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シナリオ詳細

<フィンブルの春>ダモクレスの剣

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 古廟スラン・ロウには何もなかった。
 何もなかったのだ――それが問題だ。


「――困った事になりました」
 言うは『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(p3n000077)だ。
 彼は幻想における混沌とした貴族闘争の出来事には常に頭を痛めている人物でもあるが――今回思い煩っている事は違う。
 それは勇者候補生と言う存在。
 彼らはにわかに巻き起こっている勇者という存在へ追従しようとしている者達だ。ブレイブメダリオンを手に入れ、自らも勇者にと……それは力自慢の民が名乗りを挙げていたり、一部では貴族の手も介入しているという。
 勇者総選挙に乗じる貴族達の思惑はともあれ……ここに来て増える勇者達。
 彼らが魔物の討伐に積極的に協力してくれるのなら是非もない。
 が、イレギュラーズ達とは異なり勇者候補生達は必ずしも全てが優れているとは限らないものだ。中には勇者と言う座に憧れる夢見がちな少年少女も混じっているという話もある……いやそればかりか偽造されたメダルを手にして勇者の名誉を目論む偽勇者なる不届き者も。
「まぁ百歩譲ってそういうのがいるのは良いとしましょう。いえ偽勇者の方は決して良い訳でありませんが……
 ともかく、彼らは功を求めて各地の魔物出現地域や――スラン・ロウへと侵入する者もいる様なのです」
「スラン・ロウへ?」
 ガブリエルの言う言葉に疑問符を付けるのはアルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)だ。
 古廟スラン・ロウ。それは王権の象徴とされる『レガリア』が安置されて『いた』地。
 ……もう過去形の事だ。先日、アルヴァらイレギュラーズをフォルデルマン三世が伴って行われた調査にて、スラン・ロウからレガリアの消失が確認された。破壊された訳ではなく、明らかに誰かが持ち去っていたのだ。
 目下の所その方法は不明である。王家の者しか開けられぬ筈の扉を誰が……
 ともあれ元々王家由来の地として秘匿されていたのがスラン・ロウなのだが――やはり人の口には戸が立てられない様で、かの遺跡の位置は徐々に外にも漏れ始めていた。興味本位や事件解決の為にと内部に侵入しようとする者が時折確認されているらしい。
「ですが、非常に残念ながらあの地には何もないのです」
「――もう一度スラン・ロウの調査を行う事は出来ないのか?」
「……イレギュラーズの皆さんであればスラン・ロウに立ち入るもやぶさかではありませんが、成果が出るとは限りませんよ?」
 王家由来の地に無断で立ち入るのも問題だが――それ以上にあそこは、先述の通りイレギュラーズ達が調べている。しかしレガリア以外にめぼしいものは無く……いやそれ所か不自然な程綺麗に侵入者の痕すらなかった。
 不正侵入だというのならどこかにそういう形跡がありそうだが、無いのだ。
 穴が掘られた様な跡もなく。
 手がかりは一切。
「だけどあの時は突然現れた巨人達もいたし、そう長居は出来なかった」
 それでもとアルヴァは言う。
 以前とは状況が異なる――当初はフォルデルマン三世が自信たっぷりに『魔物なんていないぞ!』なんて言ってたが、まるでフラグであったかのように強襲してきた巨人達がいたのだから。
 不測の戦力が訪れる場にてどれだけ長居で着ようか。
 ましてや『万が一』があり得てはいけない国王陛下殿もいたとなれば……
「……成程。確かに入念な調査を目的に行くのであれば別かもしれませんか」
 ふむ、とガブリエルは顎に手を当て思案を。
 ――いまや幻想国内ではメダリオンの功を求めて魔物達への大攻勢が行われようとしている。確かにそれに伴ってもう一度スラン・ロウを調べてみてもいいかもしれない。

「――失礼します、伯爵。お忙しい所恐縮ですがご相談が……」

 と、その時。新たな来訪者として現れたのはリウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)だ。ノルン家はバルツァーレク派であり、その縁もあってかリウィルディアは何度かガブリエルと言葉を交わした事もある間柄……そんな彼女がここにいる事に不思議はなく。
「ああリゥイルディアさん、どうぞ――貴方もスラン・ロウの件でしたね」
「はい。先日、統治している都市ミミルに巨人の亡霊の様な者達がやってきまして……それは皆の協力もあって撃退したのですが、その件について調べていたら一つの伝承に行きあたりまして」
 彼女が語るのは、彼女自身が統括している都市ミミル……その語源にもなった泉の話だ。
 その泉を狙って巨人の亡霊が襲来。結末だけを述べるならばイレギュラーズ達の助力もありその件は片付いた――ものの、何故『巨人』があそこに現れたのか。人も狙わず泉を優先して……気になり調べた結果辿り着いたのが。

「イミルの民……ご存知でしょうか、伯爵」

 イミルとミミル。
 非常に似通った名前だ――もしかすれば発音程度の差かもしれない。
 ……ともあれイミルの民とは遠い昔、今の幻想と呼べる地域の一角に存在していた一族だ。それらは勇者アイオンによって講和――が結ばれる前に、豪族クラウディウス氏族に騙し討ちされる形で滅亡の憂いに会う。
 やがてイミルの民は『人ではない者』になり果てて怨念のままにスラン・ロウの地にて決戦をしたとか……
 ミミルの泉は、その当時。
「当時――イミルの民とも繋がりがあったという書物を見つけたのです」
 己が兄、今は失踪しているアルテリウスが所有していた書斎館にて。
 古い本だった。真偽の確認はまだ出来ていないが……
 当時イミルの民の一部はミミルの泉に神秘が宿るとして度々訪れていたという。ある種の信仰でもあったのかもしれないが、とにかくイミルの民は頻繁に来訪を。その結果で名付けられたのが『イミル』が崩れて『ミミル』となったという説。
「ふむ……興味深い話ですね。イミル=ミミル説はともかく、イミルの民というのは実際に存在した一族です。そしてリウィルディアさんの領地に現れたのもまた事実」
「はい――それ故に、イミルの民と縁が深いスラン・ロウへと参りたいのです」
 もしも本当に繋がりがあるのならば、また奴らはミミルへと来るかもしれない。
 しかしイミルの民の――そうでなくても巨人達の情報は不足していた。
 対策を立てようにも立てづらい。
 彼らの在り方を示す様な……そんな情報がスラン・ロウにあればと。
「……リウィルディアもこう言ってるんだ。考えてくれねぇかな」
「いや、ええ――もはや考えるべくもありませんね。
 それに。スラン・ロウに無遠慮に入り込む輩がいるのもどうせ問題なのです」
 故に、とガブリエルはアルヴァ達へ紡ぐ。
「ではスラン・ロウへの立ち入りは私の方から陛下へと話を進めておきます。
 皆さんはかの地へと。もしも皆さん以外の侵入者がいれば退去させてください」
 それは勇者候補生や、或いは。

「巨人の様な存在が再び現れようと――です。よろしくお願いします」


「なぁこの先に本当に遺跡があるのか?」
「ああ間違いないぜ。なにせお貴族様からの情報だからな」
 ――古廟スラン・ロウ。
 その中を進む一団があった。数にして十、いや二十人程度だろうか。
 彼らはスラン・ロウに配置されている侵入者用の罠を解除しながら奥へと進んでいる……その理由は無論、昨今幻想を騒がせている魔物騒動の手がかりを得る事が出来ればという利己的なものだ。
 彼らは勇者候補生。
 名誉を求めて侵入している者達である。
 しかしあながち名前だけの者ばかりという訳でもなかった。中には元々傭兵あがりの者もいるのが、腕に自信のある者もいるようだ。罠の解除も容易く。周囲を警戒する目線をスムーズに張り巡らせる者もいて。
「だけどよ、この遺跡にはもうめぼしいものは何もないっても聞くぜ?」
「まぁ行くだけ行ってみようじゃねぇか。もしかしたらメダリオンが一枚ぐらい落ちてるかもしれねぇし……なんだったら王家由来の品がなんかあればよ、こっそり頂いていくチャンスだぜ?」
 同時。貴族にでも売り払えば金になると、口端吊り上げ笑みを見せ。
 荘厳あらたかとも言うべき自然の中を進んでいく――その時。

「お、おいなんだありゃあ……?」

 一人が気付いた。指差す先は、空の彼方。
 ……スラン・ロウには何もなかった。レガリアも、侵入の跡も。
 されど無から有が生み出されるなど無いのだ。
 だからあそこに巨人達が『どこから』か現れたというのなら。

 それにはきっと何か、理由がある筈なのだ。

 ――空に亀裂が走る。
 何もない筈の場所。しかしそこには恐らく『壁』があったのだ。
 見えない事が正常。触れる事が出来ないのが正常。何もないのが正常。
 誰も気づかないのが――正常。
 それは封印。かつて人ならざる者へとなり果てたイミルの民を封じ込めた勇者王らの結界。
 それを覆うがスラン・ロウ。それを隠すがスラン・ロウ。
『おぉ……ついに外へと出れたか』
 そして。亀裂を破る様に外へと這いずり出てきたのは巨大なる人。
 その背に翼を携えた――大空の巨人。
 奴が見据えるのは地上。驚くように巨人を眺めている――人間達。
『――聞け同胞よ。我らが女神に……偉大なるフレイスネフィラ様に供物を捧げるのだ。死の神に死の供物を!』
 掲げる槍。
 その背後には少しずつ、少しずつ広がりを見せている――封印の亀裂が存在していた。

「はは――なんでしょうねアレ!
 巨人が空を飛ぶとかファンタジーでしょうかファンタジー!」

 しかしその時。
 出現した巨人達に驚嘆し、動きに乱れを見せる勇者候補生達とは別の方向から至っていたのはイレギュラーズ達であった。太陽の眩しい日差しから瞳を守る様に手を翳しながらあちらを見据えるのは――夢見 ルル家(p3p000016)である。
 激しく地上部へと行われている攻撃……おお轟く振動がここまで届いてくる。
 あれは一体なんだというのか。なんでも過去に行われたイミルの民との戦い――スラン・ロウ決戦の後、聖女フィナリィが巨人達を封印したという話をなんだか聞いた事がある気がするが……まさか。
「緩んだから出てきたって事でしょうか?
 でも前は確かフッツーの巨人しかいなかったんですよねぇ」
「時間が経ってより上位もッてか? まずいな」
「――とにかく急ごう。あそこが『割れた』のはついさっきみたいだ。あの大槍を持っている個体から強い力を感じるけれど……逆に言えばあの個体を倒せばまだ間に合うかもしれない」
 ルル家の言にアルヴァとリウィルディアもまた続く。
 調査に来たつもりがなんたる惨事だ。しかしそう時が経っていない事態であれば……むしろこれは僥倖と見るべきだろうか? 彼らの調査の行動がなければこのタイミングでここへ訪れる事は出来ていなかったのだから。
 まだ間に合う。被害は最小に抑えられると――跳躍した。

GMコメント

●依頼達成条件
 『好天者』ペッティト・クレラの撃退。

●フィールド
 古廟スラン・ロウ。
 元々は何らかの社であったとされています。
 内部に入ると周辺から不思議な神秘の空間である事を感じるでしょう――この地では精霊や使い魔の類の動きが非常に鈍くなります。結界か何かが張られているのかもしれません。その影響か動物の類もいないような……
 周辺は自然が多く、木々に満ちています

 しかし今はその上空に巨人がいます。
 更にその背後には空に走る亀裂があり、段々と広がりを見せているような……
 また彼らの攻撃により地上部はあちこち酷く傷ついてます。
 元々は侵入者用の罠などもあったのですが……余波によりもう起動していません。気にする必要はないでしょう。

●敵戦力
 『好天者』ペッティト・クレラ
 巨人でありながらその背には翼があり、空を舞う事が可能です。
 更にその手には体躯に見合ったサイズの槍を抱いています。
 その槍は振るわれれば風を巻き起こし地を薙ぎ、突けば地上にまで斬撃を届けます。シナリオ開始時は地上から約30m上空に陣取っている様です。地上に降りてくる意志があるのかは今の所不明です。
 その攻撃には痺れ系列や乱れ系列のBSを付与してくる効力が見られます。
 他の巨人よりも明確な知性と実力が垣間見える存在です。必ず撃破してください。

 奴はとにかく地上にいる人間を殺そうとして来ます。
 その目的は虐殺であるかのようです。

・巨人×20
 ペッティトに続いて地上の人間達を襲う巨人らです。
 奴と同様に翼を持った個体がいます。が、ペッティトと異なり全てが遠距離攻撃を扱えるわけではないようです。空から強襲する様に槍を振るって来る近接型の個体が多数を占めます。時折火炎系列や出血系列のBSの攻撃を行ってくる者もいる様です。
 この巨人達は一定時間ごとに1~2体ずつ、ペッティトの背後にある亀裂からフィールド内に増援として訪れてくる事があります。

 またペティットを含めてですが『人の死』が発生する度に強くなっている……様な気がします。

●空の亀裂
 元々彼ら巨人を封じていた――と思われる結界です。
 しかしレガリアが奪われ結界の力が弱り始めていたのか、ついに亀裂が走ってしまいました。巨人達はこの亀裂を更に広げようとしているようです。ペッティトを撃退するか倒すとこの亀裂は自動的に修復され閉じますので、その時点で巨人の増援は無くなります。

 ただしフィールド内で死者が発生すると亀裂の速度が速くなるようです。

●勇者候補生(味方NPC)×20
 名誉や夢を求めてやってきた勇者――の地位を後追いする候補生達です。
 勇者候補生はイレギュラーズとは異なりますので実力が伴っていない者が多数いるのですが……中には貴族に雇われたのか支援を受けたのか腕の立つ者もいる様で、ペッティトを除く巨人であればそれなり以上に戦える人物も存在しています。ただ全体的に劣勢気味です。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <フィンブルの春>ダモクレスの剣完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年04月30日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

リプレイ


 巨人。それは昨今幻想各地を騒がせている者らに違いあるまい――
 だがまるで鳥類の様に、或いは飛行種の様に空を舞うとは。
「空飛ぶ巨人、これはこれは……
 高い所から見下ろして全能者気取りです?
 ああ! 派手な登場でしか力を誇示できないとは! なんたる喜劇でしょうか!」
 思わず大口開けて笑みを零してしまうものだと『無限循環』ヨハン=レーム(p3p001117)は言葉を紡ぐ。魔刻開放――秘めた力を開放し、圧倒的な魔性をその身に纏いて、行くはあの巨人共の下へと。調査に来た筈がとんだ事態になったものだ。
「オイオイ……ったくよ、様子を見に来てみりゃどういう了見だ。
 あの質量で空を飛ぶなんて反則にも程があるだろ。それとも中身はスカスカか?」
「さて――しかし如何なる者達であろうと、人間の虐殺など到底見過ごせる筈もない」
 これよりはかつて封じたとされるアイオンに代わりこの戦いを沈めてみせるべきだと『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は空駆ける『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)に次いで一刻も早く現場へと。
 巨人共が武を振るっている場所にはどうやらイレギュラーズ達以外の人間が来ているようだ。
 勇者候補生か、或いは偽勇者か……この際スラン・ロウへの不法侵入云々は問うまい。
 ――命を散らせるわけにはいかないのだから。
 往く。一直線に向かう彼らは時もそう掛からずして戦場へ――
 放たれるは紅き稲妻。槍術の一端にして剛閃がベネディクトより放たれれば。
「はー! 近くで見るとよりでっかいですね――!! あれらの巨人がイミルの民ということですかね? はてさてもう人じゃありませんがあんなの!」
「な、なんだアンタら! いやまさかアンタらイレギュラーズ……!」
「さ! とにかく皆さん、傷が深い人はすぐ下がってください! 彼らはどうやら死人が出ると――強くなるみたいなので!」
 次いで『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)もまた勇者候補生達と巨人らの間に割り込む様に跳躍。とにもかくにもまずはこのオトモの巨人共を減らさねば話にならぬと。
 特に奴らは命を求めている。神に捧げる供物と……
 死をトリガーにして彼らもまた力を取り戻すのだろう。
 させる訳にはいかない。勇者候補生達が死なぬ様に押し返さねばヤバヤバのヤバである! 情報によれば勇者候補生にはそれなりの実力者が混じっている事もあるとの事であったが大半はそうではない。巨人に攻め立てられれば一溜りもない者もいよう。
「まぁ、逃げたい奴が逃げるくらいの時間は稼いでみせるさ」
「兎は、跳びはねるもの。捕らえられるなら、捕らえてご覧なさい……!」
 故にアルヴァが飛翔しながら彼らの注意を引くように立ち塞がり。
 同時に『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)も跳躍しながら名乗り上げる様に立ち回る。いずれの場合も己らに注意を向けんとするものだ――勇者候補生らに犠牲を出させぬ為でもあるし、奴らを多く引き付けて……
「巨人さんには申し訳ないけれど。帰ってもらわなくちゃ! 暴れされる訳にはいかないわ!」
「ああ――そうだな。これ以上この大地で好き勝手させる訳にもいくまいよ。
 呼ばれていない舞踏会に訪れた者は決して来客と呼べるような存在でもないのだから」
 一網打尽にする為でもある。
 『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)は己が嫁殿に言葉を紡ぎながら――舞台の幕を開けんと跳躍。自らに施した無限の紋章が力を呼び覚まし、続けざまに放つ闇の月が敵のみを穿つのだ。
 聞けば世話になっている者の領地にも彼らは現れたという。
 無作法に各地で暴れる存在を見過ごせようか――なぁ。
「リウィルディア殿」
「ああ……ふむ。彼らは巨人族、とでも呼べばいいのかな。それとも昔に沿ってイミルの民と呼ぶべきか……まぁどうであるにせよ今は人に害を成す脅威であることに変わりはないからね」
 この手で始末をつけてあげるとしようか――鬼灯が寄越した視線の先で。
 言うは『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)だ。
 彼らは以前、リウィルディアの預かる領地に無断で踏み入った愚か者たちの同族……いや、ここはその事情を聴いてやるべきだろうか? その場合でもまずは奴らの殺意と脅威を取り除いてから、だが。
「勇者候補生諸君――今は協力し合おうじゃないか。アレが我々にとっての共通の敵であることは確かな筈だ。退くも立ち向かうも我々が相争う余地はないように見えるが」
「うっ――それは、確かにそうだな」
 彼らはスラン・ロウへ不法侵入した者達。正式に許可があるイレギュラーズ達とは本来相容れないが……しかし巨人の脅威を前に細かいことを言ってられる筈がないのだ。まずは襲撃された彼らの態勢を立て直す時間稼ぎと回復を行い――少しでも万全を取り戻す。
「敵を倒すだけが戦功ではありません。厳しい戦場からの生還もまた立派な戦功ですよ。
 今は共にこの場より生きて帰る事を願い、戦いましょう」
 そして彼らを援護するリウィルディアの動きの一助となるように『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は動くものだ。ギストールの惨劇も彼らのこの思想によるものならば……一人たりとも奴らは生かして返さぬだろう。
 死者が出るのは作戦的にも心情的にも望まぬ所。
 故に――候補生らの動きを支援しながら彼女も月の魔力を満ちさせるものだ。
 鬼灯と同様にそれは敵だけを穿ち、味方には害を齎さない。
 ――この方々には近づけさせまいと。
「さて。しかし奇妙な話だ……あるべき物が隠されているっていうより、まるで『何もない』がこの場所に存在しているようだぜ。はっ――我ながらなんとも要領を得ない表現だが」
 同時。しかし『そう』としか言えないと、天を眺めながら銃口を向けるのは『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)だ。これが封印なのだろうか。これが今まで秘匿され続けたものの正体だとでも言うのか?
 いずれ徹底した調査がされれば何かわかるかもしれないが――今は。
「いつまでも上から見下しているんじゃねえ! 引き釣り下ろしてやる!」
『――ふん。死に急ぎたい様だな、小人が』
「そういう如何にも『俺たちの方が優れていますよ』ってツラが気に入らねぇんだよ!」
 奴らの翼を打ち落としてやるのが先だと。
 巨人たちの中でも指揮官格であるペッティトへと撃ち込んでやる。それはまるで掠める様に。『今当てる事が出来たんだぞ』と暗に示すように――怒りを誘うのだ。奴めも相当な力量の持ち主かもしれないが、ジェイクの命中精度もさるもの。
 幾度も繰り返していればやがて引きずりおろすことも十分叶うだろう。
「降りてくればこちらのモノです。彼ら……イミルの民と言いましたか。なるほど中々興味深い方々です……前に戦った巨人も我らが初代国王陛下に恨みを抱いている様子でしたが、そういう事でしたか」
 そうして上手く奴を誘き寄せる事が出来たなら『悪徳貴族』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の出番だ。ペッティトは当然ジェイクを狙ってくるだろう……その彼を庇えばより長く全体の状況立て直せる時間が延びると。
 しかし――イミルの民。
 数々の話からようやく彼らの考えに触れ始めることが出来た、が。
「……それはそれとして、見下されるのって好きじゃないんですよね」
 太古の負け犬共が吠え散らかして鬱陶しい。
 彼の笑みは未だ崩れねども。
 その吊り上がる口端の先には――煩わしさの色が滲み出ていた。


 巨人達の攻勢は『激しい』という一言に尽きる。
 それは勇者王に対する恨みが故か。或いは封印から解き放たれた歓喜故か。
 ――いずれにせよ奴らの振るう武器には力が籠っていた。
 人を虐殺せんとする意志と共に。
「戦える方は頑張って下さい! 頑張れば伯爵に伝えますし、侵入も不問とするよう働きかけますから! ボーナス出ますよ! 多分! いいですよね伯爵! はいOK! 皆さんがんばりましょーね! 明日は給料日ですよ――!」
 それでも勇者候補生を交えたイレギュラーズ達の戦線は崩れていなかった。
 眼前。地上へと降りてきた巨人の一体にルル家が立ち向かう――周囲へ陽気な声を紡ぎながらも、その眼力は敵を捉えて自らに力を。鴉天狗の目を通して放たれる力の行使が巨人たちを穿つのだ――なるべく多くの者らを巻き込めるように位置取りながら。
「負傷者は下がらせてくれ! とにかく死者を出させないように! ここは――引き受けるから!」
「奴らは人の死を自らの糧にしている節がある。死ねばそれだけ奴らも手強くなるぞ、生き残る為に力を貸して欲しい……皆でこの場を乗り切るのだ!」
 その間にリウィルディアは周囲の状況を迅速に俯瞰し、指示を飛ばす。とにもかくにも奴らに殺させる訳にはいかないと、傷が深い者から治癒の力を齎すのだ――それでも当然巨人達にとってはそういう命の危機に瀕している者から狙ってくる。
 だからそういうのはベネディクトが防ぐのだ。
 アルヴァやネーヴェが全霊をもって多くの巨人を引き寄せているが、やはり全てとはいかない。しかしその穴を埋め、皆で未来を掴む為にこそ力を賭す意味がある。
「戦える者は共に! 戦場は俺達が切り拓く――続け!」
 皆を鼓舞するように彼は振舞って。

(ふむ。友軍とも言うべき彼らは玉石混合……僕が援護しても良いのですがここはリウィルディアさんに任せるのが吉でしょう。船頭多くて何とやら――とも言います)

 同時。ヨハンはそんな様子を見据えながら、己が役目を見定めていた。
 ここは指揮をダブらせるような場面ではない。それよりも今はペッティトに立ち向かう者らの支援を行うのが重要だ。この場で最も強いと目される個体が自由に動けばどうなるか分からぬ――だから。
「くくくっ、そんな姿になって……この程度ですか?
 人を辞めたにしては随分と非力であらせられる」
 ヨハンが紡ぐ治癒は――ウィルドに対して注がれるのだ。
 ウィルドが相対しているのはペッティトである。圧倒的命中精度を持つジェイクを邪魔に思ったか、奴はやはり集中的に攻撃を仕掛けてきていて――その撃に耐えうる様にウィルドは立ち回る。
 言葉を零すは挑発の様に。傷を負う事あらば、反射的に反撃も行いながら。
 彼は崩れない。
 常に防御の姿勢で耐え続けるのだ。ペッティトの撃にはその防御を崩すかのような負の要素が紛れており、ともすればいつ形勢が塗りつぶされても不思議ではないが――しかしそんな事は彼も分かっている事。
「皆さん、なにをボサッとしてるんです? せっかくイレギュラーズが巨人共を引きつけているんです。背後からサクッと攻撃すればあなたも『巨人殺し』ですよ? こんな美味しいチャンス、滅多に無い。さぁさこんな所にまで踏み込んで名乗り上げの好機に臆している場合ですか?」
 故に今の内に、まだ戦える力を持っている者を扇動するものだ。
 巨人を打ち倒す好機が目の前にあるのだと。餌をチラつかせて馬鹿ども――失敬。もとい勇敢にも陛下のお膝元たるスラン・ロウへ足を踏み入れた恐れ知らずの者達を囃し立てて。
「さぁってと。向こうにはいかせねぇぞ――もう少し俺たちと付き合ってもらおうか」
 であればペッティトは『こちら』で引き付け続けねばならぬとジェイクは思うものだ。
 少しでも。ほんの少しでも奴を引き付ける事が勝利に繋がる。
 只管に放つは魔力の弾丸。引き続き掠らせるようにしつつ、窺うは……弱点がないかと。
 優れし感覚の全てでペッティトを見据える。
 ハイペリオンの加護と共に。その身を穿つ深淵の穴を見据えんッ――
「こんなもの、ですか? 小娘ひとり、倒せもしないなんて。
 大きな体ばかりで、碌に動けも、しないんですね」
 木偶の坊とはこの事か、と。ペッティトに相対する場所とは別の所で動くのはネーヴェだ。
 まるで舞うように。そしてアルヴァと交差するように巨人共を引き寄せる。
 時に眼前に回り込んでくる個体あらば――速度を武器に突っ込んで。
「あなたが見るのは、わたくしです! 他の誰でもない、わたくし!」
 斬りつけるのだ。
 捉えられぬ動きを常に。一瞬たりとも止まらずに――彼女は戦場を動き続ければ。
「俺が奴らを引き付ける。側面から攻撃してくれ。
 ……今は何とかなってるが『なんとか』なってる内に『どうにか』しないとジリ貧だぞ」
 アルヴァは戦える勇者候補生達に言葉を紡いで奴らの隙を作らんと再度飛翔を。
 今の所は巨人たちの優れた膂力を回避に専念して躱し続けているが――これがいつまでも続くとは限らないのだ。何より、空間の亀裂から時折増える巨人もいれば、つまり引き寄せる事が出来ていない個体がどこかに出現するという意味でもある。
 それらも出る度にカバー出来るかと問われればそんな余裕は流石にない。
 駆け抜ける場所を急に転換する様な、迂闊な動きを見せれば叩き落されよう。ネーヴェもアルヴァと同様に既に幾体もの巨人を引き付けており余裕があるとは限らない。
 或いは命中精度が隔絶し、遠距離にも攻撃出来るジェイクならばある程度今の位置からでもカバー出来るかもしれないが――彼はペッティトを押さえねばならぬ。
 結論として長期戦になれば不利だ。
 どこか一か所でも崩れればその時点で一気に戦況は塗り替わると言っても過言ではない。
 だから候補生達に側面から攻撃してもらう必要性があるのだ。
 巨人を打ち倒し、その数を減らすために――!
「さぁごきげんよう巨人諸君。子守唄に不吉な月の微笑みはいかがかな?」
 故に鬼灯は全力をもって奴らを討つ。
 槍を振りかぶる動作が見えればその股を潜る様に跳躍を。
 跳びぬけ、直後には自らがいた場所が盛大に抉られる音を耳に捉えながら――彼が紡ぐは再度月を思わせる魔力の渦。多くの巨人を巻き込み、その身に数多の負をまき散らさんとして。
「やれやれ。やはり目の様な柔い所をピンポイントで狙わねばダメかね、これは」
「しかし――いっそのことこのまま圧し潰していくのもまた一興かと」
 同時。鬼灯はジェイク同様にハイペリオンの叡智で奴らの弱点が探れぬかと目を張り巡らせるのだが、それは目や関節など肉が薄い場所がおそらく弱点と思わしいという情報だけだった。今現在の多くを巻き込む魔力では果たしてピンポイントに其処を狙える事か――
 だが同じく魔力の奔流にて敵を飲み込むマグダレーナはこのまま数減らしを続けるのも一つの手だと。
「彼らは強靭な肉体を持ちますが、それでも限界はあるでしょう――
 確実に弱らせた上で、弱点を狙うのはその後でも良いかと」
 彼女は耳で敵の存在を捉えて。奴らの数を減らすべく――力を振るう。
 そして存分に弱ったと感じれば『神』の呪いのを奴らへと与えてやるのだ。
 各個に、個別に、狙い撃ち。
 巨人の一体が倒れ伏す音を感じれば――あぁ。
「お、ぉお! 勝てるぞ、行くぞ! イレギュラーズに続け――!!」
 候補生らの闘志にも、より強い火が付くものである。


「ああ、皆さん勇敢なことも実に結構ですが、一応負傷者の救護も。
 それもまた陛下好みの『勇敢な行い』ですからねぇ」
 圧倒的な肉体を持つ巨人にも倒れるものが出始め、全体の士気が勢いづいて戦いが激化する中――ウィルドは引き続き候補生達へと注意の声を掛けていた。あくまでも彼らはイレギュラーズの指揮系統にいる訳でなければ『お願い』程度の言い方で拒絶されぬ様に。
 その声色は相変わらず開戦当初と変わらぬ余裕ぶりを見せている。
 ――だが実の所彼の身はかなり限界に近かった。というのも。
『吠えるなよ人間――我が槍を受けて尚立てるかァ!!』
 ペッティトの攻勢はここにきて尋常ではない程の勢いを見せているからだ。
 放つ槍の軌道は鋭く、その一閃はウィルドの防御を弱らせて削り飛ばさん――
 抵抗の力が削がれる事はないのは幸いだったが、この勢いは。
「ぬ――くくっ、流石に一筋縄ではいきませんかッ! しかしあなた方が這いずり出てきたあの亀裂も実に気になるもの……地を舐めさせて頂く訳には参りませんのでね!!」
 やがて彼の身が倒れるほうが早いだろう。戦いが終焉を迎えるよりも。
 それでも一秒でも長く立ち続けることが出来ればよし。
 奴が己に攻撃すればするほど――体力を削り取れるのだから!
 苦難を破り、栄光を掴み取るは一手を攻撃の如く。奴へと叩き込み、そして。
「おっとぉ、させませんよ!! その為に僕がいるんですから――ねっ!」
 直後。そのウィルドの傷を癒すための一手を紡ぐのがヨハンだ。
 戦いがそれなりに続けば戦場全体に傷を負った者が出てくるのは必定であるが、その中でも誰を優先すべきか彼は冷静に見定めねばならない――聖なる歌を唱えて多くの者を癒すべきか、重篤なる者に集中すべきか。
 彼を狙う翼型の巨人もいるのだ。自由に振舞えるとばかりもいかぬ、のならば。
 ヨハンが導き出した結論はペッティトの抑えへと。
 紡ぐ幻想なりし福音――さすれば。
『おのれ、いい加減邪魔だ小人共がァアアアア!!』
 ペッティトの闘志が込められし一閃が全てを貫く――
 それは暴風を伴って。ウィルドのみならずヨハンを、そして。
「おっとぉ! だが……まだまだ崩れる訳にはいかないんでなぁ!!」
 ジェイクを。
 寸前でウィルドが彼を突き飛ばすように庇ったが故にそのダメージ自体はなかったが――しかしこれでジェイクまでの道が完全に開かれた。彼の射撃がペッティトへと襲い掛かる、が。事防御という面に関してはジェイクは如何ほど保つものか。
 崩れ始めたのはイレギュラーズの陣形か――否!
「たとえ、身体が小さくとも。攻撃が軽いとは、限りません!
 侮るならば、その命で――贖って、頂きます!」
 戦いは決して其処だけで完結している訳ではないのだ。
 味方を巻き込まぬ位置。巨人達の中心点に飛び込んでネーヴェはまるで暴風が如く。
 刃を振るいて纏めて敵を切り裂いていく。
 そこへ続くのが候補生達の攻撃だ。特に彼らの中でも戦える領域に達している者の攻撃は、巨人たちにも十分通ずるレベルであり、そしてこの段階に至るまでにたっぷりと鬼灯達から痛めつけられていれば。
「行くぞ! 今こそ分水領だ! あの翼の生えた巨人は俺の仲間達が討つ――
 だが巨人の増援はまだ続くぞ、最後まで気を抜くな!
 奴らの振るう武具に当たれば一瞬で持っていかれると思えッ!!」
 ベネディクトの鼓舞と共に次々と弱った巨人たちを打ち倒していくものだ。
 彼の振るう槍が巨人の頭部を捉える――投擲の一閃が空を割いてまるで狼の如く。
 剛閃一撃。
 小さき者が巨大なりし者を打ち倒す……なんたる英雄譚の一頁だろうか。
 故にここが攻め時だと感じたのは当然彼だけではない。
 治癒や手当、そして指揮をしていたリウィルディアも。
「よし、行こう! 数で勝れば小回りの利かない巨人達は押し込める! あと一歩だ――!」
 声を張り上げ妖精らを顕現させよう。
 それらは彼女の魔力によって作り出された具現化の小妖精。
 総攻撃の時だと彼女は鬨の声を。
 向かう先、特に最前線の付近では候補生はお互いの隙をカバー出来るように数を固めて。
『ぬぅぅ、させぬぞ! 供物ら如きが調子に乗りおって――ッ!』
 しかし、だからこそ狙いやすいという面も生まれるものだ。
 見据えたペッティトが己が膂力を集中させ、槍を突き出せば――生まれるは暴風。
 それは大地を薙いで戦場を跨ぎ。
 何もかもを吹き飛ばす。
 困難に向かうが故にこそ――死する事もあるのだ。
 ……しかしこれだけ殺意に塗れる巨人が多い状況で被害をゼロに抑えるのは、元より至難であった事だろう。候補生らの体が宙を舞い、そして。

「はは! これは残念! ゲイムに勝ったのは僕かな!?」

 その体を――ヨハンが治癒するものだ。
 先の一撃によりヨハンは吹き飛ばされ傷を負ったものの、最早立てぬ程に打ちのめされた訳ではなかった。体の随所は痛み、肉体が悲鳴を挙げているものの――全て無視すれば動ける。
 聖なる歌声が。ルリルリィ・ルリルラ。
 戦場に満ちれば――候補生達の被害を幾らか抑えて!
「こんな程度の実力で大将気取りはやめてくださいよ、他の巨人の前で赤っ恥を晒し続けてないで『僕は怒ってます』と言え。正直に自分の心も晒すことが出来ないのか――? なら来な、三流。用兵というものを教えてやるぜ!」
『死にたいようだな、小僧!』
「何度目だよその台詞! 言えば言うほどかっこ悪いぞ!」
 同時、敵のペースを乱すために数多の言を。
 自分でも自覚があるレベルで口が悪くなっている事を感じるのだが、しかしこういう輩は調子を乱せれば儲けものだ。正義は我にありと言わんばかりのその傲慢顔――
「歪ませてやるよ」
 あくまでも不敵な笑みは忘れずに、ヨハンは最後まで戦い続けて。
「貴殿を倒す、その悪意からは逃れらんよ。決してな」
 直後。鬼灯が槍持つ腕を砕かんとする一撃を。
 放たれるは意思。貴様は必ず打倒されるという――絶対の『悪意』だ。
 槍を砕き、腕を砕けば最早その自慢の一撃も放てまいよ。
 そして彼が攻撃に参戦できるというのは、同時に巨人らの数が目に見えて減っているという事。
「如何なる舞台もいずれは終焉を迎える。そして今がその時だ……
 役者は舞台に下がりて、再演は訪れぬ」
『おのれ勇者王の民らがッ――!!』
「俺は別にそういう訳ではないのだが、曇った瞳には最早何物も判別出来ぬか」
 哀れと。鬼灯が言えば、同時に。
「最後まで、わたくしと、踊ってくださいませ。その命……尽きるまで。
 私も、尽き果てるまで、お付き合いしましょう。貴方達の、灯と共に」
 ネーヴェが残存の巨人を、最後の力を振り絞って再度引き寄せる様に。
 彼女も多くの巨人の目に留まるように動いていた所為で多くの傷を負っている。
 それでも一歩。あと一歩と。
「だいぶ数は減らしたか、後を任せたぜ! 俺は――あの一番のデカブツを潰してくるからよ!」
 そして候補生達に激励の言葉を掛けつつ、今こそ敵の中核を討つ時とアルヴァが跳躍。
 飛行し、ペッティトの背後に回るように――急行する。
 狙うは一点、翼なり。
「――てめぇにその翼は似合わないぜ」
 人を殺すお前に。虐殺を楽しむお前に。
 天駆ける自由の翼は似合わない。
 放つは魔弾。長大な射程から繰り広げられる一撃が奴の翼をもぐ様に根元を穿つのだ。
 それでも力が残るであれば再度飛翔せんとするペッティト――を。
「この世界の神は存じませんが、呪いは犠牲を善しとしない神のものと言う事なのでしょうね」
 マグダレーナが撃ち落とす。
 もう一度貴方に空が訪れることが無いのですと。
 ――命という供物を求めるならば天より一方的に求めるのではなく。
「己もまた地に足を付け自らの命を懸けるべきでしょうから」
 故に行動を阻害す。呪いの力を齎して、傲慢なりし巨人の身も魂も地へ縛り付けんと。
「イミルの武人、ペッティト・クレラ殿! 拙者こそは宇宙警察忍者、夢見ルル家!
 武人の心が残りしならば、いざ尋常に勝負されたし! 逃げませんよね!!」
 すれば、直後。我こそはとまるで一騎打ちを挑まんが如くルル家が立ち塞がった。
 ――彼らに何があったかは知らず、その怒りを晴らす術も持たない。
 しかし彼らに確かな過去があるならば。誇りと栄光のある過去があったならば。
「受けよ!!」
『小娘ェ――!!』
 せめて片時だけでも取り戻されよとルル家は願う。
 怒りで曇る目が少しでも拭えると良い――そう思考しながら真正面より。
 交差するは互いの全力。突き出される槍に対し、相対するは彼女の夢現。

 ――相手を『斬った』とする可能性の未来を具現化する、まごう事なき魔剣がペッティトの腕を両断するのであった。

「その名、決して忘れますまい」
 ルル家が理を収束させたと同時、響くは絶叫。
 断末魔が如き咆哮が天へと轟けば――空の亀裂が少しずつ、閉じていく。
 こじ開けていた力の源であるペッティトが滅びるが故か――
「待て。イミルの民よ……君たちにはまだ問いたい事がある」
 しかしその前にと、接近するのはリウィルディアだ。
 残存の巨人は最早少なく、イレギュラーズと候補生達に掛かればやがては倒されるであろう。空の亀裂は閉じ始め最早増援もないのであれば尚更に。だから全てが消え失せてしまう前に問わねばならない。
「イミルの民は人外に成り果て、ここスラン・ロウで戦ったらしい。ならこの巨大な人である彼等は、イミルの民なんだろう? きっと覚えがあるはずだ……泉に、ミミルの名に」
『ミ、ミミルだと……!』
「――やはり何か知っているのか」
 それはノルンとイミルの、関係。己の知らぬ、遥か以前に物語があるのかと。
 ――しかし返ってきた言葉は、あまりにも意外な。
『ノルンの裏切り者達めの末裔か! 奴らは我らと交友がありながら――勇者アイオンに協力した一族! 封印されし我らをより強く縛るために『角笛』を勇者王に献上した者達ではないか!!』
「な、なに……?」
『おぉぉ我らが祖先よ、偉大なるミーミル様申し訳ございません、わが身に力があればかの憎きノルンの一族が小娘を嬲り殺しにしてやりましたものを――ッ!!』
 角笛――レガリアは、ノルン家がアイオンに献上した――?
 同時。ペッティトはあらゆる力を振り絞って立ち上がらんとする。
 最早命尽きる間際であるというのに、憎き者を滅ぼさんと――!!

「――止めときな。しつこい男は、嫌われるもんだぜ」

 直後。そのペッティトの額一点に最後の銃撃を打ち込んだのは、ジェイクだ。
 ペッティトに攻め立てられ大きな傷を負った彼だったが、命奪われるまでには至らず。
 彼もまた死力を注ぎ込んで最後の一撃をここに成した。
 ――ペッティトが完全に崩れ落ちる。
 その身にはもう魂はなく、ここに虐殺を試みた巨人は潰えて。
「……終わったか。しかし、困ったものだ。結局これは奴らを殲滅したわけではなく、封印から零れてきた者達を打ち倒したのみ……これを超えてもまた同じようなことが起こる可能性は否定できん、な」
 であればと周囲を眺めてベネディクトは呟く。
 スラン・ロウはかつてイミルの民との決戦が行われた地であると聞く。
 だからこそこのような巨人たちが封ぜられていたのだろうが――レガリアが失われ、その封印が緩んだ今、根本的な解決が求められているのかもしれない。またいつ封印が欠けるとも知れぬ……
「……全く、雲を掴むような話だな」
 思わず零れる吐息。
 戦いにより荒れ果てたスラン・ロウに、あった筈の自然の美しさは見る影もなく。
 幻想の歴史に連なる一大事に足を踏み入れそうだと――誰もが感じていた。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

ジェイク・夜乃(p3p001103)[重傷]
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)[重傷]
おチビの理解者
ネーヴェ(p3p007199)[重傷]
星に想いを
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ

あとがき

 依頼、お疲れさまでした。

 スラン・ロウでの戦いによる被害は最小限に食い止められたかと思われます。
 MVPはペッティトを食い止めるのに十分たる能力を持っていた貴方に。

 ありがとうございました。

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