PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花盗人

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●花、喪われる
 それは闇夜に紛れてやってくる。
 人々が寝静まった後に、宴で賑わいでいる内に、こっそりひっそりと気付かれぬようにやってきて、そうして奪っていくのだ。人々が愛してやまぬものを。
「ヒヒ、今回も楽勝だったな」
「俺ら(おいら)たちは慎重だからな、間抜けな奴らが気付いた時にはもうおさらばしてるって手筈さ」
「流石兄ィ、悪いお人だ」
 ククク、と喉を鳴らして下卑た笑みを浮かべた男たちは、誰にも気付かれぬ内にひと仕事を終えると、それ以上痕跡を残すこと無く静かに立ち去る。欲を出して多くを求めることはない。バレない内に――それもバレるのが少しでも遅くなるように、少しずつ、慎重に奪っていくのだ。

「あんれ」
 豊穣郷の山奥のとある村の住人が、間の抜けた声を上げた。丸く開いた口と瞳が向けられた先は、頭よりもだいぶ高く、お天道様よりも低い場所。すくりと伸びた木が、自由気ままに伸ばした腕の先――いくつもの薄紅の可憐な花が綻ぶように咲く枝だ。
 ――否、枝があったはずの場所だ。
 二日置きに野良仕事をしにここへ来ては愛でていたのだ、勘違いなどではない。硬い蕾がぷくりと膨らんで咲きこぼれるのを今か今かと待ち望み、そうしてやっと開いたばかりの桜花を咲かせた枝。それが、無くなっている。
 しかも、誰かが伐採した跡がある。強風で折れた等の跡ではない。人の手による、鋭利な切り口だ。注意深く他の木々へも目をやれば、ひとつの大木にひとつ程、その痕跡が見つかった。
「なんとまあ、ひどいことを」
 桜の木を手折る、花盗人が現れたのだ。


「花盗人が現れました」
 許されないことですと告げる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の眉はキリリと上がっていた。
 花盗人とは、花……特に桜の花の枝を手折って持っていく花どろぼうのことである。この時期の豊穣郷の山奥は、どこもかしこも薄紅色に染まって美しい。その薄紅色に染めている主、桜の花が咲いた枝を持っていく者が現れたということだ。
「少し前、桜が開花しだしたころから何度か報告には上がっていたのですが、彼等は計画的に行っているようで、中々尻尾を掴ませてくれなかったのです。けれど今回、比較的早く発見され、次に向かうならこの辺りだろうという目星をつけました!」
 豊穣郷の山奥の地図を広げたユリーカは、この辺り、と指をさす。そこには、大きな桜の木が描かれていた。
「この村の山には、その辺りでは少し存在を知られた桜の大木があります。他の桜よりも大きめな八重咲きの桜なのだそうです」
 花盗人たちが花を盗むのは、売るためだ。手折った桜花を少し大きめな街や都へ持っていくと、雅やかなものを好む趣味人の町民や貴族が喜んで買うのだそうだ。その桜花が美しいほど高値(こうじき)で売れる。その桜花が珍かであればあるほど、やはり高値で売れる。
「皆さんに行ってもらいたい日は、村で夜に宴が開かれます。この盗賊さんたちは慎重なようで、他へと色んな人の目が向かってしまう時を狙って犯行を行うのです」
 だからきっと、来るはずだ。
 木を切るにはどうしても音がしてしまう。村落から離れに離れた山の中なら良いが、件の桜の大木は村から近い上に村人たちから愛されている。何とはなしにふらりと夜に見に行って、酒を一杯引っ掛けて「今年も綺麗だなぁ」などと笑って帰宅する者もいるくらいだ。
 盗賊たちが犯行を行っても、見つかる可能性が低くなるのがその夜なのだ。
「……もし村の人に見つかってしまった場合、逃亡するために盗賊さんたちは村の人を傷つける可能性があります。ですので、皆さんに行ってもらいたのです!」
 村の長はこのことを知っているため、村人たちには不安にさせないよう、また宴を楽しめるようにと内容を伏せ、大木の方へいかぬよう周知される。けれど、酒が回った酔っ払いは、何を仕出かすかはわからない。
「出来るだけ静かに、出来るだけ迅速に、悪い人を捕まえてください!」
 お願いします! と、ユリーカは深く頭を下げる。
 仕事を終えたらお花見してきても大丈夫なのです、と添えて。

GMコメント

 はじめまして、もしくは二度目まして壱花と申します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●成功条件
 桜を傷つけない
 盗賊の捕縛

●ロケーション
 夜の山の中です。村人たちは離れた場所で宴会をしています。時折喧騒が聞こえてくるくらいの距離です。宴会を村人たちが楽しんでいる間に、こっそりひっそりと悪さを働く盗賊たちが出現します。
 光源は月の光のみ。桜等が枝葉を広げていない場所ならば割と明るいです。
 先に隠れているひとを見つけるのは難しく、隠れずにやってくる者は見つけやすい状況です。勿論盗賊は、できるだけコソコソとやってきます。が、潜んでいればその登場に気付くのは容易です。
 周囲には桜を始めとした木々が沢山生えているため、無差別な範囲攻撃はおすすめいたしません。

●盗賊×3
 痩身、マッチョ、低身長の凸凹盗賊三人組。近隣の山の桜を狙っては次の山へ移動していくため足がつきにくく、今日の仕事もイージーモードだと思っています。村人くらいなら簡単に対処出来ます。
 攻撃手段は、刀や鈍器、身体を用いた物理の近接系になります。

●夜桜を愛でる
 盗賊を捕縛して村へ突き出すとお酒や果実水、肴を分けてくれます。
 戦闘後、明るい月の下で夜桜を愛でることができます。
 全体の3割程の描写量を予定していますが、素早く、そして怪我や桜への被害も少なく行動して頂けますと描写量が増える予定です。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
 好い一夜を過ごせますよう。

  • 花盗人完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
彼岸会 空観(p3p007169)
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
小鳥遊 美凪(p3p009589)
裏表のない素敵な人
新妻 始希(p3p009609)
記憶が沈殿した獣

リプレイ

●夜陰を纏う
 ――ザザァ……。
 風が吹き、桜が鳴く。
 月明かりに美しく舞う桜花弁は世界を彩り寿ぐものであるはずなのに、それは何処か悲しげで。
(他の桜たちが傷つけられているからでしょうか)
 まるで泣いているように見えると、『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)は静かに桜花の舞う様を見上げた。雪が溶ければ蕾を付け、春の便りをこの地にもたらす桜花。桜の春告げは、きっとこの地に住まう者たちの心にも春を呼ぶ。――で、あろうに。あろうことか、桜花を傷つける者たちがいるのだという。不届き千万な話である。
「むむむ、桜の木から枝を取るなんて……」
 同じことを考えていたのだろう。『記憶が沈殿した獣』新妻 始希(p3p009609)も狼の眉間に皺を寄せながら、両手の平の上に柔らかな光を生み出した。遠くから見れば光が灯ったことにすら気付かないような仄かな灯りを乗せた両手を頭上へ掲げると、始希を中心とした一帯に穏やかな森奥の木漏れ日めいた気配が広がっていく。それは、桜や森の木々を守るための結界だ。
「桜切るバカが居るとはねぇ。枯れちまったらどうすんだ」
「桜はねー、ひっじょーーにデリケートな樹なんですよ」
「何処にでもこの手の輩は居るんですね、困ったものです」
 仮面に覆われた顔をツルリと撫でた『Heavy arms』耀 英司(p3p009524)が仮面の下で顰め面をすれば、大きく頷いた『裏表のない素敵な人』小鳥遊 美凪(p3p009589)も顔の傷跡を歪めながらも眉をキリリと上げる。その傍らで『竜胆に揺れる』ルーキス・ファウン(p3p008870)は愚かなことだと肩を竦め、額に巻いたバンダナをぐっと下げて表情を隠した。
「花は愛でるモンだ」
 それを手折るのは解釈違いである、と『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は持ち込んだ筵を広げて自身の身体に巻きつける。昼間の内に用意したそれは、膠を塗って地面に落ちていた桜花弁を散らし付けた簡易的な迷彩シートだ。明るい陽の光の下で見ればすぐにバレてしまうだろうが、夜に――しかも月の光の届かない枝葉の下であれば、遠目にはバレないだろう。
「そろそろ、でごぜーましょうか」
「彼奴らが現れるまでは、潜伏でありますね」
 村の方向を見れば、仄かな灯りと賑やかな声がイレギュラーズが立つ場所まで届いてくる。春を祝う、楽しげな声だ。そちらへチラと視線を遣った『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)と『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)の声に、イレギュラーズたちは目薬をさしたりスリムになったりとそれぞれの最終準備を済ませ、予め話し合っていた場所へと身を隠す。
 木陰に、茂みに、掘った穴に。そして、大木前で筵を身に纏って。

●夜を暴く
 草葉を踏む音を拾ったルーキスと無量のふたりは、距離を測りながらも手早く仲間たちへ方向を伝える。その言を聞いたエマは木々を透視し、盗賊たちの正確な位置を捉えた。村とは逆の山の中。村人たちに見つからぬよう避けて来るであろうことは読めていたため、想定通りの方向、想定通りの行動だ。
 足音は確りとみっつ。木々に隠れながらではあるが、盗賊たちはバラけて移動せず、揃っていることがエマの瞳でも捉えられた。
「クク、あいつら楽しそうだよなぁ」
「俺らたちには好都合ってもんだ」
 村人たちが楽しく宴会をしているからだろう。少しくらい話したところで聞き咎める者もいないと思ってか、会話までしている。全く警戒をしておらず、今日の仕事は余裕だと、その声からも伺えた。
「お前ェ等、あまり気ィ抜きすぎんなよ」
「わかっているさ、兄ィ」
「騒ぎんなったら俺らたちの分が悪ィからなァ」
 けれど一人や二人ならば――騒がれる前にどうとでもすればいい。
 恰幅が良く低い声の男へと下卑た笑みを送り、三人は桜の大木の側へと歩いてくる。
「おぉ、コイツが例の桜だな」
「そいじゃ、遠慮なく……」
「くははっ!」
 ――ばさぁッ!
「なっ!?」
 笑い声とともに、突然、三人の前で桜が割れた。――否、桜の幹と風景に扮していた筵が取り払われたのだが、盗賊の三人には、突然目の前に大柄なオークの男が現れたように見えた。
 常の姿を取り戻し、盗賊三人の眼前で大木の前に立ち塞がったゴリョウが「おや? 三人居るたぁ聞いてなかったが……」とゆるく首を傾げて見せれば、その言葉に盗賊たちは素早く視線を交わし合う。
 わざわざ潜んでいたのだ、他に仲間がいるかもしれない。そうであれば、人数が知れぬため逃げたほうがいい。しかし、全て自分一人で敵うと思っているオーク一人だったならば? ――気絶させるなりしてしまえば障害はなくなる。
「ぶはははっ! まぁいい、大したこたぁねぇだろ! 三人まとめて掛かってきなぁッ!」
 ――一人だ。
 そう確信したのであろう大柄な盗賊が、拳をぎゅうと握りしめる。其れに倣うように、細身と低身長の盗賊たちも自身の得物へと手を掛けた。身の程知らずの莫迦は排除してやればいい、と言わんばかりに。
 三人が地を蹴る。ゴリョウ一人を三人で、挟撃を交えた三面からの攻撃でゴリョウを沈めるために。
 しかし。
「おんやまあ、花泥棒? 不届き者でごぜーますねえ?」
「花を愛でるにゃ、紳士でなくちゃぁな」
「あなた方にも、折ったり伐ったりして桜の気分になって貰いましょうね」
「そなたたちの悪行も、ここまでであります。花盗人が罪にならぬのは花を愛でる心に於いてのみ。勝手に枝を手折ること即ち、只の盗人であります」
「桜さん俺を傷つけることは許さないのです。全力で阻止します!」
 もふもふの毛皮をふわふわと光らせた始希は、更に『星灯り』からちび星海豹たちを放ち、光を広げて戦場となる一帯を見やすくする。敵だけを識別するためにも、万が一にも桜や仲間を傷つけないためにも、光源はあった方がいい。
 パッとその場が明るくなり、身体のあちこちに葉や草をつけたイレギュラーズたちが盗賊たちの後方に現れた。ゴリョウが気を引いている内に静かに移動した彼等は、盗賊たちを囲うように位置を取り、それぞれ武器を構えている。
 さぞ度肝を抜かれたのだろう。三人の盗賊は全員が同じ表情をしていた。
「ぶははっ、俺一人だとは言ってねぇぞ」
 まだ、な。気が早いこって。
「貴様……!」
「さぁ、逃げ道は俺を抜けた先にしかねぇぞ! 倒れる気も抜かせる気もねぇけどなぁッ!」
 囲まれたことに気付いて足を止めていた盗賊たちは嘲笑われたことに激昂し、揃ってゴリョウへと向かう。
「させませんよ」
 土を払った美凪がツェアシュテーラーを放つ。桜の樹と仲間には当てず、攻撃対象を盗賊たちだけに絞れば、被弾した盗賊たちの動きが僅かに――まるで泥沼を歩んだ時のように遅くなった。
「くそッ」
 呼吸も少ししづらくなったのであろう、苛立った盗賊が悪態をついた。
「無粋な輩は、ちょっぴり手折って反省してもらうじゃねーの」
 酔っ払いの振りするために持ってきていた酒瓶は必要無さそうだと手放した英司が距離を詰め、素早く蹴りを叩き込む。素早さと威力を併せ持った蹴戦は、一番後方に居た低身長の盗賊を吹き飛ばし、恰幅の良い筋肉質な盗賊へとぶつかった。
「チ、」
 足を止めた――止めざるを得なかった筋肉質な盗賊が舌打ちをする。ぶつかってきた盗賊を退け、退路を探すべく視線を彷徨わせた。
「どうか死なないで下さいね」
 しかし、低く腰を落とした無量が眼前にいることに気付く――が、もう遅い。スラリと刀を抜いた無量の猪鹿蝶からなる素早い三連撃。身体を深く斬られ、カハッと血を吐いた。
「兄ィ!」
 ゴリョウを斬りつけていた細身の盗賊が、低身長の盗賊の悲鳴に振り返る。
「他者を案じている場合ではありませんよ」
 俊敏性を強化した希紗良がゴリョウのすぐ側まで踏み込み、鬼渡ノ太刀を振るう。魅せられれば首落ちる一撃を得物で受け、後方へ下がりたそうに視線をチラと向けるが、それは叶わない。背後に回ったエマが威嚇術で盗賊の戦意を絶った。
 低身長の盗賊は、恐怖した。今日も簡単な仕事だったはずなのだ。つい先刻まで兄貴分と他愛無い会話をしていたのだ。それなのになぜ、ひとりは既に意識がなく、頼りの兄貴分も血を流しているのだろうか。こんなはずでは、なかったのに。
「ひ、ヒィ……ッ」
 駄目だ、逃げれない。背を向けるな。
 心の冷静な部分がそう告げる。
 けれど、『できない』。
 震え上がった身体は、心臓は、足へと血液を流し、撤退を促している。
「逃げ場は無いですよ。観念することですね」
「自分では逃げられぬ桜たちを傷付けたのです、貴方がたも逃がしは致しません」
「そうです、逃げようとしても無駄ですよ」
 退路を素早く塞がれ、ツェアシュテーラーを打ち込まれる。慈悲を帯びた一撃にがくりと膝が地へと着き、男は意識を手放した。
「これは桜さんを傷つけた罰です!」
 最後に残された大柄な男へと始希がボディプレスを決めたのを確認し、エマは桜の大木の前に立つゴリョウの元へと向かう。
「傷の具合はどうでありんすか?」
「皆が素早く立ち回っておかげで大したことはないぜ!」
「くふふ、男らしゅーごぜーますなあ。でも、ほれ」
 包丁を握る手が傷ついていては料理の味が落ちるやもしりんせん。小さく笑みを佩いて無量が傷を癒やしていく間、ルーキスがロープを仲間へと渡してキツく締め上げていく。運搬途中で意識を取り戻しても動けぬように、ぎゅうぎゅうと。
 ロープで縛り上げられて転がっている盗賊たちの内、意識のあるリーダー格の大柄の男はまだ諦めきれていないのか、どうにか逃れようと身をよじっている。
 猿ぐつわでも噛ませようかと口にした英司が顔を近付けて、
「花鳥風月、美しい光景は色々とそそられちまうが、償いはしねぇとな。切った桜への詫びとして、土ん中から花を色づかせることにしねぇか」
 ――なぁ?
 低い声で脅せば、息を呑んで大人しくなる。こっそりと「次はもっといい方法みつけろよ」と耳打ちもしたが、聞こえているのかいないのやら。確かな反応は返ってこない。
「無事にお仕事終了ですね。それでは村へ引き渡しましょう!」
 体格の良い始希が、よいしょと盗賊のひとりを担ぎ上げた。

●夜桜の宴
「皆さん、ありがとうございました」
 縛り上げた盗賊たちを村長の元へと連れて行くと、幾人かの男たちとともに村長が頭を下げた。村の中心からは宴の賑わいが響いてきている。楽しい空気を壊してはいないようだ。
 良かったら桜の大木の下で花見を楽しんでいってくださいと、用意された酒や肴をイレギュラーズたちはありがたく受け取った。
「もしよければ、柿渋も頂けませんか?」
「柿渋を?」
「はい、柿渋には防腐の効果がありますので、腐りやすい桜を守る事が出来るかも知れません」
 ゴリョウが料理を振る舞ってくれると聞いているため、その間にできる範囲で被害にあった桜の切り口に塗布して来ると無量が告げれば、何から何までしてもらってありがたいことだと村長が頭を下げて村人を呼び、柿渋を持ってくるように命じた。
「それじゃあ、ま。俺は料理をしてくるぜ」
「ゴリョウ殿、料理を振舞われるならばお手伝いするであります!」
 後は任せたとひらりと手を振って厨を借りに行くゴリョウの後を、希紗良が追いかけていく。「何を作るのでありますか?」「そうだなぁ……」と楽しげに声が遠ざかっていった。
 無量もまた、村人から柿渋を受け取ると「では」と仲間たちへ会釈をして被害にあった桜の木々の元へと向かっていった。
「この盗人達はこの後どうなるんでしょうか?」
 ルーキスは後からゴリョウたちを手伝おうと思いながら、盗賊たちの処遇をどうするのか尋ねる。ルーキスの目から見て、彼等がどうしようもない極悪人のようには思えない。貧しい者は、食うに困って悪さに手を染める。小さな悪さは少しずつ大きくなっていくため、彼等にどれだけの余罪があるかはわからないが、それでもまだ改心の余地がありそうだ。
「そうですね、役人に突き出すことになると思います」
「でしたら、俺の領地で預かっても良いでしょうか?」
「彼等に罪を償う意思があるのならば、私に異論は有りません」
 ルーキスはこの豊穣の地に領地を持っている。引き受けるとの申し出は、村にとっても悪いものではない。
 村長に頷いて返すと、ルーキスは盗賊たちへと向き直る。
「そのあり余った力を帝の為に使ってみませんか? 歓迎しますよ」
 三人の盗賊たちは驚いた顔でルーキスを見上げ、しばしの逡巡ののちゆっくりと頷き、頼むと頭を下げるのだった。

 エマと英司と美凪と始希の四人は、村人たちが用意してくれた酒や肴を桜の大木の元へと運び、宴の準備だ。ゴリョウに託された筵を敷き、その上に酒や果実酒を並べて場を整え、思い思いに桜を見上げながら席を外している者たちを待った。
「お待たせしました」
「ぶははっ、先に始めてくれていて良かったんだぞ?」
「ゴリョウ様の料理を楽しみにしていたのでありんす」
 月に叢雲、花に風。夜の帳に花嵐。目に映し愛でて楽しんではいたと咲ったエマが料理を手にやってきた三人と柿渋を塗り終えて戻ってきた無量の手へと盃を渡していく。
「皆さんは何を飲まれますか?」
 果実水はリンゴと桃があり、一口頂いてみたけれどどちらも美味しかったと美凪が薦めれば、希紗良とルーキスがそちらをと挙手をして。
「未成年は駄目でごぜーますが、美味な日本酒もごぜーますよ」
「俺もエールを持ってきたのです」
 酒がいける組は、やいのやいのと明るく酒を注ぎ合う。始希が初めての酒なのだと口にすれば、それはいい機会に同席できたと英司が明るい声で告げた。なんでも始希は保護者が許してくれなかったのだとかで、保護者はいつまでたっても子供扱いをする……こんなにも大きいのに、とぼやく始希だが、その表情は悪いものではない。
「料理もたくさん用意したから遠慮なく食ってくれ!」
 希紗良とルーキスも手伝ってくれたから沢山出来たぞと豪快な笑みを見せたゴリョウが、厨で作ってきた料理を手のひらで示す。おにぎりの大きさが少しずつ違うのは、握り手の手の大きさの違いのせいだろう。味は、鮭・梅・しぐれ煮・昆布で、列で分けてある。隣の皿には、稲荷寿司。甘い油揚げで包んだだけのもの、刻んだ紫蘇を混ぜた米を包んだもの、高菜ご飯を包んだもの、山葵菜を混ぜ込んだ米を包んだもの、と味と食感に違いをつけてある。
 村人たちがくれた花見団子の隣に甘じょっぱいタレのみたらし団子を並べ、その隣の皿にはまた違う団子を置く。肉を希望したルーキスのためのつくね団子だ。春先は処分に困るほどあると村人に言われた筍を混ぜ込み、食感も舌も楽しい一品とした。
「ゴリョウ殿のご飯は何度か頂いたことがあるのですが、毎度頬が落ちそうな美味しさでありました。此度はキサもお手伝いさせて頂きましたが、きっと皆様の頬も落ちそうになること間違いないかと!」
 ぐっと拳を握って力説した希紗良に微笑ましげな笑みを向け、それぞれの食べたいものへと自由に箸や手を伸ばしていく。
「肉美味しい、幸せ……」
「このイカ焼きも美味しいのです!」
「ん。このみたらし団子も美味いな」
「自分も領地で作った沢庵を持ってきました。宜しければどうぞ」
「おお、酒に沢庵は嬉しいな」
「おにぎりにもあいますよね」
 村人たちが用意してくれた煮物も美味しく、一仕事した後だけあってか、箸や手が止まらない。沢山あったおにぎりたちも綺麗になくなりそうである。
 花を愛で笑いあい、誰から始めたのか余興に一発芸を披露し始めれは、次は私が、次は俺がと続いていく。ノリノリで合いの手を入れたり野次を飛ばして盛り上げた英司が元スーツアクターの身軽さでアクロバティックな軽業を披露すれば、またワッと盛り上がりを見せた。
「樹に咲く花もいいですが、夜空に咲く花もいいものですよ。そーれっと」
 空に向かってツェアシュテーラーを発射し、星夜ボンバーで夜空に華を咲かせる美凪。村からもキラキラと降る輝きが見えたのであろう、村からもワッと声が上がった。
 月の中に静かに佇む桜も美しいが、一瞬の明るい光に照らされる桜もまた美しい。
 美味しい食事と、美味しい飲み物。楽しく会話が出来る仲間たちが居て、そして見上げる桜の美しさ。いつもこんな依頼ばかりなら……と思ったのは、きっと一人や二人だけではないだろう。イレギュラーズたちは時に嫌なこともせねばならないこともあれば、後味が悪い依頼もいくらでもある。だからこそ、時折羽根を伸ばせることが良いと感じるのかも知れない。
(故郷の隠里の皆は元気かな……)
 豊穣で見る桜はやはりルーキスにとっては特別で。静かに心を懐かしい記憶へと馳せさせる。
(桜はぱっと咲いてぱっと散るがよき。キサもそうありたいでありますな……)
 はらり、はらり、桜が散る。
 はらはら舞う桜が地に人に化粧を施し、優しい彩で染め上げる。
 ああ、なんとも素敵な春の夜なのでしょうか。
「また来年も、美しい花を咲かせて下さいね」
 はらり、ひらり、盃に落ちてきた花弁を見て、無量は淡く微笑んだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

楽しいひとときになれたでしょうか。
たくさんの優しさに溢れるプレイングをありがとうございました。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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