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シナリオ詳細

天使は毒華を抱いて微笑む

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●毒性天使の依頼
「もしもし、お時間よろしいですかしら――」
 ギルド・ローレット。その依頼掲示板前にて、次なる依頼を探していたベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)と久泉 清鷹 (p3p008726)へと声をかけたのは、見目麗しい獣種の女性であった。一目で相応の令嬢である事を理解させるその立ち振る舞い、彼女は優雅に一礼をする。
「貴女は……たしか、アンジェリカ商会の」
 マナガルムが言うのへ、女性――イスラフィール・アンジェリカは微笑む。イスラフィールは、ラサ傭兵商会連合でも有力な商会である『アンジェリカ商会』の一人娘だ。次期会長ともいわれる彼女は、商会の顔として人前に出ることも多い。
「ええ、イスラフィールです。そちらの方ははじめましてですね。先日のラサの祝勝会でお姿はお見かけしたのですが、私もどうしても席を外すことができず……ごめんなさいね」
「いや、こちらもご挨拶に伺えずに申し訳ない。私は久泉 清鷹」
 清鷹はゆっくりと一礼をする。
「マナガルム殿のお知り合いか」
「ああ。ドゥネーヴ領の領主代行としての仕事でな。何度か社交の場で話をさせてもらった事が有る」
「覚えていただいて、光栄に思います」
 イスラフィールはにこりと笑うと、その両手を合わせて続ける。
「実は、お二人にお仕事のお願いがありますの。どうか聞いてはいただけませんでしょうか?」
「なるほど、ローレットへの依頼だったか」
 マナガルムが頷く。
「では、相談卓があるので、そちらへ。詳しい話を聞かせてくれ」
 マナガルムがそう言って、イスラフィールを奥へと誘う。イスラフィールの立場を慮ってのことだろう、奥の、人目につきにくい相談卓へと、一同は移動する。
「静寂の青を越えた先の新天地、豊穣の事はご存じですね?」
 イスラフィールが言うのへ、二人は頷いた。豊穣郷カムイグラ。各国が新天地の商材確保に乗り出す中、アンジェリカ商会もまた、豊穣と直接やり取りすべく動き出したのである。
 現地の『とある栽培農家』と契約を果たせたアンジェリカ商会であったが、しかしそこで問題が発生した。
「私どもが取り扱いたいのは、豊穣にのみに咲くという『平咲華(ヒラサカ))』という花なのですが、その花畑に怪物……あちらでは、妖、というのかしら? それが現れて、収穫が滞ってしまったそうなのです」
「なるほど。つまり仕事とは、妖の排除、という事になるのか」
 マナガルムがそう言うのへ、イスラフィールは頷いた。
「平咲華からとれる香料や染料は、私どもの主力商品たる香水などに新しいインスピレーションを与えてくれると思います。新大陸との取引の継続も重要ですが、それ以上に、今回の商材は私共にとって重要な位置づけとなっているのです」
 アンジェリカ商会の扱う商品は、ドレスや宝飾類、香料など、女性の嗜好品が多い。未知の大陸からのエキゾチックな香りの新商品となれば、求める者も多いだろう。また、豊穣という地をブランド化できれば、今後の継続した取引と収益につながることもある。
 そのため、どうしても、今回のやり取りを成功させたい。そのためにも、現地の農家が潰れてしまうのは避けたいのだ。
「仔細、承った」
 清鷹が言った。
「他の仲間達にも声をかけ、妖の討伐を行う事を約束する。……だが、一点。確認したい事が有る」
 清鷹は、その視線を遠慮なく、イスラフィールへとぶつけた。瞳を覗き込む。何処かぼんやりとした、赤い瞳が見つめ返す。
「平咲華とは、比良坂より転じた名で、つまりその語源は黄泉比良坂。あの世とこの世の境のことを指す。
 端的に言ってしまえば、平咲華とは非常に危険な毒草だ。故に冥界の名が付いた。
 その上でお聞きするが、イスラフィール殿は、それをご存じの上での取り扱いか?」
 すぅ、と、赤い眼を細めるイスラフィール。
「存じております」
 と、感情の揺らぎを見せず、イスラフィールは言った。
「平咲華は捨てるところがない。花弁と茎は染料に、蜜と葉は香料に。そして、ええ、根は毒に。存じていますよ」
 にこり、と。
 イスラフィールは笑った。
「華とは、女と同じと私は思います。
 花弁(かお)に笑を。葉(うで)に愛を。そして根(こころ)に毒を含んで。
 ええ、そう言ったものだからこそ――女を飾るのに充分な素材となる。そう思いませんか?」
 イスラフィールが口の端をあげた。
 輝く赤い眼は、しかし今は何かしら、昏いものを含んでいる。
(……マナガルム殿。彼女は危険では)
 清鷹が本能的に。それを理解し、小声で告げた。
(……わかっている。だが、商材として使うというのは事実だろう)
 マナガルムが答える。マナガルムは、イスラフィールにまつわる黒い噂を知っていた。『毒性天使』。毒性のある香料を用いた暗殺者――あるいはこれも、その『暗殺業』に使うためのものではないのか。
 だが同時に、平咲華を通常の通り、香料や染料に使いたいというのも事実なのだろう。イスラフィールの言葉に嘘は感じられない。それは二人に一致した認識であった。
「どうでしょうか? 受けていただけて?」
 イスラフィールが微笑む。その目には先ほどまでの毒気は見受けられない。
「ああ、もちろん。この依頼、受諾するとしよう」
 マナガルムが言った。その言葉に、イスラフィールは嬉し気に礼を言った――。

GMコメント

 お世話になっております、洗井落雲です。
 此方は、イレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により発生した依頼となっています。

●成功条件
 すべての妖の撃退

●失敗条件
 『平咲華』畑が破壊される

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 イスラフィール・アンジェリカよりローレットへと持ち込まれた依頼は、アンジェリカ商会と取引とある豊穣の農家、その畑に現れた妖を討伐してほしいと言うものでした。
 商会が豊穣の品を各国に流通させることは、豊穣の各国への貿易に有利に働くことに間違いはありません。そのため、豊穣の今後のためにも、こう言った商取引の類は成功さていくべきでしょう。
 平咲華は、美しい花弁と香り、そして強烈な毒を持つ花です。取り扱いの思惑には様々ありますが、適切に使えば人類に益になる事は間違いないのです。
 作戦決行時刻は昼。戦場は平咲華畑になっており、足元が少々荒れており、行動しづらい事が有ります。
 また、今回のシナリオでは、一部攻撃の余波で畑にダメージが発生する可能性があります。単体攻撃ほど被害は少なく、攻撃範囲が広がるにつれて畑へのダメージの可能性が高くなります。これは保護結界などで防げます。
 また、敵が畑への攻撃を行う事が有ります。これらのダメージにより畑が完全に破壊された場合、作戦は失敗となります。

●エネミーデータ
 犬型の妖 ×5
  犬型の、大きな妖です。元は祀られていた狼の妖だったようですが、人が信仰を捨てて堕ちました。
  噛みつきによる物理攻撃や、神性を持った遠吠えによる神秘攻撃などを使用してきます。

 猫型の妖 ×5
  猫型の妖です。トラくらいのサイズ。こちらも元は祀られていた妖だったようですが、信仰の喪失により堕ちた模様。
  犬型の妖に比べて反応や回避が高く、HPは低めです。鋭い爪の物理攻撃に気を付けてください。

 熊型の妖 ×3
  熊型の妖です。ヒグマをベースにしたような姿で、やはりこれも元は祀られていた妖だったようです。
  此方は単純に物理に特化したパワーファイターです。タフで、高い攻撃力。
  攻撃レンジや対象は狭いですが、その分重い一撃に気を付けてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 天使は毒華を抱いて微笑む完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
※参加確定済み※
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
久泉 清鷹(p3p008726)
新たな可能性
※参加確定済み※
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸

リプレイ

●毒華の園へ
「ああ、ローレットの皆さん、こちらです」
 豊穣の地、今日より離れた山村へと降り立ったイレギュラーズ達を迎えたのは、アンジェリカ商会に所属する現地担当者の女性であった。
「現地の商人と本国の折衝などを担当しております、シトリン・ネッスです。今回は、イスラフィール様の『代理』として考えていただいて構いません」
「よろしく頼む、シトリン。流石にイスラフィール嬢はいらっしゃられないか」
 そう言う『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に、シトリンは頷いた。
「イレギュラーズの皆様と違い、我々は海路で時間をかけて豊穣に向かうしかありませんので……」
「違いない。では、イスラフィール嬢への言伝なども頼めるのかな?」
「ええ、『どんなことでも』。何なりとお申し付けください」
 にこり、と笑うシトリンに、マナガルムは察した。彼女は、イスラフィールの毒殺天使としての顔を知っているのだ。故に、『平咲華』という毒華の担当を任されたのであろう。
(やはりこの依頼、単純な綺麗事だけで済むわけではないようだ……)
 『新たな可能性』久泉 清鷹(p3p008726)は、胸中で嘆息した。本国で出会った、イスラフィール。あの、どこか昏い何かを感じさせる瞳……あの色を思い出しながら、しかし、と清鷹は頭を振る。
(豊穣の繁栄につながる事もまた事実。今は依頼の完遂に意識を集中しよう)
「で、守らなきゃならないのは、ヒラサカ・フワラーだったな!」
 『ドラゴンスマッシャー』郷田 貴道(p3p000401)が声をあげる。
「さっそく花畑に案内してほしいね! 害獣退治と聞くと長閑だが、村人の手に負えないならミー達の出番さ!」
 HAHAHA、と笑う貴道。頼もしそうな瞳をシトリンは向けると、
「では、こちらへ。ご案内いたしますわ」
 そう言って、戦闘に立って歩き始める。山村のはずれに存在する開けた場所に、花畑はあるらしい。複数個所あるようだが、その内の一つに、イレギュラーズ達は案内された。そこには、踏み荒らされ、掘り返され、ぐちゃぐちゃになった花畑があった。赤、黄色、蒼と言った様々な花が、今は無残な泥にまみれている。
「うわ……これはひどいですね」
 荒らされた花畑の中から、かろうじて無事であった一本の平咲華を見つけた、『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)が言う。
「とっても綺麗ですけど……毒草、なんですよね?」
「ああ。平咲華の根っこを煎じて飲めば、あの世に居る想い人に会える……と、伝説にされているほどにな」
 『焔鎮めの金剛鬼』金枝 繁茂(p3p008917)は腕を組みつつ、ゆっくりと頷いた。
「それほどまでに強力な毒物という事だ。口にしなければ問題ないが、あまり素手で触らない方がいいかもしれないな」
「そう聞くと恐ろしいですね……」
「でも、全ての薬というのは、使い方や用量を誤れば毒になるっていうからね」
 マルク・シリング(p3p001309)が苦笑していった。
「その逆もまたしかり。毒も薄めれば薬となる……だから一概に、ただ恐れればいいというものではないんだ。まぁ、『平咲華』は大分極端みたいだけれどね」
「実際、この村でも観賞用や、染料のために栽培していたそうですよ」
 シトリンが言うのへ、なるほど、とイレギュラーズ達は頷く……まぁ、その実態は、シトリンの主同様、昏い何かを隠しているのかもしれないが。
「情報によれば、畑を襲っているのは、零落した守り神のようなもの、らしいな」
 『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)が、煙草をふかしつつ、言う。
「となれば……いくら堕ちたと言えば、元は人を守っていたモノ。なぁんでそんなのに襲われるかな?」
「さあ……?」
 シトリンは微笑んで返した。
「妖の行動原理は、私どもにはとても……個人的な所感を述べても?」
「どうぞ?」
 す、とタバコの煙を吸い込むシガー。シトリンは頬に手を当てて、
「或いは、毒から人を守ろうとしているのかもしれませんね。如何に人が利用しているとはいえ、劇物に変わりはありませんから。それを遠ざけようとしている……わずかな、人を守ろうとする意志で」
「だとしたら、なにかもの悲しいですね」
 『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)が言った。
「信仰を捨てられ、朽ちてなお人を守ろうとする、ですか。いえ、やりにくくなったというわけではありませんが。何か寂しさを感じます」
 シガーは、ふ、と煙を吐き出す。何にしても、この畑を守るという依頼を受諾した以上、仕事は果たさなければならないのだ。
「ああ、しとりん殿!」
 と、シトリンに声がかかった。見れば、豊穣の農民風の男がバタバタと血相を変えてやってくる。
「でました! 例の妖です! ええと、こちらの方々は、神使様がた……用心棒を買って出てくださった?」
「そうなるな」
 マナガルムが頷く。
「おお、これは心強い! さっそくで済みませんが、奴らを追い払ってはくれませんか! 裏手の畑の近くに出たみたいで、もうすぐに畑に入っちまうのです!」
「なるほど、これはぐずぐずしてはいられませんね!」
 綾姫の言葉に、仲間達は頷いた。
「では、早速行くとしよう」
 清鷹が言った。
「HAHAHA、害獣退治だ! 終わったらジビエ料理と行こうじゃないか!」
「ええっ、もしかして、妖、食べるんですか!?」
 貴道の言葉に、ステラが驚きの声をあげる。めいめいに声をあげつつも、一行は走りだした。向かうは妖が出没したという畑。シトリンはイレギュラーーズ達を見送りながら、佇む。
 はたして裏手の畑についた一行が目にしたのは、まだ様々な花を咲かせる平咲華畑である。
「マナガルム、結界を」
 繁茂が声をかけるのへ、マナガルムは頷く。
「罪なき者を守り給え――はぁっ!」
 剣を掲げ、祈りを紡ぐ――途端、清浄なる空気があたりを走った。空間が、それに包まれるのを感じる。保護結界のスキルである。
「【保護結界】の神に願い奉る。
 この地を荒らす妖を払い安寧秩序を奉納します故。
 どうかご加護を」
 ぱん、ぱん、と二拍。そして一礼を捧げる繁茂。あたりを包む空気が神聖なそれへと変化したのを感じる。保護結界の強化を行ったのだ。
「これで畑が戦闘の巻き添えになる事はないね……あとは、敵を押さえればいいだけだ」
 マルクが言うのへ、皆が頷く。同時、ざ、ざ、と草木をかき分ける音が聞こえた。それは、獣の足音に違いなかった。
「犬、猫、熊って聞いてたけど」
 マルクは身構えた。
「どれも大きい……怪物クラスじゃないか! まぁ、確かに間違ってはいなかったけれど!」
 マルクの言葉通り、そのどれもが大きく、人程度ならば瞬く間に殺害できそうなほどに凶悪な牙や爪を有していた。
 轟、と妖たちが吠えた。此方の姿を認め、威嚇を行ったらしい。びりびりと空気を震わせる。
「元は祀られていた存在とは言え、今は理性を失った怪物か。寂しいものだ」
 シガーがゆっくりと言った。その手を刀の柄へとやる。
「かつては守り神のような存在だったとはいえ、零落し、人にあだなすならば斬らねばならない」
 清鷹はゆっくりと、『大通連紫式』を抜き放った。
「行くぞ、皆――毒華、守りぬくとしよう」
 その言葉に応じるように、仲間達は武器を抜き放つ。かくして、毒華の畑を守るため、イレギュラーズ達の戦いが始まるのであった。

●華は咲く
「まずは奴らを花畑から引きはがす! 手伝ってくれ!」
 マナガルムの叫びに、仲間達は頷いた。
「俺は可能な限り猫型を引き付ける……!」
「では、犬型を引き付けよう」
 マナガルムの言葉に、清鷹は頷き、
「では、熊型を俺が。皆がそちらを散らしている間くらい、耐えて見せよう!」
 繁茂が続く。
「俺はここにいるぞ! かかってこい!!」
 繁茂が口上をあげる。引き寄せられた熊たちを連れて、繁茂は花畑を駆けた。
「花を荒らす不届きものよ、こちらを見よ!」
 清鷹の叫びに、犬型が一気に走り出した。駆ける、5匹の犬。引き連れて、抜身の刃を構える剣士が迎え撃つ。
「シッ!」
 鋭き呼気ともに、振るわれた刃が犬型を切り裂く。ぎゃん、と悲鳴を上げた一匹の犬型、その前腕に鋭い刀傷が走った。
 ぐるる、と犬型が威嚇する。途端、飛び掛かってきた犬型。その鋭い爪が、清鷹の着物を切り裂いた。大型の犬のように見えるとはいえ、伊達に妖と祀り上げられてはいなかったようだ。
 ぐうう、と犬たちが吠える。じり、と清鷹が距離を詰める――同時。
「清鷹さん!」
 叫んだのは綾姫である。手にした儀礼短剣を逆手に構える。
「まとめて貫きます! 清鷹さんには当てません、信じて、動かないでください!」
 その剣先に雷が走る! 途端、その先端よりうねる鞭のように、雷が伸びた! 気合の呼気と共に、振るわれる刃。伸びた雷が鎖の鞭となりて、地を疾走した! 振るわれる鎖は器用に清鷹を避け、犬型たちを撃ち貫く。身のすれすれを走る雷に、しかし清鷹は動じない。当てぬ、というのなら、当てないのだろう。それだけの技量を綾姫が持っていることを清鷹は理解していたし、信じていた。
 雷が、犬たちを打ち据える。瀕死の一匹が、清鷹へと襲い掛かった。決死の突撃! しかし清鷹は焦ることなく、静かにその手を翻した。斬! 静かに、音もたてずに振るわれた鋭い一撃が、犬型の首を切って落とす。勢いのまま、しかし脱力した犬型の身体が地に墜ちる――。
「流石です……!」
 綾姫が感嘆の声をあげるのへ、
「いや、貴殿も見事なものだ」
 清鷹が微笑む。二人の戦士に相対する犬型たち、しかしこの二人を相手にするには、格が違うと言うものか。
「私なぞまだまだ……!」
 残る犬型が二人へと迫る。二人はゆっくりと、刃を構えた。
「さぁ、来るぞ!」
「全力で迎え撃ちます! ……この程度の威力で保護結界は抜けませんよね……!」
 綾姫が、手にした刃に力を込める。『鋼華機剣『黒蓮』』がその力を感知したように震え、その刀身を延長させた。同時。放たれた突き。その斬撃は衝撃波となって、空を走る! 衝撃が刃となって、犬型を貫いた――。
 一方、猫型と相対していたマナガルム、飛び掛かってきた猫型を、短槍で叩き落した。ぎゃん、と猫が吠えて、しかし空中で態勢を整えると着地してみせる。ヴヴヴ、と唸るような鳴き声をあげ、こちらを睥睨する。
「元は祀られた神々だというのであれば、今日ここでその悲しみを、憎悪を受け止めよう……!」
 囲まれた――が、それも予定の内である。可能な限り、自分が奴らを引き付ける。
「マナガルムさん! 援護するよ!」
 マルクが声をあげ、手にした杖を掲げる。天高く掲げた杖、その先端から弾けるように輝く、裁きの聖光。邪悪を焼き尽くす熱量を持ったそれが地を照らし、猫型たちを巻き込んで焦熱に照らす!
「続きます! まとめて、打ち倒す――!」
 ステラのアサルトブーケが振るわれる。周囲を巻き込む、暴風の如き乱撃。その一撃一撃が猫型を捉える中、しかし素早く身を躱す個体を、ステラは視界の端に捉えていた。
「速いですね……ですがっ!」
 ステラも追いすがる。仕込んだ毒手(あんき)、それが翻り、飛びずさって足を止めた猫型の胴体に突き刺さった。避けようのない必中攻撃。猫型は、ぎゃん、と悲鳴を上げ、内を腐らせる致死毒にもがき、倒れ伏す。
「ごめんなさい……元は祀られていたあなた達に、無礼かもしれませんが……」
「だが、今は倒すしかあるまい……」
 マナガルムの言葉に、ステラは頷いた。
「見捨てたのが人の役目なら、鎮めるのも人の役目なのかもしれませんね……!」
「それも身勝手かもしれないけれど。でも、しょうがない」
 マルクが二人の背を守る様に、杖を掲げる。癒しの波動が仲間達を包んだ。
 三人が構える。残る猫たちが、一気に飛び掛かる――。
 イレギュラーズ達の戦いは続く。花畑は保護結界と、イレギュラーズ達自身が楯となる事で守られていたが、その分負担は大きい。傷は確かに増えて行ったが、同時に敵の数も確実に減らして行った。
 イレギュラーズ達は犬型と猫型を優先して撃破していった。数が多く、花畑に攻撃を行う可能性の高いこの二種を早々に撃退すべきとの判断だが、正解だったと言えるだろう。イレギュラーズ達は速やかにこれらを撃破し、残る熊型へと攻撃を集中するのである――!
 振るわれる熊型の剛腕が、繁茂を殴りつけた。その腕を掲げて受け止める繁茂。ぐっ、と圧される力が、繁茂の身体を衝撃となって駆け巡る。
「ぐ……うっ!」
 繁茂は耐えていたが、既に可能性の箱をこじ開けてここに立っている。ひとりでこれだけの数を抑えるのは苦労であったが、しかしそれは報われることとなった。
「待たせたな!」
 貴道が吠え、駆けだした。射程に捉えた瞬間、振るわれる拳。上から一発。下から一発。さながら上下より噛み砕くかのような、ヘビィブロウ! ぐしゃ、と音を立てて、熊型の顔がへしゃげた。ごう、と悲鳴を上げた熊型が地に倒れ伏す。
「ユーはいったん下がりな! ファッキンベアーどもはミーが相手するぜ!」
「すまない、任せる……!」
 充分な役割を果たした繁茂が、後退する。それを背中で感じながら、貴道は不敵に笑い、『かかってこい』とジェスチャーをしてみせた。
「ミーはタイマンの方が得意なのさ、今晩は熊鍋で決まりだな。
 熊肉は牛や豚に比べて脂以上に肉としての味が濃くて、野性味もあるし美味いんだぜ?
 安心しな、食えるところが減らないように優しく殺してやるからよ?」
 轟! 熊型が吠え、貴道へと襲い掛かる! 振るわれる剛腕、それをスウェーで回避! 体制を戻す勢いも載せて、右ストレートを熊型の顔面にぶち込む! ぐらり、と揺れた熊型が倒れる!
 一方、残る熊型と相対するのは、シガーである。じり、と距離を詰めるシガー。その手は納刀された刀の柄へと静かに触れていた。
「荒れる気持ちは察するが、これも仕事でね。斬らなきゃならない」
 ちり、と刃が鳴る。熊型が駆けだす。轟、その腕を振るう。交差。刹那。
 ちっ、と刃が奔った。カウンターで放たれた一撃。後の先より放たれる刃。邪剣の一。それが熊型の首を刎ねた。
「悪く思うなよ」
 その言葉を最後に。辺りは静かになった――。

●戦いの終わり
「まるくさんは、畑仕事もできるのかぁ」
 感心したように、農夫が言う。マルクは苦笑しながら、
「少し調べただけで……アフターサービス、かな。『平咲華』を、もう少し知りたかったからね」
 そう言う。その手は畑の土に汚れていた。
 畑を守り切ったイレギュラーズ達は、荒らされた畑の修繕を買ってて出た。マルクのように専門的に手伝えるものもいれば、資材を運ぶ程度のものもいたが、農民たちの役になったのは間違いないだろう。
「こいつ等は……結局、暴れていただけだったのだろうな」
 シガーが言う。畑の隅に重ねられた、妖の死体。彼の調査によれば、平咲華の栽培が周囲に害をもたらすようなことはなく、彼らが襲撃を繰り返した理由もわからない。
「案外……シトリンの所感が正しいのかもしれないな……」
 繁茂が言った。だとしたら少し、悲しいことかもしれなかった。
「ええと、そうです。この辺に、小さいのでいいので……彼らの、祠を」
 ステラが、農夫たちにそう告げる。元は祀られていた妖たちである。弔う、とも違うが、なにかもう一度、祀ってあげるようなことができればいいと思っていた。
「人の都合で捨て、その命を奪い……謝る事しかできないが……」
 マナガルムが、静かに妖たちの遺体に頭を下げた。
「おいおい、ジビエ料理、って雰囲気じゃなさそうだな」
 貴道は肩をすくめた。
「まぁ、しょうがない。豊穣の名産を今日のディナーにするとするかな!」
 貴道は笑う。それは少しだけ、悲しい空気を吹き飛ばしてくれた。
「平咲華は、その毒故に不吉な名をつけらえているが、本来は美しい花なのだ」
 清鷹は、花畑を前にしながら、うつむく。
「……故に、この花がこれ以上、不名誉な名を負うことは無いよう、真っ当な商用利用であることを祈っているぞ。イスラフィール殿…… 」
 静かに、呟いた。その想いは、果たして。
「シトリンさん、実はご相談があるのですが……」
 と、綾姫がシトリンに尋ねる。
「実は、その。商会が扱う装飾品や香水に興味がありまして! おすすめのものがあったら教えていただきたいなー、と!」
「あ、拙も、香水は気になります!」
 作業を終えたステラが手をあげる。
「なるほど。では、お二人にお勧めの商品をピックアップいたしましょう……それと、私の名刺をお渡しします。お店で出していただければ、すこしわがままも利くようになるはずです」
 シトリンが二人に名刺を配るのへ、マナガルムが声をかける。
「すまない、俺からも一つ……これは、イスラフィール嬢への頼みでもあるのだが。彼女の息のかかった部下を、一人、俺の領地に派遣してもらえれば、と」
 なるほど、とシトリンは頷いた。
「かしこまりました。お伝えしましょう」
 その瞳に、どこか怪し気な色を携えて。
 様々な思い、様々な思惑。
 人が抱くそれを、知ってか知らずか。
 毒華はただ、在る様に、美しく咲いていた。

成否

成功

MVP

金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 毒華と言えど、それは使うものの心次第。
 花はあるがまま、ただ咲くのみです。

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