に続く。聖鳥の鳴き声で目覚めた迅は活力も得ていて。
 同時にハリエットが巡らせる思考は、依頼人が望むというたんぽぽコーヒーへ。
 それほど美味ではないという事だが栄養はあるのかもしれない……
 もしもちょっとばかし余裕のある量を持ち帰れたら試しに飲んでみるのも――と。
「うーん、アレは強いて言うなら……香ばしい? といった感じでありましょうか。どう足掻いても珈琲ではないでありますし珈琲と思って飲むと拍子抜けするやもしれませんが、自分はまぁ、結構嫌いではないでありますよ」
「おや、そうなのですか。珈琲に目がない身としては、珈琲と名がつくだけでも是非味わってみたく思いますが……ふふっ、珈琲でないと言われても、試しに一口味わってみるのも一興でしょう」
 そして段々と雪の色を感じ始める所まで登ってきた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はかつて口にした事がある、たんぽぽコーヒーの味わいを記憶の片隅から掘り出していた。ほうじ茶と言うべきかなんと言うべきか……少なくとも珈琲ではなかったと。
 それでも『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は笑みを口の中に含んでかの『珈琲』の味を想像するものだ。嗜好品というよりは薬に近い扱いをされていた様な存在……
「そこに在った歴史の味を、是非味わいに行くとしましょう――
 ええ、邪魔する方々にはご退場頂いた上で」
 瞬間。天を眺めるヴァイオレットが行っていたは占星の灯。
 空に太陽が浮かぶ時の狭間にいようとも天体を眺める事は叶うのだ――吉凶を見定める一端に浮かぶは、行く末に愚者なる者らの到来を。これは恐らくは情報にあった狼でも近いか、或いは天候の悪化でも指し示しているか……?
「それなりに登ってきました。ここからが件のたんぽぽが咲いていると思わしき場所……なんにせよ邪魔される訳にはいきませんね。天候ならば備えを。狼ならばすぐさまなる排除を――人助けのためにも力を尽くしましょう」
 故に。『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は心の備えをするものだ。
 久しぶりの、悪意が絡まない純粋な人助けの依頼……
 力を賭さない理由はない。頼りになる面々もいれば尚更に。

 地を見据える様にたんぽぽの捜索を行っていた彼の瞳は――己が果たすべき未来を見据えていた。


 段々と寒さが激しくなってくるのが山だ。
 が。イレギュラーズ達は鉄騎種たる者達のみならず、他の者も過酷なる環境への耐性を携えており準備は万全に近い状態だったと言えるだろう。特に迅はサバイバルの知識を用いて皆の体温調整に一役買う。
「万一の場合は一端休息を取りましょうか。厳しい時には足を休めるのも重要です」
「ええ。上に行くほどやはり寒いですしね……あぁそうそうこんな事もあろうかとお酒を持ってきました。単純な方法ではありますが、寒さ対策として長く用いられる者でもあります――如何ですか?」
 同時。オリーブが取り出す酒だ。一時的ではあれど体温を齎すに一役買うのが酒の便利な所である。勿論、飲みすぎれば活動に支障が出る故に適量をだが。
「……早い所タンポポが見つかればいいけど、はぁ。本当に寒いね。ホントに。ホント……」
 震える体。もしもの場合を考え持ち込んでいた焚火の準備がそのうち役に立ちそうだとミニュイは感じていた。探すのも重要だが、暖を取らねばやがて体自体が動かなくなりそうだと……
 同時。サクラは己が口元から零れた吐息が白く染まるのを感じていた。
 それは随分と寒さが出てきた証拠である。だが初めから分かっていた事だ。
 故に彼女は暖かなるひよこちゃんを服の一端に。
 さすれば『ぴよぴよ』という声が漏れていて。リュカシスら程の寒さへの耐性にはならぬが、それでもあると無いとでも随分と違いがあるものだと感じていた――そしてそれは体力の温存に繋がって。
「――どうやら狼が来るみたいだね、アレは私たちが引き付けるよ」
「全く、今の所順調だというのに無粋な連中ですな……しかしやむを得ませんか」
 故にいざという事態でも動きやすかった。
 聞こえてきたのは狼の遠吠え。
 瞬間に動き出す――先頭を進んでいたエッダと共に。
 山歩きは油断一秒谷の底。特に雪が積もるような場所では、足場の不安定さが己が視界から掻き消される事もあるのだと……エッダは皆の無事を確認しながら歩いていたが、狼とが現れるのであればそちらへの対処が優先される。
「……出来ればそもそも遭遇しない事が一番だったけど、まぁ仕方ないね」
 ――来た。ミニュイは飛翔し、敵の攻撃に備えんとしながら敵の姿を瞳に捉える。
 牙を見せこちらを食らわんとする狼共が。しかしさせるものか。
 エッダの先読む動きが奴らを捉える。いざや牙を突き立てんとする動きに合わせて拳の一閃を。後手にて先手を取り、己の優位を作るのだ。
 二体、三体――ああいくら掛かってこようともそう易々と通すものか。
 同時にエッダの撃を切り抜ける狼に関してはサクラの輝きが彼らの目を潰した。
「出来れば殺したくはないんだ……怪我をしない内に退いてもらいたいね……!」
 光あれ。そう言わんばかりに輝く刀剣の煌めき。
 酷く目ざわりな様に移れば動物的本能が警鐘を鳴らすものだ――
 あの女たちを先に始末せねばならないと。
 無論、狼達とて一方向から至る訳ではないが、それでも多くが彼女らに。エッダとサクラに引き寄せられる。その彼らを潰すのは無数の弾丸を放ちて、まるで嵐の如くふるまうミニュイと。
「ふむ。こういう集団には長たる狼がいるもの……それも早く潰したい所ですね。
 天候に陰りが見え始めています――このままではやがて吹雪くやもしれません」
 ヴィオレットだ。エッダの付近に立つ彼女が、後衛側に抜けんとする狼の身を穿つ。
 あらゆる束縛を否定する超速度を得ている彼女の身は軽やかに。雪山に生息する俊敏たる狼達――すら置き去りにせんばかりだ。その足を止めんとばかりに口端を微笑ませ、残像すら生じる手数の一つが奴らを討つ。
 火力はともあれ足止め役としては一日の長があるのだと――
 しかしと、一瞬見る空は先ほどよりも雲が増えていた。
 山は天候が変わりやすいとは言うがなんとも嫌な予感がする空模様である。狼たちにあまり足止めされる訳にもいかぬと、巡らせる視線はこの狼達を統率する者へと。
 瞬間。イレギュラーズへと飛び掛かった狼の一体へ銃撃が走る。
 ハリエットだ。襲来を予測し位置を調整していた彼女が、レールガンにて敵を穿ち。
「わたしはこの辺りから狙撃していくね。ええと、リーダーが出たらそっちを狙う。
 早めに出てきてくれるといいなぁ……うん、流石にちょっと寒いよ」
 雪の大地に片膝付いて狙撃の体勢整え。
 放つ光柱。襲い来る狼達を捉えて、狙撃手たる目は決して逃さない。
 ……それはそれとして本当に寒くなってきた。手持ちの服をなるべく重ねて暖かくしてきたものだが、しかし彼女特有の尻尾は外気から隠しづらくどうしても冷えるものだ。それを察したのか懐に忍ばせたひよこちゃんが『まだ寒い? 大丈夫?』と心配して鳴いてくるが、心の温かさが身に染みる……
 だが警戒を緩める訳にはいかない。
 狼達の雑魚はエッダとサクラにより阻まれ、ヴァイオレットやハリエットの一撃によって削られている。単純にいって攻めあぐねていると言ってよく――されどもしも奴らの統率者が馬鹿でなければ――
「余力と数が残っている内に出てくるはずですね……彼らの長が!」
 迅は狼を薙ぎ払いながらその姿を探していた。
 瞬時の超加速が目前の敵を粉砕するが如く。ここで逃して後で再度襲い掛かってこられても厄介なのだ――確実に仕留めるつもりで彼は敵を叩き。と、その時。

『――ォォォォォッ』

 遠吠えが聞こえた。まるで号令の様な。
 直後。遠くより迫るは、今までの個体達よりも一段と大きい狼。
 ――あれがリーダーか!
「ふむ。こういう時、ボスは自分が真っ先に飛び込んで来たりはしないでありますよね。
 慎重に全体を俯瞰して見ていて……しかし痺れを切らしたでありますか」
 エッダの目にも確認できた。こちらの喉笛を狙う殺意を伴った特別な個体。
 お前か。
 打撃の連打を近場の狼に叩き込みつつ、奴めが接近してくる方角を見据える。
 奴が来るぞと。長が来るぞと。味方に注意喚起をしつつ。
「成程、ついに出てきましたかッ――! 望む所です。
 リーダーを叩きのめし一気に趨勢を頂きましょう。統率を失った群れなど脆いもの!」
「ええ! オリーブ様、参りましょう! 狼程度恐れるに足らずッ――!」
 であればとオリーブとリュカシスの闘気は満ちるものである。
 リュカシスの優れた視覚には確かにリーダーの姿が目に映っていた。白き大地に紛れる様な白銀の身であれど見逃すものか。アレを倒せば戦いの流れは一気にこちらに傾くであろう――故に道を切り開く!
 鉄帝の精神たりうる一撃をもって。膂力をもって。全霊をもって!
「突撃万歳! 鉄の神髄を知るがいい――ッ!」
 眼前の狼達をリュカシスは薙ぎ払う。狼の数を減らし、リーダーの身を晒すのだ。
 さすれば奴めは配下を倒されまるで怒り狂っているかの様に。
 ――向かうはオリーブだ。この極寒の環境にて尚に吠えるその精神、驚嘆に値するが。
「それでも自分たちの邪魔をするというなら、容赦はしません……覚悟を!」
 こちらもいくつもの戦場を潜り抜けてきたのだ。
 今更狼程度の気迫に気圧されるものか――! オリーブの紡ぐは苦難を破る一手。
 栄光を掴み取るが為の一撃。狼の鋭き爪を受けながらも懐に潜り込み――至近の一閃を。
「悪いんだけど討たせてもらうよ。そっちに退く気がないならね」
「さぁ。君たちのリーダーの所には向かわせないよ……もう少し私と遊ぼうか!」
 同時。配下の狼達を狙っていたハリエットの一撃がリーダーの方へと向く。
 一気に火線を集中させ奴を倒すつもりなのだ。奴が来るまでの間に幾度も放った射撃のおかげで距離に対する目が慣れたのか彼女の命中精度は上がっている――リーダーの腹を穿つように狙い定めて。
 更に、それらの動きを支援するようにサクラは高々と剣を掲げるものだ。
 再び放つ光が彼らの目を奪う。皆がリーダーへ集中できるようにと。
 そうして振るうは月の軌跡を思わせる斬撃だ――神の祝福を宿したが如き一閃は殺さずの精神を纏っている。
 ……狼達に罪はない。
 縄張りに入ってきた相手を襲ってきているだけ――つまりは自然の摂理。
 だからと。彼女の優しさが彼らを通さず。

『――!!』

 それでも狼達は本能に従って眼前の獲物共を食らわんと襲い掛かってくる。
 牙を突き立て爪を振るい。減らされつつある数にも長の一声が力となるのか戦列は乱れず。
 だから。
「これにて終わらせます。唸れ! 全身全霊全力たるこの一撃よッ――!」
 リュカシスは飛び込んだ。
 体に傷を負いながらも未だ闘志漲らせるリーダーの下へと。
 その脳天をカチ割るが如き一撃を――奴めの直上より振り下ろして。
 ――激しい衝突音。
 同時に鳴り響くのは何かが砕ける音だ。それは骨――狼の耐久力を超える一撃が齎され。
『――ガ、ガァ、ガ――』
 やがて倒れ伏す。
 その巨体を。雪の大地に――還す様に。


 長を失った狼達は先程までの闘志はどこへやら。
 蜘蛛の子散らすように逃げ失せて――周囲からは完全に気配も消え果てた。
「こいつらの血の匂いで他除け者が寄ってきたら厄介だから、ここはさっさと離れてたんぽぽ探しに行こうか。毛皮は……うーん持って帰る余裕はなさそうかな、残念」
 であればとハリエットは即座にここを離れる事を勧める。
 可能であれば埋めるなりするのが血を誤魔化す手段なのだろうが、その時間と体力の余裕はなさそうだと……毛皮を持って帰れたらお金にもなりそうなのだが、実に残念だ。
「仕方ないですね。山は天候もすぐ変わりますし……たんぽぽを探しましょう。
 生態的に、開けた場所の方が期待出来そうですがもしかしたら道端にも――おや」
 その時。件のたんぽぽを捜索していたオリーブが足元に気づいた。
 そこに花が咲いていると。木々の下、雪が積もりにくい場所に咲くように――
「これかな? これっぽいね?
 よし帰ろう。早く帰ろう。すぐ帰ろう。一刻も早く帰ろう。ごーほーむ」
「根っこを傷つけたら台無しですからね。ゆっくりと慎重に……よし! これで良さそうです!」
 同時。圧倒的機動力で広範囲を探していたミニュイもまた、件のたんぽぽが群生している地を探し当てた。これだけあれば余裕をもった数が確保できそうだ――故に迅が回収を。周囲の土ごと確保する様にした後に土を払って。
 であれば下山。待望の下山。寒い寒い寒い早く帰ろう!
 来た道戻りて急速に。だが焦らず再度エッダが行く道を踏み外さぬか先頭にて警戒し。

「おじいさま、お待たせしました! ご依頼のたんぽぽですよ――!!」
「――おぉ、早かったのぅ。これじゃこれじゃ、懐かしいのぉ……!」

 さすれば狼達が再度襲い掛かってくる事もなく依頼主の下へ。
 元気よく扉を開いたリュカシスがタンポポを差し出し――これにて一件落着、だが。
「そうじゃ。これだけ取ってきてくれたなら……どうじゃお前さん達も一口」
「ええ。ご随伴賜れるなら、是非に」
 最後に己らもその味を堪能しようと。依頼人からの申し出にヴァイオレットは笑みをもって受ける――独特なりし味わいを是非この下にと。
 土の汚れを落として。熱湯沸かせて暫く。
 差し出されるコップの中には確かに珈琲らしき黒き水が。
「うーん、成程。確かにあんまり美味しくはないね……! 薬湯みたい」
「ううむ。しかし体に良さそうな味はしますね、珈琲ではなく茶に近い気もしますが、しかしこれも経験でありましょう!」
「だから言ったでありましょう? どう足掻いても珈琲ではないと――」
 口に含むなりサクラと迅は思わず渋い顔を。前評判の通りやはり旨くはない、が。
「自分は好きであります」
 エッダにとっては『ソレ』が良いのだと。
 これは。これ故の味わいがあるのだ。
 極寒の山から帰還した彼らにとっては貴重な温かさもあり――そして。
「御老体。叶うならば……ありし時の昔日譚をお聞かせ願いても?」
「あ、ボクも聞きたいです! 昔の鉄帝の話! お話聞かせて――ほしいです!」
 どうせならば昔の味に加えて昔の記憶をも、と。
 ヴァイオレットの発言にリュカシスも賛同するものだ――
 老いてなお、忘れる事のできぬ味。
 思い出を味わうと比喩される程、印象的なものであるのならば。
「ほっほ。ええじゃろ……そうよなぁ。
 あれは大体五十年ぐらい前、ハプテンベルグ決戦の折に……」
 ワタクシもまた、この味を忘れぬでしょう。
 老人の話に耳を傾けながらヴァイオレットは想起に浸る。
 美味ではない味と共に。
 しかしこれでなければならぬ味と――共に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 懐かしの味は懐かしの記憶と共に……

 ありがとうございました!

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