PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>しあわせなおもちゃの兵士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔女の気配
 蜜蜂がぷすりと刺せば、毒蠍は高らかにラッパを吹き鳴らす。
 しあわせばかりが溢れている。
 奉仕活動は今日も滞りなく。

 誰かが落ちた。――それも神様の救済だ。
 誰かが死んだ。――それも神様の救済だ。

 慈善事業を、奉仕活動を。
 魔女裁判(きゅうさい)を与えましょう――

『追跡者』たるティーチャーは「可愛い可愛い私の蜜蜂、おそとで遊んでいらっしゃい。オンネリネンを見ていらっしゃい」と送り出した。
「ティーチャー。諜報が必要な相手でしょうか?」
「いいえ、いいえ。オンネリネンは私達の同士ですよ。慈善事業を外で行う可愛い子です」
「なら、どうして行くのでしょう?」
「どうして、だなんて。あの国にはかわいそうな子供が蔓延っているのですよ。
 神の救済を待ち望んだかわいそうな子ら。皆さんの家族となるべき存在を迎えに行くべきです。
 ……宜しいですか? オンネリネンの部隊に追従し、この地、アドラステイアに迎え入れるのですよ」

●オンネリネンのこども達
 彼等は、傭兵だった。
 幼い子供達は幻想王国へと向かったのだという。『家族』の為に『兄弟』を引き連れて。
 家族の絆を護る為、その刃を振るうことを是とし続ける士気の高い兵士達。
 彼等に下されたオーダーはある悪徳貴族に『不当に扱われた本当の兄弟』を救う事であった。
「可哀想なレイナ。直ぐに救ってあげないと」
「そうだね、レイナは僕達の家族になるべきだったんだ。……そうですよね? 『蜜蜂』」
 二人の少年が振り返る。その目線の先に立っていたのはアドラステイアの『諜報』を担っているという『蜜蜂』の一人。
「……シュナと呼んで貰っても?」
「はい。シュナ、家族を迎えに行くのに貴方の力を借りるように仰って下さったティーチャー・カンパニュラはお優しいです。
 僕らはレイナを救って、くだらない大人を聖獣様のご飯にしてやれば良い。『お母様』がそう仰っていたのだから」
「そうそう。シュナ、聖獣様はお腹を空かせているんですよね? 僕らは食べられたりしない?
 いつも、ちょっと怖いなあって思うんだ。だって……ほら、聖獣様は加護を受けた生き物だと教えられたけど、獣であるのには変わりないでしょう?」
 二人の少年の言葉にシュナは言葉を詰らせて「そうだな」と囁いた。
 オンネリネンの一部隊。様々な国家での傭兵活動を行う子供達は『家族』と『仲間』の為に、新しい兄弟を迎えに来たらしい。
 引率役のように、ティーチャー・カンパニュラに『お願い』されての奉仕活動に駆り出された聖銃士は渋い表情を崩さない。
 仕事へ行くという事は死という漠然とした恐怖が存在することを認識するシュナ。
 対するオンネリネンの少年達はその様な恐怖心は存在しないとでも言うように、微笑みを浮かべていた。
「シュナ、もうすぐですよ」
「シュナ、お仕事うまくいくといいね」
 少年二人の笑みを受けて、シュナはぎこちない笑みを浮かべた。

「ああ、そうだね――」

 少年の前には、死を何とも思わずに戦い続ける少年達が、唯の兵器のように映っていた。

●幻想王国へ
 ある悪徳貴族が大量に奴隷を仕入れたと言う話がローレットへと流れ込んだ。その情報元は天義で活動する探偵サントノーレである。
 どうして彼から情報が入ったのだろう。
 そうした疑問を払拭するように男は肩を竦めた。
「オンネリネンって知ってるか? ……あ、知ってる奴もいるだろ。
 アドラステイアの傭兵部隊だ。アイツらの活動範囲は広ェ。海向こうに行かない具合に各地で活動してる。
 全員がガキで、全員が家族のためだって死ぬまで戦うような気狂いだ。そいつらが幻想の悪徳貴族を襲うって話しをキャッチした」
 サントノーレは肩を竦める。ローレットまで訪れた彼は僅かな疲弊を滲ませていた。
「煙草」
 良いか、とジェスチャーで伝える彼に情報屋がさり気なく灰皿を差し出す。
「悪徳貴族って言うだけ在ってクソ野郎なのは間違いない。悪人のアイツらは奴隷を大量に仕入れて殺しでもさせるんだろうよ。
 そっちも胸くそ悪いのは確かだが――それをアドラステイアのオンネリネンに救わせるってのも問題だ。
 ……ついでに言えば、こっちの動向を見るように『蜜蜂』もご丁寧に付随してやがる。こっちが何もせずに素通しすれば奴隷の子供達を適当にアドラステイアに引きずり込む何てこともしそうだろ?」
 大人は必要ないから殺せば良い。教義に反するなら殺せば良い。そんなことを赦して、アドラステイアの住民を増やし続ける。
 其れは許容できないことだ。
「――つー訳だ。済まないが、オンネリネンと『蜜蜂』、それから『可愛いワンちゃん』を止めてきて欲しい。
 勿論、情報屋のお嬢ちゃんから聞いたが『お駄賃』もあるんだろ? 面白いな、幻想って国は。メダルも勿論、出して貰うように手配した」
 勇者になればこんな仕事も頼みにくくなるかと笑ったサントノーレは「ま、それでもお前等は俺に手を貸してくれると信じてるよ」と軽い調子で言ったのだった。

GMコメント

夏あかねです。出張だー!

●成功条件
 ・奴隷達の可能な限りの保護
 ・オンネリネン+蜜蜂の撃退

●悪徳貴族の屋敷
 悪徳貴族の屋敷です。その行いから人払いは済んでいるようですが、傭兵が無数に存在して居ます。
 傭兵等の数は不明です。彼等の中をぐんぐんと進みオンネリネンは最短ルートで奴隷の元へと向かうようです。
 貴族に戦闘能力はありません。傭兵達は侵入者であるイレギュラーズとオンネリネンの何方も相手にするようです。
 情報が少ないのはサントノーレからの緊急依頼だった事です。三つ巴状態になります。
 オンネリネンに前方からの侵入は任せて潜入するのも可能です。
 奴隷達はホールに集められて事が推測されます。裏口から入れば難なく潜入可能でしょう。
 また、ホールでは悪徳貴族が傭兵に護られながら存在して居ますが、彼はぎゃあぎゃあと怒り続けているだけです。
 悪徳貴族の生死や傭兵の生死に関しては成功条件に含みません。聖獣様の餌になるかも知れませんし、ね。

●奴隷の子供達*20名程度
 正確な人数は分かりませんが天義から購入されていったとされる少女レイナを中心に10名ほど存在して居るようです。
 全てが鎖で繋がれており、弱っていることが分かります。

●オンネリネンの子供『ジャルディニエ』*10
 庭師と呼ばれる子供達の一団です。シュナを兄と慕っています。
 戦闘はバランスが良く、其れ其れがきちんと役割を果たすようです。
 非常に統率が取れており、死ぬまで戦い続けます。アドラステイアの家族のためです。
 彼等はレイナと呼ばれた奴隷を中心に無数の奴隷をアドラステイアに連れて帰るために努力をしています。

●『蜜蜂』シュナ
 アドラステイアのティーチャー・カンパニュラの子飼いの部隊、諜報隊です。
 彼等は中層に住居が与えられ、特別に『イコル』と呼ばれる錠剤を提供されているようです。

 その中の一人、シュナは聖銃士になって長く年長です。将来のティーチャー候補と言われています。
 引き際は弁えているようです。諜報に優れる為、戦闘能力はまちまちですが、非常に利口であるようです。

●聖獣様
 ジャルディニエが連れ歩いている聖獣様。大きな犬を思わせます。愛らしいフォルムでありますが、舌が二股に分かれており閉じた目を見開くと悍ましいほどの力を発揮するようです。
 
●参考:オンネリネンの子供達
 <Raven Battlecry>事件にて、『子供たちの傭兵部隊』と呼ばれ、イレギュラーズ達と戦った経緯のある、『十歳前後の少年少女で構成された傭兵部隊』です。
 これまで戦った少年少女の多くは戦闘後イレギュラーズに保護されています。
 以下参考シナリオ。
<Raven Battlecry>孤児たちの墓穴
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4726
<アアルの野>幸せな子供たち
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4999

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●名声
 当シナリオは幻想及び天義に名声が割り振られます事をご了承下さい。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>しあわせなおもちゃの兵士完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年04月09日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ


 家族のために、死ぬまで戦う。其れが己の意志である。
 そんな机上の空論、ハリボテの信念を前にして『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はNOと首を振ることだろう。家族のために死ぬまで戦うのは阿呆のやることだ。幸福の為には家族のためにどの様にして生き残るか――唯、其れだけであると言うのに。
 死ぬまで戦う.家族を護る為。その信念は『父と母』から与えられた物なのだろう。教育を刷り込まれた彼等。それらが『おもちゃの兵士』と喩えられるならば、それは言い得て妙だと『青葉の心』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は呟く。
 そんな物、操られて壊れたらお終いの――ココロがないのと何ら変わりもないではないかと呟いて。裏口の扉から内部へと潜行する。狙いを絞れていると言うことは、情報収集も相応に出来ているという証拠かと『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は小さく呟いた。オンネリネンは天義――アドラステイアが作り上げた子供達だけの軍勢だ。彼等が幻想王国にまで踏み入れ、世情を理解して居るのは蜜蜂による所が大きいか、それとも隣国の状況を的確に把握し動向確認する者が居るのかは定かではない。
「しかし……子供を使って、戦いに順応させた兵隊を作り上げたか。聞かない話では無いが、俺には眉を顰める話ではある」
 溜息を一つ。子供だらけの『子供だけの国』とも称するアドラステイアにそうした存在が居ないわけがないとは感じていた。だが、それを目の当たりにすれば『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)とて渋い顔をするしかない。
 この場で何が出来るか。手を伸ばすことが出来るのか。自身に出来ることを成せば、それが未来に繋がるのだろうかと。青年は考え続ける。
「奴隷の子を助けよう。奴隷も、アドラステイアも。皆、『与えられた』道を辿っているだけなんだ。
 ……あの子達を助けるのはね、選ばせてあげたいから。在り方を。生き方を。居場所を――世界は広いよ」
 そう、教えてやれば手を取ってくれる誰かだっているはずだ。『グラ・フレイシス司書』白夜 希(p3p009099)は決意をするように裏口からぐんぐんと進んだ。足取りは、迷うことはない。迷えば誰かが死ぬと、そう感じているからだ。
 背負った命は無数に存在して居る。それでも、自身が手を伸ばすことの恐ろしさと煩わしさを『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は知っていた。
「人形劇に茶番劇、全くどれもくだらない」
『俺達が悪い奴を全部ぶっ倒す。みんなを幸せにする。絶対に守るから!だからもう戦うのは止めてくれよ……!』
 虚と稔の思考は一致していた。救う為に――それ以外には存在しないと、裏口から真っ直ぐに飛び込んだのは貴族の屋敷内部に存在する広いホールであった。傭兵達に守られるように座に就いた悪徳貴族の視線が虚を捕える。
「何者だ!」
 その声を聴きながら『竜胆に揺れる』ルーキス・ファウン(p3p008870)は「さあ」と肩を竦めた。睨め付ける悪徳貴族達など構っては居られない。喚く貴族の声など歯牙にも掛けずにルーキスが向かうのは奴隷達の元だ。
(それにしても……話に聞く限り『オンネリネン』という部隊も大概ですね……)
 傭兵達の目の前でベネディクトは自身らは『表から攻め入る子供』とは立場は違うと告げた。其れ等の撃退を自身らが目的であり、そして継いで『奴隷』を求めている事を口にするが貴族は自信の悪事が露見することを怖れるように兵を向けた。
「……致し方ないか。特異運命座標が一人、ベネディクトだ。この中にレイナという少女は?」
「わたし……?」
 手を上げた少女を確認したルーキスと希が頷く。だが、それと同時にホールの扉を蹴破ったのは武器を構えた少年少女。イレギュラーズの姿を確認してから「どうしよう」「殺す?」「大人もいるから、殺そう」と相談し合う声がする。
「オンネリネン……!」
『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は息を飲んだ。到着が早い。最短ルートを辿っている事もあったか、彼等は他人の命は『どうでも良い』とでも扱うように。
 傭兵達の真ん中で惹きつける花丸は「オンネリネンと蜜蜂、それに聖獣となれば『盛り沢山』だよね!」と口元に笑みを乗せて、自身のもテルチから全てを示すように堂々と敵を睨め付けた。傷だらけになったって、屹度、救えるはずだから。


 彼等は奴隷が欲しかった。自身らの家族になり得るかも知れない存在だから。子供達が「どうする」と問うたのはルーキスが救い出そうと鎖を切った子供を確認したからだ。
「ごめんなさい、その子は『家族』になるんです。レイナだよね、こんにちは。ボクはオンネリネンの――」
「ご挨拶しなくて良いよ」
 静かな声音で『司令官』のように振る舞った少年はそう言った。首を捻った子供は「はあい」と素直に彼に頷いた。それが『余りにも不自然な光景』に見えてシキは武器を構え直す。『蜜蜂』と呼ばれたオンネリネンではない少年は困り顔でイレギュラーズを見詰めている。
「でも、奴等がレイナを持って行っちゃうよ」「そうだよ、どうする?」
 少年達は悩ましげに首を捻ったから、名案を思いついたとでもぱあ、と明るい表情を浮かべて見せた。
「「殺そう!!」」
 焔が構える。傭兵と、オンネリネンから『奴隷』を守らなくてはならない。オンネリネン達にとって、目的は傭兵達や悪徳貴族の殺害ではなく奴隷だ。聖獣を前にして、シキはその眼前へと飛び込んだ。
 オンネリネンの子供『ジャルディニエ』。彼等の連れる聖獣はあんぐりと口を開けて飛び付かんとし――
「……ッ、好きにさせないんだから!」
 花丸は直ぐ様に聖獣の下へと飛び込んだ。暴れられれば死傷者は増える。唇を噛み締め、息を飲む。己へと食い込んだ獣の爪先が深く、少女の身体を抉った。
 痛みに呻いた少女の傷だらけの拳に力が込められた。天へ伸ばして、誰かの手を掴む為に、必要とした力を振り絞る。
「思ったより早いね。……レイナ、大丈夫。守るよ」
 囁く、希はレイナを抱え上げる。ルーキスも「大丈夫、必ず助けます……だから、もう少しだけ辛抱して下さいね」と子供らを抱えて走り出した。
「あ、行っちゃうよ! どうする?」
「でも、この人達殺さないと追いかけられないねえ」
 こそこそと話すジャルディニエの子供達に傭兵達が飛び込んだ。子供と言えども、アドラステイアの兵士だ。それらは剣を握り、叩き付ける。傭兵の腕が裂ける。
「――言ったでしょうに。退きなさい。私達が『彼等』を撃退します。それにしても、アドラステイアの兵が堂々と幻想の国内で活動しているのは驚きね」
 剣構えた舞花は静かにそう囁いた。オンネリネンは遊撃部隊であるらしい。ラサでもその活動が確認されていたそうだが――さて、此処で留めなければ奴隷達を連れ帰るつもりだろう。
 レイナを保護し走る希に続き、奴隷達を出来る限り保護するルーキスの額には汗が滲んでいた。希はメサイア・ミトパレと名付けたAI搭載4足歩行の『家』に子供達を保護することと決めていた。
(ここに居て、抑えのない蜜蜂が追ってきたら……その時は合図を送らないと。この子達を守らないと。選ばせてあげなきゃ、押しつけられた『生き方』なんて……)

 悪徳貴族は腰を抜かし、傭兵達に守られている。傭兵達諸共に暴れ回るオンネリネンの子供達は「連れてかれたから『追いかけるときに邪魔だし』殺しておこう」と人の生死など塵芥のように攻撃を重ね続けていた。
 儀礼服を揺らし、シキは地を蹴った。無形の術を聖獣に放てばその牙が忌々しくもぐぱりと開かれる。焔は救出を待つ子供達を巻き込まぬようにとギフトの炎を揺らし、傭兵を牽制し、聖獣を相手にしていた。
「そんなに簡単に殺すとか、言っちゃダメだよ!」
「けど、おねえさんも攻撃してるじゃん。殺す為でしょ?」
 甘えるように、フリートークを紡いだ赤い瞳の少女は首を傾ぐ。稔はその言葉が実に不快であると呟いた。花丸を癒し支えながらも劇作家は己の心の中に滲む不幸(インク)を感じ取り唇を噛み締めた。
 茶番だ。人形劇だ。そんな芝居がかった生命を見て自身が不快に思うことさえ間違いであるのかも知れない。天使とは、人間を唯の人形のように感じる物ではないか――嗚呼、こうして地に這い蹲れば、舞台役者の実に愉快なこと!
『止めてくれよ! 戦わないで!』
 叫ぶ虚の越えなど遠く感じられる。稔は眼前に迫ったオンネリネンの子供に息を飲んだ。
「回復してるの? やめてよ、あのお姉ちゃんを殺せない」
 冷えるような声音であった。青い瞳の少年から滾った殺意にひゅ、と息を飲む。喉元を的確に捉えた刃から咄嗟にその身を逸らした。
 お姉ちゃん――聖獣を受け止めながら稔に支えられ、懸命に拳を突き立てる花丸か。オンネリネンの子供達の背後で指示をする少年を稔は睨め付けた。
(奴が此方の『盾』を殺す為の方法を教授したか!)
 賢い少年だと稔は感じた。同様に、ベネディクトとてそれは感じていた。乱戦になろうとも子供達は的確に誰を崩れば良いかを理解していた。
 奴隷を確保したら退けば良い、などと生優しいことではない。聖獣は放置できない存在なのだから。
「俺の友人が言っていたよ。人は、私達の行いを通してその神を見るのだと――残念だが、君達の神とは仲良くなれそうには無いな」
「……それって、馬鹿にしているの? ねえ、ねえ、シュナ! やっぱり、皆殺そうよ! 家族がみんな、殺されちゃうかも!」
 叫ぶ少年に、シュナと呼ばれた『蜜蜂』は首を振った。
「殺さなくて良いよ。適度に痛め付ければそいつらだって退くだろう」と。まるで、オンネリネンの子供達に撤退がないことを皮肉るような声音で。


 傭兵達を巻き込むオンネリネン。対するイレギュラーズは必要以上に傭兵達を刺激することは控えていた。
 それが功を奏したと言えよう。傭兵達は自身らとそして主人を護る為に出来る限り後方に控えている。オンネリネンの子供達と聖獣さえどうにかすれば良いという状況だ。だが、回復手である稔を狙う子供達は執拗だ。
 故に、回復が花丸やベネディクトにまで届かないのは苦戦を強いられることとなる。聖獣を倒すまでは耐えて欲しいと。舞花は紫電を纏った太刀を叩き付けた。
 可愛らしい翼を有する犬だ、と。聖獣を双眸に映した舞花は感じた。だが、それから感じる禍々しい気配と、一度戦場に出れば獅子の如く顔立ちを豹変させ牙を剥く様は愛玩動物には程遠い。花丸へと飛びかかり、肩口へと深く噛み付いたそれは肉を貪ろうとしているのだろう。
「食べちゃダメ!」
 注意するように焔が叫んだ。花丸が聖獣を無理矢理引き剥がすが如く自身の身など顧みずその掌で押し込む。赤い鮮血が舞踊る。
 その色彩に唇を噛み、花丸が叫んだ。今だ、と。
 地を蹴って、舞花が聖獣の頭へとその剣を叩き付ける。掌に感じられた肉を断つ感触は実に人間を害する時と似ていた。
「ッ、くそ」
 呻く稔の前に立っていたオンネリネンの少年は幾重も攻撃を重ねた。自身が倒れぬようにと尽力する稔の元へとルーキスが加勢した。
「……彼は」
「『回復役は殺せ』だと。全く統率とは面倒なものだな。モンスターではなく人間、しかも死を怖れないとなれば此程までに我武者羅か」
 ルーキスは唇を噛んだ。後方で指示を行う『蜜蜂』は聖獣が死した時点でやる気を失ったようにも感じられる。
 息を潜め、その存在をひた隠しにする傭兵達。命を失うことを怖れる彼等と、目の前の子供は対照的であった。
(今ここで止めなければ、彼らは今後も捨て駒として使われ続けるのだろう。それを見過ごす訳にはいかない)
 ルーキスが振り上げる。慈悲の刀。それが『人の命を奪う意志がない』事を感じ取って少年は首を傾いだ。
「どうして殺さないの?」
「殺さない」
「なんで?」
「何故ここまで必死になるのかって? 貴方達を『放って置けない』からに決まっているだろう!」
 ルーキスが怒鳴る。その声音に少年は不思議そうに笑った。理解が出来ないからこそ、笑って誤魔化す子供らしい仕草だ。
 奴隷の子供達を救う為に尽力していた希はぴたり、と足を止めシュナをまじまじと見遣る。戦う事も無く、此方を見ているだけの少年だ。
「諜報員だっけ。やっぱ心閉じてるんだね。世界を知ってしまって、誰も何も信じられなくて仮面かぶってるのかな。でも顔に書いてるよ、やる気ありませんって」
 静かな声音で希は問い掛けた。嗚呼、やはり彼は『何も聞こえない』。オンネリネンの子供達のように死を善とするわけではない。彼には人間的な倫理観は存在し――『蜜蜂』と呼ばれる諜報員であるという。それでも、希には彼はまだ救えると、そう感じられて。
「何でまだアドラスティアに居るの? 何に縛られてるの? 何を壊してあげればいい?」
「天義という国」
「は――」
 何を、と希はシュナを見遣った。蜜蜂の鎧、堅牢なる諜報員を包んだ本音。彼は憎々しいと言うようにイレギュラーズを睨め付ける。
「どうせ、不幸な国だと僕らを決めつけている。自分の意志さえない、哀れな子供だって。
 僕はアドラステイアという国が不幸だとは思わない。仮初めの神を信じ込み、溢れる偽善と戦の中に生きるお前の方がもっと不幸だ」
 その言葉に、舞花は悲しげに『オンネリネン』の子供達を見遣った。『蜜蜂』は此処で死ぬ気は無いのだろう。だが、彼が苦しげであったのは、オンネリネンという部隊が使い捨ての道具だとアドラステイアでは見なされているからか。
「……死を恐れないのと理解していないのは違う。簡単に命を捨てれるのは心が生きてはいないから――よくもこんな生きてる死人を作り出す」
 そう、蔑むように呟いた言葉に「それが僕らが生き残るために必要ならば。お前等だってするだろう」とシュナは返した。

 ――誰だって、何かを踏み台にして生きている。だから、より幸せになりたいと願うのは間違いじゃないでしょう。

 まだまだ戦意を滾らせるオンネリネンの子供達に「頑張って」と声を掛け、少年は駆け出した。少年に数人の子供がついて行く。彼が無事に戻れるまでの護衛を気取って武器を構えて、イレギュラーズにべえと舌を出して。
 シキは唇を噛む。司令官、慕うべき『兄』であった蜜蜂を失えば、オンネリネンは放逐された唯の子供だ。屹度、此の儘戦えど彼等は撤退することはない。
「……ねぇ、その心は本当に君たちのもの? 私ね、やっと最近こころが解ってきたんだ。感情を知れるようになったの」
「なあに……?」
 赤い瞳をした少女が首を傾げる。残った子供は三人。命の終まで戦い、イレギュラーズを足止めする役目を担っていると胸を躍らせている。
「死んでも良いと思っているの?」
「それが家族のためだから」
 死に物狂いの子供達。傭兵達に傷付けられようと、イレギュラーズが武器を構えようとも特攻してくる。焔は息を飲む、痛みが身体を蝕んだ。
「君たちが死んじゃったら悲しむ子もいるんだよ! だから生きなきゃダメだよ!!」
 叫ぶその意味さえ分からないと首を捻った子供達は合点がいったようににんまりと微笑んで。「そんなことないよ」と否定的に言葉を紡ぐ。
「ッ――何もかもを知らないまま、死んでもいいみたいな顔しないでよ。命の軽んじて救済だなんて……死んでも言ってやるものか!」
 シキが振り上げた処刑人の剣。
 それは、命を奪う為の剣だった。命を奪う為に使わず、命を救うために振り上げられる。
 少女の赤い瞳がシキを見た。死ぬ事さえ怖れぬようなかんばせで、微笑んでいる。
「私も、戦えるよ」
 剣がシキの腹を裂いた。しかし、構うことなくシキは刃を振り下ろす。意識を失い倒れていく身体を受け止めて、がくりと膝を突いた。
「……どうにも、アドラステイア――と言うより、オンネリネンは爆弾のようね。
 何処へだって現われ、そして国(かぞく)の為だと命を捨てられる。そんな存在を放置はしておけない」
「ああ……そうだな。蜜蜂は彼等のお目付役だっただけか。それとも幻想という国の内偵役だったのかは分からないが、彼を逃したという事は情報を持ち帰らせた、と言うことだ」
 ベネディクトは一人残ったオンネリネンの子供を見詰めた。自身へ向け、発砲する子供だ。赤い瞳がぎ、とベネディクトを睨み付ける。
「どうして其処まで戦うんだ? 蜜蜂(あに)は帰ったようだぞ」
「――シュナは、ぼくらと違うから。ぼくらは、家族のために戦わないと。シュナだって言ってたでしょ。
 みんな、国(ぼくらのいえ)を壊しに来るんだ! 僕らにとっては、国(アドラステイア)が一番幸せなのに……」
 その声を遮ったのは舞花の素早く、断つ刃。そして、継いでルーキスが振り下ろした殺さずの一太刀。
 気付けば、貴族と傭兵は姿を消していて。倒れた三人の子供と、イレギュラーズ、そして啜り泣く奴隷達だけが残されていた――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)[重傷]
優しき咆哮
Tricky・Stars(p3p004734)[重傷]
二人一役
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

 お疲れ様でした。
 オンネリネンのこどもたち……アドラステイアの『ちょっかい』は色んな地方で続きそうですね。

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