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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>黒雷怪魚、バシュムの襲来。或いは、白き竜の住まう場所…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●怪魚の襲来
 幻想。
 王都メフ・メフィート郊外の地下洞穴で、白き竜は微睡んでいる。
 その竜の名はアルペストゥス(p3p000029)。
 天井の割れ目から差し込む陽光を浴び、気持ちよさげに目を閉じて、小さないびきをかいていた。
 そんなアルペストゥスが、突如ぱちりと目を見開く。
 ゆっくりと、顔を頭上へ向け、直後アルペストゥスは眉間に皺を寄せ吠えた。
「グゥゥルルルウ!! ギャウ!!」
 白き翼を広げ、その身に紫電を纏った白竜は地面を蹴って空へ飛んだ。
 天井に空いた割れ目から、遥か上空へと飛翔。
 その視線の先には、アルペストゥスの領地である湖畔の街が広がっていた。
「ギャァァウ!」
 天に向け、アルペストゥスは咆哮した。
 その雄叫びが耳に届いたのであろう。街の住人たちは、空を見上げ驚いたように目を見開いた。
 彼らはアルペストゥスのことを知っている。
 穏やかな白竜が、付近の地下洞窟を寝床としていることも知っている。
 そんなアルペストゥスが、威嚇するかのように吠えているのだ。
 一体何事なのか、とそう考えるのも不思議ではない。
 そして、そんな住人たちの抱く疑問へ、回答はすぐに与えられた。
 ざばり、と。
 湖面を割って現れたのは、全長20メートルはあるであろう巨大な魚だ。
 夜闇を固めて塗ったような黒い鱗。
 鋼鉄にも似た光沢をもつ、大きな羽。
 形としてはトビウオに近いだろうか。
 しかし、それにしては、些か顔つきが凶悪に過ぎる。
「クゥルルル!!」
 アルペストゥスも巨躯ではあるが、大きさの上では黒いトビウオに及ばない。
 雄たけびを上げ、紫電を撒き散らすアルペストゥス。
 トビウオの感情の感じられぬ瞳が、まっすぐにアルペストゥスを捉えた。 
 直後、轟音。
 その身に黒き雷光を纏い、バリバリと空気をかき鳴らしながらトビウオは急加速した。
 咄嗟に身を捻り、アルペストゥスはトビウオの突進を回避。
 けれど、その羽の先がアルペストゥスの脇を切り裂き、白き体毛は朱に濡れた。
「グ……ギャァウ!」
 空中では僅かなベクトルの変化さえも命取りとなる。
 バランスを崩したアルペストゥスは、きりもみしながら地上へ落下。
 それを追って、迫るトビウオへ向けアルペストゥスは咆哮した。
 放たれるは雷の奔流。
 空中を駆ける稲妻は、トビウオの羽に風穴を開けた。
「グルルル……。ガァァァアアアアウッ!!」
 地面に落下するアルペストゥス。
 一方、トビウオもまたバランスを崩し湖へと落ちた。
 街や人は護れたはずだ。
 よかった、と。
 安堵しながら、アルペストゥスはそこで意識を手放した。
 
●黒雷怪魚、バシュム
 アルペストゥスの領地を襲ったトビウオが、怪王種であると知ったのはそれから少し経ってからのことである。
 落下し、気絶したアルペストゥスは街の住人たちから治療を受けた後、住処である地下洞窟へと帰還。
 急速に務め、件の怪魚の再襲撃に備えていた。
 そんなアルペストゥスの力になろうと、街の住人が怪魚について調べたところ、その正体が怪王種であると判明したのだ。
 名はバシュム。
 黒き雷を纏い飛翔するトビウオであった。
「……クゥルルル」
 相手が単なる魔獣であれば、アルペストゥスだけでも対応できたかもしれない。
 しかし、怪王種となれば話は別だ。
 僅かに思案した後、アルペストゥスは仲間たちへ助けを求めることを決めた。
 しかし、アルペストゥスは言葉を発することは出来ない。
 自分の意思を分かってくれる仲間もいるが、やはり十全な意思の疎通には“言葉”を介することが重要だ。
 そう考え、アルペストゥスは地面に爪で文字を刻んだ。
 まずは、周辺の地形について。
 戦場となるのは、おそらく湖上や、湖畔であろう。
 足場を考えるのなら、湖畔での戦闘が望ましい。けれど、その後方には街がある。
 住人や家屋の安全を優先するのなら、湖畔か湖上、空中での戦闘が良いだろうか。
 周辺には視界を遮るものもない。
 飛行戦を得意とするアルペストゥスにとって絶好の条件。けれど、バシュムもそれは同様だ。
「……ゥウ」
 黒い体に黒い羽。
 飛行速度や強度もかなりのものだった。
 特に、身に纏う黒雷が厄介だ。戦った感じでは【弱点】や【ブレイク】【感電】【必殺】の状態異常が付与されているとみて間違いない。
「グルゥ」
 攻撃、防御、速度とどれをとっても申し分ない。
 さらに、街の住人が調べたところバシュムは“子供”を引き連れ移動するのだという。
 アルペストゥスと戦った際には、そのような存在は見受けられなかった。
 けれど、きっといるのだろう。
 バシュムの子供たちの数は膨大。1匹1匹は、一見すれば単なるトビウオそのものだ。
 違う部分があるとすれば、それらが【ショック】を付与する黒雷を纏っていることか。
「ギャウ」
 現在、バシュムは湖の底で傷を癒しているはずだ。
 数日ほどで、きっとアルペストゥスが羽に開けた穴は塞がる。
 そうなれば、バシュムはどうするだろう?
 湖畔の街を襲うか?
 それとも、王都メフ・メフィートへ攻め込むだろうか?
 そんなことになれば、大惨事は避けられない。
「ギャァオウ!!」
 で、あれば。
 そうであるならば、ここで自身が何としてでもバシュムを討つ必要がある。
 仲間や友人、王都に暮らす人々の笑顔を思い出しアルペストゥスは鼻息も荒く夜空へ向けて吠えたのだった。

GMコメント

●ミッション
怪王種、バシュムの討伐

●ターゲット
・黒雷怪魚、バシュム(怪王種)×1
全長20メートルほどの巨大なトビウオ。
顔は魚というより、獣のそれに近い。
黒光りする鱗と、鋼のような羽を持つ。
水中を自在に泳ぐほか、高速で飛行する能力も持つ。
現在は湖の底で療養中。

黒雷:神近範に大ダメージ、感電、ブレイク、弱点
 黒雷を周囲に拡散する 

バシュムの雷:物中単に特大ダメージ、感電、必殺
 雷を纏った突進。

・バシュムの仔×大量
一見すると普通のトビウオ。
親であるバシュムに付き従っている。
バシュムに攻撃を加えるものを積極的に襲う性質を持つ。
1匹1匹は弱いが、高速で飛行する能力と身に纏う黒雷により【ショック】を付与する性質を持つ。
バシュムが息絶えると、バシュムの仔らも連鎖して死滅するらしい。
【飛行】能力を持つ。

突撃:神近単に小ダメージ、ショック
 黒雷を纏い体当たりを慣行する。


●フィールド
王都メフ・メフィート郊外。
アルペストゥスの領土。
湖と、その付近にある街。
湖は広く、また周辺には街のほかに背の高い建物や視界を遮る物はない。
ターゲットであるバシュムは現在水中にいる。


●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ヴァーリの裁決>黒雷怪魚、バシュムの襲来。或いは、白き竜の住まう場所…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月05日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●静かな湖畔の
 幻想。
 王都メフ・メフィート郊外。
『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)という白き竜の住むその地に、ある日突如としてトビウオに似た怪王種・バシュムが襲来した。
 全長20メートルを超える巨体。
 黒き鋼のような羽。
 鋭い牙の並んだ口腔。
 ただ1匹、湖畔の街を護るべくアルペストゥスはそれと交戦し、そして傷を負った。
 1度は撃退したものの、未だにバシュムは湖の底に生存している。
 アルペストゥスは自身の領土である街を護るべく、ローレットの仲間たちへと救援を要請。アルペストゥスを含め、 集った8名のイレギュラーズは湖へ向け移動を開始した。
「空飛ぶ巨大怪魚とは、狂王種より厄介、だ。勇者の置き土産は、碌なものがない、な」
 アルペストゥスの白い体には、所々に血の染みがまだ残っている。
『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は、乾いた血がこびりついたアルペストゥスの体毛を撫で、そう呟く。
「クゥルル」
「うん。アルの領地も、これからも守らなくちゃ」
 鳴き声をあげるアルペストゥスへ視線を向け手『リトルの皆は友達!』リトル・リリー(p3p000955)が首肯する。
「では、わたくしは街に避難勧告をしてきますわー」
「うん。大量のトビウオが飛び交う場所は危ないから……そう言うと、なんだかバッタみたいだな」
『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が、一行から離れ街へ向かった。
 もちろんバシュムや、その仔であるトビウオたちを街へ向かわせるつもりはない。
 けれど、この世に“絶対”はない。
 万が一にも犠牲者を出さないために、せめて住人たちの命だけでも守るために、2人は街の住人に避難を勧告しに向かうのだ。

「まずはアルペストゥスに称賛を。俺達がこの場に間に合う時間を作り出せたのはアルペストゥスの活躍があってこそだ……もっとも、手放しに喜ぶのはまだ早いが」
「空飛ぶトビウオね……飛ぶ理由もいまいち分かんないけど、エンジェルいわしとキャラかぶってるんだよね。もう生かしておく理由なくない?」
「無論、必ず此処で討伐するさ」
『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)、そして『いわしを食べるな』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)は静かに戦意をその身に滾らせそう告げる。
「グゥゥルルルゥ!!」
 そんな2人へ、アルペストゥスは咆哮でもって応じた。

 その咆哮が合図となったのだろう。
 パシャ、と水の跳ねる音。
 目にも止まらぬほどの速度で、湖から何かが跳び出した。
 それはまるで矢のように。
 空気を切り裂き、こちらへ迫る。
「っとと!? 来ましたね。では、手はず通りまず敵をおびき寄せますよ!」
 飛来するトビウオを避け、金髪の少女『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が湖の畔へ向けて駆けていく。

●水の底から
 すぅ、と澄んだ空気を吸い込む。
 湿気を含んだ涼しい風が、ルル家の髪を優しく撫でた。
 風に乗ったトビウオが、飛沫をあげて水面へ跳び出す。
 問題ない。
 トビウオが畔へ至るより速く、ルル家の行動は終わる予定だ。
「っこんにちはー!!! 水揚げに参りましたーーー!!!」
 【スピーカーボム】で拡大された大音声が湖面を揺らした。
 その大声に驚いたのか、次々と飛び出してくるトビウオの群れ。
 その数は裕に30を超える。
「え、わわ、ちょっ……⁉」
 黒雷を纏い突進をしかけるトビウオが、ルル家の頭部へぶつかった。
 
 仰け反り、姿勢を崩したルル家。
 襲い掛かる無数のトビウオを迎撃すべく、アンジュが前へ。
「街のみんなも、いわしのアイデンティティも脅かすなら容赦はしないよ!」
 腰に手をあて、片手を掲げる。
 彼女の指揮に合わせ、どこからともなく飛来したのは“いわし”の群れだ。群れを先導するひと際に立派な体躯、そして威風堂々としたいわしこそがアンジュのパパだ。
 娘の危機に駆けつけた父。
 そして、父の率いる群れたちをアンジュはトビウオの群れへ向けて突貫させる。
「いっけー! いわしミサイルだ!」
 飛翔する大量のいわし。
 空を黒く染めるほどの圧倒的な物量が、トビウオの群れに襲い掛かる。
 エンジェルいわしとトビウオ。
 両者とも空を飛ぶ水中生物だ。もつれあい、食らいつき、激しい空中戦を演じて見せる。とくにアンジュのパパなどは、娘の手前張り切っていた。
 華麗にインメルマンスターンを決めて、トビウオたちを翻弄してみせる。

 額を押さえたルル家が、湖の底へと視線を向ける。
 遥か水底に巨大な影が蠢いているのが見える。それがおそらく、アルペストゥスの領地を襲った怪王種・バシュムであろう。
「こちらを視認していますが……出てきませんか。では、魚を釣り上げるとなれば釣り!」
「クゥォルルル!!!」
 口に咥えた縄をルル家に手渡して、アルペストゥスは湖へ向け飛び込んだ。
 
「上手く釣り上げたら、親子ともども、焼き魚にしてやろう」
 エクスマリアは、アルペストゥスと繋がっている命綱を手近な樹木に括りつけた。
 その傍では、戦線に復帰したメリルナートが静かに目を閉じ待機している。バシュムを釣りあげた瞬間から、最大火力で攻撃をしかけるための準備だろう。
 一方、そのころイズマとアンジュは襲い掛かって来るいわしの群れに対応していた。
「引きつければ引きつけるほど、仲間が動きやすくなる。まとめて薙ぎ払うぞ」
「トビウオたちの鱗をボロボロにしてあげるよ!」
 アンジュとともにトビウオたちを引きつけながら、イズマは武器を腰の位置に低く構えた。地面にしかと両脚をつけ、抜刀するかのような動きで獲物を素早く抜き放つ。
「ふっ……!!」
 イズマの巻き起こす暴風が、トビウオの群れを飲み込んだ。
 ついでに数匹、いわしも巻き込んでしまったようで「いわしをいじめるな!」とアンジュにお叱りを受けるが、何しろいわしもトビウオもかなりの速度で飛翔している。
 その中からトビウオだけを狙って攻撃することは不可能に近い。
 巻き込まれてはかなわない、とアンジュが距離を取るのを見届けイズマは再度【戦鬼暴風陣】を発動。
 暴風に飲まれたトビウオたちが、羽を破られ次々に地面へ落ちていく。
「っと……流石に多いな」
 見ればイズマの腕や脚には無数の切傷。
 緑の芝が生い茂った足元が、零れた血で赤く染まった。

 水中に飛び込んだアルペストゥスはその口腔に魔力を集約。
 黒く紫電を放つ魔弾を、眼下のバシュムへ向け放つ。
 ごう、と水を巻き込みながら水中を駆ける黒い魔弾。
 それはまっすぐ、バシュムの首へと直撃した。
「ギャアアアウッ……!!!」
 ぎろり、と。
 バシュムの瞳がアルペストゥスへと向いた。アルペストゥスは咆哮をあげバシュムを挑発。水中で器用に身をひるがえし、水面へ向け浮上を開始する。
 手負いとはいえバシュムは巨大な怪王種。
 おまけにここは水中。
 バシュムにとって有利な戦場だ。
 本来であれば、敵の縄張りに単身乗り込むなど下策も下策。
 けれど、アルペストゥスには勝算があった。
 初戦は単身、バシュムに挑み取り逃がした。
 浅くない傷を負いながら、撤退に追い込んだことは軌跡に近い。
 けれど、今度は違う。
 アルペストゥスには仲間がいる。
「グオオオオオオオッ!!」
 追いすがるバシュムが、アルペストゥスに喰らい付く。
 鋭い牙が腹部に刺さり、零れた血でアルペストゥスの視界は朱に染まった。
 咆哮をあげ、アルペストゥスは翼を広げ水を打つ。
 傷口が広がり、滂沱と血が零れるがそれでもアルペストゥスは浮上することを諦めない。胴にバシュムを下げたまま、ルル家やベネディクトが縄を引くのにタイミングを合わせ、上へ上へ。
『さ、後少し……アルの領地、リリーが守るよっ!』
 朦朧とする意識の中、リリーの声が確かに聞こえた。
 ギリ、と歯を食いしばり、アルペストゥスはバシュムの鼻先に鋭い爪を突き立てる。
 バシュムの巨体に対して、アルペストゥスの爪は些か小さすぎる。
 けれど、構わない。逃がさない。
 硬い鱗を貫いたことで、爪の先端が砕けたが、その程度は些末な問題だ。
 ここでバシュムを離しては、自分や仲間の頑張りが一切合切無駄になってしまうから……それだけはしてはならないと、アルペストゥスは水面に揺らめく太陽目指して上昇を続ける。

 盛大な水しぶきを上げて、アルペストゥスとバシュムが水面に浮上した。
「さぁここからが本番です!」
 縄を手繰るルル家が叫び、即座にベネディクトとメリルナートが行動を開始する。
「あら、トビウオたちがバシュムのもとへ……これは、働きがいがございますわねー」
 なんて、どこかのんびりとした口調でメリルナートはそう告げる。
 褐色の肌に浮かび上がった無数の紋様。
 その背に纏った光の翼。
 光の刃と燐光を放つメリルナートへ、一斉にトビウオたちが襲い掛かった。
 ザクン、と。
 トビウオたちは光の刃に触れる端から、切り身となって地面に落ちる。その間にも、アルペストゥスはバシュムともつれあうようにして、湖の浅瀬で交戦していた。
「トビウオの相手もしていたら、少し時間がかかるかもー」
「だが、おかげで道は切り開かれた。行くぞ、エクスマリア!」
「ん。了解、した」
「奴にとっては、空も水の中も己の場所と言った所だが……」
「問題、ない。釣り上げれば、こちらのもの、だ。親子ともども、焼き魚にしてやろう」
 エクスマリアの金の髪が、しゅるりと自身の身を覆う。
 雷光を迸らせる黄金の球体。
 空気の焦げる臭いが漂う中、それはついに解き放たれた。
 閃光。
 白く染まる視界。
 空を駆ける稲妻。
 バシュムの首を撃ち抜いた。
 苦悶の声をあげ、バシュムは口を開く。投げ出されたアルペストゥスが地面に転がった。
「よく耐えた、アルペストゥス。此処からは俺が引き受けよう」
 一条の雷光。
 否、それは疾駆するベネディクトだ。
 左右の腕に構えた槍に魔力が宿り渦を巻く。
 駆ける勢いを乗せ、ベネディクトはそのうち1本を投擲した。
 獣の咆哮にも似た風切音が鳴り響く。
 疾駆する槍は、まっすぐにバシュムの額へ。
 けれど、バシュムは間一髪といったところで翼を広げ空へと舞った。狙いの逸れたベネディクトの槍は、巨大な体の一部を抉り飛ばすに終わる。
「くっ……⁉」
「クルルルゥ!?」
「来る、ぞ」
 弧を描くように宙を翔け、バシュムが接近。
 その身に纏った黒雷を、咆哮と共に解き放った。
 
 黒に焦げた地面の中、アルペストゥスやベネディクト、エクスマリアが倒れ伏す。
 特にアルペストゥスは重症だ。
 囮役として負ったダメージに加え、先ほどの黒雷を浴びたのだから無理もない。
「急ごう。そうじゃなきゃ、アルの領地が危ないし」
「狙うのなら翼を。両翼が傷つけば飛んではいられますまい!」
 上昇するバシュムへ向け、リリーは魔弾を撃ち込んだ。
 バシュムは身を捻るようにしながら、リリーの魔弾を回避。
 速度が僅かに落ちた隙を突き、飛翔するルル家はバシュムの背後へ追いついた。
 大太刀をその翼へ向けて叩き込むが……。
「きゃんっ⁉」
 刃が翼を断つより速く、身を捻ったバシュムの尾がルル家の身体を地上へ向けて弾き飛ばした。
「流石にでかいね……さっさと弱らせよう」
 リリーが放つは、呪いを纏った魔法の弾丸。
 バシュムの巨体に対して、与えられるダメージは微々たるものだ。何しろリリーの背丈は30センチほど。一方、バシュムは20メートルを超えている。
 穿たれたバシュムの皮膚から、ほんの僅かな血が滲む。
 ダメージは少ないが、しかし弾丸に宿る“呪い”までは防げまい。
 バシュム自身も、それを理解したのだろう。
 黒雷を纏い急降下。
 地面を抉りながら、ルル家とリリーを弾き飛ばした。

 土砂に埋もれ、呻くルル家とリリー。
 その眼前にバシュムが迫る。
 咆哮と共に撒き散らされた雷光が、2人の身体を貫いた。

●おやすみなさいと白竜は鳴く
 イズマが吠える。
 トビウオの群れが、彼の周囲を縦横に舞った。
 鋭い翼がイズマの肌を傷つける。
 飛び散った血が地面を濡らす。
「こいつら、領地に住む人々の食糧にしてやる……っ! アンジュさんは皆の治療へ行ってくれ」
 イズマの巻き起こす暴風が、トビウオたちの飛翔を邪魔し、地面に落とした。
 彼は繰り返し、スキルを行使する。
 少しでも多く、少しでも長く、トビウオたちを引きつければ、その間に仲間たちがバシュムを討伐してくれる。
 そう信じながら、満身創痍の身体を酷使し戦線を維持し続けた。

 土砂を散らし、ルル家はゆらりと起立した。
 額から零れた血が、髪や顔を赤に濡らす。
 ルル家の腕に抱かれたリリーもまた、口から煙など吐いていた。度重なるバシュムの攻撃を受けた2人だが【パンドラ】を消費することで、どうにか意識を繋いでいる。
 そんな2人の耳に、優しく澄んだ……そして奇妙な声が届いた。
『あなたはいわしが好きにな〜る、好きにな〜る』
 耳朶を擽るアンジュの歌声。
 脳裏に過るいわしの幻影。
 それは優美で、そして偉大かつ幻想的な光景だった。一面を埋める小金の野。ゆったりと泳ぐエンジェルいわし。
 天界。
 神の住まう世界とは、きっとこういうものなのだろう。
 降り注ぐ淡い燐光が2人の負った傷を癒した。
 そして……。
「正義(いわし)は、勝つ!!」
 美しく、力強い声が響いた。

 もつれるようにアルペストゥスとバシュムは高くへ飛翔する。
 アルペストゥスの牙がバシュムの首筋に突き立てられた。鋼の如き鱗が砕け、血が滲む。
 迸る紫電がアルペストゥスの体力を削る。
 地上より放たれたリリーの魔弾が、バシュムの翼を撃ち抜いた。
「貴方は甚だしい勘違いをしています! トビウオは! 飛行しない!」
 一閃。
 けれど、バシュムを襲う斬撃は無数。
 ルル家の斬撃を受けたバシュムが姿勢を崩した。見開かれたその片目を、リリーの魔弾が射貫いて潰す。
「よし!  リリーは水中で動けないし、空も飛べないし……でも、友達の窮地を見過ごすことはできないから!」
「同意、だな。風穴を広げてやる」
「えぇ、怪王種を逃がすわけにはいきませんからねー」
 急降下するバシュム。
 リリーの穿った傷口へ向け、黄金球と化したエクスマリアが紫電を放った。
 迸る雷光。
 バシュムの瞳を焼き焦がした。

(討ち滅ぼしてくれよう)
 メリルナートの銀髪が、冷気に煽られ激しくなびく。
 ひゅう、と冷たい風が吹き抜けた直後、彼女の手には氷で出来たマスケット銃が握られていた。
 焼けた地面に膝を突き、メリルナートは銃を構える。
 そっと……。
 引き金を絞る。
 放たれるは、黒き魔力を纏った弾丸。
 それはバシュムの翼を射貫く。

 苦し紛れにバシュムの放った雷光が、ルル家の意識を刈り取った。
 焼け焦げ、落下していくルル家。
 彼女の身体を地面に激突させまいと、エクスマリアが救助へ駆ける。
「グルルルッ! グラアアアウッ!」
 仲間たちの献身により、バシュムは大きなダメージを負っている。
 ここで決着をつけるべく、アルペストゥスはバシュム翼へ喰らい付いた。
『がんばれぇ!!』
 どこか遠くから、幼い少女の叫ぶ声。
 街を離れる一団の姿が視界に映った。避難している住人たちが、アルペストゥスへ声援を送っているのだ。
 街を守り、獲物を屠る。
 その決意と共に、アルペストゥスは竜語魔術を行使した。
 青い空に舞う細かな結晶。
 まるで水晶の如きそれを纏い、アルペストゥスは空も高くへと吠えた。

 轟音。
 そして瞬く黒雷。
 至近距離でそれを浴び、アルペストゥスは意識を失う。
 その口には、食いちぎられたバシュムの翼。
 片翼を失い、もはやバシュムは飛翔することもままならない。アルペストゥスの後を追うようにして、その巨体は地上へ向けて落ちてくる。
「待っていろよ、アルペストゥス。事が終わったら美味い物でも食べさせてやる!」
 金の髪と黒いマントを風に靡かせ、ベネディクトは駆けた。
 落ちてくるバシュムの真下。
 構えた槍に魔力が宿る。
 空気を震わせるほどの大出力。額から血を流しながら、ベネディクトはまっすぐにバシュムを睨み据えた。
 大きく腕を後ろへと。
 体全体を使って、引き絞るように。
 いわば、彼は発射台。
「はぁああああああああああああああっ!!」
 雄たけびと共に投擲されたベネディクトの槍は、魔力の軌跡を描き飛翔する。
 その様はまるで流星のようでさえあった。
 閃光は、開かれたバシュムの口腔へ。
 その全身を魔力の光が刺し貫いた。

 息絶えた巨大なトビウオが、湖の畔に横たわる。
 幸いなことに街の被害は微々たるものだ。戦闘の余波で、幾らかの窓ガラスが割れた程度であるのなら、0と言っても差し支えはあるまい。
「アルペストゥス、あれ、を」
 エクスマリアが指さす先には、こちらへ向けて通って来る街の住人たちの姿がある。
 遠目には分かりづらいが、皆、どこか心配そうな顔をしているようだ。街を護るために戦ったアルペストゥスの安否が気にかかるのだろう。
「クルゥ」
 そんな街の住人たちを一瞥し、アルペストゥスは満足そうに笑うのだった。

成否

成功

MVP

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

お疲れ様でした。
無事にバシュムは討伐され、湖畔の街は護られました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
また縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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