PandoraPartyProject

シナリオ詳細

熱砂の大地、我らの旅路

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●パサジール・ルメスの民と
 パサジール・ルメスの民、と呼ばれる移動民族が存在する。
 彼らは、かつてはラサのファルベライズという地域に住んでいたが、遺跡に眠る大精霊ファルベリヒトを守るため、ファルベライズの場所を隠ぺいする目的で散逸、各地を移動する流浪の民となった、という伝説がある。
 その伝説もはるか昔。今は風の吹くまま気の向くまま、混沌世界を渡り歩き、行商を行うキャラバン隊として、各国でその姿を見ることができるのだ。
「今回皆さんにお願いしたいのは、新規に独立したキャラバン隊に同行してほしいんっすよ」
 『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)は、イレギュラーズ達へ向けてそう言った。リヴィエールの隣には、未だ年若い一人の青年が立っていて、イレギュラーズ達へと静かに頭を下げる。
 彼はパサジール・ルメスの民に属するキャラバン隊の長の息子で、つい先日成人し、ひとつの商隊を任されるようになったのだという。
「トネエルです。よろしくお願いします」
 移動キャラバンである彼らは、各国を渡り、行商を行う。それはもちろん、危険と隣り合わせの旅だ。行商には、怪物や盗賊などを撃退する用心棒や戦闘員は必要である。それらの戦闘要員は、キャラバン隊に所属する者から選ばれたり、外部から雇う事もある。
「皆さんには、トネエルのキャラバンの最初の旅に同行して、護衛や、戦闘訓練、アドバイスなんかをお願いしたいっす」
「うちの隊は、説明した通り分かれたばかりで、行商経験自体少ないものが多いのです。皆さんの戦いや、旅の知識などを教えていただければ、と思います」
 つまり……イレギュラーズ達の任務は、護衛兼、アドバイザー、というような形になるだろうか。トネエルたちの最初の旅に同行し、守り、時にその運営にアドバイスを送る。戦闘要員たちに戦い方を教えたり、行商の知識のあるものは、その知識を教え、披露することも期待されているだろう。
「今回の旅は、ラサ国内のみの旅になります。一週間ほどでしょうか」
 トネエルが、テーブルに地図を広げる。その一点、街を指さした。それは、今イレギュラーズ達がいる、この拠点を指している。トネエルの指が、続いて東の砂漠を指す。
「ここを通過して、オアシスの街で補給」
 そのまま東へ。乾燥した低山岳地帯を越え、
「この街に向います。此処が僕たちのゴールになりますね」
「つまり、この街を出て、砂漠を横断。オアシスの街で補給と休息。次は低山岳地帯を越えて、目的地の街に行くっすね」
 リヴィエールが言った。
「特に迷う事のない行程っす。砂漠も山岳地帯も街道化が進んでいて、とりわけ迷うような所ではないっす。だから新人たちの練習ルートになってるっすけど、其れは其れとして、魔物や賊の類は存在するんすよね」
 そのため、安全なルートと気を抜くわけにもいかない。彼らを守り、時には彼らを導くように戦わせ、無事に旅路を完遂しなければならないのだ。
「まぁ、皆さんにとっては大したことのない一週間のラサの旅っすけど、トネエルたちにとっては初めての過酷な旅っす。皆さんに見守ってもらいたいっすよ」
 リヴィエールが言った。
「あ、一週間分の食事や水などは、僕たちのキャラバンでちゃんと用意します。長旅が初めてという方がいらっしゃったら、逆に僕たちの方でもお手伝いできると思いますよ。旅は道連れ。助け合って行きましょう」
 トネエルが、その手を差し出す。
 イレギュラーズ達は、その手を握り、握手を交わした。
 かくして、新人キャラバン隊とイレギュラーズ達の、一週間の旅が始まろうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ラサで生まれた新たなパサジール・ルメスの民。
 そのキャラバンの初めての旅に同行し、彼らと共に生きてみましょう。

●成功条件
 キャラバン隊の目的地への到達

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 パサジール・ルメスの民にて、新しく生まれたキャラバン隊。
 その新人リーダーであるトネエルの依頼を受け、イレギュラーズ達は、一週間のラサの旅に同行します。
 イレギュラーズ達のお仕事は、トネエルのキャラバンへの、戦闘面での護衛と、戦闘員の育成。
 もしも他にキャラバンの役に立つ知識や物資を持っているイレギュラーズ達がいるならば、その知識をおすそ分けするのもいいかもしれません。
 旅は一週間ほど。気軽な――と言っても、魔物や山賊に襲われる可能性はありますが――キャラバンの旅に、参加してみてください。

●旅程
 まずは、現在地である『アルステンの街』から東に出発し、『バナンの砂漠』と呼ばれる砂漠を進みます。此処は交易路として多くの行商が使っており、街道のようになっているほか、テントを張りやすい地点なども存在している、比較的楽に旅ができる砂漠です。
 そのまま、オアシスにある『バナンの恵み』という街へ向かいます。此処で一日ほど補給と休息を行い、さらに東、『ネスタイ山道』へ。
 ネスタイ山道は乾燥した低山岳地帯になっています。道は険しいですが、ここも街道化がされているため、よほどのことが無ければ遭難することはありません。
 楽な道とは言いますが、バナンの砂漠、ネスタイ山道、共に魔物や賊が潜んでいる可能性はありますので、警戒はしてください。
 山道を抜ければ、目的地である『クレダイの街』につきます。此処に無事到着できれば、依頼は成功です。
 ちなみに、一応、パサジール・ルメスの民のキャラバンとは、いざという時はいつでも連絡を取ることができます。メタ的な事になりますが、何かが起きて遭難する=依頼が失敗するような状況に陥っても、これにより助けがすぐ来るため、失敗したからと言って悲惨な事には決してなりません。
 お気軽に一週間の旅をお楽しみください。

●キャラバン隊所属員
 トネエル
  キャラバン小隊のリーダーです。旅程や今後のことなどは、彼に相談すればよいでしょう。

 キッシュ
  戦闘要員部隊のリーダーの少女。彼女を含み、10名ほどの戦闘要員が存在ます。それぞれ剣や弓、魔術などを扱えます。

 トーマス
  商隊のパカダクラなどの家畜を管理する青年です。様々な家畜と触れ合いたい方は、彼と話してみると良いかもしれません。

 レイッシュおばさん
  商隊の台所を預かるお母さん。キャラバンの御飯についての相談がある方は彼女へどうぞ。

●遭遇するかもしれない敵
 デザートバッフ
  砂漠を根城にする狼です。行商にとっては脅威ですが、皆さんにとっては雑魚もいい所でしょう。
  戦闘員たちの戦闘訓練の相手にはいいかもしれません。

 デッドスコーピオン
  大きな蠍型の魔物です。固い殻と、毒が特徴。
  新人の戦闘要員には、ちょっと荷の重い相手かもしれません。

 デスコンドル
  空飛ぶ巨大な怪鳥です。群れ成して攻撃してくるため、こちらも連携して当たらねば厄介です。

 砂賊・山賊
  登場する場所によって名称は違いますが、おおむね武器を持った盗賊の類です。
  新人の戦闘要員ではなかなか荷が重いかもしれません。遭遇した場合は、しっかり隊を守ってあげてください。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 熱砂の大地、我らの旅路完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
クィニー・ザルファー(p3p001779)
QZ
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強のダチ

リプレイ

●キャラバンの旅立ち
 明け方、日も登って早い時間。
 アルステンの街の入り口に、イレギュラーズ達、そしてトネエルのキャラバン隊は立っていた。
「では、これより一週間、よろしくお願いします」
 緊張した面持ちで、トネエルがイレギュラーズ達へと頭を下げる。固まっているのが、イレギュラーズ達にも理解できた。
「ま、そう硬くならずに行こうぜ?」
 『最期に映した男』キドー(p3p000244)が、トネエルの肩をポンポン、と叩いた。
「アンタにとっちゃ、経験不足で不安だろうけどさ。リーダーはそう言う気持を見せずに、泰然自若としてるもんだぜ? じゃなきゃ仲間もブルっちまうしな!」
「そうそう、頭(ヘッド)ってのは頼られなきゃな! でも、ちゃんと隊員の意見も聞いたりするんだぜ」
 『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)が笑顔を見せながら、言った。
「偉そうに言ってっけど、砂漠を旅するキャラバンなんて、俺にとっちゃ絵本とか漫画の中の話だったからな。正直一寸、楽しみなんだわ! だから、助け合いっつーの? そう言う感じでシクヨロ! ……あ、戦闘隊長の子、キッシュちゃん? あの子紹介してよ。いやいや、悪い意味じゃねーよ? 戦いのアドバイスとかしなきゃだからね?」
 気さくに話しかけてくるキドーや千尋に、多少は緊張もほぐれたようだ。トネエルは表情を崩しつつ、頷いた。
「おっとー、君らが領主サマが同行するってキャラバンだな?」
 と、街の方から一人の男がかけてくる。それは『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)の領地の運営を手伝っているだ、ベンタバール・バルベラルの姿だった。
「おっと、お前の事を忘れてたよ」
 サンディが肩をすくめるのへ、「そりゃないぜ、領主サマ?」と皮肉気な笑みを返す。ベンタバールはこほん、と咳払い一つ。トネエルに自己紹介を済ませると、一通の封筒を差し出した。
「領地(ウチ)の場所と、住民に通じる合言葉が書いてある。確認したらよーく覚えて、燃やしておいてくれ。いざって時は、頼ってくれていい……後はお見送りってだけだ。くれぐれも気をつけてな、新人キャラバンの皆さんよ。領主サマも、熱中症とかになるなよな~」
「ガキの使いか!」
 ぺいっ、とぞんざいに手を振りつつ、サンディはそっぽを向いた。ケタケタという笑い声が背中から響く。
「あいつはもういい。出発しようぜ、トネエルさん」
 サンディの言葉に、トネエルは頷いた。
「では、改めて……よろしくお願いします!」
 その言葉に、イレギュラーズ達が頷いた。トネエルがキャラバンの皆に出発を告げて、各々が返事をするのを、イレギュラーズ達は見ていた。
 それは、これから新たなキャラバンが、新たなパサジール・ルメスの民が産声をあげる瞬間だった。

●砂漠の旅
 当然というべきかなんというか、砂漠の旅は過酷な環境との闘いでもある。
 実際に砂漠を歩いてみれば、如何に過酷な環境とは言え、自分たちもそこで生きる一つの命だと思い起こさせるかもしれない。
「ねぇねぇ、トネエル、あっちの方にも道があるみたいだけれど、そっちは使わないの? こっちの道より、ずっと広いみたいだけれど」
 上空からあたりを監視……というより、ぷかぷかと浮かんでのんびりしていた『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)が声をかける。トネエルは、「ええ」と笑って、答えた。
「使うには使うのですが……この時期は使いませんね。あっちは砂漠の川なんです」
「砂漠の川? 砂漠に川があるんだ? でも、水はないみたいだけれど……」
 クィニーが小首をかしげるのへ、トネエルは笑った。
「ええ、雨期や、雨が降ると、あそこに水が溜まって流れるんです。乾期では道として使いますが、今は雨期に近いので、天候が読みづらくて……」
「へぇ、砂漠にも雨が降るんだね……砂漠に流れる川ね。なんか不思議な心地」
「雨期の旅も楽しいですよ……と言っても、独立する前、父に連れられてのことなので、気楽でしたが」
「んふふ、気楽な方がいいべ? のーんびり行こうよ。ほら、空綺麗だよぉ」
 うーん、と空中で伸びを敷みせるクィニー。トネエルはその様子に笑ってみせた。残る緊張を、しっかり解せたようだ。
「そうだ。リーダーはそうやって笑っているくらいが丁度いい」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)がそう言った。傍らには、量産型ハイペリオン様が居て、相槌を打つようにばさっと翼を広げた。
「だが、時に迷い、時に責任を負い……愚痴や不安を吐き出したくなることもあるだろう。そう言った相手を作ることも重要だがね。今回は、俺で良かったら話を聞こうじゃないか。良い酒もあるんだ」
「おっとぉ、マジで? 流石ヤツェクの爺さん、俺もお酒楽しみたぁい!」
 キドーがてくてくとやってくる。
「キドー、アンタもよく嗅ぎつけてくるな。ま、楽しむのも昼の仕事が終わってからだが。アンタの経験から言って、この辺は『どう』だ?」
 キドーは頭を振った。
「んー、論外。まだ街にちけぇし、こんな所で襲ったら即増援がとんでくるわな! おんなじ理由から、野生の獣もそうそうこねぇよ。だからトネエル、まだ心配しなくていいぜ! 俺だったらまぁ、襲うなら明日、街から最も遠く離れた地点、それか山に入ってからだな!」
 つまり、キドーの経験から、この地点は敵の襲撃に適しているか、という問いであった。答えはNO。気を抜いてはいけないというわけではないが、それでも他の地点よりは安全だという事だろう。
 トネエルは苦笑しながら、
「なるほど……勉強になります」
「キッシュたち戦闘要員にも伝えておいた方がいいだろう。年中気を張ってたら本番で力を出し切れない。程よく気を抜くのも長生きする秘訣さ」
 ヤツェクの言葉に、キドーは笑った。
「その辺は千尋が話してるだろうぜ。で、酒……じゃねぇや、今日の野営地はどのへんよ?」
「ここからもうしばらく進んだところに、小さなオアシスがありますので、そこまで進みます。他のキャラバンの方と会える可能性もありますね」
「おっ、そっちもいい酒持ってねぇかなぁ。じゃ、もうひと頑張りするか!」
 キドーの言葉に、トネエルは頷いた。

 熱砂の砂漠を進み、小さなオアシスへと到着する。一行はオアシスにて野営をとる事を決め、準備を整えていた。
「なるほど、パカダクラの生態には驚かされるものだな」
 『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)は、自身の愛馬にオアシスの水を飲ませながら、家畜担当のトーマスへと言った。彼はまだ少年と言っても差し支えのない年齢だったが、義弘も驚くほどの動物知識を持っていた。
「馬もいいんですけれどね。砂漠だと、やはりそこに適応したパカダクラの方がいろいろと便利です。体力もありますし、ミルクや肉は食事として重要です。でも、ラサから離れた時は、なじみの牧場にパカダクラを預けて、馬を使う事もあります。適材適所ですよ……ところで、亘理さんの馬は、よく訓練されてますね。僕でもここまでは、中々」
「まぁ、軍馬ではあるからな。相棒は我慢強い方だと思う。今日もよくついてきてくれた」
「馬の扱いに慣れてますね。流石です。亘理さんに乗馬を習った皆も、喜んでましたよ、パカダクラの方は慣れてますが、馬の方にはまだ不慣れな子も多くて」
「その分、おまえさんがたには、パカダクラの扱いには世話になった。随分と色々教えてもらったよ。楽しかった……ふっ、楽しかった、か」
 義弘はくっくっ、と笑ってみせた。
「まるで遠足に来たガキみたいだ。年甲斐もなくはしゃいじまった」
「いいと思います。楽しむのが旅だって、父が言ってました」
「おいおい、おまえさんみたいな年齢の子にフォローされちゃ、それこそ本当にガキになっちまう!」
 義弘は楽しげに笑ってみせた。ただ、義弘にもワクワクと感じさせる魅力が、このキャラバンの旅路にあったのは事実だろう。

 日が落ちてから、一同は夕食をとった。比較的傷みの速い、生の食材がふんだんに使われたものだった。ちなみに、千尋が持ち込んだ味噌は大変な珍味として重宝がられていた。塩分も取れて保存も利くとなれば、キャラバンにとっては貴重な食材に間違いないのだ。
 交代で見張りにつきながら、休息をとる。
「やっぱり砂漠の夜は冷えるね」
 ぽろん、とギターなど鳴らしつつ、『新兵達の姉御』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が言った。目の前には焚火が照らされていて、見張りを担当した者達が集まっていた。
「うむ。慣れたものかと思ったが、やはり砂漠の寒暖差は人には堪えるだろう」
 『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)が、鼻を鳴らしながら言った。索敵のために、匂いをかいでいるのだ。
「ミルヴィ姉さん、愛無、寒かったら毛布を出すよ」
 キッシュが言うのへ、
「んー、大丈夫。アタシもラサは長いからね。慣れてるよ」
「僕も不要だ。キッシュ君、君の方こそ気を付けるがいい」
 二人が断るのへ、キッシュは笑った。
「ん、私も大丈夫。それこそ慣れてるから。……それにしても、やっぱりみんな、ローレットの人なんだね」
 キッシュは焚火の前に座り込むと、苦笑した。
「サンディたちに訓練してもらったけどさ、ほんとに相手にならない感じ。それに、知識も全然上だし。やっぱり本職は違うなぁって思った」
「まぁね。色々修羅場をくぐっているし」
 ミルヴィが苦笑する。
「気を悪くしないでほしいのだが、出来立てのキャラバンの護衛と一緒にされては、僕たちとしても立つ瀬がない」
 うむ、と愛無は唸った。
「畢竟、君たちより強いから、こうして雇われているのだ……故に落ち込むことははない。一応、フォローのつもりなのだが」
「分かってるよ。でもさぁ、うーん、前のキャラバンではそこそこ動けるつもりだったから、分かれてからリーダー任されたつもりだったんだけどね」
「んー? キッシュちゃん、中々筋は良いと思うよ?」
「千尋! 起きてたの? それってホント?」
 千尋が手を振りながら、焚火の方へと近づいてくる。目を輝かせるキッシュ。
「マジマジ。俺が言うのもなんだけど、シュッとしてるって言うかさ。ちゃんと皆のこと見てるじゃん? リーダーの資質あるって」
 ウインク一つ、慰める千尋の言葉を、素直に受け取ったキッシュが気恥ずかしそうに笑う。日中の交流の成果もあるが、各国で戦い英雄視されるローレットのイレギュラーズに褒められたのは、それは嬉しいものだ。
「でも、油断しちゃダメってね。ほら、見張り交替。今日はもう休みな」
「ありがと、千尋! じゃあ、また明日ね!」
 キッシュが手を振りながら去っていくのへ、千尋もまた手を振り返した。
「やだ、女ったらし?」
 意地悪気にミルヴィが笑うのへ、
「いんやぁ、紳士なだけだって」
 千尋は肩をすくめて返した。
「ふむふむ。これがナンパか」
 愛無は目を細めてみた。

 翌朝から、オアシスの街へと向けて、一行は進む。道中、キドーの予測通りに獣の気配が濃厚になるが、愛無やクィニーの索敵により早期に発見され、キッシュ達の訓練にも利用されていた
 イレギュラーズ達の指導もあり、道中はさしたるトラブルなく、一行はオアシスの街、『バナンの恵み』へと到達する。此処でゆっくり休息をとった一行は、さらに東、『ネスタイ山道』へと足を踏み入れた。

●山道の旅
「ちっ、数が多いな……QZさん、後ろの方はどうなってる!?」
 サンディが舌打ち一つ、山賊へと矢を放った。けん制射が山賊の足を止める。
 山道に入ってから二日目、出発の気が緩んだタイミングで一行は山賊の襲撃を受けていた。もちろん、こちらにはキドーやサンディというプロフェッショナルがいるほか、愛無やクィニーの索敵は行われていたため、完全に奇襲を受けたわけではないが、キャラバン隊には動揺が広がっている。
「大丈夫、皆ちゃんと戦ってくれてるよ!」
 クィニーが言う。
「キッシュさん、まずは落ち着いて。『人』と戦うのは初めて……だべ?」
 こくこくと頷くキッシュに、クィニーは少しだけ微笑んで。
「分かった。離れてて……でもみんな、目をそらさないで。しっかり焼き付けて……命のやり取りを」
「見てろよ、新兵共! 戦い方は獣と同じだ! 自分の役割を忘れるな! 盾になる奴、剣になる奴、傷をいやす奴!」
「クソが、ガキのおもりかよ!」
 サンディが叫ぶのへ、眼前の山賊が吐き捨てた。
「今はな! でもこれからすぐに大人になる……いいかお前ら、もっとも重要な事だ! 倫理とかそう言うのはいったん棚に上げろ! この瞬間だけ命に優劣をつけろ! 優先すんのは自分・仲間! 敵は何段も下だ! だから――」
 サンディは駆けた。一気に接触すると、顔面をぶん殴った。ぐえ、と悲鳴を上げて山賊が倒れる。
「躊躇はするな。慈悲もかけるな。そして慣れろ。お前らは、命を預かってるんだ」
 すごむように、サンディは言った。神妙に、キッシュ達戦闘要員が頷く。
(……まぁ、流石に血飛沫はヤバいだろうから、気絶させただけなんだけどな。とりあえず、心意気だけでも学んでくれりゃぁ)
 内心で苦笑しつつ、サンディは気絶した山賊に軽く蹴りを入れた――横合いから、ぶん殴られたと思わしき山賊が吹っ飛んできて、ぎゅう、と息を吐いて倒れて気絶した。
「おう、カタギに手を出すんじゃねぇよ」
 ふん、と鼻を鳴らしてやってきたのは、義弘である。山賊をぶん殴ったのは、義弘らしい。
「おう、あらかた片付いたぜ。キャラバンへの被害はゼロだ」
 それから、戦闘要員たちに視線を向けると、
「慣れとけ……とは、もう言われたか。じゃあ、あー、そうだな……」
 義弘は困ったように頭を掻くと、
「あー……こういうのは苦手でな。QZ、おまえさんに頼めるか」
「いいよー」
 先ほどまでの引き締まった表情とは違い、ゆったりと崩した表情で、クィニーは言った。キッシュ達の前にとことこと歩いていって、
「うん。怖かったべ? 大丈夫、もう終わったから。でも、忘れちゃだめだよ? いつかは皆も、戦わないといけないんよ。今日は代わってあげる。いつかは、自分たちで戦うんよ」
 それから、にへら、と笑顔を見せて、
「うん、もういいよ。また旅を楽しもう! あ、飴食べる? たくさんあるよ~」
 と、ポケットから飴玉を取り出して、緊張を続けるキッシュ達の口へと放り込むのであった。

 六日目の夜。野営を行う最後の夜。低山岳地帯は終わりに差し掛かり、明日の昼頃には最後の目的地、『クレダイの街』の街へと到着するだろう。
「いやぁ、アンタらよく食うしよくの飲むね! アタシも食事の作り甲斐があるよ!」
 レイッシュおばさんがケタケタと笑うのへ、キドー、そして義弘が楽し気にグラスを傾ける。
「いや、おまえさんの料理が美味いからさ、酒が進む」
「そうそう、それにこのエビっぽいの何処で仕入れたの? 美味いじゃん!」
 キドーが甲殻類のはさみみたいなものから身をほじくりパクつくのへ、
「ああ、そりゃアンタが倒したデススコーピオンのはさみだよ。ミルヴィが食べられるって教えてくれたのさ」
「おげえええええっ!!!」
 キドーが大げさに頭を抱えて見せる。
「魔物料理でもしっかりソースと美味しい生地に包んで食べれば美味しいでしょ♪」
 ミルヴィが遠くから声をかけるのへ、キドーはゲラゲラと笑いながら、
「確かにこれはこれでうまーい! さっきすれ違ったキャラバンと交換した酒もうまい! 労働から解放された喜びを感じる!」
「ま、実際アンタもだいぶ働いてるからねぇ。昨日、隊から離れて先回りして出てきた時は驚いたわよ!」
「でしょ! 俺の業もまだまだ死んでねーわ! 出てきたのが俺で良かったよね、賊って、ああいう独自のルートで先回りして挟み撃ちにしたりすんのよ。まぁ次はちゃんと警戒してね? おばちゃんも!」
 ガハハ、と笑い合う、一同。酒と食事が進む中、軽快なリズムと共に、焚火の前で二人の女性が踊っている。
 一人は、ミルヴィ。もう一人は、キッシュだ。
「そうそう、上手いじゃん、そこでクルっと回って♪」
 くるり、と回転するキッシュが、とてん、と尻もちをつく。むぅ、とうなるキッシュへ、
「おっ、キッシュちゃんじゃん? 何、ダンス?」 
 と、声をかけたのは千尋だ。キッシュは顔を赤らめながら、
「う、うん」
「明日の商売の時にさ、客寄せに踊ろうと思って。音楽は、ヤツェク」
「よっ。こういう時に、おれのギフトは役に立つってもんさ」
 ヤツェクがウィンク一つ、ギターを鳴らして見せた。キッシュは上目遣いで探る様に、
「お、踊れたら……千尋は見に来てくれる?」
「おー、うん、もちろんよ!」
 その言葉に、ぱぁ、と顔を顔をほころばせ、キッシュは立ち上がった。
「ミルヴィ姉さん、もう一回、お願い!」
「うん! じゃ、さっきの所からもう一回ね!」
 くるり、ぴょん、と踊る二人を眺めながら、千尋は顎に手を当て、
「うーん、脈あり?」
「ふっ。まぁ、かっこいい所を見せていたのだろう? 実際、戦闘教導はほとんどアンタとサンディでやったようなもんだ。随分と懐いてるよ」
「おっ、俺って罪づくりじゃん?」
「そう思うなら、明日はちゃんと踊りを見てやれよ」
 ヤツェクは言った。
「明日でお別れだ。せめて思い出くらいは、綺麗なままでな」
「……なんかそれ、俺ダメ男っぽい言い方じゃない?」
 千尋が肩を落とすのへ、ヤツェクは笑った。

●旅の終わり
 かくして一行は、翌日の昼に『クレダイの街』へと到着した。一週間。短いような、長いような旅だった。その中で紡いだ絆は確かにあった。
「皆さん。ありがとうございました。本当に……」
 トネエルがそう言うのへ、ミルヴィが頷く。
「こっちこそ、仕事とはいえ、楽しかったよ。さ、これから商談始めるんでしょ? 頑張って」
「それなのですが――」
 と、声がかかった。声の先に居たのは、商人ギルド『ジャウハラ』の、ムゥ・ル・ムゥという女性だった。
「お待ちしておりました、パサジール・ルメスのキャラバン隊の皆様。まずは初めての旅の完遂、おめでとうございます」
 自己紹介を行いつつ、にこり、と笑う。
「僕の知り合いだ。君たちの門出の祝いとうわけではないが、呼んでおいた」
 愛無がうんうんと頷いた。
「彼女はこう見えても、優秀な商人だよ。君たちが初めてコネを作るのにふさわしい相手だと思う。ラサは魑魅魍魎蠢く地ではあるが、彼女は清廉潔白だ。僕が保証しよう」
「……というわけで、さっそく。部下を待たせていますので、宿までご足労願えますか?」
「よ、良いのですか?」
 尋ねるトネエルへ、愛無は頷いた。
「無論。気が向けば僕の街にも来てくれ。それなりに商売にもなるだろう」
 感激する様子のトネエル――をしり目に、ムゥはこそこそと、愛無へと近寄り、
「えっと、これで、愛無様がディルクさまとお会いになる時に、私にもご縁をくださると」
「そうだね。僕とディルクが会うような事が有ったら、その時考えよう」
「やったー! お願いしますよ! 愛無様!」
 どうやら裏取引があったらしい。とはいえ、愛無は一切「ディルクに会わせる」などと確約はしていないしそもそもできないのだが、恋する乙女は盲目であったので、こういう事である。
 ……まぁ、将来有望なキャラバンと縁を結ぶことは、ジャウハラにとっても悪い事ではないので良し。

 さて、希望を胸に、新たな一歩を踏み出したキャラバン隊の背中を、イレギュラーズ達は見送った。
 一週間の旅は、イレギュラーズ達の胸にも、様々な思いを残しただろう。
 ひと時、混じり合った縁。
 それを思いながら、イレギュラーズ達はまた、次の旅路を行くのである。

成否

成功

MVP

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、トネエルのキャラバンは、新しい一歩を踏み出しました。
 皆さんが背中を押したこのキャラバンは、きっと世界に名をはせる事でしょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM