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シナリオ詳細

<フィンブルの春>《第三区》安らぎの湖 狩猟祭

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●旧ラズベイチェ領――安らぎの湖
 ひとときはもう誰も通ることのないと思っていた街道を、乗合馬車が走っている。
 いくつもの轍のそばには、春の植物が芽生えている。
 ひらひらと舞うちょうちょが、蓮華の花の蜜を吸っていた。
 すりつぶしたような緑の匂い。心地よい春の風が通り過ぎていった。
「うわっと」
 車輪が、がたんと小石をはねた。
 その衝撃で馬車の荷台で寝こけていた男が起きる。男はきょろきょろとして幌をめくると、慌てて叫んだ。
「おい、道を間違えてるぞ! 俺が行きたいのは……」
 男の反応も慣れたもの、御者はすました顔で答える。
「おやおや、旦那様。間違ってねぇですよ。ここは、ラズベイチェ旧街道です」
「あれ? ああ、そうか……そうだった。すまん、寝ぼけてた」
「いえ、気持ちはわかりますよ。少し前まではこんなところを通るなど、全く考えられませんでしたからな」
 旧ラズベイチェ領。
 かつてのこの領地の姿を知るものは、一様に驚くことだろう。
 アーベントロート領との、鉄帝との境目にあるこの場所は、忌まわしい事件によってほとんど更地となっていた場所だった。
 今は、領主、紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)の手によって、活気を取り戻しつつあった。
「ここが……」
「ああ。そうだぜ、ここから始まるんだ。俺たちの『勇者物語』が!」
 3人の勇者候補生が、外の景色を追っている。

●勇者選挙
「ブレイブメダリオンを集めたものを勇者とする!」
 フォルデルマン三世の一声で、騒動が始まった。
 いつもの「思いつき」であったが、勇者王アイオンの直系子孫にして幻想国王。頭フォルデルマンにしろ、妙なカリスマが熱狂を煽っているのは間違いがない。
――大量発生した魔物の討伐に功績をあげた者に、等しくブレイブメダリオンを与える。そして、勇者と任ずるという。
 故郷に錦を飾ろうと、いろいろな者が名乗りを上げたのである。
 ミッチ(剣士)、テリー(盗賊)、サリア(妖術師)も、そういった者たちだった。
「どうするどうする? 勇者になったら何する?」
「女の子にすごくモテるだろうなー」
 きゃあきゃあと楽しそうにする男子らを尻目に、サリアはふんと鼻を鳴らす。
「ちょっと、いいかげんにしてよ。一応建前は人助けでしょ? まあ、お金や名誉も大事だけどね……。気を引き締めていきましょう」
「サリアだってラズベイチェに行きたいってはしゃいでたくせに!」
 ぐっと言葉に詰まる。素敵な場所なのだ。
「で、俺たちなにすればいいの?」
「ふふん。ちゃんと調べてあるんだから。旧ラズベイチェ領では、かつて魔物の襲撃を受けて、甚大な被害を被ったことから……。もうすぐ有志を募って狩猟祭が行われるらしいわ。モンスターが弱いうちに、叩いてしまおうってものね。
それで優勝するの!
 要は、まあ、魔物退治なんだけど……そこで功績をあげて、ブレイブメダリオンをゲットしようってわけ」
「へえー」
「いいじゃんいいじゃん」
「油断しちゃだめよ! 領主様は強いらしいわ。見て、このブロマイド」
「あっかわいい」
「こら! 見るのはそこじゃない! ……まあ、優勝はいただきね。助っ人を雇ったから」
 馬車の奥へ目をやった。そこには、剣士の姿をした少女がいる。
「あれが……ガレトブルッフ=アグリア……さん」

 ガレトブルッフ=アグリアは身を起こした。
「なんだ。まだ紫電のおうちについてないんですね。
紫電じゃないならどうでもいいです……ついたら起こしてくださいね」
「油断しているように見えるのに……全然隙がない」
 その立ち振る舞いたるや、実力者であることは間違いなかった。恐ろしい噂もいくつか聞いている。
「まさか、アグリアさんが味方してくれるなんて…」
「紫電の領地に行くらしい」、という依頼だったので、手を挙げた。
「ふふふ、紫電……。ああ、紫電……。今日こそ、ひとつになりましょうね……」

GMコメント

●目標
 ライバルチームよりも多くの魔物を倒す!

●場所
旧ラズベイチェ領《第三区》安らぎの湖
 風光明媚な観光地です。紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)様の領地です。
 広く、木々が生い茂っており、大きな湖があります。

●ライバル
他の勇者候補生:ミッチ(剣士)、テリー(盗賊)、サリア(妖術師)。
「よっしゃーーー! やるぞ!」
「へへ! 勇者になったら何しようかな!?」
「ちょっと二人とも。落ち着きなさいよ……」
 
 いかにして得点をあげるかに躍起になっていて、視野が狭いようです。戦い方も慣れていません。おのぼりさんです。
 むしろ、ピンチに陥ってしまうと思われます。

(ゲスト)ガレトブルッフ=アグリア
「なあんだ。ちょくせつ、戦う訳ではないのですね……」
 実力者だが、直接やりあうわけではなかったので、やる気があまりないようです。魔物を適当にあしらっています。それにしても強い。ライバルチームの得点源です。
 紫電様がいらっしゃらなければ適当にお仕事をして帰ります。

その他の参加者
 地元の人たちが何人か参加しているようです。
 戦い方が不慣れで、優勝候補ではありませんが、慣れていないようなので適宜補助してあげると助かるでしょう。

●主な敵
 それほど剣呑とした敵はいません。
 自警団のみなさんが頑張っているので、数を減らして平和を保ちましょう。

・お化けキノコ 1pt ×たくさん
 胞子を撒いてくるキノコです。ちょっとしたBSがあります。

・お化けツリー 2pt ×たくさん
 木々に潜むツリーです。耐久度高め。果実を飛ばして攻撃してきます。

・牙魚 1pt ×たくさん
 棲みついてしまった外来種です。倒しておきましょう。

・巨大マッドクラブ(BOSS) 50pt ×1体
 巨大な沼カニです。棲みついて大きくなっていたようです。勇者候補生たちでは勝てません。
 ほうっておけば、3人組はおそらく挑みかかって大けが→敗退となりそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <フィンブルの春>《第三区》安らぎの湖 狩猟祭完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月28日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
レべリオ(p3p009385)
特異運命座標

リプレイ

●かつての、再び
(旧ラズベイチェ領……ここを統治し始めてから早数ヶ月)
 開会式の挨拶のために、『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は、ゆっくりと歩み出る。
 おしゃべりをしていた人々は、領主を前にしてぴたりと話を止めた。
 けれども、誰かが「領主様ー!」とさけんでしまうと、あとは興奮が抑えられないようで、ちらほらと声援があがった。
 短いようで、長かったように思う。
 嘗ての惨劇から呪われたとか言われていたこの土地を建て直すのは、並大抵のことではなかった。
 方々を探し、折り合いをつけて。旧領主が統治していた時代の古株商人などの協力を取り付け、ようやく、狩猟祭を復活開催することができる。
(ちょうど王様の勇者選抜試験とも時期があっていたし、何より魔物の大規模な駆除には《第一区》の騎士学舎の生徒達や、ここの練兵場の自警団だけでは手が足りないしな)
 高らかに開催を宣言すると、開催の花火があちこちからあがった。
(……ところで、なぁんでアグリアがいるんですかね?)
 会場の隅にいる相手を、見間違いようはなかった。
 しかも、勇者候補生のひよっこを連れているようだ。
(あいつは確か、オレ以外眼中にないような狂人だったはずだが……)
(……なぁんだ、紫電を直接愛(ころ)せるわけではないのですね♪
……ですけど、紫電の領地で、紫電に勝って名を上げれば……この土地はもはやわたしのものでもあります……♪)
 アグリアは妖しげな笑みを浮かべる。
(ああ……紫電…♪ 好きです……♪ 愛しています……♪ 今は一緒になれなくても、いつかこの地でわたしの子を……♪)
 背筋がぞくりと震える。
「……まあ、考えるだけ無駄だろう。あいつのことはオレでもたまに理解できないしな……」

「っしゃぁぁぁあああああーぅぇあー! おらぁーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)の騒音があたりに鳴り響いた。ハッピーちゃんロケットがぼぼんぼんぼんとすさまじい爆音を鳴らす。
「いや、すごい音だなあれ!?」
 領主様が手配した覚えのない冒頭の花火はハッピーのものだったりする。
「祭りじゃ!!!!!!!!!!!!!! 知らんけど!!! 何の祭りか!!!!!!!」
「増える魔物を減らす為の、定期的な狩猟祭の開催ですか……」
『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は、民の喧噪に耳を傾けている。
「なるほど、面白い試みですけど、一方でそれだけ深刻なのですね。
この時期の関係で、勇者総選挙と絡むのも仕方ないといえば無いのでしょうけど」
『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)の横を、騎士学舎の生徒達が、ぴかぴかの武器を持って駆けていった。
「定期的に魔物を大掛かりに狩らないといけない程度には、今も増え続けているという事ね。それはそれで厄介な事だけれど……まあ、うまくいっているらしいのは良い事かしら」
 穏やかな日常だ。
「この国の住人にとって本当に重要なものなのね、勇者という名は」
「とはいえ、これ自体にあまり複雑な裏が関係していなさそうなのは、良い事と言うべきでしょうか」
「きっとそうね」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が口を開くと、驚いた若者が壁にぶつかった。
……精巧な人形と思い込んでいたのだ。
「とりあえず、あの大量の魔物達を処理すればいいのよね」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はふんふんと頷く。
「さて、と。戦闘はあまり得意ではないのだけれど……まぁ、あまり強くない敵ならきっと何とかなるわよね。勇者にあまり興味はないけれど、モンスター退治は必要なことだしね?」
「彼女を雇った三人は、悪い子達ではなさそうですね。駆け出しの冒険者という所ですか。……勇者は兎も角。さて、どうなる事か……」
「ライバル連中も居るみたいだし、ちょっと頑張ってみましょうか」
 リースリットに向かって、勇者候補がぱたぱたと挨拶をする。
「気を付けて。頑張ってくださいね」
「!!!」
 はしゃいで意気込む勇者候補たちを見て、ヴァイスは思う。
(助けてあげないといけないかしら…………)
「とりあえず強そうな敵から優先的に片付けるとしよう」
『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)は、集合の前に選手たちの強さを偵察していた。どちらかといえば、実力差がありすぎるため、どのあたりが無理をしてけがをするか、といったところになるだろうか。
「その方が、ポイントを気にし過ぎずに行動しやすくなるだろう。
それに、万が一死者が出ても困るからね」
「なんか知らんけど祭りじゃ!!!!!!! 騒げ!!!!!!!!」
「にぎやかなのだわ!」
『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)の隣には、もちろん章姫の姿があった。
「相手より多くの敵を倒し、ポイントを稼ぐ。
分かりやすくて実にいいな。気に入ったぞ」
「競争なのだわ! えへん、頑張るのだわ!」
 鬼灯は胸を張る章姫の髪を、愛おしげに撫でつける。
「愛すべき妻の前で格好の悪いところは見せられんか。さぁ、舞台の幕を上げようか」

●愛する半身
 アグリアの目標は、ただ一つ。
 愛しの紫電、それのみである。
 ゆるりと武器を構えて踏み出した。
「紫電との逢引を邪魔するというのなら、容赦はしません。
 この土地をわたしのものにするためにも邪魔ですから」
 一凪ぎ。雑魚相手ならば、それで十分。身を削る必要はない。
「うわっ、強い……!」
 僕たちも頑張らないと、とキラキラと目を輝かせる。
「先ずは……やはり、マッドクラブからですね」
 なんたってこのカニは一般人には荷が重すぎる。
「ああ。そうだな」
「……大半の参加者の手に負えるものでは無いでしょう」
 リースリットの言葉に、レベリオと舞花が頷いた。
「先に蟹さんを倒して、その後に残りのたくさんいるモンスターを倒していく、という流れになりそうかしら」
 ヴァイスが小首をかしげる。
(他の参加者は殆どが然程実践慣れしていなさそうですし、相手をできるのは私達か……例のアグリアさんとやらだけの様子)
 リースリットはまだ動きのぎこちない訓練生らをみた。
「主催とはいえ、負けたら領主としてあんまりよろしくないだろう」
 紫電は目にもとまらぬ速さで、キノコを斬り払った。
「まずは、マッドクラブ。そうすればオレたちの勝ちがほぼ決まる」
 とはいえ、それはアグリアも同じ考えだろう……。
「そっちは、なんとかして引き受ける」
 紫雷は言う。
(あいつ、オレにだけは恐ろしいぐらいに負けず嫌いだし)
……時間をかけるわけにはいかない。
 イナリはすっと金色の目を開けた。
「大物がいいかな? レベリオさんの言うとおり……”あれ”は一般人には無理ね」
 広域俯瞰。
 ここからは見えない場所の獲物。
 けれど、イナリは上空から見下ろし、知っている。
 セブンアイズが――幾多ものソフトウェアが、状況を見透かす。
「あっちね!!! オーライ!!!!!!」
 イナリの示す方へと向かって、ハッピーは嵐のように駆けていった。
「そうですね。最短距離で行きましょう」
 リースリットは一瞥もせずに、道中のお化けツリーを払った。ものの敵ではない。あっけにとられた審判が遅れてポイントを叫ぶ。
「まあね、ここさえ何とかすればね、他の参加者も深刻な危険はないでしょ多分!!!
あったとしてもね!! 死後の生活も悪いもんじゃないですよ!!!!!」
 危機を見越して、イナリがわずかに進路を変えた。
 自分たちの危険ではない。
 頑張っている見習いたちだ。偶然で、ついで、の援護射撃。
 勇者候補生たちが今、この目の前の危機をどうやって乗り切るかと必死に頭を悩ませている上から、イナリはもっと引いた視点でこれを見ている。
「こっちね」
 最小限の移動、座標(ポイント)を移っていく。
 イナリは、盤面を見下ろす。
 必要な位置に駒を移動する。ダニッシュ・ギャンビット。そうやって、労力は最小をとる。
 イナリの速攻は、速攻の嵐止まぬ突撃戦術の序章だ。
 摂理の視。
 マッドクラブのもとへとたどり着いた。
 退治しようとしている、というよりは襲われている挑戦者たち。
「!」
 レベリオのレジストクラッシュが、大きくマッドクラブを後退させる。振り下ろされるはさみもうまくかわす。
 勇者候補生たちは、圧倒的な差におののいた。
 レベリオは派手な鎧をつけているわけでもないのに、最小限の動きでハサミの威力を殺している。
「う、うわっ」
「下がっていなさい、大怪我をしたくはないだろう?」
 男が、ごくりと息をのんだ。
 その合間に、一筋の雷。
 紫電が切り込んできていた。
 真っ先に、名乗り口上をあげた。その声はマッドクラブ……ではなく、嵐を呼び覚ます。
「うれしいです。ようやく私を見てくれるんですね……♪」
「相変わらずオレには愛が重いなアグリア!」
 マッドクラブがハサミを振り上げる――それよりもはるか早く、火花が散った。
 アグリアの狙いは紫電のみだ。
 奏でる金属の音。みしみしと生命が失われる音に、アグリアはうっとりと目を細めた。
「共同作業ですね……♪」
 紫電は、防御の構えをとる。
 まずは、とにかく、生き延びることだ。

 加勢するかどうか迷い、任せてくれと言っていたことをリースリットは思い出す。
 信じてもいいだろう。
(アグリアさんについては紫電さんにお相手をお任せする以上、私達で責任を持ってマッドグラブを倒します)
 リースリットの魔晶剣・緋炎が燃える。
 透明なクリスタル状の刀身。それは片割れ。もう一方を強く呼ぶもの。魔晶核が、互いを呼んでいる。緋色の炎の如き色がきらめいた。
 繰り出されるのは雷光の剣。燃焼を呼び起こし、荒れる。
 一閃。
 対のもの。
「……よく似ていますね、紫電♪」
「なんのことだか……」
「……あっ!」
 勇者候補生があっけにとられ、ぼんやりとしているところに、魔物が襲いかかってきた。
「こっち」
 陶磁のような手が腕を引く。ブルーム・ロータスに見惚れる。
 ヴァイスの攻撃は、後ろにやってきていた小さなキノコを弾き飛ばした。AKAが、くるりと正確で美しく、無機質なステップを踏んでみせる。
 ふう、と息をついた。
 まるで、おとぎ話のようだった。
(見捨てるのも可哀想だものね……)
「来たか」
 鬼灯は、静かに手を挙げた。
 何も見えない。
 マッドクラブは、不自然に動きを止める。ぎりぎりと何かが自身を締め上げている。
 魔糸『暦』だ。まるで操り人形のように、ハサミが揺れる。
 糸に編み込まれた魔力が浮かび上がる。インフィニティバーンが炸裂した。
「こいつを敵に持っていかれると非常に面倒なことになるからな、こいつだけは渡すわけにはいかない」
 そして、急激な暗闇。ダークムーンが湖にのみ月を映した。牙魚が闇に引きずりこまれて、消える。

●目覚ましのBell
「たのんだよ! 私の命中ではちょっと厳しいんでね!」
 マッドクラブのハサミは、ハッピーを揺らす。
 衝撃、いや、これは攻撃のせいではない。
 すさまじい轟音が響き渡った。
 ぽこぽことやってくる雑魚もろとも、ハッピーは理不尽なまでの速さと神出鬼没で、攻撃に身をねじ込ませていった。砕け散れどもなお、現れる姿。
「まだいけるよ!!!!!!!!!」
「うわっ」
「おっ!」
 体勢を崩した勇者候補の前に、ハッピーが割り込む。
「独り占めはだめだな!!!! 黙ってられないもんな!!!」
「下がってください、大丈夫ですよ」
 リースリットが天使の歌を奏でた。
「今は……退いてください」
「あ、ありがとう……」
 幾重にも分身するかのごとくにハッピーが割り込んでいく。
 理不尽。
「攻撃は大体私が受ければOK!!! クイックシルバーは何度でも【再構成】するのさ!!」
「この蟹は食べれるのかしらね?まぁ、バラバラに解体してから検証してみましょうか!さぁ、カニ刺しになる時間よ!」
 イナリの乱炎迦具土神が、マッドクラブを炎上させていった。鬼灯の糸によってむき出しになっている関節をつぶしていった。
 香ばしいにおいが、あたりに立ち込めていた。
 見えた。
 舞花は、武器を構えた。
 月花咲き乱れる水鏡の如く。湖面に花を映して――水月鏡像の如し。
「問題ない」
 レベリオが候補生をかばった。受けたダメージは、イモータリティがあがなった。
「っ……すまな!」
 行けとレベリオは合図する。
「レベベっちで一手あまった!!! もったいないんだなーーー!!!!」
 ハッピーの享楽が、マッドクラブの鼓膜と殻をぶち破る。

 互いを試すような、アグリアと紫電の一手は軽やかなフェイントをひるがえし。
 一手、また一手と殺意を増す。
 ダンスのステップのようなそれは最初のひとつだけ。
 あとは、命がけの攻防が繰り広げられていた。
(……紫電さんにお任せします)
 舞花は一歩下がり、群がってきた雑魚に構える。
 今、自分の役割は、迫り来る雑魚の掃討だ。
 舞風。
 それは、遠当ての剣だった。風が吹いたかと思えば、即座に舞花は刀を振るっていた。連続の息をもつかせぬ一撃。
 ヴァイスは湖に手を浸し、自然と通じる。
 薔薇に茨の棘遂げる――這っていたツタが、自然が。空気が、水の粒がヴァイスへと力を貸す。空隙。なにもない。真空に、一気に風がなだれ込む。
 衝撃が舞いあがる。
 マッドクラブは虫の息だ。方向感覚を失い、平衡感覚も封じられた。
(ああ、紫電。たのしみですけれど……♪)
 アグリアが動きを変え、マッドクラブのもとへと――。
「油断しましたね♪」
「よそ見なんてさせるか」
 割って入る。
 ブリュム・ドゥ・シャルールが攻撃を受け止める。
 アデプトアクション。論理演算武闘式が、アグリアの姿勢をからめとった。
「……油断したな?」
 隼刃《星落》。距離を取ったのはみせかけで、つまり。愛しい紫電の表情が、すぐそこにあった。
 アグリアは目的も忘れて瞳を覗き込んだ。

「っと、ここが勝機と見た!」
 イナリの毒霧が、あたりを覆いつくしていった。
 しどろもどろの、酩酊の香り。
 リースリットの雷の魔術が、雷鳴とともにとどろいて落ちた。マッドクラブがどたりと倒れる。
「……領主様チーム、ポイントです!」

●掃討モード
「ああ、紫電のものになれないなんて……♪」
「おっしおっし勝った!!!」
「まだ早いからな!?」
 とはいえ、これで勝利はきまったようなモノだろう。あとは……。掃討だ。
 紫電は、自らを刀に捧げる。
 紫電一閃【禍】。紅黒く迸る雷光があたりをなぎ払った。
 勇者候補生たちのすれすれ、襲いかかる敵をなぎ倒した。
「ひええ!?」
「もうね! 見分けるのも面倒なんでね! 片っ端からね!!」
 ハッピーのLook at me !!
 すさまじい轟音。がんがんというたらいをたたき付けるような音の洪水。耳を塞いでも、どうしたってその音が飛び込んでくる。
「必殺さえなければ、私ごと巻き込んで攻撃していいよ!」
「なら、信じようか」
 レベリオは擬態したお化けキノコを斬り払った。H・ブランディッシュがベルを鳴らした。巻き込まれ、砕け散りそして何度でも、立ち上がるのだった。
 ブロックで敵を押さえ、レベリオは「やってみろ」と促した。
 おぼつかない勢いで武器を振る練習生。それで、ようやく一体を倒した。初めてのポイントのようで、わあっと抱き合って喜んでいた。
 ぴしゃりと、牙魚が跳ねる。
(油断はいけませんね)
 この敵は処理しきれないだろう。
 水月の位。
 舞花の一撃が、襲いかかる牙魚をまとめてなぎ倒す。
(無理をして死なない程度にがんばっていただきたいですね)
 イナリの酒解狂騒霧が、あたりをもうもうと覆い尽くす。
 もう一体? いや。
 イナリはあえて、別の個体を狙うことにした。
 ほかの選手が、自分の力で一体を倒した。
(……冒険者とでもいうのかしらね、ああいうのは。
純粋に勇者たらんとするその想い自体は悪いものではないのだから)
「いけるか?」
「もちろん!!!!!!! じゃんじゃん鳴らしてね!」
 ハッピーの答えを聞いて、鬼灯はヘビーサーブルズを放つ。一網打尽だ。わあ、と完歓が沸いた。
「さてと。優勝……はできるだろうけれど、ちゃんと掃除しておかないとダメね」
 残敵を見据えて、イナリは御柱を振るった。後ろにいるはずの敵を、正確にうちのめした。全ては正確に。打ち砕かれてゆく。
「フルパワーでぶっ飛べ!!!!!!!!!!!! 派手にやろうぜ派手に!!!!!!」

●祭りのあと
 かくして、優勝のメダルは彼らの手に。
「……それなりに元気そうだな」
 レベリオが頷いた。
 リースリットがそう言って握手を求めたのは、同情ではないだろう。
 思い上がっていた勇者候補生は、困った顔をしている。
「僕たちは、きっとその握手に応える資格が……」
 章姫が、くいと鬼灯の袖を引いた。コホン、と咳払いをする。
(わかった。助言……いや、そんな大層な物ではないがちょっとした話を)
「貴殿らは勇者になりたくて此処に来たのだったな?」
「う……」
「いや、理由は何でもいい。剣を取るに足る理由だった、というだけで十分だ。
そして貴殿らは今日己の実力を思い知った訳だな?」
「……」
「悔しかったか?」
「はい……」
「もし、貴殿らがこの悔しさを忘れず鍛錬を重ねるようであれば一年後には今日の貴殿らよりは屹度強くなっているだろうさ」
「……!」
「もし鍛錬相手が必要ならいつでも訪ねてくるといい、俺でよければ力になろう」
 優しいのだから、と自慢そうな章姫。
 繰り返される日常に、舞花がそっと思いをはせる。
(裏では陰謀渦巻く勇者選挙で、彼らが命を落とす事無く経験を積んでいける事を願いましょう)
 ヴァイスはそっと、小さな祈りを胸にした。

成否

成功

MVP

ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

状態異常

紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打

あとがき

狩猟大会、お疲れ様でした!
文句なしの優勝、それも、他の参加者を導いての優勝となりました。

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