シナリオ詳細
<フィンブルの春>求められるは勇者の資格
オープニング
●
幻想王国レガド・イルシオン。
その王都メフ・メフィートはギルド・ローレットの所在地であり、特定運命座標……イレギュラーズの拠点でもある。
貴族が治めるこの国は、3つの大きな勢力があり、彼らが国王を担ぎ上げている。
加えて、多数の派閥が存在し、貴族は権力抗争にばかり目を向けている。
腐敗した政治は国を大きく歪ませており、国民は重い課税を強いられたり、改善されぬ劣悪な環境での生活を余儀なくされたりとその犠牲となっている。
とはいえ、現状はイレギュラーズの解決した魔種事件を契機に、その歪みは徐々に是正の方向へと進んでいる。
ただ、ここにきて幻想王国に魔物が出現し、またも民衆へと被害が出始めている状況だ。
「どうやら、貴族達が裏で動いているようです」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネがローレットに集まったイレギュラーズ達へと状況を説明する。
王国内で蠢く策謀の影。
奴隷市、レガリアの盗難、魔物の大量発生……。
しかも、それらが起こっているのはほとんどイレギュラーズが領主となっている土地なのだ。
「それを考えれば、意図的な動きに感じられますが……」
残念ながら、アクアベルの予知でも見通すことができない動き。一体どんな意図が交錯しているのか……。
また、このタイミング、勇者王アイオンの直系子孫にして幻想国王であるフォルデルマン三世がこんな御触れを国内に出す。
『該当の事態を解決した者に『ブレイブメダリオン』を配布する。『約束の日』の所持状況によって、かの者は『次世代の勇者』として称えられよう』
それによって、いわゆる勇者総選挙が幻想内では加熱している状況だ。
ただ、この流れは喜ばしいことばかりではない。
「イレギュラーズを見て育った勇者候補生の出現は嬉しいことですが、その一方で悪徳貴族が擁立した偽勇者候補生へと不正にメダルを供与しようとあえて事件を起こすケースもあるようです」
彼らの不正を暴くのは現状難しい。今は『メダリオン争奪戦』に尽力するしかなさそうだ。
「では、依頼の説明を……」
アクアベルは改めて、イレギュラーズ達へと今回の依頼について語りだすのである。
●
さて、今回アクアベルが依頼するのは、シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)の所有する領地……鉱山街『アイゼンフロイデ』で起こる騒動の鎮圧だ。
すでに、領地内に、狂王種と思われる存在が魔獣を引き連れているのが確認されている。
その為、鉱山夫などが一時の居住を行うスラムでは、不安の声が多く上がっていた。
「なあ、魔獣が襲ってな話、本当か?」
「ああ、どうやらスラムに近づいてきているらしい」
話によれば、銀色に煌めく体表のワニが鉄の鱗を持つトカゲ数体を従えているという。
それらの狙いはいまいちつかめないが、人を食べるとも、鉱石を好むとも言われ、スラム、鉱山区、バザールとどこが狙われるのかがつかみにくい。
ただ、現状の魔獣の進行はスラムへと向いているとの情報は間違いない。
「き、来たぞ!!」
ズシンズシンと聞こえてくる重たい足音。
グアアアァァ……ッ。
アアアァァ、アオオオォォォ!!
それらは鋭い牙を持つ魔獣達である。
巨体のワニと大型のトカゲがのし歩き、人の住む集落めがけて歩く。
ワニは時折、あちらこちらのものに興味を示していることもあって、その歩みはやや遅いものの、興味を示したものにはがっしりとつかみかかって噛みつき、なかなか離そうとしない。
トカゲはワニが掴んだ物から興味を失うのを待ち、再びワニと共に歩き出す。
そんな感じで、領地内に現れてからスラムへと到着するまで時間かかかっていたようだ。
領地民からすれば、避難する時間ができるのは非常にありがたいところ。
ただ、そのどさくさに紛れて目を光らせる者の存在も……。
「これだけ領地が混乱していれば、選び放題だな」
引き笑いするのは、薄暗い布地を全身に纏う屈強な男達だ。
「今はまだ警戒される。魔獣どもがスラムへと入って、混乱し始めてからがチャンスだ」
「それまで、俺達は待つとしよう」
スラムのバラックの物陰に隠れ、そいつらは魔獣達の討伐をじっと待つ。
そんなスラムへと足を踏み入れるイレギュラーズ。
「…………」
間もなく魔物達が到達する自らの領地で、シュバルツは何を思うのだろうか。
- <フィンブルの春>求められるは勇者の資格完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月28日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
幻想内、オランジュベネにある山岳地帯。
そこを、依頼を受けたローレットの一団が行く。
「シュバルツさんの領地もこんな所にあったのですねぇ」
水色の髪の小柄な少年、『無限循環』ヨハン=レーム(p3p001117)が訪れた鉱山街『アイゼンフロイデ』のスラムを見回す。
「魔獣の襲撃、だけでは無いみたいですね?」
「あのワニ公だけなら簡単に仕留められそうですけど……、どーにも変な視線を感じるんですよねえ?」
天色と唐紅のオッドアイ、『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)の問いに、落ち着いたはずの魔物騒ぎが再発していることに、銀髪金瞳の旅人女性『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が苛立ちを見せて。
「あーあ、いやです、本当にこういうのは嫌です!」
「……魔獣の襲来ってのはまだ分かる。だが、このタイミングで奴隷商人?」
叫ぶ彼女に、この地の領主であり、顔に傷のある『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)がこの状況を訝しむ。
「ロクでもない事を企む人達も居るみたいですね、こんな状況で」
この火事場で悪事を働く不埒な輩に、ステラは呆れ果てていた。
「ワニだけでも大変なのに奴隷商まで。まぁ、僕の前では誰一人やらせませんけどね」
「まぁ、どちらもぶっ飛ばせば良いまで、です」
ヨハンもステラも、魔獣はもちろんこと、奴隷商人も全てを見過ごすことなく対処をと意気込む。
「意図的云々というのは、確かに気になるところではあるが、まずは、目の前の事を片付けてからだな」
トランジスタグラマーな猫耳女性、『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の言葉にシュバルツは大きく頷く。
「……人の領地に手を出したんだ。何処のどいつかは分からねぇが、後で絶対に潰すから覚悟しとけ」
目を光らせるシュバルツは早急な事態解決が必要と判断し、手早く片を付ける為に仲間達と動き始めていた。
猫耳猫尻尾の少女剣士『放浪の騎士』ニャンジェリカ・ステュアート(p3p006044)は周囲の建物に被害がないよう保護結界を展開する。
また、領主であるシュバルツは汰磨羈の要望もあって彼女に女性や子供の多い区画を伝え、鉱山夫にも声をかけるなど忙しく立ち回る。
街の近くにまで魔獣の群れが近づいている為、発掘している時間はない。鉱山夫らは倉庫に保管していた鉱石を提供してくれた。
「後は……」
シュバルツはさらに街の人々の手を借り、スラムの戦いやすい場所に鉱石を固めて魔獣の誘い込みを狙う。
そして、駆けつけた若い勇者候補生達もまたその手伝いに当たっていて。
「まあ、私は勇者の資格だとかに興味はないんだが、頑張る若者を応援する位はいいんじゃないかな」
一般人を自称する数多き経歴を持つ『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)は冷めた態度でその一団を見つめていたが、そこへシュバルツが歩み寄り、共闘を申し出る。
彼の願いは、トカゲ……アイアンリザードの相手だ。
「無償で手伝ってくれなんて甘い事は言わねぇさ。お前ら、名を上げたいんだろ?」
手伝いのあかつきには、今回の魔獣襲来でローレットと共闘した一行がいたと領民への喧伝も許可するとのこと。
「どうだ? 悪い話じゃねぇだろう?」
その話に、若者たちも名を上げるチャンスだと気合を入れていたようだ。
●
グアアアァァ……ッ。
アアアァァ、アオオオォォォ!!
荒れ狂う魔獣ども……巨体のワニ、狂王種シルバーダイルと大型のトカゲ、アイアンリザードは地面を揺らしてのし歩いてくる。
「さて、どこから来たのか知らねぇが。街に被害出すわけにはいかないんでな、相手してやるよ!」
敵陣へと突っ込むミーナは名乗りを上げ、魔獣らの気を引きつけようとする。
対するワニはマイペースに猫背気味な体勢で歩き続ける。ミーナはそれに気づいて手持ちの謎肉を投げつけた。
グアアァァ……?
体に当たった妙な物体にワニは関心を抱いたようで、地面に落ちた謎肉の匂いを嗅ぎ始めていた。
(鉱石食らしいが、好奇心旺盛なおかげで助かったな)
ミーナは幾分気を楽にし、聖剣を抜く。
「お供します。全力でお相手させていただきますね」
そのミーナに壁役を任せ、ステラも身の丈ほどある大剣を抜いてワニへと切りかかっていく。
一方で、数人のメンバーがその周囲にいたトカゲらに向かっていくのは、シュバルツや勇者候補生達だ。
「悠長にしてる暇はねぇんだ。一気に蹴散らすぞ!」
「人々を守るのは騎士の務め。悪党は騎士ニャンジェリカが成敗ニャ!」
ニャンジェリカもそれに続き、トカゲを抑えるべく名乗りを上げて気を引こうとする。
周囲に設置した鉱石にも、トカゲ達は注意を向けるはず。ニャンジェリカはそれも考慮しつつ立ち回り始める。
「僕はシルバーダイルを抑えておく班のヒーラーが主な仕事になりそうですね」
街に潜む奴隷商を気にかけるヨハンは、激しい戦いとなるトカゲに一度視線を向けて。
「この力は助けを求める者のために! 魔刻開放!!」
それらに対する仲間をサポートすべく、彼は秘めたる力を開放していく。
魔獣の襲来を受けてイレギュラーズ数人がスラム街に散開し、事前にシュバルツに聞いた街の見取り図を使ってルートを振り分け、避難誘導へと動き始める。
「領地を荒らすのは、魔物だけとは限らんからな。スラムなら尚更だ」
汰磨羈は先程教えてもらった区画へと出向いていて。
着用する神威六神通の力を受け、周囲へと聞き耳を立てつつ逃げ遅れた人々の容姿を覚え、簡易飛行と物質透過を合わせて一直線にその人の元へと駆けつけていく。
「女子供は、屈強な男達から離れるなよ!」
孤立すればそれだけで奴隷商人の的となる。汰磨羈は鉱山夫と共に安全な区画へと人々に迅速な避難を促す。
「イレギュラーズです! ただいま領主様が自ら魔物を対処しておりますので安心してください!」
別方向では、白銀の毛並みをした狼の獣人を思わせる容姿をした『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が領民へと呼びかけていて。
「それと領民の皆様方は家族、知り合いなどで誰かいなくなった人などはいませんか?」
そうした呼びかけは、奴隷商人がこっそり領民を誘拐しにくくすることが狙いでもある。
「魔物がこちらに逃げてきた時の為にいつでも避難できるよう、いざというときに助け合えるよう孤立せず、複数人で行動してくださいー!」
ウェールもまた孤立せぬよう誘導しながらも、ファミリアーで召喚したカラスで路地裏などを捜索も行う。
透視の力も利用し、明らかに場違いな人影はないか。ウェールは警戒を強め、奴隷商人の動きに警戒していた。
利香もまた避難誘導を行っていたのだが、何かを見定めようとスラムを見回す怪しげな風体の男達を発見して。
「その様子、親御さんってわけじゃあないですよねえ? ……あなた、どちら様ですか?」
「チッ……」
聞えよがしに舌打ちしたそいつらは鞭や鎖をしならせ、利香に襲い掛かってきたのだった。
●
大きく3班に分かれ、鉱山街で起きた騒動の対処に当たるローレット勢。
襲い来る魔獣を率いる狂王種シルバーダイル……ワニは謎肉に執心していたが、その間にミーナが引きつけに当たる。
ワニの注意がメンバーから逸れている間に、彼女はそいつへと闇と呪いを帯びた斬撃を浴びせかけていく。
「それにしても5メートル、銀色のワニ、ですか……革製品とか、いっぱい作れそうですね?」
続き、ステラが足止めを兼ねて大剣で切りかかる。
ただ、2人とも、思った以上にワニの皮に硬さを感じ、初撃だけではあまり深く傷をつけられなかったようだ。
謎肉をあっさりと喰らったワニに、ミーナが再び名乗りを上げて引きつけようとすれば、ワニは興味の対象を彼女へと移してかぶりついてくる。
鋭い牙で喰らいつかれかけてしまい、ミーナは傷を負ってしまう。
「しっかり回復しますよ」
おそらく、その牙による出血、加えて力強い相手だと想定していたヨハンがスムーズにカバーし、聖体頌歌を周囲へと響かせる。
アアアアアァァ、アオオオォォォン!!
癒しを受けつつ、ニャンジェリカもトカゲの気を引くが、その数は5体と多い。
「ひとまず、これでどうニャ?」
名乗りを上げつつ、ニャンジェリカは先程皆で仕掛けた鉱石の方へと向かう。
丁度、3体がニャンジェリカに、2体が鉱石に興味を示してにじり寄ってくる。
(アイアンリザードの攻撃は長い舌に尻尾、それに鉄の弾丸だったニャ)
一気に引き寄せを行うニャンジェリカは、それらの攻撃を一挙に引き受ける。
アアアオオオオオォォン!
大きく口を開けた1体が舌を伸ばしたところでニャンジェリカはタイミングよく盾で受け流し、他2体が尻尾を振りかぶったところで身を屈める。1体が大きく薙ぎ払ったのを避けたものの、もう1体は真上から叩きつけてきたのを受け止めていた。
「そこの勇者候補生! そのアイアンリザードは任せたニャ!」
「は、はい!」
剣使いの少年が返事をし、仲間達と共に鉱石を齧りだしたトカゲの周囲へと布陣する。
「勇者を目指すなら人々の安全が第一ニャ。協力して魔物をぶっ倒すニャ!」
「わかったぜ!」
今度は格闘家の少年が威勢よく返事し、トカゲへと蹴りかかる。後は彼らの力量次第といったところだろうか。
剣使いと格闘家が前に出てそれぞれが得意な一撃を繰り出すと、獣使いの黒豹が自分よりも大きな相手に躍りかかる。
心地良い旋律を口ずさむ少女の声が候補生一行の力を高める中、シュバルツも各個撃破をとその連携に加わり、限界まで魔力を注ぎ込んだ両手の黒刃で黒き軌跡を描いてトカゲの体を刻む。
ワニを相手にするミーナも候補生が気になるようで、大きな口にかぶりつかれた状態ですらも自信をつける為にと励ましに当たる。
「あまり無理をするな。引きつけは私に任せろ」
「はい、わかりました……!」
ミーナの統率の力もあって、彼らも目の前のトカゲだけでなく、横から襲い掛からんとしてくる別のトカゲに対処する余裕も見せ始めていた。
(狂王種ならこのワニも喋るのでしょうか……)
ステラは以前、言葉を操るモンスターと交戦した経験があるのだろう。
それもあって、彼女は鉱石の入った箱をワニに見せつけて。
「さあ、どうです。鉱物がこんなにありますよ」
グアアアアアアアァァ……ッ。
ワニはミーナにじゃれていたかと思えば、すぐに黒光りする鉱石へと向き直る。なんとも気移りの早いモンスターである。
言葉を操れぬ相手のようだが、時間が稼ぐことができればこちらのもの。
ステラは相手よりも大きな黒い大顎をけしかけ、ワニの硬い皮膚をも牙で貫き、肉を喰らわせようとするのだった。
奴隷商人を発見した利香はすぐさま魔眼の力で相手を引きつける。
利香のチャームは思考まで奪うことはかなわないが、感情を強く刺激して激高させたのと同等の効果を及ぼす。
「「うおおおおおおおおっ!!」」
鞭や鎖でイレギュラーズを打ち付けようとしてくる奴隷商人らは、気づかれたからには排除をと言わんばかり。
そこに駆け付けてきたウェールは自らの狂気を焔とし、奴隷商人へと投げかける。
そうして、ウェールは個別に奴隷商人の意識を自身へと向け、意識を奪おうとしていた。
少し遅れて駆けつけた汰磨羈もまた、奴隷商人の処理を優先して。
「生憎、手加減している暇は無くてね。牢屋の中で目が覚める事を祈れ」
彼女は周囲に盾とされそうな住人がいないことを確認してから、至近にまで迫って武の奥義による牽制打を与える。
「因果応報、死んだらそれまでだ」
人を人と思わぬ者どもに慈悲はない。汰磨羈は2本の隠密刀を舞わせて鉄帝国の武技を披露し、瞬く間に奴隷商人を沈めてしまう。
残る2人が民間人に注意を払わぬよう利香は気を引き、鞭の一撃を受け止めてからの魔鞭の反撃でねじ伏せる。
その1人は気絶させられたのだが……。
アアアオオオォォオオオ!
近くに設置されていた魔獣おびき寄せ用の鉱石に気づき、アイアンリザード1体が大きく口を開いてこちらへと突進してきたのだった。
●
魔獣との交戦を行うメンバー達。ニャンジェリカやミーナの抑えをすり抜け、1体が近場で交戦していた奴隷商人の方へと向かってしまった。
ただ、メンバー達もそれを追いかける余裕はなく、目の前の相手を抑え、叩くのが手いっぱいだった。
特に、勇者候補生達は全力で交戦を行っていて。
「勇者らしい活躍を見せたら、私が証人になってやるニャ!」
盾を全面に出してワニを抑えるニャンジェリカもかなり苦しいが、ヨハンの回復は手厚く、自ら盾となって仲間へと体力気力を充填する。
「尽きる事なき絶大なる魔力、これが無限循環だ!」
一方で、候補生達も力を振り絞り、格闘家が鉄の鱗の合間に拳を叩き込み、そこを黒豹が大きく抉った後、剣使いがトカゲを大きく切り裂く。
アオオオォォ……。
崩れ落ちるトカゲに歓喜する候補生。歌う調律師の声も弾む。
「一体倒したからと調子に乗るな。落とし穴はすぐそこにあると思え!」
ミーナの声が響く中、シュバルツが候補生達の援護を受けながら敵を追い込み、黒刃をトカゲの体深くまで突き入れた。
目から光が失った敵を見る間もなく、彼は次なる敵と対するのである。
対奴隷商メンバーの元に1体のトカゲが飛び込んできたのは、ウェールが残る一人を相手にしていたタイミングだった。
「悪いな、人さらい。貴様も巻き込むぞ」
魔晶式信号弾を打ち上げてリザードの乱入を知らせた汰磨羈は素早い動きで刀を振るって奴隷商とトカゲの双方を牽制する。
だが、両方共に傷は深くなっていて。
ウェールは焔を叩き込んで奴隷商を卒倒させてしまえば、利香はリザードの対処をとチャームで引きつけて。雷を制する魔剣へと武器を変化させてトカゲを断ち切ってしまう。
「さて――全員無事だといいのだが」
汰磨羈と利香は奴隷商の縛り付けをウェールに託し、魔獣対処の場へと参じる。
「お待たせしましたってね!」
利香がワニの引きつけに回れば、候補生達もだいぶ気を楽にして立ち回る中で、回復役にもヨハンにも余裕が出てきたようで。
「この手の脳筋にはこういうものも効きそうですが、さてさて?」
候補生らの攻撃でのたうつトカゲや、まだ抵抗するトカゲやワニをヨハンは纏めて捉えて。
「終焉の帳は下りた、絶望を抱いて残酷に死ね! ワールドエンド・ルナティック!」
ヨハンが現した紫色の帳は魔獣だけに降り、不吉と終わりを告げる。
実際に、トカゲ1体は狂気でのたうつまま崩れ去ってしまう。
「……こ、この邪悪な魔法はあまり使わないようにしよう」
自らの技にかなり引いてしまっていたヨハン。
そこで追撃をと、ミーナが聖剣を薙ぎ払い、呪刻の一撃でトカゲを一閃して仕留めてしまう。
アアアオオオオォォォ……。
「最後まで気を抜くな」
「「はい!!」」
全てのトカゲを倒しはしたが、ミーナのその呼びかけに候補生らも気を引き締め直す。
しかしながら、ローレット勢の猛攻はすでにワニを……シルバーダイルを追い詰めていた。
「確かに硬い相手ですが」
ステラは全てを蝕む闇の力をワニの片足へと打ち込む。
また、その闇はステラがさらなる力を行使して手を象り、ワニの足を掴む。
グワアッ……!?
次の瞬間、横転した敵。その膨らんだ腹は硬さをまるで感じさせない。
「下手に生き残らせて被害増やすよりは、確実に……」
攻め入るミーナが隙を逃さず、万死の一撃でその腹を深く切り裂いて。
グワアアアアアアアアアッ!!
先程喰らった謎肉や鉱石をぶちまけつつ、狂王種は上半身を後方へと倒して動かなくなったのだった。
●
鉱山街に起こった騒動も一通り片付いて。
迅速な対応もあって大事には至らず、奴隷商も捕縛できたことに汰磨羈は安堵する。
「逃げられると思わんほうがいい。すぐに追いついてこれを叩き込むからな」
ウェールが瞬間加速装置と右手に現した焔を見せつけると、奴隷商人らも観念したようだ。
「ここの領主はお前だからな。後始末はきっちり頼むぜ」
ミーナから引き渡され、シュバルツが頷いてから彼らへと問う。
「答えろ。お前らの雇い主は誰だ」
「「…………」」
当初は全く答えようとしない奴隷商人達だったが、尋問を続ければ、彼らも少しずつ自供を始めて。
「イェルドっていう貴族だ。クローディス・ド・バランツと懇意にしてる……」
顔を見合わせるイレギュラーズ達は、その名を覚えておくことにする。
尋問はそこそこに、シュバルツは事後処理にも動き、貯め込んだ金融資産を使って領民のケアを行う様にと執政官らに指示を出していた。
また、事後処理には勇者候補生らも走り回っており、かなり疲れていた様子。
「さて、勇者候補生もお疲れ様だ。ローレットの奢りで飯にするか」
「「やったあ!!」」
ミーナの呼びかけに候補生達も歓喜する。
彼らを連れ、イレギュラーズ達は再開した居酒屋へ入っていくのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開中です。
MVPは勇者候補生を鼓舞しつつも、シルバーダイルを討伐したあなたへ。
ここで活躍した候補生達は、混沌において明日の勇者となれるでしょうか。
ともあれ、今回はご参加ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様、こんにちは。GMのなちゅいです。
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)さんの領地で起きる事件の解決を願います。
●目的
襲来する魔獣の撃破
領地民を悪徳貴族(奴隷商人)から守ること。
●敵
◎狂王種:シルバーダイル×1体
全長5m程もある全身銀のごとき皮膚を持つワニのごとき魔物です。
2本足で立つこの魔物は猫背気味な体勢をとり、見た目に似合わぬ動きで敵に飛び掛かります。
マイペースな上、好奇心旺盛な為、動きが読めないこともあり、非常に恐ろしい相手です。
◎魔獣:アイアンリザード×5体
全長2m程、鉄の皮膚を持つトカゲです。
鉱石を好物としているらしく、それを狙って現れたようにも感じられます。
長い舌と長い尻尾の他、皮膚や口内から鉄を弾丸のごとく発することがあります。
◎奴隷商人×3名
悪徳貴族が雇ったと思われる20~30代の人間種男性達。
狂王種らの出現にも私欲の為に領地民を連れ去ろうとする外道です。
鞭や鎖を武器とし、狙った女性、子供を痛め、縛り付けようと動きます。
●NPC
◎勇者候補生一行×4名
10代人間種ばかりで、幻想で行われる『勇者総選挙』で名を上げようとする者達です。
接近戦が得意な少年剣使いアウロイ、少年格闘家ショウ、獣使いの少女チュレ、調律師の少女メアで編成。
メアの歌声で力を高め、少年2人とチュレの相棒である黒豹が前線に出て敵を攻撃します。
●状況
人々の住むスラムを狙うように、魔物の群れが現れます。
狂王種、シルバーダイルを筆頭に街を荒らす他、鉱山にも興味を示しているようです。
また、魔物の襲撃のどさくさにまぎれ、奴隷商人が行動を起こして領地民……とりわけ若い女性や子供を連れ去ろうとしております。
領地民に被害を出さぬよう、狂王種&魔獣、奴隷商人双方の対処が必要です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします!
Tweet